哀沢カナトがやってくる。 作者/ハネダ

《23:~ヒーロー~》
悲鳴を上げかけたアスカの前に、立つひとが居た。
「危ないだろっ!」
振りかぶられた布切りバサミを受け止めている。
哀沢カナトだった。
一瞬、彼が正義の味方に見えた。
「カナトくん!」
手のひらに食い込んだハサミの切っ先を見て、カガミさんが叫ぶ。
「平気だよ」
刃物男が飛びすさむ。哀沢カナトの手の傷は、すぐに治った。
「アイツ、ここに来るまで三人ひとを刺している……麻薬中毒者らしい」
小声で哀沢カナトが言った。
「ここで止めるよ」
一歩、刃物男の方に踏み出す。
刃物男が、どこか焦点のあっていない目で哀沢カナトを見て、悲鳴を上げた。
「来るな! バケモノ――」
ポケットの中から白っぽい粉を出すと、哀沢カナトに向けて投げつけた。脚の辺りに当たった。そして、逃げた。
「待てっ……」
追いかけようと、走る姿勢になった哀沢カナトが。
ぐらり、と体勢を崩し、倒れた。

PR
小説大会受賞作品
スポンサード リンク