複雑・ファジー小説

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*Tarot-Labyrinth*  コメ募集中><
日時: 2011/10/15 15:23
名前: 奏 (ID: mtBKxXTx)

はじめましての方ははじめまして。
二次小説で「悪ノ物語」というものを書かせていただいていた奏(かなで)です^^
そっちが完結したので、今度はオリジナルで書かせていただきます。

ちなみに、複雑・ファジーということなのですが、
80%がコメディ・ライトです。
あまり重い話はないですので、ご安心を´ω`*

■読む前に注意■
・奏のことが嫌いな方は回れ右
・荒らし、中傷目的の方も回れ右
・複雑・ファジーなのに重い展開少ねぇじゃん!ヤダ!って人も回れ右
・更新が休日だけだったりとかが嫌なかたは回れ右
・厨二的なものが受け入れられない方は回れ右
 (↑実は一番重要)


基本金曜・土曜・日曜のいずれかの更新になるかもですが、
気長に待っていただけると嬉しいです。


キャラは多いのでここには書きません^^;

>>1 【主人公級キャラ】
>>2 【敵級キャラ】
>>3 【その他キャラ】

>>6 【用語説明】

Re: *Tarot-Labyrinth*  コメ募集中>< ( No.135 )
日時: 2011/11/15 20:37
名前: 奏 (ID: rRtxGeJP)


「カノンくん・・・。」

隣の蘭は、驚く様子もなくそう呟いた。

禾音と呼ばれた死神は、何の興味も示さないような眼差しで蘭に目を移し、

道化に何か耳打ちをすると、少し下がった場所で座った。

戦わないという意思表示だろう。

「・・・見逃してくれたりとか、しないよね。」

「・・・・・・しないよ。リゥだって強くならなくちゃいけないもん。」

その言葉を聞いた蘭は、躊躇なく鞄の外ポケットから正義のカードを抜き取った。

そうして、ゆっくりと俺に視線を向ける。

「・・・冬弥は・・・ちょっと離れてて。」

「・・・・・・。」

俺はソレに対して返事をすることができなかった。

何もできない自分に腹が立つ思いと、

女である蘭に守られることに対しての悔しさが心の中を渦巻いている。

「・・・いくよ。」

巨大な剣が蘭の右手に握られる。

中腰になってソレを構えるそいつは、いつもの表情をしていなかった。

それは、狙いを定めるかのようなまっすぐとした目。

「いい度胸なの。」

道化も負けじと長いロープを構えた。

「・・・お姉さん、先に来てもいいの。」

「・・・・・・分かった。」

道化の挑発に乗るかのように、蘭が剣を構えたまま走り出した。

道化は一瞬にやっと笑うと、ロープを蘭めがけて投げ飛ばす。

ヒュン、と風を切る音を立てて

その剣はロープを次々と切断していった。

「・・・・・・狙い、ずれてるよ!」

蘭がそう叫び、剣を横に振り切る。

だが、

「それは、甘いんじゃないかな。」

道化の小さな声と共に、蘭は吹き飛ばされた。

というより、何かにぶつかって弾き飛ばされたというほうが適当かもしれない。

「・・・・・・っぁ・・・。」

「ら、蘭っ!?」

慌てて道化を見ると、いつの間にかロープではなく右手にジャグリングのピンを持っていた。

それを弄ぶようにくるくると回す道化の笑顔は、

流石の俺でも怖いと感じた。

「ふっふーん。リゥだってやるときはやれるのよ、ね!カノン!」

「・・・ま・・・そうですね。」

道化はゆっくりと蘭に近づき、近くに落ちている剣を踏みつけた。

たちまちソレはカードの姿へと戻り、

道化はカードへ手を伸ばす。

その瞬間、パチン、という軽快な音が響き渡った。

「・・・・・・それ、私のだから。」

蘭が道化の手を思いっきり叩いていたのだ。

「・・・まだ抵抗する元気があるの?」

「・・・・・・・・・。」

「まぁ、それじゃあ攻撃もできないよね。

 ・・・・・・大人しくしていたほうがいいのよ。」

蘭は精一杯首を横に振っていたが、

その表情に余裕というものは微塵も感じられなかった。

こんなとき、俺が助けてやれれば。

そう思うけれど、迷いしかない俺にはどうすることもできない。

俺は道化や死神に見えないよう、こっそりと皇帝のカードを取り出した。

凛々しい表情で堂々と王座に座る男性。

俺も、こんな風に強くなれたなら。


お願いだ、皇帝。

俺に力をくれ。

大事なものを守るための力を。


無意識のうちにそんなことを願っていた。

そんなとき

『トーヤ』

「・・・?」

どこからともなく声が聞こえてきた。

『お前の思い、確かに受け取った。

 ・・・・・・いくぞ、大事なものを守るんだろう?』

「・・・あぁ。」

微かに、ふっと笑う声が耳に入った。

その声が自分から離れ、

次に目を開けたとき。

俺の手には見慣れないものがしっかりと握られていた。

それは、先のほうに王冠のようなものが付いたステッキのようにも見える。

Re: *Tarot-Labyrinth*  コメ募集中>< ( No.136 )
日時: 2011/11/19 14:12
名前: 奏 (ID: J7cEmcFH)

「・・・!!こ、これ・・・。」

『強くなりたいんだろう?大事なものを守りたいんだろう?

 だったらそうすればいい。ここ一番で頼りになるのは、自分自身なんだからな。』

頭の中で、さっきの声が響いた。

それに気づいたらしい道化が、蘭から目を逸らして俺のほうに体を向ける。

「・・・タイミング悪かったなの。

 でもまぁ、今までお兄ちゃんカード使ったことないもんね。」

「冬弥・・・?」

蘭も小さく俺の名前を呟いた。

そして数秒遅れて、傍の正義のカードを奪い取った。

それを見計らったかのように、頭の中の声は再び俺に語りかける。

『・・・トーヤ、今回だけは特別だ。

 俺の言うとおりにしろ。きっと上手くいくだろうから。』

「・・・わかった。」

道化はジャグリングのクラブを両手に6本持つと、

そのまま俺のほうに走ってきた。

「小さいからって、馬鹿にしちゃだめなのっ!」

俺の目の前で高くジャンプし、それを手裏剣でも扱うかのように投げ飛ばした。

俺はステッキの王冠部分を前に突き出すと、

頭の中の声が言うのと同じ言葉を呟いた。

「CrownGuard!」

「え?うわっ!!」

呟いた途端、視界が黄色く透けて見えるようになり、

同時に道化と飛ばされたはずのクラブが激突して落下した。

『今のが防御だ、いいな。次に行くぞ。

 ステッキを真横に振れ。』

俺は言われるがままにステッキを振った。

すると、目の前は黄色い色を失う。

「うー・・・腰打ったのー・・・。

 どうやら手加減しちゃ駄目みたいだね。

 カノン、いーい?」

「お好きなようにどうぞ。やられたら僕が背負わなくちゃいけないので、

 それだけは勘弁願いたいところなんですけど。」

「だいじょーっぶ!任せて!」

道化はクラブを消し去り、カラフルなボールを腕の周りでいくつも回した。

「いくのよ。」

道化は今度は幾分か距離を置いて、右手をピストルの形にすると、

腕の周りをぐるぐると回っているボールを飛ばした。

バッティングセンターにあるボールが発射される機械を思い出したが、まぁそれはいい。

「っ!!」

間一髪。

そうやらそのボールは爆弾になっているらしく、

被害は小さいけれど、地面や塀が少し崩れたりもしていた。

当たってはいけない、そう悟った。

「electric shock!」

俺がそう叫ぶと、今度は王冠から電撃が走った。

俺にはそれは感じられない。

道化はボールを飛ばしながらそれをひょいひょいとかわしていった。

「・・・くっそ・・・大人しくしてろよな・・・。」

このままではらちが明かないと思ったそのとき、

「周りもちゃんと見なくちゃね。」

「・・・!!?っぐぁっ!!!」

呻くように一瞬叫び、道化は地に横たわった。

びっくりして攻撃の手を止めると、

蘭が剣を構えて、少し照れくさそうな、それでいて申し訳なさそうな顔をした。

どうやら大した怪我はしていないようだ。

ふと、小さく息を吐いた死神は

面倒くさそうに立ち上がり、倒れている道化の横に座った。

反射的にステッキを構えてしまう。

それを予想していたかのように、死神は俺に言った。

「・・・前に言いましたよ、1人でいるときには戦わないって。

 それに・・・今日はリゥの子守に来ただけですから。」

死神は道化の頬を軽く叩き、声を掛ける。

「リゥ、大丈夫ですか?」

「・・・・・・ぅ・・・う・・・。」

「・・・これじゃあ、いつかのマリアと同じじゃないですか・・・。」

死神は道化を慣れた手つきで背負った。

「・・・カノンくん。」

「・・・・・・。」

死神は一瞬立ち止まったが、振り返ることもせずにその場を立ち去った。

「・・・よかったね、力使えるようになって。

 なんか迷いが吹っ切れたのかな?」

死神が去った後、小さく笑った蘭が尋ねる。

「たぶんな。まだ全部吹っ切れたわけじゃないけど。」

「・・・そっか。とりあえず、帰ろう。」

「おう。」


・・・


??side

「あーあ、やってくれちゃったなぁ。

 これ直すの誰だと思ってんのかな・・・まぁいいけど。」

戦いの後だと見られる道路に立った。

明らかに爆弾か何かで壊されたあとが見られる。

これを見つけて、その物の時間を巻き戻して修復するのも私の仕事。

「・・・それにしても・・・

 流石に他の場所に飛んで戦ってもらわないとなぁ・・・。

 そのために私のことも説明しなくちゃいけないけど・・・。

 仕方ない、今度遭遇したときには必ず・・・。」


Re: *Tarot-Labyrinth*  コメ募集中>< ( No.137 )
日時: 2011/11/19 15:19
名前: 奏 (ID: J7cEmcFH)

第62話 転入

* 冬弥side

俺が力を使って3日後。

一人で登校していた俺のところに、ある人物が駆け寄ってきた。

「冬弥くんっ!おはよ!」

それは、先日俺に耳打ちして立ち去った奴。

藤城舞姫だった。

「あのこと、みんなには言ってないよね?」

「あぁ、言おうかと思ったけど、やっぱやめた。」

俺がそう言うと、よかった、と舞姫は笑った。

舞姫は今、楓藍の制服を着ている。

今までブレザーだったらしいし、なんか妙に似合っている。

「あれ?お前ポニーテールやめたのか?」

「ん?あぁ、ちょっと事情があってね。

 これからはこれで生活しようかなーって。」

さらに今までの黒いリボンにポニーテールではなく、

長い髪を下ろし、黒いリボンでハーフアップにしていた。

「詳しい説明はまた後でするから・・・。

 じゃ、私先に行くね!冬弥くんのファンの子達に見つかるとアレだから。」

「お・・・おう・・・。悪いな、なんか・・・。」

蘭たちも、俺と話すときは、なるべく周りに人がいないときにしてるらしいし、

なんだか申し訳ない気分になって、反射的に謝ってしまった。



* 舞姫side

朝のHRの時間になり、私は自分の所属することになった2年B組へと足を運んだ。

「緊張してる?」

担任の先生がふと声を掛けてきた。

「・・・え?あ、いや・・・ちょっとだけ。」

転校は2度目だから、それほど緊張はしていないけれど、

前の学校でいじめられたというだけあって、馴染めるかどうかは自信がない。

先生が先に教室の中に入り、私は廊下で一人待たされた。

少しの時間が経ち、教室内がざわつき始める。

まぁ・・・小中高一貫の有名な学園に、転入生ってのは異例なことだしね。

教室のドアが開かれた。

先生が笑顔で手招きをしている。

私は小さく頷くと、教室の中に足を踏み入れた。

そして、言われるがままに黒板に「藤城 舞姫」と白い線を書き入れる。

チョークを置いてこれから一緒に生活することになるみんなの方へ振り返った。

そのとき、

「えぇえええぇえぇぇぇええぇぇ!!??」

超絶大きな、疑問交じりの叫びと同時に、

2人の生徒が立ち上がった。

・・・・・・なんとなくそんな気はしたが、間違いなく要と蘭ちゃんである。

冬弥くんが言うには、怜菜ちゃんとちとせちゃんがA組、冬弥くんがC組らしい。

「こ、こら2人とも、静かに!」

先生が慌てる様子で2人を座らせる。

蘭ちゃんは少しだけ恥ずかしそうにしていた。

「じゃあ藤城さん。」

「あ、は、はい。・・・えっと、藤城舞姫です。天ノ宮中学から来ました。
 
 事情があって、高等部まで一緒に生活できませんが、これからよろしくお願いします。」

私がそう言い一礼すると、

教室内から拍手の音が聞こえた。

どうやらここは、天ノ宮みたいなところではないらしい。

「えっと、確か藤城さんは反田さんと清野くんの幼馴染よね?

 最初だから隣の席のほうがいいと思うんだけど・・・。」

「せ、先生っ!私!私の隣っ!」

蘭ちゃんが半ば興奮状態で手を上げた。

蘭ちゃんの隣の子は、まぁそうなるよね、という感じで、

すんなりと後ろの席へと移動した。

なんとも寛大な心の持ち主で・・・少し感動してしまった。

「・・・蘭ちゃん、よろしくね。」

席に着き、小声でそう言うと、蘭ちゃんは満面の笑みで微笑んだ。



HR終了後の20分で、怜菜ちゃん、ちとせちゃん、冬弥くんも集めて、経緯を話すことにした。

「・・・じゃあ、お母さんがそう言ったの?」

「うん。私が初めて口にした我侭だからね・・・。」

話し終わると、みんななるほど、というように頷いていた。


私は数日前から今までどおりに踊ることができなくなってしまい、

周りの大人に褒められても、自分で納得のいくものができなくなってしまった。

さらに、そのための迷いが生じたせいなのか、

カードの力が何も使えなくなってしまった。

実行も、動物の気持ちを知る能力でさえも。

私の調子がよくないために、講演もしばらく出れなくなってしまった。

今更、踊りを続けたいのか、それとも他のこと・・・バスケをしていきたいのかすら分からなくなった。

そんなときに、母が

「しばらく自分の好きなことをして、本当の自分の心と向き合いなさい」と言った。

母と同じように踊りを習っていた友人が、私と同じ状況に陥ったことがあるらしく、

私の気持ちにも、ちゃんと気づいてくれていた。

だから私は素直に自分の本心を伝えた。

「楓藍に行って、皆に会いたい。」と。

少しの間家族会議をして、私は楓藍に出向き学園長に必死に頼み込み、

普通よりレベルの高い試験に合格できたら、転入を認めてもらえることになり、

現在に至る、というわけだ。

だから私は、私自身の答えが見つかるまで、

踊りもしないし、天ノ宮に通うこともない。

だが、天ノ宮には「留学するため学校を休む」と伝えてあるため、

見つかってしまっては厄介になる。

だから、いつもの髪型をやめたのだ。

まぁ、これで誤魔化せるとも到底思えないけれど。



とにかく、みんな気さくに話しかけてくれてよかった。

どうやら偶然踊り手について書かれた記事の載っている雑誌を持っていたり、

街角に貼られたポスターなんかを見かけた人で、私のことを知っている人もいるようだ。

「踊り手」として知られている本人が、現在それをやめているなんて・・・。

なんだか申し訳ない気分と悔しさが入り混じり・・・

私はそのまま昼休みを迎え、

私が「やりたかった」ことの2つ目を思い出したのだ。


Re: *Tarot-Labyrinth*  コメ募集中>< ( No.138 )
日時: 2011/11/19 22:55
名前: 奏 (ID: GK3ghjI2)


* 要side

舞姫が転入してきたことは、とてつもなく驚いたが、

・・・・・・実際のところ、内心嬉しい気持ちが勝っていた。

昼休みにもなるとそわそわした気分も大分落ち着き、

周りが机をあわせて弁当を広げる中、俺はパックの烏龍茶のストローに口をつけていた。

と、そのとき

「かーなめっ♪」

突然のラリアットが俺に降りかかる。

机の上が烏龍茶で大惨事になりそうになったが、

ギリギリのところで俺は口に含んだそれを飲み込んだ。

「・・・っぷは・・・!何すんだよ!!」

俺に声をかけてきた男子3人は、中等部1年の半ば辺りからよく絡んでる面々だった。

どいつもこいつも正式なバスケ部員である。

「水くさいなー、要はぁ。」

「・・・?何がだよ。」

「あんっな美人な幼馴染がいること!なんで教えてくれなかったんだよ!!

 しかも、性格もよさそうじゃん!!お前にはもったいねぇ!」

男子の中の1人が、女子に質問攻めにされているであろう舞姫を指差した。

まぁ確かに美人ではあるし性格もいいだろう。

認めるのは悔しいが俺にはもったいないというのも事実だ。

「教える必要もないだろ・・・?」

「なーんーで!お前の幼馴染はいい奴ばっかりなんだよー!

 C組の桐島だってそうだろー、女子だってレベル高いのばっかじゃん!」

別の1人が半泣き状態でそう言った。

泣く必要はどこにあるんだ。

単なる幼馴染なのに。

「・・・ってあれ?お前もしかして藤城さん狙ってるのか?」

「なんだよ悪いかよ!」

「お前じゃ絶対無理だな、相手にされないって。」

「くっそぉおおぉお!」

俺抜きで会話が繰り広げられている。

俺はやれやれという感じで椅子に座りなおして、再び烏龍茶を味わうことにした。

すると質問攻めから逃れたのか、舞姫がこっちにやってくるのが視界に入る。

・・・案の定、後ろの男子3人はざわつき始めた。

俺の前を通り過ぎ・・・・・・るかと思いきや、何かを思い出したように立ち止まる。

「ねぇ、かな———・・・・・・。」

名前を呼びかけたところで、舞姫は俺の後ろに視線を移した。

割り込んでしまって申し訳ない、とでも言いたいのだろうか。

3人はしどろもどろに「ど、どうぞ。」と言った。

舞姫は小さくありがとう、と微笑むと、また俺に視線を戻す。

「あのさ、要、今バスケやってるよね?」

「え?あぁ、正式部員じゃないけどな。」

「そっか・・・きょ、今日バスケ部に顔見せに行ったりする?」

「あー・・・どうすっかなぁ。なんで?」

舞姫はふと視線を逸らした。

なんだか困ったような、照れくさそうな、曖昧な表情をしている。

「そのー・・・変なお願いかもしれないんだけどさ。」

「うん。」

「バスケ部の練習が始まる前のちょっとの時間でいいから、

 一緒に・・・久しぶりにバスケしてくんないかなーって・・・駄目かな?」

舞姫は困ったように笑った。

そうか、今のこいつは好きなことを何でもしていいのか。

だからバスケも・・・・・・。

俺の答えは、迷うまでもなく1つしかない。

「もちろん!いいぜ、そのために今まで練習してたようなもんだしな!」

俺がにかっと笑うのを見た舞姫は、

柔らかく微笑み、「ありがとう」と言った。

こいつのありがとうは、事務的じゃなくて、本当に気持ちがこもって聞こえるからいいんだよな。




そして放課後。

バスケ部員より早く体育館に到着した俺と舞姫、

そして、暇だからとついてきた怜菜と蘭。

舞姫は怜菜のジャージを借りて、その着心地を確かめていた。

「楓蘭のジャージっていいね。

 天ノ宮のは色もなんか微妙だったからさ。」

そう言って舞姫は、黒いリボンを解き、ポニーテールに結び直した。

さすがに邪魔だと感じたんだろう。

「さて、始めるか。」

「ブランクあるんだから、ちょっとは手加減してよね。」

「お前に手加減は必要ないだろ?

 ・・・じゃ、ルールは・・・多くゴール決めたほうが勝ちでいいか。」

「うん。バスケ部メンバーが練習始めるまでね。」

「おう。」

舞姫はカゴからボールを1つ取り出し、俺にパスをよこした。

「お先にどーぞ。」

「・・・さっすが、余裕ってわけかい。」

俺は皮肉っぽくそう呟くと、自分のゴール目掛けてドリブルを開始した。

だが——・・・

ゴール直前で俺の前を舞姫がさっと横切り、

あっさりとボールを奪う。

こいつ、ブランクがどうのって言ってたわりに動きが早いし、

ボールが手に吸い付くみたいに、自分の「もの」にしている。

「くっそー・・・負けねえぞ!」

走り出し、ボールを奪い返そうと手を伸ばす。

ひょいっと舞姫はかわしていく。

その姿が、まるで踊っているかのようにも見えてしまった。

ゴール直前、舞姫の放ったボールに手は届かなかったが、

そのボールは惜しくもゴールの縁に当たり弾かれ、俺の手の中に納まった。



そんなことを繰り返して約10分後。



もうとっくにバスケ部メンバーは集合していたが、

俺らはそれをやめられずにいた。

実際、メンバーも見入っていたらしく、声をかけてくる奴はいなかった。

結果はほぼ同点。

点数数えてなかっただけなんだけど。

「・・・っはー!!」

「・・・はぁー・・・ははっ」

座り込んだ舞姫が、突然笑い出す。

「楽しかった・・・ありがと。」

「俺も。久々に思いっきり遊んだ気分。さんきゅな。」

俺はそう言うと立ち上がり、メンバーとコーチの元へ駆け寄った。

「すいません、練習時間始まってるのにここ使っちゃって・・・。」

「い、いや、要にはいつも助っ人お願いしてるから、それくらいはいいんだが・・・

 あの子・・・誰なんだ?お前と対等に戦えるなんて・・・しかも女子で・・・。」

「あ、えっと、幼馴染です、今日転入してきた・・・。

 俺にバスケ教えてくれた張本人ですよ。」

コーチは目を丸くした。

そりゃそうだろうな。

コーチが変な気起こして、あいつをバスケ部に勧誘したりしなきゃいいけど。

女子バスケ部がないんだよな、この学園。

ふと舞姫を見ると、上着をぱたぱたと仰ぎながら蘭たちと話していた。

その顔は、本当に楽しそうで、

1つの蟠りがなくなったようにすら見えた。

Re: *Tarot-Labyrinth*  コメ募集中>< ( No.139 )
日時: 2011/11/21 21:45
名前: 奏 (ID: t8UeV32b)

第63話 鏡写し

* 怜菜side

「・・・そういえば、今日は都和ちゃんいないんだね。」

帰り道、ふと舞姫が口にしたのはそんなことだった。

今日、都和は具合が悪いので休む、と式乃ちゃんに伝えられた。

「最近体調崩しやすいみたいで・・・今日も休みだってさ。

 私たちの知らないところで無理してるみたいだし、ゆっくり休んでほしいんだけどな。」

「そっか・・・ん?・・・あれって・・・。」

舞姫が前方を指差した。

そこにいたのは、都和とちょうど同じくらいの背丈の少女だった。

なにやら周りをきょろきょろと見回しては同じ場所を歩き回っている。

後姿しか見えないが、髪の長さも都和と同じくらいだった。

「迷子かなぁ?」

「どうだろう・・・でも見かけない子だよね。」

私たちは悩んだ末、少女に話しかけてみることにした。

「どうしたの?迷ったの?」

頭の後ろに話しかけるように、少女の背後に立った。

私たちに気づいたらしく、少女はこちらを振り向く。

長い髪がなびき、その瞳が私たちに向けられる。

「・・・・・・!?」

「と・・・都和・・・!?」

舞姫と一緒に言葉を失った。

だってその子は、都和そっくりだったから。

いや、もしかしたら本人なのかもしれない。

髪型は編みこみではなかったけれど。

少女は横に小さく首を傾けると、無言のまま私たちを交互に見た。

そうして、逃げるように走り去っていった。



翌日、回復したらしい都和に、そのことを話してみた。

「・・・何のことですか?ボク、昨日はずっと寝てましたよ?」

都和はきょとんとした顔で答えた。

「で、でも、身長も顔も都和にそっくりだったんだよ?」

「・・・シキはずっと傍にいましたが・・・都和は一歩も外には出てませんですよ。」

姿の見えない式乃ちゃんも、

都和をフォローするかのようにそう言った。

「おっかしいなー・・・すごい瓜二つだったんだけど。」

私は腕組をしてそう唸るように言った。

その横で、都和が式乃ちゃんに疑いと謎めいた視線を向けていることも気づかずに。




* 都和side

「・・・あんた、何か知ってるんじゃないの?」

学校から帰り、捨てるように鞄を放ると、

私は畳の上に倒れるように寝転がった。

式乃も、それにあわせるように私の傍で正座をする。

「・・・・・・何か、と言いますと?」

「何かは何かよ。ただのそっくりさんだとも思えないわ。

 私が寝込んでる間、見かけたことはなかったの?」

「・・・ううん・・・思い当たる節がありませんです。

 ただ・・・・・・なんだか悪いことが起こりそうな気がします。」

「悪いこと?」

「・・・はい。都和、最近よく体壊しますし・・・

 ただの風邪じゃないと思います・・・何か関係がっ・・・。」

「言い切れる?」

私がそう言うと、式乃は申し訳なさそうに横に首を振った。

確かに、式乃の言うことも間違ってはいない。

突然、体が極端にだるくなることが最近激増した。

でも、寝不足とか疲れが溜まってるとか、そんな感覚はこれっぽっちもない。

それに寝ればすぐに治ってしまう。

これは、どうしても不思議に思っていた。

「あ・・・あの、都和。」

「ん?」

「言っていなかったのですが・・・最近、とある気配を感じるんです。」

「気配って・・・カードの?」

式乃はまた横に首を振った。

「じゃあ何の?」

式乃はゆっくりと口を開く。



「・・・・・・“乎都”の気配です。」



「“コト”・・・?って・・・確か・・・。」

「シキの、娘です。

 生贄として生を終えたシキが残した、たった一人の娘。」

「・・・でも、どうして今更・・・。」

「分かりません・・・!シキも突然のことで・・・その・・・。」

式乃は明らかに動揺していた。

これは、私が問い詰めても意味がないのかもしれない。

私は、式乃の昔をあまり知らないから。

「・・・シキは、死んでからしばらくして、

 霊体のまま住んでいた村を見に行ったことがあります。

 そのとき、娘はちょうど都和と同い年くらいで・・・その・・・

 都和と瓜二つだったんです・・・・・・。」

これは、怜菜たちが見た少女は乎都だと思っていいだろう。

・・・・・・こんな簡単に片付けられることではないか。

なぜこの世に乎都がいるのか。

なぜ今更現れたのか。

何も分からないままじゃ、何もできない。



中断


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