黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。
作者/山下愁 ◆kp11j/nxPs(元桐生玲

『劇場版。黒影量は今日もお祭り騒ぎです!~空と海と未来の花嫁~』-6章
ハイ、皆さん初めまして。うちは八雲優奈。あだ名はやーさんっていう13歳中学2年の女の子!
チャームポイントは銀色の髪と青い瞳☆
え、自分で言うなって? ごめん☆☆
「それで、あなたには任務に行ってもらいます」
「だが断る」
うちは今、任務と言うものを押しつけられているのであった。
何故かって? そりゃ分からない。今さっき呼ばれたばかりだから。
うちは女王特務警備隊の隊長らしい。まぁ、2の2くえすとルーキーだから人を守る事ぐらいできますけど。それが仕事ですけど。
で? 何か入ってきたのか?
「涙様の婚約パーティーに出席してもらいたい人がいるのですが、その人がかたくなに拒むんですよ」
「招待しなければいいじゃないですか」
「それが、涙様のご先祖様から知っている神様でございますから、是非参加してほしいのですが」
だから呼ばなければいいだろうが。それでうちが動くのか。
女王特務警備隊なのに?
「何だ。警備隊ってただの雑用係じゃん」
「雑用ではありません。任務です」
「それを雑用って言うんだよ」
うちの副担任――王良空華って言う我流忍術使いの奴がいるんだけど、そいつの言葉を思い出した。こういうのやらされてたような感じがするようなしないような。
ハァ。何でこういう役目ばかり回ってくるのかな。優羽いないし、みんないないし。
どこ行ったんだろう?
「分かりましたよ。じゃあ、代わりに銀――間違えた、涙様を守ってくださいよ。あと優亜ちゃんも」
「優亜様を呼び捨てにするのではありません!」
「だって本人がそう言ってたし、いいんじゃないの?」
うちは窓から飛び出した。めちゃくちゃ高かったけど、もう慣れたかもしれない。
……で、その神様って誰だ?
***** ***** *****
「うーん……。でもどうやって能力ブロッカーを越えて銀ちゃんに会いに行くかが問題だよな」
昴が腕組みをして考える。
目下の問題は『神威涙を見つける事』と『能力ブロッカーを越えて銀に会う事』である。まずは後者の方を考えているらしい。
「瞬間移動にも限界があるんだろ?」
「スマン。ワシの今の力じゃせいぜい半径40キロが限界や。ここから1000キロ以上も離れてんやろ? ここ案外奥深いなー」
町がでかいだけじゃねぇの? と後ろから未来の翔が言ってくるが、みんなはあえて無視をした。
未来の翔からこの国の情報を聞き出すと、ここは空に浮いているバカでかい都市らしい。
人口はおよそ7割がアンドロイドかサイボーグ。軍事用には開発されていない。人間は約3割で、銀の子孫である涙もその1人に入る。
涙はこの都市を作った筆頭の娘であり、女王の座に君臨しているのだとか。
「この神社がもう少し近い場所に建っていれば問題はなかったと思うねんけど」
「……ルーキーの力を使ってもダメなんだろうね」
美影が少ししょんぼりしたような声を出す。仲間である八雲優奈の事を案じているようだ。
瀬野翔も燐も主である優亜が婚約する前に助けだすと意気込んでいる。
だが、問題の涙が見つからなくては始まらない。
「やっぱ1億体を素手で倒すしかないんじゃない? 翔ちゃんは中国武術と棒術をマスターしているから死神の力を使わなくても十分強いでしょ。空華だって暗殺術は教え込まれているでしょ? 悠紀はパソコンが使えるからハッキングなんてのも」
「それで1億体全てを操れって? 無理な話だよ。大体、僕にハッキングなんていう高等技術はできない」
悠紀は昴の言葉を一蹴する。その台詞に「俺の友達ならいるんだけどな……」とつぶやいたのは蒼空だった。だが、彼の声は誰1人として聞かなかった。
みんなしてうーんうーん悩んでいると、外からものすごい轟音が聞こえてきた。
窓ガラスがビリビリと鳴り、風が木々を揺らす音がする。
「誰だー?」
未来の翔が重たそうに腰を上げ、窓を開けて外を出る。みんなも外を見た。
殺風景な神社の境内に現れたのは、1人の少女だった。
銀色の髪で青い瞳。手には穢れの1つも見当たらない白い鎌が握られている。その少女は、2の2くえすとルーキーがよく知る人物だった。
「「「「「や、やーさん?!」」」」」
八雲優奈は、未来の翔へ笑顔で言う。
「女王特務警備隊の隊長、八雲優奈です。少しお話いいですか?」
劇場版 7章
やーさん(本名・八雲優奈)は、ズカズカと神社に上がりこみ、お茶を勝手に啜っていた。ずうずうしいにも程がある。
その向かいで、未来の翔が頬づえをつきながら、優奈に訊いた。
「一体何しに来た。女王特務警備隊の隊長殿」
「あ、お茶おかわり」
「……(イラッ」
未来の翔はイラつきながら話の内容を待っている。
それを見ていた黒影寮・メイド・ルーキーメンバーは。
「なぁ、やーさんってあんな感じなのか?」
昴は優奈と同じ容姿を持つ実兄、優羽に問う。
優羽は苦笑しながら「いやぁ、あっちも完璧にイラついてるよね」と答えた。当本人はこの面倒な任務があるせいか相当イラついているらしい。
瀬野翔が優奈にお茶のおかわりを出したところで、優奈は話を始めた。
「あんたに涙様の婚約パーティーに出てほしいんだって」
「断る」
話を始めて3秒で未来の翔は答えた。しかも否定。
ズズーッとお茶をすする優奈は、怪訝そうに眉をひそめる。
「こっちとしては参加してもらわないと困るってさ」
「だから断ると言っているだろう。あんなじゃじゃ馬娘の婚約パーティーに出たところで俺にメリットがあるか?」
「知らねぇよ。こっちだって来たくないんだからよー」
お茶の入った湯呑みをテーブルに叩きつける優奈。
それをハラハラした様子で見守っている3軍勢。特にルーキーの方は心配のご様子。
「だから言ったのによ。パーティーに招待しなければいいじゃんってよー、あんのクソババアしばき倒す」
「時に訊くが、テメェは2の2くえすとルーキー、八雲優奈嬢と見受けるが」
手をつけていなかった湯呑みを握り、未来の翔は優奈に尋ねた。
銀髪をガシガシと掻きまわしながら、優奈は「何?」と答える。
「お仲間探しはいいのか?」
「したいのは山々なんだけどね。こっちもこっちで大忙し。正直こんな小物の仕事なんかやってらんない訳。下の調査もあるって言うし」
かなり順応しているらしい優奈は、大きなため息をついて湯呑みの中のお茶を飲み干した。そしてどすどすと言ったような感じで休憩所から出ていく。
境内に行くと、数百を超えるアンドロイドの軍勢が片膝をついて待っていた。それを見た優奈は顔をしかめる。
「クソバ――メリアスさんからの命令でついて来いって?」
「YES」
「イエスじゃねぇよ。うちにそんな護衛は必要ないって言ったよね、あのババア。もういいや、上から命令させちゃおう」
優奈は何やら小型の通信機みたいなのを取り出すと、それを耳に当てる。どうやら誰かに電話をかけるようだ。
その場に数回のコール音が響いた後、声がする。
『もしもし。えーと、なんて言ったらいいのかな。クイーンズ・オブ・キャッスル、です?』
「あ、もしもし。優亜ちゃん? うちうちー、やーさん」
『任務じゃなかったっけ?』
「そうなんだけど、メリアスのババアに護衛をつけられちゃったから、今後は一切うちに護衛をつけないように言っといてくれない?」
『残念だけど、あたしにはそんな権力はないわよ? 何せ、銀ちゃんの友人扱いですから』
その声に、瀬野翔と燐が反応した。
「「優亜様?!」」
「うるせぇ今電話中だっ! じゃあ銀ちゃんに変わってくれないかなー」
『銀ちゃーん。やーさんから。 ハイ、お電話変わりましたよー。銀です』
「銀ちゃんって言った方がいいの。涙様って言った方がいいの? まぁ自分の名前を忘れちゃうといけないから銀ちゃんっていうけどさ。今から言う台詞を一字一句間違えないで言ってくれないかな?」
『? 了解しましたですよ』
何やら優奈が電話口にごしょごしょ言った後、電話をアンドロイド集団の前に突き出した。
スピーカーモードにされた電話から聞こえてきたのは、あの銀の声。
『皆さんやーさんには構わないで自分の仕事に専念してください!!』
「「「「「YES」」」」」
その声を聞いたアンドロイド集団はぞろぞろと足を揃えて帰って行った。
背中を見送り、優奈は未来の翔達へ向けて一礼をする。
「じゃ、お騒がせしました」
「ちょっと待って。銀ちゃんの声が聞こえたんだけど! あと最初の――優亜ちゃんも? いるの?」
去ろうとする優奈を呼び止めた蒼空。
キョトンとした様子を返す優奈は、ただ一言。
「いますよ、普通に。いなきゃ婚約パーティーは成り立たないからww」
それじゃ、と優奈は空へ飛び上がる。どういう『身体能力を以てしてか、そのままどこかへと消えて行ってしまった。
みんなは顔を見合わせ、そして言う。
「やーさんをどうにかすれば、城に入れるんじゃねぇか?」
そしてその作戦会議が開かれるまで、そんなに時間はかからなかった。
が、無表情を決め込む1人の男がいた。
彼は決めた。『今夜、クイーンズ・オブ・キャッスルに忍び込もう』と。

小説大会受賞作品
スポンサード リンク