哀沢カナトがやってくる。 作者/ハネダ

《27:~進化~》



あの刃物男の一件から、半年が過ぎようとしていた。

一人の少女が、校舎裏で数人の女子生徒に囲まれていた。
「あんたさ、身の程って言葉、知ってる?」
「調子こいてんじゃねーよっ」
そのうち一人が、少女をぶとうと手を翳す。
直後、その手は誰かに掴まれた。

「はいはい。そこまでにしておこうね」
「低レベルなことをしている暇があったら英単語の一つでも覚えたら?」
女子生徒たちが振り返った先には、二人の人影があった。

「あんたたちは……三年B組の……佐々木アスカと霧島カガミ?」
女子生徒たちの顔が、さっと白く変わる。
背の高い方は、佐々木アスカ。半年ほど前までは目立たない一介の女子生徒だったが、突然霧島カガミと組んで、イジメっ子たちを襲撃するようになった要注意人物だ。
白雪姫のような印象の小柄な方は、霧島カガミ。全国模試トップクラス常連の頭脳を持つ秀才。教師からの人望も厚く、イジメっ子たちにとっては邪魔な存在だった。
「ま、まずいよ……」
「う、うるさいっ! 放せ! でないと――」
手を掴まれた少女は、もう一方の手を振りかざした。
と――。

がぶっ!

「きゃあーっ!?」
混乱。一気に狂乱。
アスカがその手に噛み付いた。

「何も噛むことは無かったんじゃ……」
逃げ去る女子生徒たちを冷たい目で眺めながら、カガミさんが言って、アスカはちょっと困り笑いをした。
「カナトくんをリスペクトしようと思ったら、こんなやり方しか思いつかなくって。……大丈夫? 立てる?」
少女が立ち上がるのを手伝いながら、アスカは遠くに視線をやった。
「カナトくん……今、どこにいるのかな?」
「今度会えたら、強くなったアスカを見てもらわなくてはね」
カガミさんがそう言って、アスカは笑顔で頷いた。