黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。
作者/山下愁 ◆kp11j/nxPs(元桐生玲

第4章『兄より吐き気』-3
「このイケメンどもがぁぁぁあああ!!」
ドアを蹴破ってやってきたのは、赤い髪をポニーテールにした女の子でした。
蹴破った瞬間にかぶっていた藍色のパーカーのフードが取れ、彼女の顔を明らかにします。
白い瞳に赤い髪。そしてその顔は綺麗に整っています。要するにイケメンです。
「何ですか。僕と銀ちゃんのラブラブな時間を邪魔しないでください」
「うるせぇ黙れ」
彼女は乱暴な言葉でつかささんの言葉を一蹴します。
つかささんは説得では敵わないと思ったのか、どこからかナイフを取り出しました。
「邪魔をした罪は重いですよ」
「あたしの可愛い可愛い銀ちゃんに何してくれとるんじゃボケぇぇえ!」
赤毛の女の子は怒号を上げると、つかささんが持っていたナイフを素手で握りました。
その途端、ナイフがばらばらと崩れました。
ナイフが老朽化してたのではありません。彼女がそうさせたのです。
「あたしの『物質分解(ラグナレク・パーツ)』に敵う訳ねぇだろ。ボケ。さっさと銀ちゃんから離れろや」
すごんだ表情で彼女は言います。
さすがにまずいです。こうもうるさいと寮のみんなにもばれます。
「つ、つかささん! とりあえず服を着てください! そして羅さん! つかささんに暴力を振るわないでください。まだ何もされていません!」
「え、でも悪い虫は取った方がいいでしょ? このイケメン。銀ちゃんのハジメテを奪おうと……! 銀ちゃんのハジメテを奪うのはあたしだ!!」
「何を言ってるんですかお馬鹿さん!」
バキィッと思わず殴ってしまいました。
羅さんは、私を睨みつけます。
それは当り前です。だって殴りましたから。
ですが、
「銀ちゃんの拳……少し痛かったけど、最高……!」
「大丈夫ですか羅さん?!」
いい表情で気絶しました。
そして騒ぎを聞きつけてきたのか、はたまた部屋で寝ていたのか真偽は分かりませんが、蒼空さんが欠伸をしながら部屋から出てきました。
「なぁつかさー。お前の部屋、うる、さ、い――――」
蒼空さんは部屋の中を見てピシリと固まります。
それはそうでしょう。知らない女の子が気絶していますし、つかささんは上半身裸(さらし付き)でいますし。
石化した蒼空さんは、意識を取り戻してくるりと身を反転させました。
「つかさが銀ちゃんを襲いにかかったぞぉぉおおおおお!!」
「「「「「つかさぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」」」」」
蒼空さんが叫んだ瞬間に皆さんの怒号が聞こえてきました。
あぁ、なんて連帯感。もはやすがすがしく感じられます。
***** ***** *****
食堂に引っ張られてきた羅さんは、ムスッとした表情で座っていました。縄を結びつけたのですが、どうも物質を分解して粒子レベルにしてしまうので、蒼空さんが重力を操って動けない程度に体を重くすることで拘束に成功しました。
対してムスッとした表情で座っているのは、翔さんです。そうです、女の子嫌いが発動してます。
「あっらー。高梨羅ちゃんじゃない。銀の友達のー。久々?」
「話しかけてくんなイケメン」
私の兄である白刃お兄ちゃんに対してもその口調。さすがは羅さんです。
白刃お兄ちゃんも白刃お兄ちゃんで、困ったような表情を浮かべました。
「うーん。この子どうすればいいの?」
「せやなぁ。銀ちゃんを狙ってきた子なら処分を下すのがワシらの仕事や。それ以外を目的としてるなら翔が決断する事なんやけど」
睦月さんが翔さんの顔をのぞき込みます。
相も変わらず可愛らしい表情を歪め、羅さんを思い切り睨みつけていました。これはそうとう嫌っています。
「あたしをどうするつもりだよ。もしかして、あのイケメンが多い執事喫茶にでも放り込むのか?! 冗談じゃない。それならメイド喫茶に行ってメイドの格好をしていた方がまだましだ!」
いきなり何を言い出すのでしょうか、この人。
「大体、ここは狼の巣だ! イケメンは大概女好きが多い。銀ちゃん、ここは危険だよ! 君は絶対に遊ばれる!」
「遊ばれるって何ですか?! イケメン嫌いにも程がありますよ?!」
「そうだよー。イケメンはそんなに悪いって言うのかい? 自分もイケメンなのに」
この黒影寮で1番の女好きの空華さんに言われたくありません。が、空華さんは彼女の確信をついてきました。
そうですそうです。彼女は、
ものすごい美少年だったのです。

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