哀沢カナトがやってくる。 作者/ハネダ

《20:~都市伝説チャンネル:スタジオ外~》



収録の後、哀沢カナトはスタッフに「お疲れ様でしたー」を言ってから、スカイウォークラジオ放送局の裏口から外に出た。
スタッフの何割が、彼のことを本物の哀沢カナトだと信じているのかは定かではないが、みんな親切にしてくれたので、心底機嫌が良かった。

不意に、街灯の下で人影が揺らいだ。
「アンタが哀沢カナトか?」
猫背の男が居た。目深に帽子をかぶっていて、表情は窺い知れない。哀沢カナトは、以前自分が食べた包丁男をなんとなく思い出した。
「そうだけど。きみは?」
「…………」
無言で、男は街灯にもたれかかるのを止めると。
「……てめぇっ!」
「うわっ!?」
「カナトくん!」

気がつくと、その場には、としネルのパーソナリティーと、以前哀沢カナトが窮地を救った二人の女の子がいた。
猫背で、片手に折りたたみ式ナイフをもった男は、メガネのパーソナリティーの手で地面に取り押さえられていた。
「カナトくん、大丈夫?」
白雪姫っぽい小柄な女の子が、心配そうに尋ねてくる。
腕を少し切られていた。しかし、その傷は見ているうちに、滑らかになって消えた。人食いのバケモノである彼は簡単には傷つかない身体を持っている。
「一体、何でこんなことを……」
「あれ? あなたは……」
問いただすパーソナリティー。何かに気がついたもう一人の女の子。
猫背の男は、強い憎悪のこもった目で、しかし泣きながら、哀沢カナトを睨み付けて。

「セリカを……セリカを返せよ! アイツは確かにろくでもない子供だった。でも、オレにはかけがえのない、たった一人の妹だったんだ」
その言葉を聞いて、もう一人の女の子が、あっ、と、思わず口を抑える。
哀沢カナトは、動くことが出来なかった。
山田セリカ。
以前、彼が食べたイジメっ子の名前。
「何でセリカを食ったんだ! 呼び出しまでして! アイツには未来があったんだぞ! セリカを返せ!セリカを……!」