哀沢カナトがやってくる。 作者/ハネダ

《8:~包丁~》



わたしは、哀沢カナトにいのちをすくわれた。
だから……もういちど、かれにあいたい。

それは、もう随分前の話になる。
カガミは小学生で、遅い時間まで塾に行っていた。
いつもは送り迎えに来る母が、熱を出して来られなかった。
と言っても、道には街灯もあるし「こども110番の家」もある。何も起こるはずが無い。
そう思っていたのだが……。

後ろからついて来る足音に気づいたのは、塾からさほど遠くない場所だった。
不審に思って、カガミは振り返った。
街灯の明かりに照らされた人影が見えた。
キャップの上にフードをかぶって、片手に大きな包丁を持っていた。
カガミは即行で走り出した。
それでも、男は追いかけてくる。
もう走ることも出来ず、ゴミ箱の傍に隠れるしかなくなった。その時だった。

街灯に照らされながら現れたのは、銀髪に緑の目の、今と変わらない姿の少年。
男の凶器は、そちらへ向かう。
しかし、少年はその凶器を簡単に片手で受けてへし折ると、
「んじゃ、いただきます」
簡単に男を食べてしまった。
そして、
「脂っこいけど、たまにはジャンクフードもいいもんだよねー。ま、本当にたまにだけど」
と呟きながら、その場を去っていった。

彼の名前が哀沢カナトであることを知ったのは、それから三日後だった。