二次創作小説(新・総合)

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繋がる世界と未来の物語【Ep.03-ex完結】
日時: 2022/10/12 22:13
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ―――これは、"全てを元に戻す"物語。
 それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。


 どうもです、灯焔です。
 新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
 サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
 この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
 また、オリジナルキャラクターも登場します。
 苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。


※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2


<目次>

Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17

Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148


※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54

Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111

Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151


※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163


<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150


最終更新日 2022/10/12

以上、よろしくお願いいたします。

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 ( No.80 )
日時: 2022/04/09 22:00
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 時は、魔界にいる3人へと目線を変える。
 ショウがおかわりのケーキを食べ終えた頃―――。皿を片付けようとしたヴィルヘルムにMZDが話しかけた。先程自分なりに纏めた考えを、彼に聞いてもらう為だった。



「ねぇヴィル。地上でなんか動いてるっぽいし、サクヤに顔出しに行くのも兼ねて出ようよここ」
「どういうことだ?はっきりと言え」
「オレもびっくりしたんだけどさ~。ショウ以外にも過去から飛ばされた人間いるっぽいの。で、今アシッドの近くにいるんだよね。もしかしたらそっちで過去に戻す方法を練ってるかもしれないから合流しない?」
「えっ?私の他にも過去から飛ばされてきた人がいるんですか?」
「うん。いるっぽいの。"誰か"まではオレでも分かんないんだけどね。もしかしたら知り合いかもしれないよ?」
「私の他に時空を超える可能性がある人…。あの人くらいしか思いつかないけど。会えるんだったら会いたいです!」
「もしショウ殿の知っている人物だったならば、猶更一緒にいた方がいいだろうな」



 そう言うと、ヴィルヘルムはお盆を机に置いた。良いのかと確認を促すも、ショウを送り届ける方が先決だと彼は言い切った。皿とグラスは帰って来てから片づけるらしい。
 ショウの今後のことは決まったが、問題がもう1つあった。シャンデラは3人から少し離れたところで大人しく待っている。彼女も連れて行った方がいいのか。ヴィルヘルムは悩んだ。ここにしばらく置いておくことも考えたが、魔界にシャンデラのトレーナーがいるとは思えない。

 思索を繰り返した後、ヴィルヘルムは静かにシャンデラの前に立つ。そして、彼女に自分のモンスターボールを出すように言った。何故ポケモンが自分で自分のボールを持っているのかは分からなかったが、言われた通りシャンデラは素直に自分が入っているボールを差し出した。
 そして、ヴィルヘルムはシャンデラにボールの中に戻る様に指示した。"彼女も連れていく"。それが彼の下した決断だった。
 シャンデラは言われた通りモンスターボールのスイッチを腕で押し込み、ボールの中へと戻った。



「これでよし。ショウ殿…これを」
「えっ?」



 ヴィルヘルムはボールをショウに手渡した。自分のポケモンではないのははっきりとしているのに、どうして自分に渡すのだろう。ショウは訳が分からないという顔で尋ねた。



「この子、私のポケモンじゃないですよ?」
「知っている。だが…君は信用できると判断して、このボールを託す。私はたった今そう決めた。君なら、シャンデラのトレーナー…このボールを渡すべき人物が見つけられる筈だと信じてな。
 探すべき人物は、この子が知っている。君に教えてくれる筈だ。だから、どうか預かっていてくれないか」
「うーん…」
「オレからも頼むよ。ヴィルが人様に頼むなんて滅多にないんだから。それくらい、お前さん信用されてるってことなんだよ」
「そういうことなら…分かりました。責任を持って私がシャンデラのトレーナーさんに渡します!」



 ヴィルヘルムは自分ではトレーナーを探すことは不可能だと判断した。だからこそ、ポケモンに触れポケモンに愛される目の前の少女にシャンデラを託したのだ。この子なら、きっと彼女のトレーナーの元へ届けてくれると、そう信じて。
 責任重大だ、と思いながらショウはボールを受け取った。シャンデラもショウを信じていたのか、手の中のボールはほんのりと暖かかった。
 それと同時に、MZDがピンとした表情で閃いた。ショウがケーキを食べている時に言っていた言葉が引っかかっていたようだった。



「そうだ!どうせだからヴィルのお菓子少し貰ってけば?過去じゃ洋菓子なんて食えないんでしょ?」
「そこまでして貰わなくていいですよ?!」
「なんだ。折角準備したのに持って行かないのか」
「用意早っ?!いつの間に…」
「君のケーキを用意している間に少し、な。私の手作りだから、お気に召すかは分からんが…持って行って食べてくれ」
「ヴィルのお菓子、美味しかったでしょ?これもきっとほっぺたとろける程美味いから!持って行きなって」
「そこまで言うなら…。お言葉に甘えていただいちゃいます!」



 いつの間にか、皿があった筈の机には手頃なサイズのバスケットが置かれていた。蓋はしっかりと閉じられており、既に彼の手作りのお菓子が入っているのだろう。彼からバスケットも受け取り、早速中を確認しようとしたが止められた。どうやら、時空を超えても大丈夫なように魔法がかけられているらしく、もし蓋を開けてしまったが最後魔法が解けて食べられなくなってしまうらしい。
 その言葉を聞いて、蓋に伸ばしていた指を思わずひっこめた。あんなに美味しいケーキを御馳走になったのに、自分で腐らせてしまっては言語道断だと判断したのだろう。



「何から何まで…本当にありがとうございます!」
「いいのいいの。オレにとっても、お前さんにはちゃんと記憶を取り戻して、本来の元の世界に帰ってほしいと思ってるだけだから。今はその、ほんのちょっとの手伝い」
「はい。私、記憶を取り戻せるよう頑張ります!」
「時が解決してくれることもあるが…。人間の時というものはあまりにも短い。記憶が戻らないまま、ヒスイの地に骨を埋める…なんてことが無ければいいがな」
「あはは…。あるかもしれないって、今ちょっと思っちゃいました」
「笑い飛ばすなよ~。割と大問題よ?」



 ショウが地上へ出る決意を固めたところで、MZDも椅子から立ち上がる。そして、自分の近くにいるように指示した。ここからなら、神の力を使い議事堂の前まで転移するのが一番手っ取り早かった。
 その後のことは、きっとアシッドも考えていることは同じだろう。とりあえず、彼らのやるべきことは1つ。この魔界からショウを脱出させることだった。



「よーし。そんじゃ、目を閉じて手を繋いで…深呼吸。リレイン城下町の議事堂まで……レッツゴー!」



 MZDの明るい声と共に、3人の姿がその場から消えた。

















 ―――リレイン城下町の議事堂前。地上は、既に日が傾きかけていた。
 クダリが議事堂に駆け込んできてからかなり時間が経っていた。魔界にいるだけでは、時間の感覚が狂ってしまうと、落ち行く夕日を見ながらショウは思った。
 議事堂前の道路に光が立ち込める。その中から現れる3人の陰に、通りすがった住民は驚きを隠せないでいた。


「うわっ。夕日が傾いてる…!」
「魔界にいると時間の感覚おかしくなっちまうもんな~。びっくりするのも分かる」
「そういう意味ではない!何故お前はいつも人通りの多いところに急に転移するのだ!!ああ、驚かせてしまって申し訳ない…。怪しい者ではないのだ」
「急を要してるんだから言い訳無用!ほら、この建物の中にアシッドいるんだからさっさと行くぜ~」



 驚いている住民にひたすら謝っているヴィルヘルムとは対照的に、MZDは平気な顔をして議事堂へ歩いて行った。彼らが怪しい者ではないと分かったのか、驚いていた住民もすぐに彼らを気にしなくなり、各々がやるべきものの為に動き出した。



「あっという間にワープしちゃうなんて。本当に神様みたい…!」
「神様なんですけどね~。まぁいいや。じゃ、さっさとアシッドんとこ行きますか」




 感心しているショウにツッコミを入れつつも、3人は議事堂の中に入って行ったのだった。

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 ( No.81 )
日時: 2022/04/10 22:03
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 エントランスに入ってくる3人の人影にアシッドはいち早く気付いた。ようやくか、としわを寄せていた表情が緩やかになる。
 大典太は3人のうち2人に見覚えがあった。動いていた"彼ら"の正体に思わず目を見開く。



「遅かったな」
「これでもなる早のつもりなんだけど~?お届け人を送りに参りました」
「……動いていたのはあんた達だったのか」
「久しぶりだな。本来なら地上に出てくることはしばらくないと思っていたのだがな…。運命というものはどう転がるか全く分からん」
「だからこそ見守っていくのが面白いんじゃないか。……その、ほっかむりの少女が"ショウ"で間違いないのだな?」
「はい。ショウです!」



 2人が差していた"アシッド"という男性とショウは挨拶を交わした。それと同時に、後ろにいる見覚えのある人影にも気付いた。ボロボロの黒い制帽とコートに、どこか哀愁を匂わせる猫背姿。暗闇の中自分を導いてくれた、同じ記憶喪失の、未来からの来訪者。
 ショウがその人物の名前を元気よく口にすると、彼はショウに気付き安心したように微笑んだのだった。



「ノボリさん!」
「ショウさま。ご無事で何よりでございます」
「もう1人の迷い人ってノボリさんのことだったんですね!」
「そうでございます。お互いに、再び時空を旅してしまったようですね」
「あはは…。ヒスイ地方の時間がどうなってるのか分かんないけど、シマボシさん怒ってるだろうなー…。テルもラベン博士も絶対に心配してる」
「早く帰還し、彼らに元気なお姿を見せて差し上げてください」
「勿論そのつもりでここまで来たんですから!……助けがなきゃ今頃森から抜けられてなかったんですけどね」



 2人で楽しく現状を言い合っている最中、クダリがショウのことが気になったのか近付いた。ノボリを若くしたようなその姿にショウの目が点になる。こんなにも姿かたちが瓜二つの人間がこの世に存在するのかと。
 ……そういえば。彼は洞窟の中で"自分に似たような男"と零していたことをショウは思い出した。もしかしたら、記憶の中の大事な人物は、彼だったのかもしれない。



「ショウさま?如何なされましたか?」
「あっ!えっと。びっくりしちゃって。あまりにもそっくりだったので」
「そっくりなの当たり前。ぼく達双子」
「えぇ?!双子?!この人、ノボリさんのお兄さんか弟さんってことですか?!」
「そういう…ことなのでしょうが、この方とお話をしても記憶が蘇ることはありませんでした。わたくしと彼は…どうやら、"平行線上"の存在であるのが原因らしいのですが」
「うーん…。難しい言葉がいっぱいで混乱しますね」



 頭を抱えているショウの姿を見て、クダリは"彼女なら大丈夫だ"と確信した。真っすぐと未来を見据えている、希望を胸に抱えた子。この子なら、このノボリも未来へと導いてくれるかもしれない。そんな思いを、彼女から感じていた。
 彼のことをどう説明しようか悩んでいるノボリに変わり、クダリは勇気を出して自分のことを話した。



「あのね。聞いてほしい。ぼくクダリ。ノボリの双子の弟。でも、きみの傍にいる…きみの知っているノボリの弟じゃない。でも、ぼく達サブウェイマスターをしてる。それはおんなじ。ボロボロになっても、そのコートをノボリは捨てなかった。それが、ぼく達を繋いでくれてる。ぼくは、そう信じてる。
 それだけ、伝えたかった」
「サブウェイマスター…。なんだか凄い肩書ですけど…」
「凄いどころか、地方のチャンピオンと同レベルの強さを持ってますよ。そこにいる双子」
「えぇーっ?!じゃああんなにポケモン勝負が強いのって…!」
「身体に染みついてるんやね。勝負の経験が」
「やっぱり凄い人だったんじゃないですかー!そうならそうと早く言ってくださいよノボリさんー!」
「そうは言われましても。わたくし、まだピンと―――っ……!」



 ショウが"新しいバトルの形式とか言って、難しいバトルばかり挑んでくるじゃないですか"と、ノボリをつつく。その瞬間、ノボリの脳内に一瞬、雷が落ちたような衝撃と同時に頭痛が襲った。開けてくる景色はまだ分からないが、何か…何か、きっかけを掴めたのかもしれない。クダリとショウの言葉を受けて、彼は確信していた。
 ノボリが顔をしかめたことにネズは気付き、"大丈夫か"と声をかける。



「具合が悪いんでしたら、少し休んでからでもいいと思いますよ」
「いえ。大丈夫です…。少々、頭痛がしただけですので」
「……本当に大丈夫なのか?」
「お気になさらずとも。問題ございませんよ」
「ノボリ、結構頑固。一度言い出したら止まらない。何言っても無駄」



 問題ない、と答えた頃にはノボリの頭痛は収まっていた。そして、胸の中に流れてくる暖かい気持ち。きっとこれは、かつての自分が大切にしていたものなのだろうとノボリは確信した。
 そして、クダリを真っすぐに見据えこう口にした。



「……クダリ。サブウェイマスター。未だ思い出せませんが、とても大事な言葉だったように今は思えるのです」
「ノボリ」
「そう思えるなら、絶対に記憶を取り戻せますよ!一緒に頑張って、いつか絶対にそれぞれの時代に帰りましょうね!」
「ショウ。その言葉が出るということは…君も、ヒスイ地方に帰ることを望むのか?」
「はい。ヒスイ地方に帰る為にここに来ました。私も、元々いた時代を覚えてないんですし…。ヒスイ地方でやることたっくさん残ってますからね!それに…。私、決めてるんです。ノボリさんと一緒に未来に帰るって。ヒスイ地方じゃないところから落ちてきてるのに、私だけ未来に帰るなんて不公平じゃないですか」
「ショウさま…」
「……そうか。君の覚悟もしかと聞き届けたぞ」



 アシッドは改めてショウに尋ねる。彼女はヒスイ地方に帰ることを望んでいた。ノボリと同じく、"まだやることがあるから"と。そして、その先に自分の戻るべき未来があると、ノボリと共に必ず未来に帰ることを決意していた。
 はっきりとした決意を聞き、アシッドは立ち上がる。そして、誰もいない空いているスペースに向かって手をかざした。その瞬間、強い光と共に"白い門"が現れる。MZDとヴィルヘルムには見覚えがあった。壊されたかつての本部で使用していたものと同じ形状だったからだ。



「お久しぶりのお目見えって感じ?」
「神の代物だとは思っていたが…お前も出せたんだな」
「高位の神であれば誰だって出せる。運営本部で使用していたものもゼウスからの賜り物だろう。それをあの朱雀が管理していただけの話だ」
「これを通れば…ヒスイ地方に帰れるんですか?」
「あぁ。時空を君達の望む場所に設定しておいたから心配することはない。
 おっと、Ms.ショウとMr.ノボリ以外の人間が近づくんじゃないぞ。今回のは"片道切符"。足を踏み入れたが最後、彼女らと共にヒスイ地方から戻れなくなるからな」
「カタミチ…怖いデス!」



 アシッドが強く警告をする。元々、門は神々が使用しているもの。人間が簡単に手を出せる代物ではない。恐らく、コネクトワールドの本部にあったものはアクラルが厳重に管理をしていたからこそ使えた物だった。
 門に入ってしまったが最後、彼らと共に過去から戻れなくなる。その言葉を聞き、ショウとノボリを除く全員がその場から少し後ろに下がった。



「門を潜れば、向こうに光の道が見える。それを真っすぐ辿って行けば、もう1つ門が見える。帰る場所を頭に思い浮かべながら門を潜りたまえ。そうすれば、望む場所に帰れるだろう」
「了解しました!」
「何から何まで…。本当にありがとうございます。この御恩は忘れません」
「いいんだ。神々の気まぐれだとも思っておいてくれ」



 ショウ、ノボリはそれぞれ世話になったと振り向き深く頭を下げた。そして、背後にある門にショウが先導して門を潜った。それについて行くようにノボリも門に足をかける。
 同時だった。背後で自分の名を呼ぶ声がした。思わず振り向いてみると、クダリがノボリに向かって叫んでいた。






『ノボリ!!ぼく、絶対に忘れない!!きみのこと!!


 きみもぼくのこと!!忘れないでね!!


 だから!!!今は……今は、ばいばいっ!!!ノボリ!!!』






 クダリの瞳からは涙が零れていたが、彼は笑顔で彼を送っていた。ノボリに届くようにと、最大限に手を振りながら。
 あぁ。最後までなんて優しい子なんだ。ノボリは彼に最大限の笑顔を見せた。精一杯の笑顔を。別れが、寂しいものにならないように。



「いつか…わたくし共の道が。再び交差することを…わたくしも、願っておりますよ。―――クダリさま」



 彼の笑顔を見て、クダリも涙ながらにスマイルを見せた。自分が得意としている、めいっぱいの笑顔を。
 ノボリはその笑顔を噛みしめながら、待っていたショウの後を追い、門の向こうへと姿を消した。











































「またね。ノボリ」




 2人の姿が見えなくなったと同時に。門は淡い光を放ちその場から消えたのだった。

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 ( No.82 )
日時: 2022/04/11 22:11
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ―――議事堂での一件が終わったと同時刻。リレイン城下町の噴水広場で、主を待っていた一振の刀剣男士がいた。
 名を"大包平"と言う。池田輝政に見出された太刀であり、『刀剣の西の横綱』と言われている。天下五剣にも連なる力強い刀剣なのだが、彼は何故か天下五剣を一方的にライバル視している。
 そんな彼だが、現在は世界征服を目標とする軍人、"ごくそつくん"と契約し、彼に仕えている。彼も気に入らない者に対しては容赦がないが、大包平に関しては"自分の右腕"と言えるまでに信頼しているようであり、例え世界征服を果たしたとしても隣に彼がいてもらわなければならない、と言い切る程だった。

 現在、大包平は主とは別行動をしている。ごくそつくんが新しい武器を開発するにあたり、良い部品が入ったとのことで城下町まで買い物に来ていたのだった。大包平はその付き添い、いわば荷物持ちだった。
 しかし、意外に彼のお眼鏡にかなうパーツが多かったらしく、主から"もう少し時間がかかりそうだから噴水広場で待っていてほしい"と言われ、彼は素直に広場で景色を見ながら主の帰還を待っており、今に至る。

 ごくそつくんがパーツ屋に入ってから小一時間は経っただろうか。広場に掲げてある時計を見ながら、大包平は街の景色を楽しんでいた。



「開発する武器の"パーツ"とやらを買いに行って暫く経つが…。そんなに細かいものなのだろうか?俺もついて行った方が良かったんじゃないだろうか」



 もしかしたら大荷物になる可能性も否めない。単に買うものを吟味しているだけならば良いのだが。
 独り言にはあまりにも大きな声を出しながら、大包平は主を待つ。ぼーっと空を眺めていると、ふと彼の目線に"違和感"を感じた。
 空中に何かを感じる。彼はその地点に目を凝らした。



「……なんだ?」



 空を切り裂くように、違和感は広がる。そして、目線の先に"白い門"が唐突に現れた。大包平はその門に見覚えがあった。大典太達が拠点にかつてしていた場所に置いてあったものと、全く同じものだったからだ。
 何が起きているのだろう。そのまま門を凝視していると、唐突に門が光り出す。思わず目を塞ぐと、そこから人のような影が見えた。



「なっ……?!」



 人間が空中に投げ出された。大包平は咄嗟に判断した。あの位置からだと、コンクリートの地面に確実に落下してしまう。放置すれば大怪我は免れなかった。誰であろうが、手の届く存在は助けねばならない。刀剣男士としての誇りを、彼は何よりも大切にしていた。
 考えるより先に身体が動く。門から落ちてきた人間を受け止める為に。噴水広場からは幸い走っていける距離だった為、大包平は全速力で走った。最悪、地面すれすれでキャッチできれば落ちてきた人間への被害をぐっと減らせる。
 走って間に合わないのが一番駄目だと判断し、落下地点の真下へと移動が完了した。そのまま落ちてくる人間を受け止める。正体は、小綺麗な黒いコートと制帽を身に纏った、背の高い若い男性だった。

 なんとか受け止め切れたと安心したと同時に、大包平の背中に悪寒が走った。



「……なんだこれは…!どうなっているんだ…?!」



 受け止めた男性の身体がまるで氷のように冷たかったのだ。生きているとは決して思えない冷たさ。しかし、弱いながらも鼓動はしっかりと刻んでいる。彼は"生きている"のだ。
 更に、大包平は男性の"もう1つの違和感"を発見した。頬、そして首に黒い蔦のような文様が広がっていたのだ。その文様から感じる邪気に、彼は覚えがあった。かつて対峙した道化師や邪神と全く同じだったからだ。



「何故こんなにも身体が冷たいのに生きている?いや、問題はそこではない。……何故この人間が、邪神の邪気を身に纏っている?あいつの配下か何かなのか?」



 疑問が次から次へと湧き出てくるが、大包平はこの男性をどうにかしなければならないという思考に陥っていた。このまま放置しておけば、邪気に蝕まれ彼の命は尽きるだろう。身体の冷たさと、鼓動の弱さから彼はそう判断した。
 ならばどうすればいいのか。そこまで考えた時点で、背後から主の声が聞こえて来た。



「大包平く~ん。ごめんね、良いパーツが多すぎてついつい買いすぎちゃったよ。待った?きょひょひょ!」
「…………」
「あれ?大包平くん?」



 いつもならば暑苦しい程の出迎えがあるはずだが、珍しく無言だ。明日は槍でも振るだろうかとごくそつくんは思ったが、彼が抱えている男性の気配を察し、彼が何を考えているのかを彼はすぐに理解した。
 いけ好かないが、今は街の中央に自分の知っている神々の気配がする。この男性の邪気を解いてもらうならば、彼らに話をつけに行った方が手っ取り早いとごくそつくんは判断した。



「……主」
「分かってる。その男の人、やばいんだよね?んま~偶然あいつらが街の中央に陣取ってるでっかい建物にいるみたいだしさ~。本当は行きたくないけど。いこっか、大包平くん」
「―――あぁ。あいわかった。感謝するぞ主!!」
「ま、ぼくもきみのこと待たせたしおあいこってことで~。きょひょ!」




 ひょうきんにごくそつくんは笑い、すぐに議事堂の方向へと足を向けて歩いて行った。
 大包平は男性を抱え直し、彼の後ろを早足で追って行ったのだった。

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 ( No.83 )
日時: 2022/04/12 22:02
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 その頃。議事堂のエントランスでは、再びソファに座り込んで泣き出したクダリをネズが宥めていた。世界線が違うとはいえ、双子の兄を過去に送り返したのだ。"離れ離れになってしまった"そんな気持ちが、彼の中に残ってしまったのだろう。
 彼が涙を頑張ってこらえるごとに、後ろで見守っていたマリィとカブが喉を鳴らす。どうやら彼の涙が移ってしまったようだった。



「ちゃんとあんたの気持ちはノボリに伝わっていますよ。だからもう泣くのはおよしなさい」
「うん。分かってる。泣いちゃいけないって分かってるけど、涙が止まらない」
「そんだけあんたが頑張ったっていう証拠です。でもね、笑顔で見送るって決めたんでしょう?ならやり遂げなさいよ」
「うん。…ひっく」



 貸したハンカチは既に彼の涙でびしょびしょになっていた。もう吸う箇所など残っていない。大典太が自分の持っているハンカチをクダリに貸し出そうとポケットに手を突っ込んだその時だった。
 誰かが走ってくる音が聞こえると、ネズが耳打ちをした。



「光世。誰か向こうから来ます」
「……誰か分かるか?」
「いや。おれの知らない足音なんで、知らない人かと思います」



 大典太は玄関の方を見る。ネズの言う通り、向こうから人影が2人来る気配がした。その正体がはっきりしてくると同時に、大典太とMZD、ヴィルヘルムの表情が変わる。
 音の神と幽玄紳士は物珍しいものを見たという表情で彼らを見ていた。どうやら彼らにとって、"その行動自体"が奇異なものに見えたらしい。
 ごくそつくんと大包平が急ぎ足で議事堂までやって来たのだ。大包平の片腕には、黒いコートを纏った男性が担がれていた。その男性に大典太も違和感を感じた。―――オービュロンがネズを背負って帰って来た時と同じ邪気が、彼からも感じられたのだ。



「おい!大典太光世!!貴様しかいないのか!!」
「……あいにく他の連中は出払っているぞ。……その男が…ん?」
「御託はいい!!早くこの男を何とかしろ!!!」



 そう言い、担いでいる男性を大包平は空いている手で指差す。その顔に大典太は表情を崩した。先程門から帰って行ったノボリとほぼ同じ恰好をしていたからだった。
 具体的には、ヒスイ地方に帰って行った彼とは違い、身に纏っている黒い制帽やコートは破けておらず綺麗なまま。顔つきも彼より随分と若いように感じた。"クダリを鏡写しにした姿"そう言っても過言ではない。そこで大典太は気付く。彼が、彼こそが。"クダリの探しているノボリ"本人なのではないかと。



「……大きな声を出すな。その男がどうした」
「説明している暇はない!!こいつが死んでもいいのか!!!」



 大包平が抱えている男性の顔がちらりと見える。クダリと瓜二つの男性。そこで、オービュロンはとあることに気付いた。かつてのネズと同じものを見つけ、思わず声に出す。



「アノッ…!コノお方、ねずサンと一緒デス!ねずサンをワタシが連れてキタ時と同じ!頬に文様がアリマス!」
「おれと、同じ…?」
「あっ…。ほん、とうだ…!」
「マリィ?どうしたんです?」
「アニキ…。あれ…!」



 男性の頬に広がっている"それ"を再び見てしまい、マリィはがたがたと震え始めた。その蔦のせいで、兄は一度死にかけたのだ。平常心でいられないのは当然だろう。
 マリィが指さした先をネズも見やる。メイクとは到底思えない、黒い文様が男性の身体に広がっているのが分かった。傍から見ても異常だと分かるそれに、自分は死の淵まで追い詰められていたのか。思わずネズは目を伏せたが、マリィを落ち着かせるのが先決だと判断し彼女の頭を撫でたのだった。
 それと同時に、泣いていたクダリも男性の姿を見た。そして、彼の名前をぽつりと呟いたのだった。



「ノボリ…!」
「身体が異常に冷たい。心臓が動いていること自体がおかしい!原因は分からないのか、大典太光世!!」
「……分かってるよ。現に似たような現象を直近で経験している。それに…こっちの方が時間の猶予が無いかもしれん。すぐに医務室に連れていく。ついてきてくれ」
「ノボリ、ノボリっ!」
「落ち着いてクダサイくだりサン!今はワタシ達の出る幕デハアリマセン!」
「でも、ノボリが!」
「……医務室の鍵はおれが取ってきます。オービュロン、申し訳ないですがマリィとクダリを見ててもらえますか?」
「合点承知デス!お任せクダサイ!」



 ノボリが死にそうだと判断したのか、クダリもパニックに陥り彼に触れようと大典太を押しのけようとしていた。しかし、寸のところでオービュロンに止められソファに再び腰かけられる。オービュロンはマリィを隣に座らせ、医務室の鍵を借りに行ったネズを見送った。
 その間、大典太は見てくれだけだがノボリの状態を確認する。しかし―――感じる邪気の強さに、ネズの時と相当差があることに彼は気付いた。



「……急がないと不味いかもしれん。ネズの時より…症状が重い」
「なんだと?!」
「ミンナで医務室に向かっては色々と時間のろすデス!ココハ手分けをシテ役割分担をスベキダト思いマス!」
「そうだな。……オービュロン。神達と連携して医務室付近の人払いと、議事堂に来た奴らの対応をお願いできるか。それと…鬼丸達も呼んできてくれ。多分あの場所にいる筈だ…。医務室には必要最小限の人数で行く」
「ワカリマシタ。神?」
「……あの少年と魔族だよ」
「エッ?!……ヒィッ?!」
「オレ達バケモンだと思われてる?」
「実際化け物と変わりないんだが」
「そういう問題じゃ無くない?」



 ネズが戻ってくるまでは医務室に入れない。急いでくれと心の中で祈りながら、比較的冷静なオービュロンに色々と後のことを頼んだ。他の刀剣男士達への連絡も、神域に入ることの出来る彼だからこそ頼むことが出来た。
 粗方指示が終わったと同時に、ネズが戻ってくる。チャリ、という音と共に大典太に鍵を見せた。



「鍵、借りましたんで。行きましょう」
「……感謝する、ネズ。クダリ、あんたも来い。呪いを解除するには…身内の祈りも対抗策になるからな」
「うん」
「マリィ。おまえはオービュロンと一緒にいてください。嫌だったら、部屋に戻って寝てても大丈夫なんで」
「そんな甘えたことしてられない。あたしも…あたしに出来ることをするよ」
「まりぃサン。……トッテモ、強い子デスネ!」




 各々がやることを決め、動き出す。ごくそつくんも今はオービュロンについているといい彼について行った。その場に残ったのは大典太と、ノボリを担いだ大包平。医務室の鍵を持ったネズ、そしてクダリだった。
 急がなければノボリの命が潰えてしまう。それだけは何としても避けなければならない。大典太は改めてそう心に刻み、医務室の道を急いだのだった。

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 ( No.84 )
日時: 2022/04/13 22:07
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 医務室の鍵を開けて中に入った一同は、まずノボリを一番近くのベッドに横たわらせた。顔も青白く、まるで死んでいるように眠っている彼を見てクダリはショックを受けた。肌が白いのはお互い様だが、このように病的にまで白いのは初めて見た。
 2人と一振に少し下がって大典太の行動を見守る。彼らの動きを確認した後、大典太は横たわっているノボリに触れた。
 大包平が言うように、氷のように身体が冷たい。そして、やはりネズの時よりも症状が酷いことを彼は確信した。



「……完全に呪詛を取り除くつもりではいるが、助かるかどうかは正直五分五分だ。それを…覚悟しておいてほしい」
「おねがい。少しでも助かる可能性があるなら。ノボリを、助けて」



 クダリは目の前の"助かる可能性"に賭けた。それしか希望が残っていなかったからだ。涙声でそう訴える白い車掌の気持ちは痛い程に分かる。大典太もまた、"兄"のような存在なのだから。
 出来ることはやろうと大典太は決心し、早速ノボリに蠢く呪詛を取り除く為に彼の心臓に手を置いた。精神を集中させ、ノボリの中に自分の霊力を注ぎ込む。すると、彼の身体が淡く光った。

 大典太がノボリの呪詛を取り除くのに集中している間、彼の背後でネズは小さな声で大包平に声をかけていた。現状の原因をはっきりさせる為の行動だった。



「おれの時よりも酷いって…。もしかしなくとも、彼がこっちの世界に来られなかったのが原因ですよね」
「あぁ。こいつは"門"から落ちてきた。何が原因かは知らんが、今まで門の向こうの世界にいたんだろう」
「門の向こう…。元々のイッシュ地方にいた訳じゃないんですよね?」
「イッシュがどうなったかは分からない。ぼくが戻った時にはノボリはいなかった。だから、ノボリがイッシュにいたのは違うと思う」
「門とイッシュ地方が直接繋がってるわけじゃないってことですか。なら…ガラルと同じく…"混ぜられちまった"ってことなんですかね」



 後ろでの話し合いが聞こえていたのか、ふと大典太が大包平に"門の色"について尋ねた。自分もアンラに時の狭間の落とされた経験があるのか、色を確認しておきたかった。このノボリをこの世界に呼び寄せたのは誰なのか。方向性だけでもはっきりさせておきたかったのだ。
 聞かれ、大包平は素直に"白だった"と答えた。白い門。アシッドのような、天界に住まう神々が創り出す門の色だ。それとは対象に、邪神や悪神が創り出す門の色は"黒"だという。



「……そうか。白だったのか。……誰かがこいつの存在に気付いてこの世界に落とした可能性が高いな」
「あのノボリが過去に帰ったから、ではないんですか?」
「……あぁ。白だったということは、長時間"時の狭間"という場所に閉じ込められていたんだな。厄介だな…」
「時の狭間?」
「……どの世界からも切り離された"世界と世界の狭間"だ。そこに普通の人間が投げ込まれれば、普通は永遠と狭間を彷徨いどこの世界にも降り立つことは出来ない。……誰か、高位の神が干渉すれば話は別だがな。
 ……この世界と他の世界を繋いでいる役目も担っていると主から聞いた。それ故、世界同士を渡る際には、ショウ達が帰った時に使った様に『門』を潜り抜けていく必要がある」



 言いながら、大典太は目を伏せた。ノボリがこちらの世界に来られなかったのは、ヒスイ地方に帰ったノボリがこの世界にいたからなのも確かに一因している。同一人物同士が鉢合わせをしてしまい、タイムパラドックスによる互いの消滅を避ける為に"同一の存在は同じ世界に立てない"のだ。
 しかし、彼には別の原因もあった。今まで彷徨っていたのが時の狭間なのなら、門から投げ出されるまでずっと放置されていたということに他ならない。体力も精神力も削りに削られるのも目に見えて分かっていた。

 大包平はそんな大典太の説明を遮るように声を荒げる。今は目の前の人命が助かるのかどうか。彼にとってはそれが一番最優先だったからだ。



「くどくど説明は良い!!助かるのか、助からないのか!どっちだ!!」
「……最初に五分五分だと言ったはずだ。それに、これだけ酷いと……正直、かなりきつい」
「…………」



 大典太は話をしている間も意識を集中させノボリの呪詛を取り除き続けていたが、時間が経っていたことが原因で彼の身体の深いところにまで入り込んでしまっている状態でおり、解呪にかなり苦戦しているようだった。
 その様子を見て、ふとクダリは大包平に尋ねる。



「ねえ。ノボリを苦しめてるのって、呪い?」
「呪いの類だろうな。俺には分からんが」
「そう。なら」



 何かを閃いたのか、クダリは大典太の反対方向まで大股で歩く。そして、ノボリのボールホルダーに手を出した。"ごめんね、ノボリ"と一言詫びを入れ、彼は迷いなく1つのモンスターボールを取り出し、地面に投げた。
 ポン、と勢いよく出てきたのはシャンデラだった。ノボリの状況を理解しているようで、今にも泣きそうな表情だった。



「ごめんね、シャンデラ。きみに頼みたいことがある」
「しゃん」
「……その、ポケモンは?」
「シャンデラ。いざないポケモン。ノボリのパートナー。とってもいい子。ノボリを苦しめてるのが霊的なものなら。シャンデラ、手伝ってくれるかも。シャンデラはゴーストタイプだから」
「……成程。呪いの類には呪いで対抗しろと。考えたな、あんた」
「えへへ」



 サブウェイマスターはパートナーは各々違うものの、お互いのポケモンを共有して使っている。だからこそクダリはシャンデラのことをすぐに思い出すことが出来た。
 クダリはシャンデラに、大典太を指さしながら"この人のお願い、聞いてあげて"と指示した。シャンデラは彼の言葉に素直に応じ、大典太の傍にふよふよと移動する。



「……シャンデラ、だったか。あんたの主の魂を守ってくれるか?呪いが絡みついて苦難している…。あんたが力を貸してくれれば、こいつは助かる可能性がぐっと上がると俺は踏んでいる。……頼めるか」
「でらっしゃん!」



 大典太の言葉にシャンデラは元気よく返事をし、ノボリの魂に念じる。すると、彼の心臓付近を紫の炎が覆った。それと同時に、大典太は邪気が少し薄まったのを感じた。彼女が主の魂を守護したことにより、彼を蝕んでいた邪気がひるんだのだろう。何故ゴーストポケモンであるシャンデラが容易にそんなことを出来たのかと一瞬不思議にも思ったが、今はそんなことを考えている暇は無かった。
 ひるんでいた邪気はすぐにノボリの魂まで辿り着こうと蹂躙を開始する。その前に、何としても彼の身体から全て取り除かなければならない。大典太は手に込める霊力を増やした。短期決戦が一番いい。彼はそう判断した。



「(……これなら、いける)」



 大典太が霊力を強めたと同時に、ノボリの身体から一気に蔦が地面に落ちる。ネズの時と同様に、床に落ちた黒い蔦はぱきり、という音を響かせガラスのように砕けて消えていった。それと同時に、ノボリの顔色も少しずつ良くなっている。彼が助かっている。様子を見て、クダリはそう思った。

 ―――20分程経った頃、大典太はシャンデラに魂を覆うのを止めるように指示した。シャンデラはクダリの元へ戻りモンスターボールに戻すよう彼に言った。
 大典太は少し疲れた顔をしながら彼らを振り向く。その顔は満足そうにしていた。どうやらノボリの処置は上手く行ったらしい。



「……呪詛は完全に取れた。もう…身体が呪いに蝕まれることは無いだろう」
「本当?!」
「……手を、握ってみるといい」



 大典太に唆され、クダリはそっと眠っているノボリの手を握った。手袋越しにも分かる体温。それが、戻って来ているのが伝わった。ノボリは助かったのだ。その事実が、彼の心を安堵させた。



「あったかい。ノボリの手、あったかいよ」




 兄が生きている。その実感を胸に刻む。同時に、張り詰めていた空気が全て抜けたのかクダリは床にへたりこんだ。その背中をネズが支える。クダリの表情は安堵に満ちていた。
 さぁ。後は彼が目覚める時を待つだけだ。


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