黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。

作者/山下愁 ◆kp11j/nxPs(元桐生玲

『劇場版。黒影量は今日もお祭り騒ぎです!~空と海と未来の花嫁~』-8章


 その翌日の朝になる。メイドの習慣のせいか、早起きに慣れてしまった瀬野翔は誰よりも早く起きて朝食の準備をする。
 だが、その際に朝日を浴びて目を覚ますと言う習慣も身についてしまっていた。
 瀬野翔は眠たい目をこすり、境内へと出る。ややぼさぼさになりつつあるあでやかな黒髪をポニーテールに結び直し、朝もや色に染まるスクリーンの空を見上げた。
 この空の向こうは一体どうなっているのだろうか。
 願わくば、主人と一緒に見たいものだ。

「っとと。早く朝食の支度をしなくては」

 目を覚ました瀬野翔はみんなが眠る休憩所へと足を向けたが。

 ザザッ

 何かがやってくる音がして、瀬野翔は足を止めた。
 後ろに誰かがいる。瀬野翔はゆっくりとメイド服のスカートへ手を伸ばした。スカートの下には翔と同じような柄の赤い鎌がバラバラにされてあるのだ。

「そこにいるのは、誰だ?」

 限界まで低い声で背後に問いかけるが、答える気配はない。
 瀬野翔は思い切って振りかえってみた。
 そこにいたのは、細く黒い針――のような人だった。全身が黒いから分からなかった。目には眼帯をしていて、エメラルドグリーンの瞳は据わっている。
 瀬野翔はその人物を知っていた。

「王良空華様ですか?」

 空華は瀬野翔の声に気づいたのか、のろのろを顔を上げる。一瞬だけ表情を強張らせたが、相手が瀬野翔だと確信するとフッとその顔を緩める。

「何だ、瀬野さんか――――」

「あれ。空華様? 空華様?! しっかりしろ、おい!!」

***** ***** *****

 空華が目を覚ましたところは布団の中だった。彼は眠っていたのだ。
 身を起こすと、心配そうな表情をした黒影寮の仲間達がいる。

「お前ら……」

「何をしていたんだ、空華。昨日の夜は寝たはずだろ?」

 翔が空華にデコピンをして理由を訊く。
 空華はデコピンを叩きこまれた額をさすりながら、理由を話した。

「ちょっと情報収集をしていた。それと仕事も取ってきた」

「仕事だと? ふざけんな。今は神威涙を探すのが先決だ」

「――それが、涙の居場所を示す仕事でも、翔は断るつもりでいるのか?」

 いつになく真剣な眼差しで、黒影寮の寮長を見つめる空華。翔は押し黙った。
 そこへ瀬野翔と燐が水を持ってやってくる。

「お気づきになられましたか。まだ安静にしていてくださいね」

「それよりも2の2くえすとルーキーも呼んでくれないかな。仕事がある」

 ハァ……、ととりあえず頷いた瀬野翔は、ルーキー達を呼びに行った。ついでに未来の翔も。
 全員がそろったところで、空華は話しだす。

「――昨日情報収集に行ったのは、クイーンズ・オブ・キャッスルでさ」


 ~空華視点~


 俺様はクイーンズ・オブ・キャッスルに情報を探しに行ったのさ。もちろん、それは神威涙の情報について。
 アンドロイドにもメンテナンスっていう時間はある。兄弟の誰かが言ってたのを思い出して、2時ぐらいまで待ってみたのさ。そしたら案の定メンテナンスに入って1億体の半分が消えた。
 1億が5000万まで減っても人数はいる。そこで、俺様は能力を消す術を自分にかけた。そうすれば能力ブロッカーに引っかからないからね。
 アンドロイドは夜中になると交替制になるらしいから、その時間まで待った。そしたらほんのわずかな隙ができたんだよ。入口からアンドロイドが離れるほんの1分ぐらいの時間が。そのすきに俺様は建物内に忍び込んだ。
 中はビルみたいなところでさ、企業に就職試験を受けに来たのかって思ったよ。

「さぁて……涙様のお部屋はどちらに?」

「こちらに」

 背中に嫌なものを感じた俺様は、足を止めた。
 鋭い殺気。俺様と同じような奴か?

「あれ、神社にいた眼帯さんじゃん。名前は分からないから眼帯さんでいいよね」

 月夜に照らされて輝く銀髪。まぎれもなく、昼間に見た隊長のやーさんだ。

「何しに来たの?」

「涙様の情報を探しに」

「ふーん……」

 やーさんは俺様をじろじろ見回した。そりゃ怪しいだろうよ。
 だけど、やーさんは疑わなかった。

「ま、いいか。涙様の居場所を知りたいんでしょ。でも残念、ここにはそんな情報はないの」

「――ない?」

「うん。知っているのはうちだけだよ。メリアスっていう人も知っているけど、涙様が帰ってきたと思っているからね」

 やーさんは、涙様の情報を簡単に教えてくれた。

「涙様の居場所は多分旧・東京だ。この下」

「下?」

「下に古い東京があるんだってさ。探索し続けているんだけど一向に見当たらない。そんな中に銀ちゃんがひょっこり現れたから帰ってきたと勘違いされてるんだ」

「だとすると、涙様はまだそこに?」

「かもね。探索範囲はめちゃくちゃ狭い。だから、あんたに1つ頼んでもいいかな」

 やーさんは真剣な表情でお願いしてきた。

「旧・東京で涙様を見つけてほしいんだ。それがお願い」

「……どうして、俺様何かに? ルーキーがいるから?」

「それもあるけど。あんたは似てるの。うちの仲間に。だから、その容姿を信用して、うちはあんたに情報を与えた。ちゃんとやってよね? あ、行くなら婚約パーティーが終わってからにしなよ」

 歓迎してやんぜー、うちの友達として。とやーさんは笑ってくれた。


「と、ここまで」

「「「「「急展開だな、おい?!」」」」」




劇場版 9章


 と言う訳で、未来の翔に婚約パーティーに参加するよう頼んでみた。

「ハァ? パーティーに参加しろだぁ? ふざけんな、誰があんなパーティーに出るか!」

 全力で断られた。
 だがしかし、こちらにも意地がある。未来の翔を説得するべく、過去の翔が立ち上がった。

「どうしても参加しないのか」

「しねぇ」

 頑として参加しないと言い張る未来の翔。そしてお茶をすすって――ふと、翔の事を見上げた。
 幸いにも、未来の翔と翔の容姿は似ている――――。

「だったら、テメェが参加しろよ。容姿が似てるんだし、ばれないと思うぜ?」

「ハァ? どうして俺が参加しなきゃいけねぇんだよ?! あれ、でも俺が参加すれば万々歳?」

 ここ最近頭を使っていないせいか、回転が鈍っている東さん。
 その時、ブロロロロロロロと音がした。境内の方だ。

「あーずまーさーん。いい加減参加してもらわないと困るんですけどー」

 優奈が今度はバイクで来たのだ。
 全員で窓の外を唖然とした様子で見ていると、未来の翔が翔の事を蹴りだす。ついでに黒影寮とメイドと執事とルーキーも。
 優奈は不思議そうな表情を浮かべ、首を傾げた。

「どうして蹴りだされたの?」

「あぁ、いや。住人に、な」

 翔は苦笑いでごまかす。本当に役をやれって言うのか、お前。
 だが仕方がない。ここまで来て参加するチャンスを失う訳にもいかない。翔は立ち上がって優奈に言った。

「婚約パーティーに参加する。だから案内しろ」

「そうこなくっちゃー。メリアスさんも喜ぶぞ。あ、後ろの人達も付添って事ならいいと思うよ」

 やや上機嫌になりつつある優奈は、城の方へバイクを飛ばした。

***** ***** *****

「……ホテルみたいだな」

 ぼそりと怜悟がつぶやく。彼らは今、赤いじゅうたんの廊下を歩かされていた。
 ここはクイーンズ・オブ・キャッスルの最上階。でかいホールへとつながる1本の廊下である。先頭を歩くのは、もちろん特務警備隊で慣れている優奈だ。

「や、やーさん」

 優羽が優奈の背中へ語りかける。

「ん? どうした優羽。別に能力は使ってもおkだよ?」

「そうじゃなくて……どうしてルーキーのところに戻ってこないの」

「まだやる事があるからね。さぁ、ここだよ会場は。ゆっくりして行ってね!」

 バンッと大きなドアを開けた先には、色とりどりのドレスに身を包んだアンドロイドと人間。ワインを片手に会話している男性女性。そしてオーケストラを奏でているロボット。
 料理は様々なものまで並んでいる。さすが婚約パーティー。女王のパーティーだけある。

「ふわぁぁぁ! すげぇぇ!」

 蒼空は目をきらきら輝かせて叫んだ。
 すると、何やら奥の方が騒がしい。そちらの方へ自然と目が向けられる。

「ど、どうしましょう。女王のケーキがまだ!」

「お、落ち着け! こういう時はとりあえず魔法使いを」

「いや、あなたが落ち着いてくださいよ支配人!」

 どうやら話の内容を聞く限り、ケーキを落としてぐしゃぐしゃにしてしまったらしい。これは困ったものだ。
 まだ女王――銀の姿は現れていないが、どうするのだろう。
 そこで、瀬野翔が彼らに声をかけた。

「あの僭越ながらよろしいですか?」

「おや、あなたはお客人の――」

「瀬野翔と申します。そのケーキ、私がお作りいたします。厨房へ案内してください。必ずや女王様のお気に召す最高のものを作らせてもらいましょう」

 笑顔でそう告げる完璧メイド・瀬野翔。支配人達は瀬野翔を厨房へと連れて行った。
 その姿を見ていた3軍勢は――。

「瀬野さんってさ、何者なんだろうね?」

 昴がそこの使用人にもらったパイナップルジュース(3000年世界にもあるらしい)を飲みながら、翔に訊く。

「あの人は何でも完璧のこなしますからね。もちろん、体術も棒術も完璧ですよ」

 燐はワインを片手でくるくると回しながら言った。あれ……あなた、未成年じゃないでしたっけ?

「残念ながら、僕は成人しました」

 さいですか。
 白刃も零と共にワインを飲みながら、首を傾げる。

「でも綺麗な人だよね。美人で性格もよし、まさに完璧じゃない。完璧メイドさんじゃない」

「ハァ。でもですね、ご主人さまと付き合っているのですよ」

 ……。みんなの動きが止まった。
 燐がワイングラスに口をつけたところで、みんなが燐にストップをかける。

「なぁ、今何て言った? ご主人さまって優亜ちゃんの事だよね。優亜ちゃんって女の子だよね?!」

「ハイそうですが」

「まさか――羅ちゃんと同じn「な訳ねぇだろあたしの心は鈴様のものじゃー! でも銀ちゃんも好き!」

 羅に物質分解されたグラスを大量に落とされる空華。その横では鈴が顔を真っ赤にして、「恥ずかしい事を言うなよ」と言っていた。
 すると、オーケストラの合奏が鳴り終わる。

「さぁ、これより女王と友人の優亜様のご登場です!!」

 アナウンスが流れ、反対側にある大きなドアが開かれる。
 そこから現れたのは、ピンク色のドレスに身を包んだ優亜と、白いドレスに身を包んだ銀の姿だった。