..盆踊り。 作者/桃花

 I thought like personnel affairs all the time
 ( ずっと人事みたいに考えてた )

 But it was wrong
 ( でもそれは違った )

 There is an answer in one's heart
 ( 自分の心に答えがあるけど )

 I did not want to notice it
 ( 気付きたくなかっただけなんだ )



一話




 「香奈枝。お見舞いだよ」

 ひょこっと顔を出したのは、幼なじみの川﨑啓。

 「あ……。啓。いつもありがとうね」

 香奈枝は満面の笑みで答える。
 そのとき、すこし啓の顔が赤くになったのが分かる。

 「あのさあ? 香奈枝はいつも人の幸せばっかり気にするじゃん。
  たまには、自分の幸せも考えてみたら?」

 啓が照れくさそうにしている。

 「ありがと。啓。でも、気持ちは嬉しいんだけどいいんだ。
  いつも来てもらってるだけで、私幸せだから」

 香奈枝はそう言って、またニッコリと笑った。
 啓は、そういう彼女に不満を抱いていたのかもしれない。
 香奈枝が好きで好きでたまらなくて……。
 ときにはその笑顔を困らせたいと思ってしまう。

 「じゃあ啓……。薬もらってきてくれる、かな」

 香奈枝がとても苦しそうにまた笑った。 
 その苦しそうな微笑みに啓は心を痛める。

 「まっとけ!」

 そういい残すと、勢いよくドアを開け、駈けていった。

 「ちょっと、そこの人。病院では走らずに!」

 看護婦さんが叫んできた。
 でも、啓は無視して駈けていった。


 香奈枝が外を見ていたとき、ドアがガラリと大きな音をあげて開いた。

 「香奈枝、これでいい?」

 ハァハァと息を切らし、啓は手に一つの薬の入った紙袋をぶら下げている。

 「啓……。ありがとう。啓ほど頼れる人、いないね」

 香奈枝は笑った。いつも、いつもそうだ。
 悲しい時だって、苦しい時だって心配をかけないように
 ずうっと笑っている。その癖は、いつからだろうね?
 
 「啓空見て。鳥が……。雲も……。綺麗だね。 
  あの下でお弁当を作って、皆で食べてみたいなぁ……。 
 きっとおいしいだろうなあ。そう思わない、啓?」

 すこし香奈枝は寂しそうな表情だった。
 でも、引きつるような、なきそうな表情で微笑んでいる。

 「香奈枝……」

 香奈枝は病気だから外にはいけない。
 啓達には当たり前でも、香奈枝には貴重なのだ。
 すると、突然香奈枝はベットに倒れこんだ。
 「ゲホッ! ゴホッ! ゴホッ―――…」
 ポタポタと音を立てて床に零れ落ちたのは、真紅の血だった。