複雑・ファジー小説
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- コドクビワ、キミイゾン。【完結】
- 日時: 2013/01/06 17:00
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
+目次+
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参照100記念>>27 あ コメント100記念>>100
参照200記念>>40 り あとがき>>137
参照300記念>>52 が 桐への愛情度:低>>139
参照400記念>>62 と 孤独への愛情度:低>>141
参照500記念>>71 う 卓巳への愛情度:高>>142
参照600記念>>77 !
参照700記念>>88
参照800記念>>103
参照900記念>>113
参照1000記念>>126
参照1100記念>>131
参照1200記念>>138
参照1300記念>>140
- Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.63 )
- 日時: 2012/07/11 18:06
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)
+35+
重い。瞼が重すぎて、嫌だ。開けたくないと思う。開けたら、夢が終わってしまいそうで、嫌だ。ねぇ、目を覚ましたら、全部夢だったら良いのに。
先輩と俺は、ぎくしゃくなんかしていなくて。先輩は困ったような顔を作らないで。俺も笑えて。涙なんて出なくて。先輩の細い綺麗な指が、俺に首輪をつけてくれて。いつもよりご機嫌で。一緒にお風呂に入って。一緒にご飯食べて。ベッドの上でダラダラして。先輩の名前を呼んで。先輩の匂いを嗅いで。先輩に触れて。
先輩。先輩。先輩。俺、まだ先輩と一緒が良い。先輩が、好きだ。好きだ。好き。好き。
「……孤独」
先輩より少しざらついた声が、俺の名前を呼んだ。それじゃあ無いんだよ。俺は、先輩に起こして貰いたいの。
「起きた? 大丈夫? 孤独」
この人は、やたらと人の名前を呼ぶ。ただ、認めている人限定。
俺は薄目を開けて、姿を確認した。いつも通りの傷んだ髪。長い睫。
「……ねーちゃん」
目が痛い。泣きすぎたか。泣くなんて、みっともないと思うだろうけど、それくらい、俺先輩のことが好きなんだよ。1人で泣いたって、届か無いとは分かってるけど。
「ヤダ、俺、ヤダよ。先輩のことが、好き。好き、どうしよう、俺、先輩に嫌われたかも。だって、迷惑かけたし。俺なんか、要らないかも。どうしよう、俺、先輩が居ないと。俺。ヤダよぉっ……」
頭がガンガン痛い。先輩の声が、聞こえない。思い出せない。先輩が消える、消えてしまう。そんなの嫌だ。俺、先輩が居ないなんて嫌だ。嫌なの。
ねーちゃんは俺を抱きしめてくれた。嬉しいけど、先輩じゃない。先輩、先輩。
「……大丈夫だよ、孤独。孤独は、幸せにするよ、孤独」
してくれよ。早く、してくれよ。俺、ねーちゃんなんて、どうでも良いから。ねーちゃんなんてどうなっても良いから。
早く、俺を幸せにしてくれよ。
- Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.64 )
- 日時: 2012/07/12 22:08
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
+36+
「辰臣と同じ大学に行く」
築が突然そんなことを言うものだから、傾けていた水筒の中のお茶を、鼻から啜る羽目になった。珍しく隣では無く、向かい合わせに座った時点で、何かおかしいと思ってはいた。が、まさか、そんな真面目な話とは。
「は、はあ!? なんで!?」
袖で顔を拭うと、築の眉間に皺が寄る。構うものか。大体、男子はハンカチを持っていないのが普通なんだよ。
「なんでも何もないだろ、私が行きたいと思ったんだよ、辰臣」
相変わらず、人の名前をよく呼ぶ築。築は俺をじっとその長い睫の付いた目で見つめてくる。
そう言えばこの間、築と仲が良いと勘違いされて、絡まれた。散々だったけれど、別に仲が良いわけじゃないし。ただ、ただ、ただ。ただ、なんだろう。
築が俺に構っているだけ?俺が、築を引き留めているだけ?
「別に良いんじゃないか……俺は何でも良いと思うけど……」
なんだか恥ずかしくて、再び、水筒を傾ける。
そろそろ夏休みに入る。そうしたら、築とはしばらく会えないな。夏休みが終わったら、また、図書室でこうやって駄弁るんだろう。そう思うと何だか変な気分だった。
「そうか、そう言ってくれて、良かった。私はな、辰臣」
ごろりと転がり込んだ氷の塊を、舌で包む。水筒の水面の先で、築が軽く笑った。
初めて見た。笑った顔。嬉しそうな。それでいて、何かに諦めた顔。なんだよ、その顔。築らしくない。
「お前とできるかぎり一緒に居たいんだ、辰臣」
がぎゃん。
氷を噛み砕くと、奥歯に染みた。虫歯だろうな。甘い物を食べすぎると、後悔するんだよな。でも、繰り返すんだ。それが、俺。それが、人間。
これが、裏で平穏が崩れているのに気が付いていない、俺の哀れな話。
- Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.65 )
- 日時: 2012/07/13 19:17
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
- 参照: http://最近長くてごめんあそばせ
+37+
プリンを食べた後、桐はだいぶ落ち着いたようで、普通に立ち上がった。俺は、あえて何も聞かなかった。何があったのかとか、大体分かるから。多分、自分を必要としなくなった孤独を見て、桐が混乱したのだろう。そんなところだと思う。
俺は適当に冷蔵庫を開けて、軽い夕飯を作ってやった。いい上司だよな。ここまでバイトたちのためにする店長なんて、そうそういないぞ。
相変わらず、いろんな食材が綺麗に並べられている冷蔵庫。桐の趣味は、意外にも料理だ。これで、もっとまともな生活をしていたら、桐は幸せだったんだろうな。
桐は、付き合っていた男に振られてから、おかしくなった。いや、そいつとの付き合いを始めてから、おかしくなったのだ。そいつに捨てられないように、一生懸命で。
そう。
今の、孤独のように。
「あーあ、店長、どうしましょー」
いつもよりも、だらだらとした口調で言う桐。あぁなんだ、気持ちの整理は終わっていなかったのか。それを俺に悟られたくないのかな。まぁ、気が付かないフリくらいは、してやってもいいけど。
でも、俺は不器用だから。
「明日か? なるべく来て欲しいかなぁ」
本当は、来なくても良い。でも、ハッキリそう言うと、自分が必要じゃないとそう思ってしまうかもしれないから。今は、なるべく目が届くところに居てほしい。
桐が心配なんだよ。
「桐は優秀だから」
桐は椅子に座って、俺の手料理を食べ始めた。そんな桐のぼさぼさだった髪を、梳かしてやる。何かと世話を焼きたくなる。
なんだかさ、なんとなくさ、どこかがさ。
「店長のその笑い方、好きです」
築に、似てるんだよ。
- Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.66 )
- 日時: 2012/07/14 14:43
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
+38+
店長は優しい人だ。この人ともしも最初に出会っていて、そして、卓と会わなければ幸せだったのかな。普通の女の子みたいに、デートしたり料理作ってあげたり、愛のある行為とか、色々したのだろうか。そう思うと、なんだか胸が苦しい。
私、幸せが良かったのかな。卓のことが、嫌いだった?違うよな。あの頃は確かに幸せだったんだ。卓のことを考えるだけで、呼吸困難になってしまいそうになほど。そう思うと何だか申し訳ない。
卓が今、不安定になっているのは多分、私のせいだし。
「店長って、彼女居るんですか?」
失礼かな、とかそういうことは全く考えなかった。店長なら、私のどんなことでも許してくれそうだから。彼の笑顔は全てを包みそうだ。
そして、すべて、消してしまいそう。
「……居ないよ」
店長の櫛の手が止まる。そんな彼は初めて見る。初めて感じる。不安そうで、なんだか悪いところに触れてしまったようだ。店長に、悪いところなんてあったんだ。てっきり、店長には触れて欲しくないところは無いのかと、思っていた。
どうやら、そうではなくて。
「……好きな人は、居た。片思いで終わったけど」
1つだけ、ものすごく深い物が、あるようだ。
- Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.67 )
- 日時: 2012/07/16 18:18
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
+39+
「おめでとう、って言ってくれよ、辰臣」
そう、言ってやらなければならない。
築は夏休みの間、俺の前に姿を現さなかった。ときどき図書室解放の日に学校を訪れたけれど、何時だって築の姿は無かった。
そして、夏休みが明け、新学期が始まり、あっという間に受験。
突然の、築からの俺と同じ大学の合格報告。俺も、合格。
築は早速、俺に自慢するかのように、その言葉をせがんだ。
早く早く、と築の目が俺を映す。そんな目から、俺は目を逸らした。そんなに、期待しないで欲しい。
「お、めでとう、築」
なんだか知らないけど、築の癖が移って、必要もないのに築の名前を呼んだ。
あぁ、そうか。これからも、築のことを呼べるのか。それは嬉しい。卒業したって、これからも、一緒なのか。嬉しいな。
俺は、俺は。
「ありがとう、辰臣」
築が。
これが、俺が俺の気持ちを認めた日の話。
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