そのころ、彼に名前は無かった。 それ以前に、姿も無かった。 彼は、この世界の人々のおもいの集合体。
イジメを苦にして命を絶った少女の親。 戦場で散った兵士の恋人。 交通事故で幼い孫をなくした老人。 みんな、思ったことはただ一つ。 「アイツさえいなければ、あの子は、あの人は生きていたのに」 彼が姿を得て、名前を得て、ひとを食べる存在「哀沢カナト」になるまで、そう時間はかからなかった。
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