二次創作小説(新・総合)
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- 繋がる世界と未来の物語
- 日時: 2025/09/29 21:52
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)
―――これは、"全てを元に戻す"物語。
それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。
どうもです、灯焔です。
新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
また、オリジナルキャラクターも登場します。
苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2
<目次>
Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17
Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37
Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53
Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67
Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89
Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130
Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148
ep.04-1 【天下五剣が集うとき】 完結
>>166 >>167-171 >>172-176
Ep.04-2【新世界の砂漠の華】
>>178 >>179-180 >>181-184
※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54
Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111
Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151
Ep.04
【月と超高校級の来訪】 >>177
※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108
Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163
<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150
>>164-165
最終更新日 2025/09/29
以上、よろしくお願いいたします。
- Ep.04-1【天下五剣が集うとき】 ( No.170 )
- 日時: 2025/09/09 21:57
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)
「童子切!!!」
間違いない。白髪の彼から感じる覚えのある霊力は童子切のものだ。一行は、素早く童子切であろう男のそばに駆け寄る。
当の彼は震えつつも一行に向かって真っすぐ目を向けている。彼からは、"感情"そのものが感じられなかった。
「童子切殿、大丈夫ですか。助けに参りました」
「それが、わたしの名なのか」
「な……!!」
"童子切安綱"。その名が、自分のことであることもこの男は忘れていた。
いや、違う。忘れたのではなく、邪気が彼の奥底まで混じり合った影響で記憶や逸話にまで影響が及んだのであろう。
大典太は思った。童子切が"感情"を感じられなくなっているのも、かつて感情を封じていたサクヤとは違う。彼は――"感情"そのものを失ってしまっていることを。
なおも変わらず大包平は童子切の肩を揺さぶり、"本当に忘れたのか" "俺がわからないのか"と問い詰める。しかし、帰ってくる答えは同じ。"なにもわからない"と言葉を紡ぐことしか、この男にはできなかった。
「忘れたとは言わせんぞ!お前は童子切安綱!紛れもない事実だろう!」
「大包平殿……」
「邪気が奥底にまで混じり合った結果、記憶まで失ったというのか」
きょとんとしている童子切を前に、遂に大包平が項垂れた。これ以上彼に何を言っても返ってくる言葉は同じだと悟ったのだろう。
彼の様子を見ていた刀剣男士達も、各々反応を見せる。やっと五振で"縁側で茶を飲み、しあわせに暮らす"と約束を果たせるかもしれなかったのに。彼を追い求めた結果が、こんな結末だとは。
しばらくの沈黙が続く中、大典太がそれを破った。まずは、彼にくすぶる邪気を解呪せねばならないと。
「……各々思いはあるだろうが、まずは童子切の中にある邪気を解呪せねばならん。少しだけ、俺に時間をくれ」
「わかった。だが、お前一振で大丈夫なのか? 俺達も何か手伝ったほうがいいだろうか」
「……いや、いい。まずは俺がやってみる」
心配する三日月に大丈夫だと声をかけ、大典太は変わらずきょとんとしている童子切の隣に屈む。そして、彼の心臓部分に手を当て、自分の霊力を込め始めた。
いつもならば、大典太の霊力が童子切の中にくすぶる邪気と反応し、紫色の靄となって空気に溶け合うはずだった。霊力を込めていた大典太の指に、バチバチと小さな痛みが襲う。思わず手を離してしまう彼に、大包平が眉間にしわを寄せた。
「…………!」
「おい、どうした」
「……霊力が、弾かれた」
「何をしている大典太光世!貴様、この期に及んでまた契約を破棄したなどというわけではないだろうな!」
違う。反射的にそう返した大典太に、大包平も"おう"と返事をするしかなかった。大典太がサクヤと契約していることは大包平も知っているはずだ。"外の世界を知れ"と、遠回しに新しい主探しを命じられているが、今まで契約を破棄したことはない。
そうであれば、考えられることは――。大典太はその結論に、悲しそうな表情をすることしか出来なかった。
「……違う。童子切の中にある邪気が……魂の奥底にまで混じり合ってしまっているんだ」
「…………」
「ならばどうすればいい!どうすれば童子切を助けることができる!」
大典太が"解呪できない"と言った以上、どんなに協力して霊力を高めても童子切の邪気を解呪することは不可能だった。
ならば、どうすれば童子切を助けることができる。皆が思っていたことを大包平が口に出す。できるものなら既にやっている。誰かがそんなことを口にしたが、その言葉はすぐに静寂へと溶けて消えた。
しかし、どうにかして童子切を連れて帰らねばならない。そのことをサクヤに相談するため、一旦は彼を連れて神域へ戻ろうと彼の肩に腕をかけた、その時だった。
――ブオン。感じたことのない邪気が一行を襲う。
「これはッ……!」
「鬼丸殿、わかるのですか!」
「あぁ。忘れもしない。忘れるものか。この邪気は――!」
その言葉と共に、鬼丸は刀を構える。それと同時に、窓が割れる音が聞こえてきた。
それと同時に、現れたものは――。
「――ッ!!!」
「……おい!」
今まで沈黙を貫いていた童子切が、大典太を突き飛ばした。それと同時に、童子切の胸元を黒い光のようなものが貫いた。
一行はその光に見覚えがあった。かつてソハヤを暴走させた、あの黒い光だった。
「……ぅ……ぐぁぁ……!!」
「童子切?!童子切!!」
「……にげ、て……。わたしの、こころが、こわれる、まえに……!!」
苦しみ始めた童子切に動揺する大包平を力づくで下げ、彼を何とかしようと近づく。しかし、それもすぐに無駄に終わった。
童子切の微かな声と同時に、彼を覆う邪気が膨れ上がり身体を覆っていく。
「童子切!!!」
「……まさか、邪気を増幅させたというのか……!」
「そういうことだ。こうなったら……もう、解呪は不可能だと思ったほうがいいな。――かつてのおれのように」
「……わたしが、きずつけるまえに……!にげ……ァ……ァァア……!!!」
童子切を覆う邪気は徐々に強まっていき、彼が見えなくなるくらい強いものとなっていく。
それと同時に強い風と咆哮のようなものが響く。一行は立っているのが精一杯だった。
風が止んだのと共に現れたのは――。
『アァアァアァアアアァ…………!!!』
――自分達の何十倍もある、巨大な、巨大な、鬼だった。
「……くっ」
「そんな……馬鹿な……」
「呆けている場合ではないぞ大包平。ここで防がねば……世界が滅びるかもしれんからな」
「これが……これが……探し求めていた"童子切安綱"の姿だというのか……!!」
大包平の声は、虚空へと消えた。
- Ep.04-1【天下五剣が集うとき】 ( No.171 )
- 日時: 2025/09/10 21:44
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)
刀剣男士達が鬼と化した童子切と対峙している一方、神域でも異様な気配を感じていた。
世界を覆う異様な邪気――。まるで気分を下げるような重苦しいそれは、遠く離れた神域へも漏れ出していた。気配に敏感なのか、畳に座っていたオービュロンがヒッ、と悲鳴を上げる。そんな彼を信濃は宥めるようにそっと抱きしめた。
「この異様な空気……。童子切さんを助けに行った先で何かあったのかな」
信濃のその言葉に、サクヤは目を伏せる。
戦闘沙汰になることは覚悟していた。それは、待っているサクヤも、戦場へと向かう刀剣男士達もわかっていたことだった。しかし、まさかこれほどまでに童子切を覆う邪気が強くなっていたのかと、彼らを送り出したことを少し後悔していた。
しかし、今更そう考えても遅い。どうにかして六振を折らずに帰還させなければならないが、彼らが逃げるような性格だとは思えなかった。
そんな折だった。突然勢いよく扉が開く。その先にいたのは、焦った表情を見せたソハヤだった。
彼も、異様な気配を感じいてもたってもいられずサクヤの元までやってきたのだった。
「ある……キバナには話をつけてきた。俺も兄弟がいる場所に連れてってくれ!兄弟が大変なことに巻き込まれてるってのに、黙ってられるか!」
どこから聞いてきたのか、ソハヤは大典太達が童子切を救うために出かけたということを知っていた。そして、彼に危険が及んでいることを察知し、急いでここまでやってきたのだという。
普段ならば流石兄弟刀だと褒めるべきところであるが、今回ばかりはそうもいかなかった。
サクヤは"なりません"とソハヤをぴしゃりと止める。その言葉に、彼も静かに頷くしかできなかった。
「だがよぉ、このままだと兄弟が危ねぇんだって!このまま兄弟が折れるって考えたら、俺……!」
「わかっています。ですから――私が助けに参ります」
「……何するつもりなんです?」
サクヤはその言葉と共に静かに立ち上がった。まるで覚悟を決めた表情に、ネズが眉間にしわを寄せて問う。
すると、彼女は目じりを下げてこう答えたのだった。
「刀剣男士の皆さんを神域に引き戻します。それ故、少し外出をして参ります」
「えっ。それって大丈夫なの? サクヤさん、神域から出られないんじゃ……」
"外に出る"。あの後、アンラから身を隠す為に一歩も神域から出なかった彼女が、遂に"外に出る"と言ったのだ。
それはつまり、彼らに命の危険が迫っているということを察するのに、ネズはそう時間はかからなかった。
信濃が至極まっとうな質問を彼女に投げかけるも、サクヤは目を伏せ静かに返した。 "今自分が動かねば、あの場にいる全員が折れてしまいます"と。
そのまま消えてしまった彼女に、ネズはため息をつきながら首を横に振ったのだった。
「全く……。光世のお人好しがこの神から移ったってのは、本当のことみたいですね」
「兄弟……」
『アァアァアァアアアァ!!!』
「――ぐあぁっ!!」
「ぐっ……!」
一方。北方にある屋敷では、鬼と化した童子切と刀剣男士達との死闘が繰り広げられていた。
鬼の一撃はとてつもない破壊力を誇り、すでに倒れて動けない者も存在する。
大典太は三日月と大包平と支えあいながら、この鬼をどうすべきか考えていた。
「クソッ……。なんなんだこの力は!これが童子切の邪気の力とでもいうのか!」
「その通りだとも大包平。童子切が邪気に完全に吞まれている影響だろうな。まさか一撃でここまで持っていかれるとは」
「……来るぞ。次にあれを食らったら俺達も命がない!」
次の攻撃に備える三振だったが、それより早く鬼が動いた。
彼らに振りかぶる"爪"。傷ついた彼らは避けることもままならず、うめき声と共にその牙の餌食となってしまう。そのまま、巨大な鬼の前に崩れ落ちてしまった。
かろうじて意識はあるものの、次に攻撃を食らえばほぼ確実に折れてしまうだろう。この場にいる誰もが、そう思っていた。
鬼はそれをものともせず、この場にあるすべてを亡き者にしようと腕を振るう。ガラガラと、屋敷が崩れ落ちる音がした。
瓦礫が鬼を傷つけても関係ない。鬼は周りなど気にせず、次々と周りにあるすべてを破壊していく。
大典太はかすれていく目で鬼を見やる。まだ、戦える。まだ、戦わねば。童子切を助けて全員で戻るのだろう。その気力だけが、彼を突き動かしていた。
「……一振も 折れずに…… 童子切、を……」
震える手で、目の前に落ちた刀を拾おうとする。しかし、思いとは裏腹に身体がいうことを聞かない。もう、身体の方が悲鳴を上げていたのだ。
自分が動かなければ全員があの鬼の餌食になってしまう。それだけは避けなければならなかった。しかし、身体が動かない。
「(……ここまで、なのか)」
大典太の脳裏に諦めの文字が浮かぶ。自分達はここで折れるのか。五振でゆっくり茶を嗜む、そういう約束も果たせず折れるのか。
しかし、この鬼には太刀打ちできる力がない。自分達の限界は、ここなのだ。
大典太はゆっくりと目を伏せる。その時だった。
『――アンラ。自らが奪取した刀ですら"道具"としか見ていないようですね』
いるはずのない、主の声を感じた。何故?何故ここにいる?
「……ある、じ」
「一旦戻りましょう。このままでは皆さんが全て折れてしまいます」
その声に安心感を覚えたのか、大典太は遂に意識を失った。それを静かに見守った青龍は、静かに自らの姿を龍に変化させた。
屋敷に龍の咆哮が響く。それと同時に、倒れていた六振を柔らかな光が覆う。そのまま、龍と共に六振の姿が消えたのだった。
『――クトゥルフ チカラ ……アァアアアァ』
"鬼"は何かを探し求めるように、屋敷を壊しながら外に向かって進んでいったのだった。
- Ep.04-1【天下五剣が集うとき】 ( No.172 )
- 日時: 2025/09/11 22:04
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)
――ここは、どこだ。
――俺は、あの鬼に斬られたはずだ。主に助けられて、それで……。
『――だい、―――い!』
「…………」
暗闇から、目を覚ます。そこには、見覚えのある景色が並んでいた。
ふかふかとした掛布団の感触から、自分は今寝かされているのだと大典太は理解した。どうやら、あの後本当にサクヤは六振を連れてこの神域まで戻ってきたということらしい。
彼が目を覚ましたのに気付いたのか、勢いよく抱き着いてくる影があった。ソハヤのものだった。
「あ、目を覚ましましたね」
「きょうだいぃぃぃ!!!俺、本当に心配したんだぞ!!友達助けるためとはいえ命をかけるようなことをしやがって!」
「…………」
そうだ。共に戦っていた他の刀剣男士はどうなった。思わず周りを見渡してみると、せかせかと自分達を看病している信濃、ノボリ、オービュロンの姿が目に入ってきた。
手入れ部屋の扉はすべて開いており、そこに並べられた布団には、今まで共に戦っていた刀剣男士が傷ついた姿をしながらも眠っている。皆、彼らの治療を受けていたようだった。
大典太はその姿に思わずホッと胸を撫でおろす。そんな彼の様子を見たのか、ソハヤはしかめっ面になって"こんな時でも他人の心配かよ!兄弟は変わらねぇなぁ!"と悪態をついたのだった。
「光世さん。お目覚めのようでよかったです」
「……主」
「何とか全振の破壊は免れました。皆さんも今はゆっくりと休まれています」
自分達が誰一人折れず助かったのはいいが、問題は鬼と化した童子切をどうするかだった。あの鬼があのまま屋敷内に残っているとは考えにくい。どこか街のような場所に現れれば、邪気と霊力ですべてを破壊しつくされかねない。
その顔でソハヤも大典太の考えていることを読み取ったのか、悲しそうな顔をしてこう口にしたのだった。
「話は全部サクヤから聞いた。童子切が……鬼になっちまったんだってな」
「…………」
その言葉に、大典太は黙ってうなずく。鬼になるほどにアンラの邪気が童子切の霊力と混じり合ってしまっていた。しかし、アンラの力に覆われる前。もし、自分が童子切のことを庇っていたら、彼は鬼にならなかったかもしれない。
大典太の心の奥底には、大きな後悔が押し寄せていた。しかし、過ぎてしまったことを今更考えても仕方がない。今は、童子切をどうにかしなければ――最悪、世界が滅びてしまう。自分達が止めなくてはいけなかった。
「童子切さん……どうすれば助けられるの? もう倒すしかないの?」
「鬼になったのだとしたら、斬るしかないだろ」
「鬼丸……」
信濃のしょんぼりとした言葉に、聞き覚えのある声が木霊する。その方向に顔を向けてみると、鬼丸が起き上がって静かにそう返していた。
もう大丈夫なのかと声をかけると、鬼丸は静かに頷いた。おそらく、サクヤと契約した刀だからこそ回復が早かったのだろうと彼は推測していた。その証拠に、前田は既に歩けるまでに回復しており、オービュロンに看病の手伝いを申し入れていたのが見えた。却下されているのを見るに、彼もまだ完治しているわけではなさそうだった。
「しかし、大典太さんでも解呪が不可能となると……"一度鬼を倒し、童子切さんと邪気を無理やり引きはがす"しか方法がありません」
「……そう、なるのか。やはり、あいつを倒さねば童子切は救えないのか」
「主。大典太がおれに使ったあの御守りは、おれがまだ刀剣男士の姿を保っていたから使えた代物だった。そう考えて異論はないな」
「はい。鬼と化してしまった童子切さんには、それが通用いたしません」
童子切を助けるためには、彼にくすぶる邪気を何とかしなければならない。しかし、そうするためにはまず"鬼"を倒し、童子切と分離して引きはがさなければならないことをサクヤは口にした。
どちらにせよ、鬼と化した童子切との戦闘は避けられない。彼が"普通の童子切安綱"ではない以上、自分達が決着をつけねばならない問題だった。
「であれば、やるしかあるまい。邪気を祓い、その中から童子切を奪還する!」
「簡単に言ってくれるな大包平よ。しかし、俺達がやらねばならんことも事実。あいつは"普通の童子切安綱"ではないのでな」
「えぇ。我々でなんとかせねば、世界にも影響を及ぼしてしまいます」
しかし、その戦いに備えるためには今は休息が必要。ぴしゃりと言い放った数珠丸の言葉で、大包平も静かになり布団をかぶる。三日月は"甘味が食べたい"とのほほんと口にし、数珠丸にやんわりと突っ込まれていた。
そんなやりとりを優しく見守るサクヤに、大典太は申し訳なさを感じていた。自分達が助かったのは、彼女の力があってこそ。アンラから身を隠す為にこの神域に籠っているが、彼女はそれを破ってでも自分達を助けに来た。
それが原因で、アンラに再び狙われるのではないかと大典太は不安でならなかった。
「……主。あんたは外に出られないのに、俺達の為に無理をして……。本当に、すまない」
「いいえ、いいのです。こうして皆さんが戻ってきてくださることが一番大事なのですから」
ふと、大典太の言葉にひっかかりを鬼丸は覚えた。それを聞こうと動くも、寸のところでやめた。
彼が申し訳なさそうにしている表情をしているのもそうだが、それとはもう1つ。彼が"何かを隠している"ことに気づいたからである。しかし、それを聞くのは今ではない。
そう判断を下し、鬼丸も静かに布団をかぶり、眠りについたのだった。
- Ep.04-1【天下五剣が集うとき】 ( No.173 )
- 日時: 2025/09/12 23:28
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)
童子切が鬼と化して一晩が経った。
彼の攻撃により戦闘不能となった六振も、周りの献身な介護のお陰で手入れも滞りなく行われ、翌朝には全振元の元気な姿に戻っていた。
改めて童子切を助けるために話し合いを行おうとしていた矢先、エントランスで慌てたようにラルゴが町長室から出てきた。
焦った様子に思わずオービュロンと信濃が問いかける。
「町長さん。慌てた様子だけど一体どうしたの?」
「どうしたもこうしわもないわよ!ねぇ、ニュース見た?」
「にゅーす、デスカ?」
「そう、ニュースよ!ついさっき報道されたんだけどね、なんか鬼みたいなのがこの街に近付いてきているみたいなの!」
「――えっ?!」
慌てた様子のラルゴは、驚いて言葉を失っている1人と一振のために、近くにあるリモコンを取りテレビの電源をつける。
そこに映っていたのは、昨日天下五剣と大包平、前田が助けに行った童子切が鬼と化した姿だった。鬼は周りの木々を破壊し、何かを求めて進んでいるのが分かる。
あの森はこの国の近くにある森だったはずだ。そこで、信濃は気付く。ラルゴの言う通り、鬼がこの街に近付いてきているのではないかと。
「モシカシテ、"どーじぎり"サン?」
「まさか、大典太さん達を追ってきたわけじゃないよね? 早く知らせなきゃ!」
話を理解できず、首を傾げているラルゴに"教えてくれてありがとう"と一礼をし、彼らはそのことをサクヤ達に知らせるため神域へと急ぐ。
神域へとたどり着くと、サクヤが神妙な表情で彼らを迎え入れるのが分かった。その顔つきから、鬼が王国に近付いて来るのを知っているようだった。
"知ってるかもしれないけど"と前置きをし、ラルゴに教えてもらったこと、ニュースで見たことをそのままサクヤに話す。すると、彼女は更に困ったような表情になった。
「まずいことになりましたね……。もしかしたら本能で、皆さんを追ってここまで来ているのかもしれません」
「わたくしも先程、スマホロトムのニュース記事にて確認いたしました。仮に城下町にまで入って来てしまった場合、被害は相当なものになるでしょう」
「残された猶予は多くない、か」
王国に被害が出る前に、早く童子切を止めねばならない。しかし、六振で行っても昨日のように反撃を喰らってしまっては意味がない。
どうすべきかと悩む一同に、大包平が声を上げる。"俺達だけで駄目ならば、街中にいる刀剣男士を全て派遣してでも童子切を止めねばならん"と。
出来るだけ事情を知っている自分達だけでことを収めたかったが、一度倒れている以上なりふり構ってはいられなかった。大包平の提案に否を唱える者は、誰もいなかった。
もたもたしている間に鬼は王国内へと入って来てしまう。その前に、決着を付けねばならない。
待機していた刀剣男士達は急いで準備をし、神域から出て行った。それに続くように大典太も出ようとすると、サクヤに止められる。
「……主。どうした」
「光世さん。これを」
サクヤは自らの力を凝縮させ、青く光るカンテラのようなものを大典太に渡した。
手に取ってみると、ほんのりと暖かい、柔らかな力が大典太に伝わってくる。サクヤの神力で出来たものだと彼は理解した。
それにしても、何故カンテラなのだろう。思わず尋ねてみると、彼女は静かにこう答えたのだった。
「童子切さんの邪気は相当なものです。彼と鬼――邪気を引き剥がす際、邪気が街の中に流れ込むのをこれで防いでください。このカンテラは私の力で出来ていますので、すべての邪気を吸い込むことが出来るでしょう」
「……分かった。感謝する、主」
「光世さん。皆さん。ご武運を祈っております。必ず童子切さんを連れて、皆無事に帰ってきてください」
「……あぁ。昨日のような失態は起こさない。必ず童子切を助けて帰ってくるさ」
それに続くように、ネズがスマホロトムでニュースの中継を見せる。鬼は、話している間にもどんどんリレイン王国へ近付いていた。
このままでは、街が破壊されてしまうのも時間の問題。残された猶予はあまりないのだった。
「……では、行ってくる」
その言葉を最後に、大典太は神域を後にした。
道中にソハヤ、小狐丸、燭台切、博多にも声をかけ、鬼の元へ向かうことにした。彼らは事情を汲んだ後、自分も戦線に入れてほしいと自ら志願してきた。
エントランスから外に出ると、鬼の咆哮が聞こえる。既に王国のすぐ近くに来ているのだと一行は悟った。
「三日月殿。あちらの方向から叫び声が聞こえてきていますな」
「急がなければ、街に入って来てしまうぞ。皆の者、行こうではないか」
「……あぁ。行こう」
各々気合いを入れて、響いてきた声の方向へ駆けていくのであった。
- Ep.04-1【天下五剣が集うとき】 ( No.174 )
- 日時: 2025/09/13 21:59
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)
咆哮が耳元まで聞こえている。鬼の気配が近い、と刀剣男士一行は改めて気を引き締める。
リレイン王国の郊外までやってくると、目線の先に、城下町にかかる門まで近付いてきている鬼の姿を発見した。このままだと、門が破壊されかねないと思った一同は、急いでいる足を更に早める。
そのまま素早く移動し、彼らは鬼の元へ到着した。ギリギリ、門に辿り着く寸前で鬼を止められたことになる。街を凌駕するほどに巨大な鬼に、初めて対峙する刀剣男士達は各々反応を見せた。
「これは随分巨大な鬼だね……」
「こいつが兄弟を傷付けた鬼……。中に童子切が入っているとか関係ねえ、兄弟の仇討ちはここでさせてもらうぜ!」
「……兄弟、俺は折れてない」
まるで自分が折れてしまったかのように感想を述べるソハヤに、大典太は冷静にツッコミを入れた。そんなことをしている間にも、鬼はこちらを標的と定めたのか大きく腕を振りかぶってくる。
街に攻撃が向かないように注意しながら、彼らはその攻撃をかわし、戦闘態勢へと入った。
鬼の狙いは先程とどめを刺し損ねた六振――ではなく、天下五剣の四振に絞られていた。まるで、彼らが誰に鍛刀されたのかを理解しているように。
「やはり狙いは我々四振ということですか。街に入らぬよう戦えば、街への被害は避けられそうですね」
「まるでおれ達の正体を知っているかのような口ぶりだな」
「見てみろ。あの二つ目が俺達を見つけた瞬間、目を見開いてこっちを見てきているのだぞ。ある程度正体を勘付かれていると見た方がいいだろうよ」
「……童子切のものなのか、鬼のものなのか分からんな」
鬼は四振に目を向け、他の刀剣男士達には目もくれていなかった。自分達を囮にすれば、数はこちらの方が多いため優勢に立ち回れるかもしれない。そう思った大典太は、他の三振に了承を取り、自分達が囮となって攻撃を引き付けることを皆に伝えた。
その間に他の刀剣達に攻撃をしてもらい、鬼の耐久力を削る。そうすれば、勝機も見えてくるだろう。不満の声は漏れたが、鬼と対峙している以上あまり余計な時間はかけられない。残りの刀剣男士達もその提案に了承し、鬼との戦闘に臨むことになった。
「以前のような醜態は晒しません!行きますよ、信濃、博多!」
「勿論!」
「行くばい!」
前田の声を皮切りに、短刀三振が背後から鬼の動きを止めにかかる。
彼らの素早い斬撃は動きの遅い鬼には効果抜群のようで、鬼に次々とダメージを与えていく。
それに続くように、大包平、小狐丸、ソハヤ、燭台切が斬撃を繰り出した。
「俺達も続くぞ!」
「行きますよ!」
「喰らえッ!!」
「たぁっ!!」
太刀四振の攻撃も、先に短刀達が攻撃を与えていてくれたお陰で順当に当たった。少しずつ鬼の耐久力を削っていく。
鬼は反撃を繰り出すも、耐久力の高い太刀を中心に受け流して連携をするお陰で、以前のように一瞬で決着がつくことはなかった。
鬼はなおも四振を品定めするように見据えており、時折舌なめずりをしている。
『クトゥルフ……チカラ……ホシイ……』
大典太には鬼が発する言葉が引っかかっていた。なぜ、彼は自分達がクトゥルフによって鍛刀された刀だということを知っているのだろうか。
考えている間にも鬼の攻撃は降り注ぐ。それを刀で防ぎながらも、彼はそんなことを考えていた。
「(……こいつは、あの老人の正体について勘付いているのか……?)」
「おい。敵を前にして考え事とは随分と余裕があるな、大典太」
ふと、鬼丸が鬼の攻撃を弾き飛ばしながらそう大典太に問いかけた。
大典太は続いてきた鬼の攻撃を受け止め、防ぎながらも小さくこう答える。
「……あいつの言っていることについて少し気になっていただけだ。すぐ戦線に戻る」
「その気になるという話、あとで聞かせてもらうからな。隠そうとしたって無駄だぞ」
「…………」
そう鬼丸は睨みつけるように大典太を見やる。これ以上、彼に負担をかけさせないのもそうだが、今は同じ主の元で動く仲間だ。そんな彼に隠し事などしてほしくなかったのである。
そんな鬼丸の表情を見た大典太は、思いつめたように目を伏せ、小さくため息をついたのだった。
小さな小競り合いのようなやり取りが続く中でも、鬼の猛攻は止まらない。二振に向かって大きな牙が向けられる。
それでも――
『遅い』
彼ら二振の連携で、次々と攻撃が跳ね返されていく。囮を引き受けた上、攻撃が集中しているため天下五剣の四振にもかなりのダメージが入っていたが、以前のように倒れる寸前までではない。
その間に他の刀剣が積極的に攻撃に入り、次々と鬼に斬撃を加えていく。そのダメージの蓄積もかなりのものになっており、鬼の動きが鈍くなっているのが分かった。
それに気づいた信濃が、ありったけの声で叫ぶ。
「動きが鈍くなってる!!今がチャンスだよ!!」
その合図を皮切りに、全員で急所をはねた。攻撃に耐えられず、鬼の両腕がボトリ、と大きな音を立てて崩れ落ちるのが分かった。
攻撃する腕を失い、動きも鈍くなったのかそのまま膝をついてしまう鬼に、大包平は続ける。
「今が好機だ!!行けーーーッ!!!」
彼の声により、刀剣男士全振の連携で連続攻撃が鬼に浴びせられる。腕を失った今、避ける手立てもない。
鬼はそのまま刀剣男士達の猛攻を喰らい、再び大きな咆哮を上げた。
『クトゥルフ……チカラ……』
斬られたところからバラバラと鬼は崩れ落ち、そこから黒色の靄が街の方に流れていく。この靄は、少し触れただけ、少し吸っただけでも精神に影響を及ぼす危険な代物だ。
城下町の人々が避難しているとはいえ、街に靄が入ってしまったら大惨事になりかねない。
「……今、楽にしてやる」
大典太がサクヤに貰ったカンテラを掲げ、精神を集中させる。すると、街に流れ込もうとした靄が一気にカンテラの方に吸い込まれていった。
その強さに思わず体勢を崩すが、なんとか大典太は持ちこたえた。自分がここで膝をつけば、城下町の人々が大変な目に遭ってしまう。その思いが、彼を突き動かしていた。
「――ッ!!」
「大典太殿!」
「……大丈夫だ。あんた達は童子切を!」
そう言い、大典太は鬼の目があった方向を見やる。そこには、黒色の靄から現れる童子切の姿があった。
この場は自分にまかせてほしいと三日月が素早く移動し、落ちてきた童子切を抱き留めた。
童子切は薄くではあるが息をしており、破壊は免れたということが分かった。あの鬼は童子切を取り込んでいただけだったのである。
そのまま童子切の中に残っていた邪気も、カンテラの中に吸い込まれていく。皆でそれを見守っていると、徐々にカンテラの吸い込む力が弱まっていくのが分かった。
全ての邪気を吸い込んだのち、カンテラは大典太の手から役目を終えて淡い光となって消えてしまったのだった。
「……終わった、か……」
「大典太!」
安心したのか、あまりにも吸い込む力が大きかったのか、大典太はバランスを崩れ倒れかかる。それを鬼丸が支えたのだった。
「言った傍から無理をするな。おまえの悪いところだ」
「……無茶でもしなきゃ、やってられないんでな」
鬼丸に支えてもらいながら、二振は童子切の元へ急ぐ。三日月が草むらの上に童子切を寝かせ、彼の起床を待っていた。
しかし、彼は死んだように眠るのみ。起きる気配がまるでなかった。
「起きませんね」
「そりゃあ、随分と長い間邪気を注がれていたのだからなぁ。それを無理やり剝がしたのが俺達だ。魂ごと邪気に持っていかれている可能性も無きにしも非ず、だな」
「ヘラヘラとした言動で不安を煽るな!!」
へらりと大包平の突っ込みも交わした三日月だったが、確かに彼の言うことは一理あると一同も思っていた。魂ごと邪気に持っていかれている場合、この身体はただの抜け殻と化してしまう。刀の付喪神が消えても刀は存在できるのではないか、という疑問については置いておいてもだ。
しばらく童子切を見守っていた矢先だった。微かに童子切の瞼が動いたような気がしたのだ。
「童子切?!」
「……ここ、は……」
「起きたばい!」
童子切が目覚めた。彼の魂は消えていなかったのだ。きょとんとしている童子切をよそに、彼の目覚めを喜ぶ一同。
そして、彼に理解できるよう言葉をかみ砕いて数珠丸は今の状況を説明した。彼が鬼にされていたこと、自分達が今までずっと鬼と戦っていたこと、そして鬼から童子切を引き剥がし、今ここに彼はいるということ。
しかし、童子切の放った一言によって、和気藹々としていた場は一気に凍り付いてしまうのだった。
『童子切……。それが、わたしの名、なのか』
童子切は何も覚えていなかった。自分が鬼にされたことも、今まで彼らと死闘を繰り広げていたことも。逸話も、自分の名も――。
それは、周りが自分のことを"童子切"と呼ぶので、かろうじて自分の名前はわかるという程であった。
「ね、ねぇ。もしかして邪気と一緒に記憶まで吸っちゃったとかないよね?!」
「それが一番可能性として考えられるな。俺達が最初に童子切を発見した時には、既に記憶を失っていたからなぁ」
「そ、そんな……」
記憶がない。逸話がない。それでは、彼は一体何なのだろう。"刀剣男士"と呼べるのだろうか?
一同の頭の中にそんなことが浮かぶ。しかし、姿形は三日月達と共に時の蔵で過ごした"童子切安綱"そのものである。
凍り付いた空気を沈黙が包む。そんな中、大典太が静かにそれを打ち破った。
「……とりあえず、今は童子切を神域に連れて行くのが先だ。記憶のことについても……主に相談してみよう」
「そう、そうですね!今ここで落ち込んでいても何も進みませんし!」
「それに、さっきまで戦っていたからね。僕達も神域の手入れ部屋を使わせてもらってもいいかい? 刀剣男士であれば、神域には出入り出来るんだろう?」
「……構わない。事情が事情だからな。許可してくれるさ」
今やるべきことは落ち込むことではなく、主に童子切を奪還したことを報告することだ、と大典太は静かに言い放った。
それを咎める者は誰もおらず、未だに不思議そうに皆を見つめる童子切を連れて神域へと戻っていったのだった。
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