複雑・ファジー小説
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- *Tarot-Labyrinth* コメ募集中><
- 日時: 2011/10/15 15:23
- 名前: 奏 (ID: mtBKxXTx)
はじめましての方ははじめまして。
二次小説で「悪ノ物語」というものを書かせていただいていた奏(かなで)です^^
そっちが完結したので、今度はオリジナルで書かせていただきます。
ちなみに、複雑・ファジーということなのですが、
80%がコメディ・ライトです。
あまり重い話はないですので、ご安心を´ω`*
■読む前に注意■
・奏のことが嫌いな方は回れ右
・荒らし、中傷目的の方も回れ右
・複雑・ファジーなのに重い展開少ねぇじゃん!ヤダ!って人も回れ右
・更新が休日だけだったりとかが嫌なかたは回れ右
・厨二的なものが受け入れられない方は回れ右
(↑実は一番重要)
基本金曜・土曜・日曜のいずれかの更新になるかもですが、
気長に待っていただけると嬉しいです。
キャラは多いのでここには書きません^^;
>>1 【主人公級キャラ】
>>2 【敵級キャラ】
>>3 【その他キャラ】
>>6 【用語説明】
- Re: *Tarot-Labyrinth* コメ募集中>< ( No.89 )
- 日時: 2011/08/06 22:11
- 名前: 奏 (ID: Jt/edHAP)
第47話 突然の訪問者
* リーダーside
現在の時刻、午後6時。
もともと暗いこの部屋は、一層暗い雰囲気となっていた。
俺の手元には、1枚のカード。
この部屋に似つかわしくない、太陽のカード。
真里亞の手柄だった。
本当は喜ぶべきなんだろう。
俺も、心底喜んでいるんだが・・・。
ただ、とうの本人は帰ってくるなり、部屋に閉じこもっていた。
「マリア、いつまであそこにいるんだろうね。」
璃雨が俺の袖をつかんでそう言った。
「・・・さぁな。何があったか知らないけど・・・
いつも元気なあいつがあんなんだと、気味悪いくらいだよな。
・・・カノン。」
俺は、机に向かいながら何かをノートに書き込む禾音に話をふった。
禾音は、いつもの退屈そうな目をこちらに向ける。
「・・・なんですか。」
「お前、なんか知らないのか?」
「・・・マリアがあんな風になったのは、帰ってきてからですし・・・
僕は何も知りませんよ。」
それだけつぶやき、禾音は再び机に向かった。
ていうか・・・そろそろ夕飯だからいい加減出てきてほしいもんだぜ。
「・・・あーっと・・・リゥ、カノンと一緒に食器準備しといて。」
「はーい、カノン、行こうなの!」
俺は真里亞の部屋の戸を、小さくノックした。
「マリア、入るぞ。」
「・・・・・・」
返答はなし。
とりあえず入ってみることにした。
「・・・まだ入っていいと言ってませんわよ、リーダー。」
「返事しねぇんだからしょうがねぇだろ。
・・・夕飯だから、そろそろ部屋から出てほしいんだけど。」
真里亞は俺に背を向けたまま、俺と会話する。
「もうそんな時間ですのね。」
「あぁ。・・・つーかお前、なんかあったのか?」
「・・・・・・・・・何も。」
明らかに嘘だと分かったが、無理に聞かないほうがいい気もした。
カードを取ったことへの罪悪感・・・は・・・
こいつに限って、まさかな。
「お前、本名・・・いや、捨てた名前、なんだっけ。」
「は?」
「聞いたことはあるけど、忘れちまった。」
ふった話題がそれというのは、どうかと思ったけど、
忘れたのは事実だし、なにより他に話題もないわけで。
「言わなくてはいけませんの?」
「知らないと面倒なこともあるからな。
つっても、カノンは一生聞いても答えないだろうけどな。」
「・・・・・・一度しか言いませんわよ。」
「おう。」
「真奈、ですわよ。」
一度、下の名前を言った真里亞は、一呼吸置いて、もう一度呟いた。
「私の捨てた名は、“犬養 真奈”」
そう言う真里亞の横顔は、どこか寂しそうに見えた。
・・・・・・・・・
* 冬弥side
現在時刻、昼の3時。
土曜のこの時間はあまりすることがない。
だからこうして、無駄に広い書斎でくつろいでいるわけだ。
「冬弥様。」
「・・・んー?」
まだ若い執事に呼びかけられる。
ていうか、よくこんな職に就こうと思ったな。
「お友達がいらっしゃっております。」
「・・・友達?誰?」
こんな時間に来るやつっていったら・・・
要あたりか?
「・・・えぇと・・・藤城様・・・だそうです。」
執事が思い出すようにそう告げる。
藤城?
・・・そんなやつ中等部にいただろうか。
少なくとも、藤城という苗字を持つ友人を、俺は1人しか知らない。
まさか・・・
「すぐ通して!」
しばらくして、一人の人物が書斎に足を踏み入れた。
「久しぶり、冬弥くん。」
「・・・久しぶり・・・やっぱお前か・・・。」
そいつは、昔と変わらない笑顔を見せた。
俺たちの、もう一人の幼馴染。
小学校のときに転校してしまった、蘭の親友。
「ところで、いつ戻ってたんだ?」
「戻ってきたのは結構前。
ただ、稽古もあるし、あまり学校行けてないから、勉強もしなくちゃで、
結構忙しくてね・・・こっちに来れなかったの。」
「他のやつらのところは?」
そいつは、紅茶のカップに口をつけつつ、
ゆっくり首を横に振った。
「ここが最初。冬弥くんの家は見つけやすいからね。」
悪戯っぽく笑う顔は、本当に何も変わらない。
「で、このあとは蘭ちゃんの家に行こうかなーって。」
「蘭なら・・・今いないと思うぞ?
土曜はだいたい怜菜の家にいると思うし。」
「そうなの?じゃあ怜菜ちゃんの家に行って・・・
都和ちゃんの家は知らないから、あとでよろしく言っておいてくれる?」
「あぁ。
・・・・・・要の家は?」
紅茶を飲む手が止まった。
「要の家は・・・明日かな。」
「そうか・・・。
アイツはお前に言いたいこともたくさんあるだろうから、
ゆっくり時間とってやれよな。」
そうかなーと笑いながら頷いた。
それからしばらく、懐かしい幼馴染との話に花を咲かせた。
ただ、なぜかそいつは、自分の学校のことについて語ろうとしなかった。
たぶん、俺には話したくないんだと思う。
話すべき相手は、別にいる。
時刻は午後5時。
「じゃあ、そろそろ行くね。
ごめんね、忙しいところお邪魔しちゃって。」
「いや、この時間は暇だからいいよ。」
「ありがとう、ご馳走様。」
そう微笑んだそいつは、部屋を出て行こうとし・・・・
そして、足を止め、振り返った。
「ねぇ、冬弥くん。」
「ん?」
「・・・・・・あー・・・やっぱいいや。
私から言っても意味ないもんね。」
「え?なんだよ。」
そいつはクスッと笑うと、再び部屋を出て行く足を進めた。
「ちょ、なんなんだよっ!」
「・・・さぁねー?じゃ、ばいばい、またね。」
部屋の中から、完全にそいつの姿はなくなった。
よく分からないやつだ。
ただ、アイツが転校するって言ったあの日、
俺らは、みんながみんな、寂しい思いをした。
蘭なんかは泣いていた気がする。
だけど、俺は知っている。
一番悲しかったのは、一番寂しかったのは、
蘭ではなく、要だった。
俺らのもう一人の幼馴染、
“藤城 舞姫”
蘭の親友であり、要の相棒。
- Re: *Tarot-Labyrinth* コメ募集中>< ( No.90 )
- 日時: 2011/08/09 16:24
- 名前: 奏 (ID: PMHGkQdB)
第48話 幼馴染
* 怜菜side
家のインターホンの音が鳴り響く。
「はーい。」
この家は覗き穴もカメラもついてないから、
玄関の扉を開けるまで、誰が来ているかわからない。
「どちら様・・・」
扉を開けて目に飛び込んできたのは、
羨ましくなるほど綺麗な長い髪を、黒いリボンでまとめた少女。
1テンポ遅れて、扉が開いたことに気づいた少女は、
私を向くと、可愛らしい笑顔を見せて言った。
「久しぶり、怜菜ちゃん。」
「・・・あ・・・も・・・もしかして、舞姫!?」
彼女は肯定の代わりに、
「覚えててくれたんだ。」
と言った。
「あたりまえじゃん!・・・本当久しぶりだね。
元から可愛かったけど・・・ますます美人さんになって・・・。」
「あはは、そんなことないよ。」
舞姫はクスクスと笑った。
その顔は、昔と何も変わらない。
可愛くても全然気取っていなくて、社交的で、
性格がさっぱりしていた舞姫は、男女問わず人気だった。
ただ、家の都合で小学校4年の夏に転校してしまった。
「あ、入って入って!
今蘭も都和も来てるから!!」
「都和ちゃんも?
・・・家分からなかったからちょうどよかった。」
部屋の前で舞姫を待機させる。
「・・・怜菜ちゃん?どうしたの?」
「しー!・・・だって、驚かせたいじゃん?」
私は先に部屋に入った。
テーブルの周りに、それぞれちとせ、蘭、都和が座っている。
「誰だったの?」
お菓子をつまみながらちとせがこちらを振り返った。
「すっごーい人が来たよ。」
「はぁ?」
「まぁまぁ、見れば驚くって!!」
私は廊下の舞姫に合図して、部屋に入るよう促した。
舞姫がおずおずと部屋に足を踏み入れる。
「・・・と・・・みんな、久しぶり。」
次の瞬間。
気がつくと舞姫が廊下に倒れていた。
見ると、上に蘭が乗っている・・・というか、抱きついている。
「ったた・・・ら、蘭ちゃん・・・。」
今のは苦笑いだ。
「舞姫、舞姫、舞姫ーーッ!!」
蘭にしてみればよっぽど嬉しいことなんだろう。
実際私もとても嬉しいから、親友の蘭にしてみればもっと・・・。
舞姫から蘭を引き剥がした私たちは、
テーブルを囲むように座った。
「ちとせちゃんも久しぶりだね。」
「そうだね。あんまり変わってないみたい。」
「えー?そうかなー?」
舞姫がクスクスと笑う。
あまり笑わないちとせも、こういうときばかりは楽しそうだ。
「都和ちゃんは・・・私のこと覚えてる?」
「・・・覚えてますのですよ。
たくさん遊びましたですから。」
よかった、というように、舞姫は安堵のため息を漏らした。
「で、いつこっちに戻ってきてたの?」
私は話題を切り替えた。
「戻ってきたのは結構前。
でも、やっぱり忙しくてなかなか時間が取れなくてさ・・・。
会いに来れなくてごめんね。」
「ううん、ただ、どうしてなのかなって思っただけだから。」
「明後日まで両親もみんなも用事があってね。
それで稽古もお休みだし、家に誰もいなくて。」
そっかーというようにみんなが頷いた。
途端に、蘭が目を輝かせ、舞姫に迫った。
「ね、てことは今日泊まるの!?」
「え?うーん・・・そうだね、一応荷物はちゃんと持ってきてるから・・・。」
「じゃっ、じゃあ!家に泊まりにきてよ!
どうせ私1人だしさ!」
舞姫は、蘭のキラキラと輝く瞳を覗きこみつつ、
何か考えるようなしぐさをすると、やわらかく微笑んだ。
「じゃあ、お邪魔しちゃおうかな。」
* 蘭side
「・・・何か手伝うことある?」
「あ、じゃあそこのお皿出しててー。」
「うん。」
夕飯の準備中。
本当は、料理も得意な舞姫に作ってもらいたいところだけど、
泊まりに来てもらっている人に作らせるのも気が進まない。
「そういえば舞姫。」
「ん?」
「そっちの学校、どんな感じなの?
・・・転校してから・・・楽しかった?」
舞姫は棚から皿を降ろすと、動きを止めた。
「・・・・・・・・・。」
「・・・舞姫?」
「・・・・・・・え、あ、うん。
それなりに楽しかったよ。
稽古があるから、学校行けないことも多かったけどね。」
舞姫は、私に顔を向けないまま
食器棚の戸を閉めた。
夕食後、お風呂に入り終えた私は、
舞姫の分の布団を、私のベッドの横に敷いた。
部屋の扉が開く。
「蘭ちゃん、お風呂ありがとう。
・・・あ、布団も。
なんか、色々良くしてもらっちゃって・・・悪いなぁ。」
舞姫が申し訳なさそうに笑った。
しかしポニーテールを解くと、こんなに髪が長いんだ。
「舞姫、ずっと髪伸ばしてたの?」
「え?・・・うん、そうだよ。」
「転校してから、短くしたこととかある?」
舞姫は、困ったような表情を浮かべた。
何か気に障るようなこと、言ったっけ?
「・・・えーっと・・・1回だけ・・・ばっさり切ったことならある・・・かな。」
「そっかぁ。」
私は布団にもぐり、舞姫を眺めた。
「ねぇ舞姫、なんか元気ない?」
「え?ううん、そんなことないよ。」
「・・・それなら、いいんだけど。」
舞姫も布団にもぐった。
「私、明日も怜菜の家行くけど、舞姫も来るでしょ?」
「・・・えっと・・・そうだなぁ・・・・
まだ要の家行ってないからパスするよ、ごめんね。」
「要の家?まだ行ってなかったんだ。」
舞姫はしばらくの沈黙の後、小さく口を開いた。
「要にも・・・桜ちゃんにも、いっぱい話がある・・・からね。」
「そっか。」
要の家、かぁ。
あれ?
そういえば舞姫って、みんなのこと呼び捨てしてないけど・・・
なんで要だけ・・・。
「舞姫、なんで要だけ呼び捨———・・・。」
耳を澄ます。
小さく、スースーという息が聞こえる。
もう寝てしまったようだ。
私はまだ・・・いや、結局、ずっと知らないままなのかもしれない。
舞姫がどんな思いで私たちに会いに来たのか。
そして・・・
親友である私にも、言えないことがあることを。
- Re: *Tarot-Labyrinth* コメ募集中>< ( No.91 )
- 日時: 2011/08/11 23:36
- 名前: 奏 (ID: I9Z2AyNH)
第49話 嘘
* 桜side
「今日もぽかぽかでお洗濯日和ですね〜。」
独り言を呟いていると人がこっちに向かってくるのが見えた。
「桜ちゃーん、久しぶり!」
「・・・あっ!舞姫ちゃん!」
それは、懐かしい、とまではいかないけれど、
久しぶりに見た顔だった。
「暇が出来たから来ちゃった。」
悪戯っぽく笑う顔は、あの頃と変わらないようだった。
「本当に久しぶり、電話はよくしてましたけど。」
「ごめんね、いつも電話して。」
「いえ、私も話し相手が出来て嬉しいですよ。
・・・あ、要くんなら2階にいますから。」
「・・・要、今勉強中?
邪魔になるなら帰るけど。」
要くんを気遣ってくれる辺り、本当に優しい子だなと思う。
この子には本当に感謝しなくちゃ。
「今なら大丈夫だと思います。
それに、舞姫ちゃんのためなら時間はさきますよ。
・・・すいませんが私、これから用事があって
お昼の前には戻ってこれると思うんですけど・・・。」
「じゃあお言葉に甘えて、上がらせてもらおうかな。」
* 要side
にぎやかな声が聞こえる。
有花はもう出掛けた筈だから客でも来てるのか?
それにしても、こんだけあったけーと眠くなるよなあ・・・。
俺は椅子に座りながらうとうとしていた。
「要。」
ノックもなしに突然扉が開く。
思わず飛び上がってしまった。
部屋に入ってきた人物を見て頭が混乱する。
「んなっ!!ななななんで舞姫がここに!?」
「とりあえず落ち着いてくれないと私が困る。」
俺が座るように促すと、舞姫は俺のベッドに背を預け座り、こちらを見上げた。
「久しぶり。」
「ひ・・・ひさ、しぶり。」
どうしても俺の口調はぎこちなくなってしまう。
「ていうか、なんでこっちに・・・。」
「ちょっと暇が出来たから・・・。今は蘭ちゃんの家に泊まってる。」
「そっか・・・。」
・・・なんだろうこの空気。
俺は怜菜たちに会うよりずっと前にこいつに会っていて、
ずっと一緒にいたから、
今更ぎくしゃくすることなんてないんだろうけど、
小学校の頃の諸々で、俺にとっては・・・。
「要、今学校楽しい?」
学校、と聞いて一瞬びくっとしてしまう。
「た、楽しいよ。たまにバスケもしてるし。
勉強は・・・ついていくので精一杯って感じだけど。
それに・・・一緒に馬鹿できるような奴もいるし・・・。」
俺がそう言うと、舞姫はやわらかく微笑んだ。
「そっか。ならよかった。」
「・・・舞姫は?学校。」
「楽しいよ。学校、行けないときもあるけど。
でも・・・みんな良くしてくれるし。」
舞姫は、微笑を崩さないままそう言った。
でも・・・違和感があるのは俺だけなんだろうか。
「なぁ舞姫・・・それ、本当か?」
「え?」
「・・・本当のこと・・・言えよな。」
舞姫が目を丸くする。
「・・・なんで分かるの?」
「見てれば分かるさ、幼馴染だからな。」
「・・・やっぱ、要には隠し通せないのかな。
・・・なんとなく、そんな気はしてたけど。」
舞姫は俺に向き直った。
ただ、やはり微笑んだままだった。
「・・・正直、転校してから今まで、
学校を楽しいって思えたことは1度もないよ。」
「それは、それまでの友達がいないから?」
「それもあるけどね。
でも、1番の理由は別にあるかな。」
「・・・・・・?」
「私、転校してからイジメに遭ってったんだよ。」
俺は耳を疑った。
イジメ?舞姫が?
誰とでも仲良くなれて、社交的な舞姫が?
イジメに遭う理由なんて、これっぽっちも見当たらない舞姫が?
「なんで・・・?」
舞姫は笑顔のまま続けた。
「クラスに顔は可愛いけど性格が最悪・・・っていうか、女王気質の子がいてね。
転校初日、クラスのみんなに話しかけられる私が気に入らなかったみたい。
よくあるよね、自分より目立つ子を嫌う、みたいなさ。
それで、次の日からシカトされるわ物がなくなるわで。
全部その子がみんなに命令したことだって知っても、コレといって驚かなかったなぁ。」
「お前なら、やり返すくらいできると思うけど。」
舞姫はしばらく黙り込んだ後、
今度は悲しそうに笑って言った。
「・・・できたよ。できたはずだよ。
でも、できなかったんだよ。どうしてか分かる?」
分かってる。
こいつの家のことだ。
あの約束のせいだろう。
「・・・女らしく生活するため?」
「そう。両親との約束。暴言、暴力は絶対禁止。
だから何もしなかった。
先生に言ったって、イジメの首謀者であるその子がヒートアップするだけだし。
ただ、1回だけ爆発しちゃったことがあって。」
「爆発?」
「人のいないところに呼び出されて、
数人に押さえつけられて、腰まであった髪を肩くらいまで切られたんだ。」
「なんか・・・陰湿だな。
お前、ずっと髪伸ばしてたんだろ?」
「うん、それに爆発してね。
押さえつけてた子全員蹴り飛ばして、首謀者の子の上に圧し掛かって、
髪切るのに使った鋏を首元に——・・・。」
まさかこいつ・・・。
- Re: *Tarot-Labyrinth* コメ募集中>< ( No.92 )
- 日時: 2011/08/11 23:37
- 名前: 奏 (ID: I9Z2AyNH)
■文字数オーバーしたので続き
「切ってないよ?ただ脅しただけ。
『いい加減うざいからやめろ。こっちが何もしてこないと思ったら大間違い。
今度なんかしたらただじゃおかねぇからな。』って。」
「うわー・・・怖ぇ。
お前をマジギレさせるとかどんな命知らずなんだか。」
「へへっ、それからイジメはなくなったけど、
私はそれ以来、誰とも喋ろうとしなくなってた。
今も、天ノ宮には友達なんかいないんだ。」
ずっと喋ってない・・・そんなの、耐えられるものではないだろう。
もしかして、頻繁に桜が電話していた相手はこいつだったのか?
「だったら、もっと早くこっちに・・・。」
「みんなが私のこと覚えてるのか分からなかったし、
自信もなかったから・・・。」
覚えているにきまってる。
どいつもこいつも、大事な幼馴染の存在を忘れるほど、薄情なやつらじゃない。
「でもみんな覚えててくれてよかった・・・。
これからは、もうちょっとこっちに来れるようにするね。」
舞姫は笑った。
俺は衝動的に椅子から立ち上がり、
舞姫の横に腰を落ち着かせると、舞姫の頭に手を置いた。
「・・・お前、もっと頼れよな。俺らを。
俺はお前に助けてもらってばっかりだったし。」
「・・・・・・要?」
「あ。悪い。」
何をしてんだろうな、俺は。
ただ、こいつに辛い思いさせたくないのは本当だ。
「ありがとう。」
不意に舞姫が微笑んだ。
「どうして・・・蘭たちに相談とかしないんだ?」
「できるわけないじゃん。心配させたくないもん。」
「そうか?蘭なら、お前が元気ないってこと気づいてそうだけどな。」
「うん、気づいてた。」
ただ、それでも言いたくはない、と舞姫は言う。
こいつらしい。
俺たちはそれから、ぎくしゃくしていたのが嘘のように
自分たちの生活について話して、笑った。
桜が帰ってきて、昼飯を食べながら談笑し、
そして、舞姫は帰る時間。
「なんか話したらすっきりしたよ、ありがと。
それからこれ、よかったら来てね。」
渡されたのは、踊りの舞台のチケットだった。
「風が強いみたいですから、気をつけて帰ってくださいね。」
「うん、桜ちゃんもありがとう。」
「何かあったら言ってくださいね。」
「うん!それじゃあ、またね。」
舞姫が扉を開けた瞬間、冷たい風が入ってきた。
舞姫の長い髪が揺れ、そして扉は閉じた。
俺、結局まだ何もお礼できてないよな・・・。
いつか必ず、借りを返しとかないと・・・舞姫に悪いもんな。
俺はそんなことを考えながら、
幼馴染であり相棒であるそいつの顔を思い浮かべていた。
- Re: *Tarot-Labyrinth* コメ募集中>< ( No.93 )
- 日時: 2011/08/29 13:03
- 名前: 奏 (ID: fgAsB2wa)
第50話
* 蘭side
「・・・あれ、蘭ちゃん。」
「あ、舞姫おかえり!!」
キッチンに立つ私に気づいた舞姫は、
帰ってくるなり目を丸くしてこちらを見ていた。
「ただいま・・・びっくりしたぁ。
怜菜ちゃんの家に行ったんじゃなかったの?」
「行ったけどね、すぐ帰ってきちゃった。」
それだけ言い、私は手元のボウルに視線を移した。
折角舞姫が来てるんだから、
おやつなんか作ってみようかと思ったのだ。
「何作ってるの?」
「んー?ケーキ!
といっても、ホットケーキをデコレーションするだけなんだけどね。」
舞姫はそれを聞くと、持っていた鞄を椅子に置き、
私の横に立った。
「手伝うよ。」
そう笑顔で微笑む舞姫は、昨日の雰囲気をなくしていた。
「・・・舞姫、元気になったの?」
「え?何のこと?」
「・・・まぁ、いっか。
前の舞姫に戻ってよかったよ。」
時刻は午後3時半。
3時には間に合わなかったけど、まぁ許容範囲かな。
「「いただきますっ」」
ケーキを1欠片口に運ぶ。
うん、なかなかの出来栄え。
舞姫もおいしそうに食べていた。
「そういえば・・・。」
「ん?」
「舞姫、明日帰っちゃうんだよね?」
「そうだね、お昼くらいには。」
「学校は?」
「・・・こっち、先週の土曜分の代休なんだ、だから休校。」
「ふーん・・・私、明日学校だけど・・・鍵とかどうしようか・・・。」
舞姫はフォークを銜えたまま目を逸らすと、
しばらくして私に向き直った。
「じゃあ私、蘭ちゃんと一緒の時間に出るよ。
昼までは・・・そうだなぁ・・・要の家で桜ちゃんと話してようかな。」
「そっか・・・またしばらく戻ってこれないの?」
「・・・・・・ううん、また来るよ。
今まではもしかしたら、“来れなかった”わけじゃないのかもしれないし・・・。」
意味をはかりかねた私は、今の言葉の意味を聞き返そうとした。
ところが・・・
突然辺りをキョロキョロと見回し始めた彼女が気になった。
「どうしたの?」
「・・・んー・・・蘭ちゃん、ペット飼ってたっけ・・・?」
「飼ってないよ?あ、でも・・・。」
舞姫が帰ってくる前に、家の近くで見つけた子猫なら連れて帰ってきている。
親猫も見当たらなかったし、首輪もついていたから
どこかの飼い猫なんだろう。
私は、舞姫を猫のところに連れて行った。
「へぇー・・・可愛い子猫だね。」
「でも、どうして分かったの?」
「・・・・・・・・・ちょっとね。なんとなく。」
舞姫はそれだけポツリと答えると、
ミャアと一鳴きする子猫に視線を移した。
「・・・蘭ちゃん、お水もらえる?」
「え、あ、うん。」
私が持ってきた水を、子猫はピチャピチャと音を立てながら舐め始めた。
それを、舞姫が微笑みながら見守る。
「喉渇いてたの・・・?」
「そうみたいだね。」
でもどうして分かるんだろう・・・。
ただ子猫を眺めてただけなのに・・・。
それに、舞姫はペットなんて飼ったことなかったはずだし・・・。
その夜、
「あ、そうだ。」
一度布団にもぐった舞姫が、突然もぞもぞと起き上がってきた。
なにやら自分の鞄を漁っている。
「どうしたの?」
「えーっと・・・あ、あったあった!」
はいっと笑顔で手渡されたのは、何枚かの舞台公演のチケットだった。
「昨日、怜菜ちゃんたちにも渡すの忘れちゃってさ。
よかったらみんなに見に来てほしいんだけど・・・。」
「行く!絶対行くよ!!」
私の即答に驚いたのか、舞姫はほんの一瞬目を丸くした。
・・・が、すぐにクスクスと笑い始めた。
「あはははっ・・・ありがとう。待ってるね。」
私は手持ちのチケットを確認する。
あれ?
怜菜、ちとせ、都和、冬弥、要、私・・・だから6枚なんだよね?
「舞姫、5枚しか入ってないけど・・・。」
「え?ほんと?おっかしいなぁ・・・ちょっと待っててね。」
舞姫は再び鞄を漁り始めた。
1つ1つ、物を出していく始末だ。
歯ブラシ、洋服、携帯などにまぎれて、1冊の本が取り出された。
「もしかしたら、こういうものの間に挟まってたりして——・・・。」
私がその本を手に取ると、
「だ、駄目ッ!!」
「うわっ!」
舞姫が、昨日の私みたいに圧し掛かってきた。
そして、本を奪い取る。
「これは見ちゃ駄目!」
「・・・え、なんで?」
「え、と、とにかくなんでも!!
それに、挟まってるのはただのしおりだから・・・!」
明らかに舞姫は慌てていた。
そんなに見られたくないものでも挟んであったんだろうか?
「あ・・・そうだ、要にはもう渡したんだった・・・。」
舞姫は忘れてたよ、と笑った。
その笑顔につられ、
あまり今のことを気にしないようにした。
ただ、この時点で、もっと不審に思っておくべきだったのかもしれない。
どちみち、いずれは知ることになるだろうけど、
本に挟まれていたものを確認していたなら、
互いに隠し事なんてする必要もなかっただろう。
そして、もっともっと
たくさん話ができていたのかもしれない。
暗い闇に包まれる外の世界は、
今日も冷たい風が吹いていた。
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