哀沢カナトがやってくる。 作者/ハネダ

《14:~哀沢カナトのはじまり~》



そのころ、彼に名前は無かった。
それ以前に、姿も無かった。
彼は、この世界の人々のおもいの集合体。

イジメを苦にして命を絶った少女の親。
戦場で散った兵士の恋人。
交通事故で幼い孫をなくした老人。
みんな、思ったことはただ一つ。
「アイツさえいなければ、あの子は、あの人は生きていたのに」
彼が姿を得て、名前を得て、ひとを食べる存在「哀沢カナト」になるまで、そう時間はかからなかった。