黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。

作者/山下愁 ◆kp11j/nxPs(元桐生玲

第12章『君と僕~オリジナルと亜種~』-9


「よいしょぉ!」

 あたしは紅に向けて3コンボを放った。
 光の剣が現れ、紅を貫く。あ、だけど血の鎧に守られた。くそっ(思い切り舌打ち、ここ重要)

「翔子ちゃん、こいつどうにかしてよ!」

「だから、あたしは後衛だっての」

 翔子ちゃんは懐から赤い銃を取り出した。
 これは、オリジナルである翔で言えば鎌である。翔は鎌ではなく銃を選んだみたい。
 紅へ銃口を向けた翔子ちゃんは、迷わず引き金を引いた。

「紅蓮の星(クリムゾン・スター)」

 銃口から発せられたのは、赤い炎の銃弾。
 紅はそれを寸のところでよけた。チッ。

「その炎――」

「ご名答。これは地獄業火(インフェルノ)――あたしも死神よん? お姉さん?」

 翔子ちゃんはニッコリと笑って銃を乱射しまくった。
 あたしがいるという事を無視して。

「しょーこちゃぁぁぁん?! あたしがいるんですけどぉぉぉお?!」

「知るか。踊れ踊れ」

「くそ貧乳! チビ! だからモテないんだよ!」

「モテなくたって別にいいし? あたしは将来一生独身で生きて行くと決めた今決めた!」

「そんな事を言っていたら子孫に困るよ?」

「知るかよ。オリジナルが望んだらそうしてやるさ」

 翔子ちゃんめぇ……!
 紅はさすがにブチ切れたらしく、自分の唇を噛み切った。血があふれ出してくる。

「これはさすがに答えるわねん。お姉さん――そろそろ限界なんだけど?」

「だったら力を使いはたしてさっさとくたばってくれないかしら? 存在見ているだけで邪魔だわ。特にその胸」

 翔子ちゃんが恨めしそうに紅の胸を凝視する。そこには翔子ちゃんがないサイズのクリーチャーが……。
 あぁ、なんて悲しき亜種の運命。

「殺す! 絶対殺す! それかその乳、半分よこせ!」

「大きくたって苦労するものよ? 肩こり酷いし」

「肩こりが何だ! 女性の象徴がそんなに大きい事を誇れ!」

 半泣きの翔子ちゃんが紅に噛みつくように言う。
 まぁ、いいか。これでチャンスができた。そのまま紅に近づいて、拳を突き出す。

「うらぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

 紅に拳の連打を叩き込んだ。

「く、ふ?!」

「はいはい、逃げようとしないのよ」

 翔子ちゃんも負けじと紅に向かって乱射。今度は正確な射撃です。
 およそ30秒後、あたしは紅に渾身の1発を叩き込んで空へ飛ばす。

「翔子ちゃん、ナイスな射撃でした」

「ハッ。舐めるなよ」

 翔子ちゃんは銃を懐にしまう。あたしも拳の骨を鳴らして終わった。

「「白金と紅千本桜(プラチナ・クリムゾン・サウザンド)」」

 はらりと、赤と白の桜の花が、紅へ襲いかかった。

***** ***** *****

「あれ、足が痛くないや。どうしてだろう」

 今までずっと痛かった足が、何でか収まった。うーん、謎だ。
 翔子ちゃんは貧乳と言われた事が気に入らなかったのだろう、あたしにずっとしがみついている。正直痛い。
 すると、オリジナルが何だか難しい顔をしていた。

「えーと、亜種? だっけ。俺の」

「そ。オリジナル」

「何か、そう呼ばれるのが嫌なんだけど。昴って呼んでよ、いつもみたいに。すみれ」

 オリジナル――いや、昴は笑顔を浮かべた。
 あはは。オリジナルらしいや。

「OK、今度からそうさせてもらうよ」

「ありがたいや。で、その子は翔子ちゃんって呼ばれていたけど――すみれの友達?」

 翔子ちゃんを指した昴は、不思議そうに首を傾げた。
 いや、まぁ、そうなんだけど。

「気安く指を差すな、マナー違反だぞ。まぁいい、この際だから言っておくが、あたしは東翔の亜種だ。名前は東翔子な」

「俺の?!」

 翔は意外にも驚いていた。
 翔子ちゃんは恨めしげに翔を睨みつけ、

「そうだぞ、オリジナル! お前のせいであたしは貧乳だのチビだの何だの言われるんだからな! あ、でも男嫌いはないから安心しろこの少女容姿死神さん。あたしは異性が嫌いだという事はさらさらない」

 何だとーっ! と、翔が叫び声を上げる。
 翔子ちゃんはそれを軽く無視すると、銀を見つめた。鈴からチェンジしたらしい。

「で、お前が鈴のもう1つの人格かぁ。初めましてこんばんわ。可愛いね」

「え、あの、ありがとうございます?」

 困惑した表情を浮かべる銀。あーぁ、困っているよ。
 翔子ちゃんを銀から引き剥がし、あたしは黒影寮の全員に会釈をした。

「今までありがとう。楽しかった。鏡の向こうで、あたし達は生きている事を忘れないでね」

「すみれ、また会えるか?」

 オリジナルが、さびしげな表情を浮かべて訊いてきた。
 会えるかどうかは分からない。でも、神様次第。

「さぁね。昴、恋――頑張りなよ?」

「……おう!」

 昴は自信満々に言い放った。
 ふーん、自信あるねぇ。だったら。

「銀」

「ハイ?」

 翔子ちゃんに耳打ちして、作戦を伝える。翔子ちゃんは快諾してくれた。
 そして2人で、銀の頬に軽くキスをした。

「「「「「――――――――?!!」」」」」

 黒影寮、声にならない悲鳴を上げる。

「あたし達、女の子もイケる方ですから? じゃーね、バイバイ」

「こら、待て!」

 銀の胸元に下げられた鏡から、あたし達は白影寮に帰った。
 楽しかったな。この数日間♪