黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。

作者/山下愁 ◆kp11j/nxPs(元桐生玲

『劇場版。黒影量は今日もお祭り騒ぎです!~空と海と未来の花嫁~』-16章


 銀はメイド服を着たアンドロイドにドレスを着させられていた。白をベースにされているが、デザインは現代風。裾が長く、ところどころにスワロフスキーが散りばめられていた。
 抵抗はしない。
 したところで、自分には何もできない。

「銀ちゃん。終わった?」

「優亜さん……。綺麗ですね、お姫様のようです」

 えへへ、そう? と優亜はドレスのすそをつまみあげて1回転する。ふわりとドレスのスカートが花のように広がった。
 優亜のドレスはお姫様が着るようなふわっとしたスカートが特徴ベルラインドレスである。茶色の髪の毛はアップにまとめられていて、ピンクのバラの髪飾りで留められている。

「銀ちゃんも似合うよ。そのすっきりしたスカートのドレス。エンパイアドレスって言うんだよ、それ」

「そうなんですか。着た事あるんですか?」

「お母さんが、ね。写真で見た事あるんだ。とてもきれいだったお母さん……私、16だから結婚できるんだね」

 優亜はしんみりとした様子で言う。

「……これで、いいのでしょうか」

「何が?」

「私は、これで本当にいいのでしょうか。胸がもやもやするんです。女王として、神威涙として、私は婚約者の人と結ばれるべきなのでしょうか?」

 本当に好きな人が分からない銀にとっては、これでもいいと思っていた。だけど、心の奥で何かが引っかかっている。
 これではダメだと。これでは嫌だと。心が拒否反応を起こしている。
 暗い表情で、銀は優亜に訊いた。

「私は神威涙としているべきでしょうか? 神威銀としているべきでしょうか? どちらがいいんですか?」

「それはあたしには分からないわ。だってあたしには迎えに来てくれる人がいるもの」

 優亜はニッコリとした笑顔で、答えた。
 迎えに来てくれると。必ず迎えに来てくれる人がいると。

「ちょっと俺様なんだけどね。とっても優しいの。あたしの為になら何だってしてくれる。だからあたしも信じて待ち続けるんだ! 簡単に好きじゃない人と結婚なんて嫌だもん!」

「……優亜、さん」

「お時間ですよー」

 ドアがノックされ、優奈が部屋に入る。2人のドレス姿を見て、優奈は口笛を吹いた。
 銀はエンパイアドレスで髪を下ろしている。セミロングの銀髪はつやつやと輝いていて、頭には真っ赤なバラが飾られていた。
 優奈は白い鎌を担いで、

「かっさらってくれる人がいるといーね。お2人さん♪」

 と、笑顔で言った。
 2人は言葉の意味が分からず、とりあえず首を傾げておいた。

***** ***** *****

 婚約者を今か今かと待つ軍用アンドロイドの前に、銀髪の少年が現れた。
 2人。銀色の少年が2人いる。1人は青い瞳で自分達の上司である八雲優奈にそっくりで、もう1人は女王の銀にそっくりで。
 アンドロイドは首を傾げた。招待した人だろうか。

「招待した人なら受付で――」

「いやいや、その必要はないよ」

 青い瞳の少年、優羽は笑顔で答えた。黒い瞳の女王にそっくりな少年、鈴は緋色の扇を構える。鈴の音が鳴り響き、ディレッサが現れる。

「だって、国に喧嘩を売りに来たからね」

 瞬間、アンドロイドが音もなくバラバラに崩れた。ディレッサが宿った精神を食べ、翔が機械の寿命を操ったのだ。
 機械の寿命を操作した翔は、ズーンとうなだれる。

「あー、禁術使っちまった……どうしよう。殺される、親父に」

「今はそんな事を言っている場合じゃありませんよ! ていうかテメェ何をそんなんでうなだれてるんだ、好きな女を救うなら命を張りやがれオカマか!」

 瀬野翔がいつもの男口調で突っ込むと、そのまま入口の方へ駆けて行ってしまった。
 鈴はその背中を見送ると、次々に神様を召喚する。その横でディレッサが、

「まずい。アンドロイドの魂って油の味がするんだな。ていうか食えた俺も天才だわ」

「神様だもんな、ほら餌の時間だ。好きなだけ食え――ただしアンドロイドに限る」

「嫌だ」

「我がまま言うなよお前! 油食っても死なないだろ!」

「機械油ってまずい――!」

 まずさでのたうちまわるディレッサをなだめている鈴。

「銀ちゃんはどこにいるだろうねー」

「さぁね。とりあえず行かなあかん! 銀ちゃんを救い出すにはm「あ、大丈夫。事前に調べておいた」お前それ先に言えよ!」

 瀬野翔拾ってこい、瀬野翔を! と翔が命令し、昴が出動する。エレベーターに普通に乗り込もうとしていたところで捕まえた。
 情報を事前に調べた空華は、銀達がいるであろう場所の最有力候補を上げる。

「この屋上にチャペルにつながる道があるんだ。空中階段みたいなSFっぽいの。そこまで道のりにはアンドロイドが1億体設置されている。やーさんは最上階。俺様達は最下層。さぁどうする? 作戦を立てる時間はないよ」

 全員は顔を見合わせた。
 先に立ち上がったのは、2の2くえすとルーキーだった。

「決まってんだろうが」

 翔汰が告げる。空中から雷の棒を取り出して、孫悟空の如く振り回す。
 彩佳は2丁銃を。美影は筆を。直人は野太刀を。翼はグローブと靴を。リオンは夜桜を抜く。
 2の2くえすととしての本領を発揮した彼らは、迷わず下層にいたアンドロイドをぶった切る。

「「「「「正面突破しか認めない!!」」」」」

 アンドロイドの軍勢が襲いかかってきた。だがしかし、いくつもの冒険を乗り越えてきたルーキーに敵なし、一瞬にして壊滅させる。

「のう。爆発はしないが……これでいいのじゃろうか?」

「いいんじゃないか? 爆発しないなら結果オーライだ。存分に話を終わらせよう!」

 ルーキーが先陣を切って特攻する。
 そのあとに、瀬野翔と燐が続いた。瀬野翔は鎌を担ぎ、燐はナイフを構える。

「主人を助けなくてはいけませんね」

「最上階か……。気合入れて行くぞ、燐!」

「最初から承知の上です!」

 そして最後になった黒影寮は、

「ここでなら、軍とかそういうのは気にしなくていいんだ。思い切りやってもいいんだよね」

 昴は死神ルックとなった翔に問いかけた。

「あぁ、いいんじゃないか? 存分に暴れてやるぞ!」

 式開始まで残りわずか。彼らは間に合うだろうか。




劇場版 17章


 クイーン・オブ・キャッスルは100階のフロアからなるビルだ。中も当然広い。
 その25階を、黒影寮・メイド・ルーキーは疾走していた。

「だぁぁぁ! 睦月、100階まで飛ばせないのか!」

 蓮が隣で走っていた睦月に掴みかかる。
 睦月は首を横に振った。

「無理や。瞬間移動で連れて行けるのは限られる」

「使えない!」

 そこで美影が吐き捨てた。そりゃそうだろう、瞬間移動はとても便利そうに聞こえたから。
 白亜はアンドロイドを洗脳させながら、

「まぁでも、洗脳できるから戦わなくてもいいスか。頑張れー、フレー」

「お前も戦えよ!」

 蒼空が重力操作して、羅が物質分解させるという手法(第10章参照)で戦う。蒼空は白亜に怒鳴った。
 当本人はこってもいない肩をぐりぐりと回しつつ、答える。

「だって走るの疲れる」

「バスケ部のくせに!」

 これには羅が叫んだ。羅の場合、白亜の事はどうでもいいが蒼空(イケメン)と組んでいるのが死ぬほど嫌だと言う感じである。
 それを見た鈴。羅を元気づける為に大胆行動に出る。

「おりゃ」

「ふぎゃ!?」

 変な声を上げた羅は身を強張らせた。
 鈴が取った行動――羅に抱きつく事である。鈴は非常に申し訳なさそうな顔で、

「ごめん、汗臭いだろうけど我慢してくれる?」

「あ、あ、あ、あ、」

 羅の顔がリトマス試験紙のように赤くなって行く。そして――爆発した。

「うおらぁぁぁぁぁあ! 今のあたしは誰が敵でも敵わないぜぇぇぇぇぇ!」

 物質分解をフル稼働し、羅は1億体のアンドロイドへ特攻して行く。そのあとに続き、鈴が満面の笑みで歩いて行った。
 内心ではこう思っているのだろう。上手くいったと。
 それを見ていた、ディレッサは冷たい目で、

「乙女心を弄んだ?」

「んな訳ないですよ。ちゃんと羅ちゃんも大好きだから♪」

「口では何とでも言えるよ」

「僕の羅に何をしてるんだ、鈴んんんんん!」

 そこへ羅に抱きついた鈴の姿をたまたま見てしまったキャスが飛び蹴りをかます。
 鈴は蹴られた後頭部を押さえながら、恨めしそうにキャスを睨みつける。そして緋色の扇を取り出し、1回振る。

「お前帰れ」

「い、嫌だ! 羅ゥゥゥウウ! 僕に気づいてぇぇ! じゃないと僕は、僕はぁぁぁ!」

 羅はキャスが来ている事を気づいていたが、あえて無視をした。自分が巻き込まれるの嫌だ。
 鈴は無理やりキャスを鏡に押しこめると、向こうにいるライアに命令した。

「キャスがこっちに来ないように見張っていて。行こうとしたら鏡の存在を消しておいて」

「分かりました!」

 ライアは鏡越しから笑顔で言った。
 そして全員は30階へ到達する。ここは小さなホールみたいなところで、招待された客人達がたくさんいた。サイボーグやアンドロイドがほとんどだ。
 客人達は3軍勢を見ると、目を丸くして悲鳴を上げた。

「きゃあぁぁぁ! 賊よ、賊! 女王をさらう気だわ!」

「んな訳あるか! さらうんじゃない、取り戻すんだ!」

 そんな言い訳が通るのか分からないが、直人が豪語した。そのあとから燐が「それってどうなんでしょうね?」とつぶやいていた。
 それでもギャーギャーわめく。どうにか分解しないで対処しようとしたその時、

「面倒くさい事をさせないでよ、お前らさ」

 今まで後ろからついてきていた悠紀が、持っていた携帯の画面から顔を上げた。ディスプレイにはきっちり文章が打ち込まれている。今まで小説を書いていたらしい。
 悠紀は携帯を閉じると、全員の前に出た。そして凛とした声を放つ。

「【全員システムエラーを起こして寝てろ】!」

 バチンッと音がして言霊が発動する。アンドロイドやサイボーグはパタリと床に倒れたが、数人が残った。おそらく人間だろう。
 それを見た瀬野翔、鎌を持って特攻を仕掛ける。

「眠れッッ!!」

 鎌を横へ薙ぎ、数人の人をまとめて吹っ飛ばした。もはやメイドではない、ただの不良だ。

「不良だけど文句あるのか、アァ?!」

「瀬野、どこに向かって言っているんだテメェ」

「何でもありません」

 1秒でメイド口調に戻した瀬野翔。変わり身早い。
 その時、とたんにクイーン・オブ・キャッスルが揺れた。何があったのだろうと天井を見上げると、通信が入る。
 相手は八雲優奈だ。

『まずい事になったよ! どうするの!』

「何が起きたんだ、この揺れは何だ?!」

『銀ちゃん達を乗せたチャペルが飛び立った。これ、宇宙船みたいな感じらしい!!』

 何?! と全員で声を上げる。窓から上を見ると、飛行船がスクリーンの空を悠々と飛び回っていた。あの距離ではさすがにもう行けない。
 2の2くえすとでもジャンプ力はそこまでないし、瀬野翔も燐も人間だ。しかも相手は飛行船、下手したら墜落して銀も優亜もお陀仏である。

「羅、物質分解!」

「銀ちゃんが死ぬわ! おい、イケメン死神! 飛べないのかよ、箒のように」

「飛べる訳ないだろ! 悠紀、言霊で連れ戻してこい」

「言霊届く訳ないじゃん。蒼空、重力操作」

「細かい事は分からない。睦月、瞬間移動できる?」

「せやから人数が限られてるって! 白亜ちゃん、神の命令でできない?」

「無理ッスね。王良さんはできないんスか?」

「飛べない凧がないと無理。どうするの? 他にできる人いないの?」

 他の人とは違う黒影寮の軍勢が頭を悩ませる。
 鈴の神様を使っても、墜落しかねない。零は空気を操るだけだし、白刃もダメ。つかさなんてもってのほか。
 じゃあ、あと残るは――?

「ぃよっしゃ。あれを連れ戻してくればいいんだね?」

 窓枠に足をかけたのは、椎名昴だった。

「え、すば――」

「いってきまーす!!」

 ものすごい脚力で窓枠を吹っ飛ばし、昴は飛行船へと向かって行った。そして、

「オンラァァァ! 帰れぇぇぇえ!」

「「「「「蹴りやがったあいつ?!」」」」」

 思い切り飛行船を蹴り飛ばした。銀がいるって言うのに。