黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。
作者/山下愁 ◆kp11j/nxPs(元桐生玲

『劇場版。黒影量は今日もお祭り騒ぎです!~空と海と未来の花嫁~』-12章
ビルばかりが建つ、旧・東京の池袋。
空華達は有名なサンシャイン通りをてくてく歩いていた。別にこれと言って何かが見つかる訳でもない。
「俺様達の世界に池袋なんてなかったよね」
「なかった。1番のレジャー施設が神宮寺町だからね。もしかしたら異次元かもしれない」
来た道を見失わないように、昴は後ろを向きながら歩く。
蓮は狼に変化し、ビルの屋上と言う屋上を駆け回っていた。そして止まっては辺りを見回し、「何もない」と知らせるように遠吠えをする。
「瀬野さん、そっちはどうだ?」
「ダメですね。人影すらも見当たりません。この街にはいらっしゃらないのでは?」
メイド服をひらひら舞わせながら、瀬野翔は街を駆け回る。その後ろでは水無月彩佳がきょろきょろとしながら水色の銃を構えていた。
「おかしいですねー。人が1人もいないってどういう事ですかね」
「洪水でほとんどの奴らが死んだんだ。無理はない」
蓮は狼から姿を一転させ、普通の人に戻る。肩をぐるぐると回し、首を横に振った。
「こっちも何もない。人のにおいも感じられない」
「人物を追跡する術でも組み上げた方がいいのかな。それだったら、1度戻った方が得策だよな……」
空華はぼさぼさの黒い髪をさらにぼさぼさにして考える。
昴は地を蹴り、空へと舞う。空中を踏みつけて辺りをぐるりと見回して、そして集中する為なのか目を閉じた。
「何をしているのでしょうかね」
「さぁ?」
崎守翔汰は、あれに雷龍を撃ちこんだらどうなるだろうと考えていた。きっと跳ね返されるか周りの仲間に攻撃されるだろう。
昴はスッと瞳を開けると、
「音も何もない。死んでいるのかな、この世界は」
と、厨2病めいた台詞を吐いて降りてきた。習得なし。
その時だった。
「見つけましたですよ黒影寮――――――――ッッッッ!!!」
金色の影が突然彼らに降ってくる。
瀬野翔が素早く察知し、鎌を瞬時で組み立てると、降ってきた金色の影に突きつけた。金色の影は瀬野翔の攻撃を防ぐ。ギィンッという鋭い音が聞こえてきた。
ごろごろと床を転がったのは、なんとリネ・クラサ・アイリスだった。
「リネ?!」
「見つけました黒影寮……。私をこんなところに放り込んで、ただで済むと思っているのですか?! そこのメイド、あなた黒影寮の寮長に似ています。双子の姉か妹でもいたのですか?」
リネは鎌を突きつけてくる瀬野翔へ問いかける。
瀬野翔はニッコリとした笑みを浮かべると、さらりと。
「残念だが、俺は男だ」
――――――――ハァ?
「瀬野さん……、男?」
「ハイ。男ですよ? メイドの格好をしているのは、主が男嫌いゆえです。私は別に女が嫌いなわけではありませんよ。だからこういう格好をしているのです、男というプライドを捨て去り」
この局面で新事実が発覚し、瀬野翔を除く全員が立ち尽くす。
瀬野翔は鎌を突きつけたまま、リネに問いかけた。
「この辺りで神威涙という奴を探している。容姿的にはおそらく、神威銀と同じような姿だ。知らないか」
「知りません。それよりもその椎名昴と王良空華と篠崎蓮をお渡しください。『リヴァイアサン』の時間外労働は嫌なのです。無駄が嫌いですので」
空中から剣を生み出すと、リネは瀬野翔に襲いかかった。
だが、能力なしで強い瀬野翔。リネの剣を弾き返し、柄をうまく使ってリネを地面に叩き落とした。
体勢を立て直そうとするリネの首筋に、鎌の刃が押し当てられる。
「だったら知っている情報を吐いてもらうまでだ。お前はどこから来た?」
「……上からです。新・東京というところでしょうか。時間外労働は好きじゃないので少し暴れたら国外追放になりました。しばらくこの街を歩いていた訳ですが」
「歩いていた? そんな事が可能なのか」
「どうせ、この街を見立てた街を別の空間に作ったんだろ。自分のフィールドに」
空華が横から口をはさむ。リネはむっとした様子だった。
「じゃあ神威涙は知らないか」
「ハイ。そんな女は知りません。神威銀に似たような人だったら速攻狩っていますから」
物騒な事を言うロリッ娘だった。
瀬野翔は鎌を離し、肩に担ぐ。リネは立ち上がって、ポンと手を打った。
「そう言えば、こういう人がいるとは聞いた事がありますね」
「誰だ?」
「そこの眼帯忍びの子孫ですよ。えーと名前は……王良閃華だったと思いますけど?」
それを聞いた全員は、リネ・クラサ・アイリスを拉致る事を決定した。
劇場版 13章
リネを連れて帰った(拉致した)一行は、元のホールに戻る事にした。同時に膨大な量の水が襲いかかってくる。
彩佳の氷の力で体の1部を凍らせ、武器を出せないようにしたリネを全員の前に突き出す。
「で、どうしてこいつを連れてきたんや?」
睦月は首を傾げてリネを見やる。
「王良空華様の子孫を知っているとの事でしたので」
瀬野翔が全員を代表して答えた。
リネは唇を尖らせて、
「何で私は縛られているのですか? 訳が分からないんですけど!」
「だって暴れるじゃない。下手したらここの全員即刻お陀仏っていう事になりかねないからね。鈴、ディレッサを出してくれない?」
空華はそこでボーとしていた鈴に頼む。
鈴は「りょーかい」と適当な答えを返して緋色の扇を振った。ディレッサが欠伸をしながら姿を現す。
「で、何で俺が呼び出される訳?」
「この子の力を一時的に奪ってくれないかな。ほら、襲ってくると危ないじゃない?」
なるほどねー、とディレッサは頷くと、パチンと指を弾いた。
リネの体から白い玉みたいなのが出てくる。それはディレッサの口の中に吸い込まれていった。
「とりあえずガムみたいに噛んどくわ。話が終わったら言って」
「帰るつもりじゃないよな?」
パジャマの襟首をグイッと掴んで、鈴は笑顔でディレッサに問いかけた。
その2人を置いといて、白刃がリネに質問をする。
「その子孫について何か知っている事はない?」
「さぁ。上でちらっと聞いただけですし。でも確かに分かるのは、王良閃華という名前と女王に手を出した罪で国外追放されたっていう事ぐらいです」
国外追放って何をしたんだ。全員で思ったが口にしなかった。
リネの説明はまだ続く。
「まぁこの辺りは海ですし。もう少し遠くに行けば何かあるかもしれないですよ。噂では外からの来国者専門の入り口がかなり遠くにあるようですし」
「入り口?」
「あれ、上にいたのに知りませんか。女王の婚約者は外からの来国者ですよ。もちろん、あの優亜様って言う人もね。あの人も来国者なのでは?」
「あの人は俺と燐の主だ。勝手にここの世界の人にするんじゃねぇ」
瀬野翔がドスの利いた声で言った。
「確かに私は言いましたよ。では、能力を返してください」
「あ、ごめん。飲んじゃった」
ディレッサはてへぺろー、と笑って言った。リネの表情が固まる。
鈴はやれやれと首を振ると、ディレッサの腹部に拳を叩きこんだ。連続で。何度も。
「テメェェェェェェ! 吐きだせ、吐きださないと殺されるぞ!!」
「ぐぶっ?! 何を、俺は吐きだすと言うスキルなんぞ――おぼろろろろろろ」
「よぉし。この白い玉だ! リネ、返す! ややドロドロだけどまだ消化されてないから!」
「な、なんか嫌です気持ち悪いです!」
「つべこべ言わずに飲み込め馬鹿ぁぁぁぁあ!」
「ぐぶ――――!!」
無理やりドロドロした自分の能力を飲みこまされ、リネは失神した。その近くでは、羅が「鈴かっけー」と言っていた。
空華は自分の子孫について思考をし始める。
王良閃華。どういう人物なのだろうか。自分と似ている人物なのだろうか?
だとしたら――自分と同じように黒い過去を抱えているのだろうか。
「もうじきに夜になる。今日のところは寝るぞ。簡易ベッドがある」
「交替とかは?」
「ここは襲撃されないぞ」
未来の翔は全員に指示を送り、寝る事にした。
だが、空華は他の事を考えていた。ていうか作戦を立てていた。みんなが寝静まったあと、1人で王良閃華を探しに行こうと。
一刻でも早く、銀を救う為に。
***** ***** *****
真夜中。空華は目を覚ました。
全員寝ている。よし、と空華は1人で頷くともそもそと簡易ベッドから這い出る。足音を立てないのは忍びの役目だ。
その時だ。
「行くッスか」
突然声がかかり、空華は肩を震わせる。
闇に輝く白い髪。白亜だった。
「白亜ちゃん……悪いけど、お前は連れて行けないかもよ?」
空華はみんなに聞こえないような小声で言う。
「分かっているス。私が皆さんみたいな能力を持っていない。だから王良閃華探しは私は協力できないッス。だけど、これだけは分かってほしいッス。死ぬ気ッスか?」
白亜は平坦な声で問いかけた。
空華は押し黙る。死なない保証はできないからだ。
「……神威さんが悲しむってわかっていても、あなたは死にに行くんスか?」
「死にには行かないよ。銀ちゃんを救うまで、俺様は意地でも死なないつもりでいる」
「こんな深い水の中、どうやって行くッスか。あなたの術でも使うんスか、その右目を」
空華は眼帯の上から右目を押さえる。この右目は全てを殺す力がある。水も殺せるかもしれない。
だけど――
「これは呪いだ。あまり乱用する訳にはいかないんだよ」
「……そうッスか。だったら何も言わないッス。ただこの人は連れて行ってくださいスよ」
ごそごそとベッドに潜り込む白亜。
この人って? と振り向いた空華の目線の先にいたのは、蓮だった。下半身が人魚になっている。
「おう、行くんだろ」
「蓮……。どうして」
「どうしてって。全員の考えで『空華はまた抜け出して行くだろうからお前行け』ってな。だから俺が人魚になって行く事になったんだよ」
ほら、と手を伸ばす蓮。
「俺だってな、黒影寮の人間なんだぜ? 肉体変化を舐めるなよ」
「……ハァ。1人で行くつもりだったけど、別にいいか。その力頼らせてもらうよ」
蓮の腕を掴み、空華は水の中に入る。
「行ってらっしゃい。生きて帰ってくるッスよ」
「もし他の奴ら起きたら言っといて」
「何を言っているスか。全員の考えはメイドさんも執事さんもルーキーさんも入っているッスよ」
あぁ、そうなんだ。

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