二次創作小説(新・総合)
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- 繋がる世界と未来の物語【Ep.03-ex完結】
- 日時: 2022/10/12 22:13
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
―――これは、"全てを元に戻す"物語。
それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。
どうもです、灯焔です。
新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
また、オリジナルキャラクターも登場します。
苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2
<目次>
Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17
Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37
Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53
Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67
Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89
Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130
Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148
※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54
Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111
Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151
※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108
Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163
<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150
最終更新日 2022/10/12
以上、よろしくお願いいたします。
- Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 ( No.85 )
- 日時: 2022/04/14 22:02
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
ノボリの呪詛が完全に取れてから数十分後。別々に行動していた面子も全員医務室へと入ってきた。
顔色の戻ったノボリを見て、各々反応を示す。そして、彼の起床をしばらく待つことになった。
「クダリさん。良かったね」
「うん。本当に。ノボリが生きてる。それだけで、嬉しい」
「後は彼が目覚めるのを待つだけだが…」
「ソレハ待ってみるシカアリマセン。ねずサンの時もソウデシタカラ」
雑談をしながら時間を潰すが、ノボリは一向に目覚めることはない。小一時間ほど様子を見たが、彼の様子が変わることはなかった。
ネズの時は、呪詛を取り除いてからしばらくした後に自力で目を覚ましたのだ。しかし、彼とは状況が違う。大典太は口に出すか悩んでいたが、覚悟を決めて一同に話を始めた。
「……呪詛は確実に全部取り除いた。体温も徐々にだが元通りになっているよ。だが…ネズよりも長い間邪気に蝕まれていたんだ。体力も精神力もかなり削られている。すぐに目覚められるとは思わない方がいい…」
「具体的にはどのくらいなの?」
「最低でも一晩は見たい。最悪―――二度と目覚めず、このまま眠り続ける可能性も考えなければならない」
「エッ」
「それだけ彼を蝕んでいた呪詛の力が強い、ということだろう。Mr.ネズは本当に幸い中の幸いだったのだよ」
「そう、だったんだ…。クダリさん…」
「ノボリ…」
大典太から説明を受けた一同の表情が落ち込む。だから言いたくなかったのだと大典太は眉を潜めるも、これは伝えなければならない事実。ネズとは明らかに状況が違うということだけは、必ず説明しなくてはならなかった。
医務室を沈黙が覆う。このまま二度とノボリが起きなかった場合、彼をどうするのかも考えなければならない。しばらく張り詰めた空気が漂う中―――。ラルゴが口を開いた。
「いつまでもここにいても仕方がないわ。ノボリちゃんが目覚めるのを信じて、アタシ達は今出来ることをやりましょう。一旦解散ということにしない?大勢で医務室にいても、ただ時間が過ぎ去っていくだけだわ」
「そう、ですね…」
「ノボリちゃんは意思の強い人なんでしょ?歳を取ってもそれが変わらなかった、環境が変わっても魂までは変わらなかった。それはアタシ達もよく学んだ筈よ。だから、今は彼を信じて待ちましょう。クダリちゃん。アナタはノボリちゃんの傍にいてあげて?」
「うん」
ラルゴの言葉を皮切りに、1人、また1人と医務室から姿を消していく。確かにいつまでも医務室を大勢が占拠するわけにも行かなかった。今は彼が目覚めるのを信じて、自分達にやれることをやっていくしかないのだ。
クダリ、ネズ、マリィと眠るノボリを残し医務室はしんとした空気を取り戻す。マリィの様子がおかしいことにネズはすぐに気付き、マリィに優しく語りかける。
「マリィ。どうかしたのですか」
「ごめんアニキ。シュートスタジアムでアニキが倒れてたこと…思い出しちゃって。ノボリさんが一番苦しいのは分かってるのに…。怖くて」
「そうですか…。おれはここにいますよ。ノボリもきっと起きます。部屋まで送りますよ」
「うん。そうしてほしいと」
「ということで…クダリ。すみませんがおれも失礼します」
「ネズさんの判断は正しい。一緒にいるの、すっごく大事」
「また様子見に来るんで。それじゃあ」
震えが止まらないというマリィを落ち着かせる為に、ネズも彼女と一緒に医務室を出た。眠り続けるノボリと共に医務室に残ったクダリは、静かに傍にある椅子に座る。そして、ノボリの手を再び握った。
自分の体温が伝わって、ノボリが起きたりしないかな。そんな淡い希望を胸に抱いて、彼の起床をひたすら待ち続けるのだった。
―――リレイン王国には夜が訪れていた。具体的に時間を言えば、夜中の1時頃だろうか。
クダリはあの後医務室にずっと1人でいた。ノボリが目覚めるのを待っていたが、その間彼が目を覚ますことはなかった。
しばらく時間が経って気持ちが落ち着いたのか、マリィがクダリの分の夕食も持ってきて、一緒に食べた。どうやら2人共双子のことを本当に心配してくれているようで、ネズがわざわざ手軽に食べられるもの、とサンドイッチを作ってマリィに持たせたのだ。
ノボリ以外の手料理を食べたのはいつぶりだろうか、とふとクダリは思想にふける。ここ最近はライモンシティの行事が立て続けに起こり、ギアステーションも本当に忙しかった。やっと訪れた休みで、久しぶりにノボリの手料理を一緒に食べたのだ。やはり手作りはあったかいな、とクダリは改めて思っていた。
しかし、恐怖心は収まらなかった。本来ならば泣き疲れている彼も眠りにつかなければならないのだが、一睡も出来なかった。自分が眠っている間に、ノボリが死んでしまったらと思ったら眠るに眠れなかったのだ。
ノボリの手を握り、目が覚めるのを待つ。そんな彼の元に、扉を3回ノックする音が聞こえてきた。"入りますよ"という低い声と共に、白と黒の派手な髪の毛の青年が入ってくる。ネズだった。
彼はクダリに向かって小さく会釈をした後、椅子を持ってきてクダリの隣に置く。そして、静かに座ったのだった。
「様子を見に来ました。まだ起きそうにないみたいですね」
「ノボリ、寝たまんま。起きない」
「最低でも一晩、でしたよね。もう少し様子を見てもいいとは思いますが…。あんたが早く起きてほしいと思う気持ちは痛い程に分かります」
「マリィちゃんはどうしたの。大丈夫なの」
「妹ならば大丈夫ですよ。今は部屋で寝ています。あの子は自立していますし、しっかり者です。ちゃんと立ち直りましたよ」
「そっか。なら、良かった」
ぽつり、ぽつりと会話の羅列が続く。このまま一人で夜明けを待つのは怖かった。だから、正直にネズが来てくれて嬉しいと気持ちを伝えた。その言葉に彼は"おれも眠れなかったんで"と言葉を濁しているが、彼らを心配して様子を見に来たのは事実。その行動が本当に嬉しかったのだ。
―――ふと、クダリはネズに吐き出すようにこう呟く。あの時、ノボリは自分を庇ったことを。だからこそ、彼は死の淵までに追いやられたのだと。クダリは責任を感じていた。
「電車にいたあの時。ノボリ、ぼくのこと庇った。だから死にそうになった。ぼくのせい」
「それは違いますよ。おれも兄だからね。ノボリの気持ちは不思議と分かっちまうんですよ。兄弟のことをとても大事にしています。そうでなきゃ庇うなんて行動取れないでしょうに。
下の兄弟が危ない目に遭いそうな時―――自然と身体が動いちまうんです。危険な目には遭わせたくねぇって」
「…………」
「おれだって、もしマリィがあんたと同じような状況に陥ったら…真っ先にマリィを庇いに行きますよ。兄弟が苦しい思いをしているのを見るのが、一番嫌なんです。
まぁ…信用が置ける奴だったら、おれはマリィ以外でも庇ったのかもしれませんが」
「そんなこと望んでないのに。それで死んじゃったら意味ない」
身勝手だ、とクダリは思った。狙われるのは運命だ、自己責任だ。それに勝手に介入するなと。エゴだと。そう思いたかったが、庇われたからこそ自分が元気でいられるのも事実だった。だから、クダリは複雑だった。
もしノボリが庇わなかったとしたら、確実にクダリがノボリのような目に遭っていた。ノボリも恐らく自分と同じように、助けを求めていたのだろう。だが、残される側が同じように辛い気持ちになるのも、クダリは痛い程に感じていた。
「残される人達の事、考えてない。身勝手。酷い」
「酷いよね。でも…兄ってそういうもんなんです。血を分けた兄弟―――特にあんた達は双子だ。なら猶更…生きていてほしいと願うとおれは思うんですよ。だから行動に出来る。ノボリも…きっと、そう答えると思います」
ネズの言葉を聞き、クダリはノボリの手を再びぎゅ、と強く握り直す。彼が自分に気付いてくれますようにという、願いと祈りがこもっていた。
このままノボリの話をしても気が沈むだけだと、クダリはサンドイッチの礼を改めてした。そして、マリィについての感想も口にした。
「サンドイッチ、ありがとう。美味しかった」
「そうですか。喜んでいただけて何よりですよ。あれ、マリィの好物を具材に入れたんですよ。あんたの口に合うかどうかまでは考えてませんでしたね」
「それ当然。だって、ぼく達お互いのことをよく知らない。でも昔、助けたあの子なのは知ってる」
「……覚えててくれたんですね」
「すっごくバトルが強い子。忘れるわけない。見た目はとっても変わっててびっくりしたけど。根っこがなにも変わってなかった。だからぼく、安心した。マリィちゃんも、いい子だね」
「でしょう?自慢の妹です。だからこそ…守りたいんですよ。ノボリがクダリを守りたいというのと同じようにね」
ネズがそう言い終えたと同時に、握っていたノボリの指がぴくりと動いたのをクダリは感じた。思わずクダリがノボリを顔を見ると、彼の瞳が動き始めているのが分かった。
目覚めそうだと2人は判断した。クダリの祈りが届いたのだろうか。いや、そんなことは今はどうでもいい。今はただ、彼が目覚めるのをこの目で確認したかった。
―――しばらく様子を見ていると……閉じられていたノボリの眼が、ゆっくりと開けられるのが分かった。そして、その瞳はクダリを真っすぐ射貫く。
「……こ、こは…?」
確認するよりも前に背中に暖かい感触があった。クダリがノボリに抱き着いたからだった。ひっく、ひっくと泣いている声が耳に入ってくる。自分がどういう目に遭っていたのかは分からなかったが、クダリを悲しませたことだけは理解した。ノボリは、力の入らない腕をクダリの背中に回した。そして、あやすようによしよしと撫でた。
「くだ……り?クダリ、なの、ですか……?」
「ノボリ。ノボリ。ぼくだよ、クダリ。ノボリ…!」
「くだ、り…。よか、った……無事、で……。ほんと、うに……」
この期に及んで自分よりも弟の無事を言うか。ノボリの方がもっと酷い目に遭っていたのにとクダリは思った。彼は素直にその思いを言葉にしてぶつけた。泣いているのか怒っているのか。自分でも判断は出来なかったが、どうしても彼に伝えたかった。
自分自身に興味がとんでもなく薄いのは、ノボリの悪いところだ。クダリはそう思っていた。
「ノボリ、死にかけてた。なんで自分の心配しないの」
「クダリが、無事…ならば……わたくし、それだけで、安心でき、るのです……」
「もっと自分に興味持って。今それ言える立場じゃない。ノボリ」
もっと自分の心配をしろとクダリは怒った。その様子を見て、もう大丈夫だと判断したネズは立ち上がる。そして、再び医務室の扉の方に歩いて行った。
部屋を立ち去る前に、背中越しにクダリに彼は伝えた。
「医務室のベッドは自由に使っていいそうです。だから、寝なさいよ。クダリ」
「ぼく、大丈夫。夜勤慣れてる」
「そういう問題じゃないですし、何が大丈夫なもんですか。今まで泣きっぱなし、泣き疲れて目が酷いことになっていますよ。ノボリも病み上がりですし…諸々は早朝に連絡します。今は夜中ですし、他の連中を起こすのも忍びないんで。おれ戻ります。
2人共さっさと寝やがれ。寝不足で諸々の事情を説明できなかったら話になりませんよ」
「そこまで言うなら。そうする」
「心の整理も色々したいでしょうし、まずは寝て気持ちをリセットしやがれ。それじゃ、おやすみなさい」
それだけ伝えると、そのままネズは医務室を後にしてしまった。扉が静かに閉まる音だけが双子の耳に入ってくる。それと同時に、クダリはノボリから離れて椅子に再び座った。
気だるい身体を起こし、ノボリはクダリを見やる。今までずっと泣きはらしていたのか、確かに目は充血しており腫れていた。自分をそれだけ心配していたということが、痛い程に伝わった。
「お母さんに怒られたみたい。叱られたのも、久しぶり」
「……そうで、ございますね…。ですが、こんなに、目が腫れて……。辛かった、でしょうに」
「ノボリの方が大変だった。それに比べれば、ぼくは全然軽い。超軽い」
「……気張らなくても、いいのですよ?それに…わたくし、眠い…。今は眠りたい、気分なのです……」
「じゃあぼくも頑張って寝る」
ノボリが"眠りたい"と言ったのを確認した後に、クダリは隣の空いているベッドに移動をした。しわにならないようにコートをフックにかけ、帽子を机に置いて布団を被る。スラックスとシャツは仕方がない。兄が無事であったことの安心感が疲れを引き寄せたのか、クダリは急に眠くなった。
「なんだか、ぼくも眠いや」
「……おやすみ、なさい……クダリ」
「おやすみ、ノボリ。良い夢見られるといいね」
「はい。ほんとう、に……」
その言葉を最後に、双子の安らかな寝息が聞こえてきた。お互いに疲れ果てたのか、同時に意識を失うように眠りについたのだった。
- Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 ( No.86 )
- 日時: 2022/04/15 22:10
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
『大―――す―、ノボリさん。――子―――緒―……―――帰――――す―!』
『―――、わ―――――る―――……』
……夢?夢を、見ているのだろうか。しかし、目の前の光景はその言葉で片付けるにはあまりにも現実的で。
記憶を辿ってみても、こんな経験をした記憶は無い。だが、頭の中に流れ込んでくる。"知識"として。"経験"として。
『―――の、――――が――――るに決ま――――!ノボリさん――る―――、絶――――――!―か―…―――――――で―…。私―――――る―――選――、――――さ―――いけ――――――。―はノボリさんと――に――――――――ら…!』
目の前の少女が何を言っているのかが分からない。何かを訴えかけているのは理解が出来た。だが、それ以上を彼は理解することが出来なかった。
……掠れていく。少女が。必死に何かを訴えてくる少女の姿が。霞んでいく。
「……ぁ……」
ゆっくりと開かれた瞳に最初に入って来たのは、窓から差し込む朝日だった。目覚めた夜、クダリと再会を分かち合いそのまま寝てしまった筈だった。思った以上にすっきりとした気分だ。まるで、憑き物が取れたような。
身体を起こし隣を見てみると、同じタイミングで目を覚ましたであろうクダリがこちらを見ている。顔を見合わせた彼は"おはよう"と言った。その笑顔に―――男も。ノボリも"おはようございます"と返した。
「おはようノボリ」
「おはようございます、クダリ」
「体調は?」
「お陰さまで、大分調子も戻って参りました。体力も動けるまでに回復いたしました」
「そっか。良かった。本当に」
「ご心配をおかけして…本当に申し訳ありませんでした、クダリ」
「なんで謝るの。ノボリは悪くない」
「ですが…。あんなに泣きはらすまでに追い詰めていた一因はわたくしにもあるのです。気持ちの問題でございます。言い切らせてくださいまし」
「ノボリが止めても止まらないの、ぼくが一番知ってる。でも、謝るのはこれでおしまい。ぼくはそう望んでる」
「先程の一言に全ての気持ちを込めました。ですから、もう言いませんよ」
ノボリの顔色も元に戻り、嬉しそうに会話をしているその表情を見てクダリも嬉しそうに笑った。
その後、しばらく談笑を続けているとノックも無しにガラリと扉が開け放たれた。こんな開け方をするのは"ネズではない"ことを双子は理解した。
扉の方向を見てみると、鬼丸が2人を見て腕を組んで立っていた。そのままずかずかと医務室に入ってくる。
「邪魔するぞ。気分はどうだ」
「会話が出来るまでに回復いたしました。本当にありがとうございます」
「そうか。話は全部身内から聞いている。色々聞きたいことがあるそうだ。ついてこい」
ノボリが首を傾げていると、クダリは腰に携えてる刀から"大典太の身内だろう"ということを悟る。そして、ノボリを助けてくれた人達だと説明をした。彼から説明を受けたノボリは素直に受け入れ、鬼丸にすぐに準備をするから少し待っていて欲しいことを告げた。
その言葉を受け、鬼丸は無言で医務室を出る。大方扉のすぐ横で待っているのだろう。双子は顔を見合わせ、一匹狼なのかと小さな声で語り合った。
コートを着たまま寝かせられていた為、ノボリはベッドから出たと同時にコートの裾を引っ張る。幸い、しわになってはいなかった。ポケモンの技にも耐えられる頑丈なコートで良かったと今一度彼は思った。クダリがフックにかけていたコートを着たのを確認した後、双子は鬼丸の後をついて行った。
鬼丸と双子がエントランスに顔を出すと、議事堂に滞在しているメンバー全員とアシッドが揃って彼らを待っていた。なお、それ以外の人物は各々の用事を済ませに帰宅している。
ネズは元気そうな双子の様子を確認し、ふわりと笑った。なんだかんだ言って、昨日夜中にわざわざ訪ねてきた程に心配していたのだ。安心感もひとしおなのだろう。
「うん。無事に体調が戻ったようで何よりですよ」
「ノボリもぼくもすっごく元気。昨日はありがとう、ネズさん」
「大したことはしていません。元気なら何よりです」
「……それで。そこの黒い車掌…"ノボリ"と言ったな。あんたの身に起こった事を説明したいんだが…。大丈夫か?」
「はい。わたくしがノボリでございます。わたくしも、何故ここで眠っていたのか…。あの鉄道員の偽物に襲われてからの記憶が無いのです。もしわたくしに関することで、知っていることがありましたら是非!教えていただきたく存じ上げます」
ノボリも自分の身に何が起こったのかを知りたがっていた。この調子からして、クダリは何も話していない。寧ろ彼に説明を投げる訳にはいかないと大典太は考えていた為、それに関しては一旦安堵のため息をついた。
そして、彼の身に起こっていたことを説明した。"時の狭間"という場所から、身体に呪詛を宿した状態でリレイン城下町に降って来たということ。もし議事堂に来るのが少しでも遅れていたら、もしかしたらノボリの命は無かったかもしれないということを。
彼は大典太の言葉を一言一言噛みしめ、ここにいる皆の協力で自分の命が繋がっているのだということを改めて認識した。そして、深々と頭を下げたのだった。
「そう、だったのですね…。大変ご迷惑をおかけいたしました。そして…ありがとうございます。わたくしの命を救ってくださったことの御恩は決して忘れません」
「ノボリを助けてくれてありがとう。ぼく、すっごい感謝してる!」
ノボリに合わせてクダリも同じ角度で頭を下げる。それは、さながら同じ人間が2人いるかのような動きだった。
彼らが頭を下げたのと同時に、ラルゴが口を開く。彼は双子に謝ってほしくは無かったのだった。
「2人共頭を上げてちょうだい?結果的にだけど、"終わり良ければ総て良し"よ!」
「素晴らしいニポン語デス!」
「ですが、あなたさま方には感謝してもしきれません。我々、何かお礼をしたいのですが…」
「いいのよ!ノボリちゃんが無事に助かって、双子も再会できた。今はそれを喜びましょう!」
「それじゃ気持ちが治まらない。どうしたらいい?」
「急に言われても困るね…」
「……そうです。あの…不束ではございますが、わたくしの話を聞いてはいただけませんか?」
「構いませんよ。どうかしたのでしょうか?」
「わたくしが、意識を失っていた間に見た―――"夢"の話にございます」
「……夢?それは鬼丸の専門分野だな」
「何故おれに振る」
「……あんた、他人の夢に干渉が出来るじゃないか。ノボリが困ってるなら助けてあげればいいんじゃないか?」
「何故おれが」
「まぁまぁ。話だけでも聞いてあげましょうよ鬼丸殿!」
ふと、ノボリは"自分の見た夢について話を聞いてほしい"と一同に頼んできた。どうやら夢の中の出来事で、どうにも引っかかることがあるらしい。それならば、と大典太は鬼丸を改めて紹介する。彼は不服そうに顔を歪めたが、夢に関することであれば鬼丸の専売特許。話を聞いて、もし悩みがあれば解決できることもあるのではないかと大典太は考えていた。
周りに説得され、鬼丸も渋々話を聞く態勢を取る。ノボリは一言感謝を述べた後、夢について話し始めた。
「意識を失っている間―――。わたくしは、遠い昔の見知らぬ土地で過ごす夢を見ておりました。具体的に言えば…約150年程前でしょうか。名を、"ヒスイ地方"。夢の中で出会ったとある方が口にしていた言葉でございます」
「ヒスイ地方…?!」
「夢の中のわたくしは、今ここに立っている時よりも随分と年老いているように感じられました。サブウェイマスターのコートもボロボロでして、鏡を見れば顎には髭を携え…。しかし、何故だかその現状を受け入れられたのです。
……夢なのに、夢ではない。まるで現実に起きたことのように、自然に行動が出来たのでございます」
「それって」
「クダリ、黙ってた方がいいです。ここで話をしてしまえば、ノボリに悪影響が出ます」
「うん」
「文化も、わたくしの知るものとは随分と違いました。ポケモンに関する知識も…。見るもの、触れるもの全てがわたくしの常識が通用しなかったのです」
一同はノボリの言葉に驚いた。彼が"夢"として見ていたものが、門からヒスイ地方に帰って行ったあのノボリが話していたことと一致したからだった。しかし、サブウェイマスターのノボリとキャプテンのノボリは"平行世界の同一人物"である。だからこそ、ノボリはこのリレイン城下町に姿を現さなかったのだから。
では、何故彼は"夢"としてヒスイ地方の知識や経験を覚えているのか。そこが問題だった。彼に悟られないように、キバナとネズは耳打ちをする。
「クダリが言いかけてたけど…。黙ってた方がいいよな、これ」
「タイムパラドックスなんて起きちまったが最後、折角助けられたのに目の前でノボリに消えられたらこっちだって困るんですよ。だからクダリを口止めしたんです」
「うーん…。夢は夢だって話した方が良いのかな?」
「夢に関する専門家がこの場にいるみたいですし?おれ達は見守ってた方が良さそうですね」
「りょーかい。ま、オレさまもクダリの様子見とくよ。止めたとはいえうずうずしてんの伝わってくる」
「お願いします。このままだと話しちまいかねません」
ネズとキバナがひそひそ話をしている傍ら、話を聞いていた鬼丸とアシッドは頭を悩ませていた。鬼丸は大典太からの言伝だけなのだが、あまりにも彼が話す"夢の内容"が具体的過ぎたのだ。
アシッドもそれには引っかかっていたようで、あのノボリが現代に一度現れてしまったせいで、彼にも影響が出た可能性を示唆していた。
「あの…。申し訳ございません。こんな難しい話をしてしまって…」
「いや。夢の内容をはっきりと覚えている連中も、過去にはおれも会ったことがある。だが…おまえみたいに鮮明なのは稀なんだ。だから、原因は何か考えていた。気にするな」
「ふむ…もしかすると…。
(過去に送り返したMr.ノボリと彼との間で不思議な縁が繋がってしまったのかもしれないな)」
「なんだ。分かったのか」
「君には後で個別に連絡しよう。軽々と口に出来る推論ではないものでね」
「そうか」
「黒の車掌。おまえの夢についてはおれが原因を探ってやる。だから、そう落ち込むな。……それに、おまえがそれだけ鮮明に夢について記憶していたんだとしたら…。おれも夢への干渉が出来るかもしれんからな」
「そうでございますか。何から何までありがとうございます…!」
「良かったね、ノボリ」
遂に鬼丸はノボリを助ける決断を下した。彼は表向きは突き放す言動や行動が多いが、何だかんだ人間の感情を受けやすい刀だった。それ故、今回のノボリに起きた件について何か思うことがあったのだろう。傍で彼を見ていた大典太は、心の中で勝手にそう判断した。
原因を探ってくれると答えが返ってきた為、ノボリは嬉しそうに目を緩めた。このノボリは、ヒスイのノボリ以上に表情を変えない。故に、目を見なければ彼の表情が読み取りづらかった。クダリはノボリが安堵の表情を浮かべたことに対し、笑顔で応えた。
「……無事に帰れたかな。あの2人」
「大丈夫ですよ。2人共、後ろを向かずに迷わずに歩いていたんですから。無事に目的地に辿り着くとおれは信じています」
「うん。アニキが言うなら…あたしも信じるよ」
アシッド達と話をしている間、ぽつりとマリィは不安を漏らす。
そんな彼女の不安を払拭するように、ネズは"大丈夫だ"と答えた。スパイクタウンが寂れている時に使っている"大丈夫"ではなく、心から確信していると彼女には感じられた。
兄の表情を見て、マリィも帰って行った2人を信じることに決めたのだった。
- Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 ( No.87 )
- 日時: 2022/04/16 22:06
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
「そういえば…ノボリちゃんはこうして見つかった訳だけど…。トウコちゃんとメイちゃんに関してはどうするの?」
「……そうだな。俺も今考えていたところだ」
ある程度話が纏まったところで、ラルゴが気にしていた話題を口にした。大典太もそのことについて考えていたようで、改めて双子に顔を向ける。
ノボリは首を傾げていたが、クダリが思い出したように彼に話した。
「ぼくがこの人達に頼んだ。ノボリとメイ、トウコを探してほしいって」
「なんと!そうだったのでございますね」
「うん。ぼくもこの街で目を覚まして。ひとりぼっちだったから。それに、電車の中であんなことになった。早く探さなきゃって気持ちが逸った」
「わたくしは早々に意識を失ってしまいました故、トウコさまもメイさまもどうなってしまわれたのか…詳細を把握することは出来ませんでした。
あの…。不躾なことをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「……不躾?何だ」
「わたくしからもお願いいたします。トウコさまと、メイさまの捜索…。続行してはいただけませんでしょうか?」
「ノボリ…」
ノボリはそう言って再び頭を下げる。トウコもメイも行方不明だということは今初めて知ったのだが、クダリが2人の捜索を頼んでいるなら続けてほしい、と彼は速攻で判断した。
クダリも彼に合わせて再び頭を下げる。それ程までにトウコとメイは、彼らにとってかけがえのない存在だった。
「わたくしが口を出せるような立場ではないのは承知しております。しかし…トウコさまもメイさまも、イッシュ地方にはかけがえのない存在でございます。いなければならないお方なのです」
「ぼくからもお願い。メイとトウコ、探して!」
「……端から続けるつもりだったが。それに…俺もあんたの言った言葉に引っかかるものを感じてな」
「ぼくの?」
「……あぁ。クダリ、ノボリがあんたを庇ったと話した時言った言葉を思い出してほしい」
双子の言葉に、大典太は顔を上げることをまずは口にした。頼まれなくとも2人の捜索は続行するつもりだった。元々3人を捜索する依頼を受けていたのもあったが、隣で話を聞いているスパイク兄妹に起こった件とあまりにも現象が似ていたからだった。
その言葉を受け、一同はクダリが議事堂に来た辺りの記憶を思い出す。……しばらく沈黙が流れた後、マリィが思い出したようにはっとした表情になった。
「あっ。やっぱりそうだ。クダリさんが話してたこと…マリィ達の身に起きたことと同じだよ!」
「……何ですって?!」
「確認しますけど…。怪しい奴に襲われて、ノボリは呪いをかけられちまったんですよね。その後…トウコとメイは攫われちまった。実は…おれ達も同じような目に遭ってここまで来ているんです」
「そうなの?」
「そうなの。うちのガラルの新チャンピオン……"ユウリ"って言うんだけど、今トウコ達みたいに行方不明なんだ。怪しいリーグスタッフに連れていかれそうになったのをネズが助けようとして、ノボリみたいに呪いを受けちまったの」
「えっ。ノボリに起きたことと殆ど一緒」
「自覚は今でもありませんが、おれも一度…命の危機に瀕していたんですよね」
「なんと…!」
マリィ達から自分達に起きた境遇を説明され、双子は驚いた。あまりにも自分達に起きた事柄と一致していたからだ。そして、ネズもノボリと同じように呪いを受けていたということ。互いに自覚はなかったが、周りの人間が口を揃えて"死にそうだった"と言っていた。信じるしかないだろう。
話を聞いていた大典太は遂に決意をする。この双子をサクヤに会わせた方がいいと。判断した大典太の行動は早かった。彼らの話のきりのいいところで、割り込むように口を出す。
「……あんた達。この集まりが解散したら、俺についてきてほしい。来てほしい場所がある。あんた達の話…主に聞いてもらいたいと思った」
「主?誰かに仕えていらっしゃるのですか?」
「あぁ…。彼らと交流を持っているのはガラル地方の人間だけだったんですもんね。彼ら、見てくれは普通の人間なんですが…その実態は物に宿る付喪神らしいです」
「神様、なの?」
「……末端の存在だがな。それで、俺達が仕えている主も神なんだが…。もしかしたら、俺達の目的とあんた達の身にに起きたことに関連があるかもしれないと考えてな。だから、ついてきてほしいんだ」
「了解いたしました。案内をお願いいたします」
「ノボリに同じく。ついていくよ」
「……そんなあっさりと…。助かるが」
「ノボリの命助けてもらったお礼、まだしてないから。ぼく達に出来ることならやりたい」
「どんな摩訶不思議な事実でも受け止める所存にございます。覚悟は出来ております」
イッシュ地方出身のトレーナーに起きたことと、ガラル地方出身のトレーナーに起きたこと。あまりにも共通することが多すぎる為、一度サクヤに話を聞いてもらおうと大典太は判断した。彼らに解散したら自分についてくるよう頼むと、双子はあっさりとそれを承諾した。
命を助けてもらった、そしてトウコとメイの捜索を続けてもらえると分かった今。自分達に出来ることはすると双子は決意を固めていたのだった。
少し離れた場所でその話を聞いていたラルゴも一同に近付き、口を開いた。
「それじゃ、一旦解散にしましょうか。アタシ、しばらくは町長室に籠るから…。何かあったら顔を出して頂戴ね!」
「……分かった。感謝する」
ラルゴの言葉を皮切りに、一旦はその場を解散となった。アシッドも自分の会社へと戻るようで、一同に軽く挨拶を済ませた後スマートに議事堂を出ていった。
それと同時に、集まっていた人達は各々自分のやるべきことに戻っていった。その場に残ったのは、大典太とサブマス双子、そしてスパイク兄妹だけだった。
「それで…大典太さま、と仰いましたか。わたくし共はどちらに向かえばいいのでしょうか?」
「……案内する。ついてきてくれ」
大典太は自分について来るようにとそれだけ伝え、先頭を歩き始めた。双子は首を傾げたが、ついていくと決めた以上立ち止まってはいられない。後ろをぴったりとついていく。その後ろをネズとマリィが追った。
しばらく歩き、大典太はとある1つの部屋の扉を開けた。そして、双子にこう尋ねた。
「……この先にあるものが何かを答えてほしい。具体的には…"襖が見えるか、壁が見えるか"ということだな」
「襖…。ええと、紙が貼りつけられた扉のことでしょうか。夢の中で見た記憶がございます。はい、わたくしには見えております」
大典太に唐突な質問をされ双子は戸惑った。この先に何かがあるのだろうか。襖とは何なのだろうか。イッシュにはそういう文化が根付いていない為、2人は返答に困った。
しかし、ノボリは夢の中の記憶を漁り、自分には襖が見えていると答えた。不思議な夢だが、役に立つ時もあるものだと今は感謝していた。クダリはどうなのかとノボリが問うと、彼は浮かない表情をしてこう答えた。
「白い壁が見える。フスマ、って何?」
「……ノボリが言ったような扉…なんだろうか。そうか。双子で見えているものが違うんだな…。これは、参ったな」
「見えている、見えていないで何か違うのでございますか?」
「……あぁ。この先に、俺が仕えている主がいるんだが…。この先に行けるのは…ノボリ。あんただけだ」
「!」
サクヤは以前言っていた。神域に入れる者は"壁が襖に見えている"と。双子で大典太の返答が違った以上、神域に連れて行ける―――サクヤに話を通せるのはノボリだけ。そのことを2人に伝えると、途端にクダリの表情が引きつる。そして、ノボリの黒いコートの裾をぎゅっと握りしめた。
「クダリ…」
「つれてかないで。他に方法はないの?」
「……あんたの気持ちは充分分かる。だが…この先にはノボリしか連れて行けない」
「ノボリ、またいなくなるの嫌だ」
目の前で記憶喪失になった平行世界の兄と、死にかけた双子の兄を見たのだ。クダリがそういう行動を取るのは目に見えて分かっていた。しかし、今後のことを思っても、トウコとメイの捜索に関してもサクヤに話を通す必要がある。部外者である大典太達が説明できることには限りがある。当事者から話を聞き出さねばならないこともあるだろう。その為に、ノボリを連れて行かなければならなかったのだ。
大典太の説得をも突っぱねかねないクダリを制したのは、意外にもマリィだった。
「クダリさん。あたしにも壁、見えとるよ。アニキには"襖"っていう扉が見えてるんだって。クダリさんはマリィと同じやね。でも、この人達は大丈夫。アニキが信用してる人達やけん。だから、外で一緒に待ってよ」
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよクダリ。おれも普段出入りさせてもらっている場所です。それに、おれも一緒について行きますんで」
「…………」
「―――クダリ。ネズさまもマリィさまもそう仰っております。もし危険なのであれば、お二人は大丈夫だと判断するでしょうか?わたくし、お二人の心根が真っすぐなのは理解しているつもりでございます」
「そうだね。ぼくもそう思う。ネズさんもマリィちゃんも真っすぐ」
「……必ず戻り、あなたに向こうにてお話した内容を連携いたします。それまで…どうかマリィさまと、待ってはいただけないでしょうか?」
「わかった。絶対、戻って来てね。約束」
「はい。約束、ですよ」
クダリを優しく説得したノボリは、彼に"必ず戻ってくる"と約束をした。その言葉を受け、クダリはやっとノボリのコートの裾から手を離したのだった。
そして、小指と小指を合わせ指切りを行った。そんな双子の行動も、大典太は懐かしむように見ていた。マリィに連れられ、クダリが一旦部屋の外に出る。その瞳は最後までノボリの背中を見ていた。
2人が部屋の外に出たのを確認し、大典太は改めて確認をする。その言葉に、ノボリは無言で頷いた。
「……では、行くぞ」
大典太は襖の取っ手に手をかける。そして、それを静かに開け放ったのだった。
- Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 ( No.88 )
- 日時: 2022/04/17 22:02
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
神域では、既にサクヤが部屋を移動して待っていた。彼女の近くにはオービュロン、前田、鬼丸が座っている。
大典太に目の前にいる小柄な女性が自分の主だとノボリに説明した。彼はサクヤを真っすぐみつつ、トウコのことを思い出していた。どことなく、彼女に雰囲気が似ていると感じていた。
「お待ちしておりました。大体の事情は皆さんからお聞きしています。どうぞ、座ってください」
楽にするようにサクヤに言われ、ノボリは自然に畳の上に正座をした。その行動に驚いたのがネズだった。イッシュ地方にそんな文化があるのかと彼に問われると、ノボリは首を横に振った。どうやら、夢の中の自分が実際にそうして座っていることを思い出して真似したのだという。
ノボリがサクヤの方を向きなおしたのを確認し、ネズは隣に座った大典太に思わず耳打ちをした。
「あの。……あのノボリのいた場所って、あんた達が馴染みのある文化でもあるんですかね」
「……自然に正座をしたことか?まぁ…文化は近いのかもしれん」
「おれもカブさんに色々ご教授してもらった方が良かったと今感じています」
「……おいおい勉強していけばいいさ。あいつの言葉を借りることになるが…。"人生死ぬまで学び続けよう"だか」
「ところ違わずカブさんの言葉じゃねぇですか。ま、間違ってはないですけどね」
ひそひそと話をし終わったのと同時に、ノボリは自己紹介がてら事情の説明を始めた。自分達に何が起こったのか。そして、行方不明のトウコとメイのことについても。
「わたくし、サブウェイマスターのノボリと申します。クダリとは双子でして、イッシュ地方にございます"ギアステーション"にて車掌を務めております。
それで…今回わたくし共に起きた事柄なのですが。怪しい駅員に、我々電車の中で襲われまして。トウコさま、メイさまがその駅員に攫われてしまいました。そして、わたくしも死の淵を彷徨うような呪いを身に受けてしまったとお聞きいたしております。それが、ガラル地方で起きた現象とあまりにも似ているとお話を受けまして。
何か、わたくしの話が役に立つのであればと思い参じた次第でございます」
「ありがとうございます。ガラル地方で起きたことと全く同じ現象が、イッシュ地方でも起きたということなのですね」
「ネズ殿に続いて、ノボリ殿まで同じような災難に見舞われました。ガラルやイッシュだけではなく、他の地方も一斉に混ぜられていると考えて動いた方がいいのかもしれません」
ノボリの話を聞いて一同は確信した。ガラルでユウリを攫った犯人とイッシュでトウコ、メイを攫った犯人。恐らく同一の存在であるということを。そして、ガラル、イッシュ以外のポケモンが生息している地方も同じように混ぜられているという考えの元動いた方が良いのだと。
だとすると、自分達以外にも大勢のポケモンやポケモントレーナーが巻き込まれている可能性をネズは口にした。今後、リレイン王国やダイヤモンドシティにもやってくる可能性がいるかもしれないと彼は結論をつけた。そして、ネズはこう続ける。
「ポケモンを戦わせる連中…おれ達は"ポケモントレーナー"と呼んでいますが、そいつらに関してはダンデに任せましょう。一応…ポケモン絡みで無事な場所が今のところシュートシティしかない。幸いシュートシティはでかい都市なんで。
それと…もしかしたらおれやノボリのように、直接危害を加えられているポケモンやポケモントレーナーがいるかもしれません」
「シュートシティで受け入れるとなると…リレイン城下町にも来る可能性があるということですよね?町長殿にお話をして、ポケモンセンターのような施設を建てる許可を得てみてはどうでしょう?」
「それに関してはダンデに話を通してください。おれの管轄じゃないんで。まぁ、あいつなら何が何でも意見をゴリ押して建てるとは思いますが」
「ふむ…。その土地に住む人間による危害であれば我々が手を出す範囲ではないですが、それがアンラが関わっているとなれば話は別です。ガラル、イッシュ。既に2つの地方で動いていることを鑑みると、それ以外の地方でも悪事を働いている可能性も示唆しなければなりません」
サクヤは彼らの話を聞いて、アンラが自分の邪魔になると決断を下した存在を片っ端から殺害しようと呪詛をかけている可能性が高いことを推測していた。実際、ネズは攫おうとしていたユウリを助けようと動いて呪詛をかけられた。ノボリはクダリを庇った結果だが、イッシュでは2人も攫われていることを鑑みると"元々ノボリとクダリ、2人を纏めて呪い殺そうとしていた"可能性の方が圧倒的に高い。もし最初に分身がノボリを狙っていたとしたら、ここまでは漕ぎつけなかっただろうともサクヤは頭の中で思った。
恐らく、ワリオの件も彼が無意識にアンラに対して侮辱と取れる言動をしてしまったことが原因なのかもしれない。結果的にだが、サクヤはそう判断することにした。説明すると、オービュロンが苦い顔をした。
「わりおサン、悪い人デハ無いのデスガ…。敵は作りやすい人デスカラネ…」
「それにしても。気になることがあります。何故そんな回りくどいやり方をするのでしょう?アンラに肩を持つつもりは一切無いのですが、邪魔に思ったのならばその場で一撃で仕留めてしまった方がいい話なのではないでしょうか。まぁ…だからこそ、助けることが出来たのですが」
「……俺の考えになるが。あいつも派手に目立ちたくないんだろう。徐々に呪い殺すのと、一撃で仕留めるのでは話が違うからな。ましてや狙った人間が"影響力のある奴ら"ばかりだ。そんな奴らが殺害された、と話が広まればどうなる。あいつも動きにくくなるんじゃないのか?」
「尻尾を掴むために命を懸ける、なんて…。おれには無理です。絶対にやりたくありません」
「唯でさえ家族を悲しませてしまいました故、わたくしも自分の命が失われることだけは考えたくありません」
アンラが下手に目立ってしまえば、全世界から目を付けられる。最悪、目的を果たす前に消滅してしまうと考えたのだろう。それが、"邪魔をした者を徐々に呪い殺す"という選択に繋がっていると大典太は考えた。
尻尾を掴めるならばそれに越したことはないが、それに他人の命を使うような人でなしではない。呪詛を得て繋がった不思議な縁も存在する。少しずつではあるが、手繰り寄せていった道は必ず1本に繋がる。元々長い戦いになるとはサクヤも覚悟していた。
ならば…やるべきことは1つ。最終目的に関わってくるならば、自分達も手を差し伸べるべきだとサクヤは結論をつけた。
「ユウリさんの件、そしてトウコさんとメイさんの件。恐らく"同一犯"かつ放っておくとまずいことになる案件かと私は確信しました。そして、解決することこそが我々の最終目的への道しるべになる。私はそう考えています。
……ノボリさん。私達も協力いたします。ユウリさんと共に、トウコさん。そしてメイさんの捜索も一緒に行うことをお約束いたします」
「! 本当でございますか!ありがとうございます…!」
トウコとメイの捜索も続けてくれると約束してくれた。はっきりとした答えを受け、ノボリはどことなく安心した表情になった。への字口は変わっていないが、目が穏やかな動きになったのを彼らは見逃さなかった。
そんな彼の表情を見て、ネズも目を伏せ笑ったのだった。
- Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 ( No.89 )
- 日時: 2022/04/18 22:09
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
本筋の話も終わり、ノボリは一旦クダリに話したことを報告したいと申し出てきた。クダリを向こうに置いてきた以上、無事な姿をいち早く見せたい気持ちが仕草から現れていた。
サクヤも彼に起きた身の上のことを理解しており、元気な顔を弟に見せた方がいいと判断した。今後の話は必要に応じて行うことに決まり、その場は一旦解散となった。
神域から戻ろうとした矢先、鬼丸が彼を引き留める。何なのだろうと振り向いてみると、彼はこう口にした。
「主。こいつをここに置いておくことはできないのか?」
「置いておく?……住まわせる、ということでしょうか?」
「あぁ」
鬼丸が放った言葉に大典太と前田が目を丸くした。彼はその表情に真っ先に気付き、前田はともかく大典太がそんな表情をしたことに不満気に顔を歪ませた。
あの一匹狼を好む鬼丸が。人間の感情に引き寄せられやすいとはいえ、自分を"不幸の刀"と称し遠ざけていた彼が。ノボリを神域に住まわせたいと自分から言ったのだ。当然驚くだろう。
「以前のおれのような反応をするな」
「……悪いか。それくらい驚いたんだよ…」
「い、いえ!大典太さんはともかく鬼丸殿がそういう言葉を口にされたという事実に驚いてしまいまして…。すみません!」
「私は構いませんが…。鬼丸さん。ノボリさんの気持ちを聞くのが先ですよ」
「突拍子もないご提案にわたくしも少し頭が混乱しています…。申し訳ございません」
「言葉を色々端折りすぎたな」
「それに、ノボリさんには双子の弟さんがいらっしゃいます。片割れが死にかけたのを目の当たりにしている以上、離れたくないと思うのは自然なことでは?」
「……クダリはノボリがここに来ることに反対していた。説得は難しいだろうな」
「…………」
ノボリも突然の言葉に頭がついて行かない様だった。サクヤは別に構わないが、クダリのことを気にしていた。唯でさえ神域にノボリを連れていくことすら一時は嫌がったのだ。ここに住む、となれば色々と反論も出てくるだろう。そして、ガラルとは違いイッシュについては何も分かっていない。もしライモンシティがあるのであれば、そちらに帰った方が都合が良いのは明らかだ。
そう考えたノボリは、とある行動を起こすことにした。自分が今どこにいるのか。それを把握することが先決だった。
「あの。この世界の地図を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はいっ。こちらです」
「ありがとうございます」
前田から受け取った地図をノボリは開く。リレイン王国が点在する西の大陸の土地の情報が描かれた地図だった。丁寧に指をなぞり、今いる場所を確認する。そして、周りの土地も確認し始めた。
車掌だからなのか、線をなぞる手が滑らかだ。流石は車掌にまで上り詰めた男だと一同は感心していた。
「リレイン王国…ダイヤモンドシティ…。この北にありますのがシュートシティ…。王国の南に点在していますのがアスク王国…キノコ王国…。シュートシティの北方面にありますのがドルピックタウン…。こちらは港町でしょうか。リゾートアンセム…ココナッツモール…。観光地なのでしょうか。こちらの島は…バンズ島?ならば線路をこう繋げれば…いえ、今はライモンシティを探すのでしたよね。
……やはり、ライモンシティもカナワタウンも無いのでございますね」
「もしかしたら、今日未明で新しく突然街が現れている可能性もありますが…。ポケモンに纏わる土地がシュートシティしかない以上、可能性は低いかと思われます」
「そうでございますか。ご丁寧にありがとうございます。わたくし共が帰る土地は…無いと判断した方が良いのでございましょう」
「混ぜられて消滅してる可能性の方が高いと思いますよ。スパイクタウンだってそうですし。根っからのシティーボーイのあんたには不便だと思いますが…」
「え?違いますよ。確かにライモンシティに勤務はしておりますが、わたくし自身はカナワタウン出身でございます。この世界で目覚める前も、実家から通っていたのです。れっきとした田舎者ですよ」
「田舎者の使い方が間違っている気がします」
丁寧に折り返し、仕舞った地図を前田に返す。そして、自分達に帰る土地は無いのだと判断した。恐らく、イッシュ地方もガラル地方と同じく完全に混ぜられ、そのまま残っている箇所があったとしても1つか2つだ。
根っからのシティーボーイだと勘違いしていたネズは驚いたものの、ノボリは表情を変えず自分の出身地を告げる。一等企業に就職しているのだから田舎者ではない、と使い方が間違っていることを指摘するも、彼はそのまま質問を続けた。ならば、今後はどうするつもりなのかと。
今は鬼丸の誘いを受けている状態だが、仮にそれを突っぱねた場合どう行動するのか、彼はふと興味が湧いていた。
すると、彼はとんでもない答えを彼に返した。
「ライモンシティが地図上のどこにも見当たらない以上、今後のことに関してはダンデさまにご相談させていただこうかと考えておりました」
その言葉を聞いたネズはとんでもないことを想像してしまう。ノボリとクダリはサブウェイマスターである。サブウェイマスターとは、イッシュ地方のバトル施設である"バトルサブウェイ"で一番強いトレーナーに位置づけられている。つまりポケモン勝負がとんでもなく強い、所謂"廃人"なのである。
廃人施設のボスとバトルジャンキーの権化ともいえようダンデを引き合わせたらどうなるか。最悪、新しいバトル施設をリレイン城下町に作ってしまいかねない。恐らくネズも巻き込まれるだろう。面倒なことになるのは目に見えていた。
そんな思惑が次々と頭の中を駆け巡り、かき消すように彼は高速で首を横に振った。そして、ノボリに慌てて説得に入ったのだった。
「ほら。折角鬼丸が手を差し伸べてくれているんですし…。実は、マリィもこの議事堂で世話になっているんです。繋がりも今回の件で出来ましたし、あのお人好しの町長ならクダリの部屋を一部屋増やすことなんて造作もない筈です。
マリィもこの街を気に入っています。鬼丸の言葉に甘えませんか?これから住居を新しく探すとなると時間もかかるでしょうに」
「(……どうしたんだ急に)」
ネズが焦った表情でノボリの説得にかかったのを大典太は不思議そうに見つめていた。鬼丸が言い出した時は一緒に驚いていた癖に。話を聞いている中で何か心変わりでもあったのだろうか。
そんな大典太の思想をよそに、ノボリはネズの必死の説得に"確かに"と言葉を漏らす。一理あると考えているようだった。
「確かに一理あります。わたくしとしては、鬼丸さまのお言葉を受け取ってもいいとは考えています。しかし…クダリのこともあります故、一旦クダリと相談し、改めてご報告させていただく形でよろしいでしょうか?今後に纏わる大事なお話ですので、よく話し合って決めたいのです」
「わかりました。もし答えが纏まりましたら、刀剣男士の皆様にお伝えいただければ大丈夫ですので」
「ありがとうございます」
ノボリ自身も、鬼丸の言葉に甘えるという選択肢も考えてはいたようだ。しかし、やはり問題になるのはクダリのこと。2人で相談してから決めたいと一旦回答を保留にし、彼の元へ戻ることを伝えた。
その後、一同は解散し各々の行動に移る。言い出した責任があるからと、ノボリには鬼丸が。そして鬼丸が変な行動をしないかと大典太も一緒についていくことになった。ネズも話に突っ込んだからと最後まで付き合うと口にしてくれたのだった。
神域から議事堂に戻り、扉を開ける。普段通りのノボリを見て、クダリはほっと胸を撫でおろした。マリィに言われたとはいえ、やはり内心不安だったのだろう。
ノボリがクダリに神域で話したことを粗方説明すると、彼の顔に花開いたように笑顔が広がった。
「メイ達、一緒に探してくれるの嬉しい!」
「本当でございますね!わたくし達、良い方々と巡り合えましたよクダリ」
「ぼく、この街のことについてもっと知りたい。どんなものがあるか、すっごく気になる」
「そのことについてなのですが…。実はわたくし、この議事堂に住まないかとオファーを受けているのです」
「オファー」
「えっ?本当?」
「はい。先程鬼丸さまにそう誘われまして。夢の件もあるのでしょうが…あの言葉は、彼のご厚意によるものだとわたくしは確信しております。
彼のお言葉を受けるか、それともシュートシティでダンデさまにご相談をするか…。クダリと話し合いたくて」
「この街には沢山恩がある。でも、ポケモンがいるシュートシティの方が色々便利」
「どういたしましょうか」
「……随分好意的に取られているじゃないか」
「ふん。勝手に想像していろ」
そして、ノボリはクダリに今後のことについて話した。ライモンシティ、カナワタウン共に消えている以上、自分達はこれからどこかの街に住居を拵えてもらわないといけないということ。そんな矢先に、ノボリに議事堂に住まないかと提案があったこと。
リレイン城下町で世話になるか、シュートシティでダンデに相談するか。恐らく考えられる選択肢は2つに1つだと、彼は併せて伝えた。
思わぬ提案にクダリは頭を悩ませる。ポケモンと一緒ならば、シュートシティの方が色々利便性が高いことは理解しているつもりだった。しかし、この街には大きな恩義がある。
そんな彼の傍で、マリィも説得にかかった。ネズの表情を察したのかは知らないが、マリィもこの街が気に入っていたのは事実だった。
「クダリさん。この街の人優しいよ。マリィがここに来たいって言った時も、みんな快く受け入れてくれてた。きっと、クダリさんも受け入れてくれるよ」
「マリィちゃん、この街気に入ってるんだね」
「うん。ご飯も美味しいし、景色も綺麗だし。色々新鮮で、見てて飽きないよ。気に入ってると」
「そっか」
「マリィ。随分とクダリと仲良くなりましたね?」
「弟、妹にしかわからん話も積もりに積もってるんよ。お互いに分かり合えることも多いってこと」
「はぁ…」
ネズ達が神域で話をしている間に、マリィとクダリは少し仲良くなったらしい。いつの間にとネズは突っ込んだが、マリィに"弟妹にしか分からない話をしていた"とはぐらかされてしまった。
クダリはその言葉を受け、しばし悩む。そして、ノボリに向き直った。答えが決まったようだった。
「ぼく達、この街の人に沢山お世話になった。ちゃんと恩、返さなきゃ。お言葉に甘えよう、ノボリ」
「ではわたくしもクダリに習うとしましょうか。我々も、暫くこの街でお世話になることにいたしましょう」
「良かった…」
「ネズ?」
「個人的なことですよ」
リレイン城下町で世話になることを選択したことに、ネズはほっと胸を撫でおろした。大典太に心配されるが、個人的なことだと受け流した。悟られるわけには行かなかったからだ。
ノボリが改めてそのことを二振に伝えると、大典太はすぐにスマホロトムを呼び出し、サクヤに連絡を始めた。ノボリが神域で生活することになる以上、色々と準備が必要だった。
彼が連絡をしている間、ネズとマリィはラルゴに挨拶がてら双子について話に行くことに決めた。ノボリはともかく、クダリは神域に入れない。ならば、マリィやキバナと同じく部屋を手配してもらう必要があったからだ。
「大典太さんの連絡が終わったら、まずは町長さんに挨拶しに行かんとね。クダリさんの部屋も手配してもらわなきゃならんし…」
「ですね。ということで、しばらく一緒に行動です。街も案内しますよ」
「やった!ネズさんともマリィちゃんとも、いろんな話したい。ポケモンのことについても、そうじゃないことも!」
「お二人の強さは我々も把握しているところでございます故、いつかのタイミングで是非!是非!ポケモン勝負を受けていただきたいと思っております!」
「ぼく、ダブルバトルが得意。でも、シングルバトルも出来る。マルチバトルだって出来る。どの戦い方でもいい。2人と戦いたい!」
「今は遠慮しておきますよ。マリィは才能がありますし、新米ジムリーダーとしての肩書もあります。しかし、おれはジムリーダーを辞した身の上ですよ?それに、サブウェイマスターのお眼鏡にかなうかどうか」
「でも、アニキ"あくタイプの天才"って自分で言ってるじゃん。ダイマックスなしでキバナさんも追い詰めたし。今でも追い詰めるくらい強いし。たまに勝負に勝ってるし」
「なんと!そうなのでございますか?!それは勝負するのが楽しみでございます…!わたくし、心待ちにしておりますねっ!わざとわざ、思いと思いをぶつけ合う、そんな最高のポケモン勝負を行いましょう!お待ちしておりますよネズさま!」
「えっ?ちょっと。やるとは言ってないんですけど。あんたの兄貴暴走してますけど。どういうことなんですかクダリ」
「ノボリ、ポケモン勝負とか電車のこと…好きなものの話になると暴走特急になる。誰が止めても止まらない。まっすぐ。でも、ノボリが楽しいとぼくも楽しい。だから、ノボリのやることのお手伝いするのがぼくの役目」
「駄目だ。この双子、頭のネジが何本か抜けてやがる。光世…助けてください…」
「……あんたも満更じゃなさそうだが」
「この顔のどこが満更じゃなさそうだと…?」
街も案内しようと考えていた矢先、クダリの発言がきっかけでポケモン勝負の約束をされてしまった。ネズは音楽活動に集中したい為断りたかったが、ノボリのまっすぐな瞳に断るに断り切れなかった。大典太に助けを求めるも、本質を見抜いていた為か軽くあしらわれてしまった。
呆れつつサクヤへの連絡が終わったことを告げると、話に夢中になっていた2人ははっと我に返る。ポケモン勝負より先にやること。それは、ラルゴへの挨拶だ。
「申し訳ございません。わたくし、勝負の話に夢中になっていたようです…」
「ごめんね。町長さんへのお話が先」
「そうですよ。話の続きは本題を終わらせてからにしてください」
「……部屋に籠ってるとか言ってたから、今行けば確実に会えると思う」
「本題は早く済ませてこい。おれも暇なわけじゃない」
「……暇な癖に」
「何か言ったか」
「……いひゃいぞ鬼丸」
早速町長室へと向かって行ったマリィとクダリの後を、大典太と鬼丸も追った。そんな彼らの背中を見ながら、ネズとノボリも互いを見やる。
「わたくしも町長さまにご挨拶に行かなければ。助けていただいた礼もまだです。ネズさま。ご同行をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。奇しくも境遇が同じ者同士になっちまいましたからね。……改めて、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いいたします!ではっ、出発進行ーッ!!」
威勢のいいノボリの声を皮切りに、2人も先にある影を追った。
こうして、また1つ。リレイン城下町に光が増えたのだった。
Ep.02-2 【黒と白と翡翠の車掌】 END.
to be continued…
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