黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。

作者/山下愁 ◆kp11j/nxPs(元桐生玲

『劇場版。黒影量は今日もお祭り騒ぎです!~空と海と未来の花嫁~』-18章


 突如として襲いかかってきた衝撃に、銀はひっくり返った。アンドロイドのメイドに止められた。
 一体何が起きたのだろう、と銀は辺りを見回してみる。だが、誰1人として見当たらなかった。というか招待された客も来ていない?

「あの、これってどういう事でしょうかね?」

 婚約者――何か豚面した顔の人間に訊いてみた銀。
 こちらを見たままハァハァしている豚は、

「さぁ? それより結婚式の続き♪」

 銀ちゃんピンチ!!


 一方その頃、黒影寮&メイド&ルーキーは。
 昴をシバキ倒していた。

「痛いなぁ……。大丈夫だって、加減はしたよ」

「加減? どこを加減したと言うのですか。優亜様に怪我が1つでもあったら殺しますよ?」

 燐が小銃の銃口を昴の眉間へと押しつける。
 実際、昴は本当に加減したのだ。闇の踊り子(あるいは呪いの踊り子)である彼は、蹴り1発で飛行船を地球1周させる事ができるからだ。だからクイーン・オブ・キャッスルに戻れた時点で奇跡とでも言っていいだろう。
 だけどそんな事は言わない昴だった。言い訳をするなと怒鳴られそう。

「とにかく、結婚式がもうすでに始まっていると言う事だろ?! もう時間がない!」

「でもここからどうすれば――」

 じっと全員で昴を見つめる。
 昴は蹴られた腕や頭をさすりつつ、首を傾げた。鈍感代表はやはり鈍い。

「昴、時間がないんだ。上へ連れて行ってくれないか?」

 翔が真剣な表情で頼んだ。
 昴は笑顔で答えた。

「だが断る」

「何でですか! 優亜様のピンチだと言うのに!」

「人を殴ったり蹴ったり銃口向けたりする奴の事を連れて行こうかなんて言うかあほ! 自業自得じゃボケ俺は動かないもん!」

「だったら洗脳させますよ?」

「逃げるわその前に。マッハで」

 じゃ、と窓枠に足をかけたところでルーキーに全員で取り押さえられた。

「お願いじゃ、連れて行ってやれんか? こやつら、マジで必死なんじゃ」

「むぅ。中学生のお願いじゃ仕方ないよね……。よし分かった。俺も何とか頑張ろ」

 だからどいてくれ、と昴はお願いする。そして全員で手をつなぐように指示をした。
 昴を含め、全員で輪になる。

「いーくよー」

「「「「「うごぇぇぇぇえ?!」」」」」

 あまりに速すぎて失神しそうになった全員(昴除)こいつ。いつも平気で飛び回っている訳か。
 一瞬でビルの屋上についた全員。ズドンと建物を貫くような音が響き渡った。
 屋上で待機していた優奈は、空から降ってきた全員に対して一言。

「親方ー、空から女の子が」

「女じゃねぇ!」

 翔が全否定をした。女嫌いなゆえか。

「とにかく、早くして! 結婚しちゃうよ!」

「そうはさせますか!」

 屋上のドアが開け放たれる。そこには眼鏡をかけたクリーム色の髪の女性――メリアスが立っていた。後ろにはアンドロイドがすごい数。
 さっきの音で嗅ぎつけられたか、あるいは作戦通りなのか。メリアスは屋上へ足を踏み入れる。

「隊長殿。あなた、結婚式をなかった事にでもする気ですの?」

「イエス。だってうちはここの時代の人じゃないからね」

 下ろしていた純白の鎌を担いで、ニッコリと笑う。その隣に並んだのは、2の2くえすとルーキーだ。
 様々な冒険をこなした最強の中学2年生が、今ここに集結する。

「うちらは2の2くえすと――この話を終わらせに来た主人公だ!」

 アンドロイドと主人公の戦いが始まる。爆風に銀髪をなびかせ、唖然と立っている残りの2チームに優奈は告げた。

「早く行きな。お姫様が待っているよ」

「……感謝するぞ、くそガキ!」

「せめて名前で呼んでほしかったね。やーさんって」

 あはは、と笑いつつ、優奈はアンドロイドの集団へ特攻して行く。
 瀬野翔と燐と黒影寮で飛行船に乗り込んだ。中は案外広く、赤いじゅうたんが敷かれている。一直線に道は続いていた。部屋などない。
 バタバタと廊下を突き進み、奥にあった大きな扉を蹴り開ける。
 白を基調としたチャペルに、優亜がいた。ベールに顔を包み、馬面の男性と一緒にいる。

「テメェ優亜から離れやがれ!!」

「きゃっ、翔?!」

 いきなりメイドが割り込み、優亜を抱えてかっさらわれたのを見て唖然とする馬面。
 燐はその馬面に銃を突きつけ、黒い笑顔でこう言った。

「うちのお嬢様に何をしようとしたのですか?」

「ひ、ヒィィ!」

 燐が脅しているすきに、怯えたように胸で泣く優亜をなだめる瀬野翔。まるで兄のようだ。

「大丈夫か?」

「うん、うん……。迎えに来るのが、遅すぎる!」

「ごめん」

 涙をぬぐった優亜は、黒影寮に目を向けた。

「銀ちゃんのお友達ね。銀ちゃんはこの先にいるわよ」

「この先?」

「あたしは下層のチャペルなの。もっと不細工な奴が婚約者だったわ。早く助けてあげてね」

 優亜は笑顔で言った。
 黒影寮はそれに首肯で答えると、その先にあったドアを蹴り開ける。長い階段を上り、さらに大きな扉を押して中に飛び込んだ。

「銀ッ!」

「え、み、皆さん?」

 白い光を背に、銀は目を丸くした。まさか、迎えに来てくれるとは。
 それを見た豚は、突如銀の首に腕を回すと、小さなピストルを銀に突き付けた。

「動くとこいつを撃つぞ!!」




劇場版 19章


「それ以上こっちに来たら撃つぞ!! こいつは僕と結婚するんだ!!」

「何を言っているんだ、銀ちゃんと結婚するのはあたしだ――ぶぐ」

 羅が襲いかかろうとしたところで、蒼空と睦月が彼女を抑え込む。
 イケメン嫌いの当本人にとってはこの上ない苦痛。腕を物質分解でもしてやろうかと考えたが、鈴に、

「下手に刺激すると銀が撃たれちゃうから、大人しくしてね。あと睦月、蒼空。羅をこっちに渡してくれる?」

 抑え込む役目を変わってもらい、地獄から一気に天国へ。
 豚はギリッと歯ぎしりをして、こちらを睨みつけてくる。

「神威涙は僕と結婚するんだ。僕はそう決めたんだ!」

「誰がお前みたいなキモイ奴に妹を渡すかよ! 返せ!」

 白刃は豚に向かって怒鳴りつけた。実際妹のような存在だからね。
 対して豚は、

「フフン、そんなの嘘だ」

「嘘じゃないですよ! 私のお兄ちゃんです、止めてください!」

 そこへ銀が豚を止めた。腕の中でバタバタと暴れる。銃口を突き付けられているのにもかかわらず、アクティブな娘である。

「空気を抜かれて死にたくないなら――その子を離せ」

 手の中で酸素を操っている零は、豚に黒い笑みで問いかけた。
 だがしかし、豚には効かないご様子である。本当に空気を抜いて殺してやろうかと思ったが、生徒である東翔に迷惑がかかると思い止めた。

「あの、豚さん。離してもらえないでしょうかねー。その子、あたしらにとっても大切な人なんスよ」

「は、白亜さん……」

「僕は豚じゃないぃぃぃぃぃ!!」

 豚は絶叫すると、銀に押しつけていた銃の引き金を引いた。
 轟音はならなかった。弾は出なかった。
 何故なら、

「その手を離しなさい!!」

 銃身に苦無が刺さっていたからだ。
 入ってきたのは、なんと本物の女王・神威涙と王良閃華である。司祭はびっくりして、銀と涙を見比べた。
 涙は銀を指して、

「その人は、私のご先祖様よ。何を勝手に結婚までさせようとしている訳? 私と見分けもつかないの?」

「え、あの。神威涙……様?」

「いかにも! 私は新・東京第1000代目女王、神威涙よ。先祖に無礼な事をして――ただで済むと思う訳?」

 涙は豚を睨みつけ黙らせる。そしてつかつかと銀に近づくと、その腕を握った。
 自分と似ている人に出会い、銀は少し混乱をしている様子だった。

「怖がらないで。私はあなたの子孫なの」

「し、子孫?」

「遠い子孫。さ、行こう。下であなたのお仲間が待っているのでしょ?」

 涙はニッコリと笑うと、閃華に「後始末をよろしく」とだけ言う。
 閃華は首肯すると、豚を縄で縛りあげ司祭に「こいつをほっぽり出しといて」と言っていた。

「み、皆さん……」

 緊張の糸が切れたのか、銀はみんなの顔を見ると瞳に涙を浮かべた。
 それを見て焦る黒影寮一同。どうして泣いた?

「無事で、よかったですぅ……ふぇぇぇ」

 心配で心配で仕方がなかったのだろう。銀は子供のように泣きじゃくった。
 銀に1番近い存在でもある鈴が、それをあやすように背中をポンポンとなでる。その姿はまるで双子の兄弟のように見えた。

「でも、どうする訳? 本物が戻ってきたら混乱するでしょ」

 空華が涙に問いかけた。
 涙はニッコリと笑うと、

「私を誰だと思ってるの? 女王よ、女王。何とでもなるわ。あなたが言った事、分かったの。私には国を変える力がある。自分の恋の相手ぐらい、自分で決めてやるわ!」

 自信を持って言い放った女王。空華は苦笑いで返した。
 そして全員は、銀の手を引いてチャペルから逃げだした。女王奪還成功。

***** ***** *****

「ぎーんちゃーん! 無事だったのね、豚面に当たったから本当に可哀想と思っていたの!」

「わぷ。優亜さん痛いです! 体当たりしないでくださいー」

 あはは、ごめんと優亜はニコニコ笑顔で謝りながら下がる。そして黒影寮をじっと凝視した。

「なるほど。この子達が銀ちゃんのボディーガード?」

「違います。一緒に住んでいる人達ですよ。私は管理人をしているんです」

「ボディーガードじゃない。あたしにも優秀なボディーガード兼彼氏がいるわよ?」

 ほら、と平然とした様子でメイドを指す優亜。
 メイド・瀬野翔はキョトンとした様子で首を傾げていた。

「あの、何か?」

「彼氏って……男?」

「本名は東翔よ? 面倒だから瀬野翔で済ませてるけど」

 じーっと全員で瀬野翔と翔を比べる。確かに顔立ちは一緒だが――。
 当本人、翔も大変驚いた様子である。

「おい、テメェ」

「テメェとは何だ。確かに俺は普通の人間でありテメェのように死神でもないが、力をなくせばそれなりに互角だろうが」

「何だと? 今すぐその首を切り落としてやろうか。大丈夫だ、責任持って天国へ連れて行ってやる」

「やれるものならやってみやがれ」

 W東翔の喧嘩が始まった。喧嘩と言うか取っ組み合い。
 それを何かほんわかした様子で見ている銀に、涙が声をかけた。

「あの、何かごめん。私がいなくなったりしたから、あなたに迷惑を――」

「いえ大丈夫ですよ。でなければ、こんな素敵な出会いはなかったと思いますから!」

 銀は満面の笑みで喧嘩をしているW翔とその喧嘩に交じろうとしている2の2くえすとルーキーを指した。黒影寮のみんなも交じろうとしている。

「……そっか」

「そうですよ。涙さんも、この国で頑張ってくださいね。閃華さんと応援してますよ」

「うん。ありがとう」

 2人で笑いあう先祖と子孫。
 すると、辺りに光が満ちてきて――――。


 クイーン・オブ・キャッスルから人が消えた。
 残ったのは神威涙と王良閃華だけ。2人はただ虚空を見つめていた。

「ねぇ閃華。帰ったんだろうね、みんな」

「そうだね」

 2人はスクリーンに映し出された空を見上げた。