黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。

作者/山下愁 ◆kp11j/nxPs(元桐生玲

『劇場版。黒影量は今日もお祭り騒ぎです!~空と海と未来の花嫁~』-2章


 銀の分身でもある鈴が、どうしてこの世界にいるのか。その事はさておいて。
 鈴はディレッサを下げ、状況を説明した。

「この世界はどうやら黒影寮とは違うらしい。かといって、そいつらがいる世界でもない。完全に異世界になってやがる」

 鈴は扇を2,3回振り、簡単に説明した。

「そんな事よりも、優亜様を返していただけませんか。私どもは主がいなければ」

 異世界に来た事よりも主を優先するメイドさん。異世界の事はアウトオブ眼中らしい。
 中学生の軍団も、異世界には慣れっこなのかへらへらしている。
 異世界に慣れていない黒影寮のメンツは、ただ黙っているしかなかった。唖然とした様子で。

「その優亜って奴は知らないが、お前らここをどこだと思って暴れてたんだ?」

「どこだって。異世界じゃねぇのか」

 秀才の翔がまさかのバカみたいな発言。
 鈴は思わずため息をつき、扇を滑らせる。自然とその方へ目が向けられる。
 朱色の鳥居。古ぼけた社。つまり――――

「神社だぞ」

「「「「「嘘だろ?!」」」」」

 その事を知らなかった全員は思わず声を上げてしまった。
 まさか神社で暴れているとは知らず。

「か、神様なんかに怒られてたりしない?!」

 中学生軍団のメイドが慌てた様子で言う。
 実際、鈴は神様と対話できるが(銀の鈴だし)、そういう事をする様子は見られなかった。

「……おかしいな。神様っぽい声が聞こえないけど」

 そこで、白刃が鏡を取り出してつぶやく。鏡の来歴訪問だからこそできる、真理を知る事。こいつはこの神社の神の心理を知ろうとしているのだ。
 執事がその様子を見て首を傾げる。

「鏡で何かできるのですか。マジックですか?」

「神の心理を読もうとしているけど……。読み取れない。ここの神社には神様がいないのか?」

「ぴんぽーん」

 鈴が正解の札を上げる。しかもニッコリとした笑顔つき。
 沈黙が訪れる。
 直後、怒声。

「紛らわしい事をするなーっ!」

 目に星を浮かべたメルヘンチックな野郎が、刀身が赤い刀を鈴の首に突き立てる。

「じゃあ何だ? 神様はお留守って事か、そーゆー事かぁぁぁあ!」

「んー、まぁそうなるねぇ。とりあえず落ち着こう落ち着こう。こっちの利害も一致するはずだよ。まずは話し合い」

 鈴が神様を使役し鎮静を図る。
 全員が鎮まった後で、自己紹介が始まった。

「私は相崎家のメイド、瀬野翔と申します」

「同じく相崎家の執事、久遠燐と申します」

「相模原中学校の水無月彩佳」

「武藤美影」

「崎守翔汰だぜー!」

「榎本直人です」

「天城翼じゃ」

「リオン・アバランチ」

「俺は八雲優羽ね。ちなみに生き霊。こっち来た時はもう幽霊だった」

 自己紹介が終わり、全員は本格的に話し合いを開始する。
 相崎家に仕えるメイド・執事の瀬野翔と久遠燐のペアは、主である相崎優亜という奴を探す事。
 相模原中学校から来た『2の2くえすと』ルーキーという優羽達は、仲間である八雲優奈を探す事。
 そして黒影寮は管理人である神威銀を探す事。

「完全に同じ人探しじゃねぇか」

「そういう事になりますね」

 瀬野翔は言う。いかにも冷静な対応だ。

「優亜様があなた方が探す人々と一緒にいる可能性は0ではありません。ですが、優亜様の居場所が分かり次第、私達は完全にあなた方と別行動をするでしょう」

「ハッ。そんなものは百も承知。こっちも銀が見つかれば、テメェらの事なんか置いて行くからな。あとはこの国が滅ぼうが知ったこっちゃない」

「それは俺も一緒かな。やーさんが見つかれば万々歳だし、この話をさっさと終わらせる必要があるからね。キーワードを探す必要もあるから、君らのお守をしてる訳にはいかないんだよね」

 瀬野翔・翔・優羽の軽い舌戦→火花の散らし合いが始まる。
 呆れた昴は、この3人を放っておく事にした。

「とりあえず、今はこの神社を拠点として3人を探そう」

「……でも、あてはあるの?」

 武藤美影が問いかける。
 昴はその問いに自信を持って頷いた。

「翔ちゃんがいる」

「翔って――あの、可愛らしい容姿を持つ翔さんと言いあっている?」

「そうそう。何だかややこしいから瀬野さんで言っちゃうけど。翔ちゃんは死神なの。だから目で人がどこにいるかなんて簡単に分かっちゃうんだよ!」

「でしたらその目とやらを使ってさっさと見つけ出してください」

「そうともいかない」

 舌戦を終えたのか、翔が声を上げた。

「仕事でもない限り、極力目は使わないようにしてるんだ。人を殺す可能性もあるしな。それだったらそこの眼帯忍者に人を探知する術でも作ってもらえ」

「何で俺様なの。俺様は国語が苦手なんです。探知する術は作れるけど、その言葉を思いついてから言ってよね」

「じゃあ、辺りに幽霊を飛ばす?」

「怖ッ!」

 あーだこーだと考える黒影寮のメンツ。その考えは人間から大いにかけ離れているような感じもするようなしないような。
 だが、その考えに慣れていないのは瀬野翔と燐の2人だけで、ルーキー達はいたって普通だった。
 が、

「……おい。何か来るぞ」

 リオンの言葉で会議をストップする。
 ザリ、ザリと地を踏みしめる音。

「――――敵か?」

「気配が違う。心理は?」

「特に何も思ってないらしいね」

 じゃあ、誰――?


「おい、テメェら。人の神社で何をやってやがる」




劇場版 第3章


「おい、テメェら。人の神社で何をやってやがる」

 神社の石段を踏みしめて上ってきたのは、長髪の男性だった。ディレッサよりも年下だが、確実に全員よりは年上だろう。零よりも。
 その男性は神社の様子を見て、顔をしかめた。

「どうしてこんなに荒れてるんだよ……。テメェらが暴れたのか?」

「いや、あの……すんません」

 代表して直人が謝る。
 男性は「あーあー、いいよ。もう」と投げやりな答えを返して片腕を振る。
 すると、一瞬で荒れていた神社は元通りの綺麗な神社に戻った。傷だらけになっていた境内は傷すらも見当たらない。

「今度は気をつけろよ、くそガキども」

 男性は舌打ちをして境内に腰をかける。そして上を見てため息をついた。
 全員も自然と上へ目を向けてしまう。
 そこに広がっているのは青い空ではない。人工的に作られた空だった。まるでスクリーンに映し出されたかのような。

「なぁ、あの空ってスクリーンにでも映されてるのか?」

「この世界の事を知らないのか? 珍しい奴もいるもんだ。下からの生き残りか」

 男性は意外とでも言うかのような反応を見せる。そして語り始めた。

「今から500年くらい前だったかな……。大津波が世界を襲い、人類はほぼ消滅した。が、何千人かは生き残ったんだ」

「ご、500年……?」

 黒影寮の全員の視線が、翔へ向けられる。翔は自分の記憶と照らし合わせ、500年前に何が起こったのかを思い出している様子だった。
 だが、男性はそんな事を無視して話し続ける。

「その何千人が手を取り合って協力したというこった。それでできたのが、この空中都市『新・東京』だ」

「で、人類はどうなったのでしょう?」

「さぁな。少なくとも世界は水没しているが、まだポッドとかに沈んで目覚めた奴がいるんだろ。だがたいていの奴はアンドロイドだとか人造人間が多い。それらは太陽の光を嫌う。人工的な太陽の光と空で成り立ってるのさ、この世界は」

「ちょっと待て。500年前に津波なんか起こってないぞ。500年前と言ったらまだ江戸時代だ。1511年だろう?」

 1700年生きている翔は、男性に訊いた。
 男性は「ハァ?」と言って首を傾げる。

「ここは3012年だぞ」

「「「「「……」」」」」

 桁はずれな西暦が聞こえたような。

「……すません、もう1度頼めます?」

「だから、3012年だと言ってんだろ。耳が遠いのか、テメェ」

 男性は平然とした様子で答えを返す。
 全員顔を見合わせて、そして絶叫。

「「「「「み、未来の世界ィィィィィィイイイイ?!!」」」」」

 わたわたと暴れ出す全員。さすがの瀬野翔も燐も慌てている様子。アウトオブ眼中だったはずなのに。
 男性はパンパンと柏手を2回打ち、鎮静化を図った。

「どうした、そんなに慌てて」

「だって! だって何でそんなに平然としてられるんだよ! あ、そっか! お前はこの世界で生まれた奴だもんな! だけど俺らは1000年前から来てるんだよド畜生!」

「……1000年前、だと?」

 ピクリ、と男性の眉がひそめられる。

「――なるほど。だから昴に似ているなと思っていたんだ。昴本人なのか?」

「え、そうだけど。俺は椎名昴」

「黒影寮の副寮長にて闇の踊り子。反閇術を得意とし――今でも銀が好き」

 男性にピタリと当てられる。昴は戦慄した。
 さらに男性はぐるりと周囲を見回し、

「なるほどな。異世界の野郎までもが混ざってる。が、分からなくもない。相崎優亜を探しに来た瀬野翔と久遠燐。八雲優奈を探しに来た2の2くえすとルーキーども。そして銀を探しに来た黒影寮。大方そんな感じだろ」

「どうして分かるのですか」

 燐がどこから取り出したのか分からない、ナイフを男性に当てた。
 男性は飄々と答えを返す。

「刺したいのなら刺せばいい。ただし、できるなら――な」

「何を――!」

「一応名乗っておいてやるか」

 男性は燐のナイフを押しのけ、空中から炎の鎌を生み出した。それはまさしく、翔が使っているのと同じ鎌だ。
 炎神。
 世界に2つとない、炎の死神しか使えない鎌である。

「何で、炎神を……」

「俺の名前は――東翔」

 男性は、自分の名を告げる。

「つまり、未来のテメェだ。黒影寮の寮長」

 男性――東翔は、不敵に笑った。