哀沢カナトがやってくる。 作者/ハネダ

《1:~がっこう・四時限~》



くるしい。つらい。
このきもちは、だれにもわからない。
だれにも……。

佐々木アスカは、表紙が黒マジックで殴り書きされた教科書を机の上に出していた。
と、その前に立つ人物が居た。
いつもの三人だった。クラスの中で一際身長が高く、派手目で、目立つ人たち。おとなしげなアスカと向かい合うと、明らかにアスカが霞んで見えた。 「アスカ、あんた今日の放課後、いつものところに来なさい」
山田さんが命令口調で言う。またか、とアスカは声に出さず呟いた。
また、殴るのだろう。また、蹴り飛ばすのだろう。また、財布を奪うのだろう。
もう慣れたことだ。
「勝手に帰ったら、明日どうなるか……わかってんでしょ?」
軽く額を小突いた後、高笑いをしながら山田さんたちは教室を出て行った。おそらく屋上にでもサボリにいったのだろう。
アスカは、小さなため息を一つこぼした。