..盆踊り。 作者/桃花

【4】四話



-第4章- 桜貝 -

廊下をばたばたと走る。

「香―奈―枝――!」

「え……? 誰?」

いつにましてや勢いよくあけられたドア。

病院を急いで走ってきたその水色のショートカットの可愛い女の子。

そう。葵がきてくれた。

「あおい! きてくれたんだ。嬉しい!」

強く聞こえた香奈枝の声。

「へへっ! 会いたくてさー」

今度はやさしくドアが開けられる。

「僕も来たんだよお~」

このアニメ声は、なぞの男・斉藤 学だ。

友達の中の、友達で、[友達以上・恋人未満]ってやつ。

「おいおい! 俺をわすれるなよ。」

学と一緒に入ってきたのに、きずかれなかった、

啓。葵がプット笑うと、啓の頬が膨らんだ。

「皆! 今日はありがとね。ところで今日はどうしたの?」

葵と啓と学は顔を見合わせて、声をそろえていった。

「今度海に行くんだ! 車椅子でもいいからさっ? 
香奈枝もいかない?」

「え……?」

香奈枝は戸惑った。車椅子でも行けないし、

今は体調がわるいので、無理なのだ。

「ご……。」

「?」

皆ニコニコ笑って香奈枝を見ている。

「ごめん……。いけないや。誘ってこれてありがとう。

また今度さそってね。皆たのしんできて!」

皆はすこし寂しそうに、病室をそれぞれ出て行く。

「あぁ。わかった。安静にしとけよ。」

(あっ啓……)

「お大事にねえ~」

(学――…)

「健康が1番だぞっ。 バイバイ香奈枝!」

(葵!)

それぞれ言い残して部屋をでていった――…

そのとき香奈枝は申し訳ない気持ちでいっぱいだっ

た。皆がせっかく誘ってくれたのにと。



1人取り残される気持ちってすごくつらい。

(あれ……?)

さっきまで葵が座っていたところにきらりとピンクの

桜貝がひかっていた。

香奈枝は車椅子ですこしなら歩けるので、

桜貝を拾ってみた。

不意に裏を見てみた。

[葵は啓のことが好き]

と、書いてあった。

そんな――

葵が啓を好きだなんて……。

そのとき香奈枝は胸がズキンッとなった―――

(なに?胸が痛いよ――…)

「啓……」

香奈枝は啓の名前を自分でも聞こえるかくらいの声でつぶやく。

胸がドクンッと激しく鼓動する。

今は香奈枝は自分の気持ちにまだ気付いてない。

だけど好きだという少しの気持ちは自分でも

気付きはじめているだろう―――