複雑・ファジー小説
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- コドクビワ、キミイゾン。【完結】
- 日時: 2013/01/06 17:00
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)
+目次+
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参照100記念>>27 あ コメント100記念>>100
参照200記念>>40 り あとがき>>137
参照300記念>>52 が 桐への愛情度:低>>139
参照400記念>>62 と 孤独への愛情度:低>>141
参照500記念>>71 う 卓巳への愛情度:高>>142
参照600記念>>77 !
参照700記念>>88
参照800記念>>103
参照900記念>>113
参照1000記念>>126
参照1100記念>>131
参照1200記念>>138
参照1300記念>>140
- Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.88 )
- 日時: 2012/08/05 00:00
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
+参照700+
「……あ、れ?」
俺の首、どこだ。いや、あるある。ちゃんとあるけど。
先輩の部屋に入るときには、靴箱の取っ手にかかっている首輪を自分でつける。だけど、今日は無かった。そこにあるはずのものが、無かった。台所に立っている先輩は、俺の方を見ようともしない。
泣きそうだ。なんで。先輩に近寄ろうとして、止めた。
「先輩、俺の首輪は?」
リズムよく響く包丁の音は、俺の言葉なんかじゃ止まらない。先輩は俺の方を見ない。
頭が無くなったみたいにフワフワする。なんか、夢みたいだ。信じられないのか、俺。首が、無いみたい。
「ん? あぁ、捨てた」
先輩が俺を見ない。先輩が俺を見ない。先輩が。こっち見てよ。
捨てたって、何。俺に無断で、俺にくれた物、俺の物、捨てたの?先輩の独断で?そんなの聞いてないよ。どうして。話してくれたって良いじゃんか。それとも、話せなかったの?
捨てたから、もう戻せないよって、もう戻れない所に来て、後悔しかできないところで、俺に報告するの?そんなの、卑怯じゃない?俺、そんなこと言えない。
だから、先輩の手首をつかんで引っ張り、こっちを向かせた。包丁が、吹っ飛んで床に落ちる。
「なんで? なんで捨てるの? 俺のこと、嫌いになったから? どうして捨てるの? 俺のことも捨てる? もう飽きたの? 何がダメだった? 俺、俺、先輩に嫌われたらどうしたら良いか、分かんない。先輩、嫌わないでよ、捨てないでよ」
乾いた声が、言葉になっていないような音が、口から洩れる。
めんどくさいよね。俺、面倒だよね。でも、止められない。頭がガンガン痛くて、首が締まって、すごい息がし辛くて、酸素が足りなくて、汗が出る。
「孤独、ごめんね」
何それ。要らない。そんな言葉要らないよ。そんなの要らないよ。止めてよ。耐えられない。そんなんじゃない。先輩にそんなこと、言って欲しくない。
先輩が、俺の腕を振り払って、部屋の隅の机に向かう。
嫌だよ、行かないでよ。
メモ帳とかが入っている引き出しを開けて、何かを取り出した。
ぽかんとする俺の首に、そっとそれをかける。
「おたんじょーび、おめでとー」
「……は?」
「ごめんね、驚かせて。大丈夫大丈夫、まだ嫌いじゃないから」
そう言って、先輩は俺の頭を撫でる。
まだ、とか、はっきり好きって言ってくれないところは、相変わらずだなあ。
指先で触れてみると、前より新しい皮の感触。
先輩が、俺のために選んで、俺に買ってくれた物。俺のことを考えながら、買ってくれた物。
頭、みっけた。
+おわり+
描こうと思ってて本編で描けなかったの。桐が首輪を捨てちゃうみたいな描写が欲しかった。あんまり本編とはリンクして考えない方がいいかも。
桐は人の誕生日とかちゃんと覚えているイメージ。手帳とか有効活用できる計画的な人間っぽい。
- Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.89 )
- 日時: 2012/08/05 22:43
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
+54+
「準備できた?」
私は服は着替えずにシャワーを借りて、準備を済ませた。忌屋は顔を洗ってから、頷いた。髪が少し濡れているけど、指摘しない。忌屋は財布だけを掴んで、私の胸に押し付ける。
「鞄持つのめんどくさいから、持ってて」
「うん」
部屋の隅にある姿見をちらっと見る忌屋。結構おしゃれには気をつけているようだ。
姿見も、昨夜はあっけなく倒されていたけど、運よくヒビだけで済んだ。これも買い換えたほうが良いのかな。
「ちゃんとついてきてね。手、繋ぐ?」
玄関の扉を開けながら、忌屋が私に左手を伸ばす。呆れて何も言えずに、ただ首を横に振る。忌屋は軽く舌打ちをして、つまんないのなんて言った。そんなの無視。
忌屋となんか、私は手を繋ぎたくない。私は、忌屋なんか好きじゃない。ただ、孤独のために、可愛い弟のために、やっているだけだ。えらいえらいお姉ちゃんで居続けるために、やっているだけ。
虚しいね、なんて忌屋に何回言われたか。それでも楽しいから良いや、なんてバカにされた回数なんて、最初から数えてない。
虚しいなんて、バカなんて、自分がよく分かってるっての。
こんなの幸せじゃない。望んでない。でも、やるしかない。後には引けない。
もう戻れない。
「忌屋、行こう」
- Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.90 )
- 日時: 2012/08/06 22:19
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
+55+
やって来たのは少しだけ大きなデパート。ときどき家具とかを買いに来る場所だ。シンプルなデザインの家具を売っている店があって、気に入っている。
確か、卓巳に姿見を選んであげた事がある。最初のころは普通だったんだよ。普通の男女みたいな関係だったんだよ。それなのに。
私は卓巳だけの物でありたかった。ずっと、卓巳は私の特別だから。ずっと私の中で一番で居てほしかった。たとえ、卓巳の中で私が一番じゃなくても。
「桐、何を買うの?」
「店長、私と孤独が変な関係だってこと、知ってますよね?」
綺麗な明かりでいっぱいのデパートに入りながら、私は店長に問う。前を向いているから、分からないけど店長は多分、私をじっと見つめている。
驚いていそうだな。
「うん、まあね」
「孤独の新しい首輪を買いに行くんです」
店長はまだ、私を見ている。私に後悔をしないで欲しいと言った。
それで、その言葉を聞いて私が選んだ道に、店長は口を挟まない。そんな所も、店長の良いところ。店長について行って、店長を信頼する人は多い。私もその中の1人だ。
私も、店長を信頼しているよ。まるで、兄のようにさ。
「……終わらせようと、思うんです」
首輪が離れていく絶望感は、誰よりも、知っているつもりだ。
- Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.91 )
- 日時: 2012/08/07 22:04
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
+56+
桐は、まっすぐにペットショップに向った。迷いなく動くその両足を、俺はただ後ろから眺めていた。
頼もしくなったと思う。人に上手に頼ることを覚えたと思う。桐は、成長した。元彼とはどうなのかは知らない。今も、連絡は取っているようだけど、多分桐は望んでいない。
自分がそれを望んでいないことに、気が付いたのだろう。自分を盲目的に愛してくれている孤独の存在に、気が付いたのだろう。
そうして、桐は決めたんだ。自分で納得する道を、見つけたんだ。
何だか、自分の子供が結婚するようだ。幸せじゃない。幸せになる道を、自分で作ろうとしている。自分だけじゃなくて、孤独も助けようとしてる。
凄いことだよな。桐、凄いよ。お前、強いよ。俺みたいにならないでくれた。俺の言葉通り、後悔をしない道を。俺とは違う道を。
俺は、後悔ばかりだ。後悔ばかりして、成長しないの。自分みたいにならないで欲しいって、結局は桐を利用して、俺とは違う道を見たかっただけかもしれない。
桐はそれに気が付いているかな。
俺、実は最低なんだよね。お前みたいに、成長できなかっただけなんだよ。
「何色がいいですかねぇ」
首輪が並んでいる棚の前で、桐は顎に指を添える。なんか、色っぽくて。ほら。築に似てる。そんな些細な行動さえも、築に見える。
築、築。俺、築ばっか。
「赤色が、良いよ」
「それは駄目ですよ」
そう即答したきりに、俺は微塵の疑問も抱かなかった。
- Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.92 )
- 日時: 2012/08/07 22:30
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)
+57+
「黒で良いかな」
「うん、良いだろ」
孤独なら、どんな物でも桐から貰えば宝物だよ。でも、それが別れを告げる物なら、どうだろうか。もっと真剣に考えたほうが良いかもしれないな。
「いつ渡すんだ?」
きっと、孤独は自己嫌悪に陥っているから、しばらくは桐の前に姿を現さないだろう。これは、確実だ。
それでも、俺は孤独を首にしない。自分から離れたいと思ったら辞めれば良い話。こっちから孤独は捨てない。孤独の判断に任せる。桐の時も、そうだった。桐は築に似ているから、捨てられなかった。孤独は、桐が大切にしているから、桐に必要だと思うから、捨てられない。
「うーん、孤独の家に行こうと思ってます。じゃないと逃げられそうだし」
想像したのか、桐の口角が少し上がる。その手には、皮でできた黒い首輪が大切に握られていた。孤独との日々を、思い出しているのだろうか。
桐と孤独の仲を、俺はよく知らない。興味が無かったと言えば嘘になるが、俺は桐と孤独なら大丈夫だと踏んだのだ。
でも、桐がまともになりかけているから、この関係は崩れようとしている。
桐が決めたんだ、選んだんだ。これは進化だ。
「その時には俺も呼べよ」
冗談交じりに言ったけど、本気。
もしかしたら、何てこと、あり得るかもしれないから。
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