複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

コドクビワ、キミイゾン。【完結】
日時: 2013/01/06 17:00
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w1J4g9Hd)

+目次+
?>>1 1>>2 2>>3 3>>4 4>>5 5>>6 6>>7 7>>8 8>>11 9>>12 10>>15 11>>16 12>>17 13>>18 14>>19 15>>20 16>>23 17>>28 18>>32 19>>36 20>>39 21>>43 22>>44 23>>45 24>>46 25>>47 26>>48 27>>51 28>>53 29>>54 30>>55 31>>56 32>>57 33>>58 34>>61 35>>63 36>>64 37>>65 38>>66 39>>67 40>>68 41>>69 42>>70 43>>72 44>>73 45>>74 46>>75 47>>76 48>>80 49>>81 50>>84 51>>85 52>>86 53>>87 54>>89 55>>90 56>>91 57>>92 58>>93 59>>94 60>>95 61>>96 62>>97 63>>98 64>>99 65>>101 66>>102 67>>104 68>>105 69>>106 70>>107 71>>108 72>>109 73>>110 74>>111 75>>112 76>>114 77>>115 78>>116 79>>117 80>>118 81>>119 82>>120 83>>123 84>>124 85>>125 86>>127 87>>128 88>>129 89>>130 90>>132 91>>133 92>>134 93>>135 END>>136

参照100記念>>27  あ  コメント100記念>>100
参照200記念>>40  り  あとがき>>137
参照300記念>>52  が  桐への愛情度:低>>139
参照400記念>>62  と  孤独への愛情度:低>>141
参照500記念>>71  う  卓巳への愛情度:高>>142
参照600記念>>77  !
参照700記念>>88  
参照800記念>>103  
参照900記念>>113
参照1000記念>>126
参照1100記念>>131
参照1200記念>>138
参照1300記念>>140

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.103 )
日時: 2012/08/29 22:08
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: w93.1umH)


+参照800+


「ねーちゃん、とりだ」

青空を裂くように羽ばたく鳥を俺は見上げる。側に立っていたワンピースの似合わないねーちゃんが、俺の頭を撫でる。
お母さんとお父さんは、居ない。内緒で出てきた。
パンを持ち出して、小さな冒険の気分だった。俺が勇者で、そうだな、ねーちゃんは魔法使いってところか。

「こどく、鳥はどうしてとんでいるんだとおもう?」

それで2人で冒険に行くんだ。でも、それなら俺は魔王は倒しに行かない。ねーちゃんとのんびり弱いモンスターを倒して過ごすの。
飽きそうだから、もう1人欲しいな。弓使いとか。

「うーうん、わからなーい」

そんなことを考えるなんて、ねーちゃんは変な人だな。
綺麗な黒髪を、風が攫って行く。俺の髪は少し茶色いから、少しだけねーちゃんが羨ましい。いつか俺も、綺麗な黒色の髪になるかな。

「それはね、ふまれないためだよ」

「ふまれない?」

そっと右足を上げると、潰れた蟻がまだ足を動かしていた。ずらすこともなく、もう一度蟻の上に足を置く。
空を見上げると、もう鳥は居なかった。ねーちゃんはそれでも空を見上げていた。

「そう。ふまれて、しなないため」

そうか。そうだったんだ。俺は、鳥はただ空が好きだからだと思っていた。俺とねーちゃん、そしてお母さんやお父さんは、空を見ていたいから、ここに居るんだとそう思っていた。
俺が空をじっと見ていると、病院の屋上のフェンスを上っている人がいた。

「あのひとは?」

ねーちゃんも、その人を見る。
屋上のギリギリまで来て、空を見上げている。

「あの人は、そらになりたいんだよ」

そういって、ねーちゃんは来た道を振り返る。俺もねーちゃんに急かされて、振り返る。
ちらっと映った病院の屋上からは、人が落ちていっていた。

「そらに? あのひとは、ばかなの? そらはうえにあるのに」

ねーちゃんは振り返らなかった。ねーちゃんはいつもそう。
ねーちゃんはいつだって、素敵で、強くて、綺麗で。良いよね、ねーちゃん。
俺も、ねーちゃんみたいに物知りになりたい。

「そうだね。あれじゃあつぶれて、じめんになっちゃう」

本当に、バカばかり。
そんなことを呟いたねーちゃんは、やっぱりカッコよくて、やっぱり頼りになる。
俺は急いでねーちゃんの後を追う。

ちゃらーん!孤独はレベルアップ—!


+おわり+

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.104 )
日時: 2012/08/15 17:45
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)



+67+


「あー、良かった。先輩はほら、優しいじゃん?」

孤独は私を通り過ぎて、奥の方にあるロッカーを開けた。その中に小さなバッグを入れる。私は動かなかった。

「優しくなんか、ないよ」

絞り出した声に、孤独は反応したようだ。布の掠れる音が消える。
孤独の行動が、止まったんだ。

「孤独、」

謝ろうと思った。ごめんって。
ごめん。孤独。孤独の気持ち考えてなかったよ。ずっと私で縛ってごめん。それが孤独の幸せだろうけど、最善では無い。そう。この間、孤独が不安なのに気が付かないで、卓に会いに行っちゃって、ごめん。
それだけでも、今は謝りたかった。
それなのに、私が孤独の名前を呼んだ後、孤独がロッカーを勢いよく閉めるものだから、続きを言うことができなかった。
大きい音に、私の呼吸が止まりそうになる。

「そんなことないっすよ。先輩は優しい。だけど、けど」

孤独が近付いてくる。
私は咄嗟に置いてあったエプロンを手に取る。
何を思ったんだろう。でも、握る物が欲しかった。

「俺以外に優しくするのは、良くないよ、先輩」

あれ。おかしいな。孤独ってこんなに欲張りだっけ。

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.105 )
日時: 2012/08/15 18:10
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)



+68+


「……孤独、話がある」

俺の部屋に入って来たねーちゃんは珍しく浮かない顔をしていた。
基本ねーちゃんは先輩のように感情を表に出さない。でも、俺の前では笑っていることが多い。俺を安心させるために。俺に不安を与えないために。
そんなねーちゃんを俺は何時だって頼りにしてきた。ねーちゃんのこんな顔は、見たくない。さみしそうな顔。
止めてよ、不安になっちゃうだろ。

「……何」

布団を面して、顔を全部出す。ねーちゃんは後ろ手にドアを閉めて、ベッドの横に座った。
俺に目線を合わせてくれる。俺を思ってくれる。

「桐に、会いに行って、孤独」

「……先輩に?」

なんで、いまさら。俺が先輩に会いに行っても、もっと嫌われるだけ。もっと迷惑をかけるだけ。今更、先輩にどんな顔をして会いに行けばいいんだよ。
俺は布団を被った。会いたくない。会って、嫌われてしまったら、もう俺に居場所はない。俺は、そうしたら。先輩を失った俺の人生なんて。要らない、要らないよ。

「ごめんね、孤独。役に立てなくて、ごめん。お姉ちゃんは、孤独だけの桐にすることはできなかった。でもね、孤独」

布団をどけて、ねーちゃんを見る。
ねーちゃんは笑っていた。柔らかい、いつもの顔で、笑っていた。

「そろそろ自分で動け、ばああああああああああああああか!!」

その両目からは、涙が流れていた。

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.106 )
日時: 2012/08/17 17:37
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)


+69+


孤独に、何かあったのだろうか。心が変わるような、何か。良いことかな、悪いことかな。ちょっと不安だ。そして、怖い。孤独がいつもと違う。前と違う。私の行動に素直に従い、自分の感情と浴場を抑えて来た孤独じゃない。明らかに違う。自分の欲を私に押し付けようとして来ている。
私は息をのんで、エプロンを着た。
店長と卓巳、そして、築。あの日のことを、孤独が知っている。私が看病に行くことを、阻止しようとして居る。誰かに、言われたんだな。
卓巳と、私のこと。誰に。私と卓のことを知っているのは、誰だ。
店長?違う。あの人は、知らないはずだ。

「孤独、店長に会った?」

ロッカールームのドアノブに手をかける。孤独は振り返らない。

「会ってませんよ。大変らしいですね。でも、すぐに帰ってきますよ」

きっと、孤独は笑ってる。私の知らない顔で、笑ってる。
嫌だな。孤独まで、私の知らないところに行くんだね。でも、それなら安心。私の知っている孤独を記憶のまま、別れを告げれば良い。
店長にも、私の知らないところがあった。
みんな、変わってしまう。

「あの人、頭おかしいんでしょ?」

Re: コドクビワ、キミイゾン。 ( No.107 )
日時: 2012/08/17 17:57
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 5VUvCs/q)



+70+


「孤独、そんな言い方は、」

思わず振り返ると、すぐそばに孤独の顔があった。驚いて、のけぞるとドアとぶつかって乾いた音がした。孤独の顔は、私の動きを追ってくる。

「あれ? ダメなんすか? んーじゃあ、あの人疲れてるんでしょ?」

なんだこれ。なんだコイツ。こんな奴、知らない。こんなもの、知らない。孤独じゃない。孤独はどこに行っちゃったの。帰ってきてよ。ヤダヤダヤダ。なんでこんなこと考えてるの、私。孤独になんで私縋ってるの。
私は、孤独を利用して来ただけ。自分が壊れないための。って、壊れそうだ。孤独に壊されそうだ。

「どうしました? 先輩、汗が出てきてますよ?」

孤独の手が、私の顎を撫でる。
確かに、汗が酷い。手が震えてきた。拳を握る。
早くしないと、戸口さんとか、来ちゃう。早く話を切り上げないと。早く、孤独との関係を切らないと。

「あーそうだ先輩。なんで店長のこと気にかけてるの? 俺以外に優しくしないでって、言ったばっかじゃん」

気が付けば、瞬きさえ忘れていた。
卓巳に追い込まれているときのように。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。