黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。

作者/山下愁 ◆kp11j/nxPs(元桐生玲

第7章『英学園の愉快な文化祭』-8


 ~蒼空視点~

 やばいなぁ。これやばいなぁ。
 何で俺、こんな事に首を突っ込んでるんだ? どうして、ねぇ何で?
 俺なんか重力操作しか能力ないのに何でこんな事に首を突っ込んでる訳? でもいいか、楽しそうだし。

「蒼空さん! どうしてこんなところに……!」

「あ、いや。別に休憩時間だからさー。ここに来た? なんて?」

 そもそも、銀ちゃんがここにいるのが謎なんだけどね。
 いや、今の問題は銀ちゃんを捕まえてる変な男の方か。

「おい、銀ちゃんを放せ!!」

「来たか。二条蒼空!」

「何故俺の名を?!」

 俺、名乗ってないよな?
 変な男はフッと口の端に笑みを浮かべた。

「貴様は黒影寮の住人! つまり、能力者だ!!」

「――――ッ!!」

 こいつら、俺らの事を知ってる?
 ま、まずい。なんとかごまかさなくては。でもどうやって?! 頭の悪い俺に、そんな事が出来ますかーっ?!
 何とかなるさ。大丈夫。自分を信じろ。

「ハハッ。何を言ってるんですかー。俺は二条蒼空なんていう奴じゃありませんよ? 俺はジョン・マイケルさ!!」

「……そいつ、外国人だよな?」

「ワターシアメリカシュッシンネー。オーウ、サムラーイ!」

 みんなの視線が痛々しい。
 銀ちゃんの視線も痛々しい。頼むからそんな悲しそうな目で俺を見ないでくれ。

「ていや!」

「なぁ?!」

 重力操作をしてやり、変な男から銃を取り上げた。取り上げた、というか床にめり込ませた。重くしたんだな、これが!
 武器を手放した哀れな男に、俺は素早く近づく。

「昴直伝! 上段回し蹴りぃ!」

「ぐはっ?! そ、その昴と言うのは――!」

「黒影寮の副寮長、椎名昴様だボケコラカスゥゥゥウウ!!」

 俺の黄金の右足キックで床に沈め、銀ちゃんを解放する。よかった、無事だ。

「何をしているんですか! 馬鹿なんですか?!」

「大丈夫。馬鹿は死ななきゃ治らないって言うじゃん? それならもう一生馬鹿でもいいかなって思ってるんだよね?」

「本当に馬鹿ですね!!」

 最高のほめ言葉をありがとう。
 さて、そろそろ本気を出すとしますか! あとで翔達が処理をしてくれる事を信じて――。

「銀ちゃん。羅と白亜ちゃんとあのひかげって奴も連れてきて。みんなで固まってるように指示して。ついでに何かに掴まっているようにって!!」

「それなら自分で言った方がよくないですか? いいですけど、何をするんです?」

 銀ちゃんは不思議そうに首を傾げた。
 何をするって決まってるじゃない。俺が出来るのは重力操作――『あるもの』も作れるんだよ!
 だけどこの人数じゃ、さすがに巻き込みかねない。なので銀ちゃんその他の人にはどいていてもらうようにしたいんだけど。短時間じゃ無理だ。
 せめて何かに掴まっててもらいたい。

「全員、何かに掴まった? もしくは体育館から逃げた?」

「ハイ! 多分全員掴まりました!!」

 銀ちゃんの答えを聞き、俺は右手を前に突き出す。
 男達は何をするんだろうと思っているのか、首を傾けていた。

「重力操作――秘伝!!」

 右手に生まれてきたのは、黒い塊だった。それを思い切り男達に投げつけてやる。
 何だか知らないけど、俺の力はこんなものまで生み出してしまうのだ! えへん!

「『黒の墓場』――!!」

「「「ブラックホールだとぉぉおおお?!」」」

 吸引力の変わらないただ1つのブラックホールに吸い込まれた男達。わはは、面白ぇ。
 っとと。吸引力が変わらないってだけあっても、結構すごい力だ。早くしまわないと。

「うりゃー」

 広がったブラックホールを叩いて消す。
 これを見た体育館にいたお客さんは、俺を見て唖然としていた。

「あー。どうも! ジョン・マイケルです! 新作マジック、黒の墓場でした! さーくるけーさんくすー!!」

 早くこの場から立ち去らないと!!

***** ***** *****

 ~銀視点~

「蒼空さん。一体どういう事ですか!!」

「し、仕方ないじゃないかー!!」

 私は蒼空さんのあとを追いかけ、正座をさせてお説教しています。
 助けてくれた事には感謝します。でも最初に『特別クラスの秘密を漏らすな』という規定があるのをお忘れですか?

「秘密じゃなければいけないんじゃないですか? どうして力を使ったんですか!!」

「決まってるじゃないか。銀ちゃんが危なかったから」

 蒼空さんは掛け声と共に立ちあがり、ヘラリと笑いました。

「笑ってる場合じゃありませんよ。蒼空さんが戦争とか研究材料とかに使われるのは、嫌ですから……」

「へぇ。俺の事を心配してくれてた? うわーお、銀ちゃん優しいー。そういうところ、俺は好きだな」

「ふ、ふぁい?! す、好きとかそういうのは好きな人に言うんですよ?!」

「分かってるよ?」

 へ?
 分かってるって、何で? 空華さんみたいな感じじゃないんですか?
 蒼空さんは真顔で言いました。

「知ってる? 銀ちゃんはみんなに愛されてるんだからね? んー。あとは国語の強い奴に訊いて。俺じゃあんまり言葉が選べない」

「え、えぇ?!」

 蒼空さんは「やべー。時間だ時間! 特別クラスに戻るわー!!」と言って戻って行きました。
 あ、あの。意味が……。
 その時です。誰かが私の名前を呼びました。

「銀。文化祭に来てたんだ」

「白刃お兄ちゃん。どうしたんですか? あ、そう言えばここの卒業生でしたっけ?」

「そうそう」

 白刃お兄ちゃんはニコニコと笑いながら頷きました。

「銀も来てたんだね。偉い偉い。行かないって言ったら引きずってでも行かせてたよ? ほら、毎年あるんだからさ」

「え?! こ、今年もやるんですかぁ?! 嫌ですよ、あれを見た皇学校の人が冷やかしてくるんですからぁ!!」

「いいからいいから。去年は叔母さんが一緒だったけど、今年は銀1人だからね。叔母さんメインだったけど、銀1人だから」

「何度も言わないでくださいーっ!!」

 私はお兄ちゃんに引きずられてどこかに行きました。
 そう。後夜祭が行われる、野外ステージへ。