二次創作小説(新・総合)
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- 繋がる世界と未来の物語【Ep.03-ex完結】
- 日時: 2022/10/12 22:13
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
―――これは、"全てを元に戻す"物語。
それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。
どうもです、灯焔です。
新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
また、オリジナルキャラクターも登場します。
苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2
<目次>
Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17
Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37
Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53
Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67
Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89
Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130
Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148
※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54
Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111
Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151
※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108
Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163
<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150
最終更新日 2022/10/12
以上、よろしくお願いいたします。
- Re: 繋がる世界と未来の物語 ( No.150 )
- 日時: 2022/08/20 20:57
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
どうもです。灯焔です。
久々の更新です。コメント返信いきます。
>>柊 様
どうもです。コメントありがとうございます!
色々お話が進んでいました。ポップン勢も何やら大きな催しを開催しようとしている訳であります。もしかしたら観客として招かれるやもしれません。何も分かりませんが。
彼女達を信頼しているからこそのガバガバっぷりです。それを分かっているからこそ辛辣なことも口にするのです。
本丸には色々な光世さんがいる。だからきっと音楽に精通している光世さんだっています← とあるミュ本丸の光世さんは色気が凄かった…。
用意の良すぎるサブマスの見送りを受けつつ、早速会社へと向かいます。剣盾でも色々あったんです。昔はスパイクタウンが名門だったんだそうです。ダイマックスで賑わう弊害を受けていたんだろうなと思うと心が痛みます。
ビルで久々のルーク、スイペアと遭遇。歌姫も同じタイミングでメールを受け取ったようです。もしかしたら残りの3人も何かしら知っている可能性も出てきました。何かしらチートですものあの4人やらナデシコさんやら。
当日集まっていたアーティストと会って会話。別にこれから何かをする訳ではありません。ポップンは平和でみんななかよしなゲームですからね。
少なくともこの世界の光世さんは交流関係を広げています。蔵の中には入れてくれません。入れる蔵がありません。どこかで三池のソハヤ派はキバナに、光世派はネズに傾くとか見たような気がします。
ドルディーズは本当にかわいいです。300体もいるのだから1体くらいお持ち帰りしても良い気がします。どこかで見たようなピンクだまは歌おうとしているようです。新作でディスカバリーするネズミのようなあの子は善意でマイクを用意しそうです。バンワド、頑張れ…!
意外な人物と遭遇しながらも、4人はここに来た本来の目的を聞きます。
フェスへの参加が決まったと同時に、もう1つの本題が彼らによって語られました。第三の刺客がどうやら世界にいるようです。いつかSAN値吸収しに来てもおかしくありません。
光世さんがなにやら嫌な記憶を思い出したようです。なんでしょうね。なんなんでしょうねえ。
何も起こらず音楽フェスを開催できることを祈りたいものです。
自分達を助けてくれた人が敵だった。結構王道なシチュエーションですが、老人の正体は一体何なのでしょうか。
帰りにクレアと遭遇し、サブマスへのおつかいも済ませ、一旦は話し合いに。
目覚めたら世界が終わるでしょうね。某TRPGでも目覚めたらバッドエンド出発進行です。駄目ですね。
そして、ネズさんからまさかのセッションオファー。中の人的には2人ともお歌上手なので大丈夫だとは思います…が、果たしてどんなハーモニーを奏でてくれるのか。楽しみです。
天下五剣の正体がちょっと分かったと同時に、サクヤの力も失われている。だからこそ、自分の元を離れる準備をしろと言ったわけなのです。
しかし、光世さんとしてはサクヤを助けたいはず。葛藤です。助ける術があるならば、そっちを優先しちゃいそうです。今の彼ならば…。
今後の展開にもご期待ください!
暖かいコメントありがとうございます。励みになります。
- Ep.03-s5【繋がりの温泉街】 ( No.151 )
- 日時: 2022/08/20 22:02
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
それはなんてことのない、とある日常が広がるある日の出来事だった。現在、議事堂ではラルゴの指示で刀剣男士達が各々彼の仕事を手伝っている。ポケモントレーナー達は皆仕事や用事など各々の要件を済ませに全員出払っていた。
鬼丸が持っていた一番重そうな荷物を町長室へ運び込んだのと同時に、ラルゴは休憩を入れることを提案した。朝から荷物の運び出しを手伝ってもらっていた為、まとまった休憩時間を取るようにと彼は一同に指示をした。
エントランスで話をしている矢先の出来事である。各々昼食を取りに行こうとしていたところ、彼らの背後からラルゴを呼ぶ声が聞こえてくるのが分かった。
振り向いてみると、そこにいたのは物腰柔らかそうな、黒髪で眼鏡をかけた男性と、茶髪をお団子に結んだ女性だった。彼らの左手には指輪をしており、2人は夫婦だということが見て取れる。
何か用かとまじまじとラルゴが夫婦の正体を探ろうとしたと同時だった。夫婦が彼の正体を悟り、ラルゴに飛びつくように突然縋りついたのだった。ラルゴも夫婦が顔見知りだと理解し、茫然としている刀剣男士を尻目に再会を喜んでいた。
「ママ!本当にお久しぶりです…!お店が潰されたと聞いた時は心臓が飛び出るかと思いました」
「私達、お店が潰れてからというもの気が気じゃなくて…。ママの無事をひたすら祈っていました」
「んもう、大袈裟ね!確かにアタシのお店は潰されちゃったけど、一緒に潰れちゃったわけじゃないわよ。こうして今は元気に頑張っているのよ」
話が弾む3人をよそに、開いた口が塞がらない刀剣男士達。いてもたってもいられず、思わず前田が悪いとは思いながらも話に口を挟んだ。
「町長殿!どういうことなのでしょう? 彼らは一体?」
「あっ。ご、ごめんなさいね…。嬉しい再会だったものだから、つい舞い上がってしまって。彼らはアタシの昔経営していたお店の常連さん。アタシと同じ世界出身で、元々宿屋業を営んでいたのよ」
「ツムグといいます。こちらは妻のハツネ。よろしくお願いします、皆さん」
「夫の紹介に預かりました、ハツネと申します。夫婦共々よろしくお願いいたします」
ラルゴの紹介を受け、夫婦―――ツムグとハツネは自己紹介をした。ラルゴと同じ世界出身だということも驚きだが、元々彼の営んでいた店に通い詰めていたことにも驚いていた。
彼は元々ネオンシティという場所でバーを経営していたが、その近辺で宿屋業を営んでいたらしい。懐かしそうに思い出を語る彼らにとって、ラルゴが恩人だということなのは本当だろうと仕草や声色ですぐに分かった。
「ネオンシティで宿屋業を始めたのはいいものの、中々経営が上手く行っていなかったんです。それで、落ち込んでいた僕達を助けてくれたのがママ…ラルゴさんだったんです。
それにしても10年ぶりくらいになるのかな。ママ、何も変わってないなぁ。当時のままだ!」
「本当。見た目もそうだけど、気さくなところも何も変わっていないわ!」
「うふふ♪ 皆の悩みを受け止める者として、常日頃から自分自身のケアを怠っていないだけよ!」
ネオンシティという場所は非常に治安が悪い。新人経営者として歩み出した夫婦が選択した場所がそこしかなかったというのも理由の1つだったが、やはり客の態度が非常に悪く精神的に参っていたらしい。
今は仲睦まじきおしどり夫婦になれているが、当時はお互いを理解する努力もせず顔を見合わせれば喧嘩、喧嘩の毎日だったらしい。そんな彼らに声をかけ、店に誘ってくれたのがラルゴだった。彼女の話やアドバイスを聞き、経営のコツを少しずつ習得していった夫婦は自分なりに宿屋業を営んでいくことに成功したのだ。それ以降、夫婦ともに彼女のバーの常連になったのだという。
夫婦に"何も変わっていないなぁ"と言われ、ラルゴは嬉しそうに笑ったのだった。
「……そうか。あんた達も苦労してきたんだな」
「それで、本題に戻るけど…。実は、アタシ今この街の町長をしているのよね。ここにきたってことは、アタシに会いに来たのとは別に何かご用事があるのかしら?」
「ママに会いたかったのが一番の理由だけど…。実は、そうなんだ。この王国で、温泉旅館を開きたいんです」
「温泉旅館、ですか?」
「ええ。わたし達、王国の皆さんの癒しの場を提供したいんです。微風の村の町長さんに城下町の話を聞いたところ、長年使われていない旅館がある、という情報を耳にしまして。そこに温泉を引いて、旅館経営をしていきたいと考えたんです」
ツムグとハツネが議事堂に現れた本当の目的は、城下町に"温泉旅館"を開きたいという願いを聞き入れて貰うことだった。確かに観光地としても少しずつ復興を遂げている今の状態で皆の憩いの場が増えるとなった場合、街をもっと知ってもらう為の足がかりとなるだろうとラルゴは考えた。
彼らの提案に嬉しそうに頷き、いい考えだと賛成をした。彼らの話通り、城下町には使われていない大きな旅館が存在した。ほんの少し建物は古いが、リノベーションをすれば立派に宿屋として経営していけるとラルゴは言ってのけた。
「本当ですか?!」
「本当よ!この街を観光してもらった後に癒せる場所があるってことは、街にとってもプラスになることばかりだわ。アナタ達がこの街に移住してくれるというなら、すぐにリノベーション工事の手配を進めるつもりよ」
「ありがとうございます!わたし、この王国も大好きなので…。夫と一緒に、もう一度宿屋を経営するなら絶対にこの城下町でやろうと決めていたんです」
「あら~!そう言ってくれると嬉しいわ~!それじゃ、色々希望とかも聞かなきゃいけないから一旦町長室まで一緒に来てくれる? あ、刀剣男士ちゃんたちはそのまま休憩に行っちゃっていいからね♪」
そう言って、ラルゴは夫婦と共に町長室へと姿を消した。自分も正に休憩に入ろうとしていた時でもせかせかと働く彼の姿に、どこからそんな元気が湧いて来るのかと鬼丸は不思議に思っていた。
このまま彼を待っていても何もないことは全員が分かり切っている。彼の言葉通り休憩に入ろうとした矢先、鬼丸が口を開いた。
「おい。あの男の言っていた言葉…。引っかかるものを感じた」
「……どれだ。主語を話せ」
「"当時のまま"という言葉だ。おれには、あの夫婦が言っている言葉が"あの時から全く姿かたちが変わっていない"という風に捉えられた」
「……化粧が当時のまま上手いからそう見えているだけじゃないのか? 町長は普通の人間だと俺は思う…」
「うーん…。鬼丸殿が感受性豊かな刀だということは承知しています。そんな貴方がそう感じたということは…本当に町長殿がお若く見えたのでしょうね。当時のまま」
「余計な言葉を口走るな、前田」
「おっと。失礼いたしました」
鬼丸にはツムグの言っていた言葉が妙に引っかかっていた。ラルゴの容姿についての感想だった。いくら外見が老けないといっても、いくら整った容姿だとしても人間には"老い"というものが存在する。10年も経てば、それなりに年を取った形跡が見えるのは当然のことだ。
しかし、ツムグはラルゴを"当時から容姿が全く変わっていない"と感想を口走ったように聞こえた。まるで、彼の身体が当時のまま時が止まっているかのように。
鬼丸の話を聞いて、前田も腕を組み考える。確かにラルゴは若々しい。しかし、その容姿に比例して世の中の情勢を深く知っているのだ。年配にならないと理解が出来ないレベルの話題にまでついていっている姿を以前見かけたことも思い出した。
考えれば考える程、ラルゴについての謎は深まっていくばかりだった。
「町長殿、よきお方なのは充分承知しているのですが…。不思議なお人ですよね。世の中を知っている割には、身体がずっと若々しいというか」
「……ネズみたいに、メイクで大人びているように見せている訳でもないからな…。前にそれとなく聞いてみたが、化粧は別に濃くないらしい…」
「人間ではありそうだが、只者じゃない…"普通の人間じゃなさそう"なのは考えねばならん」
「……今度それとなく探ってみるよ。まぁ、はぐらかされるだろうとは思うが…」
鬼丸と前田の言葉も受け止め、大典太は今度ラルゴにそれとなく話を振ってみようとふと思った。
そして、彼らは昼食を取りに話を切り上げ解散したのだった。
皆を支えてくれる、不思議な町長の正体。それは、本人以外には今は分かり得ないことだった。
Ep.03s-5 【繋がりの温泉街】 END.
- Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 ( No.152 )
- 日時: 2022/09/30 23:19
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
リレイン王国に温泉旅館が建設されてから二週間が経過した。本格的に夏が始まろうとしている季節、リレイン王国にも暖かな日差しが降り注ぐ。緑が生い茂る木々が街の景色に鮮やかさを増やしている。
議事堂の神域でも初夏の雰囲気を表すように、縁側から見える庭には爽やかな低木や、夏を彩る花が添えられている。今は太陽がさんさんと降り注ぐ真昼間。いつもならば閑散としている神域には、何故か珍しく多くの人々が集っていた。
刀剣男士である大典太、鬼丸、前田はサクヤに近況を報告する為に神域に待機しており、信濃はUFOを修理する為に神域に残ったオービュロンの手伝いをしていた。居間の机では、ネズとノボリがゆっくりとくつろいでいる。ネズは大典太が"出来れば今日はここにいてほしい"との希望で神域にたむろしており、ノボリはシュートシティ駅での車両点検のため、ラルゴから有休を言い渡されていた。
トントン、とオービュロンがUFOを修理する音をBGMにしながら、ネズは思いついたフレーズをPCに打ち込んでいく。ノボリとクダリと共にセッションをする曲のイメージを膨らませていた。邪魔しないように、少し離れた位置でノボリはじっと彼を見つめる。ネズの作曲する姿を見るのは初めてだったため、彼の目には仕事に打ち込むネズの姿が新鮮に映っていた。
各々自分の時間を過ごしている中、向こうからドタドタと縁側を走り去る音が聞こえてきた。思わずその方向を向いてみると、前田と信濃が慌てて走っていく姿が見えた。どうやら何かを追いかけているようで、その表情は真剣そのものだった。
刀剣男士とはいえ、姿かたちは少年そのもの。流石のオービュロンも見逃すわけにはいかず、彼らにむっとした表情で告げた。
「廊下を走ってはイケマセン!」
「学校じゃねぇんですから」
そう突っ込むネズだったが、何故彼らが走って追いかける行動を取ったのかが気になっていた。普段、彼らは理由もなしに神域を走り去ったりはしない。何か大きな理由があるのだろうと察し、ノボリに一言断りを入れこっそり前田と信濃が走り去っていった方向を覗き見る。しかし、彼らの姿は既にない。縁側はもぬけの殻だ。
誰もいないのであれば奇怪な行動をすることもない、と戻ろうとした矢先だった。再びネズの耳にドタドタと足音が聞こえてくる。音の気配を辿っていると、いなくなっていたはずの前田と信濃が走って戻って来ているのが見えた。思わず首を引っ込めたと同時に、前田と信濃はそのまま再び縁側を走り去っていった。
胸を抑えながらも自分のPCがあった場所に戻り、コップになみなみと入ったお茶を喉に流し込む。ノボリが気を利かせて追加で注いでくれていたのだった。いくらか頭が落ち着いてきたネズは、彼らが再び戻ってきた時に見えた"とある物体"をノボリに話してみることにした。
「ノボリ。少しいいですか」
「はい、構いません。どうかいたしましたか?」
「あの2人の様子を見に行った時に…見えたんですよ。浮いているキツネのようなポケモンが。夢かなんかで見たことがありませんか? あんたにも見えてたら、でいいんですが」
「ちらりとはわたくしの目にも見えましたが…はて、夢の中で見たことがあったでしょうか。少し記憶を漁って参ります」
「お願いします」
ノボリはヒスイ地方の夢を現在でも見続けていた。二回りほど歳を取ったが、ポケモンへの接し方や愛情まで忘れたわけではない。更に、最近はシャンデラも夢の中で支えてくれていることが増えていた。だからなのだろうか、最初に夢を見始めた時よりもずっと、夢の中の身体は軽く感じていた。
夢の中での記憶を思い起こし、先程瞳に映った"キツネのようなポケモン"を見なかったか確認を始める。しかし、いくら頭の中を整理しても彼が見たポケモンの姿を思い出すことは出来なかった。
しばらくの沈黙の後、ノボリは申し訳なさそうに目を伏せネズに謝罪する。彼は気にすることもなく、ノボリに感謝を述べたのだった。
「ガラルでも見たことが無いんですよね。あんなポケモン。もしかしたら、おれ達の行ったことのない地方のポケモンだったりして」
「新種のポケモン、ということでございましょうか?」
「可能性としては十分あり得るでしょう。とっ捕まえるのは前田達に任せて、ソニアにでも調査の依頼をしますかね」
「……その必要はない。あいつはポケモンじゃないからな…」
別の方向から重低音が聞こえてきた。大典太がサクヤを引き連れ、隣の部屋から戻って来たからだった。何やら、彼らの見た物体に覚えがあるようでその顔には呆れが見えている。
すると、先程目の端に映ったキツネのような物体が猛スピードで大典太の目の前に飛んで来た。それと同時に、なだれ込むように前田と信濃が前のめりに倒れる音が聞こえてきた。オービュロンの悲鳴と共にドサリと2人の身体が畳に直面するが、二振とも受け身を取ったのか大した怪我はしていなかった。
前田と信濃の猛追を回避したキツネの物体は、大典太に縋りつくようにこう叫んだ。どうやら彼に会うことが、この物体の"本来の目的"のようだった。
「見つけましたよ大典太さま!さぁ、時の政府に戻りましょう!」
「……嫌だ。鬼丸も数珠丸も戻らないと言っている。……頼む、帰ってくれ。あんたが来ていることを鬼丸が見たら神域が壊れてしまう…」
「いいえ!今日という今日は貴方がたを連れて帰らなければなりません!どうか受け入れてくださいませ!」
「……堂々巡りだな…」
会話の内容から、このキツネの物体は大典太達を"時の政府"という場所に連れ戻しに来たというのが分かった。しかし、大典太達は戻るつもりはないようで、しかめっ面をやめることはしなかった。ネズもノボリもオービュロンも、以前一松とトド松がボロボロの姿になった原因が"時の政府"だと聞かされていた為、大典太達がこのまま連れ戻されたらどうなるか、想像はついていた。
サクヤも大典太の気持ちを汲んでほしいと説得にかかるが、話し合いは平行線を辿る。どうやらこのキツネの物体は、大典太達を意地でも時の政府に連れ戻すつもりらしい。いくら大典太が"帰ってくれ"と話しても、先程とは対照的にそこから動くことはなかった。
「困りましたね…。以前から何度も申し上げているはずです。光世さん達を渡すわけには参りません。時の政府にはそう説明してくださいとお願いをしたはずなのですが」
「本部の職員が納得がいっていないのです!強い霊力がこの現世にどれだけの悪影響を及ぼすか分かりません。彼らの処遇は、どうか我々にお任せください!」
「話が平行線を辿っておりますね」
「このまま夜が来ちまいそう……あっ」
「どうかしたのですか、ネズさま?」
「んー…。止める準備しといた方がいいかもしれないですね」
そう言って、ネズは後ろを指さす。その先には、襖を静かに開ける鬼丸の姿があった。粗方自分の用事を済ませて戻ってきたのだろうが、大典太の目の前にいるキツネの物体を見て、無表情だった彼の顔が怒りに一瞬で染まった。一瞬の内に抜刀を済ませ、キツネの物体に切りかからんとしていた。
ここで鬼丸の暴走を許してしまったらどうなるだろうか。いくら神域とはいえ、建物に傷が付かない訳ではない。神域の外から運び込んできたものに関しては、いくら神域の中でも"壊れない"ことはない。つまり、ネズのPCやノボリの私物が壊される可能性も出てきていた。
そこからの2人の行動は早かった。ノボリは鬼丸が気を取られている間に背後に周り、以前ネズを止めたように身体全身を使って鬼丸の動きを止めた。その間にネズはおろおろしているオービュロンを手に取り、投げる構えを取る。
「乱暴はおやめください!」
「還さねばならん輩が目に入ったものでな。邪魔をするな」
「暴れられるのは困ります。それに、おれ達の私物壊されるのままならねぇんですよ。刀を仕舞ってください、鬼丸」
「断る、と言ったら?」
「オービュロンをあんたの顔面にアンダースローしてやりますよ。これでもおれ、投げ方にはこだわっているタイプでね」
「エッ?!ワタシはもんすたーぼーるデハアリマセン!ヤメテクダサァ~イ!」
ネズと鬼丸の静かな攻防が続く。一瞬でも目を逸らしたら、鬼丸の猛攻を許してしまう。ノボリが全力で止めてくれているが、力は鬼丸の方が圧倒的に強いのは明らかだ。彼が本気を出したら、止めているノボリが壁に激突して怪我をする可能性もネズには見えていた。
そのままにらめっこを続けている矢先、背後からもう一振の影が見えた。何事かと様子を見に来た数珠丸だった。彼は鬼丸達の様子と、困り果てている大典太の様子を見比べて静かに頷いた。そして、まずは付喪神の暴走を必死に止めている人間を救う方向に舵を切ったのだった。
「鬼丸殿。ここには人間の皆様も多数いらっしゃいます。このまま暴れて、人間の皆様を傷付けては意味がありません」
「先に避難してもらえばいいだろ」
「今は大典太殿が引き留めてくれておりますが、避難を促している間に逃げてしまったらどうするのです。……刀を仕舞ってください、鬼丸殿。我々は戦闘をしに戻ってきた訳ではないのですよ」
「―――ちっ」
数珠丸に強く説得され、鬼丸は舌打ちをしながら渋々刀を鞘に戻した。それと同時にノボリの拘束も解ける。このままキツネの物体に殴りに行かないか不安に思っていたが、彼はそれ以上動かず静かに佇んでいた。攻撃の意思が消えたことを確認し、ネズもオービュロンを床に下ろした。
鬼丸が大人しくなったことを確認した数珠丸は、大典太の方へと動く。そして、こんのすけにこう提案したのだった。
「こんのすけ殿。まずは話をするのが先決ではありませんか? ここには人間の皆様もいらっしゃいます。我々だけで話を進める訳には参りません」
「む、むぐぅ…。し、しかしですね!」
「……あんた、本当に意地でも帰らないつもりなんだな。はぁ…分かったよ。話だけは聞いてやるさ…。だが、俺達の答えは変わらない。それだけは頭に入れておいてくれよ…」
数珠丸の提案、そして大典太の返答にやっとこんのすけは納得したのか、彼らの話に折れたのか。しょんぼりとした表情をしながら、ネズのPCが置いてある机にふわりと降り立った。
何とか一騒動を収めた一同は、こんのすけの話を聞くことにしたのだった。
- Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 ( No.153 )
- 日時: 2022/10/01 22:01
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
数珠丸に"こんのすけ"と呼ばれた物体は、一同に向き直り改めて自己紹介をした。
こんのすけは、本来であれば各本丸に1体ずつ配備される"時の政府と本丸との連絡係"のような存在である。しかし、このこんのすけに関しては時の政府の伝令を伝えるために配備された、政府に直接仕える存在だと名乗った。
一同に自分の存在を知らしめた後、彼はここに来た目的を話し始めた。本来の目的―――。"終末の世界に降り立っている天下五剣の回収"の任務を遂行しに。
こんのすけから目的が語られた後、サクヤも眉を潜め口を開いた。どうやらこのこんのすけはネズ達が外で活動を続けている合間に、密かにサクヤに何度も何度も同じ交渉を続けていたのだという。彼女の表情が浮かばれないことから、もううんざりする程の回数追い返してきたのだということがありありと分かった。
「実は、皆さんが活動している時に…時の政府にここの存在がバレてしまいまして。天下五剣の皆様が集っている、ということを察知したようで、以前から政府に刀を返却するように迫られていたのです」
「待て。この存在はどの時間とも空間とも切り離された場所じゃなかったのか。だから悪神の侵攻にも影響が出なかったとおれは最初に聞いたはずだぞ」
「私も驚いているのです。何故この場所が見つかってしまったのか…。しかし、こんのすけさんがこの場にいることが"見つかってしまった"という事実に他なりません。今までは何とか理由を作り追い返していたのですが…」
「……遂に俺達がいる時間を定めてきた、ということなのか。あいつらもなりふり構っていられなくなっているんだな…」
「いや、冷静に突っ込まないでくださいよ。あんた達とんでもねぇことに巻き込まれかけてるんですよ? もう少し危機感を持ったらどうなんです。こいつら、あまりに身勝手過ぎますよ」
「身勝手などあり得ません!そもそも彼らは、正式には時の政府所属の刀。時の政府に戻し、正常な霊力へと戻してから返却するだけでございますよぅ!」
こちらがああ言えばあちらがこう言う。やはり、こんのすけはどうしても天下五剣を時の政府に返却したいという風に話を持っていきたそうにしていた。
しかし、刀剣男士はおろか、ネズもノボリもオービュロンも、以前レストランにて一松とトド松が時の政府に襲われたという証言を聞いている。何より、彼らがボロボロの状態でレストランに助けを求めに来たのがれっきとした証拠である。そして、大典太達を過去に時の狭間に捨てたという事実も彼らから聞いている。
今更"返却しろ"という要望に応じたところで、時の政府が彼らに相応の対応をしてくれるとはとてもではないが思えなかった。いいところ、再び霊力を封じられた上で監禁されるか…最悪、本霊に戻されてそのまま戻ってこないことだって考えられた。
だからこそネズが"身勝手だ"と言ったのだ。ノボリもオービュロンも彼の言葉に静かに頷く。
「"正常な霊力へと戻す"ですか。確かにあなたさまは今そう仰いました。しかし…それが出来たのであれば、何も異世界に刀を手放す必要はなかったのではないでしょうか?」
「当時はどうしても天下五剣の霊力の管理がままならなかったのですよぅ!時の狭間に保管をしたのも苦渋の決断だったのです。しかし!つい最近、天下五剣の霊力を正常にコントロールする技術が完成したのです!ですから、こうして回収に参った次第なのでございますよぅ!」
「つまり、おれ達の霊力を正常に戻すから、政府刀に戻れという達しか。本当に勝手な奴らだな」
どうやらこのこんのすけは、時の政府の思想については理解していない様だった。天下五剣が時の政府に捨てられたことを、"霊力を管理する技術がまだ完成していなかったから仕方なくやったこと"だと言ってのけたのだ。
しかし、彼らはその言葉についても首を傾げた。信濃や燭台切がレストランで言っていた"まるで邪魔者を排除したかのような連絡だった"との証言。こんのすけの今の言葉と食い違っているそれに、妙な引っかかりを覚えていたのだ。
そして、彼らにはもう1つ伝えておかねばならないことがある。誰とも契約をしていない数珠丸はともかく、三日月、大典太、鬼丸に関しては既に"主"が存在する。そして、彼らのお陰でこの世界でも普通に活動できているのだと。
まずはそのことをこんのすけへと伝達せねばならない。数珠丸は静かに口を開いた。
「お言葉ですが。三日月殿は既に他の方と契約を果たしており、大典太殿、鬼丸殿もこちらのサクヤ殿と正式に契約をしております。今まで彼らの力が暴走したという連絡は全く耳にしておりません。貴方がたが余計な心配をする必要はないかと思うのですが」
「……そういうことだ。そのお陰かもわからんが、俺達は特に暴走することもなく平和に過ごせている。この世界でやることもたっぷり残っているんでな…。帰ってくれ」
「む、むむぅ…。ですが!時の政府の職員が心配していたのは事実なのです!顔だけでも見せてくださいよぅ!」
「どの口が言う」
数珠丸や大典太の説得にもこんのすけは首を縦に振らず、"顔だけでも見せてほしい" "時の政府は心配していた"と泣き落としにかかる。しかし、それが口だけの言葉だと天下五剣は分かっていた。こんのすけに罪は無いのだが、彼の奥に鎮座している時の政府の職員に心を開くことなど、今更できるはずが無かった。
話は平行線を辿り、堂々巡りを続けている。そして、こんのすけは刀剣男士から"戻る"という回答を聞くまで意地でもここから動かないことを決意しているようにネズには見えた。
「無理やり元の場所に放り投げても、また明日平気な顔してここに来そうですからねぇ。この調子だと」
「しかし、話を聞いた限りですと…。わたくしも、軽々しく首を縦に振ってよいという問題ではないと判断いたしました。どう回答するのが最善なのでしょう?」
ネズもノボリもこの状況を何とかする為に知恵を絞っているが、中々いい案が思いつかない。
困り果てている彼らに、サクヤはしばらく思想を続けた後……1つ、とある考えを思いついた。刀剣男士を守り、かつこんのすけをスムーズに政府に戻すことが出来る方法を。
こんのすけをいつまでもこの場所に留まらせておくのも正しい選択ではない。サクヤは早速こんのすけに交渉を始めた。
「そういえばこんのすけさん。時に、近々"審神者会合"という催しが開催されるのでは?」
「はい、そうですが。それがどうかしたのですか?」
「"サニワカイゴウ" デスカ?」
「……えーっと。俺は参加したことないんだけど、年に数回審神者同士の交流を図るために、時の政府主催で宴みたいなことをやるんだって」
オービュロンが首を傾げたため、信濃は"審神者会合"について説明をした。年に数回、異世界中の審神者が集まり、お互いの本丸の状況や報告、刀剣男士の様子などの交流を図る宴が開催されているのだという。
こんのすけ曰く、その会合が3日後に迫っているらしい。サクヤは独自に時の政府のスケジュールを調べ、その情報を得ていたのだ。
それがどうかしたのかとこんのすけは問う。サクヤは"しめた"という表情を取り、彼の説得にかかった。
「返却は絶対に許可できませんが、"審神者会合"に参加するという名目であれば…天下五剣の皆さんを時の政府に近付けます。私が許可できるのはそこまでです」
「おい、主。おまえ何を言っているのか分かっているのか」
「勿論分かっておりますとも。しかし、このまま話が堂々巡りで延々と彼が神域に居付いてしまった場合。どうなさるおつもりですか? 恐らくこのこんのすけさんを通じて…我々の会話も時の政府に聞かれているはずです。こんのすけさんをここに居座らせるわけにはいかないのです」
「ぐ、ぐぬぬぅ…!」
こんのすけはその提案をなんとか退けようと、ぐぬぬと唸りながら沈黙を続ける。"返却は絶対に許可できない"。その言葉が大分響いたようだった。しかし、サクヤは揺るがない。意見を曲げることは絶対にしなかった。先程言ったことが譲渡できる全てだと、こんのすけにはっきりと言ってのけた。
しばらくの沈黙が続く。―――先に折れたのはこんのすけの方だった。渋々、サクヤの提案に乗っかることを伝えたのだった。
まずは返却を阻止できたことに安堵する一同だったが、別の問題がすぐに浮上した。信濃はその疑問をサクヤにすぐにぶつける。
「でも、サクヤさんはどうするの? 神域から出られないんでしょ? 審神者会合って、基本的に刀剣男士と審神者が一緒に会場まで行かなきゃいけないんだよ?」
「ふーむ。そこが問題なのですよね…。私はここから出られませんし……」
そう。問題というのは、サクヤが神域から出られないということだった。サクヤは今現在もアンラから隠れるため、そして神の力の消耗を抑えるため、外の世界への干渉を出来るだけ避けている。
審神者会合に参加するということは、大典太と鬼丸の主であるサクヤは神域から外に出なければならないということになる。今後のことも考え、サクヤは出来るだけ外に出ることを避けたかった。
しばらく一同を見回した後―――サクヤはオービュロンに目を付ける。そして、"審神者会合に参加してくれないか"と頭を下げたのだった。
「エッ?! ワタシ?!」
「審神者、というわけではないんでしょうけど。確かにこの中で刀剣男士と契約してんの…あんただけですもんね」
サクヤに急にお願いをされたオービュロンは狼狽え、言葉に詰まっている。確かにオービュロンは信濃と契約をしているため、この中であればサクヤ以外で唯一会合に参加できる人物だった。
しかし、この会合はオービュロンにとってマイナスばかりでもない。日本古来の"刀の文化"を知ることが出来るチャンスだと彼は捉えていた。
興味が少し湧いてきたオービュロンは、こんのすけに会合にどんな存在が来るのか質問をしてみた。すると、こんのすけは少し固まった後、こう口を開いたのだった。
「そうですねぇ…。私が記憶している限りでは、大きな恐竜の審神者や悪魔の形状をした審神者など、危険極まりない審神者も沢山来訪してきたように思えます!」
「(なんか、感じ変わってません?)」
「(様子が変わったようにわたくしも思います)」
「た、食べられてシマイマス?!」
「食べられちゃうかもしれませんねぇ。こちらの宇宙人殿ではなく、やはりここはサクヤ殿に来ていただくのが吉かと…」
「……主は何があっても政府のところには行かせない。こんのすけをいじって揺さぶろうとしているようだが、それはやめてくれ…」
まるで嫌味でも吐くような口調に変わってしまったこんのすけに、ネズとノボリは気付いていた。そして、大典太はそれをはっきりと口にする。オービュロンを怖がらせ、サクヤを煽ったのは確実に"時の政府の職員だ"と。サクヤの提案が不満で、こんのすけのシステムを弄って直接言葉をぶつけたのだろう。
大典太にその言葉をぶつけられても、こんのすけは"何事でしょう?"としらばっくれている。その言葉に恐怖を覚えたオービュロンは、思わず傍に座っているネズとノボリに縋りつく。彼はあまりにも純粋すぎた。
「怖いデス!!一緒に行ってクダサァ~イ!!」
「な、泣かないでくださいませオービュロンさま。わたくしどもには会場に向かう権利が無いのです。協力をしたいのは山々なのでございますが…」
「問題ないですよ?」
ネズとノボリは刀剣男士と契約をしている訳ではない。なので、審神者会合には参加できないとオービュロンに伝える。しかし、その言葉をサクヤが断ち切った。そして、"方法がないなら作ってしまえばいい"とこんのすけにネズとノボリの会場入りを許可するように頼み始めた。
サクヤは今までの彼らの行動から、天下五剣を安心して任せられると判断していた。だからこそ、彼らを会場入りさせるという選択を取ったのだ。
「権利がないなら今作っていただければいいのですよ。今我々が話しているのはこんのすけさんではなく、その向こうの職員さんなのですから。できますよね? 職員さん」
「そんな無茶な!」
「天下五剣の皆さんを無理やり連れ戻して何をするのかはわかりません。ですが、ずっとこちらにいられるとこちらも困るのですよ。我々は最大限譲渡しました。"行かない"とは言っていないのです。顔を見せるだけでいいのでしょう?
ならば、こちらの願いも聞き入れてもらえませんと」
サクヤはそう圧を込めて言う。その顔からは表情が消えていた。大典太は、そんな彼女の様子を見ながら"久しぶりに主のこんな感情の籠っていない顔を見た"と感想を抱いた。
思わず前田にそのことを呟くと、前田はサクヤが自分達のために怒ってくれているのだと大典太を安心させるように言った。
サクヤの言葉に沈黙を続けていたこんのすけだったが、ついに唸りながらも渋々承諾することを決めたのだった。
3日後また迎えに来ると伝え、こんのすけは気力を失ったようにふよふよと再び浮かび、光を放ちながら消えてしまった。張り詰めた空気が一気に削がれるのを感じ、誰かの大きなため息が神域に響いた。
オービュロンはやっと我に返り、自分がとんでもないお願いをしてしまったのだと自覚しネズとノボリに謝った。
「まぁ…いいですよ別に。あそこで突き放せませんよ。キバナでもないのに」
「キバナさまならば突き放したのでございますか?!」
「あいつが頼ってくることに巻き込まれると碌なことにならないので…」
話し合いの結果、シュートシティ駅での仕事はラルゴに話を通してもらい、当日は有休を取ってもらう相談をすることになった。恐らくラルゴのことだ、事情を汲んで有休を命じてくれるだろう。
その場での話も粗方終わったため、一同は一旦解散することとなった。各々再びやるべきことに向き合い、神域は再び静けさを取り戻した。
ノボリも早速ラルゴに相談に行こうとしたが、ネズに止められる。どうやら今回は一緒に行きたいと同行を申し出てきたのだ。普段一緒に行動する時は、ノボリかクダリからの声がけがほとんどだった。何故かと問うと、彼は少し考えた後こう返してきた。
「町長のことは心配してませんよ。問題は…あんたの弟のことです」
「よ、よろしいのですか? 確かにクダリへの説得は必要不可欠だと考えておりましたが」
「多分ね、おれの予想だと…。ノボリに泣きついて説得が夜までかかりそうなの目に見えてるんで…」
「そこまでではないと思いますが…。ありがとうございます、ネズさま」
考えすぎだとノボリは嗜めたが、ネズの予想は当たることとなる。
ラルゴに事情を話し、無事に当日有休を貰えることがはっきりと決まった。そこまでは良かったのだが、事情を説明し説得するよりも先にクダリがその話を聞いてしまっていたのだ。
どこへ行くのだと詰め寄られ、まさか"ここではない別の世界"に行くことを話すことも出来ず、しどろもどろとしている内にノボリはクダリにがっちりとホールドを受けた。
「クダリ。当日はどうしても外せない用事があるのです。ネズさまも同行を申し出ていただけました。一人ではありませんよ? ですから、巻きつくのをやめてくださいまし」
「やだ。ぼくも行く。ノボリとネズさんだけ危険な目には遭わせない」
「別に危険な場所に行くわけじゃねぇんですよクダリ。それに何日も泊まるわけじゃありません。ちゃんと当日に戻ってきますよ。帰ってきたら、マリィも誘ってみんなで一緒に晩飯でも食いに行きましょう。粗末なもんでよければおれが作ってもいいですし」
「…………。絶対帰ってくるって約束して」
「はい。指切りげんまんですよ、クダリ」
ネズとノボリの説得に折れたのか納得したのかは分からない。しかし、クダリはしょんぼりとした顔をしながらもノボリから離れた。そして、双子の兄と"必ず戻ってくる"と約束をしたのだった。
こうして、審神者会合の当日まで時間は過ぎていった。
- Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 ( No.154 )
- 日時: 2022/10/02 22:19
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
こんのすけが神域に現れた事件から3日が経過した。柔らかな日差しが注ぐその場所で、ネズ、ノボリ、オービュロンは居間に佇んでいる。オービュロンはいらぬ襲撃を防ぐため、人間の女性に擬態をしていた。
今日は天下五剣と時の政府が顔合わせをする審神者会合の当日である。結局ネズとノボリに関しては、サクヤの代理として向かうことが前日、正式にこんのすけの口から告げられていた。
「こちらは準備万端ですよ。日帰りなんで荷物もそこまで多くしてません。まぁ…最低限の知識とルールは事前に叩き込まれましたし、多分大丈夫でしょう」
「サクヤさま。わたくしども、完璧に代理を遂行してまいります。大船に乗ったつもりでいてくださいませ」
「そんな大げさに言わなくてもいいですよ全く…。で、他に必要なことがあれば教えてほしいところですね。審神者と話をしてはいけないとか、そういった細かいルールを」
「そうですね…」
ネズにそう問われ、サクヤは口元に手を当て何か彼らの役に立つ知識は教えられないかと思索する。しかし、彼らは審神者として行くわけではないことは自分が一番分かっている。サクヤ自身が審神者ではないからだ。
そこまで考えたところで、彼女は彼らに1つ言い忘れたことを思い出した。それは、前田から聞いた"審神者の名前"についてだった。
「そういえば、会場に来られる審神者の皆様は、全員"審神者名"を名乗ります。まぁ、お三方は審神者ではないので本名を名乗っても何も影響はないので問題ありませんが、そこは頭に入れていただけると助かります」
「本名を、ですか? 知られてしまった場合、何か悪影響などがあるのでございましょうか?」
「うーん。なんかそうみたいなんだよねー。なんかね、俺達が神隠しとか悪いことしないようにって時の政府が決まりを定めたらしいんだよ。まだ、そういう厳しい決まりがなかったころ…審神者に恋をしてしまった刀剣男士がいて、政府の思い通りになりたくなくて、審神者を神隠ししちゃった事件が過去にあったんだって」
「カミカクシ…恐ろしいデスネ」
刀剣男士はあくまでも"刀の付喪神"である。審神者と絆を育むのは結構だが、それ故に過去に反乱を起こされたこともあったらしいと信濃は語った。だからこそ、審神者を守る為の決まりとして時の政府が厳しく取り締まっているのだそうだ。
人として生きてはいるが、"人間ではない"。政府は徹底的にそれを叩き込みたいのだろう。しかし、その決まりがあるおかげで平和な本丸が築かれていることも事実である。信濃の話を聞いて、ネズとノボリは納得がいったように静かに頷いた。
そこまで聞いて、ネズはふと鬼丸の方を向く。もしかしたら、鬼丸も政府の厳しい決まりを律儀に守っているが故の一匹狼なのではないかと思ったのだ。
さりげなく大典太にそのことを伝えると、彼はその言葉がおかしかったのか思わずくすっと笑みを浮かべてしまう。
「光世? 何がおかしいんですか?」
「……いや。鬼丸は単にコミュニケーション能力が欠如……いひゃいぞおにまゆ」
「どこかの誰かが余計なことを口走ったと判断したものでな」
「図星なのでございますね…」
大典太に言われたことが余程気に食わなかったのか、鬼丸がいつの間にか大典太の左頬をつねっていた。彼が余計なことを口走りそうになるといつもそうしているが、もう癖になってしまっているのだろうか。
その様子を見ていた数珠丸も何故か鬼丸に加勢し、"つねるならば両頬をお勧めいたします"と余計な助言をした。彼の言葉にしてやったりといった表情を浮かべた鬼丸は、抵抗をしない大典太のもう片方の頬をぐいっとつねったのだった。
「……ひゃめへくれ…いひゃい…」
「ふん。だったらもう余計な口出しをするな」
その場にいた全員で鬼丸を嗜めながら雑談を続けている折、彼らの目の前に光と共にふわふわと舞い降りてくる影があった。十中八九、3日前にやってきた影と同じ。こんのすけである。
彼は一同をぐるりと見回した後、元気よく"おはようございます!"と挨拶をした。どうも3日前に現れた彼とはどこか違和感があるように彼らには見えた。そんな彼らの疑問をも無視し、こんのすけは口を開いた。
「本日は皆さまを客人ととして招くように政府に申し付けられております。このこんのすけ、会場までの案内を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします!」
「やはり雰囲気が違うように感じます。3日前に来訪なされたこんのすけさまとは別人なのですか?」
「そういう訳ではないと思います。こんのすけは所謂"システム"のような役割を担っています。今回のように、我々を案内するだけならば性格付けがいらないと判断されたのでしょう」
「時の政府ッテ、時々近未来的なコトシデカシマスヨネ…」
「近未来も何も、ずーっと未来の組織だった気がするんですがね?」
こんのすけは一同に事務的な連絡を告げた後、彼らの目の前に光り輝く襖を召喚した。この襖を通ることで、時の政府が用意した"審神者会合の会場"へと入ることが出来るらしい。
遂に出発の時が訪れた。サクヤは一同の顔を改めて確認し、口を開く。
「ネズさん。ノボリさん。オービュロンさん。私の役目を押し付ける形になってしまい申し訳ございませんが…。どうか、皆さんのことをよろしくお願いいたします」
「承知仕りました。このノボリ、全力で天下五剣のみなさま、そして前田さま、信濃さまのサポートをすることをここに誓います!」
「……刀が人間に護られてどうするんだ?」
「突っ込みは今更野暮ですよ光世。最早ノボリの癖。生態みたいなもんです」
「……奉仕するのが生態なのか?」
「みなさまのサポートをするのがわたくしの生き甲斐でございます!」
「ほら。狂気的なんですよ、こいつの滅私奉公は」
「……はぁ」
自信満々にそういうノボリの目はキラキラと輝いているように見えた。ネズの言葉通り、他人のおもてなしをし、サポートをするのが彼の生き甲斐というものなのだろう。狂気だと呆れ顔で言ってのけるネズに、大典太はため息をつくことしか出来なかった。
彼らのやりとりをひとしきり聞いた後、こんのすけは襖の封印を解き、襖を開ける。その向こうには柔らかな光が放たれており、それが光で出来た道だということに気付くのに時間はかからなかった。こんのすけは一同に向き直った後、襖を潜るように彼らに告げ、先導して襖の中に消えていった。彼に続くように、次々と会場へと向かう面子が襖の中へと消えていく。
そんな中、最後まで残っていた大典太が今一度サクヤの方を振り向いた。
「……じゃあ、行ってくる。土産話はあまり期待するなよ…」
「はい。いってらっしゃいませ、光世さん」
大典太の姿が襖の向こうへと去っていった直後、それは淡い光を放ち、まるで最初からなかったかの如く姿を消したのだった。
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