黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。
作者/山下愁 ◆kp11j/nxPs(元桐生玲

『劇場版。黒影量は今日もお祭り騒ぎです!~空と海と未来の花嫁~』-10章
似合っている。ドレス姿がとてつもなく似合っている。可愛らしい。
だが、調子に乗って褒めまくるであろう黒影寮が唖然とした様子で見ているのだか、よほど似合っているのだろう。誰か、予想で銀ちゃんのドレス姿を描いておくれ。
さて。2人の姫君が登場したところで、瀬野翔がケーキを運んできた。
かなりでかいウエディングケーキに匹敵するケーキだった。イチゴやら桃やら、ありとあらゆるフルーツがふんだんに使われている。精緻な飴細工も最上部に施されていて、人の手では作れないような感じを醸し出していた。
銀の方は当たり前に唖然としていた。
優亜の方は慣れているのか、平然としていた。
「クイーン、神威涙様。ご友人の相崎優亜様。僭越ながら、メイドの私がケーキを作らせてもらいました。お口に会うとよろしいのですが」
メイド服のスカートをつまみ上げ、上品にあいさつをする瀬野翔。
銀はパクパクと口を開閉させて、
「こ、これあなたが作ったんですか?! すごすぎません?!」
「当然よ。相崎家のメイドだもの」
優亜は瀬野翔の代わりに答え、ケーキにフォークをブッ刺して口に運んでいた。それでいいのか。
瀬野翔は最後に一礼し、3軍勢のところに戻ってきた。
「なぁ、燐。あれでよかったと思うか?」
「いいじゃないですか? あなたのセンスは最高だと思いますけど。あの上部にある飴細工は何を思ったのです?」
「あぁ。あれはバラの花。着色料が3000年世界にまだ生きていたらしいから、それをふんだんに使わせてもらった。青いバラなんて言うのはさすがに作ったら食べる気なくすだろ?」
「でしょうね。クリームもつやつやしていると言うか、あれ全て手でやりましたよね?」
「俺がやったのは飴細工と生クリームだけだな。組み立てはアンドロイドの使用人どもをフル使用してやった。手伝っていやっているのだからこれぐらい当然だろ」
ケタケタと笑いながら腕組みをするメイド・瀬野翔。あれ、男口調になってません?
そんな事を気にしない(というか男装している女がいる時点で性別認識がやや狂っている)黒影寮は、
「……あれ、もらってきてもいいと思うか?」
「思わない。だからってもらいに行こうとしない、翔ちゃん」
「チッ」
銀達が食べているケーキがあまりにも美味しそうだった為、取りに行こうとしていた翔を止める昴。
それを横目で見ながら、『日本伝統!』とか書かれた札が取り付けられている寿司を口に放り込んでいる空華。その隣では睦月がお好み焼きを食べている。
「……何でお好み焼き?」
「お好み焼きが好きやねん。文句あるか」
「ありません」
俺様も寿司が好きだから別にいいかー、と空華は内心思う。
「これから、旧・東京を調査するんだよね?」
「うわ、びっくりした!」
いつの間にいたのか、後ろには直人がそこでもらった白いゼリーを両手に持ちながら訊く。
「それ何?」
「白桃のゼリーだって。遺伝子組み換えかもしくは下から引き揚げたかで生成しているんだってさ。それよりも、本当に旧・東京に行かなきゃいけない系?」
「いけない系。君の仲間にもお伝えできる?」
「あ、それは大丈夫」
直人は空華の背後を示した。
そこには、同じように白桃のゼリーを両手に持ったルーキーの姿が。
「もう聞いているから」
「何で気配を消して俺様の背後にいる訳?!」
***** ***** *****
パーティー部分はここで割愛させてもらうとして。3軍勢は未来の翔がいる神社へと帰還した。同じように八雲優奈も。
優奈に至っては見送りだが。
「本当に悪いね。行けなくてさ。これから婚約者を迎えに行かないといけないんだ」
「やーさん、特務警備隊って雑用ばかりじゃん」
「だからそうだってメリアスのババアにも言ってるんだけどな。で、そこの未来のお兄さんも旧・東京に同行する訳だ」
青い瞳を未来の翔へと映す。
コートを羽織っていた未来の翔は、首肯した。
「楽しそうだからな」
「婚約パーティーでは過去の東翔さんがいらっしゃっていたみたいですね、そこは否定されませんか」
「何だ、気づいていたのか」
「2の2くえすとルーキーを舐めるな、この少女容姿」
未来と過去のタッグ攻撃が、優奈へと襲いかかる。
「おぉ、そうだそうだ。じゃあこれをやんよ」
優奈は何かを思い出したらしく、ポケットをあさった。取り出されたのは小さなスピーカーだった。
当然、興味を示した蒼空と昴、そして機械にめっぽう強い(だろう)悠紀が反応する。
「何それ」
「メッセージですよん。女王様より」
カチリ。再生ボタンが押される。
『えーと、やーさんに頼んで録音してもらっています。黒影寮の皆さん、元気そうでなによりです。体調管理はしっかりしてくださいね。絶対ですよ。風邪なんて引いたら寮に帰ってからお説教ですからね!』
スピーカーから聞こえてきたメッセージに、思わず黒影寮の連中は吹き出してしまう。なるほど、銀らしい。
ついでにこの方からもメッセージ。
『翔、燐! 死んでないわよね?! 絶対に迎えに来てよね。あたし、もうあんな風になるのはごめんだからね! 絶対よ!』
ブッハッと瀬野翔と燐は同時に吹き出した。
停止ボタンを押し、優奈は首を傾げる。
「元気出た?」
「出た出た。すごい出た」
鈴は緋色の扇を広げて調子を確かめる。うん、鈍ってはいない。
「気をつけて。下は危険だからね。姫様の為にも無事で帰ってくるように」
「分かってるよ」
3軍勢は、旧・東京につながる穴へと落ちて行った。
劇場版 11章
落ちて行った先にあったのは、水だった。
「クロエル――――ッ!!」
鈴は即座に水を操る天使、クロエルを召喚した。
面倒くさそうに自前の白い髪を掻きまわすクロエルは、主の鈴に問いかける。
「で、私を呼び出した理由は一体何?」
「今まさにこの状況をどうにかしてくれ死んじまう!」
死んでしまったらお前ら召喚できねぇ――とドップラー現象を残して、鈴は落ちていく。まとめてみんなも。
クロエルは再び白い髪を掻くと、パチンと指を弾いた。
水がゆらりと浮かび上がり、全員をクッションのように包んだ――が。
「あ、数人落ちた。ごめん」
「ごめんで済むかぁぁぁ?!」
翔は昴に命令し、拾って来させた。3秒で戻ってきた。
クロエルをひっこめた鈴は、今度は日出を呼び出す。
「この水を凍らせてくれ」
「別にいいけど、ここはトンネルの中だぜ? ホールみたいなところがあるんじゃねぇの? 話聞いてた?」
日出の話を聞いて、全員は顔を見合わせる。
優奈の話を思い出した。
『下に行ったら1部水が通っているトンネルがあんのよ。どんな技術を使ったのか分からないけど、水が浮いているんだって。結構深いから蒼空君の重力操作でみんな落ちて行ってね。そこ越えればホールがあるから、潜水艦に乗ってよ』
ハッとした。
「蒼空、重力操作」
「体が冷たすぎて頭が回らない……」
某顔があんパンでできているヒーローみたいな事を言い出した蒼空。仕方がないのでここは睦月の瞬間移動で全員移動する事に。
日出は、誰もいなくなった虚空に問いかけた。
「帰っていいか?」
***** ***** *****
スタタタッと音がして、瞬間移動される。中は広く白いホールになっていた。1部には水があり、そこから出入りすることが可能になっている。
「ここは一体どのへんだ?」
濡れたTシャツを絞りながら、リオンが全員に訊いた。帰ってきた答えは「さぁ?」だった。
ただ1人、未来の翔を除いては。
「ここはおそらく現代で言ったら池袋辺りか。有名な60階建てもあるビルが埋まるぐらいだ、相当深いだろう」
「じゃああの、634で有名なタワーも?」
「完全に埋まっているぞ」
平然と返すな、それを。
直人はひょこひょこと潜水艦に近づくと、首を傾げた。何やら薄っぺらいと言うか安っぽいと言うか。
その隣に翼が並ぶ。
「ワシが見てこようか?」
「いや、潜水艦に乗って行った方がいいだろ。優羽さんはいる?」
「ハイここに」
壁から優羽が出現した。お前、幽霊だから平気なのか。
優羽は怪訝そうに眉をひそめ、外の様子を説明する。
「水は澄んだ青い色をしているけど、魚が1匹もいない。どうしてだろう?」
「さぁな。生態系により、魚は滅んだか」
翔は死神ルックになり、水の中に赤い鎌を突っ込んだ。そしていつもの技を水の中に叩きこむ。
「地獄業火、獄炎乱舞!」
ボンッと音がした。水が蒸発するかと思われたが、案外しなかった。
翔はチッと舌打ちすると、鎌を抜く。
「ダメだったか」
「ダメだったかじゃないよ。何でむやみに獄炎乱舞なんかを水の中に叩きこむの? 馬鹿なの?」
「地獄の業火は水をも蒸発させる。その考えは悪くない。だが、もうすでに水の星と化している現在の地球では炎の死神は無意味だ」
未来の翔も同じように鎌を突っ込むと、翔を見やった。
「いいか? 同じタイミングでやれよ」
「あぁ」
「「地獄業火、獄炎乱舞!!」」
ボンボンッと爆発音がした。ここら辺の水が蒸発した。
――蒸発、した?
「相乗効果だ」
「こいつら何者なの?!」
翔汰はダブル翔を指差して叫んだ。いや、まぁ一瞬で地球を火の海にできるぐらいの死神だから、これぐらい当たり前なのか。
ちなみにもうこの状況に慣れた黒影寮は、さっさと地上へ降り立っていた。
水はなくなっていはいるが、また生まれるかもしれない。早く戻らないとやばい。
「俺様と昴で一応見てくるから、鈴は神様をフル活動させて。怜悟も幽霊をフル使用しておいて。蓮は一緒に来れる?」
「あぁ、行こう」
蓮も空華と昴の間に交わった。ついでに翔と未来の翔も。
残りのメンバーはどうするか話し合った結果、瀬野翔と崎守翔汰と水無月彩佳が同行する事になった。他はお留守番。
「では、お気をつけて」
「全員頼んだぞ」
通信機能を持ったトランシーバーを装備し、地上へ降り立った空華達。

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