二次創作小説(新・総合)

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繋がる世界と未来の物語【Ep.03-ex完結】
日時: 2022/10/12 22:13
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ―――これは、"全てを元に戻す"物語。
 それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。


 どうもです、灯焔です。
 新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
 サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
 この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
 また、オリジナルキャラクターも登場します。
 苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。


※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2


<目次>

Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17

Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148


※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54

Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111

Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151


※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163


<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150


最終更新日 2022/10/12

以上、よろしくお願いいたします。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.40 )
日時: 2022/03/01 22:36
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 冷たい風が街を駆け抜ける季節。今は冬の真っ只中。
 リレイン王国は、国民と大帝国との協力で少しずつ活気を取り戻していた。はじめはまばらだった人も、少しずつ元のさやに戻りつつある。何だかんだ、皆この国が、城下町が大好きなのだ。
 肌寒い風が窓から吹き抜ける最中、大典太は議事堂にてラルゴの手伝いをしていた。議事堂の部屋を一部寄宿舎として使わせてもらうことになった以上、何もしないという訳には行かなかった。
 人が戻って来たとはいえ、議事堂にはまだまだ人が少ない。少しでも手助けになれば、と彼らは率先して街の為に動いていた。



「いつも助かるわ~!光世さん、荷物そこに置いといてくれる?」
「……あぁ。ここでいいか?」
「うん、ばっちり満点よ~!サクヤちゃんはどう?元気?」
「……変わりない。主の仕事も俺に振ってくれればいい。必要に応じて主に連携する…」
「んもう!そういう風に言ってるんじゃないの!サクヤちゃん、外に出られないって深い理由があるんでしょ?根掘り葉掘りは聞かないけど、アタシ心配で心配で…」
「……そういうことか。まぁ…そういう意味でも主は変わりない。いつも通りだ」
「それなら良かったわ!」



 大典太が淡々と答える中、コロコロと表情を変えているこの男性が町長である"ラルゴ"である。
 元々は一介の兵士であったが、元々の経歴から町長の仕事の方が性に合っているだろうと判断され、王直々に街の為に働くよう主命を受けたのだ。
 彼がいると場が自然と明るくなる。いつもは暗い表情が多い大典太も、表情は変わらずとも不思議と朗らかな気分になったような感触がしていた。
 大典太が荷物を置いたのを皮切りに、ラルゴは彼にこんなことを言った。



「ねぇ光世ちゃん。光世ちゃんってお酒、好き?」
「……割と。過去には鬼丸と吞んでいたこともある…」
「そうなのね!なら…アタシの話、聞いてくれる?」



 何の話かと思えば、急に"酒は好きか"と問われた。
 大典太は九州で磨られた刀の為、地域柄酒には強かった。時の蔵では、天下五剣と酒を呑んでいたことを彼は思い出す。その時も彼は"呑み過ぎだ"と、悪態を突かれていた記憶が脳裏に浮かんだ。
 しかし、ラルゴの経歴があるとはいえ突拍子もない質問に大典太は黙り込んでしまった。彼の意図が読めなかったからだ。
 そんな大典太の表情を察してか、大典太の言葉を待たずにラルゴは話を続けた。



「議事堂に隣に空き家があるのは覚えてる?」
「……前の町長の家だった場所か。結構広かったな。……結局その町長は戻ってこなかった訳だが」
「それはいいの!あいつなんて戻ってきても家なんて与えてやるもんですか! それでね?光世ちゃんの言った通り、結構な広さがあるのよね~。だから、あの場所にバーを作ろうと思ってるんだけど…」
「……バー…」
「街の人の憩いの場を1つでも増やせないかなって思ってて~。でも、アタシ今町長してるでしょ?今はこの大陸の街との連携が先だと思ってるから、『出来たら良いな』って思ってるだけなんだけど…」
「……あんたがやりたいようにやればいいんじゃないか?」



 ラルゴはどうやら、議事堂の隣にある空き家を『バー』に改築したいと考えていたようだった。
 彼女……もとい彼は、"伝説のママ"との異名を持つ程の人物だ。国民や旅人の笑顔の為、憩いの場を増やしたいという気持ちが芽生えているのは充分に伝わって来た。
 しかし、大典太にはもう1つ、ラルゴが口にした言葉が"とってつけたもの"だとも感じていた。心の奥に何か思いを秘めているのではないか。
 思い切って彼の真意を問うてみると、ラルゴは驚いたような表情をしてこう返してきた。



「光世ちゃんったら、読心術持ってるの?!アタシ、今ドキッとしちゃった」
「……心理学も読心術も関係ない…。あんたが取ってつけたような表情をしていたから気になっただけだ」
「あら、そうなの!まぁ光世ちゃんの言う通りなのよね~。憩いの場を増やしたいってのは本心だけど、ママの血が疼いて仕方ないよね~。人生の路頭に迷った人達の道しるべになってあげたいのよ~」
「…………」



 ママの血が疼いて仕方がない。どうやらこちらが本心だと大典太は確信した。
 だが、酒が堂々と飲める場所が増えるのは大典太にとって悪いことではなかった。ラルゴにしっかり管理してもらえば、酒に弱い連中が泥酔することもない。自分が介抱する割合も減って助かるのだと心の中で密かに思った。
 思わずくすりと微笑みを浮かべると、ラルゴは大典太の顔を見てニヤニヤと笑う。彼が笑みを浮かべたことが余程嬉しかったらしい。



「でも今は無理ね!こっちの案件もあるし、終わってからじゃないと手が付けられないわ」
「……その紙の束か?」
「えぇ。バーを創るのはアタシの個人的な感情だけど、この紙の案件はこの城下町に必要不可欠なものだもの でも、バーは必ず開いてみせる。だから、もしお店が開いたら是非呑みに来てね!アナタ達にならサービス価格で提供しちゃうから♪」
「……出来たら、な」



 大典太は上機嫌なラルゴに反応しつつ、彼が持っている紙束に目をやった。
 一番上にはクリップで写真が1枚挟まれており、そこにはポケモンと作業員が笑顔で写っていた。何か鉄骨のようなものを持っていることが確認できたことから、建設会社か何処かと交渉しようとしているのだろう。
 その横に大きく案件の名前がプリントされている。彼はそれも読んでみることにした。
 紙には、こう印刷されていた。





「(……『リレイン城下町駅 開設計画』?)」





 チラ見している大典太に気付いたのか、ラルゴは口元に人差し指を立ててその場を去った。見たものは内密にしてほしいらしい。
 そのまま荷物を持って町長室へと去って行った彼を見送った後、大典太も一旦サクヤの元へ戻ることに決めた。午前中から働きづめだった為、少し休憩を取ろうとしていた。



「……今なら鬼丸がいるか…。あいつに酒でも分けてもらうか」



 そう、小さく呟きながらその場から離れようとした矢先だった。



「(―――揺れて、いる?)」



 大きく強い揺れを感じた。地震だろうか。立っていては危ないと大典太はしゃがむ。
 しかし、地震特有の揺れとは少し違うように彼は感じていた。
 しばらくその状態で待機していると、次第に揺れは収まった。本当にただの地震だったのだろうか。特に何も起きなかった為、目的を果たそうと右足を出した瞬間だった。









































 ガラガラと、

 寄宿舎方面から何かが崩れる音が聞こえた。



「……建物自体が崩れる音…?何があったんだ」



 物が落ちた音ではない。それよりも大きな、まるで『建物が崩れた』音。破壊された可能性があると瞬時に判断した。
 もしかしたら怪我人がいるかもしれない。そうであれば、早く助けねば手遅れになってしまう可能性がある。



「大典太さん!」



 自分を呼ぶ声が聞こえる。その方向を振り向いてみると、前田が焦った表情で走って来た。
 彼も大きな物音を捉え、何が起きたか見に行こうと急いで移動をしていたのだった。



「……前田」
「聞きましたか、先程の大きな音。普通の物音ではないような気がします!」
「……何か、建物が崩れるような音だった。もしかしたら誰か潰されているかもしれんな…」
「大変です!早くお助けしなければ!」
「……怪我をしていたら不味い。見に行こう」




 とても大きな物音だった。寄宿舎にいる誰かが瓦礫に潰されている可能性も懸念しなければならなかった。
 そうであれば、ここで立ち止まっている訳にはいかない。そう判断し、大典太と前田は音がした方向まで走って行ったのだった。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.41 )
日時: 2022/03/02 22:00
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 大典太と前田が現場に直行していたと同時刻。
 大きな落下音が響いた地点には煙と土埃が舞っていた。余程大きな落下物だったのか、建物の右端を完全に破壊してしまっていた。
 煙の中から、咳き込みながら体制を立て直す人影が2つ見えた。数珠丸と小狐丸だった。



「けほっ…大丈夫ですか、小狐丸殿」
「ええ…。何とか寸前に気付いて避けられましたが、まさか建物の真上に墜落するとは…」
「随分と大きな落下物のようでした。下手をしたら我々が下敷きになっていたかもしれませんね」
「刀剣男士がこれしき避けられないとなれば…恥ずかしい話ではありますが。何にせよ無事で良かったです」



 数珠丸と小狐丸は、丁度音の真下にいた。しかし、寸のところで気付いて回避行動を取った為大事には至らなかったのだった。
 お互い五体満足であることを先ずは確認し、煙巻いていた場所を見やる。衝撃が落ち着いてきたのか、落下物の詳細が少しずつ明らかになっていく。
 二振はその物体を確認しようと近づく。もしかしたら魔物かもしれない。もしかしたら悪意がある者なのかもしれない。刀の鞘に手をかけつつ、少しずつ足を近付けていった。
 煙の中から出てきたのは―――。



「な、なんでしょうかこれは…」
「桃色の…物体…?奇怪な形をしていますな」



 ショッキングピンクが目を引く、豚のような形をした乗り物だった。鉄か鋼で出来ていると思われるそれに刀で傷をつけることは敵わないだろう。そう判断した二振は、刀の柄から手を離した。
 近未来的な物体を見たのは初めてだ。過去のどんな記憶にも当てはまらないそれに、数珠丸と小狐丸はただ立ち尽くすことしか出来なかった。

 そのままじっと見つめていると、背後から足音が聞こえてくる。
 思わず後ろを振り向いてみると、こちらへ向かって走ってきている大典太、前田、ラルゴの姿があった。ラルゴも衝撃の音を耳にしており、何かあったのかと二振と一緒に走って来たのだった。



「……あんた達だけか」
「はい。落下した時点では他には誰もいません。我々も寸のところで避けた為無事です」
「……そうか。怪我人がいなくてよかった…。だが…」



 "だが"。そう口にしつつ、大典太は抉れて外が丸見えになった壁を見やる。
 かつて建てられていた頑丈な壁は、今や木端微塵に崩れ去ってしまっている。落下物の衝撃が端だった為、破壊が最小限で済んだのが幸いだった。しかし、大典太の表情が明るくなることはなかった。
 前田も不思議そうに大きな塊を見つめていると、ふとラルゴがこんなことを口にする。



「これ…"UFO"じゃないかしら?」
「UFO?」
「えぇ。間違いないわ、UFOよ!まさか本当に生きている間に生で見れるなんて…!」
「興奮する程のものなのでしょうか…?」
「勿論よ!オカルトや超常現象なんて、生きているうちに見られる方が稀ですもの!」



 ラルゴが発した"UFO"という言葉。彼は興奮気味に口を抑えている。余程これが好きなのだろうか。
 前田がやや呆れ気味にツッコミを返している間、大典太はUFOの周りを観察していた。乗り物であれば、中に誰かいるかもしれないと思った末での行動だった。
 しばらくゆっくりとそれを眺めていると、ふと右目の横あたりがうっすら光っているのに気付いた。大典太は気付いた。あれは"扉"ではないかと。

 ならば、中に誰かがいるかもしれない。そう判断した大典太は、無言で足をUFOに向けた。
 それと同時に腕を掴むものがいた。小狐丸だった。



「危険ですよ。中に何があるか分からないのです」
「……しかし、中に誰かがいるかもしれん。表向きは多少傷がついたくらいで済んでいるが、落下の衝撃が大きいんだ…。もし誰かがいたら、多少の怪我では済まないだろう。中を見てくるだけだ」
「そう、ですか。ですが、油断はせぬようお願いいたしますよ」



 大典太のストレートな物言いに小狐丸は観念し、掴んでいた手を離す。ありがとう、と小さく礼を言った大典太はそのままうっすら開いている扉を開け、UFOの中へと入って行った。
 正体がどんな奴であろうが、目の前の命の方が大事。サクヤと共にして、大典太が出した1つの答えだった。それに、自分は病気や怪異を癒す逸話のある刀。それが膨張して、他の存在を助けられている現状で、手の届く存在を"助けない"という選択肢はなかった。











 UFOの中は近未来的な造りになっており、操舵室のような場所だと大典太は感じた。しかし、中は無人。今いる場所を見渡しても、誰もいなかった。だが、大典太にはここに誰かの気配を感じていた。
 建物目掛けて落下をしたというのに、無人ということはあり得るのだろうか?大典太はもう一度目を凝らして部屋の中を見てみる。しかし、目立つものは見つけられなかった。



「……気のせい、なのか」



 本当に気のせいだったのだろうか。心にしこりを残しつつも、コックピットを後にしようと後ろを振り向いた。
 その瞬間、大典太は違和感を感じた。……誰かいる。彼の察知は間違っていなかったのだ。
 意識を集中させ、気配を辿る。すると―――。扉から見て奥の壁の方向に、白いもちもちした物体が見えた。腕らしきものが震えているのが分かった。彼は物ではない、『生きているいのち』だ。
 大典太は無言のまま白い物体に近付く。気絶しているようで、腕以外が動いている気配はない。ざっと見たところ、命に別状はなさそうだがところどころに痛々しい打撲痕がある。落下した衝撃で壁に強くぶつかってしまったのだろう。



「……打ち身が酷いな。治療をせねば」



 大典太は白い物体の頭らしきところを掴み、そのままコックピットを後にする。彼の正体が何であれ、生きているいのちに変わりはない。起きてから話を聞けばいい。
 まずは彼の怪我を治すことが先決だ。そう判断し、大典太は合流を急いだのだった。











 大典太の右手にあるものを見て、一同はぎょっとする。ラルゴに至っては"宇宙人だわ~!"とはしゃいでいる。
 人ではない可能性も考えていたが、見たことのない存在に言葉を失っていた。



「宇宙船に、宇宙人…。ロマンだわ、神秘だわ~!」
「―――はっ。お、大典太さん!その右手に掴んでいるものは…」
「……中で倒れていた。腕が震えていたから物じゃない。"いのち"だ。……大きくぶつかった衝撃で、打ち身になっているところがある。エントランスで治療をしたいんだが…」
「命に別状はなさそうなのですね?」
「……あぁ。正直、あの落下の衝撃で打ち身で済んでるのは奇跡だと思いたいな…」
「素敵…。世の中には素晴らしい神秘が沢山あるのね…」
「町長殿。町長殿!しっかりしてください。エントランスですよエントランス!」
「ごめんなさい!うっとりしていたわ…。怪我人の治療、だったかしら?すぐに救急箱を取ってくるわ。エントランスのソファは好きに使って頂戴!」
「……感謝する。前田、すまないが町長について手ぬぐいの準備をお願いできるか。もしかしたら冷やす必要があるかもしれんからな…」
「承知しました。氷水もすぐにご用意いたします」
「……頼んだ」



 怪我人の治療の要請を伝えると、すぐにラルゴは我に返った。どんな存在であれ、放置は出来ない。それは誰もが思っていたことだった。
 前田にラルゴについていくことを伝え、議事堂の方まで走り去っていくのを見送る。掴んでいる白い物体を見つめ、数珠丸が口を開いた。



「気絶しているようですが。本当に命に別状はないのでしょうか?」
「……僅かだが動いたのは確認した。死んではいないだろう」
「鬼丸殿も呼んで参ります。神域におられますかね」
「……恐らくな。酒でもあおっているんだろう。呼んできてくれると助かる」
「承知しました。では行って参ります」



 数珠丸に鬼丸を呼んでくるように頼み、彼が反対方向へ走っていくのを見届ける。
 彼の姿が見えなくなったのを確認した後、大典太と小狐丸はラルゴ達が走り去っていった方向を再び見やった。



「我々も急ぎましょう」
「……あぁ。そうだな」




 お互いに頷き合った後、二振はエントランスに向けて足を進めたのだった。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.42 )
日時: 2022/03/03 22:17
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 エントランスに辿り着くと、既にラルゴと前田が各々物を持って大典太達を待っていた。
 ラルゴは彼らが来たのを確認した後、ソファーの空いているスペースへと彼を導く。救急箱を床に置き、これを使えと指で大典太に伝えた。
 彼は掴んでいた白い生命体をソファーに横たわらせた後、前田にタオルを絞る様指示した。彼から冷えたタオルを受け取った後、腫れて赤くなっている患部に優しくそれを当てる。その間、霊力で他に異常は無いか精神を集中することにしたのだった。
 あまりの手際の良さに、思わず小狐丸は言葉を失う。そして、我に返ったように大典太にこう言ったのだった。



「こういう怪我の治療は……白山殿の十八番だったような記憶があります。まさか大典太殿が出来るとは…。しかもかなり手際がいいと見えます」
「……一応、俺も治癒の霊刀には数えられているからな。それに…。俺は、他の『大典太光世』とは少し違うんでな。……有り余る霊力で怪我の治療が出来るようになってしまった」
「主君が時の狭間に落とされてしまった時も、鬼丸殿と連携をして命を救ったんでしたよね」
「ふーむ。そうなのですか。いや、私のいた本丸のことをしっかり覚えている訳ではないのですが…」
「小狐丸殿もそうなのですか?」
「はい。元々別の本丸にいたこと"だけ"は分かるのですが、それ以上のことは…。霧がかかっているようで、よく分からないのです」
「……記憶障害というやつか。そこまでは責任は取れんな…。あくまで俺が治せるのは"病気"や"物理的な怪我"とか…呪いの類だけだ」



 小狐丸の疑問に淡々と答えながらも、彼は生命体の怪我の具合を見ていた。
 色々な場所に手を当て、霊力を込める。違和感があれば、そこを詳細に調べる。もし打ち身以外の怪我があれば、そこで判断しようと考えていたのだった。
 しかし…。大典太は全体を一通り診終わった後、なんと生命体から手を離した。置いた冷えタオルはそのままにし、彼は生命体から少し距離を置いた。



「大典太さん。大丈夫なのですか?彼?は…」
「……打ち身以外には特に気になるところはなかった。正直…奇跡だ」
「光世ちゃん。冷えタオルより湿布の方がいいんじゃない?救急箱の中にあるから、それ使って!」
「……そうだな。打ち身"だけ"とはいえ、かなり強く打っているのは事実だ」



 ラルゴの助言を受け、彼は救急箱から小さな湿布を1枚取り出した。フィルムを剥がすと、つんとした薬品の匂いが鼻に届く。しかし、目覚める可能性がある以上冷えタオルだけでその場を凌ぐには無理があった。
 大典太が湿布を貼っている最中、数珠丸が鬼丸を引き連れてエントランスへと辿り着いた。的確に処理を行っている大典太の邪魔をしないよう、彼らはソファーの脇に移動した。



「そいつが空から落ちてきた物体の中にいたのか」
「……そうだ。命に別状はない」
「被害の割に、大した怪我じゃなくて本当良かったわ~。後は彼が目覚めるのを待つだけね」



 湿布を貼り終え、大典太は静かにその場を去る。後は生命体が目覚めるのを待つだけだが…。黒いサングラスからは彼の表情が見えず、本当に気が付くのすら彼らには判別できなかった。
 そのまましばらく見守っていると、不意に小さな腕が微かに動いたのが分かった。―――目が覚める。一同がそう判断した矢先、人間とは思えない声色を出しながら……生命体が目を覚ました。



「ウーン……」



 まだ頭がぼんやりしているのか、きょろきょろと周りを見回している。そして、自分が見知らぬ場所にいることに気付き焦り始めた。
 誰かに助けを求めようとも、知り合いなど誰一人いない。そして、見回した目線の先にいるのは―――。高身長の男達。中にはヤクザの若頭のような風貌の人間もいる。
 そして、自分は地球人ではない。―――彼の頭の中に浮かんだ答えは1つだった。"売られる"。
 そう判断した宇宙人は、不意に叫び始めた。



「ワタシハ売らレテシマウノデスカ?!タスケテー!ウラナイデー!!オイシクナイデスヨ!!!」
「……何を言っているんだこいつは?」
「見知らぬ場所に落下してしまい混乱しているのでしょうか…」
「ウチューにんぢんデモナンデモ差し上げマスカラ!!!イノチダケハ取らナイデ……イタッ」
「……強く打っている。あまり動かない方がいい」



 生命体が湿布を貼った場所を無理やり動かした為、打ち身で出来た痛みが彼を襲う。大典太は素直に"動かない方がいい"と彼に提言した。
 その声色と、騒いでも襲ってこないところを見るに宇宙人は考え方を改めた。彼らは敵ではない。もしかしたら自分を助けてくれたのかもしれない。
 答えに辿り着いた宇宙人は、申し訳なさそうに"ゴメンナサイ"と謝罪をしたのだった。



「スミマセン。取り乱シテシマイマシタ…」
「……どうせ借金取りみたいな風貌だと思ったんだろう?よく言われるから分かってるよ…」
「……アレ、モシカシテ怖い人デハナイ?」
「風貌はそう見えるだろうが、おれ達は借金取りでもなんでもない。おまえに金銭を貸した覚えも、借りた覚えもないからな」
「ご自分がどうしてここで目を覚ましたか、覚えてらっしゃいますか?」
「ウーン…。白い光ニ襲われカケテ、気絶シタトコロマデハ覚えてイルンデスケド…」



 未だに頭が混乱している宇宙人に、数珠丸が助け出した経緯を話した。突如宇宙船が墜落して来て、建物の端を破壊。落下物の中で倒れていた為、介抱したのだと。
 事の経緯が当人に明らかになるごとに、彼はその白い顔を青ざめた。とんでもないことをしてしまったと自覚したからだった。



「ソ、ソンナ大事ナ場所ヲ破壊シテシマッタダナンテ…!」
「部屋の被害は幸いなかったけれど、壁の修繕費は結構かかりそうね…。これはバーの建設も、今やってる案件も延期の交渉をしなくちゃいけなくなるわ…」
「ヒ、ヒーッ!シュ、修繕費ハイクラクライニナリソウナンデスカ…?」
「ざっと500万くらいはかかるかも…。議事堂の壁、特殊な材料で建ててるから…」
「ゴヒャクマン!」



 ラルゴが発した金額に更に顔を青ざめる宇宙人。彼の反応から、金銭的な物は何もないことが把握できた。
 壁以外の被害はなかった為この金額で済んだが、もし部屋をいくつか破壊してしまった場合は本当に宇宙人として売買されていたかもしれない。青くなるだけでは済まなくなった宇宙人は遂に震え始めた。
 流石にいたたまれなかったのか、大典太が優しく背中をさする。まだどうなるかは分からない、だから売られる心配はするな、と。言葉が悪かったのか、表情が悪かったのか。余計に怯えを生んでしまい大典太はショックを受けた。



「ワ、ワタシヤッパリ売らレテシマウノデショウカ?」
「大典太さん。その言い方ですと本当に借金取りのように聞こえてしまいますよ」
「……すまん。言葉選びを間違えた」
「宇宙人ちゃんを売るなんてはしたない真似はしません!何とか金銭のやりくりを考えてみるから、あんまり落ち込まないで。ね?」
「ア、アリガトウゴザイマス…」
「焦るのは損。右も左も分からないのですから、選択を生き急いではなりませんよ」
「ですが…。不可抗力に城、壊してしまったのは事実。修繕費の一部の負担は免れないでしょうね」
「ハイ…」



 落ち込んでいる宇宙人に向かって前田が思い出したように口にした。そういえば名前を聞いていない、と。
 奇怪な姿をしているが、しっかりと言葉の受け答えは出来ている為名前もあるのだろうと判断しての行動だった。
 前田に名前を聞かれ、宇宙人―――"オービュロン"は、静かに口を開いた。



「ワタシハ"オービュロン"トイイマス。ミナサンカラ見れば"ウチュー人"トイウコトニナルデショウカ?」
「オービュロン殿ですね。覚えました!折角の機会ですし、僕達も今のうちに自己紹介を済ませておきましょう。ね、大典太さん!」
「……そ、そうだな」



 未知なる存在に興味が湧いているのだろうか。前田が大典太を見る表情は生き生きしているように見えた。
 前田の言葉を皮切りに、オービュロンと刀剣男士、そしてラルゴが軽く自己紹介を交わす。彼らが悪人でないことがはっきり分かり、オービュロンは改めて無礼な言葉を吐いた、と頭を下げた。



「コレカラドウシマショウ。わりおサンヲ探さないトイケナイノニ…」
「ワリオ、だと?」
「ふーむ。どこかで聞き覚えのあるような」



 暗い表情を覗かせながら発したオービュロンの言葉に、刀剣男士達は引っかかりを覚えた。
 『ワリオ』。彼の名は聞いたことがある。会ったことがあるかもしれない。彼の名を発していたことから、オービュロンはワリオの関係者なのだろうか。
 詳しく話を聞こうと数珠丸が口を開きかけた瞬間、オービュロンの名を呼ぶ明るい声が入口の方向から聞こえてきた。











































『おーい!オービュロンおじさまー!』

『空から君のUFOが落ちてくるのを見かけたから心配していたんだYO~!』




 一同が声の方向に振り向くと、そこには赤いワンピースを着た金髪の女子。そして、覚めるような青いアフロが特徴的な男性がこちらに向かって走って来ていたのだった。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.43 )
日時: 2022/03/04 22:29
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 オービュロンを取り囲んでいる場所に2人が到着すると、オービュロンの無事を確認し胸を撫でおろした。
 やっと知っている人間に会えたからなのか、オービュロンはカタカタと震えていた。今まさに"これからどうしよう"となっていたところだった。旧知の存在に会えたことの安心感に変わるものはないだろう。



「もなサン。じみーサン」



 モナ、ジミーとそれぞれ呼ばれ、反応を返す。湿布が貼ってあることに驚き説明を求めると、オービュロンは事のあらましを大まかに説明した。
 すると、あからさまに2人の顔つきが変わる。オービュロンの宇宙船について何か心当たりがあるようだった。



「あはは…。それは災難だったね」
「何モナイ平地ニ落ちてクレレバ良かッタノデスガ…。ヨリニモヨッテ建物ノ上ニ落ちてシマイマシタ」
「外からでも分かったYO。建物の端っこがかなり崩れてたんだYO~!」
「お知り合いと再会出来て嬉しいことは承知の上で、申し訳ありません。本日はどんなご用件でこちらに来られたのですか?」



 話の腰を折って悪いが、と枕詞を付け加えた上で数珠丸がやんわりと話を本題に戻す。彼の言葉にモナははっと我に返り、改めてここが"議事堂か"ということを聞いた。
 ラルゴがそうだと答えると、彼女は焦ったような表情を顔に浮かべこう言ったのだった。



「ごめんね勝手に雑談しちゃって!あたしモナ、こちらはジミーさん」
「ジミーだYO~!」
「アタシはこのリレイン城下町の町長をしているラルゴよ!よろしくね♪ それで…。さっき恒次ちゃんが言ってくれてたけど、議事堂に何か御用なのかしら?」
「うん。実はね…。ダイヤモンドシティと、このリレイン城下町って街が繋がっちゃったっぽくて…」
「……えっ?」
「ボク達も混乱しているんだYO!」
「急に眩暈に襲われて、気がついたらこんなことに…」



 そう言って、モナは話を続けた。
 元々ダイヤモンドシティは、"地図のどこにも乗らない街"だった。しかし、白い光のせいで気を失い、次に目覚めたらシティの奥に知らない中性的な街並みが広がっていたのだと。
 そこまで聞いて、鬼丸は引っかかりを覚えた。確認を促すよう口を開く。



「つまり、昨日まであぜ道だった場所が街になっていた。そうおまえ達は言いたいんだな」
「うん。何が何だか理解が出来てなくて…」
「……成程。そういうことか」
「心当たりがあるのかい?!」
「あるにはあるんですけど、なんというか…。何も知らない方々への説明が…とても難しい話になります」
「それでもいい!なんで急にこの街が現れたのか教えて!」



 説明を求めるモナに、前田はこの世界の仕組みについて大まかに教えた。
 この世界は、様々な世界の要素が1つに融合されている。その中に、"他の世界をどんどん吸収し1つにする"摂理のある世界が混ざっているのだと。昨日まで何もなかった場所に、唐突に人工物が建てられたのならば、自分達の世界が"融合"に巻き込まれてしまった可能性が高いと。
 最初は訳が分からない顔で聞いていた3人だったが、言葉を解釈して呑み込んだ結果恐ろしいスピードで納得した表情を見せた。あまりの速さに驚く一同だったが、ダイヤモンドシティは元々"なんでもあり"な側面がある為、こういった現象が起きてもそんなに驚かないとのことだった。



「なるほど…。世界ごと転移しちゃったわけだ」
「ご理解が早くて何よりですが…。悩みは解決いたしましたか?」
「1個はね。もう1個の方が本題。ワリオおじさまのことについてなの」
「わりおサン、ダイヤモンドシティニイルノデスカ?」
「いるにはいるんだけど…。ちょっと大変なことになっているんだYO…」
「その"ワリオ"という人物…。行方不明なのですか?」
「そうなの。あたし達が白い光で気を失うちょっと前から行方不明で。最後にマリオパーティに参加しに行くって街を出ていったのが…二週間前くらいだったかな」



 もう1つの問題…"本題"と称して、モナはワリオのことについて説明を始めた。
 二週間前程からワリオが行方不明だったということ。そして、探している間に白い光で気を失って、気がついたらリレイン城下町と街が繋がっていたこと。
 目を覚ましたらワリオが街に戻ってきていたということ。しかし、戻って来た彼の様子がおかしいということ。
 そこまで話を終えたモナは、真剣な目つきで刀剣男士達の手を掴んだ。



「ワリオおじさまの様子がおかしいの!普通に街に戻って来たならいいんだけど、ワリオおじさまが戻ってきてからダイヤモンドシティの様子も変になっちゃったし…。お願い!あたし達と一緒に街の調査をして!」
「わりおサン、本当ニ戻ってキタノデスネ?!」
「戻って来た…はいいんだけど、本当に様子がおかしくてね…。ボク達も話しかけようとしたんだけど、とてもじゃないけどそんな雰囲気じゃなかったんだYO」
「事情は分かったわ。でも…街の状態を確認してから出ないと調査の協力は出来ない。実はね?このリレイン城下町も、再始動をしたばっかりなのよ。隣町になった…実質合体してしまったのだから、いずれ連携はしていかないといけない。
 だけど…アタシ達が介入する必要はあるのか。それだけは確認させて頂戴?」
「! ありがとう…!」
「……オービュロン。あんたも行きたそうにしているな」
「勿論デスヨ!ダイヤモンドシティハワタシノ"第二ノ故郷"ミタイナモノデス。ソレニ、わりおサンニ文句ノ1ツヤ2ツ、言わナイト気ガ収まりマセン!」
「一応病み上がりの身なんですから、無理をしてはいけませんよ?」
「ワカッテイマス」



 ダイヤモンドシティの様子がおかしい。リレイン城下町とダイヤモンドシティが繋がってしまったことから、問題を放置しておけば城下町にまで被害が及ぶのか。ラルゴはそこを懸念していた。
 自分達の町に被害が及ぶならば協力は惜しまない。しかし、そうではない小さな問題だったのであれば自分達の協力は期待しない方がいいと彼は言った。冷たい言葉に思えたが、再起を図ったばかりの街で、緊急事態に手を差し伸べられる余裕はまだまだ作れていなかった。
 モナの言葉をかみ砕きつつ、鬼丸は大典太にひっそり耳打ちをする。言葉の節々に何かを感じ取っていたようだった。



「大典太。この件……邪神が絡んでいるかもしれん」
「……邪神?」
「あぁ。微かにだが感じる。城下町の向こうだ。―――おれの思い違いであればいいがな」
「あんたの不吉な予感は割と当たるからな…。用心はしておくよ…」
「おい。おれを疫病神扱いするな」
「……そうは言ってないだろ」
「軽口を叩き合うなら別の場所でお願いします」



 些細なことから再び小競り合いを起こしそうになり、数珠丸に会話を中断された。この二振、皮肉を言い合えるくらいに仲は良い筈なのだが、お互いに言葉のコミュニケーションがまだまだ足りなかった。
 数珠丸も鬼丸の耳打ちが聞こえていたようで、もし邪神が関係しているのであれば自分達が協力せねば事態は解決しないと考えていたのだった。
 前田も小狐丸も勿論街の調査に同行する返事をした。その言葉を聞いたモナは、悲しそうな表情から一転笑顔を綻ばせた。



「じゃあ早速行こう!ダイヤモンドシティへはあたしとジミーおじさまが案内するね!」
「よろしくお願いいたします」
「……街が繋がったんだとしたら、互いの町の行き来の方法も確認しなければならんからな」
「お願いね、刀剣男士ちゃん達。もし助けが必要であれば、助けてあげて」
「無論、もとよりそのつもりです!」
「心強いYO!」






 ラルゴに見送られ、一同は議事堂を後にした。
 モナとジミーが先導し、街の外まで案内してもらう。元々野原が広がっていた橋の向こう―――。目線の先に、昨日まではなかったはずの高層ビルが立ち並ぶ景色が見えてきたのだった。
 コネクトワールドが元々持っていた世界の"融合"という摂理。この世界でも起きてしまったのだと彼らは確信した。



「こっちこっち!」



 モナは自分達が来た道を辿る様にして彼らを案内していた。そして、見えていた都会的な街へと一歩、足を踏み入れた。
 ……の、だったが。










「な……」
「街ガ…!」
「なんでしょう、これは…」
「酷いでしょ?あたし達が目を覚ましたらこうなっていたんだ」




 ダイヤモンドシティに入った大典太達が見たものは、ばい菌のような小さな生物が道端の木や花を食い荒らしている惨状だった。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.44 )
日時: 2022/03/05 22:03
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

「ナ…何ナンデスカコレ…!」



 オービュロンの震える声がその場に木霊した。当たり前だ。彼はこの街を"第二の故郷"と言っていた。
 そんな場所が、訳の分からない存在に食い荒らされている現状を目の当たりにしてしまったのだ。彼の心情を思うと、悔やみに悔やみきれなかった。
 冷静に状況を紐解こうと数珠丸が口を開く。そんな彼に、苦しい顔を浮かべながらもモナは答えた。



「酷い有様ですね…。どうしてこうなってしまったのでしょう?」
「あたし達が眩暈を起こして気絶したことまでは話したよね?目を覚まして外に出たら…街がこうなっていたの。どう考えてもこんな生物なんてダイヤモンドシティでは見たことが無い。何が起きたんだろうって街の中をうろうろしてたら、ワリオおじさまを見つけたの。
 ―――今お花とか木を食べちゃってるあいつ、ワリオおじさまから出ていたんだ」
「ボクもモナちゃんから電話を受けた時はびっくりしたYO…。ワリオはスゴイ変わったヤツだけど、悪いヤツじゃないんだ。だから最初は信じられなくて…。でも、実際にワリオの姿を見に行った時に確信したんだ。話しかけようとしてもこっちに気付かないんだYO!
 ばい菌に触れたらボク達まで大変なことになりそうだったから、モナちゃんと話し合って橋の向こう……キミ達の言うリレイン城下町ってところまでやって来たんだYO!」
「成程。して、何故議事堂まで辿り着くことが出来たのでしょう?」
「それはあたしが街の人に聞いたの。そしたら、悩みなら議事堂の人が解決してくれるかもしれないって場所を教えてくれたんだ」
「おれ達は便利屋ではない」
「まぁまぁ、落ち着いてください鬼丸殿。街の惨状を見た以上、この街を食い荒らした暁には……橋を渡って城下町まで侵攻してくることは明らかです。結果的に手を差し伸べたことは正解と言えるでしょうな」



 元々ダイヤモンドシティは地図には載っていない街。人慣れしているモナでも、初めて見る街と初めて話す人間には少し躊躇を覚えたらしい。しかし、結果的に協力する選択肢は無駄ではなかったと小狐丸は言った。
 そして、タイミングよくオービュロンを介抱出来ていたことも幸いだったのだろう。彼がいたことによって、モナとジミーは安心して彼らに近付くことが出来たのだから。
 ジミーがそう伝えると、オービュロンは困ったような、照れたような表情を浮かべた。



「それにしても…。得体のしれない物体では、我々にも対処は難しいところではありますね。あれが何か"呪い"の類であれば、僕達にも解決策は思いつくのでしょうけれど…」
「……遠目で見てても何も分からん。近付いて、性質が何かを確認せねばな」
「デスガ、触れタラマズインデスヨネ?命ノ恩人ニ、ソンナ危険ナ真似ハサセラレマセン!デモ…ウーン」
「……どうした?オービュロン」
「アノ…。ばい菌ノヨウナ物体、前ニ見タコトガアルカモシレマセン」
「えっ?おじさま、何か知ってるの?!」



 オービュロンは遠目に草木を食べ続けている物体を凝視していた。彼にはあの物体に違和感を覚えていた。過去に見たことがある物。そうであれば、原因解明に一歩近付けるかもしれないと彼は思っていた。
 そのまま物体をじっと見る。そして、彼は過去の記憶と物体を1つ1つ照らし合わせた。引っかかりを感じているのなら、過去に何かヒントがある筈だ。
 ―――しばらく見続けていた矢先、オービュロンの脳裏にとある思い出が浮かぶ。……そういえば、あの事件の際に似たような形の物を見た、ような。



「アレ、モシカシテ―――」



 彼が違和感の正体を口にしようとした瞬間だった。
 道路の向こうから、こちらに猛スピードで近付いている人影が見えた。自分達を襲うつもりなのかと鬼丸は刀の柄に手を伸ばすも、大典太に止められた。斬りかかった結果、もし関係ない人間を傷付けてしまったら意味がない、と。
 音の方向に顔を向けてみると、近づいてきていた影の正体がはっきりと見える位置まで近付いてきていた。黄色いヘルメットを被った少年の姿だった。猛スピードで近付いてきていたのは、スケートボードに乗ってこちらに駆け抜けていたからだった。
 少年は大典太達の近くでボードにブレーキをかけ、下りて一同の元まで駆けてきた。その表情は焦っていた。



「みんな!ボクちん分かったんだよ!あの変な奴の正体!"バグ"だよ、"バグ"!」
「バグ……ハッ。ないんぼるとサン、ヤハリソウナノデスネ?!」
「え~っ。オービュロンに先越されてたのか~。ボクちん一番だと思ったんだけどな~」
「一番、二番ヲ考えてイル場合デハアリマセンヨ!もなサン、じみーサン、以前げーむノ中ニ吸い込まれタ事件ガアリマシタヨネ?覚えてイマスカ?」
「ゲーム…?確かにバグ退治はみんなでやったけど……。―――あーっ!!」
「確かに形が似ているYO!」
「皆さん、覚えがあるのですか?!」



 ナインボルトとオービュロンの言葉を受け、モナとジミーも自分の中の記憶を漁り始めた。そして、2人共ハッとした表情で気付く。確かにあのばい菌のような物体、以前ゲームの中で倒した経験があることに。
 同時に前田が確認を促す。全員が覚えているのならば、何か手がかりがあるかもしれない、と。問われたモナは素直に答えた。



「前にね、ワリオカンパニーのみんなで作ったゲームがあるんだけど…それがバグを起こしちゃって、みんなゲームの中に吸い込まれたの。それで、倒したバグがあの街を食べちゃってるヤツと似てる…ううん、瓜二つなんだよ!」
「瓜二つ…ですか?」
「ねぇ。そういえばこの人達…誰?ダイヤモンドシティって地図に載ってない街だったはずだよね?」
「その筈なんだけど…。ボクもいまいち理解が追いついてないんだYO~。そもそも、この街何でもありだから納得はしてるけどね!彼らは橋を超えた向こうの街に住んでいる人達さ!
 今回のバグ事件に協力してくれる人達なんだYO!」
「あ、協力者なんだ。町中にこのバグ増えちゃってるし、人手は多い方がいいよね…。あ、ボクちんナインボルト!ニンテンドーのゲームが大好きな小学生だよ!」



 ナインボルトに事の顛末を説明すると、彼は納得したように頷いた。大典太はそんな彼を見て、本当にこの街は何でもありなのだということを再び認識したのだった。
 ジミーの話を聞いていたナインボルトは、良いことを思いついたようにはっとした表情になる。そして、大典太達に向かってこう言い放った。



「そうだ!これからボクちんの家に来ない?色々話すにも、建物の中の方が安全だからさ!」
「よろしいのですか?」
「うん!おかあさんもこういうの慣れてるし、隣町の人だって説明したら納得してくれるよ!それに町中がバグだらけで、外で話をしてたらいつ襲われてもおかしくないし。
 ゲームの中ならバグ退治し放題なんだけどな~。今は現実だもんね」
「……確かに一理あるな。なら…頼めるか」
「うん。任せてよ!」




 ナインボルトの妙案に大典太は乗ることにした。確かに建物は現在食い荒らされておらず、バグが浸食しているのはあくまでも街にある草花や木だけだった。建物が被害に遭うとしても、今ではない。ならば、彼の提案に乗ってもいいのではないかと結論を出した。
 彼の答えを聞くと、ナインボルトは嬉しそうに家の方向を指さした。スケートボードを脇に抱え、一同を案内するように先導する。
 一同も、それに従ってナインボルトの家まで向かっていくのだった。


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