二次創作小説(新・総合)
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- 繋がる世界と未来の物語【Ep.04-2完結】
- 日時: 2025/10/03 21:52
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)
―――これは、"全てを元に戻す"物語。
それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。
どうもです、灯焔です。
新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
また、オリジナルキャラクターも登場します。
苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2
<目次>
Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17
Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37
Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53
Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67
Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89
Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130
Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148
ep.04-1 【天下五剣が集うとき】 完結
>>166 >>167-171 >>172-176
Ep.04-2【新世界の砂漠の華】 完結
>>178 >>179-180 >>181-185 >>186-188
※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54
Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111
Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151
Ep.04
【月と超高校級の来訪】 >>177
※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108
Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163
<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150
>>164-165
最終更新日 2025/10/03
以上、よろしくお願いいたします。
- Ep.02-s4【記憶はたゆたい 時をいざなう】 ( No.109 )
- 日時: 2022/05/11 22:03
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
現代のノボリとクダリを巻き込んだ一つの事件がとりあえずの終焉を迎えた頃―――。過去へと時を遡っていた2人の"迷い人"も、2人が戻りたいと願った時代への帰還を果たしていた。
後ろを歩いていたノボリが門を潜り抜けた直後、それは美しく輝く白い光になって飛散し、消えた。"片道切符"なのだと改めて2人は感じたが、それでいいのだ。今の2人が帰るべき場所はここ、ヒスイ地方なのだから。
早速コトブキムラに帰還したことを伝える為、ムラの門まで足を進める。すると、2人が現れたことに門番のデンスケは随分と驚いた表情を取った。
「デンスケさん、只今戻りました!門を開けてくださーい!」
「お、お……ん?ショウ?!それにノボリさん?!」
「はて?どうかなさいましたか?我々を見て随分と驚いている様子ですが」
「い、いや…えっと…」
当のデンスケは2人が現れたことに相当驚愕しているようで、まるで腰を抜かしたかのように言葉を失っている。その様子を不思議に思ったのだろう、後ろから"テル"と"ラベン博士"が顔を見せた。
テルもショウと同じく調査隊に所属する、ショウの先輩にあたる少年だ。ラベン博士もまた、ギンガ団に所属しポケモンの生体について調査を続ける博士だった。
テルもラベン博士も2人の顔を見た途端、デンスケと同じ表情を取った。
「2人までどうして驚くの?!私、別に幽霊になったつもりないんだけど!」
「そうじゃない!ショウ、お前今までどこに行ってたんだよ!一週間も連絡なかったから心配したんだぞ!」
「えっ…?」
一週間。テルから告げられた期間を自覚し、何故彼らが驚いていたのかをショウはやっと理解した。ショウとノボリはこの世界から一週間も姿を消して、あの世界にいたことが分かったのだから。ノボリもやっと理解したようで、珍しく目を見開いている。恐らく驚いているのだろう。
それだけの期間自分達がいないのだと分かったら、それは心配もするだろう。
「ごめん…。まさかこんな時間が経ってるとは思わなくて」
「ノボリさんも、突然一週間も姿が見えないとシンジュ団の皆さんが心配していました。もしかしたら元の世界に戻れたのではないか、との推測もありましたが…。どうやらそうではなかったようで」
「そうでしたか…。里の皆様には心配をかけさせてしまいましたね。後でお詫びに向かいます」
「誤魔化すわけにもいかないか…。テル先輩、ラベン博士。あの…突拍子もない話ですが、信じてくれますか?私とノボリさんが、今まで何処にいたのかを」
「突拍子も無いのはショウくんが空から落ちてきたことで証明済みです。どんな事実でも、しっかりと受け止めますよ」
「あはは…そうだった…。実はですね…」
2人に誤魔化せることも無いと、ショウは自分の身に起きたことを正直に話した。朝から時空の歪みにポケモン調査に向かっていたところ、ノボリ共々異世界へと転移してしまったこと。現地の人々の協力で、ヒスイ地方に戻ってこれたこと。そして、向こうの世界で目覚めてから一週間も時間が経っていたとは思わなかったことを。
彼女の話を聞いた2人は、最初は流石に開いた口が塞がらないような表情をしていた。しかし、ショウの話を疑うことはしなかった。隣にいたノボリも同じようにショウの話に頷いていたのと、彼女の話が到底嘘には思えなかったからだ。
ショウが粗方話し終えたのを皮切りに、テルが推論を口にする。
「時空の歪みのせいなのかな?」
「現状は分かりません。ですが、異世界の力が働いているとなれば…可能性もあり得るでしょうね。ですが!今は隊長に早く帰還を報告してあげてください。お陰様でまたイモモチの食べる量が減ったとムベさんが嘆いておられましたから」
「そうだったんですね…。じゃあ、私本部に報告してきますねノボリさん!」
「いってらっしゃいませ。わたくしも里に帰還したことをお伝えして参ります。終了次第、コトブキムラにて合流いたします故」
「気を付けてくださいねー!」
ノボリも一旦シンジュ団の里―――恐らく一番心配しているのは長であるカイであろう。彼女に無事を報告する為、ショウと別れ里までの道を去っていった。
彼の背中が見えなくなったのを確認した後、3人もコトブキムラの中に入っていったのだった。
―――コトブキムラの中央に位置する洋風な建物。それがショウが世話になっている"ギンガ団本部"であった。
ショウはテルとラベン博士に隊長に報告してくると伝え、彼らとも一旦別れ隊長が待っている執務室へと足を踏み入れた。
久しぶりの顔に、隊長―――"シマボシ"は表情1つ変えず、何故戻ってこなかったのを問うた。信じてくれるのかは危うかったが、ショウは正直に自分に起きたことの顛末を話す。彼女は少し考える素振りを見せた後、ショウにこう返してきた。
「時空の歪みに巻き込まれていたのだな」
「はい…。知らないうちに知らない世界に飛ばされていたみたいです。でも、現地の方々の協力のお陰でヒスイ地方に戻ってこれました」
「そうか。色々あったのだろうから暫く休め。これは命令だ」
「あの…。疑わないんですか?」
「疑う?君が時空の歪みに、ノボリ殿と共に一週間前の朝に突入したことは警備隊が見ている。事実が残っているのに何故疑えと?時空の歪みは分かっていないことも多々ある。ヒスイ地方には本来生息していないポケモンも現れる。
謎が多すぎる場所で、君達2人が別の時代に飛ばされる可能性が"ない"とは言えないだろう」
「そ…そうですね…。それと、休暇に関してなんですが『取れ。隊長命令だ』 は、はい…」
ショウに伝えるだけ伝えると、シマボシは再び山積みになった報告書に目を向けた。突拍子もない離しだったが、今は皆が自分の話を信じてくれている。ショウがヒスイ地方に落ちてきた当初は、こんなことは絶対に無かったし逆に疑われていただろう。
そんなことを思いつつも、彼女は休暇をくれた、迎え入れてくれた隊長に改めてお礼を言って、本部を後にしたのだった。
本部から出てきたショウを、テルとラベン博士が迎え入れる。どうやら彼女の報告が終わるまで待ってくれていたらしい。強制的に休暇を取らされたとやや愚痴るように伝えた彼女を、ラベン博士はぽんぽんと肩を叩いて労った。
「ショウくんが頑張っていたのを見抜かれていたんでしょう。羽を伸ばすいい機会ですよ」
「まだ図鑑完成してないのに~」
「ははっ。随分と図鑑完成にこだわってるんだな!やっぱり…元の世界に帰りたいとか思ってるのか?」
「私が何者なのか…ちゃんと知ってからだけどね。ここに来て、改めて思ったんだ。その土地に暮らす人には大切な家族がいて、友達がいる。それは…私だって変わらない。もしかしたら、急に消えた私を今日も両親が探しているのかもしれない。
私はまだここでやることがあるから帰らない。でも……いずれは、帰る選択肢を取るんだと思う」
「そっか…。ショウが帰ったら寂しくなるな」
「あ。それと、私が帰るのはノボリさんの記憶が全部戻ってから、だから…。もうちょっとかかるかな?私よりノボリさんの方が記憶失ってる量多いし…」
「ははは。それは大変な道のりですねぇ。もし取り戻せなかったら、ここを故郷にしてもいいんですからね?」
「もう!ラベン博士ったらすぐそういうこと言う!だから帰りにくくなるんじゃないですか!」
「そうだよ!せっかくショウが分かんない自分を探そうとしてるんだから、それを否定すること言うなよな!」
2人でラベン博士に言い寄っていると、ふとテルがショウの持っているバスケットに気付いた。ヴィルヘルムから貰った"お菓子"が入っているバスケット。
興味が湧いた彼は、ショウにその"籠"について追及してみることにした。
「なぁショウ。お前の持ってる籠、なんだよ?」
「籠?あぁ、これ?私を助けてくれた人が"お土産に"ってくれたの。現地のお菓子が入ってるんだって。私も中は開けてないからまだ分からないんだけどね」
「随分と不思議な形状のバスケットですねぇ。ガラルでも見たことありませんよ」
「そうだ!折角だし、これから一緒にこれ食べない?勿論ノボリさんが帰って来てからだけど…」
ショウ曰く、中に何が入っているかは彼女も分からないらしいが、"お菓子"と言っていたので食べ物だということは理解した。そう確信したテルの行動は早かった。
テルはそのお菓子の正体を知る為に、イモヅル亭へと駆け足で急いだ。勿論、席を予約する為だった。小さくなっていく彼の背中を目で追いながら、ラベン博士はショウに語りかける。
「しかし、2人共本当に時空を旅してしまったんですねぇ」
「まさか2回目になるとは思ってませんでしたけどね…。現地の人、いい人達ばかりで。だからこそ帰ってこれたんです」
「そうでしたか。ん?ならば…ショウくんの元居た世界に返してもらう、という選択肢もあったのでは?異界には何があるのか分からないので、どうとも予測がつきませんが…」
「私にもノボリさんにも"元々いた世界の記憶"が無いから、その時代に送ることは出来ないってハッキリ言われました。だから…ここに戻ってくることを選んだんですけどね。ここなら、迎え入れてくれる人達がいるって分かってるので。
でも…仮に、私が元いた場所に戻してもらえたとしても…首を縦には振らなかったと思います」
「どうして?」
ラベン博士は不思議に思っていた。ショウが元の世界に戻りたがっていたのは知っていた為、ここに来ずに元居た時代に帰れるならば帰った方が良かったのではないかと。しかし、彼女はそれには首を横に振る。
ショウにはまだこのヒスイ地方でやるべきことがある。だから帰ることは出来ない、と。図鑑完成もその1つだったが―――。彼女は、単身現代に帰ることを望んでいなかった。
その理由を問うてみると、ショウは真っすぐラベン博士を見つめてこう言い切った。
「私、ノボリさんと一緒に帰ると約束しましたから。私にも待っている家族がいると思うし…ノボリさんにも、彼を必死に探している大切な家族がいます。だから、彼を1人ヒスイ地方に置いてけぼりにするなんてこと絶対に出来ません。
だって、辛いじゃないですか。仲の良い家族が自分の意思関係なく引き裂かれちゃうんですよ?私だったら…そんなの、耐えられない。泣いちゃいますよ。
記憶がないからだろうけど…でも、ノボリさんはそれでも立ち止まらずにヒスイの人達の為に頑張ってる。もうあの人をひとりぼっちにしたくないんです、私」
「そう、なんですか…。ショウくん。きっと君は…僕の知らない向こうの世界で、大切なことを知って来たんでしょうね。その優しい心…どうか大切にしてください」
「……はいっ!」
そう言い切ったショウの瞳は、まっすぐ前を向いていた。だからこそ、今頑張れるのだと。彼女は未来を見据えていたのだ。
そんな彼女の姿を見たラベン博士は、また感慨深い気持ちになったのだった。
- Ep.02-s4【記憶はたゆたい 時をいざなう】 ( No.110 )
- 日時: 2022/05/11 22:05
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
イモヅル亭に足を運ぶと、既に席の予約が済んでいたのかテルが椅子に座って2人に向かって手を振っていた。近くではノボリが既に戻って来ていたのか、2人をみて制帽の鍔を掴みながら小さく礼をした。
まさか彼がこんなに早く戻ってくるとは思っていなかったショウは、口をあんぐり開けて驚く。そんな彼女の反応に対しても、ノボリは仏頂面を貫いていた。
「ノボリさん。シンジュ団の件は…」
「定刻通り報告を済ませ、戻って参りました。カイさまの方からわたくしの帰還をお伝えしてくださるそうです」
「あっ。だから戻ってくるのが早かったんだ。私、てっきりみんなに直接挨拶して遅れるものだとばかり」
「出来ればわたくしもそうしたかったのですが…カイさまが"やらせてほしい"と張り切ってしまい…」
「な、成程」
どうやらノボリは1人1人丁寧に挨拶に向かうつもりだったらしい。流石にその身体で無茶をしてほしくなかったとも思っていたショウは、カイの気遣いに心の中で感謝をした。
ノボリに事のあらましを話し、一緒に食事でもしようと誘う。最初は遠慮がちな彼だったが、テルもラベン博士も快くノボリを歓迎してくれたため、遂に折れた。ショウがテルの席の反対側に座ったと同時に、ラベン博士もテルの隣に座り、ノボリもショウの隣の席に邪魔することにしたのだった。
ムベに飲み物だけを頼み、早速持ってきたバスケットの中身を開けてみることにした。ノボリにこのバスケットのことを知っているかと尋ねると、彼も"自分のいた世界で見たことがあるかもしれない"と朧気に記憶があることを話してくれた。
ショウが恐る恐る蓋を開けると、そこに入っていたのは色とりどりに飾られた"クッキー"だった。ヴィルヘルムが言っていたように、保存用の魔法がかけられていたようで状態も全然悪くなっていない。
まさか彼がクッキーをわざわざ焼いてくれたのに、ショウは思わず感動していた。
「うわあ!クッキーだ!」
「久しぶりに見ましたねぇ。ヒスイ地方では絶対に見ることは出来ないと覚悟をしていましたよ。ノボリさんもご存じですか?」
「えぇ。覚えがあります。よく、わたくしと似た顔の男が好んで食べていたような…」
「ノボリさん?」
「……はて?わたくしは今何を…?」
ラベン博士もノボリも随分久しぶりに見た、と各々感想を漏らしている。普段見慣れないものを見たからなのか、ノボリの記憶がまた少しだけ刺激されたようにも見えた。
一方、テルはクッキーをじーっと見つめながら首を傾げていた。そうだ。彼はヒスイ地方で生まれ育った存在。クッキーのことなど知らなくて当然なのだ。
「く、くっきー?食べ物なのか?」
「ヒスイ地方には流通してないお菓子ですし、テルくんが知らないのも当たり前の話です。小麦粉を主材料とした焼き菓子ですよ。ガラルでは既に紅茶と共に定着しているお菓子です」
「そういやラベン博士、他の地方から移住してきたの俺すっかり忘れてた…」
「忘れないでくださいよ…。ですが、まさかコトブキムラでクッキーが食べられる日が来るとは!ショウくんのお陰ですね!もう食べてもいいのでしょうか?」
「はい!飲み物も来ましたし、いただいちゃいましょう!」
そう言い、ショウもラベン博士もバスケットの中に入っているクッキーを1つ掴み、食べ始めた。余程美味しいのだろう。口にした瞬間2人の表情が綻んだのがよく分かった。表情が緩む程美味しいのか。テルはその様子をしばらく見続けていた後、遂に並べられているクッキーを1枚手に乗せる。
クッキーはテルの掌よりも小さいサイズで、一口で全て平らげてしまえそうな程の大きさだった。しかし、食べたことのないものに対してそんな行動をする勇気は彼には無かった。恐る恐る小さく1口かじる。すると、かじったところからほろほろとした感触と、丁度いい甘さが口にの中に広がる。
"美味しい"。テルの表情も他の2人と同じように緩むのに時間はかからなかった。
「うまい!」
「でしょー!クッキーを持たせてくれた人が出してくれたケーキも美味しかったんだ」
「ショウくんは向こうでケーキもいただいてきたのですか?!いいなぁ、ケーキなんて言葉自体久々に聞きましたよ…。
ですが、これは本当に美味しいクッキーですよ。紅茶があればベストだったんですけどねぇ」
「紅茶はヒスイ地方にはありませんからね…。諦めてください、ラベン博士」
「重々承知しています。幸い緑茶にも合う味で良かったですよ」
一緒に飲むなら紅茶が良かった、と思わずラベン博士は項垂れた。テルとラベンが美味しい、美味しいと食べ進める中、ショウはふと隣を見た。
ノボリはバスケットの中のクッキーに手を付けない。3人が美味しく食べているのを親のように見守るだけだ。自分は食べる資格がないとでも思っているのだろうかと思い、ショウは声をかけた。
「ノボリさんも食べましょうよ。美味しいですよ?」
「わたくしがいただく訳には参りません。どうか皆様で味わってくださいませ」
「んもう!そのつもりなら最初からノボリさん誘ってませんってば!ほら!手を貸して!」
「わ、わっ。何をするのですかショウさま」
やはりノボリは"自分が食べる訳にはいかない"と手を付けていなかったのだ。そもそもテルに"ノボリが来るまで待ってほしい"と最初に言い出したのはショウ自身なのだ。その言葉にむっとしたショウは、思わず机においている彼の右手をぐいぐいと引っ張る。突拍子もない行動に珍しくノボリは表情を崩した。
そして、彼女はバスケットの端にあるクッキーを無理やり手に取らせた。そうでもしなければ彼は絶対に口をつけないだろう。そう判断したからこその行動だった。
ノボリはそのままクッキーを手に取り、申し訳なさそうにしながらも一口含む。長年味わっていなかった、とても懐かしい味わいだった。ああ、かつて自分はこれを食べていたのだろうか?そう、思わせる程に。
------------------------
『ノボリ!一緒に食べよう!これ、ぼくが買ってきた限定品のクッキー!』
『飲み物?ぼく、コーヒーがいい。とっておきの、あまいやつ!―――スペシャル!』
『ノボリは心配性だなあ。ぼく、甘い物食べないと元気が出ないの!』
『えへへ、美味しいね。買ってきて良かった。ノボリと一緒に食べたからもっと美味しい!』
『ぼく、もっと美味しいクッキー探して来る!だから、また一緒に食べよう。約束!』
------------------------
―――ふと、脳裏に浮かんだ優しい声は一体誰のものだったのか。あぁ、わたくしに優しく声をかけてくださるあなたは誰なのですか。しかし……彼の心の中に、ぽかぽかと暖かなものが流れてくるような気がノボリにはしていた。
浮かんできた記憶を心に刻み付けるように、大事に、大事に。ノボリはクッキーを噛みしめた。
「―――美味しゅう、ございます」
「本当ですか?!良かったぁ…。いや、私が手作りした訳じゃないんであれなんですけど。やっぱり美味しいですよねこのクッキー。いくらでも食べられちゃいます!」
「って、あー!ノボリさんが勝負以外で笑ってる!えっ、ノボリさんって笑うんだ」
「テル先輩ってば超失礼だよ!写真屋でも一緒に撮ってくれる時笑ってくれるもん!」
「ノボリさんって写真屋行くんだ…?」
「テル先輩はノボリさんを何だと思ってるの…?」
もっと失礼だよー、と怒るショウをノボリは優しく宥めた。そう思わせるのは自分の普段の行いなのだから、ショウが怒る必要はない、と。どこまでも滅私奉公を貫く彼に、ショウはジト目になりながら"私が納得いきません!"と返したのだった。
そんな2人の様子を見ながら、ノボリはまたふっと微笑む。ラベン博士も楽しそうに笑みを浮かべるのだった。
- Ep.02-s4【記憶はたゆたい 時をいざなう】 ( No.111 )
- 日時: 2022/05/11 22:08
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
4人で分け合って食べたからなのだろうか、バスケットに詰められていたクッキーは無くなり空になっていた。バスケットはショウが記念に持ち帰ることになり、4人は飲み物をいただきながらもう少しだけ話をしていくことにした。
話の中で、ふとショウはヴィルヘルムに言われたことを思い出す。ないとは思うが、もしかしたらヒスイ地方に預かっているポケモンのトレーナーがいるかもしれないと頭に浮かんだのだ。
ショウはごそごそとポーチの中を漁り、彼から預かったモンスターボールを取り出し、3人に見せた。まずヒスイ地方にない鉄製のボール。テルとラベンは初めて見るそれを興味深そうに眺めている。
「なんだこれ?モンスターボール?」
「ショウくん。こちらはどうしたのですか?」
「私を助けてくれた人から預かったんです。ポケモンのトレーナーさんを探してほしいんだとかで」
「うーん…。ヒスイ地方に鉄製のモンスターボールはありませんし、そもそもモンスターボールの流通が始まったのが今から2年前の話です。君に頼むんですから相手方は何か気付いていそうですが、ヒスイ地方に鉄製のモンスターボールを使う人間がいるでしょうか…」
「…………」
「……ノボリさん?大丈夫ですか?」
ノボリの様子がおかしい。隣に座っていたショウはすぐに気付いた。胸に手を当て、必死に気持ちを抑えているような。何か、このモンスターボールに関しての記憶が蘇っているのだろうか。明らかに目が泳いでいる。まるで、このモンスターボールを見て焦っているような。
声をかけるも、彼は震えた声で"大丈夫です"と答えるだけだった。声色が全然大丈夫ではない。このモンスターボールはきっと彼と関係がある。彼の様子から、ショウはそう判断した。
「助けてくれた人はこうも言っていました。"モンスターボールに入っているこの子が教えてくれる"って」
「どういうことだそれ?向こう、なんだか持ち主に気付いてそうだよな…。直接教えてくれればいいのに」
「きっと教えてくれない事情があるんでしょう。それでショウくん、このボールはどうするつもりなのですか?」
「……ちょっと、試したいことが出来ました。今ここでポケモンを出してみてもいいですか?」
「? ええ、構いませんけ『……おやめ、ください』 ノボリさん?」
「……申し訳、ありません。ですが……怖いのです。震えが、止まらないのです」
「…………。ごめんなさい。いくらノボリさんのお願いでも、今は聞けません。きっとこの子も……気付いてる。"帰るべきトレーナーが誰か"」
制止を計るノボリの言葉をショウは遮り、彼女は意を決して持っていたモンスターボールを投げた。ショウの考えが合っているのならば。恐らく、このポケモンは―――。
ポン、という軽快な音と共に飛び出したのは……まるでシャンデリアを思わせた、幽玄を思わせる優美なポケモンだった。
ヒスイ地方ではまず見ないその外見に、テルもラベン博士も驚きが止まらない。
「うおお?!見たことのないポケモン?!」
「ヒスイ地方には生息していないポケモンですよ?!」
ショウの手によって外に出されたポケモンは、見知らぬ場所できょろきょろと辺りを見回している。
そして、ノボリの表情が更に焦燥感に苛まれたものに変化する。ポケモンの姿を見て、心臓がドクンと跳ねるのが分かった。思わず胸に置いていた手をぎゅ、と強く握る。
わたくしは、このポケモンを、知っている。
頭の中に浮かんできた答えは、それだった。
欠けたピースがはまるかのように、ポケモンはノボリの姿を見つけ甘えるように近付く。外見は美しいが、内面は恐ろしいゴーストタイプのポケモン。しかし、このポケモンは襲うこともせず、ノボリをまるで"長年連れ添ったパートナー"のような瞳で見ている。
思わずノボリは目の前のポケモンに手を差し伸べる。ポケモンはそれに応えるかのように、彼の掌に優しく腕を置いた。
------------------------
『今日も非常にブラボーなバトルをありがとうございます!流石わたくしのパートナーでございますね!』
『ああ、そんなに悲しそうな顔をして…。わたくしは大丈夫ですよ。ゲリラ豪雨にタイミング悪く当たってしまっただけです。心配なさらないでください』
『わたくしが邁進できているのも、全てはあなた達のお陰なのです。さあ、疲れた身体はゆっくり休むに限ります。ご無理をなさらずに、お休みなさいまし』
『しゃん』
『おや?どうかしたのですか―――――。……ふふ、あなたは甘えん坊さんですね。こちらにいらっしゃい。ここからは星が…とても綺麗に見えるのです。――――に負けないくらい、輝きに満ちた夜空が…』
------------------------
「……ぁ……!」
靄がかかっていた箇所が一気に晴れていく。
わたくしは。わたくしは。
なんて愚かだったのでしょう。
大切なパートナーであるあなたを長年忘れてしまっていた、だなんて。
『シャン、デラ……!』
ノボリは目の前で優しく微笑むポケモンの名を、呼んだ。
彼の口から零れたポケモンの名前。それを呼ばれ、嬉しそうにシャンデラはひと鳴きした。
「ノボリさん、大丈夫ですか?」
「お気に…なさらないで……」
「でも、ノボリさん…泣いてるよ?」
「…………」
テルに指摘され、ノボリは思わず自分の頬に手を当てた。
濡れている。今まで彼女のことを思い出せなかったことの懺悔。思い出せたことの喜び。やっと会えたことの嬉しさ。今まで寂しい思いをさせてきたことへの後悔。自覚した瞬間、ノボリの瞳から溢れる涙は留まることなく再び流れ始めた。
「シャンデラ……シャン、デラっ……!わたくしは忘れていたのに…あなたは…あなたは…。わたくしのことを、覚えていてくださったのですね…!
ごめんなさいっ…ごめんなさい…!……あぁ……ぁ、ぁぁ……うぁぁ…ぁ……!!」
「でらっしゃん!」
今まで忘れていてごめんなさい、覚えていてくれてありがとう、とノボリは泣き崩れた。彼女との思い出、そして蘇った一部の記憶が濁流のようにノボリの頭に流れ込んでくる。様々な思いが交差し、ノボリは泣くことしかできなかった。思いを吐き出す方法が、今はそれしか思いつかなかったからだ。
そんな彼を、シャンデラはあやすように優しく抱きしめたのだった。
ノボリを隠すようにショウは立ち、自分の考えは合っていたのだと安堵した。シャンデラがヴィルヘルムに誰かを重ね合わせていたように見えたこと。恐らく、強いトレーナーのポケモンであったということ。そして、ボールの中のシャンデラがノボリを見た途端にガタガタとポーチの中で暴れ始めたこと。
その全てが一本の線に繋がった。シャンデラの目的地はここにあった。
「やっぱり、ノボリさんの子だったんだ…。良かったねシャンデラ、ノボリさん!」
ショウの背後ではなんだ、なんだとコトブキムラの人間が野次馬を作り始めていた。訓練場の強者として君臨しているノボリの感情の吐露。こんな姿を見せてしまったが最後、笑いの格好の的にされてしまうということは目に見えていた。
テルとラベン博士が必死に野次馬を鎮めているのを感じ取り、ショウもそれに混ざったのだった。
―――夕方。野次馬も次第に収まり、一同は一旦訓練場の方へと避難することにした。見たことのないポケモンの報告はテルとラベン博士に任せ、ショウは泣き止まないノボリを介抱する選択を取った。
ノボリが話してくれたことが正しければ、2桁の年も離れ離れだったのだ。やっと会えた。その事実がどんなに喜ばしいことであるかは、部外者であるショウでも痛いくらいによく分かる。
夕日が沈むか沈まないかといった頃、ノボリはやっと泣き止みショウに改めて詫びを入れたのだった。
「お見苦しいところをお見せいたしました」
「いいえ!私はノボリさんとシャンデラが再会してくれて良かったと思っていますから!だって…長い間離れ離れだったんですもん。泣くのは当然ですよ」
「そう、言ってくださるのですね。ショウさまは本当に優しいお方です」
「誰だってそう言うと思いますけどね?ね、シャンデラ」
「でらっしゃん!」
意見を求めるようにショウがシャンデラに同意を促すと、彼女は元気よくひと鳴きした。シャンデラだってずっとずっとノボリに会いたくて、ヴィルヘルムに言わせれば"衰弱していた"くらいに探し回っていたのだ。見苦しいなんて見当違いにも程がある。
落ち着きを取り戻したノボリを見て、ショウはふと疑問が浮かぶ。まだ時空の裂け目が閉じていない頃、洞窟の中で自分の気持ちを話してくれたあの時。確か、その時もノボリはシャンデラと、弟であるクダリの話をしてくれたはずだ。その時はまだシャンデラのことをはっきりと思い出していなかった筈だ。ならば、何故今なのか。
ショウは勇気を出して聞いてみることにした。
「あの、ノボリさん。それにしても、どうしてこの子がシャンデラだって分かったんですか?洞窟を一緒に歩いていた時は…多分この子のことだったと思うんですけど…。名前を覚えていなかったのに…」
「わたくしも、シャンデラがわたくしの手に触れてくださるその瞬間までは…彼女のことを思い出すことが出来ませんでした。彼女が、シャンデラがわたくしの記憶を呼び覚ましてくださったのです。
きっと…"双子の弟"だと仰っていたクダリさまを見ても何も思い出せなかったのは…。わたくしとあのクダリさまが、違うレールを走っているから。わたくしはそう思っております」
「つまり、この子は正真正銘ノボリさんのパートナーのシャンデラ、ってことでいいんですよね?」
「はい。間違いなく。わたくしを支え、共に邁進してくださる大事なパートナーでございます」
シャンデラに直接触れられたから記憶が呼び起された、とノボリは言った。確かに、ショウは彼の弟だと名乗るクダリに帰る直前に会っている。しかし、クダリを見てもノボリの記憶が蘇ることはなかった。
だからこそ、このシャンデラは正真正銘自分のポケモンだと、ノボリは確信を持って告げた。
粗方話し終えた矢先だった。訓練場へとかけてくる4つの足音があった。音の方向に顔を向けてみると、そこには息を切らしたカイと2人に向かって挨拶をするセキの姿があった。
「セキさん?!カイさん?!」
「はぁ…はぁ…。やっと着いた…。ねえ!ノボリさんが記憶取り戻したって本当?!」
「一部だけではございますが…。大事なパートナーのポケモンの記憶を取り戻すことが叶いました」
「そっかぁ…そっかぁ…良かったぁ…!」
「え、なんでカイさんが泣いてるの?」
「そりゃあ長としてノボリさんのこと心配してたに決まってんだろ。カイが産まれる前から記憶喪失だったってんなら、やっと思い出せて、しかも大事な相棒と再会できた。泣かない理由がないだろ」
「うん…。うん…。だって、ノボリさんずっと思い出さないまま死ぬんじゃないかって…わたし心のどこかで思ってて…!でも、良かった。本当に良かった…!」
「こいつがノボリさんの相棒…シャンデラっていうんだか。怖そうだなぁ」
号泣するカイの隣で、セキは興味深そうにシャンデラを見た。見慣れない人間に見つめられたのか、思わずシャンデラはセキに威嚇をする。シャンデラもゴーストタイプのポケモン。大事な存在であるノボリや助けてくれたショウではない人間に敵意を抱くのも無理な話ではない。
そんな彼女の行動に、セキはひゅっと息を呑む。ノボリはシャンデラを優しく撫で、制止をかけた。
「おやめなさいシャンデラ。あなたは本来はヒスイ地方に存在しないポケモンなのです。更に付け加えるならば…この時代のゴーストタイプのポケモンは皆狂暴です。誰でも初対面ではそう思うものですよ」
「しゃん」
「ははっ。でも、ノボリさんの相棒だってんなら安心できるな!いつか訓練で腕比べする時もあるかもしれないなぁ」
「それに、よく見なくても丸くてとても可愛らしいデザインだ!わたしも撫でていい?」
「わたくしは構いませんが…。よろしいですか、シャンデラ?」
「でらっしゃん♪」
ノボリが2人は敵ではないことを説明する。カイが撫でてみたいと名乗り出ると、シャンデラは快く身体を近付けてきた。そんな微笑ましい様子を見て、ノボリも思わず口角が少し上がったのだった。
彼の記憶が一部だけだが戻った。ならば、あの時代に迷い込んだのは間違いではなかったということの証明にもなる。あの2人が言っていたように、いつかは自分の記憶も取り戻せる時が来るかもしれない。
その時は。ノボリと、シャンデラと一緒に。自分達の帰るべき場所に帰る。ショウは改めてそう心の中で誓った。
「この調子で記憶を取り戻していけば…絶対に一緒に帰れますよ。私はそう信じています!」
「ショウさま。わたくしも、互いに記憶を取り戻すことを望んでいます。ショウさまが失った記憶が蘇るその時まで……。わたくしも、どこまでもお供いたしますよ」
「えへへ。なんだかノボリさん執事みたい」
「執事…。はて、わたくし過去にそういう経験をしたことがあるような…」
「無理に思い出さなくていいです!ゆっくり…思い出していきましょう!」
「……はい」
ノボリとショウは互いにそんなことを語り合い、笑みを浮かべたのだった。
こうしてヒスイ地方を巻き込んだ一つの事件はまた、幕を下ろすのだった。
Ep.02s-4 【記憶はたゆたい 時をいざなう】 END.
- 次回予告 ( No.112 )
- 日時: 2022/05/13 23:35
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
―――ダイヤモンドシティでのゲーム大会が終了してから2週間が経過した。
ノボリとクダリも城下町での生活にも慣れ、ネズやマリィとも少しずつ距離を縮めている。そんな矢先、彼らとは全く関係のない別の場所で"何か"が動き出そうとしていた。
リレイン王国の南に点在している国。名前を"キノコ王国"という。直近のゲーム大会でもマリィと優勝争いを繰り広げたスーパースター、マリオが暮らしている国だ。国民の大半がキノピオ属だが、それ故に穏やかな気候と平和が続く、自然豊かな土地が続く王国である。
ピーチ城を囲むように城下町であるキノピオタウンが連なっている。ちなみに、ジンベエも元々はこの王国出身で、商人として世界を転々としていた過去を持つ。
そんなピーチ城へ走る一台の車。赤と緑の双子、マリオとルイージ。車に乗車していたのは紛れもない2人だった。
どうやらピーチから呼び出しを受けたらしく、2人の足はどことなく急いでいるもののように見える。車を門の近くに駐車させてもらい早速城の大広間の扉を開くと、そこにはピーチともう1人、活発な印象の黄色いドレスを纏った女性―――"デイジー"の姿があった。
「ピーチ姫。どうしたの?急に呼び出しなんて」
「今朝急にキノピオが家に飛んで来たからボク達びっくりしちゃってさ。まさかまたクッパがピーチ姫を攫ったんじゃないかって」
「そうであれば、わたくしはのんびりお城で待っておりませんわよ?紛れもないわたくしからの依頼ですわ」
「てか、もしピーチ姫が攫われてたらアタシだって一緒に攫われてると思うのよね!もうちょっと考えて物を話しなさいよ、ルイージ!」
「な、なんでボクだけ…?」
「うふふ。話が脱線してしまってはいけませんわ。さぁ、お茶でも飲みながら本題を話し合いましょう。キノピオ、すぐにお茶とお菓子を持ってきていらっしゃい!」
「はいっ!」
ピーチの命令で、待機していたキノピオがせかせかと動き始めた。マリオ達はピーチ姫に案内され、テーブルのある中庭へと移動を始めた。季節は春から夏へと移ろう間。庭園に咲き誇る花も、季節の移ろいを表すように変化を見せていた。
4人が椅子に座ったと同時に、大きなお盆を持ってきたキノピオ達が到着し、支給を始めた。今日は果実入りのティーとバウムクーヘンか。恐らくお菓子はピーチの手作りだろう。思わず、キノコ王国の双子の喉がごくりと鳴る。
マリオがバウムクーヘンに手を付け始めたのと同時に、ピーチは本題を口にし始めた。
「実は…今朝、ドルピックタウンからお手紙をいただいたの」
「ドルピックタウン?なんだってそんなところから」
「口で説明するのは難しい…。ですから、2人もお手紙を一緒に見てくださらない?」
「勿論だよ!何が書いてあるの?」
どうやらピーチ城に今朝、ドルピックタウンから手紙が届いたらしい。常夏を表すような街からどうしてキノコ王国等に連絡が来るのだろう。4人は不思議に思っていた。
詳しくは手紙の内容を見てほしい、とピーチはマリオとルイージに貰った手紙の中身を見せる。そこには、こんなことが書いてあった。
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拝啓 ピーチ様
立夏の候、風薫る季節となりました。今日はいかがお過ごしでしょうか。
近日、ドルピックタウンとリレイン王国との協力連携の交渉が行われる予定です。しかし、町長が未だ王国に懐疑的な目を向けています。リレイン王国は徐々に再起も進んでおり、新たな文化も取り入れ素晴らしい国に発展を遂げていると風の噂で聞いております。しかし、いくら説得をしても町長は懐疑的な目を止めることはありませんでした。
ですので、どうか交渉の場にピーチ様もお越しいただき、仲介の場を設けてはいただけませんでしょうか。
以上、よろしくお願いいたします。
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―――手紙の内容をかいつまむと、どうやら直近でドルピックタウンとリレイン王国、双方の国が協力関係になる為の会議が行われるらしい。しかし、今の町長がリレイン王国に良い気持ちを持っていない。だから、ピーチ達にドルピックタウン側の仲介を依頼したいとのことだった。
マリオとルイージはその手紙の内容を見て、首を傾げる。どうしてピーチなのかと。ゲーム大会に参加しマリィと少しでも顔を合わせたマリオとルイージならばともかく、何故無関係のピーチを巻き込むのかと。
そのことについて少し突っ込んでみると、彼女は考える素振りをした後に自分の考えを述べた。
「遠回しにマリオに協力してほしいと伝えたいのではないかしら?それに…わたくしとしても、あの王国と今のうちに協定を結んでおけば色々と有利に物事が運びますもの。幸い、ジンベエがあちらに店を構えていらっしゃいますし…」
「あぁ、そうか。ピーチ姫を介せばボク達にも話は絶対に通る。この手紙の送り主はそこまで読んでいたのか…」
「立会人、ねぇ」
マリオは字面を再びぼーっと眺めながらバウムクーヘンをまた1口ぱくりと運ぶ。ゲーム大会で触れ合っただけだが、彼らは悪い人間には見えなかった。なのにどうして昔の悪評を引き摺るのだろうか。やはり、歳をとっている者は昔の風習が中々抜けにくいのだろうか。
紙とにらめっこを続けるマリオの傍で、デイジーは若干興奮気味に"ドルピックタウンに行きたい"と言い出す。
「アタシもその王国、すっごく気になるわ!超お洒落なシンガーがいるだとか、最近では美味しいって評判のレストランも出来たって噂になってるじゃない!近々ドルピックタウンではイベントもあるし、丁度いいから4人でバカンスがてら依頼受けましょうよ!」
「マリオ。確か、貴方リレイン王国の核として支える方々と触れ合ったのでしょう?印象はどうだったのかしら?わたくし、ワリオからの言伝だけでしか彼らの情報を知りませんの」
「ん?うん、すっごくいい人だし、正義感が強くて勇気のある人たちばかりだった。外見も凄くユニークな人達ばかりで見てて飽きないよ!ボクとしても、是非もっとお話して仲良くなりたいところだね!」
「成程…。マリオがそうおっしゃるならそうなのでしょう。わたくしも、依頼を受けてみてもいいかもしれないと思っていたところでしたのよ。ありがとうマリオ」
「ボクもマリオ兄さんに賛成!」
「それでは、4人でこの依頼を受けてみましょうか。キノピオ!すぐに依頼の承諾の返事を用意してくださるかしら?」
「はい!承知いたしましたピーチ姫様!」
話し合いの結果、4人はドルピックタウンの依頼を受けることに決めた。リレイン王国という土地も非常に気になっていたのと、やはりマリオが"仲良くなりたい"と口にしていたことも気がかりだったのだ。
ピーチはすぐにキノピオに依頼を承諾する返事を書くように命じ、別にマリオとルイージにも頼みごとをすることに決めたのだった。
「さて。それでは…早速旅行の手配を始めませんと。その前に…マリオ、ルイージ。リレイン王国に一度赴いて、今お話した内容を連携してもらえないかしら?前もって知っておいた方が諸々がスムーズに進むと思いますの、わたくし」
「そういうことなら任せてよ!よーし、早速リレイン王国に出発だよルイージ!」
「ついでに城下町もちょっと覗いて行こうよ!ジンベエさんがどんなお店開いているのかも気になるしさ!」
「怪我しないでねー!」
「うふふ、いってらっしゃい♪」
見送る2人の姫を見届けながら、マリオとルイージは再び自前のカートに乗り込む。
そして、北の方向に見える中世的な城に向かって早速出発したのだった。
- 次回予告 ( No.113 )
- 日時: 2022/05/13 23:39
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
一方。リレイン王国に点在する巨大な城下町の中央にそびえ立つ議事堂では、今日も町長であるラルゴが忙しそうにせわしなく働いていた。なお、ポケモントレーナー達は本日各々の用事で全員外に出ている。いつもならばネズ辺りが議事堂に滞在して作曲をしているのだが、彼も本日に限っては外出すると朝から建物を去っていた。
議事堂の手伝いをしてくれる人達が増え、ラルゴの負担も少しずつ減っている。しかし、忙しいのに変わりはない。そんな彼の元に、軽快に歩み寄る2人の人影があった。
その正体は勿論マリオとルイージである。噂の町長に出会えたのか、2人共嬉しそうに笑顔を振り撒いた。
「まぁ!Mr.ニンテンドーと顔合わせ出来るだなんて…。今日は最高の日ね!」
「最高の誉め言葉をありがとう、町長さん!ボクもキミと会えてとっても嬉しいよ!」
「アポも無しに急に来てごめんなさい…。あ、これピーチ姫からの書状です。ラルゴ町長宛にって」
「あら、わざわざありがとう♪ コーヒー飲む?それともココアかしら?」
「いえいえ!お構いなく」
とはいいつつも、彼は電動ケトルからいつの間にかお湯を注ぎ、2人分のコーヒーを準備してしまっていた。町長室には彼の私物だろうか、年代物のコーヒーミルが置いてある。どうやらバーで使っていたものが無事だった為、部屋に持ってきて一服する際に使っているらしい。
目の前にコーヒーを出され、2人は断るわけにはいかなかった。ゆっくりと淹れたてのコーヒーを味わった後、ラルゴがピーチからの書状を見るのを眺めていた。
「成程ねぇ。確かにドルピックタウンに協定を結ぶ会議を開くように依頼はしたわ。でも、そんなことに転がってるなんて思わなかった。やはりまだあちらから信頼はされていないということなのね…」
「ドルピックタウンの町長さん、なんだかこの王国のことを毛嫌いしているみたいで…。何か言えばあることないこと言って国のことを悪く言ってるらしいよ。何とかしてこの国はいい国だって思ってほしいんだけどなぁ」
「でも、確かに一時期大帝国のせいで無人だったことは事実よ。もしかしたらそのことを擦っているのかもしれない…」
「でも、心配しないで!町と国同士がちゃんと仲良くできるように、ボク達が潤滑剤になるのをピーチ姫に頼まれたんだよ!ボクだって、こんな素敵な国を悪く言われるようなことなんて避けたいからね!」
「アナタ達が仲介人なら安心はできるけれど…。うーん。でもね?アタシ、仕事が山積みで直接交渉には向かえないのよ」
マリオ達が仲介人に入るという事実をラルゴは喜んだものの、表情はすぐに沈む。いくら町同士の交渉だと言っても、ラルゴは未だに手に余る程仕事が残っている。責任者として、街を離れるわけにはいかなかったのだ。
今も忙しい合間を縫ってマリオとルイージとの話し合いをしていることも2人には分かっていた。しかし、町同士の大事な連携である。しっかり直接話し合いをしてもらって、偏見を払拭してもらいたいとも2人は心の内に秘めていた。
「町長さん、忙しそうだもんねぇ。でも、町同士の大事な連携がかかってる会議だし…。どっちにしろ、この街に住んでいる人達は必ず呼びたいところだよね」
「そうなのよ~。でもね?前よりは随分と自分の時間が取れるようになったの。もうちょっと人が増えてくれればいいんだけど…。そんな贅沢なこと言ってられないわよね。手伝ってくれるって言ってくれてる人達がいること自体が奇跡みたいなもんなんだから、アタシが頑張らないと!」
「無理しないでね、ラルゴ町長…」
ラルゴが申し訳なさそうに返事をする中、マリオはマリィ達のことを思い出した。彼女達のことについて聞いてみると、ラルゴは普段はここの手伝いをしてもらう代わりに、議事堂を寄宿舎代わりに使って貰っていると答えた。
そこで彼は閃く。"彼らを巻き込んでしまえばいいのだ"と。マリオの瞳が輝いたのにルイージも気付き、彼がまた悪だくみをしているのだとジト目になりながら兄を見た。
「そうだ!ボク閃いちゃった!じゃあ、マリィちゃん達に会議に出てもらえばいいんだよ!」
「えっ?」
「ちょっと兄さん?!ラルゴ町長の話聞いてなかった?!彼女達はあくまでもラルゴ町長の手伝いだって……『でも、議事堂に住んでるんでしょ?だったら多少再起した後の王国のことについて知っててもおかしくはない筈さ!彼らに代理で交渉を頼めばいい!』 うーん。本当にそれでいいのかなぁ?」
「それに!ワリオとしか深く面識がないなんてずるいじゃないか!ボクの好奇心が黙っちゃいないよ!」
「始まった…マリオ兄さんの悪い癖…」
ルイージは頭を抱えラルゴに謝罪をした。そう。マリオは非常に好奇心旺盛で陽気な男なのである。気になるものはとことん調べつくさないと気が済まない性格なのであった。それは物でも人でも関係がない。自分を負かしたあの少女が関係している人々。彼はそんな"強者"と仲良くなりたいと思っていたのだ。
彼の突拍子もない言葉にラルゴも戸惑う。確かに彼らに行ってもらえばラルゴも自分の仕事が進められる。しかし、"手伝ってもらっている"立場である彼らを自分達の用事に巻き込む訳には行かなかった。
困っていたラルゴの元に、正に話をしていた"関係者"が戻ってきた。ネズが用事を終えて一足先に戻って来たのだ。どうやら護衛として大典太も一緒のようだった。
ネズは3人にまじまじと見つめられ、何事かと戸惑う。流石のシンガーでも、オフの時に注目されるのだけはご勘弁願いたかった。
「あの。おれの顔に何かついてます?」
「あっ!えーっと…ごめんね!随分と久しい顔だなあと思って」
「おれが?光世が?」
「そっちの黒髪のお兄さんの方だなぁ…。お久しぶりです、大典太さん」
「……久しいな。あんた達、ゲーム大会にもいただろう」
「うんうん、いたいた!キミ達もいたの知ってるよー!そこのツートンの子はワリオにピエロ呼ばわりされてたよね!」
「ピエロ呼ばわりはあの双子だけで充分です。……あいつの目にはおれもピエロに見えてるんですか?
それで、何を話していたんです?おれ達に頼みたいことでもあるんですか?」
「うん。実はそうなのよ。あのね?」
申し訳なさそうにしながらラルゴが事の顛末を説明する。今後の街の発展にも繋ぐ為に、港町との連携を早めに取っておきたかった彼はドルピックタウンとの協定を結ぼうと会議を依頼していた。しかし、向こうの町長が王国に悪印象を持っている為マリオ達に仲介人をドルピックタウン側から頼まれたということと、自分は仕事が忙しくて直接行けそうにないことを話した。
そこまで聞いて、大典太は考える。ラルゴの考えが少しだけ透けて見えたからだった。
「……俺達刀剣男士は別に構わんが、ネズ達を巻き込みたくないんだな。あんたは」
「アナタ達刀剣男士ちゃんも含めてよ!だって、アタシの我儘に付き合って貰っているようなものじゃない?」
「そういう考え方は非常にノイジーですね、町長。おれ達、あんたに結構良くしてもらってるの自覚してるんで。故郷を失って困っていたおれ達に手を差し伸べたのはどこの誰ですか?そうでなきゃ衣食住が整った快適な生活なんて送れてないでしょうに。
マリィだって、あの双子だって、キバナだってここにいたらおれと同じことを言うと思いますよ。言いなさいよ。代理で行ってきてほしいって」
ラルゴの言葉にネズは答えた。故郷に帰れない自分達を匿ってくれたのは誰だと。責任を持って衣食住を与えてくれたのは誰だと。彼らはその恩を返す為に街の手伝いを買って出ているのだと。大典太達と同じ考えを彼らも持っていたと、ラルゴはそこでやっと気付いた。
そして、おずおずと頭を下げながら彼は頼んだ。ドルピックタウンとリレイン王国との会議、代理で参加してくれないか、と。
その言葉にネズは静かに頷いた。自分は交渉事はあまり得意ではないが、ジムリーダー時代のノウハウを活用すれば何とかなるかもしれないと。
その答えを傍で聞いていたマリオは飛び跳ねて喜んだ。そもそも、彼女達を引き連れてバカンスがてら交渉に向かおうとしていたのは他でもない彼らだったのだから。
「ヤッフー!これでみんなで常夏の街にバカンスに行けるね!やっぱりピーチ姫はここまで見通してたのかな?だったら凄いや!」
「まあ終わり良ければ総て良しってことわざもあるし…。良かったね兄さん」
「……ん?待ってください。今"常夏の街"って言いました?」
「うん!詳しい日程が決まったらまた連絡するけど、ドルピックタウンは太陽がさんさんと降り注ぐ港町!海の幸も果物も美味しい、とっても素敵なリゾート地なんだよ!」
「…………」
「……ネズ?」
ネズはたった今答えた言葉を取り消したい衝動に一瞬駆られた。大典太が彼の表情の変貌を心配して声をかけるも、彼は取り繕うこともせず焦燥したまま動かない。
その様子を見て、大典太は"まさか"と一つの考えに至る。―――言葉を口にしようとした途端、ネズに口を掌で止められた。
「光世。おれは夏の湿気と暑さが嫌いなんです。見透かしたように口に出そうとしないでくれますか」
「…………」
「ハッハー!いやー、今から楽しみだなあ!まさかレッドくんやリーフちゃん以外のトレーナーさんと交流できる日が来るなんて!それじゃ、詳細が決まったらまた連絡するね!今日は急に来ちゃってごめんねー!今度は観光目的で来ようかなあ。それじゃまたねー!」
「急に来ちゃってごめんなさい!それじゃ、当日よろしくお願いします!」
嵐のように町長室を去っていったキノコ王国の双子の背中を見守りながら、ネズは深くため息をつく。とんでもないことを口にしてしまった、と。しかし、ラルゴが困っているのは事実。手を差し伸べた以上、ひっこめる訳にはいかなかった。
「……室内はきっと涼しいよ」
「慰めはいらねぇんですよ」
再び自分の仕事に手を付けたラルゴの邪魔をしないように、1人と一振は町長室を静かに退室した。
果たして、ひょんなことから受けてしまったラルゴからの依頼を無事完遂し、彼らはドルピックタウンとの協定を結ぶことが出来るのだろうか…。
その未来は、きっと誰にもわからない。
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