複雑・ファジー小説

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コドクビワ、キミイゾン。【完結】
日時: 2013/01/06 17:00
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)

+目次+
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参照100記念>>27  あ  コメント100記念>>100
参照200記念>>40  り  あとがき>>137
参照300記念>>52  が  桐への愛情度:低>>139
参照400記念>>62  と  孤独への愛情度:低>>141
参照500記念>>71  う  卓巳への愛情度:高>>142
参照600記念>>77  !
参照700記念>>88  
参照800記念>>103  
参照900記念>>113
参照1000記念>>126
参照1100記念>>131
参照1200記念>>138
参照1300記念>>140

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.123 )
日時: 2012/08/24 21:22
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)


+83+


どうやって病院から出てきたのかは、よく覚えていない。気が付けば、電車の中でまた、街を見ていた。人が少ないな。こんなんで、大丈夫なのかな。
私、こんなんで平気なのかな。私、このまま卓巳から逃げて、大丈夫なのかな。私は、一体どうしたんだろう。卓巳はどうしてあんなことを言ったのだろう。全く意図が掴めない。何が、なんだっていうんだ。どうして、卓巳はあんな風になっちゃったの。

『僕が、桐を直してあげるから』

扉を飛び出す私に、卓巳は確かにそう言った。
直すって、何を。私を?私は、直すほどの欠点があるの。歪みがあるの。壊れているの。私は、壊れているの。どうして、卓巳が私を直すなんて言い出すの。どうして、私が卓巳なんかに直されなきゃいけないの。不安定で、私を自分から捨てておきながら、いまさら縋って来るような男に。店長を傷つけようとして、返り討ちにされた男なんかに。
でも、でも、違う。違う。違う。そんなんじゃない。もう、違う。卓巳は私がバカにできるような、そんな人間じゃない。
私なんかに、気を使ってくれるような、手を伸ばしてくれるような。
そんな。
成長しようとする、前に進もうとする。
そんな。

そんな、優しい。

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.124 )
日時: 2012/08/24 21:53
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



+84+


先輩に電話しても、メールしても、反応してくれなかった。
ねーちゃんのすっかり冷たくなった視線を背中に浴びながら、家を出た。涙が溢れて来た。周囲の人はずっと俺を見ている。必死に手の甲で涙を拭う。
先輩、先輩。桐先輩。茅菜先輩。桐茅菜先輩。
崩れそうになる足を必死に動かして、先輩のアパートを目指す。先輩、まだ寝ているのかな。それとも、どこかに出かけているのかな。どこかにって、どこ。まさか、まさか。
涙が止まった。知らず知らずのうちに、早歩きになる。走り始める。先輩。声を出しそうになる。名前を呼びそうになる。耐えた。変人になるのは、まだ早い。
急いで階段を駆けあがって、愛しのあの場所を目指す。
毎日、毎日、そこだけが俺の心を癒してくれる場所で。そこだけが、俺の居場所で。俺の生きる意味が、そこにあって。
その部屋がある階について、目に飛び込んできたのは、部屋の鍵を開けようとしている私服姿の先輩だった。

「孤独」

「先輩っ、なんで、なんで、電話とか、無視したんすかっ」

純粋な思いが口から出る。だらだらと、みっともなく。
先輩は、手を軽く動かして、部屋の鍵を開ける。
先輩が、変な顔をしている。
そんな顔が見たいんじゃないんだよ。俺、先輩を責めているわけじゃないんだよ。違う、違うんだよ。

「……こど、」

「病院、だったからっすか?」

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.125 )
日時: 2012/08/29 21:24
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



+85+


答えてよ、お願い。
否定でも肯定でも拒絶でも愛でも悲しみでも涙でも笑顔でも呻きでも溜息でもくしゃみでも欠伸でも指でも首でも腹でも腸でも胃でも骨でも髪でも空でも海でも台地でも空気でも雷でも雨でも雪でも太陽でも月でも太陽でも光でも熱でも氷でも水でも魚でも貝でも哺乳類でも鳥でも昆虫でも。
何でも良いから何でも良いから答えてよ。俺が居る証をくれよ。俺が生きている証をくれよ。俺が生きて良い印なんて要らないから。だから、せめて俺に俺の心臓の音を聞かせてくれよ。目を閉じたって耳を済ませたって、俺の心臓の音は聞こえないんだよ。俺の汚い心の声は聞こえるのに。欲で溢れかえってパンパンなこの心だけは、俺にも分かるのに。こんな汚いもの、捨ててしまいたい。先輩がこの存在に気が付く前に。無かったことにしたい。

「……そうだよ」

聞こえない。聞きたくない。俺の中の先輩は、俺の汚い物は、そんな答え望んでない。
俺は、ここに居ますか。まだ、生きていますか。
俺は、まだ先輩の中で、生きていますか。
これから先、生きていけますか。
俺は、俺を認めることができますか。

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.126 )
日時: 2012/08/29 22:04
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



+参照1000記念+


友達に聞いた話だ。まだ最近のこと。廊下でたまたま友達が聞いた会話。
三組のなんだかさんって女子が、あの孤独君に告白していたんだって。なんだかさんっていう部分は、よく覚えていない。私はショックだった。
勉強はあまり得意ではないけれど、結構スポーツは出来て。前やったバスケの試合でも、チームメイトに回されたパスを生かして、華麗にシュートを決めていた。そして、直後に見せる子供っぽい笑顔。汗が滴る茶色っぽい髪。適度に焼けた肌。シュートを決める瞬間の顔とは違う無邪気な感じ。高校生なのに、まだ中学生みたいな感じで。
可愛い。カッコいい。
顔も整っていて、女の私よりまつ毛が長い。この間、寝ているときに盗み見たんだ。
そんな孤独君に恋心を抱いている女の子は少なくない。
そんなことは知っていたつもりなのに。どうして、こんなにショックなんだろう。返事は、どうしたんだろう。
友達に聞いたら、そのなんだかさんは結構な美人で、勉強はできるけどちょっとスポーツは苦手で、人付き合いも苦手らしい。でも、そんな彼女に、孤独君は声を掛けたんだと。
孤独君は優しい。この間も、私の消しゴムを拾ってくれた。落した小銭を一緒に拾ってくれた。そんな孤独君に、恋。
私も、告白しようかな。時期とか、全然考えてないけど。でも、出遅れたくない。なんだかさんに抜かされたくない。孤独君に彼女ができるなんて、嫌だ。絶対嫌だ。片思いで終わらせたくない。

「ってことで、告白しようと思う」

「ちょ、え? は? 何言ってんの? 待て待て待て、早まるな」

昼休みがチャンスだと思った。
だから進もうとする私の腕を、友達が掴む。
なんで止めるんだ。私は行く。決めた。今なら行ける。告白できる。

「早いよ。何焦ってんのさ。まだ様子見ろって」

それもそうだな。
何だか勢いに乗っていた私のテンションも落ち着きを取り戻す。
そうかぁ。様子。でも、私と孤独君は特別仲がいいわけじゃ無い。会話も滅多にしない。そうか。今私が想いを伝えても、孤独君は困るだけだもんね。
冷静になった私は、昼休みの終わりのチャイムに従って席に着く。

「じゃあ、今日の宿題後ろから集めてー」

教師の声に、教室がざわつく。私はやって来た宿題を机の上に出して、後ろから眠たそうにして宿題を集めてくる孤独君を待った。
私の横について机の上から宿題のノートを取る指を、思わず追ってしまう。
私は、孤独君だけに聞こえるように呟いた。届かなくても良かった。
運試しのような物のつもりで。

「孤独君」

「え? 何?」

孤独君はわざわざ立ち止まってくれる。そして、束の中から私のノートを取ろうとしたので、首を振る。
そうじゃない。

「私がもし、孤独君のことが好きだから付き合ってって言ったら、どうする?」

内心、ドキドキのバクバクで倒れそうだった。顔に熱は集まらないので、良かった。
孤独君はノートの山を抱え直しながら、少しだけ笑った。
バスケの後に見せた笑顔じゃない。あれじゃない。違う。あのときの孤独君とは違う、笑顔。
その笑顔が示す意味は、私には分からなかった。

「あんたのこと 人間 として見られなくなる」


+おわり+


片思いの女の子と孤独。

参照1000ありがとうございました!!!!!!
初めてです、嬉しいですありがとうございます!!!!
最終回まで死なないように頑張りますっっw

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.127 )
日時: 2012/08/29 22:32
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



+86+


「……どうして、とか。言うでしょ」

先輩は俺を見ている。ただ、俺を見ている。そのことは、すごく嬉しいはずなのに。前までなら、嬉しいはずなのに。見られているだけじゃ、満足していないなんて。
言ったら怒られちゃうよね。俺、すごく我儘になって欲張りになった。欲を先輩に見せるようになった。先輩にだけは知られたくないって、知られたら嫌われるからって、ずっと隠してきた感情を、先輩に見せてしまっている。
俺、先輩に嫌われたかも。
そんなこと、気にしちゃいられなくなっているのかもしれない。
どうして。どうして。

「教えてあげる」

要らない、なんて言えない。
だって、気になる。あれだけ行かないでって言ったのに。念を押したのに。俺の思い通りになんて、なってくれないっていうの。
俺は、先輩のことが好きだ。好きで溜まらなくて。先輩に見てほしかった。ずっとだ。俺はずっと先輩が好きだったんだ。
先輩が好きで、好きで。
でも、思いを真面目に伝えたら、押し付けてしまったら、先輩が壊れてしまいそうで。
それなのに。

「孤独、家に入ろうか」

先輩が、部屋の中に消える。
しばらくして、立ち止まっている俺に、先輩がドアの隙間から出てきて手招きをした。


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