黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。

作者/山下愁 ◆kp11j/nxPs(元桐生玲

第13章『黒影寮の問題児が妖精を拾ったようです』-1


 ~蒼空視点~





 俺の友達について紹介しようと思う。

 俺は二条蒼空。この英学園に転校してくる前は、宮園高校という普通の県立の高校に通っていた。そしてたくさんの仲間と馬鹿をやっていたのだ。

 織川理央。こいつは俺の幼馴染で、とても頭がいいんだ。

 木崎音緒。すご腕のハッカーで、情報集めはお任せあれな少しひねくれた奴。

 浅比奈奏人。めちゃくちゃ怪力で、電柱を投げ飛ばしちゃうぐらいのおバカさん。周りの事を考えろ。

 紅海狛。未来が見えたりする若干クールだけど、いじられキャラな奴。

 夜月彩佳。瞬間移動と読心術が得意な、巨乳がコンプレックスの女の子。

 小山子海。他人に変身できる優男。すごい紳士的だから憎めない。

 氷室紫音。銀髪の忍者。氷の術を得意とする、おじいちゃん言葉を使うもの静かな忍び。

 来栖梓。快楽主義で、全ての力を壊す能力・絶対殺しを持つ。基本的に面倒くさがり。

 葉隠五月。先輩。炎と水を同時に操る、ルールに厳しい副会長。でも結構矛盾していたりする。

 愛予仁美。後輩。左手から銃を取り出し、左目には人を殺す能力が備わった計算高い子。

 浅比奈嵐。奏人の兄。雷を操る、常識人。いや、常識は持っているけど、変なところで持っていない?

 逆羽傘。最強の女の子。風を操る能力と番傘を持っている、戦闘要員。

 妖樹院椛。生徒会長。ノーブラ疑惑がかかっている、不思議な植物を育てたりするお嬢様。

 割島博。変態な先輩だけど、音を消す能力を持つ。絵が上手いんだ。

 他にもたくさんいるけど、以上が俺の友達。



 俺はこいつらと一緒に、戦争組って言うのをやっていたんだ!

 今でも元気にしているかな?



***** ***** *****



「む、むー」



 俺は必死になってボウリングの玉を見つめていた。

 いつもは指を使って照準を合わせて軽さを決めている。自分の体だったらまだしも、手に触れていないものを照準合わせないで重力操作をするのは難しい。

 ……あ、ダメだ。限界。



「集中力が切れた」



 俺はパタリと床に倒れた。

 ダメだダメだ。これぐらいでへこたっていたら、『俺転校するんだぜ!』とか言って出て行った戦争組に申し訳ない。

 でも、ダメだ。



「蒼空ってさ、集中力がないの?」



「あん?」



 突如として悠紀が話しかけて来た。こいつはまた小説を書いていて。

 まぁ、言葉使いだから別にいいのか。言葉で攻撃するんだし、バリエーションに富んでいた方が。



「さっきからそれ、10回ぐらい繰り返しているけど」



「指を使わないで照準を合わせるなんて不可能なの。できないの!」



「でも、みんなは努力してそれを成し遂げているよ?」



 ほら、と指した方向にいたのは、空華だった。国語が苦手な空華は、今ではスラスラと術を完成させ、今は手に雷雲を生み出す術を作っていた。

 その向こうには昴がいて、虚空に向けてキックを連発している。

 みんな、すごいんだな。



「俺とみんなとじゃ違うの」



「それは、諦めているだけじゃないの?」



 悠紀はパソコンのキーを打ちながら、そう告げる。

 何? 諦めている? 諦めてなんかない。だって、俺は。



「みんなとは違うっていう理由で逃げているだけなら、黒影寮にいるに値しないと思うけど。大体、馬鹿の蒼空が特別クラスにいる時点でおかしいと思うんだけど」



「どういう事だよ?!」



「そう言えば、蒼空は2年から転校してきたんだっけ? だとしたら、元の学校でつるんでいた奴らが馬鹿だったとか?」



 悠紀は楽しげに言うけど、俺は全然楽しくなかった。

 友達を馬鹿にされた。戦争組を馬鹿にしやがった、こいつ。許せない。

 そう思うと、怒りがふつふつと湧いてきた。

 その時である。



「おい、何だこれは!」



 翔の叫び声により、俺はハッと辺りを見回した。またやってしまった。

 机が浮かび、椅子が回転し、昴や空華達もふわふわと宙を漂っている。ブラックホールができていたり、もうしっちゃかめっちゃかだ。



「な、何ですかこれーっ!」



 銀ちゃんが宙に浮きながら悲鳴を上げる。

 俺は能力を暴走させやすい。感情に流されて力を暴走させてしまうのだ。だから、怒るとこうなる。

 どうにかして能力を押さえようとするが、悠紀に言われた言葉を思い出し怒りが倍増。しばらくして力は収まったが、食堂はめちゃくちゃだった。



「……蒼空」



 冷えた翔の言葉が俺に振りかかる。



「他人に迷惑をかけるな。テメェは力を1番暴走させやすい――悪く言えば、黒影寮の問題児なんだから。努力して能力をコントロールしないと」



 さっきからそんな事はやっている。だけど、むかつくんだ。

 悠紀の言葉も。何で俺が怒られなきゃいけないんだ? 確かに能力を暴走させたのは俺が悪いけど、元は悠紀があんな事を言わなければ。

 ていうかみんながうらやましい。

 ふざけんな。努力? そんな事しているよ。1日ボウリングの玉とにらめっこして何とかして宙へ浮かそうとしているけど照準が合わないんだし。ていうか、何? みんなは天性の才能でここにいるじゃん。

 翔は死神だし、昴は踊り子で反閇技を使えるし、空華は王良家の当主だし、睦月は超能力者だし、怜悟はシャーマンだし、蓮は肉体変化だし、悠紀は言葉使いだし、つかさはナイフ使いだし、銀は銀の鈴だし。

 俺だけ戦闘向けじゃないじゃん。明らかに。



「……努力ぐらい、してるよ」



「あん?」



 悠紀にだけじゃない。全員に対する怒りが湧いてきた。ただの嫉妬だ。



「してるよ! たくさんしてるよ! 少しでも黒影寮の全員を守れるように、能力を育成しようと毎日努力しているんだよ! これでもかっていうぐらいにな! でも、俺の能力って戦闘向きじゃないじゃん……!」



「そ、蒼空さん?」



 銀ちゃんが伸ばしかけた手を弾き、俺は部屋へ駆け込んだ。

 戦闘向きじゃない。どんなに努力しても、他人の力を借りなくてはリヴァイアサンを気絶させる事もできない。

 俺は涙目でバッグに財布と通帳とパ○モと携帯を詰め込み、肩にかけた。



「そ、蒼空さんどこに行くのですか?!」



「黒影寮なんか辞めてやる! お前らなんか、お前らなんか――簀巻きになっちまえ!!」



 我ながら変な言葉を言った。俺は嫉妬だけで黒影寮を辞めた。

 あー、涙で前が見えない。



「……だれー?」



「ふざけんな、今は誰の声も聞きたくない」



「だれー??」



「だーら、誰の声も――! って、俺ってば誰とお話してるの?」



 黒影寮からは誰も追いかけてこない。薄情者め。

 辺りを見回すと、何だか小さい人が木に引っ掛かっていた。助けてやる。

 小人みたいなメガネかけた男が、キョトンとした表情で手のひらに立った。



「だれー?」



「俺、二条蒼空」



「そーくー!」



 男は嬉しそうに飛び跳ねる。助けてもらったからか?



「なまえ、リデル! なんばーりみてっど!」



「な、ナンバーリミテッド?」



 何じゃそりゃ。

 まぁ、リデルと名乗った男はとにかく嬉しそうだ。



「なぁリデル。少しついて来てくれるか?」



「んー? うん。いーよ! そーくーが、いくなら!」



 いい奴だ。少し日本語おかしいけど。

 俺はリデルを肩に乗せ、駅の方へ向かって歩いた。

 戦争組に会う為に。