複雑・ファジー小説

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コドクビワ、キミイゾン。【完結】
日時: 2013/01/06 17:00
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)

+目次+
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参照100記念>>27  あ  コメント100記念>>100
参照200記念>>40  り  あとがき>>137
参照300記念>>52  が  桐への愛情度:低>>139
参照400記念>>62  と  孤独への愛情度:低>>141
参照500記念>>71  う  卓巳への愛情度:高>>142
参照600記念>>77  !
参照700記念>>88  
参照800記念>>103  
参照900記念>>113
参照1000記念>>126
参照1100記念>>131
参照1200記念>>138
参照1300記念>>140

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.128 )
日時: 2012/08/31 20:00
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



+87+


いつもは上機嫌でその部屋に入るのに、今日は当然俯き加減で入った。
床を見ているとあの日、先輩に押し倒された事を思い出して、涙に目の前が滲みそうだった。
仕方なく、顔を上げると、俺が最後に入った時と同じように、先輩の臭いが充満した、先輩の部屋だった。
部屋の隅のベッド。片付いたシンク。いろんな色のクッション。丸い絨毯。小さな机。
まだ、変わっていない。俺はまだ、この部屋を知っている。
正直、この部屋に先輩に招かれて入るなんて、無いと思っていた。
これからはもう先輩に我儘を言って、俺はそれで満足するつもりだったから。

「忌屋卓巳に、会って来たの。自分の意志でね」

俺が何ていうか、俺がどう自分に良いように解釈するのか。それを理解して、予想して、先輩は先に手を打った。
そうか。自分で判断したのか。先輩は自分がそれを望んでいる事を知って、行ったのか。先輩が自分のことを自分で決めたなんて。
俺は靴を脱いで、クッションを抱えて座っている先輩に近づいた。
先輩の背後にある窓ガラスには、情けない顔をした俺が立っていた。

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.129 )
日時: 2012/09/01 22:50
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



+88+


「あの日のことは、知ってるでしょ?」

私はクッションを抱える手の力を強めながら、孤独を見上げる。孤独は今にも泣きだしそうな顔をして、私を見ていた。
少し、孤独に警戒して要る自分が居る。
最近孤独は何を考えているのかが分からない。卓巳の事は分かるようになった。でも孤独はどうしても分からない。孤独は私に色んな質問をしてきた。でも私は、孤独に質問をすることなんて滅多に無かった。だって、そもそも孤独に興味がなかったから。
でも今は違う。今はもう孤独を放って置くことなんてできない。お互いが認知して、別れを告げなければならないからだ。孤独の気持ちも、知ってあげなくちゃいけない。
孤独はゆっくりと、頷いた。

「……忌屋卓巳の今の、いや、元の彼女は、俺の……ねーちゃんっす」

そして、頷いて顔を下げたまま孤独は言った。
クッションに、爪が食い込む。
あぁ、そうか。そろそろ認めなくちゃいけないのか。そろそろ、知らなくちゃいけないのか。
私は覚悟を決めて、現実を受け止めるように息を深く吸った。
孤独の言葉を待つ。

「先輩が忌屋卓巳に捨てられたのは、俺のせいなんです」

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.130 )
日時: 2012/09/02 19:43
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



+89+


「どうしよう、俺、俺、先輩のこと、好きなのに」

初恋だった。今までどんなに素敵な人が俺に関わってきても、何も感じなかったのに。それなのに、先輩が現れた途端だ。俺の全てが壊れた。
先輩の行動が気になる。視線が気になる。
先輩の魅力、なんて、言葉にできない。できないのは、分からないから。俺は先輩にどうして惚れたんだろう。先輩のどこが好きなんだろう。分からない。でも先輩が好き。それだけは分かる。
先輩には、彼氏が居るって。そういった。他でもない先輩自身が。
先輩は今まで見せたことのないような嬉しそうな、幸せそうな顔で、そう言った。居るよって。俺の気持ちも知らないで。
イライラして、もやもやして。そんな変な気持ちに酔った俺は家に帰ってきて、ねーちゃんに縋った。
いつだって、ねーちゃんは俺の味方で、ヒーローだったから。助けてくれると思った。こんな変な感情から、早く逃げたかったから。
ねーちゃんは俺の話を黙って聞いていてくれた。先輩のこととか。全部全部。
話が終わるとねーちゃんは、俺の髪を撫でてくれた。ぜんぜん嬉しくなかったけど、安心した。
涙が止まらない。先輩のことを考えると、どうしても涙腺が緩む。

「……孤独は、お姉ちゃんが守ってあげるから」

ねーちゃんはそう言った。

苦しそうに、吐き出すように、諦めるかのように。

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.131 )
日時: 2012/09/05 18:31
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



+参照1100+


「……お帰り」

「ただいま」

久しぶりに、お互いがお互いの名前を呼ばない会話。そんな感覚が何だか変で、やっぱり相手の名前を呼びそうになる。
辰臣は精神が正常じゃなかったという理由で無罪になった。
それと。

「これからは、ずっと一緒。俺、嬉しいよ」

ストレートに心境を語る辰臣を見ていると、声を聞いていると、胸が苦しくなった。
こんな人じゃなかった。辰臣はもっと、ちゃんとした人だった。
この人をこうしてしまったのは、私。私がいきなりいなくなって、そしていきなり現れたから。
私をもう、失いたくないんだ。

「築?」

「うん」

聞いているよ、私の名前を呼ぶ辰臣にそう伝える。
その行為すら、彼には快感なんだ。私に自分の思いを伝えることで、自分が私のことを好いているってこと押し付けたいわけだ。そして、だから行くなよって、離れるなよって言いたいわけだ。そうして、私をゆるゆると縛って行きたいんだ。
それは、分かる。私ももしかしたら、逆の立場ならそうしたかもしれないから。
私は分かっているけれど、辰臣の策略に気が付いているけど、言わない。拒まない。それで、私たちの関係が保たれるなら。
辰臣は私の手を握る。そして、歩き出した。

「辰臣、好き」

「築、好き」

ありがとう、忌屋。
あなたが辰臣を煽ったって言ってくれたおかげで、私はまた辰臣の温もりを感じている。

もう会えないだろう相手の幸せを私は、そっと願った。


+おわり+


もう本編では出せないだろうから。二人のその後を書かせていただきました。企画ではなくてごめんなさい。
参照1100ありがとうございました。
ねばねば続けていてごめんなさい。(´・ω・`)

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.132 )
日時: 2012/09/08 12:18
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)



+90+


「俺、ねーちゃんが何とかしてくれるって言った。だから、信じたんだよ。先輩の彼氏が先輩を捨てれば、俺を見てくれるかもって」

そう、信じていた。
俺はねーちゃんなんて知らない。俺はねーちゃんのことなんか考えていない。俺は俺が幸せならそれで良い。ねーちゃんだって俺の幸せを願ってくれていたから。だから、ねーちゃんは何でもしてくれるって、そう思っていた。
でも、ねーちゃんは、俺なんてどうでも良かったんだ。俺の姉だっていう責任感から、先輩の彼氏を奪った。ねーちゃんは別に好きな人が居たのに、それなのに俺のために先輩の彼氏と付き合った。
そうして、俺が先輩の世界に入るための隙間を、作ってくれたんだ。だから俺は先輩を支えるからって、言ってあげた。そうしたら、先輩は喜んでいた。俺のねーちゃんが作った隙間が埋まるって、喜んでくれた。
だから俺は幸せだった。でも。

「先輩が、また彼氏と会ったから、だから」

追いだされるんじゃないかって、心配になった。
俺が守っているこの隙間は、元は彼氏の隙間。だから、俺の代わりができたら先輩は彼氏を選ぶから。だから。

「俺、決めたんだ。俺が、彼氏になれば良いって」

そうすれば、俺の居場所がきっとできるから。


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