二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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『ハリー・ポッター』二次小説〜騎士王の末裔〜   
日時: 2016/05/10 22:19
名前: ウルワルス (ID: LF8j4K3p)

〜第一部〜  目次

主要登場人物紹介 >>01

第1章  初めての友達 >>02 >>03 >>04

第2章  組分け >>05 >>06 >>07 >>08 >>09

第3章  魔法史と いも虫 >>10 >>11

第4章  ハグリッドの小屋にて >>12 >>13

第5章  飛翔 >>15 >>16 >>18

第6章  クィディッチ >>19 >>20 >>21

第7章  クリスマス休暇 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27 >>28 >>29

第8章  蛇と蠍 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34

第9章  禁じられた森 >>35 >>36 >>37

第10章  序曲終了 >>38

あとがき >>39


第二部 >>40


第三部 >>153


訂正>>132 >>135 >>136 >>145

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Re: 『ハリー・ポッター』二次小説〜騎士王の末裔〜   第一部 ( No.32 )
日時: 2013/03/24 13:23
名前: ウルワルス (ID: MDrIaVE2)

 入学から7ヶ月余りが経ち、季節はもう初夏だった。学年末試験が近付き、生徒達は勉強に追われるようになった。そして、夜空には蠍座が見えるようになっていた。

 天文学の授業で星空を観察しながら、スコープは幼い頃の日々を思い出した。幼い頃は、屋敷の近辺の星空をよく箒で飛んだものだ。空中高くから、箒に乗って眺める星々の美しさは、格別だった。
 「箒」といえば、スコープは週に1度のローズへの、箒での上手な飛び方のレッスンを続けていた。ローズは、見違えるように上達していた。「ローズ。」
 スコープは、隣で蠍座をスケッチし、星の名称・等級などを書き込んでいたローズに声をかけた。ほとんどの生徒は互いに私語しながら作業を進めていたから、授業中とはいえ特に問題はなかった。
「君は、星空のもとで飛んでみたいとは思わないかい?」
「空中から星を眺めるなら、周りに余計な光が無いわけだから、地上から見るよりも綺麗でしょうね。」
「では、この授業が終わったら決行しようか?」
 ローズは一瞬躊躇したが、頷いた。



            *



 ローズは、グリフィンドールの談話室でスコープを待っていた。
 それにしても、自分がここまで「不良」になるとは、入学当初には思ってもみなかった。先生に見つかれば、グリフィンドールは大幅に減点されるだろう(もっともグリフィンドールは他寮、特にスリザリンに対して大幅にリードしているから、あまり影響はないかもしれない)。それにも関わらずスコープの提案を受け入れたのは、その提案に対して非常にロマンティシズムを感じたからだった。男女が一緒に(しかも空から!)星を眺めるなんて、まるで恋人同士みたいではないか。

「待たせたね。」 スコープがやってきた。「行こう。」
 だが、玄関ホールで障害に行き当たった。ホグワーツ城に住み着いているポルターガイストのピーブズが、ホールの壁にボールを打ちつけてテニスをしていた。
「今夜は諦めた方がいいかも・・」
 大理石の階段の陰に隠れながら、ローズは小声で言った。
「いや、その必要はない。」
 スコープは自信ありげにそう言うと、ローブの中から掌サイズのボールのような物を取り出した。
「インスタント煙幕『ダークネス』だ。君の伯父上のお店の商品だよ。」
 そう言いながら、スコープは今度は蝋燭と、しなびた「手」を取り出した。ローズは悲鳴を上げそうになったが、スコープは魔法を使って蝋燭に火を点し、「手」に取り付けた。それからスコープがインスタント煙幕のスイッチを入れると、玄関ホールは瞬く間に暗黒の支配するところとなった。蝋燭に点火したはずなのに、その灯りも見えない。
「な、何だ!? どういうことだ!? 何にも見えない! こんなことは初めてだ!」
 あのピーブズが、慌てふためいている。だが、それはローズも同じだった。
「スコープ、どこにいるの!?」
「さっきから君の傍にいるよ。」 
 ローズは、スコープに手を握られるのを感じた。
「僕の方では君が見えてる。『輝きの手』があるからね。」
 スコープはローズを先導しながら言った。
「あの『手』も、WWWの商品なの?」
 スコープのひんやりとした、しなやかな手の感触を感じ、ローズはどぎまぎしながら尋ねた。
「いや。クリスマスに父上がくださった物だよ。見てくれは悪いけど、今みたいな状況ではとても便利だ。」





            *




 来年度に備えてクィディッチの練習をするというサウロス・マルフォイに付き合って、マヌイル・ノットと共に真夜中の飛行訓練場に来ていたヴァレンティン・レストレンジは、こちらに近付いてくる2つの足音を聞いた。
「まずいぞ。誰かがこっちに来る。」
 ヴァレンティンはサウロスとマヌイルに警告し、3人は箒倉庫の後ろに隠れた。やって来たのは2人のグリフィンドール生、スコーピウス・マルフォイとローズ・ウィーズリーだった。ヴァレンティンは激しい嫉妬を覚えた。
 ウィーズリーには、初対面時から惹かれていた。だからこそ、入学した最初の週に、早くも言い寄ったのだ。必ず受け入れられるという万全の自信があったが、彼女はにべも無くはねつけた。それを恨んで、初めての飛行訓練の時間に彼女を侮辱し、挙げ句の果てには箒から突き落としてしまったのだが、これがいけなかった。自分が所属するスリザリンがホグワーツ史上最大の減点の対象になったばかりか、これをきっかけにウィーズリーは自身の宿敵スコーピウスに想いを寄せるようになった。鈍感なスコーピウスは気付いていないだろうが、その手のことに経験が豊富なヴァレンティンは、魔法薬の授業などの際に、既に感づいていた。

『ハリー・ポッター』二次小説〜騎士王の末裔〜   第一部 ( No.33 )
日時: 2016/03/18 00:15
名前: ウルワルス (ID: nLJuTUWz)

「どうして倉庫の戸が開いてるのかしら?」
 ウィーズリーが言った。
「大方、閉め忘れたんだろう。教師や管理人といえど、もの忘れくらいするさ。」
 スコーピウスが答えた。
「そうでなければ、誰かが僕達みたいに、箒を拝借するために開けたってことになる。どちらにせよ、心配する必要はないと思うな。」
「仮にその人達が、私達のことを先生方に密告しようと思っても、できないものね。」 ウィーズリーが言った。
 そして2人はそれぞれ箒を取り、空中高く飛び去った。最近の飛行訓練の時間(ヴァレンティン達3人にとっては「清掃時間」でしかないが*)にも思っていたことだが、ウィーズリーは飛ぶのが随分と上手くなっていた。

「ウィーズリーのやつ、『密告しようと思ってもできない』とほざいていたが、それはどうかな。」
 マヌイルが言った。
「僕は父上を呼んでくる。グリフィンドールから減点するチャンスだ。」 マヌイルは城に向かって走っていった。
 残されたヴァレンティンとサウロスは、スコーピウスとウィーズリーが飛び去った後の夜空を見上げた。
「スコーピウスのやつ、あの穢らわしい『混血』と仲良くしやがって。」 サウロスがいまいましげに言った。
「やつらの関係がこのまま発展すれば、将来、由緒正しきマルフォイ家の血筋に『穢れた血』が混じることになってしまう。そんなことには耐えられない・・」
 それを聞いて、ヴァレンティンも「そんなことには耐えられない」と思った。サウロスが言ったのとは違う意味でだが。




            *




「試験が近いとはいえ、一晩分の勉強時間を棒に振るだけの価値はあるだろ?」 スコープが言った。
「ほんとね。とっても綺麗・・」 ローズは答えた。
 2人は、満天の星々の下、澄み切った夜気を身に受けながら飛んでいた。
「僕は7月20日の夜に生まれたんだけどね、」 スコープが切り出した。「僕が生まれた時、夜空にはアンタレスが普段にも増して明るく輝いていたそうだよ。」
「アンタレスって、蠍座(Scorpius)のα星よね。」
「だから、両親は僕を『スコーピウス』と名付けたんだってさ。
 君の御両親は、どういう動機で『ローズ』と名付けたのか知ってる?」
「単にママが、薔薇(rose)の花が好きだったから、だそうよ。」
 そんな他愛もない会話をしながら、2人はしばらく飛び続けた。

「そろそろ戻ろう。明日も授業があるから、朝寝坊するわけにもいかないし。」 スコープが言った。
 ローズとしては、スコープと一緒に もう少し星空の下での飛行を楽しみたかったが、彼の言うとおりだった。急降下を始めたスコープに続いて、ローズも箒を降下させた。


            *


Side:スコープ




 ぐんぐんと降下していたスコープは、地上に4つの人影を認めた。それらの人影は確かに、自身の宿敵であるサウロス・マルフォイ、ヴァレンティン・レストレンジ、マヌイル・ノット、及びマヌイルの父親にして魔法薬学教授兼スリザリン寮監セオドール・ノットのものだった。スコープは驚きの余り「あっ」と声を上げ、思わず箒から手を放してしまった。
 スコープは地面に叩きつけられ、その際に右腕が嫌な音をたてるのを感じた。骨折したに違いない。
「スコープ!」 ローズが着陸した。「一体どうしたの!? 大丈・・」
 ローズの言葉が止まった。ノット達に気付いたらしい。
「これは、これは。」
 セオドール・ノットが、冷たい笑みを浮かべながら言った。
「スコーピウスに、模範生であるはずのミス・ウィーズリーではないか。真夜中に、しかも学校の箒を使って空中デートとは、感心できんな。グリフィンドールから、1人につき100点ずつ減点する。」
「父上、罰則はどうします?」 マヌイルが、にやにやしながら言った。
「そうだな。書き取りやトロフィー磨きでは、こやつらには生ぬるかろう。」
「ノット先生が許可するからと言って、管理人に体罰を与えさせるってのはどうです?」 サウロスが言った。
「私達は規則を破ったのだから、どんな罰であろうと受けるに値することは、分かっています・・」 不意に、ローズが言った。
「だけど、どうしても受けたくない罰があるのですが・・」
「ほう、それは何だね?」 ノットが、残酷な笑みを浮かべながら言った。
「『禁じられた森』に入ることです。本で読んだんですけど、あの森には、アクロマンチュラ、狼男、トロール、巨人など、恐ろしい生き物がたくさんいるんですよね?」
「分かった。では、君とスコーピウスには、明日の夜にでも『禁じられた森』に入ってもらおう。」 ノットが言った。
「そんな・・!」
 ローズが悲痛な声で言った。サウロスとマヌイルは、さも愉快そうに笑った。一方ヴァレンティンは、なぜか少し気の毒そうにローズを見ていた。



* >>18

Re: 『ハリー・ポッター』二次小説〜騎士王の末裔〜   第一部 ( No.34 )
日時: 2012/11/11 16:12
名前: ウルワルス (ID: e22GBZXR)

 ノット達は行ってしまった。
「ごめん、僕のせいで・・。」
 スコープは、右腕の痛みに耐えながら言った。
「だけど、どうしてあんなことを言ったんだ? ノットが、君の要望を聞き入れるわけないじゃないか。」
「あれは計略よ。」 ローズは、スコープが立ち上がるのを手伝いながら言った。「ノットが私達を、『禁じられた森』に行かせるよう仕向けたの。」
「なら、どうしてもっとましな罰を願わなかったんだい? まあ、森の方が管理人の体罰よりはましだろうけど・・」
 ローズに付き添われて医務室に向かいながら、スコープは尋ねた。
「甘すぎる罰だと、こちらの思惑がばれちゃうでしょ? それに、森に入ることだって、充分『甘い』罰だと思うわ。きっとハグリッドが一緒だろうから。」
「なるほど。確かに、ハグリッド先生がついていれば、森の生き物もそう簡単には襲って来ないだろうね。それにしても、君ってほんとに賢いね・・」


 翌日、寮の得点を記録している大きな砂時計のそばを通ったグリフィンドール生達は、前日より200点も減っていることに大いに驚いていた。
「君は、昨晩寮にいなかったね?」
 ルームメイト達* が、スコープに尋ねてきた。
「もしかして、君が減点されたの?」
 スコープは申し訳なさでいっぱいになり、包み隠さず事情を語った。
「畜生、ノットのやつめ。」 フランク・ロングボトムが言った。
「ノットの不公平極まりない処置に対して何か手を打ってくれるよう、父さんに頼んでみるよ。」
「一緒に星を眺めようと誘うなんて、君はウィーズリーのことが好きなのか?」
 ラウル・アンダーソンが、にやにやしながら言った。
「好きかって? ローズは僕の親友だよ。嫌いなわけないじゃないか。」
 スコープは、なぜそのようなことを訊くのだろうと不思議に思いながら答えた。
「あ、そう。」 何故かラウルは、面白くなさそうに言った。






* 補足 〜スコーピウスのルームメイト〜

アルバス・ポッター
フランク・ロングボトム
ラウル・アンダーソン
ジム・カーペンター
 

Re: 『ハリー・ポッター』二次小説〜騎士王の末裔〜   第一部 ( No.35 )
日時: 2012/12/21 12:09
名前: ウルワルス (ID: e22GBZXR)

 夕食の席で、スコープとローズ宛に手紙が届いた。

−−予定通り、処罰は今夜行う。11時に玄関ホールに来ること。−−


 午後11時、スコープとローズが玄関ホールに行くと、そこには管理人がいた。森の外れにあるハグリッドの小屋まで2人を送る道中、管理人は禁じられた森にまつわる恐ろしい話を散々聞かせてくれた。ローズは大して気に留めていないようだったが、スコープは森に入るのが恐ろしくなってきた。

「2人とも、一体何をしでかしたんだ?」
 管理人から2人を引き取り、森に向かいながら、ハグリッドは尋ねた。2人が事情を説明すると、彼はノットに対して大いに憤慨したが、同時に感動しているようでもあった。
「ロンとハーマイオニーの娘と、ドラコの息子が、ここまで親密な関係になるとはな・・」
「どういうこと?」 ローズが尋ねた。
「私の両親はスコープのお父さんのことを、学生時代からの知り合いみたいに話してたけど、どういう関係だったの?」
「僕の父上は、君の母上、ハーマイオニー・ウィーズリー女史とは、ホグワーツの同級生だったみたいだよ。」 スコープは言った。
「じゃあ、スコープのお父様は私の父とも同級生だったってことね。両親は同年だから。」
「ことわっておくが、お前さん達の親同士は、仲が良いといえるような関係ではまったくなかったぞ。」
 ハグリッドが言った。
「父上はスリザリン生だった。ローズの御両親は、きっとグリフィンドールの出身だよね?」
 スコープは言った。
「ええ。」
「だったら、仲良くなれるわけがない。だけど、もし父上がグリフィンドールに配属されていたら、きっとローズの御両親と友達になっていたと思うよ。ローズの母上はマグル出身みたいだけど、父上は一族の者達とは違って、純血主義者ではまったくないからね。」
「・・そういえば、3年前にトランシルヴァニアで純血支持法が撤廃された際には、ドラコの尽力が大きかったそうだな・・。」
 ハグリッドが言った。
「だが、スコープ。親父さんは、自分の学生時代についてはあんまり話さないんじゃないのか? 違うか?」
 3人は大分前に森の入り口に着いていたが、立ち止まって話し続けていた。
「僕が学生時代の父上について知っているのは、スリザリン生だったこと、ハリー・ポッターやウィーズリー女史と同級生だったこと、クィディッチ・チームのシーカーだったこと、監督生だったこと、くらいでしたが・・これだけ話してくれたら充分ではないですか?」
「そ、それもそうだな。どのみち、俺がとやかく言うようなことではないし・・」
「あそこの地面の上にある、あの光った銀色のものは何?」 不意にローズが言った。
「ああ、あれはユニコーンの血だ。」 ハグリッドが言った。
「先週に2回発見された。今日で3回目だ。何者かに襲われたに違いない。」
「ユニコーンは、とても動きが素早いんでしょう? ユニコーンを襲える程の生き物が、この森にいるの?」
 ローズが尋ねた。
「実は、今から26年前にも、同じことがあった。」 ハグリッドが言った。
「その時にユニコーンを襲っていたのは、何者なんです?」 スコープは尋ねた。
「・・・『名前を言ってはいけないあの人』だ。」
「じゃあ、今回の襲撃の犯人は別の人物、或いは生き物ってことになるわね。『あの人』はハリー叔父さんに退治されたんだから。」
 ローズが言った。
「ああ。だが、気をつけてくれ。それに、ユニコーンが襲われただけじゃない。年が明けてからというもの、森全体の雰囲気が何となくおかしいんだ。先週ケンタウルス達に会ったんだが、彼らも同じことを感じているらしい。
 では、そろそろ行くとするか。襲われて苦しんでいるであろうユニコーンを、助けてやらねばならん。」
 少し歩くと、道が二手に分かれていた。
「二手に分かれよう。俺は左の道を行くから、2人は右の道を行ってくれ。ユニコーンを見つけたら緑色の光を、もし危険な状態に陥ったら、赤い光を打ち上げてくれ。
 じゃ、気をつけてな・・」

「ルーモス(光よ)」
 2人は杖先に灯りを点し、歩き始めた。森は真っ暗で静まりかえっていた。何も脅威は感じられなかったが、スコープの恐怖は森の中を進むにつれ、ますます昂じていった。森に入るのはもちろん今夜が初めてだったが、ハグリッドの言うとおり、何かがおかしい、異常だという感じは拭えなかった。何か、本来いてはならない生き物が、この森にいる・・・。
 突然ローズが、スコープのローブの袖を引っ張った。
「見て・・」 ローズは囁いた。   

Re: 『ハリー・ポッター』二次小説〜騎士王の末裔〜   第一部 ( No.36 )
日時: 2012/11/18 14:52
名前: ウルワルス (ID: e22GBZXR)

 小川の畔に、背に傷を負ったユニコーンが蹲っていた。スコープは、これほどまでに美しい生き物を見たことがなかった。すらりとした体躯は純白に輝き、角と鬣は真珠色の光を放っている・・・。
「ハグリッドに知らせなきゃ。」 ローズが杖を掲げた。
 その時だった。突然ユニコーンは立ち上がり、走り出そうとした。しかし、まるで透明な何かに引き裂かれたかのように、背から脇腹にかけての部位から銀色の血が迸った。ユニコーンは断末魔の嘶きを発し、地に倒れた・・・。
「そんな・・」
 ローズはユニコーンに駆け寄り、跪いた。
「死んでる・・・。私達が森の入り口でぐずぐずしていなければ、助けてあげられたかもしれないのに・・・」
 スコープも責任を感じながらユニコーンに近寄り、その傍らに跪くローズを見やった。彼女は泣いているらしく、両肩が小刻みに震えている。スコープは黙ってローズの両肩を抱き、立たせた。ローズはそれを振り払うことなく、身を寄せてきた。2人は身を寄せ合ったまま、ユニコーンの屍−−美しくも悲しい光景−−に、ハグリッドに合図を送ることも忘れてしばし見入っていた。
 不意に、疾駆する蹄の音が聞こえてきた。スコープとローズは反射的に杖を構えた。
 やって来たのは、半人半馬の生き物、ケンタウルス達だった。10人はいる。皆、背に矢筒を背負い、手には弓を持っている。
「遅かったか・・・」
 ユニコーンの死体を見て、先頭を走ってきた金髪のケンタウルスが言った。それから、彼はスコープとローズに話しかけた。
「私の名はフィレンツェ。この森に住むケンタウルスだ。
 君達はホグワーツの生徒ですね? こんな所で一体何をしているのです? ユニコーンが殺されたのに、君達はどうやって助かったのですか?」
「分かり切ったことではないですか、父上。」
 2人が答えるより先に、フィレンツェと同じく金髪のケンタウルスが言った。こちらはまだ若い。人間に例えるなら、せいぜい17歳くらいだろうか。
「こいつらがユニコーンを殺ったに違いありません! それで説明がつきます。」
「慎め、ラバン。」 フィレンツェが言った。
「この2人はまだ『子馬』だ。ユニコーンを殺すことなどできないし、そのようなことは考えもしないだろう。」
「私達は、罰則としてこの森に入ることになったんです。」
 ローズが言った。
「少し前までハグリッドと一緒でした。手負いのユニコーンを見つけるよう言われて、探していたら・・」
「ここでユニコーンを見つけました。」 
 スコープは後を引き継いだ。
「ハグリッド先生に知らせようと思ったら、透明な何者かに襲われたみたいにいきなり大量に出血して、そのまま死んでしまったんです。
 なんで僕達が無事だったのかは分かりません。ユニコーンを襲ったのは、捕食するためだったのでしょうか・・」
「だったら、死体をそのままにしていくはずがないだろう。」
 ラバンが、疑わしそうに言った。
「ハグリッドから既に聞いたかもしれませんが、ユニコーンが殺されたのは今回が初めてではありません。」
 フィレンツェが言った。
「26年前にも同じことがありました。その時の犯人は、死の淵にある命を長らえさせる効能を持つ血を飲むために、ユニコーンを殺しました。しかしこの度は、どうもそれとは違うようだ・・」
「殺した後はそれっきりとは、遊びとして殺したとしか思えない。」
 別のケンタウルスが、怒りに声を震わせながら言った。
「火星が明るい・・」
 不意に、フィレンツェが言った。その目は、一際明るく輝く赤い星に向けられていた。
「火星が明るく輝くのは、大きな戦いの前触れです。」
「『例のあの人』の死によって、魔法戦争は終わったのではないのですか?」
 ローズが言った。
「我々ケンタウルスも、当初はそう考えていました。しかし、火星の輝きは薄れるどころか、近年ますます強くなっています。これほどの長期間火星が明るく輝き続けたのは、我々の間に伝わっている限り、1例だけです。」
「それって、『カムランの戦い』に至る20数年のことですよね。」
 スコープがそう言うと、ケンタウルス達は驚いたようだった。
「歴史の本に書いてありました。火星が輝き続けていたにも関わらず、人々はモルガン・ル・フェイの死により戦いは終わったと考えていたことも・・。
 何だか、今と状況が似ているような・・」
「その通りです。」 フィレンツェが言った。
「だが、同じではない。『カムランの戦い』に至る時期に明るく輝いていたのは、火星だけでした。しかし近年は、アンタレスも火星に劣らぬ輝きを放っています。」
「アンタレスが一際明るく輝き始めたのは、12年前の夏からだ。」 別のケンタウルスが言った。
 スコープは、はっとした。自分が生まれたのは、12年前の夏だ・・・  


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