複雑・ファジー小説

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コドクビワ、キミイゾン。【完結】
日時: 2013/01/06 17:00
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)

+目次+
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参照100記念>>27  あ  コメント100記念>>100
参照200記念>>40  り  あとがき>>137
参照300記念>>52  が  桐への愛情度:低>>139
参照400記念>>62  と  孤独への愛情度:低>>141
参照500記念>>71  う  卓巳への愛情度:高>>142
参照600記念>>77  !
参照700記念>>88  
参照800記念>>103  
参照900記念>>113
参照1000記念>>126
参照1100記念>>131
参照1200記念>>138
参照1300記念>>140

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.93 )
日時: 2012/08/08 10:34
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)



+58+


女の視線が俺に集まり、そしてボクの後ろの女を見て、離れていく。指を差されることもある。不愉快だな、って思う。前までは、心地良かった。人の心をもて遊ぶのが好きだった。
だから、ボクを必要としていてガタガタな桐は、凄く面白くて、弄んだ。
わざわざ見える位置に赤い印をつけて帰宅する。そうすると、桐は悲しそうな、諦めたような顔をして、でもボクを責めたりしない。ボクを責めれば、ボクの機嫌を損ねて捨てられるかもってそう思っているからだ。
そうそう、正解正解。というか、その顔が好き。自分の欲に負けないようにして必死にしている顔が、ボクは好きなんだよねぇ。だから、繰り返した。それで、桐を傷つけ続けた。それでも、そばに居るだけでいいんだって自分に言い聞かせてたんだよなあ。
他人の人生捻じ曲げるのって、楽しいよね。

「忌屋、最初に何を買おうか」

デパートに着いたら、なんだかわくわくして居る様子で、コイツが言った。なんでお前がわくわくしてんだよ。

懐かしい。ここで確か、桐に姿見を選んで貰った。今のコイツみたいに、わくわくしてさ。ボクがその姿見で服を見ていると、嬉しそうに笑ってた。
そういえば、ボクとこの間会った時、少しも笑わなかった。前は、ちょっとでもボクが優しくすると、笑ったのに。ボクが笑うと、無理して笑ったのに。

そうか、そういうこと?ボクはもう、桐には必要ないってこと?

「別に、何でも良いよ」

姿見だけは、買い替えなくて、良いかな。

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.94 )
日時: 2012/08/09 20:37
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)


+59+


家具屋の前まで来て、なんかめんどくさくなった。どっと疲労感が来て、どうでも良いかななんて思った。
なんでボク昨日あんなに暴れたんだろう。なんであんなに荒んでたんだろう。後で面倒なことになるのはボクなら分かったはずなのに。冷静じゃなくなった人間って、怖い。
昨日、ボクはすこぶる機嫌悪かった。なんでって言われれば、桐にむかついたって事。後、桐にむかついている自分自信が何がしたいのか分からなくてイライラしたこと。後は、機嫌が悪いことを良いことに、コイツが畳み掛けてきたこと。普段は余裕に構えていて、コイツをいじめているから、仕返しのつもりだったのだろう。
ふざけるなよ。本当に。思い出したらイライラしてきた。
隣に立つボクより身長の低いコイツを見下ろす。
でも、なんでそんなことをするのに、今日はついてきたのかな。付いてこないのが普通でしょ。いつもいじめてるのに。
桐とは種類が違うけど、ちょっと似てるかもしれない。

「……あ、忌屋」

「はあ? 何?」

ボクが家具屋に入らないのをちらちら観察していて不思議がっていたコイツが、ボクの後ろの何かを指さした。眉間に皺を寄せて、気になるから後ろを向くと見たことのないケーキ屋があった。

「…………」

「行こうよ、忌屋」

見たことない。朝ご飯食べてないし、昨夜もまともに食べてない。お腹が空いている。
じっとケーキ屋を見つめるボクの袖を、コイツが引っ張った。

「私、行きたいなあ。忌屋」

「……しょうがないね」

コイツが。コイツが、行きたいならしょうがない。
仕方ないから、仕方ないから、行ってやろう。
別にボクは行かなくても良いけどね。

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.95 )
日時: 2012/08/09 21:13
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)



+60+


「俺が買ってやるよ」

桐の腕を掴んで財布をポケットから出そうとすると、桐は首を横に振って、軽くほほ笑んだ。
何だか、桐笑顔が綺麗になったよ。でも俺は築が好きだ。今だって好きだ。
高校のあの日、図書室で俺たちが会ったのは、きっと運命だ。築と会えたのは感謝ししている。でも、築との別れがあんなに苦しい物だと知っていたら、俺はその出会いは無くて良かったと思う。

「これは、私と孤独の問題ですから。店長に迷惑をかけるわけにはいきませんよ」

きっぱりと言う桐。自分に責任を感じているのか。孤独を振り回してしまった自分に、責任を感じているのか。
そんなことは無い、桐は悪くない、なんて、俺には言えない。桐がそう感じているなら、その気持ちを俺は壊してはいけない。
俺はすんなりとポケットに財布をしまった。
そんな俺に、桐は小さくお礼を言ったような気がするけど、あえて何も言わないで、店の外に出た。
会計が終わると、桐は小さなビニール袋を手にして俺に駆け寄った。

「店長、付き合ってくれてありがとうございました」

改めて頭を下げる桐。そんな桐の茶色が抜けてきている髪をそっと撫でた。

「店長、甘いの大丈夫ですよね?」

桐が頭を上げて、細い指で示したのは、新しくできたおしゃれなケーキ屋だった。

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.96 )
日時: 2012/08/10 16:43
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)



+61+


店長が頷く、と言うより微笑んだのを見て、私は店長より一足先にケーキ屋の自動ドアをくぐった。客はあまり居なかった。
ガラス張りの壁には4個くらいテーブルと椅子のセットがある。そのうち2つは埋まっていた。店内は広くなくて、テーブルとケーキが並ぶ棚との距離はあまり広くない。
全体が、おしゃれだった。

そして。

息をのんだ。咄嗟に目をケーキが並ぶ方に向けて、気を落ち着かせようとしても、駄目だ。心臓が壊れた。変な動きをしている。左胸を押さえつけた。
店長は、知らないよな。私が昔付き合っていた男のことなんて。説明すれば分かってくれるだろうけど、これ以上迷惑はかけたくない。
今は、普通にしていよう。
一番奥のテーブルに腰かけて、ケーキをちまちま食べているのは、間違いなく卓巳だ。卓巳のことを、私が見間違えるはずはない。
卓巳は私のことに気が付いたかな。気が付いていないでくれよ。

「どうしたんだよ、桐」

「なんでもないですよ、何食べますか?」

卓巳は一番奥だ。幸い、そこから一番離れている場所は空いている。入口にいちばん近いけど、気にしていられない。
私は適当にケーキを注文して、席に着く。
食べて金払って出る。それを短時間で行おう。
店長は首を傾げながら、私に合わせるように素早く注文している。ああ、せかしちゃったか。
でも、今はケーキなんて構ってられない。
私がフォークでケーキに致命傷を負わせた時、店長がケーキの乗ったプレートを、机に置いた。
そして。

そして、店の一番奥を見て。見て。店長の目が。見開く。怖いくらいに。唇が震えている。
でも、不思議とはっきり聞こえる声で、言った。

「……築……?」

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.97 )
日時: 2012/08/11 22:44
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)


+62+


いつもは、もう一駅先で、築は降りる。でも、その日は俺に合わせて1つ前で降りた。その行動を意味することを、俺はうっすら感じ取った。
でもなんだか嫌だなあ。受け入れたくないよ。
周りの家に、明かりが灯り始める。ありきたりなシュチュエーションだよね。
河原を2人で歩いて、川の流れる音が、耳に入る。それを、ずっと聞いていたかった。
なのに、少し前を歩いていた築が、俺を振り返る。笑う。そんな顔すんなよ。止めてよ。

「変な笑い方。築」

「辰臣は、凄く優しく笑うようになったよ」

話を逸らされたような気がする。でも、築の自由にしてあげたい。
そうなんだ。俺、ちゃんと笑えるようになったのか。そうか。俺、高校の時、面倒だったんだよ。他人に合わせるのが。でも、俺、自然な笑顔が上手くて。それで周りに溶け込んでいる気になってたんだよ。それが逆に築には不自然に見えたんだよね。

「……築」

何があったんだよ。目の下の隈、どうにかしろよ。足の絆創膏はどうしたんだよ。なんで歯が2本無いんだよ。なんでそんなに痩せたんだよ。
なんでそんなに、悲しそうに笑うんだよ。俺の前で。
俺の前で、辛そうにしないでよ。

「……辰臣」

どんどん周りが暗くなっていく。
俺は築に近づいて、築の左手を握った。築は笑っている。変な笑い方。俺は静かに築の名前を呼び続ける。
枯れないよ。この声は枯れない。築を呼ぶ俺の声は、絶対に枯れない。
俺は築の左手の薬指を口に含んだ。築は笑っている。
指の付け根を舌で舐めてから、歯で挟む。築は笑っている。
ぎりぎりぎり。築は笑っている。

築。ねぇ、築。もし俺が、この指を噛み切ったら、築は誰の物にもならない?
それは、言わない。それを言っても、俺が築に想いを告げても、築が困るだけだから。

「辰臣」

これが、俺と築の最後の話。


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