黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。

作者/山下愁 ◆kp11j/nxPs(元桐生玲

第11章『王良家こんぷれっくす!』-8


 色々なところを巡り、京都観光を終わらせました(山下の技量により割愛)
 そして夜です。
 空華さんの提案でコンビニで大量の花火を買い、それをしようという事になり――

「どうして私は浴衣を着ているんでしょうね、お庭でやるのに」

「風情があっていいじゃない。銀さん、綺麗よ?」

 綺華さんも紫色の浴衣を着ています。日華さんは赤い浴衣で、姫華ちゃんはピンク色の浴衣です。
 私はちなみに、綺華さんに借りた青い浴衣です。
 皆さん、私達を見た瞬間に「おぉぉぉお……」と言いました。似合ってますでしょうか?

「ひゃははははは! 見ろこれ、二刀流!」

「やめ、暑ッ暑ッ!! 炎華テメェ止めろ馬鹿!」

「ぎゃぁぁぁ! 翔兄ちゃんが地獄の業火で参戦してきたぁ?! くっそー、負けないぞコラ!」

 炎華さんは2本の花火を手に翔さんを追いかけまわします。
 対して翔さんは、中学生相手に大人気なく、2本の花火を手にして逃げ回っていました。

「銀ちゃんもどう? 花火乱舞」

 空華さんが1本の花火を片手に、私に訊いてきました。
 私は見ているだけで楽しいので、首を横に振りました。

「いいの? 参加しなくて」

「見ているだけで結構楽しいですよ」

 そっか、と空華さんは頷いて、バケツに花火を突っ込みました。そして私の隣に腰を下ろします。
 遠くで「にーちゃーん!」と花火を持った手を振る炎華さんに手を振りつつ、空華さんは言いました。

「京都までついて来させちゃってごめんね。俺様の修行の為に」

「いいですよ。だって、こんなに楽しい京都旅行は初めてですから。空華さんの御兄弟にも会えましたし」

 あはは、と空華さんはいつもの調子で笑いました。
 すると、隣からツンとした匂いがします。ミントのようなそんな香りです。視線を向けると、空華さんがキセルを片手に庭を見つめていました。

「喫煙しているんですか? ダメですよ、未成年の喫煙は」

「そんな事はしないよ、俺様は煙草は吸わないし。これはハッカ。ガムみたいな感じだよ。うちの家族は大体気持ちを落ち着かせる為に吸ってる訳」

 気持ちを落ち着かせる、ですか。

「そうなんですか――って、空華さんは何に緊張しているのですか? 気持ちを落ち着かせる為に吸っているんでしょう!」

「え、いや、ただちょっと、」

「答えてください! 気になります」

 ズイッと空華さんに近寄ります。
 空華さんはキセルを口から離し、フゥと煙を吐き出した。白煙が空へ昇って行きます。

「……好きな子の隣に座って、緊張しないとでも思ってる訳? 俺様、そこまで神経図太くないよ」

「え……。そんな、嘘ですよ」

「嘘じゃないよ」

 カンッと綺セルの中身からハッカを落とした空華さん。エメラルドグリーンの瞳は、真剣な色をしていました。

「俺様は、いつでも本気。銀ちゃんが好きなんだ」

「……ッ」

 バッと顔をそらしました。
 女の子大好きな空華さんが……私を……本気で? 冗談のようにしか聞こえないのに、どうして顔が熱いんですかーっ!
 すると、私と空華さんの間に翔さんがどっかりと足を乗っけました。

「む、何をするんだよ。いいムードだったのに!」

「俺がここを通りたいんだよ。どけ眼帯馬鹿、ビッチ」

 無理やり私と空華さんの間を割って、ズカズカと部屋の中に入って行きました。
 ……機嫌が悪いですね。

「何だよ、あの少女容姿死神が」

「……翔さん」

***** ***** *****~翔視点~

 どうしてだか、空華と銀が仲睦まじく話しているのが気に食わなかった。
 あぁ、そうさ。着に食わない。銀が他の連中と話しているのも気に食わないし全部全部気に食わない! つーか、めっちゃくちゃイライラする!
 いやいや。待て待て、落ち着け俺。
 俺は炎の死神だぞ。死神だぞ死神。死神は感情を持っていちゃいけないんだ。――いや、確かに銀は好きだけども。あの、おう。
 こんな嫉妬を抱いてどうする俺ェェェェェェエ!

「ハァ、冷静になれよ。馬鹿」

 壁にゴッと頭をぶつけ、冷静さを取り戻す。
 ……でも、何だかもやもやした気持ちは晴れない。何故だか晴れない。霧のようにもやもや、もやもやと。

「よし。大丈夫だ、何が嫉妬だ。相手は人間、俺は死神。問題です、長く生きられるのはどっちでしょう。答えはそう、俺だ!」

「そうだね。君は死神だもん……僕らとは違って、永遠に生き続けられる神様なんだ」

「そうだそうだ。テメェいい事言うじゃねぇか。ほめてやろう」

「うわー、ほめてくれるの? ありがとう。元気が出たよ」

「ほめたぐらいで大げさな……って誰だテメェ?!」

 炎神を顕現させ、俺は振り返る。
 廊下に立っていたのは、見知らぬ男だった。青い髪に瞳。黒い箱みたいなのを抱えている。プールで見た夢折梨央と同じような感じだ。

「……テメェは、一体」

「君が必要なんだ……。お願い、一緒に来て」

 そう言うと、その男は黒い箱を開けた。
 とたんに、俺は意識を手放した。