哀沢カナトがやってくる。 作者/ハネダ

《29:~おわりからのはじまり~》
「きっとこれは、チャンスがもらえたんだよ。やり方を変えたいならやってみろ、っていう……神サマなんてたいそうなものからでは無さそうだけどね」
西中の生徒会長は、そう言って笑った。
校庭では、アスカ達の学校の生徒と西中の生徒達が入り乱れて作業を行っている。
大きなバルーンを作って空に浮かべる――この一見不可能そうな計画を可能にしたのが、彼。
「人間っていうのも、バケモノと違ったきつさがあるもんだね。頭からひとを食べるなんてもう無理だし、怪我してもすぐには治らないし」
「でも、いいこともあると思うよ」
階段に座り、薄い紙を束ねて花を作りながら、アスカは彼に話しかけた。カガミさんも隣で見上げる。
すると、壁にもたれかかっていた彼は笑顔で頷いた。
「うん。前より、ずっと生きているって実感があるよ」
「これからは、私達も手伝うよ」
「うん。助かる……そうそう、この身分になるにあたって、名前を少し変えたんだ。哀沢カナトの名前は有名すぎるからね」
彼は胸ポケットからメモ帳を取り出すと、さらさらとそこに書き込み、アスカとカガミさんに見せた。
「アイの字を変えたんだ?」
「本当だ……」
以前、哀沢カナトだった彼は、小さく敬礼をする。
「これからは、『ひとに出会う』の『会沢カナト』だよ」
「さて、これからどうしようかな」
「文化祭の準備だね」
「イジメ撲滅のデモ行進でもやる?」
「それより、クラウドさんに公開ラジオ放送をやってもらうのはどうかな?」

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