哀沢カナトがやってくる。 作者/ハネダ

《4:~さよなら~》
二人分の悲鳴が、校舎裏に響き渡った。
哀沢カナトが、その声に反応して振り返った。
彼の前に、山田さんは居ない。
彼女が居たことを示すのは、草の上にぽつんと残った、彼女がいつも好んでつけていたキラキラ光るピンと、飲み下すことが出来なかったローファーだけだった。
今しがた起こった出来事の衝撃に、アスカも、山田さんの二人の友達も、動くことが出来なかった。
哀沢カナトは、山田さんの二人の友達を眺めながら、ぽつんと呟いた。
「きみたちも、なかなか食べ応えがありそうだね」
「!」
声にならない悲鳴を上げて、二人は逃げ出した。
哀沢カナトが、ゆっくりと近付いてくる。
汚れやむごたらしさとは無縁のその姿が、かえって恐ろしい。
アスカは地面に座り込んだまま、ぎゅっと目を瞑った。
「うーん、きみはあんまり食べ応えがなさそうだからいいや」
次に目を開けたとき、哀沢カナトの姿は、もうどこにもなかった。
校舎裏に居たのは、アスカだけ。
自分の頬が切り刻まれずに済んだということと、もうこの世界のどこにも山田さんは居ないということを理解して、アスカは安堵の息をつくと共に、少しだけ悲しくなった。

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