複雑・ファジー小説

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コドクビワ、キミイゾン。【完結】
日時: 2013/01/06 17:00
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)

+目次+
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参照100記念>>27  あ  コメント100記念>>100
参照200記念>>40  り  あとがき>>137
参照300記念>>52  が  桐への愛情度:低>>139
参照400記念>>62  と  孤独への愛情度:低>>141
参照500記念>>71  う  卓巳への愛情度:高>>142
参照600記念>>77  !
参照700記念>>88  
参照800記念>>103  
参照900記念>>113
参照1000記念>>126
参照1100記念>>131
参照1200記念>>138
参照1300記念>>140

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.53 )
日時: 2012/07/01 14:52
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



+28+


「小片辰臣」

今日の仕事は、汚れた本の手入れ。クラスメイト達に押し付けられて始めた図書委員だが、今では気に入っている。
俺は、手を止めて、入り口に立っている穂波を見た。穂波は、俺を見つめながら、近づいていた。そして、俺の隣に座る。
耳に髪をかける、座るときにスカートを整える。そんなところは、女子っぽい。何だか見ていられなくて、俺は穂波の方から視線を外した。

「どうしたんだよ、穂波。校門で待ってるんじゃなかったの」

なんか、待っているのが当然みたいになって来ている。そんなんじゃないのに。
穂波は、相変わらず何を考えているのか分からない。

「ん? どうして? 別に良いじゃないか、小片辰臣」

首を傾げる穂波。可愛い。可愛い。くそ、可愛い。目がクリッとしてて、髪が傷んでいるけど、サラサラで。そんで、唇をプリッとしてて。彼氏とか、居るのかな。というか、なんで俺に構うんだ。

「あとさ穂波、なんで俺のことフルネームで呼ぶわけ?」

ため息を吐いて、邪念を振り切る。それでも、問いかける際に穂波の方を向くと、やっぱり、可愛い。とか考えちゃうんだよ。こんなに近いのは、初めてかもしれない。

「お前が私のことを、穂波、と呼ぶからだ。だけど私はお前の名前を呼びたい。そういうことだ。呼ばれたくないなら、私を築と呼べ」

なるほど。交換条件、みたいな感じか。我儘な。別に穂波も、小片って
呼べばいいのに。
そう思ったけれど、どこか期待するような目で見る穂波を、突き放せなかった。

「……築」

これが、俺達がお互いを名前で呼び合うようになった話。

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.54 )
日時: 2012/07/02 21:12
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



+29+


俺ってバカ。本当に、バカ。救われない。本当に、救われない。バカだバカだ。死んでしまいたい。消えてしまいたい。ここで俺が消えたとしても、先輩は悲しんでも、気が付いてさえもくれないか。そう考えたら、嫌だ。
俺は、いつまでもガキだ。何時でも大人っぽくて、落ち着いている先輩に会うような男になりたくて。でも、先輩の前じゃあ、余裕が無くなる。ねぇ、少しでも俺が、失敗を犯したら、消えてしまうでしょう。
はい、というわけで、終わりだ。俺、先輩にもう会えないよ。
我儘で、飛び出して来た。だって、言い訳させるように仕向けたのは、俺だ。先輩にあんな事を持ちかけさせたのは、俺。俺が、先輩を苦しめた、困らせた。
先輩は、俺だけの物じゃない。そんなの分かっていたのに。それでも、俺が先輩の物だったら、それだけで満足なはずだったのに。何時から、俺はこんなに欲張りになったの。これじゃあ、先輩に捨てられても、当然だ。
虚しい。心が虚しい。1人で抜いているときよりも、虚しい。ウソだろ。こんな気持ちになっちゃうなんて。

「、ぁ、あぁ、っ、ぁ」

呼吸がおかしい。首輪が息苦しい。先輩の指の跡が熱い。このまま、死んでも良いかもしれない。俺はぜひ、先輩で死にたい。
先輩の物である内に、死にたい。

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.55 )
日時: 2012/07/08 21:25
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)
参照: http://忌屋=いみや いりこさんにいただきました


+30+


目が覚めなかった。目を閉じているのか、分からないほど。足が切断されたかのように、重く。動けない。そんなボクの目を覚ましたのは、ポケットの中で震えた、携帯だった。体がびくりと震えて、迷った挙句、通話ボタンを押す。
ボクに電話をかけて来るのは、アイツしか居ない。

「……何」

自分でも驚くほど、掠れた声だった。喉がひりついて、痛い。

『今、どこ』

いつ聞いても、面白いことを言わない。そんなコイツに、嫌味の一つでも吐いてやりたかったけれど、うまく言葉が浮かばなかった。

「関係あるの」

やばい。自分で言って、吐きそうになった。桐の言葉がボクの心臓の中の皮膚を、剥がしていく。
関係、無いんだよ。無いから、無いから。だから、なんだよ。

『ある』

コイツみたいに、はっきり言えていたら、桐はまだボクのことを見ていたかな。
コイツには、根拠がある。理由がある。でも、ボクと桐にはそんな確かなものは無いから。だから、困るんだよ。何で桐を繋げば良いの。

『……忌屋、桐さんと会ってたの』

責めるわけでも無いその言葉に、笑いそうになった。なんだコイツ、ボクのこと全部分かってるつもりかよ。ふざけんな。
黙っているのを肯定と受け取ったのか、コイツは声を低くした。

『ねぇ、忌屋は、まだ、桐さんのことが好きなんだ。そうでしょ』

今度は、責めるような言葉で。ボクの頭の中で、プツリと何かを繋げていた物が、切れた。
その問いは、いけない。

「はあああああああああああああああああああああ? ふっざけんなよっ! なんでそうなんだよっ! 好きぃいいいい? っんなわけねぇだろ! ふざけたこと言ってると壊すよ! 良いの!?」

突然大声を出したボクに、周りの人間の目線が集まる。
気に入らない。気に入らない。全部、気に入らない。
ボクの手の中で、めきめきと携帯が悲鳴を上げている。

『……ごめん。壊さないで』

しばらく黙っていたコイツも、ボクの叫びに圧倒されたのか、すぐに折れた。一気に叫んだせいか、息が切れている。
気に入らない。気に入らない。汗が滲む。気に入らない。

「っは、分かればいーの。二度とふざけたこと言わないでよね。言ったら、本当に、壊すから。頭入れといて」

分かってるよ、その言葉を最後に耳に入れて、電話を切った。
気分が悪くなった。最悪だ。なんで、ボクがこんな目に。ボクは、なんでこんなに不機嫌なの。桐が、手元に無いからかな。手元に置こうかな。ボクの側に、繋いじゃおうかな。
そうだな。
繋ぐのにはやっぱり、首輪が一番だよね。

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.56 )
日時: 2012/07/05 22:10
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



+31+


震える指で、電話を切った。久しぶりに、重く長い溜息が出た。口で肺の全てを出し切ってから、息を吸い、今度は鼻から空気を出す。それでも心は落ち着かない。
相当、忌屋はキている。私の言葉で、不安定なのがもっと不安定になってしまっただろう。私は、それが目的だったのかな。私は忌屋に電話をかけて、どうしたかったのだろう。心配、だったのかな。忌屋が心配だったのか。
無いな。それは無い。だって、忌屋さえいなければ。

携帯をゴミ箱に放り投げた、その時。
玄関で物音がした。
人間が入ってくる、音。
両親は仕事でぐっすり眠っている。あの子しかいない。
私は椅子から立ち上がって、玄関に向かった。

暗い玄関で、蹲っている人影。肩が情けなく震えていて、泣いて居るようだ。
私は、バカだ。何をしているのだろう。バカだ。大バカ者だ。私は、この子を守ると決めた。それなのに。
自分が情けなくて、こちらが泣いてしまいそうだった。
そんな自分を慰めるかのように、彼に近付いて後ろから抱きしめた。
私の心が埋まっていく。彼の涙は止まらなくても。それでも、今は私が満足できるから。それで今は、私は私を繋ぐの。

「泣かないで、孤独」

彼は泣きやまなかった。
私の声は彼の鼓膜を揺らさない。
それで良いの。
今はそれが良いの。

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.57 )
日時: 2012/07/06 20:30
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



+32+


正直な感想を言えば、面倒なことになったな。それが一番だろ。
可愛い可愛いアルバイトの忘れ物を届けに、桐の家に行った。その時点でおかしいんだけど。
アルバイトは桐に懐いて居る。尋常じゃないくらいに。まぁ、止めはしないけど、仕事に支障が出るのは勘弁かな。そこまで行かなければ、全然オーケー。
精神がガタついている人に対しての抵抗は、凡人と比べたら無い方だ。だって、心が病んでいるからって、なんだ。だから、桐が少しおかしくなっても、店で雇い続けた。

「プリン食べるか?」

後で食べようと思って買ったプリンを、コンビニの袋から出して差し出すと、桐は遠慮なく受け取った。
いやぁ、驚いた。まさか、桐が孤独の首を絞めているとは。
桐が人と会っているらしい、なんて俺が言わなければ、こんなことにはならなかったか。
人の首を絞めた後とは思わないほど、桐は落ち着いていた。自分で整理しようとすると、キちゃうことがあるから、無理しなくて良いけど。
スプーンも渡してやると、啄むように食べ始める。俺のプリン。
桐は、自分で自覚しているタイプのキている人だ。孤独は、違う。自分で気が付かない。このままじゃあ、共倒れだ。孤独が倒れて、追い込まれた桐が壊れる。それだけは、止めないとな。
俺は、守るよ。
桐じゃない、孤独じゃない。

何よりも、自分のために。


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