複雑・ファジー小説

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『受拳戦争』
日時: 2020/06/10 10:58
名前: 四季彩 (ID: EZ3wiCAd)

彩都さんと四季の合作です。

合作といっても、企画や世界観・キャラクターの名前や原形、プロットなどは、彩都さんです。
四季はキャラクターの口調を考えたくらいだけのもので、執筆係です。

よろしくお願いします。

スレ立て 2017.11.19
投稿開始 2017.11.20

プロット停止のため連載停止 2020.3.17~2020.3.23 2020.6.11~

Re: 『受拳戦争』 ( No.83 )
日時: 2019/04/01 19:28
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: LdHPPNYW)

「そんなことが……」

 多々良が話す前世は、まるで、小説の中の出来事のよう。本の中の登場人物がこの世に転生してきたというのか、と言いたくなるような、現実離れした話である。

 それだけに、三殊は、そのすべてをすぐに理解することはできなかった。

「そうだ。サーシェルテ……ナンバーXと呼ばれていたが、その最期はあまりに呆気ないものだった」

 少し空けて、多々良は続ける。

「そして、二回目。今度は逆の関係だった」

 一回目は、王室に奴隷として売られ、国王であった伊良部に必死に抵抗しながらも、死へ堕ちた多々良。その二回目の人生は、一回目とは逆で。多々良が国王、伊良部が奴隷という関係だったらしい。

「俺は『前世の記憶』を持って生まれた。国王シグ・マルドとしてな。『前世の記憶』があることを不思議に思いながらも、俺は国王として生活を送っていた」

 三殊は内心「今度は多々良くんが国王かぁ……」と思う。

「だが、伊良部も俺と同じように転生していた。もちろん、前世の記憶を持って」
「彼にも前世の記憶が!?」
「あぁ。ユベ・ナムラという奴隷だったが、二回目は一回目と逆で、やつが革命を起こす側だった」

 切りたくても切ることのできない、妙な縁。それほど厄介なものはない。
 三殊はそう思った。

「伊良部——いや、ユベは、前世で俺の革命を阻止した。だから、俺の考えなど簡単に読めたのだろうな」
「そ、それで?どうなったんだい?」
「ユベの革命は成功した」
「そんな!」

 三殊は思わず叫んでしまった。

「前は失敗に終わったのに、今度は成功するなんて……!」
「一回目も二回目も、結局は、やつの方が一枚上手だったということだな」
「そ、そんな……」

 ショックを受ける三殊をよそに、多々良は話を継続する。

「二回目の俺、シグは、ユベの凶刃に倒れた。ここでもまた『来世では絶対に殺す!』と思いながら、そのまま死んだんだ」

 二人はそれからも、進んでいるのか止まっているのか分からないくらいゆっくり歩きながら、多々良の前世に関する話を続けた。次の部屋へたどり着くまで、二人は、ただひたすらに歩く。

Re: 『受拳戦争』 ( No.84 )
日時: 2019/04/09 00:19
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: LdHPPNYW)

 三殊は、多々良と二人、歩き続けた。

 死ぬまで歩き続けることになるのでは、と不安になるほどに、長い道。三殊は、一人だったなら、とうに歩くことを止めていたかもしれない。永遠に続くような気さえする道に、心を折られていたかもしれない。だが、今の三殊は一人ではない。だから、迷うことなく絶望することもなく、足を動かし続けることができた。

「まだあるのかい?多々良くん」
「あぁ。俺と伊良部の縁は、そう簡単には切れなかったからな」
「聞かせてくれる?」
「もちろん」

 こうして、多々良は三回目の人生について語り始める。

 三回目、多々良は、とある国のとある街に、一般市民として生を受けた。その名はカッツェロ・マルドム。彼もやはり『前世の記憶』を持っており、「今度こそユベを殺そう」と考えていた。だが、二回目の時とは世界が違う。それゆえ、ユベはいない。カッツェロはそのことに絶望していたと、多々良は言う。

「確かに、再会できなかったら、殺すも何もないもんね」
「あぁ。……だが、やつはまた現れた」
「え!」

 ユベがいない世界に絶望していたカッツェロの前に現れた一人の男性。名をクゥロ・フォラと言うが、彼の見た目はユベとほとんど同じだった。

「あの時は思ったな……『まさか目の前に敵がいるとは!?』と」
「急に再会したらびっくりするね」

 憎しみ殺そうと思い続けてきた敵と瓜二つの男性が、目の前にいる。そのことに、カッツェロは戸惑う。そんな彼に対し、クゥロは「君、何でそんなに出会うの?」と、素で言い放ったらしい。

「素なんだ……」
「まったく、感じの悪いやつだよな。俺は『知るか!!』と思っていた」
「同感だよ」

 三殊は段々、多々良に共感できるようになってきた。
 いや、もちろん、すべてにおいて共感できるようになってきたというわけではないが。

「そうしたら『気になるんだよねぇ?だって、何度殺しても、あの奴隷と同じような見た目だし?』なんて言って、ナイフで刺してきやがった」

 急展開に戸惑う三殊。

「まさかの攻撃には愕然とした」
「同感だよ。いきなり刺すとか……」
「刺されたことによる出血量は、予想外に凄まじくてな。俺はすぐに『死』を理解した。そして、その場で『死』を覚悟し、倒れて死んだ。それが三回目だ」

 あまりに呆気ない最期。
 三殊は何も言えなかった。

Re: 『受拳戦争』 ( No.85 )
日時: 2019/04/15 00:00
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: jFPmKbnp)

 三回目、お互い市民として生まれ育ち、それでも二人は出会った。それは決まりきった、変えられない運命だったのだろうか。市民など、星の数ほど存在していて。知り合うことなく死んでいく人の数の方が多いはずだ。なのに出会った。多々良と伊良部の生まれ変わりは、出会ってしまった。そしてまた、これまでと同じような終わり方をした。

 強い縁——それはもはや、呪いなのではないだろうか。

 多々良から救いようのない前世を聞かされ、三殊は、段々そんな風に思ってきた。

「それで、多々良くん」
「何だ」
「前世はまだあるのかい?」

 すると、多々良は頷いて、「あぁ。長い話になった悪いな」と言った。それに対し三殊は、そっと首を横に振る。その動作を目にした多々良は、ほんの少し柔らかい表情になった。

「四回目、俺は警官で、あいつは刑事だった」

 これまでとは違った展開に、三殊は少しばかりワクワクしてしまう。他人のこと、しかも不幸なことでワクワクするなんて駄目だと、そう分かっていながらも。

「俺は、薄野 白羅(すすきの はくら)という名でな、普通の暮らしをしていた。三回も転生していれば、勉強も苦労しなかったしな」

 淡々と話す多々良。

「そこで俺は良いことを思いついた」
「良いこと?」
「そう。『警官になって、クゥロを殺そう』と考えたんだ」

 多々良の口から出た物騒な発想に、三殊は暫し戸惑った。

 ただ、多々良が悪いとは思わない。
 悪いのは、こんなことを繰り返させている、運命の方だろう。

「殺す……そっか。でも、狙ってそんなことができるもの?」
「警官になれば殺れるかもしれないと思っていた」
「……思っていた、なんだね」

 つまり、成功しなかったということか。

 三殊は密かに思う。

「あぁ。そうして俺——薄野 白羅は、警官になった」
「本当になれたんだね」
「俺は、一度決めたことを変えたりはしないタイプだからな」

 そう。
 だから今も、伊良部を殺すことを諦めていない。

「警官になってからの毎日は忙しくも充実していた。だが、またしてもそれを壊すやつが現れた」
「彼だね」
「そうだ。沙汰 共起(さた きょうき)という先輩が配属されてきたのだが、彼こそが、クゥロの生まれ変わりだった。そう、伊良部だ」

Re: 『受拳戦争』 ( No.86 )
日時: 2019/04/22 01:06
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: LdHPPNYW)

 多々良——警官になった白羅と、その先輩である共起——つまり伊良部。

 それは、二人の、四度目の邂逅だった。

「最初出会った時は、正直、クゥロがまた現れたことに恐怖した」
「前に刺してきた人だもんね……」

 多々良の前世語りに慣れてきた三殊は、段々、彼に共感できるようになってきた。今はもう、多々良の話すことすべてを、素直に真実だと受け入れることができる。

「あぁ。だが『今は違う!』と思い、二人の時間を作るよう試みた」
「二人の時間、かぁ……」
「そうだ。そこで俺は『クゥロ、お前を殺す』と宣言してやった」

 だが、今の三殊には、四回目の結末も薄々見えてしまっている。
 それだけに、複雑な心境だ。
 悲しい結末であることを知りながらドラマを観るかのようである。

「勇ましいなぁ」
「俺は本気で殺るつもりだったからな」
「そっか。それは凄い」

 三殊は「僕が多々良だったら、もう無理だ、と諦めていただろうな」と思った。

「だが、そう易々とくたばるあいつではなかった」
「だよねー……」
「あいつは静かに『僕の名前は沙汰だ』などとほざきやがった。しかも、余裕の微笑みでな」

 三殊は内心「うわぁ……」と思う。

「そして、俺の額に拳銃を突きつけた」

 つい渋い顔をしてしまう三殊。
 予想はしていた展開だが、実際に聞くと、また特別な心苦しさがあった。

「あいつは『僕の計画を完璧に成功させるには、君は邪魔なんだ』と言って、拳銃を撃ちやがった」

 多々良は悔しそうに話す。

「結果、額を撃たれて即死。これまた呆気ない死に方をしてしまったものだな、自分でも呆れる」

 はぁ、と溜め息をつく多々良。
 心境を上手く説明できず、黙り込む三殊。

 二人だけの空間に沈黙が訪れる。

 歩く二人の微かな足音以外に音はない。多々良も三殊も口を閉じているし、他の者がいるわけでもないから、音がないのは当然といえば当然なのだが。しかしそれにしても、ここまでの静けさというのは、異様な雰囲気を漂わせるものだ。

 多々良が五回目について話し出すまで、その沈黙は続いた。

Re: 『受拳戦争』 ( No.87 )
日時: 2019/04/29 02:14
名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: UIQja7kt)

 長い沈黙の後、多々良は五回目の人生について話し出す。

「五回目の人生、俺は、太陽ヶ原(たいようがはら) サンという十二歳の少女だった」
「女の子!?」

 驚きの声をあげる三殊。

「あぁ。よく考えてみれば、これが初めての女だった」
「そ、そうなんだ……」

 露骨に驚き過ぎるのも良くないと思い、三殊は、平静を装ってそう返した。が、多々良が今のままの容姿で少女になっているところを想像してしまって、吐き気に襲われた。ちなみに、その原因は、女の子になった多々良が気持ち悪かったからではない。三殊が何となくイメージした少女風多々良の存在が、衝撃的過ぎたからである。

「初めて女に転生した俺は、『女って、こんなんなんだなぁ?』と思いながら、中学一年まで普通に暮らした」
「普通に暮らせたんだ……」
「俺が男だった頃の記憶を持っているなんてことは、誰も知らなかったからな」
「……そっか」

 女子中学生の暮らしを満喫していた多々良——否、サン。

 しかし、そんな彼女に転機が訪れる。

 それは突如現れた妖精・フワリンとの出会いだったと、多々良は話す。

「フワリンって……ぷぷ」
「笑うなよ」
「あ……ごめん」
「いや、分かったならいい。気にするな」

 その謎の妖精・フワリンは、サンを魔法少女にした。

「魔法、少女……?」
「あぁ」
「魔法少女って……漫画とかアニメに出てくるような?」

 三殊の問いに多々良は頷く。

「そうだ。可愛らしいヒラヒラの衣装をまとい、魔法を使って敵を倒す。まさに、漫画やアニメに出てくるような『魔法少女』ってやつだ」

 淡々と話す多々良を、三殊は信じられない思いで見つめた。
 こんな身近に魔法少女の経験がある者——それも男子がいるとは、夢にも思わなかったから。

「それから俺は、魔法少女として、魔法で敵と戦い続けた」
「敵って……」
「色々いたが、なかなか強い奴が多かった」

 三殊は動揺を隠せない。

「戦ったんだ……けど、戦いなんて怖くはなかったのかい?」
「いや、もちろん、怖いこともあったさ。だが、普通の女子中学生だったわけじゃないから、基本はそんなに怖くはなかったな」

 魔法少女であった過去について話す多々良は、落ち着き払っていた。


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