二次創作小説(新・総合)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

繋がる世界と未来の物語
日時: 2025/10/02 21:44
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 ―――これは、"全てを元に戻す"物語。
 それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。


 どうもです、灯焔です。
 新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
 サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
 この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
 また、オリジナルキャラクターも登場します。
 苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。


※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2


<目次>

Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17

Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148

ep.04-1 【天下五剣が集うとき】 完結
>>166 >>167-171 >>172-176

Ep.04-2【新世界の砂漠の華】
>>178 >>179-180 >>181-185 >>186-187


※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54

Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111

Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151

Ep.04
【月と超高校級の来訪】 >>177


※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163


<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150
>>164-165


最終更新日 2025/10/02

以上、よろしくお願いいたします。

Ep.04-2【新世界の砂漠の華】 ( No.183 )
日時: 2025/09/28 21:32
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 一方。3階で探索を続けていた前田、厚、今剣だったが、目ぼしい手がかりも見つからず途方に暮れていた。そもそもが噂程度のものを探している以上簡単に見つからないことは分かっていたが、こんなに探しても見つからないものかと肩をがっくりと落とす。やはり建物の中には存在せず、外にしか咲かない花なのだろうか。"砂漠の華"というものは。
 カービィやバンダナワドルディとも連絡を取り合いつつお互いに怪しい場所を捜索するも、植物らしきものは1つも見つけられなかった。



「うーん。"さばくのはな"、みつかりませんねぇ」
「"砂漠の華"というくらいなのです。やはり外にしか咲いていない花なのでしょうか? それともやはり、噂程度の話なので幻の花、というのもあり得ますよね」
「幻を見つけるのがいいんじゃねぇか!さ、弱音吐いてないで頑張って探そうぜ!」



 厚の鼓舞を受け、前田と今剣も今一度"砂漠の華"探しを頑張ろうとお互いに頷いた。
 気を取り直して探索を再開した矢先、今剣が遠くで咆哮のようなものが耳に入ったとふたりに言う。ショッピングモールの中には自分達しかいないはずだが、どうして咆哮のようなものが響いてくるのだろう。
 どんな咆哮だったか今剣に問いかけると、かれは"うーん"と唸りつつもこう答えた。



「いま、"がおー"というこえがむこうからきこえたきがしました」
「がおー? 僕達の他に誰かいるということでしょうか?」
「いやいや!そんなまさか」



 しかし、今剣曰くその"がおー"という咆哮は近付いているとのこと。前田と厚も耳を凝らしショッピングモールの音を集中して聞いてみる。すると、確かに奥まったところから熊のような咆哮がこちらに近付いてきているのが分かった。
 音の方向を見てみると――。














『グオォオォオォオォ!!!!!』
「――えいやっ!!」
「とぉー!!」



 カービィとバンダナワドルディが、四足歩行の魔物と戦っている姿が見えた。カービィはどこかからソードをコピーしており、バンダナワドルディは自前の槍で応戦している。
 彼らの連携のおかげで魔物の身体には所々に傷がついている。しかし、自分達も加勢せねばならないと本能で察した。なぜなら、彼らは"刀"だからである。


 短刀達がカービィとバンダナワドルディの元へ辿り着くと、彼は後ろにやってきた三振に気付き、攻撃を弾き飛ばしながら"子供達は下がってて!"と言った。どうやら、彼は短刀達のことを自分より年下だと思っているらしい。
 それに納得いかなかったのか、厚が"自分達は子供ではない"と反論をする。そんな彼を前田が宥めつつ、三振も戦闘態勢へと入る。この調子であれば、2人と三振で協力すればこの魔物を倒すことが出来そうだ。



「カービィ殿!バンダナ殿!僕達も加勢します!」
「う、うん。分かった!でも怪我しないでくださいねーっ!」



 その間にもカービィとバンダナワドルディの猛攻は続き、魔物の体力もかなり消耗していた。このまま三振が加勢すれば、倒しきることが出来ると判断した前田は、今剣と厚に合図で一斉にとびかかることを提案した。
 カービィもその声を聞いたのか、ソードを振り回しながらうんうんと頷いている。
 タイミングを見計らい、2人の攻撃で相手が怯んだ隙を前田は見逃さなかった。ありったけの声で、突撃することを叫ぶ。



「行きますよ!!突撃ーー!!」



 前田の合図を皮切りに、三振が魔物を倒しきらんと飛び掛かる。短刀の一撃は深く刺さり、魔物はまた咆哮を上げた。そのまま2人も総攻撃を畳みかける。すると、魔物の体力が底を尽きたのかうめき声を上げて倒れてしまった。
 一同はそれを確認した後、各々武器を仕舞い倒れた魔物の近くまで移動した。それと同時に、魔物から紫色の靄が出始め、そこから人が現れ出でたのだった。



「これって……!」
「心当たりあんのか?」
「はい。以前人が魔物に変化するのを見たことがあります!」



 そう。前田は魔物が人に変わる現象に心当たりがあった。審神者会合に参加した際、ジェシカと衝突した審神者の男性が魔物に変えられてしまったことと事象があまりにも似すぎていたのである。もしかしたら、この魔物も審神者の男性と同じように、魔物に変えられてしまった一般人なのではないかという可能性が前田の脳内を巡った。
 そんな矢先、別の方向から走ってくる足音が聞こえてきた。地下から移動してきた大典太達のものだった。
 大典太は倒れている人を発見するなり"何があった"と焦った表情で聞いてくる。前田がこれまでに起こったことを事細かに説明すると、大典太と鬼丸は顔を見合わせて、しかめた。やはり、彼らも前田と同じように普通の人間が魔物に変えられてしまったのだと推測したのだろう。



「……噂で聞いていた"夜な夜な怪しい実験をしている"というのは、邪気で人間を魔物にする実験だった、ということだな」
「――チッ。胸糞悪いことをしやがって……!」
「ところで、その戻った人間は大丈夫なのだろうか」



 ふと、童子切がそんなことを呟く。確かに魔物にされて今まで戦っていたというのであれば、魂が削られてしまった可能性も無きにしも非ずだ。大典太は素早く倒れている人間の元に近づき、胸元に霊力をあててみる。トクン、トクン、と小さくではあるが、鼓動が聞こえてくるのが分かった。どうやら気絶しているだけらしい。
 そのことを童子切に伝えると、彼は安心したとでもいうように眉尻を下げた。ということは、である。魔物にされてしまった人間は、彼だけに留まらないのではないかという嫌な予感が一同の頭の中を駆け巡る。



「……まずいな。扉の向こうで何をされているのか、大体推測がついたぞ」
「あいつらもさっさと助けねば、魔物にされてしまうかもな」
「とびら? なんですかそれ?」



 状況を理解できていない、と今剣が問うたため、大典太は先程自分達が見てきたものを説明した。その話を聞いた前田は、焦ったように"早く助けに行きませんと!"と慌て始めた。彼もカラ松達のことを知っていたため、魔物にされてしまう想像ができなかったようである。
 その話を聞いたカービィはうんうんと頷き、こう一同に提言し始めた。



「よーし。だとしたら"砂漠の華"探しは一旦後回しにして、その地下の扉まで行ってみようよ!扉は壊しちゃえばいいし」
「こ、壊すの?!」
「え? だって最終的に全部ぶっ壊すんだから、扉の1つや2つ壊してもよくない?」



 カービィは、これから実力行使で扉を破壊し魔物にされた人間を助けに行こうと提案してきたのである。あまりにも物騒な提案にバンダナワドルディは一瞬萎縮するも、それに対して鬼丸は"一理あるな"と静かに頷いた。流石は最初に見つけたときに"扉を破壊する"という行為に走りかけた刀剣男士である。
 大典太は自分も同意しかけたことを後悔し、鬼丸のことをただジト目で見やることしかできなかった。



「なんだその目は」
「……いや。あんた達が意外と似た者同士だと思……いひゃいぞおにまゆ」
「おれとあいつのどこが似ているというんだ」
「面白いのか、それは」
「……まにうへゆんじゃない、どうじひり」



 またもや頬をつねられてしまった大典太は、鬼丸に好きにさせつつため息をつくことしかできなかった。その様子を見ていた一同だったが、はっと前田が我に返り"地下へ行くなら早く行きましょう"と催促してきた。
 その言葉を聞いて大典太は鬼丸の手を握り返しやめさせ、気絶している人を背負ったのち地下に戻るのであった。

Ep.04-2【新世界の砂漠の華】 ( No.184 )
日時: 2025/09/29 21:51
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 地下へと再びやってきた一同は、周りに誰もいないことを確認した後扉の前まで移動した。しん……と静まり返ったその空間は、人間が実験に使われているとは思えない。カービィは本当にこの奥に誰かがいるのか不思議に思ったが、彼らのいうことも嘘だとは思えなかったため、彼らの言っていることを信じて扉を壊すことに決めた。



「おー、これは頑丈そうな扉だね!」
「それで? どうやって破壊するんだ」



 "扉を破壊する"と言ってのけたのはカービィのため、鬼丸がどうやって目的を達成するのかを問うた。すると、彼はにっこりと笑って"そんなのコピー能力を使って壊すんだよ!"と言った。ちなみに、先程までコピーしていたソードは戦闘が終わった際に捨ててしまっており、近くにコピーできるものもないため現在のカービィはすっぴんである。
 そして、カービィは皆の方を振り返り、この中で誰が一番力持ちなのかを聞いてきた。どうやら、その人物の持っている持ち物を借りてコピーして、扉を破壊する算段らしい。
 であれば、と大典太はバンダナワドルディを指さす。彼の怪力はコネクトワールドで一緒に働いていた時から知っているため、彼であれば問題なく扉を破壊できるのではないかと思っていた。



「……バンダナワドルディじゃないのか?」
「ぼ、ボクは吸い込んでもスカにしかなりません!お恥ずかしい話ですが……。ボク、力があるだけのワドルディなので……」
「うん、バンワドはスカになっちゃうから無理だよ!だから、バンワド以外で一番力持ちな人を教えてほしいな!」
「……で、あれば――」



 バンダナワドルディが駄目であれば、こいつしかいないだろう。と、大典太は鬼丸を指さした。極の姿ではそうとも限らないが、初の姿に限っては太刀の中で一番打撃が高いのが鬼丸である。それも加味し、彼は鬼丸を指さしたのである。
 しかし、当の指を指された本人はかなり不服そうで、思わず大典太の指を握ってしまう。



「なんでおれが」
「……単純な打撃力ならあんたがこの中で一番高いだろ」
「それはそうだが」
「へー、そうなんだね!じゃあ鬼丸さん、その刀貸して!」



 一番の力持ちが鬼丸だと理解したカービィは、早速扉を破壊するため鬼丸に刀を貸すことを要求した。その刀を媒体に、鬼丸の能力をコピーしようという寸断だった。しかし、彼は即座にそれを断った。
 鬼丸はこう見えてかなりの潔癖症なのである。自分の身内であっても自分の刀には触れさせないどころか、自分でも戦以外では汚れがつかないように手入れを欠かさないほどである。そんな彼が目の前のピンクだまに刀を貸すわけがない。
 彼が断りを入れることを予測していた大典太は、彼が不満気に顔を逸らしている隙を狙って鬼丸の腰にある刀に手をかける。それに気付き、鬼丸も刀を渡さんと大典太の手を放そうとする。いつもならば鬼丸の方が力が強いため、大典太はすぐ諦めるのだが――。今回ばかりはそうも行かないと判断していた彼は、反対の手で鬼丸の両手を掴みとってしまい、その隙に彼の腰にある刀を取り上げたのだった。



「おい、大典太!」
「……話が平行線になるよりはマシだ。――吸い込むんだったな?」
「うん!鬼丸さん本人を吸い込んでもいいんだよ?」
「……刀の方がマシだろ」
「…………」



 そのまま大典太は掴んでいた棚をぽい、とカービィの近くへ投げた。カービィはタイミングを合わせ鬼丸の刀を吸い込み、"鬼丸国綱"をコピーした。鬼丸本人のような角を生やした眼帯姿のカービィである。
 てっきりソードかニンジャをコピーするものだと考えていた前田は、鬼丸そっくりになったカービィを見て目を輝かせている。



「ソード能力になるわけではないのですね!びっくりです!」
「ふん。さっさと目的を果たすぞ」
「くちょうもかわってますね?」
「カービィはコピーすると口調もその人そっくりになっちゃうんだよ!」



 コピーの媒体に使われた鬼丸の刀が宙へ浮く。それを掴みとった大典太は、"手荒な真似をして悪かったな"と鬼丸へと返却した。彼は仕返しにともう一度大典太の頬をぷにっとつねった後、刀に何も汚れがついていないことを確認し腰へと戻したのだった。"頬をつねることはないだろう"と、不満気に大典太が呟く。そんな彼を見て、"仕返しだ"と満足げに口を開いた。
 カービィは扉の前に立った後、刀に力を込める。そして、勢いよく刀を振るったのだった。



「――斬る!!」



 それと同時に、ガラガラと音を立てて崩れ落ちる扉。向こうから、先程見た四足歩行の魔物がこちらに気付いているのが分かった。形状から、全員が実験で魔物にされた人間だということを一瞬で理解した。
 自分達に向かってくるのに気付き、一同は戦闘態勢を取る。



「これ、全部魔物にされちゃった人ってこと?!」
「そのようだ。わたし達が救わねば」
「行きましょう、皆さん!」



 魔物が一斉に襲い掛かったタイミングを皮切りに、一同も武器を構え太刀打ちするのだった。

Ep.04-2【新世界の砂漠の華】 ( No.185 )
日時: 2025/09/30 22:00
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 一体どれだけの人が魔物にされてしまったのだろう。
 襲い掛かってくる魔物を各々対処し、実験台にされた人々に戻していく一同だったが、一向に数が減る気がしない。未だに見つかっていない三つ子も、既に魔物にされてしまったのだろうか。そう思いながらも、魔物にされてしまった人々を救うため彼らは剣を奮っていた。



「これで……30体くらいか? あと何体魔物がいるんだ?!」



 そう厚が確認するように叫ぶので、大典太は思わず辺りを見渡す。そこには魔物の姿はなく、実験台にされた倒れた人々が横たわっていただけだった。どうやら先程倒した魔物で、全ての魔物を人間に戻すことができたらしい。大典太は倒れている人1人1人に霊力を当て、皆生きていることを確認する。暴れていた影響で疲れてはいるが、どうやら召されてしまった人はいなかったようだ。
 そのことを一同に伝えると、各々安堵の表情を浮かべた。良かったと素直に喜びを表現するもの、静かに安心を噛みしめるもの――反応は様々だった。
 そんな中、きょろきょろと前田が辺りを見渡した後、こんなことを口にした。



「三つ子の皆さんの姿が見当たりませんね」
「もっと、奥の方にいるのかもしれない」



 六つ子のうちの3人が見つからない。更に、噂にあった刀剣の姿も見当たらなかった。
 扉の向こうには、道が続いている。この先に何かあるのは確実だろうと一同は確信していたため、奥に何があるのかを確認するため足をそちらの方に向けた、その時だった。



























 拍手の音と共に、靴音が聞こえてくる。思わず音の方向を向いてみると、そこにいたのは怪しげに笑う邪な気配を纏った老人だった。
 その気配に凝視感を覚えた大典太は、無意識に刀の鞘に手を置いていた。その行動を見て、鬼丸、童子切も戦闘の構えを取る。老人はその動きを見て、"野蛮なのは好きではないのだよ"と武器を納めるよう発したのだった。



「何者だ!」
「おっと。名前を聞く際には自分から名乗るのが礼儀ではないのかね? まぁよいわ。
 ワシの名前は"ミステリオ"。この施設の地下を借りて、趣味で実験をしておるただの老いぼれ爺だよ」
「"ただの"という割には、随分と悪趣味なことをしていると思うがな。人を魔物にしやがって」
「ふぉっふぉっふぉ。何とでもいうが良い。して――貴様らの目的はこやつらなんだろう?」



 "ミステリオ"と名乗った老人は、鬼丸の言葉にも耳を貸さず部下に"とある人物"を連れてくるよう命令した。それと同時に、部下と共に縄に引きずられて現れる3人の影。その正体は、彼らが探していた松野家の三つ子その人だった。
 三つ子は大典太の姿を見つけ、ただ驚いている。まさかコネクトワールドが消滅した後、こんなところで出会えるなんて。しかし、喜びを表している状況ではないのは明白だった。



「あ!大典太さん!」
「えっ?!大典太さん?!」
「……あんた達。まだやられてなかったみたいだな、良かった」
「砂漠を当てもなく歩いてたらこいつに捕まってしまったんだ!くっ、兄として何も抵抗出来なかったのが情けない……!」



 三つ子は大典太に向かって"助けてー"と、情けない声で助けを求めた。それほどまでに捕まえたであろう老人に恐怖を覚えていたからである。すぐに助けようと大典太は刀を抜き、縄に向かって斬りかかろうとする。しかし、その斬撃は謎の透明な壁によって阻まれてしまった。
 これもミステリオが用意したものなのか。そう思い彼の方向を向くと、ミステリオは満足そうに笑っていた。



「全く。取引材料に傷をつけることをするのではないぞ天下五剣よ」
「わたし達のことを、知っているのか?」
「ふぉっふぉっふぉ。知らんわけないだろう。――貴様らは喉から手が出るほど欲しかった"あの"天下五剣なのだからな!」
「大典太さん、気を付けてください!あのご老人、何かに気付いているようです!」
「で、だ。暴力はワシも避けたいのでな。穏便に取引といこうではないか。この三つ子をそちらに渡す条件として、貴様ら"天下五剣を寄越せ"」



 なんと、カラ松達3人を渡す条件に今いる大典太、鬼丸、童子切を寄越すようにミステリオは言ってきたのだった。先程言ったことといい、恐らく彼は自分達がどういう刀剣なのかを知っていての発言のように聞こえていた。
 であれば、みすみす自分達が犠牲になるわけにはいかない。断りを入れる前に、短刀達が反抗を示していた。"三振とも渡さないぞ"と。



「そんな脅しに乗るような僕ではありません!大典太さん達は僕が必ずお守りいたします!」
「なんだかよくわかりませんが、わたしちゃだめなきがします。ぜったいにわたしません!」
「お前みたいな怪しい奴に、三振渡すわけないだろ!大人しくあの三つ子の人を返せってんだ!」



 そう言って戦闘態勢を取る短刀達に、ミステリオは"これだから刀剣男士は野蛮で嫌いなのだ"と肩をすくめた。そして、改めて天下五剣三振に向かって取引を持ちかける。"貴様らが大人しくワシのものになるのであれば、三つ子は無傷で渡すことを約束しよう"と。しかし、ミステリオの手には黒い液体が入った注射がある。断った場合、それを使って3人に良くないことをするということは目に見えていた。
 大典太は少し考えた後、ミステリオにこう問いかける。彼の提案に従う気はさらさらないが、何故ここまでして自分達を狙うのか。そこは気になっていた。



「……俺達を使って何を企んでいる?」
「ふぉっふぉっふぉ。簡単な事よ。ワシの目的は1つ――。貴様ら天下五剣を使い、"ルルイエ"を浮上させ我が力にするのだよ。ルルイエの封印を解くには、クトゥルフに縁深い魔力を持つものが必要だ。つまり!貴様らのような刀剣をずっと探し求めていたのだよ!」
「"ルルイエ"……?」



 どうやらミステリオは、自分達を使って"ルルイエ"というものを浮上させたいらしい。"ルルイエ"が何なのかは理解できなかったが、この老人が何かよからぬことを企んでいるのだろうというのは理解できた。
 そのために自分達を差し出せと言ってきたこの男に従う義理はない。鬼丸は戦闘の構えを解かず、ミステリオに向かって冷静に切り返す。



「断る、といったら?」
「その時は、この三つ子を貴様らが戦った輩と同じように魔物にするまでよ」



 そう言い、注射を三つ子の首元まで持っていく。怪しげな黒い液体が入っているそれが、倒れている人達を魔物にした元凶なのだと発覚し、顔をゆがめる一同。そして、首元にそれが向けられたチョロ松は"ヒッ!"と小さな悲鳴を上げた。
 三つ子を助けなければならない。しかし、自分達を渡すわけにはいかない。どうすればいいか迷っていると、意を決したのかカラ松が大典太に向かって叫んだ。



「駄目だ大典太さん!こいつはアンラの眷属なんだ!大典太さん達と交換条件だなんて、大典太さん達が碌な目に合わない気しかしない!」
「……邪な気配はやはり悪神のものだったのか」
「なら、力づくでも取り返すまで。おれ達があの眷属に堕ちる必要は無い」



 そう。彼はミステリオの言っていた言葉から、この老人がアンラ・マンユの眷属だということを見破っていたのだ。余計な事をばらされたのか、チョロ松に向かっていた注射の針はかラ松の首元へと移動する。しかし、カラ松はひるまなかった。ここで自分達が怖がれば、大典太達に余計な心配をかけてしまうと、彼は判断していたからだった。
 ――両者が一歩も動けず沈黙が流れる中、戦闘の構えを取りつつも様子を見ていた今剣はふと、目をきょろきょろさせ一同の行方を追っていた。バンダナワドルディは槍を構え戦闘態勢を取っている。しかし、その隣にいるはずの彼がいない。カービィはどこにいったのだろうか。



「そこから一歩でも動いてみろ!この三つ子をすぐに魔物に変えてやるからな!」



 そうなりたくなければさっさと三振をよこすのだ、と更に脅しをかけてくるミステリオ。どうすれば彼らを助けられるのか、とぐるぐると頭を回転させて考える大典太だったが、刀を振れない以上出来ることがない。
 ただ、時間だけが過ぎていく。その間にも、カラ松の首に注射が迫ってくる。
 "もう、だめだ"と、カラ松が目をつぶったその時だった。


 ハラリ、と三つ子は縛られる感覚がなくなるのが分かった。思わず手を動かしてみると、さっきまで自分達の自由を奪っていた縄は自分達の足元にバラバラに切られている。何が起きたのだときょろきょろする3人だったが、それはミステリオも同じだったようで、思わずカラ松に向けていた注射を離してしまう程だった。



「部下は何をしておるんだ!」
「部下? 部下って、この人達のこと?」



 ふと、三つ子の後ろから声がした。その方向を向いてみると、そこにはきょとんとした表情のカービィがいた。
 実は、彼らがにらみ合っている隙に背後に回り込み、部下共々鬼丸のコピーで一掃していたのである。ちなみにその後、鬼丸のコピーはすぐに捨てているため現在の彼はすっぴんである。
 カービィが手を伸ばした先には、伸びて倒れている部下の姿があった。



「なッーー!!」
「前が駄目なら背後からってね!後ろががら空きでよかったよ本当!さ、あっちに行こう!」
「た、助かったー!」



 そう言うと、カービィは3人を誘導するように大典太達の元まで連れて行き、自分も戦闘態勢を取った。3人は味方の元に辿り着けたのか、安心したのか全員へっぴり腰になっていた。
 障害になるものは何もない。取引もこれでチャラである。倒すべき目標が定まったことで、大典太は改めて刀を握り、戦闘の構えを取った。



「これで後はおまえだけだな」
「くっ……こうなったら撤収だ!貴様ら、覚えておれよ!」
「待ちなさい!」



 逃がさないという風に鬼丸が素早く斬撃を繰り出したが、それよりも早くミステリオはドロドロの姿になり、そのまま姿を消してしまった。
 それと同時に、まとわりついていた重苦しい空気が元に戻るのを感じる。それは、逃げた彼が"アンラの眷属だ"という決定的な証拠になるのだった。戦闘が終わったと判断した一同は各々武器を仕舞い、カラ松達に大丈夫かと問いかけた。



「オレ達は全員無事だ!助けてくれてありがとう!」
「あ!でも倒れてる人たくさんいるね!何とかしなくちゃ!」
「それと、奥に研究室みたいな部屋があったんだ。その中に――前田くんみたいな刀剣が1つ浮かんでたのを見たよ!」
「本当ですか?!」
「じゃあ、てわけしてたいしょしましょう!」



 話し合いの結果、大典太、鬼丸、童子切、カービィが奥の研究室へ。その他の面子が倒れている人々と部下の対処に当たることになった。
 チョロ松が言っていた"刀剣"。ミステリオの言葉と併せれば、邪気に覆われているはずだ。早く救わねばならないと気持ちを改めた三振とカービィは、奥の通路へと進んでいくのだった。

Ep.04-2【新世界の砂漠の華】 ( No.186 )
日時: 2025/10/01 21:47
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 前田達と別れ、研究室らしき扉の目の前にやってきた大典太達は、早速カービィにもう一度扉を壊すよう頼んだ。またもや鬼丸が刀を貸し出すのを嫌がったため、"こいつよりは力がないが"と、大典太は自分の刀をカービィに吸わせ、大典太光世をコピーさせた。
 もそもそと暗い声で何か言いながら研究室らしき部屋の扉を破壊する様は、まるでサクヤと出会った時を彷彿させると大典太はその姿を懐かしんでいた。
 カービィは扉を破壊したのちすっぴんに戻り、ガラガラと崩れ落ちた瓦礫を避けながら部屋の中へと入っていく。三振も彼に続き、研究室らしき部屋の中へと足を踏み入れた。


 部屋の中は予測通り、簡易的な机とそれに群がる実験道具で溢れかえっていた。大方、この部屋で人間を魔物にする実験を行っていたのだろう。刀剣はその中に無いかと辺りを見渡していると、ふとカービィが声を荒げる。



「見て!あれ、刀剣じゃないかな?!」



 カービィが手を差し伸べた先には、培養カプセルの中に浮かんでいる短刀の姿があった。カプセルの中に閉じ込められているとはいえ、そこからでもそれに邪気が纏っているのを確認できた。
 すると、鬼丸がスタスタと歩いていき培養カプセルを素手で破壊した。一瞬驚いた大典太だったが、彼が破壊したカプセルから短刀を持ち帰ってくるのを見て我に返った。そして、ずいと大典太にそれを突き出したのだった。



「随分と、力業だったな」
「そうした方が早かっただけだ。……早く解呪しろ大典太」
「……あぁ、分かってる」



 鬼丸から短刀を受け取った大典太は、それを掌に乗せ自分の霊力を込め始める。すると、短刀から魔物達と同じように、紫色の靄が出てくるのが分かった。おそらく、倒れていた人間達はこの短刀の邪気によって魔物に変えられていたのだろう。
 しばらく見守っていると、少しずつ紫色の靄が出てくる量は減っていき、大典太が霊力を込め続けた結果、靄は出なくなった。その後、彼は短刀をぎゅっと握り邪気が込められていないことを確認した。どうやら解呪が終了したらしい。
 そのことを皆に伝えると、各々安心したような表情を見せた。カービィは嬉しさのあまりぴょんぴょんと飛び跳ねている。



「……これで大丈夫なはずだ。こいつに燻る邪気はもう存在していないよ」
「やったー!これでこの子も悪い夢から目覚められるんだね!」
「前田達も気にしていた。そろそろ戻るべきではないだろうか」
「……そうだな。戻るか」



 この短刀の解呪が完了した今、この部屋に用はない。そう判断した一同は、倒れた人達の介抱を行っている前田達に合流することを決め、部屋を後にしたのだった。
 元いた場所に戻ると、介抱のお陰で目を覚ました魔物にされた人々が、各々手を取り合って喜んでいるのが見て取れた。話を聞いてみるに、どうやら皆砂漠で彷徨っていたり、旅に出ていた人達を中心に狙われ、拉致されていたらしい。何はともあれ全員無事に助かったのを聞いて、大典太は目尻を下げた。



「大典太さん!こちらの介抱は無事に終わりましたよ。皆さん、特に身体に異常も見当たりませんでした」
「……そうか。大変な仕事を押し付けてしまってすまないな」
「いえいえ!――それで、刀剣はあったんですか?」
「……あぁ。俺にはこの刀剣が誰かは分からんが、あんたになら分かるかもしれんな」



 そう言い、大典太は先程解呪した刀剣を前田に見せる。ぐい、と前田の後ろから厚も顔を出し、その刀剣をじっと見つめた。そして、二振は顔を見合わせた後"秋田!"と声を揃えて叫んだのだった。
 どうやら、二振はこの刀剣に心当たりがあるらしい。大典太も前田と厚の言葉を聞き、何か記憶にひっかかりを覚えていた。自分は、この刀剣と会ったことがある――? そんな思いを抱きながら。



「秋田?」
「はい。童子切さん、この刀剣の名は"秋田藤四郎"といいます。僕達と同じ、粟田口吉光により作られた短刀です」
「つまり、オレ達の兄弟ってことだ!」
「そう、なのか」
「……そうか。こいつが……あの、秋田なのか」



 この短刀の名は"秋田藤四郎"だと前田は言った。元は、現在の秋田県に位置する場所に領土を構えた戦国大名である"秋田家"に伝わったことから、"秋田藤四郎"という名がついたと言われている刀だ。
 その名前を聞いて、大典太は幻の本丸で出会った桃色の髪の少年を思い出していた。あの外に興味を持っていた、自分を助けてくれた柔らかな雰囲気の刀剣男士――。
 その刀剣を改めてぎゅっと握ると、今剣も顔を乗り出し刀剣をじっと見つめた。そして、きょとんとした顔をしながら大典太に問う。



「けんげんしないんですか?」
「おれ達に顕現が出来るものか。おれ達は刀剣男士だぞ」
「……邪気を纏った刀剣の解呪は出来るが、顕現までは流石に出来ないな」
「そうですか~。では、このままもちかえってサクヤさんにけんげんしてもらうんですか?」
「それが一番、手っ取り早いだろうな」



 自分達が顕現出来ない以上、秋田はここでは目を覚まさせられない。その話を聞いて、前田と厚は寂しそうに笑った。その顔を見て、ちくりと少し心が痛んだ大典太なのであった。
 しかし、刀剣男士では刀剣男士の顕現が出来ないのも事実。一度サクヤの元に持って帰って、改めて顕現してもらうのが一番早いだろうと童子切が口を出した。それに異を唱える者は存在せず、事態が解決した今は戻ってから考えようという結論に落ち着いた。
 そう話を進めていた矢先だった。唐突に、大典太の懐が光っていることに今剣が気付く。思わずその元凶――光っている原因である秋田の刀身を取り出すと、急に目が開けられないほどの光に覆われた。



「な、なんだ?!」
「これって……まさか……」



 思わず目を覆う一同だが、光は徐々に人の姿を取っていく。そして、彼らの目の前に現れたのは――。
































「……あれ?僕……」
『秋田!!』



 ――桃色の髪が特徴的な、柔和な印象の少年だった。
 少年――秋田は自分に何が起こったのか理解できておらず、きょろきょろと周りを見渡している。同胞が顕現出来たと前田と厚は彼の手を取って喜んでいた。
 一方、大典太は光り方や力の感触に凝視感を覚えていた。まさか――。そう思い、スマホロトムを取り出しサクヤに連絡をするように頼む。通話音が何回か鳴った後、画面の向こうにサクヤが映った。悪びれもなさそうにすんと澄ましている彼女を、大典太はジト目で見やっていた。



「……主。あんただな。秋田を顕現させたのは……」
『前田くんが会いそうにしていたのを察知しましたので、ついやってしまいました』
「……あんたなぁ」



 どうやら、秋田を顕現したのはサクヤだということだった。そのことが確定的となり、彼女に力をあまり使ってほしくなかった大典太はため息をついた。それを不思議そうに見やる童子切と、彼の真意を感じ取ったのかやれやれと首を横に振る鬼丸がそこにいた。
 その様子をしばらく見ていた童子切だったが、ふと疑問が思いつき、サクヤに問うてみる。



「青龍が顕現したのであれば、秋田も青龍の刀になるのか?」
『いえ、そうではありませんよ。私は単に秋田くんを顕現しただけに過ぎません。秋田くんの主は、これから秋田くんが決めていくことです』
「あの全能神の時もそうだったが、神々はおれ達を軽々しく顕現出来るんだな」
『一定以上の格があれば、誰でも付喪神の顕現は可能だと思いますよ』
「……ある程度の格、か」
「おい。大典太、おまえまさか刀剣男士を顕現出来ればな、なんて思っていないだろうな」
「…………」
「思っているんだな」
「……ほほがいくらあってもたりんぞおにまゆ……。どうじひりもはんたいのほほをつねるのはやめてくれ、いひゃい……」
「楽しそうだった。すまない」



 太刀二振にいいようにされている大典太を発見したのか、秋田は彼に向き直り"お久しぶりです!"と笑顔で挨拶した。何はともあれ、邪気の解呪できた元気な顔を再び見ることができたのだ。今はそれを喜ぶとしよう、と頬をつねっている二振を収めた後、大典太も秋田に挨拶を交わすのだった。



「大典太さん。助けてくれてありがとうございました!」
「……いや。今の俺がいるのはあんたのお陰でもあるからな。こちらからも礼を言う。ありがとう」
「そういえば、ソハヤさんは元気ですか? あの後、顕現出来たんですか?」
「……あぁ。兄弟は新しい主の元で主命を果たしているよ」
「そうなんですね、よかったぁ!あの闇に呑まれた後、みんながどうなっていたか気が気じゃなかったんです」



 秋田と他愛ない話をしていた最中、彼の元へもう3つ、声がかかるのに気付いた。その声の方向を向いてみると、カラ松、チョロ松、十四松の3人が並んで大典太達に頭を下げているのが見て取れた。自分達も魔物になった人達の介抱の手伝いをしていたが、改めて礼を言いたくて話しかけたのだという。
 彼らから"助けてくれてありがとうございました"と礼を言われる。大典太は"……大したことはしていないさ"とやんわり頭を下げることをやめさせつつも、その表情は穏やかだった。
 鬼丸も童子切も彼らを助けることができたのには満足しており、各々反応を見せていたのだった。



「魔物にされなくて、本当に良かった」



 そう、童子切が呟いたのをチョロ松は聞き逃さなかった。この刀剣男士は見たことがないが、声色が自分の兄と似ている――いや、瓜二つなような気がしてならないのだ。カラ松に気付かれないようにそのことをやんわり十四松に伝えると、彼はじっと童子切を見つめる。童子切とカラ松の声を聞き比べて、2人で真顔になっていた。
 そうとは知らないカラ松は、呑気に"ン~?"と声を発していた。



「さてと!助けた人も送り届けなくちゃならないけど、マホロアがこの人数ローアに乗せてくれるわけないからなぁ。どうしよう?」
「でも、これだけの人をワープスターにも乗せられないよね? うーん、砂漠の中だしどうしたらいいんだろう?」



 カービィとバンダナワドルディがそんなことを言う。魔物にされた人々の数はざっと30人ほどはいる。ローアに乗れば一瞬でリレイン王国まで送り届けられるだろうが、マホロアがそんな人助けを、自分の利益にもならないのにやるとは思えなかった。
 うーん、と唸る2人の元に、向こうからふよふよとネズミのような生物が現れるのに、まだ彼らは気付いていなかった。

Ep.04-2【新世界の砂漠の華】 ( No.187 )
日時: 2025/10/02 21:44
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

「カービィ~!」
「あれ? この声って……」



 カービィを呼ぶ声がこちらに近づいてきている。思わず声の方向を向いてみると、そこには宙を舞うネズミのような生物がいた。その姿に大典太は、ネズとチューンストリートに行った時にもすれ違ったなとはっとする。それは向こうも同じだったようで、ネズミのような生物は大典太に気づいたのち、嬉しそうに近づいてくるのだった。



「あっ!バンドマンの人だぁ!こんなところで会えるなんて嬉しいな~♪」
「……バンドマンじゃない。あの時は音楽を生業とする者を護衛してただけだ」
「ところでさエフィリン。なんでこんなとこいるの?」
「あ、そうだった!ボク、カービィが砂漠に行ったって聞いたから心配してここまで追いかけてきたんだよ!ここ、最近魔物がうろついているって噂が絶えないし……」



 "エフィリン"と呼ばれたそのネズミのような生物は、ここまで来たいきさつをカービィに話した。どうやら、魔物が出るという噂の場所にカービィが行くと聞いたらしく、心配になってここまで追いかけてきたらしい。最も、その魔物の正体は悪い人物に実験に使われた結果、魔物にされてしまった普通の人間だったのだが。
 そのことを話すと、エフィリンは驚いたのち"じゃあ、もう魔物はいないってこと?"と改めて訪ねてきた。自分達が悪の元凶を追い払ったと説明すると、エフィリンはすごいすごいと自分のことのように喜んだ。彼を見るに、彼はとても純粋な性格だということが確認できた。
 そこまで聞いて、エフィリンははっとして皆を見渡す。自己紹介をしないのは失礼に当たると思ったのか、"ボクはエフィリンだよ。よろしくね!"と元気よく挨拶をしてきたのだった。



「ところで……エフィリン殿? でしたか。その魔物にされた人間の皆様をどうするか今、悩んでいるのです」
「そっかぁ。魔物にされた人達も元々住んでいる場所があるしね……。うん、わかったよ!ボクのワープ能力でこの人達を連れていくよ!」
「えぇ?!そんな簡単にいいのエフィリン?!」
「もちろんだよ!ボクの力が役に立てるなら、使ってほしいな!」



 なんと、エフィリンがワープ能力で助けた人達を連れて行くと言ってのけたのだ。その言葉に一同は驚くばかり。こんな小さな体にそんな大きな力が秘められているとは思わず、皆開いた口が塞がらない。そんな彼らの反応を見て、カービィは"エフィリンはすごい子なんだよ!"と胸を張って言ってのけた。
 どこに連れて行けばいいかと尋ねられたので、いったんリレイン王国に連れて行き、そこから各々の故郷に帰ってもらおうという話にまとまった。リレイン王国の話をすると、エフィリンは目をキラキラさせて"どんな国なの? ボクも行ってみたいな!"と喜んだ。
 これで一件落着、といけばよかったのだが、今剣が残念そうにぽつりと呟く。そう。今回の目的の片方は達成できたのだが、もう片方は未だ達成できていないのだ。



「あ、でも……。けっきょく、"さばくのはな"はみられませんでしたね」



 秋田を助けるのに集中していたあまり、"砂漠の華"探しを中断していたことをカービィは今思い出した。今から探すとしても、この人たちを送り返していたら探す時間がなくなってしまう。そもそも、自分達のわがままに彼らを巻き込んだ形でこんなところまで来ているのである。残念だが、今回は"砂漠の華"探しは諦めるほかない。
 カービィが今剣にそのことを話そうとすると、"待ってください"との声がする。



「"砂漠の華"であれば、今なら見られる場所がありますよ」
「え?!」
「本当か?!」



 その言葉を発したのは、魔物にされた人々のうちの1人だった。その人物は、この砂漠の近くにある町出身だったようで、"砂漠の華"についての噂も知っていた。今の時間ならおそらくギリギリ見られると言ってのけた彼に、今剣と厚が迫る。困ったように笑った彼は、この場所ならおそらく屋上からその景色が見られると言ってのけたので、帰る前に全員で屋上へ向かうことにした。


 屋上に到着する。秋田探しに時間を取られていたのか、そこからは夕陽がショッピングモールを照らしていた。その美しさに、思わず秋田が"綺麗ですね……"と感動している。しかし、肝心の"砂漠の華"は見当たらない。



「でも、"砂漠の華"はどこにあるのかな?」
「あれを見てください」



 心当たりがある、と言った男性が指さした先を見る。そこには、夕陽の光にキラキラと照らされ、まるで花のように舞う砂嵐があった。砂嵐一粒一粒が花の花弁のように見え、砂嵐全体が花吹雪のように見える。
 それはまさに"砂漠の華"といって差し支えないほど、美しい光景だった。



「太陽に照らされて、砂嵐の粒が花の花弁のようにキラキラと舞う現象。このことを、東の大陸の人々は"砂漠の華"と呼んでいるんです」
「そうなんだ……!キレイ!すごくキレイ!」



 男性の説明を受け、バンダナワドルディはぴょんぴょんと飛び跳ねて"砂漠の華"に見惚れている。夕陽が砂地を照らす間だけしか見られない現象。それが巡り巡って、"幻の花"と西の大陸では噂されるようになったのだろう。
 大典太達もその光景を静かに見やり、その美しさをじっと見つめていた。



「まるで、砂が花の花弁のように見えるな」
「……だから、"砂漠の華"か。風情があるじゃないか」



 興味がない、と言っていた鬼丸も、皆に感化されたのか大人しく"砂漠の華"を鑑賞し、口元は満足そうに上がっていた。その様子を大典太は見て、またくすりと微笑みを零したのだった。


 一同はそのまましばらく"砂漠の華"を楽しんだ後、エフィリンのワープ能力で帰還することにした。未だに伸びている部下の人間はどうするのかという話になり、彼はリレイン王国の警備隊に引き渡そうという結論にまとまった。
 エフィリンは皆の話を聞いたのち、自分の力でワープホールを開く。その中に1人ずつ入っていき、皆が無事に入ったのを確認したのち、大典太達もワープホールに入りリレイン王国へと帰るのだった。






















「おかえりなさい♪ あら、また可愛い子がやってきたじゃない!」
「秋田藤四郎です。ここがリレイン王国なんですね……。わくわくします!」
「秋田ちゃんね!なんて可愛らしい子なのかしら~!みんなハグしちゃうわ!」
「ちょ、町長殿?!」



 ちょうどリレイン王国の議事堂の前にワープホールは開き、掃除をしていたラルゴ達と鉢合った。彼は秋田が新しく助けられた刀剣男士だとすぐに気づき、四振そろって帰還を喜び彼らをぎゅっと抱きしめた。そんな姿を見守っていた大典太は、思い出したようにラルゴに魔物にされた人々の話をした。ラルゴはそれを黙って聞き、"帰る場所があるなら故郷に帰った方がいいわよ!"と、帰る故郷がある人々はそのまま送り届け、ない人はリレイン王国で受け入れることとなった。
 鬼丸が担いでいた部下の人間は無事警備隊に引き取られ、後日事情聴取を行われた後、再犯性がないと判断されたのち解放されるとのことだった。
 三つ子もサクヤと話したいとのことで、大典太はスマホロトム越しにサクヤと彼らの橋渡しをする。スマホの中からだが、元気そうな姿を見たサクヤは嬉しそうに笑顔を零したのだった。



「……そういえば。秋田もあんた達三つ子もだが、これからどうするんだ」
「ここがコネクトワールドならすぐにサクヤさんの手伝いをします!って言えたんだけどね……。流石にこの世界だと雇用関係は解消されてるよね……」
「僕も、右も左もわからないのでこれからどうしたらいいか」
「秋田!じゃあ、オレ達と一緒に町長さんの手伝いをしようぜ!」
「ちょうちょうさんは"ひとでぶそく"といっていました。それに、しょたいめんであんなにかわいがってくれたんです。秋田ならだいかんげいだとおもいますよ!」



 今剣と厚の後押しもあり、秋田は恐る恐るラルゴにここで働いてもいいか尋ねる。すると、彼は笑顔になって"街を盛り上げるために尽力してくれる人なら大歓迎よ!"と、秋田の滞在をさらっと許したのだった。
 三つ子の働き先も探さねばとなっていたところにもラルゴの手が差し伸べられ、力仕事を中心とした町長の手伝いを、三つ子もすることになった。



「秋田ちゃんと三つ子ちゃん達のことはアタシに任せて、光世ちゃん達はサクヤちゃんに報告に行ってきなさいな。今回のことで色々話したいこともいっぱいあるでしょうしね!」
「……感謝する。気遣い、痛み入る」
「冒険、楽しかったよー!また冒険しようねー!」
「ばいばい」



 こちらに大きく手を振るカービィ、バンダナワドルディ、エフィリンに小さく手を振ったのち、四振はサクヤの元へ向かった。
 今回起きたこと――"また、悪神の眷属が現れた"ことを話しに行くために。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。