二次創作小説(新・総合)

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繋がる世界と未来の物語【Ep.03-ex完結】
日時: 2022/10/12 22:13
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ―――これは、"全てを元に戻す"物語。
 それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。


 どうもです、灯焔です。
 新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
 サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
 この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
 また、オリジナルキャラクターも登場します。
 苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。


※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2


<目次>

Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17

Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148


※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54

Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111

Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151


※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163


<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150


最終更新日 2022/10/12

以上、よろしくお願いいたします。

次回予告 ( No.55 )
日時: 2022/03/19 22:29
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ―――ここは、人とポケモンが共存する現代。
 世界のうちの1つ"ガラル地方"にて、ガラルの強者が集うポケモンバトルが開かれようとしていた。
 ガラルの北にそびえる巨大な人工都市、シュートシティ。かつてはマクロコスモス元代表取締役社長兼元ガラルリーグ委員長、ローズが開発を進めた街だ。
 ここでは毎年、"ジムチャレンジ"のファイナルであるチャンピオンを決めるトーナメントが開かれている。しかし、今回トレーナー達が集まっているのはそのような用事ではなかった。

 ローズ失脚後、新たにリーグ委員長に就任したダンデにより、シュートシティでは新たな催しが施されていた。
 名付けて"ガラルスタートーナメント"。ガラル中の強豪トレーナーで2人1組のタッグを組み、チャンピオンを目指してお互いに勝負を繰り広げるという大きな大会だった。


 そんなシューシティにそびえ立つシュートスタジアムの中にて、少女―――ユウリは今回も優勝するぞ、と意気込んでいた。
 傍らにはバウタウンジムリーダーである"ルリナ"と、エンジンシティジムリーダーである"カブ"が立っており、皆で楽しく談話をしていた。



「ルリナさん!カブさん!今日のスタートーナメント、絶対に負けませんからね!」
「ふふ、それはこっちの台詞よ!私も負けっぱなしじゃいられない。ポケモン達と沢山特訓を重ねてきたんだもの。必ず勝利を掴んでみせるわ。ユウリも油断しないでね?」
「ユウリくんもルリナくんも気合十分だね!今日のガラルスタートーナメントに向けて張り切っているじゃないか」
「勿論ですよ!カブさんも気合十分ですね!」
「ああ、当たり前だとも。ぼくとポケモンくん達の更なる絆、このスタートーナメントで全部ぶつけるつもりだからね!」



 ルリナもカブも気合十分だと答える。ユウリは彼らの気迫に押し負けそうになるが、それくらい熱意が高いのだと高まる気持ちが止まらなかった。
 彼女は単なるバトル好きのポケモントレーナーではない。今ではガラルの新たなチャンピオンなのだ。皆の期待を背負っている以上、負けるわけにはいかなかった。
 更に、彼女にはもう1つ気分が高揚する理由があった。興奮したまま、ユウリは2人に口を開いた。



「やっと!やっとです!ネズさんにタッグパートナーの承諾を受けてもらったんですよー!」
「あら、そうなの?良かったじゃない!今までずっと断られ続けてきたんでしょ?」
「はい…。ネズさん、私のこと面倒臭いと思っているみたいで…。今大会の前なんて、話しかける前にお札みたいに顔にタオルをかけられてしまったんですよー!酷くないですか!」
「ははは、ネズくんも君のことが大事なんだよ。あの時は酷く暑かったからね。熱中症になりそうだったのに気付いていたんだろう」
「それでもです!でも、やっとパートナーになる許可を貰えたので…嬉しいんです。そんな初陣なので、絶対に負けられないんですよ!」



 そう。ユウリは、スパイクタウンの元ジムリーダーであるネズとずっとタッグを組みたかったのだ。本当は初回からそうしたかったのだが、"きみと組むとトラブルが起きそうなので"と開口一番に断られてしまっていた。
 そもそもの話、ダイマックスの暴走事件を一緒に鎮めた後からだった。彼の態度がぎこちなくなったのは。彼は"ユウリは面倒ごとを引き起こす"として遠ざけていたが、マリィと一緒に遊んでいる時に鉢合わせたり、マリィの家にお邪魔する時は言葉とは裏腹に甲斐甲斐しく彼は世話を焼いてくれるのだ。
 そんな態度を取り続けていた彼が、遂にユウリからの誘いを受けた。彼女のしつこさに折れたのか、何か別の思惑があったのかは分からない。だが、ユウリにとっては"タッグパートナーになれる"その事実だけで嬉しさが何倍にも膨れ上がっていた。



「気合を入れなきゃネズさんに失礼ってもんです!今まで散々ネズさんに迷惑かけてきて、やっと承諾してもらえた試合だから…私、負けるわけにはいかないんですよ」
「あらあら。試合前に美味しい話をいただいちゃったかしら?」
「えっ?」
「ユウリくん。青春もいいものだが、試合の時はのろけるんじゃないよ。しっかり試合に集中するんだ」
「えっ?!」



 ユウリがネズの話をし始めてから、明らかにルリナとカブの様子がおかしい。ルリナはまるで恋する乙女を見守る様に。カブは若人の背中を叩くように。ユウリに対して言葉を返したのだった。
 彼女はネズに恋心を抱いているのだ。しかも、周りにはしっかりとバレている程だった。ユウリには周りに知られている自覚が無い為、彼女達の反応にきょとんと返すことしか出来なかった。
 そんなユウリをよそに、右側の控室からふくよかな青年が現れる。キルクスタウンのジムリーダー、マクワだった。



「お取込み中すみません。ジムリーダー会議の時間なので、あちらの控室に…」
「あら。もうそんな時間?みんなを待たせたら悪いわね。行きましょう、カブさん」
「そうだね。それじゃ、開始までゆっくり心を落ち着けると良いよユウリくん。緊張したままでは何事も上手くいかないものだからね!」



 マクワに連れられ、ルリナとカブはエントランスホールを去った。
 そんな彼らの背中が小さくなるのを見届けていたユウリは。ふと自分の放った言葉を思い返していた。何故ルリナとカブがあんな話を切り出したのかが気になったからだ。
 ……しばらく頭を悩ませている内に、彼女は1つの結論に辿り着く。自分はとんでもないことを2人に暴露してしまったのではないかと。
 自覚した途端、かっと顔が赤くなる。このままでは恥ずかしくて試合に出る前に何か言われそうだ。









『な、何やってるの私~~~~~~~~~~!!!!!』









 ユウリの叫び声は、誰もいないエントランスホールにただ響くだけだった。
 はっとして我に返りきょろきょろと辺りを見回す。運よくエントランスホールは無人である。ジムリーダー以外の参加者もどこかの部屋にいるのだろう。この建物は防音がしっかりしていることに感謝したユウリだった。
 時計を見てみる。ルリナ達と別れた時間から随分と時が経っていた。このままでは準備がままならなくなってしまう。そう判断したユウリは、急いで自分の控室へと移動しようと、足を左側に向けた。その、矢先だった。



「(あれ…?あんな人、スタッフにいたっけ…?)」



 ふと、目線の先に怪しい人影が見えた。まるで陰の気を纏っているようにユウリには感じられた。ユウリが今まで接してきたスタッフは、皆明るくていい人達ばかりだった。
 不審に思った彼女は、控室の方向ではなく怪しいスタッフが歩いて行った方向へと舵を向く。



「(まだ準備の時間はあるし…。そもそも全員到着してないし。見たら戻ればいいよね)」



 見たら戻ればいい。そんな気持ちを抱き、ユウリは人気のない場所に歩いていく社員を追って行ったのだった。


































 ―――ユウリがリーグスタッフの影を追ってから30分後。エントランスホールに現れる2つの影があった。
 それと同時に、右の控室からも2つ、人影が現れた。彼らは鉢合わせになり、引き摺っていた人物を見てため息をつく。



「わりぃなネズ。ダンデ、またシュートシティで迷子になってたんだってな?」
「まだ街の中でうろうろしていたからいいようなもんです。いつもなら最悪ブラッシータウン辺りまで向かって見つかってますからね」
「アニキ。ジムリーダー会議は終わったよ。準備が終わり次第いつでも開会式出来るから、時間あるうちに着替えてきた方がいいよ」
「そうさせてもらいます。……ダンデ。いくら気持ちのいい温度だからっていつまで寝てるんですか。起きやがれ」
「ふわ……あ?あ、あぁ、すまない。あまりに太陽が心地よくて眠ってしまっていたな!」
「引きずられながら眠るって随分と器用じゃん。オレさまにできるかな…」
「そんなところまで張り合おうとすんな」



 迷子のダンデを引き連れて入口からネズが現れた。丁度鉢合わせになったのはキバナとマリィだった。
 気持ちよさそうに寝ているダンデに喝を入れ起こす。彼の準備が出来なければ、スタートーナメントは開始できないも同然だった。
 頬を強く叩き、しっかりと脳を叩き起こすダンデ。そして、皆が思った通り控室とは逆の方向に歩いて行こうとした。当然キバナに止められる。



「言わんこっちゃねぇ」
「ダンデさんはあたしが送ってくるよ。アニキとキバナさんは話でもしてて」
「わりぃな~」



 逆の方向に歩き出したダンデをマリィが道案内する形で彼女達とは一旦別れることにした。
 ネズはマリィが自分からしっかり行動できたことに感銘を受けている。妹の成長が身に染みていた。



「妹も成長してんじゃん」
「感慨深いです。けど、少し寂しくもありますね」



 そう言いながらキバナはちらりと時計を見る。後10分くらいは話が出来る余裕があった。そうなれば、と彼はネズに最近気になっていた話題を切り出した。
 ネズがスタートーナメントを終えた後にしようとしていることだった。



「なぁネズ。この試合終わったら、イッシュ地方に行くんだろ?」
「はい。音楽の分野をガラル以外でも広めたいですし…。それに、他の地方で得た刺激は何よりの作曲のスパイスになります。ま、場所が場所なんで遠征になりそうですがね」
「バトルできなくなるのはオレさま悲しい…」
「おまえとは前に散々バトルしてやったんだからいいでしょうが。今回は、タチワキシティとライモンシティ。2つの街を回る予定です」
「へぇ。タチワキにライモン…。どっちも娯楽に富んだ街じゃねぇの。ほら、ライモンにあるバトルサブウェイ!あれ、オレさま一回挑戦してみたいんだよな~」
「列車に乗りながら戦うっていうユニークなバトル施設ですよね。キバナ、ポケモンに指示する前にすっ転んでたら恰好悪いですよ。きっと」
「キバナさまはそんな恰好悪いことしません!」



 ネズはこの大会が終わった後、イッシュ地方への遠征を考えていた。ジムリーダーを引退した今、ガラルだけではなく他の地方の音色も取り入れようという思惑からの行動だった。
 丁度、タチワキシティにはバンドをやりながらジムリーダーをしている人物がいる。またルリナからの紹介でライモンのジムリーダーとも謁見の許可を貰っていたのだった。
 タチワキには"ポケウッド"、ライモンには"バトルサブウェイ"というポケモンが活躍できる施設がある。特に、キバナは力を発揮したいとバトルサブウェイに参加したいとネズに吐露していた。



「ネズはいかねーの?バトルサブウェイ」
「はぁ…。だから、おれはポケモン勝負をやりに行くんじゃないんです。そこんとこ分かってます?」
「でも、今回の遠征は別にツアーに行くとかじゃねーんだろ?だったら行ってきてオレさまにどんなところだったか感想聞かせてくれよ」
「なんで根っからのバトルジャンキーの為に動かなきゃなんねぇんですか、全く…。でも、確か…噂では、そこを取り仕切っている双子の車掌が地方のチャンピオンと肩を並べるくらい強いって話ですよね」
「そうそう、そうなんだよ!オレさまダブルバトルが得意だからさ、スーパーダブルトレインに一回乗ってみたいんだよな~。で、車掌と戦うんだよ!で、オレさまが勝つ!車掌と一緒に写メ撮ってSNSに流す!ファン増える!オレさま大勝利!」
「で、車掌のファンに炎上させられる、と。というか、そもそもその前に48連勝出来るんです?お前」
「ネズ~~~~!!!!このガラル最強のジムリーダー、キバナさまにかかれば48連勝なんて楽勝よ!……イッシュ地方にはダイマックスないんだし、ネズの方が戦いやすくないか?」
「まぁね。スーパーシングルトレインであれば、シンプルな勝負を楽しめそうだとは思ってます。ダブルは専門外ですし、おれ。
 ―――ま、暇が出来たら行ってみますよ。おれも丁度腕試ししたいと思っていたところでしたし。……あの双子には少し、借りもありますんでね」
「……???」



 他愛のない話を続けつつも、キバナは再びちらりと時計を見やる。予定の10分を過ぎようとしていた。
 ネズに準備した方がいいということを伝え、彼らも一旦別れることにしたのだった。
 ―――お互い反対方向に足を向けた、その時だった。



























「……ん?」



 ネズの目線の先に、見覚えのあるベレー帽が目に入って来た。そのままじっと凝らしてよく見てみると、ベレー帽の先には茶髪が見える。十中八九ユウリだった。
 既に彼女は会場入りして、控室にいてもおかしくないはずだ。しかし、人気のない場所で何をやっているのだろう。
 ユウリのことは、マリィと仲良くしてくれているのもあり、もう1人の妹のような存在だと思っていた。しかし、ダイマックス事件の際にあんなことを言ってしまいぎこちない関係になってしまったことを後悔していた。
 それは誤解だと説明したかったのだが、彼女といるとトラブルが舞い降りてくることも事実。うまく言えない日々が続き、今日やっと彼女の誘いを素直に受ける決心をした矢先の出来事だったのだ。
 ユウリがあんな人気のない場所にいるのがおかしい。ネズはそう判断し、まだ背後にいたキバナに小さく耳打ちする。



「キバナ。すみません。もしかしたら開会式に出席できないかもしれません。ダンデに伝えておいてください」
「んん。お、おう…?」




 振り向かずにそのことだけを伝え、ネズはユウリの後を追って行ったのだった。

次回予告 ( No.56 )
日時: 2022/03/19 22:32
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ネズは人気のない通路を歩いていた。
 ここは、普段ジムチャレンジでの決勝戦でも使わない場所だ。そんな場所にユウリが自分から向かっていたのだ。何か面倒ごとに巻き込まれたと考えた方が早かった。



「ジムチャレンジでも滅多にここは使わねぇのに…なんだってあんな場所に。またトラブルに巻き込まれてんじゃないでしょうね…」



 一抹の不安を抱えながら歩いていると、行き止まりが遠目に見えてくる。
 そこで、ネズは目を見開き歩みを止めた。そして、モンスターボールに手をかける。
 理由は簡単だった。行き止まりでユウリが倒れていたからだ。どうやら意識を失っているようで、起き上がる様子は見受けられない。更には、倒れている彼女の傍にリーグスタッフらしき人間の姿がいた。
 倒れている彼女を助けようともせず、寧ろ何か怪しい動きをしているのにネズは気付いた。ユウリが危険な目に遭っていることを確信した彼は、ユウリを助ける為手に掛けたモンスターボールからポケモンを出そうとした。


 しかし。



「―――っ?!」



 ネズが動き出す寸前、スタッフはボールに向かって"何か"を放った。ネズの手から放たれたそれに直撃し、そのまま床に落ちる。出る筈のタチフサグマが出なかったことにネズは焦りを見せた。
 ポケモンを封じられた。そして、リーグスタッフが偽物の可能性が高いことも彼は見抜いた。



「(リーグスタッフじゃない…?)」



 そう判断し隠れようと動いたのも束の間だった。








「ぁッ……うぅ……?!」




 唐突に腹部に強烈な痛みが襲う。まるで、槍を貫かれたような激しい痛みだった。
 恐る恐る腹部を見てみるが、物理的に刺された形跡はない。腹を貫かれた跡もなかった。では何故激しい痛みが襲っているのか。目の前のリーグスタッフをぼやける視界で捉える。目線の先に、五本の指が見えた。あいつに何かされたのだ。ネズはそう悟った。
 壁に手をついて追いかけようとするも、痛みと同時に息苦しさも彼を襲う。精神が持たず、そのままネズは床に倒れ意識を失ってしまった。



「何か大きな音しなかった?」
「ユウリもネズもどこいったんだよ…。もう開会式はじまっちま―――!!」



 近くにマリィとキバナが来ていた。ネズが倒れた音に気付き、様子を見に来たのだ。
 そして、倒れているネズを発見するなり慌てた表情でマリィが兄の身体に触れた。



「アニキ!!しっかりして、アニ―――」
「マリィ…。どうした?」



 ネズの腕に触れた瞬間、マリィは思わずそこから手を離してしまう。キバナも気になってネズの様子を見る。彼は既に意識を失っており、身体が徐々に冷たくなっていた。人肌以下に―――氷に近い冷たさに、思わずマリィは手を離してしまっていたのだ。
 そして、キバナも気付く。ネズの頬に、黒いツタのような模様が浮かんでいることに。普段、濃いメイクをすることが多い彼だが、こんなメイクは見たことが無い。寧ろ、こんな模様は彼が歌の邪魔になると嫌うものだろうとキバナは推測していた。



「これ…ヤバいやつじゃねーの…?」
「どうして…アニキ……アニキ……!!しんじゃ、やだっ……!!」



 ネズが倒れていた進行方向である行き止まりを見ても、もぬけの殻。ネズはどうしてここまで来たのだろうか。考えようとするも、マリィの一声がキバナを我に帰す。"アニキの身体がどんどん冷たくなってる"と。
 とにかく、ダンデに報告せねばならない。ユウリも姿を現さない。もしかしたら今日のガラルスタートーナメントは中止になるかもしれない。様々な可能性を頭の中に浮かべながらも、まずは目の前のネズを助けることに意識を集中させた。
 ネズを背負う為、キバナは一旦マリィに離れるように指示した。そして、彼の細い身体を持ち上げる。……想像以上の冷たさだった。普通なら凍え死んでいてもおかしくない。しかし、ネズの心臓はしっかりと鼓動を刻んでいる。
 何が起こっているか分からない。しかし、動かなければ何も判明しない。マリィに急いでダンデを呼んでくるように頼み、ネズをしょったキバナが動こうとした。
 その矢先だった。

















「―――マリィ、伏せろ!!!」
「えっ……?」



 叫んだが、その声は一瞬で白い光に覆われた。次第にその姿も、立っていた場所も、呑み込まれる。



 光が。会場を呑み込んでいく。
 まるで全てを浄化するように。まるで、全てを消し去る様に。



 白い光は範囲を広げ、巨大な街をいとも簡単に呑み込んでいく。そのままポケモン達と手を取り合っていた一つの地方が。また。1つの歴史から姿を消した。
 この先に何があるのか。自分が生きているのか、死んでいるのか。
 何も分からないまま。全てが真っ白に染まった。




NEXT⇒ Ep.02-1 【強者どもの邂逅】

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 ( No.57 )
日時: 2022/03/21 22:07
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 リレイン城下町は春の陽気に包まれていた。
 冬特有の肌寒さは何処へ行ったのか。近くにベンチでもあれば座って昼寝をしてしまいそうな心地よさ。暖かな要項が街を照らす。季節がまた城下町の"彩"を変える。
 オービュロンはそんなぽかぽかとした季節の城下町を、散歩がてら歩いていた。ワリオが暴走した事件から2週間、ダイヤモンドシティとリレイン城下町の住民は少しずつ歩み寄っていた。流石は"繋がりの国"と呼ばれる王国。自分の姿を見ても、何か言ってくる人間は誰一人いなかった。寧ろ、自分の宇宙や文化の話に興味を持って聞いてくれることを嬉しく思っていた。



「だいやもんどしてぃの皆サンと城下町の皆サン、チョットずつ仲良くナッテテワタシも嬉しいデス!」



 心なしか気分が良かったオービュロンは、通りかかった商店街に足を運ぶ。
 この商店街は城下町の西側を占拠する程の広さを誇る、商人の街。最近ジンベエと博多が新たに店を構えたということも町全体に既に伝わっていた。
 オービュロンは広い道路を歩き、とある1件の店に立ち寄る。立ち止まった先には"なのはな青果店"と書かれた看板がかけられている。彼は表で野菜を出し入れしている、年配の女性に声をかけた。



「八百屋サンの奥サン!オハヨウゴザイマス!お元気デスカ?」
「おや?そのユニークな声はもしかしてオービュロンちゃんかい?おはよう!今日も元気がいいねえ!町長さんは元気かい?」
「町長サン…らるごサンナラ元気デスヨ!最近チョット忙しそうナノデ、チョットお疲れではアリソウデスケド…」
「あら、そうなの?ならおすそ分けにいかないとねえ。この王国が少しずつ前に進めるのも、王様や町長が率先して動いてくれているお陰だからね!」



 この年配の女性は、青果店の店主である男性の妻だった。なのはな青果店は、年配の夫婦2人で切り盛りしている小さな八百屋だ。店は小さいが、品質は世界一だと城下町の住民に好評の店の1つである。
 現在店主の男性は品物の仕入れに行っており、その間この女性が店主代理として店を切り盛りしていた。二人共威勢のいい豪快な性格であり、その肝っ玉の強さにはオービュロンも感心したものである。
 彼女と他愛ない話を続けていた最中、女性が思い出したようにこんなことを切り出した。



「あ。そういえばオービュロンちゃん知ってる?今朝、ダイヤモンドシティの北方面に巨大な街が現れたんだって」
「巨大な街、デスカ?」
「ええそうよ。昨日の晩まではそこには大きな森があってね。森とはいえ、整備されてない状態だからどんな野生動物に襲われるか分からない。ほら、城下町は"繋がりの街"ではあるけれど、森に潜む魔物に太刀打ち出来る人間なんてたかが知れてるだろう?
 だから、住民は絶対に近付くなってお触れが立っていたんだ」
「ソウダッタンデスネ…。知らなかったデス」
「そりゃオービュロンちゃんはここに来たばかりだから当り前さ。落ち込むことはない」



 女性の話によると、今朝唐突にダイヤモンドシティの北方面に"巨大な街"が現れたのだという。
 昨晩までは森が生い茂っていた場所に、唐突に現れた街。しかも、その大きさは森一帯を全て一瞬で消し去ってしまう程の広さだった。女性は街の造りから、"あれは人工都市ではないか"と持論を立てていた。
 彼女の話を聞いて、オービュロンはふと大典太に言われたことを思い出していた。



「(ソウイエバ…コノ世界に"何か"が混ぜられるコトニヨッテ、昨日無かった物が急に現れる現象は普通に起こりえる、トカ言ってましたネみつよサン。みつよサン達が以前お世話にナッテイタ世界での"自然現象"ラシイデスケド…)」
「人工都市とはいえ、人がいるかは分からない。近日中に様子を見に行くって専らの噂だよ」
「フム…ワタシトシテモ興味がアリマス。ソノ"人工都市"」



 人工都市、と聞かれれば、近未来的な技術も使われているかもしれない。宇宙のことを知っているオービュロンにとって、興味を引くには充分な出来事だった。
 どうやら近日中に街ぐるみで様子を見に行くと噂が出ているが、そうであれば王かラルゴが既に声出しをする筈。噂は噂だと気持ちを切り替え、オービュロンは単身その"人工都市"を見に行ってみることにした。
 決めたならば散歩をしている暇はない、と彼は女性に深々と頭を下げ、商店街を去った。そして、ダイヤモンドシティの方向を見やる。



「ソノ"街"トヤラの下見をシニ行っても良さそうデスヨネ。……流石にコノ姿ダト怪しまれるカナ?」



 オービュロンは現在白いもちもちとした宇宙人の姿だった。見慣れているダイヤモンドシティや、彼がこの姿で堂々と歩いても問題がないリレイン王国の敷地内であれば話は別だが、今から行く街は"未知なる町"。
 もしかしたら自分の姿を見て襲われる可能性もある。大典太は"困ったら自分を呼べ"と出かける前に話してくれたが、いつも彼に助けられるのには申し訳が立たなかった。それに、自分で決めたことは自分でやり遂げたかった。
 少し悩んだ末、オービュロンは人気のない行き止まりに姿を消す。そして、人間の姿に擬態した。行き止まりから再び姿を現したオービュロンの姿は、金髪のショートヘアにサングラスをかけた、清楚な白いワンピースを身に纏った少女だった。
 余談だが、オービュロンは何故か人間に擬態する時は女性の姿である。だからといって、オービュロンの性別が"女性"である訳ではない。本人ですらもそれに普及する素振りを見せないので、宇宙人にとって性別はないものに等しいのだろう。



「ヨーシ。コレナラ大丈夫。かんぱにーの人に見つからなければバレマセン」



 自分の頬にペタペタと触れつつも、気合を入れて新たな街に乗り出すことを決めたオービュロン。そんな彼の決意を後押しするように、陽光は柔らかく街を照らしていたのだった。












 しばらく歩みを進めていると、城下町が少し遠くなってきた。どちらにしろ、ダイヤモンドシティを経由せねば新たな街へと足を運ぶことは出来ない。
 道中カンパニーの連中と顔を合わせないようにと祈りながら、オービュロンは街と街を繋ぐ橋まで移動を始めた……の、だったが。



「(……ン?)」



 ―――ふと、彼の目線に違和感を感じた。視界の右端。そこに、普通ではあり得ない"色"が見えた。
 白と黒。彼が感じた色はそれだった。オービュロンは自分が街に来てから2週間の思い出を頭の中に掘り起こしてみるも、橋の付近にそんな目立つ色がある記憶は無かった。
 ならば。見えたものは一体何なのだろうか。もしかしたら、自分と同じようにどこかから落下してきた宇宙人かもしれない。
 一瞬恐怖は勝ったものの、元々倒れている存在を放置できない程にはお人好しなのがこの宇宙人、オービュロンなのである。とりあえず様子を見るだけ、とその"白と黒"に近付いてみることにしたのだった。



「(関係無ければスグ立ち去ればイイダケの話デス)」



 自分にそう言い聞かせ、恐る恐るその色に近付いてみる。そこに倒れていたのは―――"人"だった。



「!!!」



 見えたものは髪の毛だったのだ。派手なメイクをした、派手な髪型の青年。そして、彼の傍に落ちている白と緑の柄の卵。オービュロンに目に入って来たものはそれだった。
 青年は気絶をしているのか、こちらに気付く気配はない。更に、オービュロンは更に違和感を感じた。青年から生気を感じないのである。もしかしたら死んでいるのかもしれない、そう思い慌てて近付き彼の身体に触れてみる。触覚で目覚めてくれることを信じて。
 しかし……。



「ツメタイッ!!!」



 青年の身体は、まるで氷のように冷たかった。いや、氷以下だった。こんな体温だが、脈を測ってみると弱々しいがしっかりと鼓動を刻んでいた。頬にも、足にも、ジャケットで隠れているが白い腕にも。不気味な蔦のような黒い文様が広がっていることからも、倒れている"彼"が異常だということはすぐに理解が出来た。



「(ソレニ…。わりおサンと同じヨウナ気持ち悪さを感じマス。モシカシタラ…急がなければ手遅れにナッテシマウかもシレマセン)」



 オービュロンはもう1つ、青年に違和感を覚えていた。ワリオが暴走していた時に感じた気持ち悪さと同じものを彼から感じたのだ。
 ワリオの気持ち悪さの正体は"邪神の邪気"だった。もしそれと同じものが彼の身体を蝕んでいるのならば……。最悪の想像をしてしまい、オービュロンはぶるぶると首を横に振った。
 その不穏を確信に変える為、オービュロンは震えつつも青年の頬に広がっている蔦のような文様に触れてみる。その瞬間、彼の身体をぞわりとした悪寒が駆け巡った。
 急がなければ間に合わない。彼が死んでしまう。オービュロンは即座に結論を出した。



「(マズイ…!早く議事堂に連れて帰らネバ!)」



 氷のような冷たさを我慢し、オービュロンは青年を背負った。女性の身体の為体格はそこそこあるが、寒い、冷たいのがそこそこ強い宇宙人なことが幸いしたのだろう。1人でも何とか移動することは出来そうだった。
 移動しようとした最中、ふと彼の傍に落ちていた卵に彼は目を向けた。一応持って行った方が良いだろうか。しかし、彼は今青年を背負っている為抱えて走ることが出来ない。ならば、どうすべきか。



「(……だいやもんどしてぃに入ってナイデスシ、ダ、大丈夫デスヨネ…)」




 オービュロンは念力で卵を浮かせ、青年を背負い直し議事堂まで急いで戻ったのだった。

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 ( No.58 )
日時: 2022/03/22 22:05
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 まだ午前中という時間も幸いしてか、運よくオービュロンが知り合いに見つかるということは無かった。
 出来るだけ人気の少ないところを通り、やっとの思いで議事堂に辿り着く。彼が走っている間にも、背負っている青年の身体はどんどん冷たくなっていた。
 まるで飛び込むかのように議事堂に駆けこむと、偶然エントランスに求めていた人物がいた。大典太と数珠丸が何か紙のようなものを持って話をしていたのだった。
 オービュロンは急いで二振の元へ駆け寄り、彼らに話を求めた。



「みつよサン!じゅずまるサン!」
「ん?どちら様でしょう…。大典太殿、彼女とお知り合いですか?」
「……いや、こんな奴とは話したことが無い…」
「(アアッ!コレハワタシダト気付かれてイマセン…!)」



 しまった、とオービュロンは思った。この擬態した姿は今まで誰にも見せていないのだ。声はオービュロンと同じなのだが、容姿が全然違う為彼だと気付く者はこの中にはいない。大典太も数珠丸も気付けなくて当然なのだ。
 しかし、ここで無駄話を続けていると、背負っている青年の命が危ない。ならばどうすればいいのか。自分のことはいい。とにかく彼のことを話さねば、事は進まない。
 オービュロンはとりあえず後ろの青年に気付いてもらうよう言葉を続けた。



「ワタシのコトは後でイイデス!トニカクコノ人を助けてクダサイ!」
「……後ろ。―――ッ?!」
「邪神の邪気…。ワリオ殿と同じようなものですか?!」
「……いいや。邪気に蝕まれているのは同じだが……こんな状況は初めてだ。だが、話している場合ではなさそうだな。あんた、その男をソファに寝かせてもらえるか」
「承知シマシタ!」
「(この声…。もしかしてオービュロン殿なのですか?)」
「数珠丸。あんたは毛布を借りてきてくれ。体温が下がっているんでな…。生きているのが不思議なくらいだ」
「すぐに取ってまいります」



 青年からワリオと同じ邪気を感じた者の、青年の意識があるようには見えなかった。更に、顔や腕、足に黒い蔦のような文様が浮かび上がっているのは初めての光景だった。
 彼の生気があまりないことから、猶予は残されていないと判断した大典太はすぐに青年をソファに横たわらせることをオービュロンに指示した。その間に、数珠丸に毛布など暖かいものを持ってくるように頼む。
 オービュロンが静かに青年を横たわらせる。白と黒が目立つ不思議な髪型をしており、元々色白なのだろう。しかし、今はそれが生気を感じられない程に青白くなっていた。
 恐らく、彼を蝕んでいるのは全身に広がる黒い蔦が原因だと大典太は結論を付けた。それが悪の神"アンラ・マンユ"の仕業によるものだとも。試しに彼の手に触れてみると、その身体は驚くほどに冷たくなっていた。本当に、心臓の鼓動が続いていることが奇跡に思えた。


 急がなければ青年の命はない。そう判断し、自分の霊力を手に集中させ、青年の心臓部分にかざす。そして、彼の身体に自身の霊力を送り込んだ。
 すると―――。青年の身体が淡く光り出し、ぱきりという音と共に黒い蔦が粉々に砕け始めた。大典太の霊力で、青年の身体を蝕んでいる呪詛を1つずつ丁寧に砕いているのだろう。
 粉々になった黒い蔦は、重力に従い床に落ちて消滅していく。オービュロンは黙って見ていることしか出来なかった。



「アノ、みつよサン。コレハ…」
「……あぁ。あんた、オービュロンか。気付けなくてすまんな…」
「ア、イエ。今はイイノデス!コノ方カラ出ているソレ…。わりおサンを暴走サセテイタものと一緒デスカ?」
「……そうだな。ワリオを蝕んでいた邪気と同じものだ。何故こんな文様として現れたのかは分からんが…。あいつらとは違って、こいつの精神ではなく身体そのものを蝕んでいたように思える。
 あんたが連れ帰るのがもう少し遅ければ、死んでいたかもしれんな」
「シ……ヒッ…!」



 大典太が淡々と推測を口にする間にも、青年にまとわりついた文様は少しずつガラスのように砕け散っていく。彼が発した"連れ帰るのがもう少し遅れていれば、彼は死んでいた可能性がある"。その事実を改めて言葉として受け取ったオービュロンは、思わずひゅ、と喉を鳴らした。
 本当に間に合ってよかった。あの判断は間違ってなかったのだと、必死に自分に言い聞かせた。


 また、しばらく彼らの様子を見る。青年の顔色も少しずつ良くなっているように思えた。ぱきり、ぱきりという不気味な砕ける音も少しずつ小さくなっている。呪詛の解呪がもう少しで終わりそうだと誰もが思った。
 後ろから静かに歩いて来る足音が4つ聞こえた。後ろを振り向いてみると、毛布をかかえた数珠丸と、バケツを持った前田がそこにいた。数珠丸は道中前田と鉢合い、事情を話し蒸しタオルを準備していたのだった。
 前田は生気を失った青年の姿を見て、その顔を歪ませる。彼にも悪の神の邪気が感じ取れたからだった。



「大典太殿。お持ちしました。念のために前田殿にご協力いただき、蒸し布もご用意いたしました」
「……ありがとう。そこに置いといてくれるか」
「大典太さん。彼は……あの神の呪いを直に受けてしまったのですか」
「……そうだろうな。誰かを庇ったか、誰かを助けようとしたか…。詳細は分からんが、あの神がなにもないのに不要に術をかけるとは思えない」
「モウ少し遅れていたら、手遅れにナッテイタ…ソウデス」
「成程…そうなのですか。ファインプレーですね、オービュロン殿!」
「ファ?!気付いてイタノデスカ?!」
「えっ。声で気付きますよ。まさかお二人共、気付かなかったのですか?」
「…………」



 その場を取り繕うように沈黙が流れる。一瞬気付かなかったのは事実だが、刀種が違うせいだということにしておこう。彼らはそう結論付けた。前田は不思議そうに首を傾げていた。
 その間に、青年を蝕んでいた最後の蔦のひとかけらが床に落ちて割れる。それを確認した後、大典太は彼から手を離した。既に彼の命を削る呪いは取り去った。大典太はそう判断した。



「……身体を纏っていた呪詛は全部取り除いた。後はこいつの体力が回復するのを待つだけだな…」
「ふむ…。ですが、ソファで休んでいては回復するものも回復しないのでは?―――先程ラルゴ殿に事情を話し、医務室の使用許可を得てきました。そこのベッドに寝かせましょう」
「……確かに。言われてみればそうだな…。こいつは俺が背負っていく。医務室の鍵は」
「既に借りております。準備万端です!」
「早く行きまショウ!」




 大典太が青年を背負う。男性にしてはあまりにも細く、軽いその身体。もしかしたらきちんと食事が出来ていないのかと心配になるが、体温は少しずつ戻って来ていた。オービュロンがソファに寝かせた時とは比べ物にならない程だった。これならば、彼の意識が戻るのもそう遠くはないだろう。
 一同は青年に衝撃を出来るだけ与えないように気を付けながら、医務室への道を急いだのだった。

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 ( No.59 )
日時: 2022/03/23 22:06
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 病院の個人用の一室を少し広げたような部屋。それが議事堂の医務室である。
 前田に鍵を開けてもらい、部屋に素早く入り青年をそっとベッドに横たわらせる。体感、大分体温も戻って来ていた。意識は失っているものの、その顔色を見れば連れてこられた当初とは天と地の差だった。
 眠り続ける青年を見て、前田が眉を潜めながらこんなことを口にする。



「大丈夫なのでしょうか…。ワリオ殿やおそ松殿とは違って…悪神の呪詛を直接その身に受けてしまったのでしょう?」
「……結果論にはなるが、手遅れになる前に解呪は完全に出来た。命に別状はない筈だ…」
「後は無事に目覚めてくださることを祈るだけ…ですが、そこは本人次第ということになりますかね」
「一体彼に何ガ…」



 青年に響かないように、声のトーンを落としながら会話を続ける。オービュロンはその中で、ふと頭に浮かんだことを彼らに話してみようと思った。青年を背負って戻ってきた時に一緒に持ってきた、謎の卵について聞こうとしていた。
 話の腰を折って悪いが、と枕詞を付け加えながらも、オービュロンは卵を全員に見せた。しかし、彼らはそれを見ても首を傾げたり、不思議そうに見つめるのみ。知っていそうには思えなかった。
 それでも、彼は一応この卵について話すことを決意した。



「コレ、コノ人が倒れていた近くに落ちていたンデス。何カ分かる人、イラッシャイマスカ?皆サンの反応からシテアマリ期待はシテイナイノデスガ…」
「以前ヨッシー殿に彼の種族が産む卵を見せていただいたことがありますが、それとはまた模様が違いますね。何の卵なんでしょう?」
「彼の傍に落ちていたのですか。彼に関係するものなのでしょうか…」
「……起きてから纏めて話を聞くことにしよう。現状、俺達は何も分からない。その前提で話を進めても、余計に話がこんがらがるだけだ」
「それもそうですね」



 卵については誰も心当たりが無かった為、一旦話を切り上げることにした。
 その後、今後を交えながら小声で話を続けて30分程経った頃―――。青年の身体に動きが見えた。呻くように小さく声を出したのを前田が気付いたのだ。更に、眉も少しだけだが動いている。
 無事に目覚めそうだ。命を救えたことに大典太は安堵した。"意識を取り戻しそうです!" 前田の言葉を耳に入れながら、青年の起床を待つ。













「……ぅ、う……?」



 呻き声をあげながらも、青年はゆっくりとその眼を開いた。寝かされている。誰かに助けられたのだろうか。
 寝ぼけた頭できょろきょろと目線を泳がす。そうして一番最初に入って来たのは―――。借金取りのような風貌をした高身長の男の姿だった。
 まさか、スパイクタウンでエール団が何かやらかしたのか。しかし、今のジムリーダーは自分ではなく妹である。では何故ここに危険な雰囲気を纏った男がいるのか。
 その前に、ここがどこなのかを聞かなければならない。記憶を辿り、最後に覚えていたものを思い返す。そうだ、ユウリを助けようとして襲われ、意識を失っていた筈だ。病室のような場所で気を失ったのではない。
 青年は掠れた小さな声で、目の前の人物達に問うた。



「すみません。ここは…どこですか?」
「ココハ"りれいん王国"トイウ国の中にアル、城下町デス。アナタ、城下町の郊外に一人倒れられてイタノデスヨ?」
「時は一刻を争う状況でしたので、処置を施して医務室で休んでいただいていたのです」
「…………。あー。つまり、あなた達は借金取りでもなんでもない、と。寧ろおれを助けてくれたんですね。ありがとうございます」
「……借金取り」
「大典太さん、駄目ですって落ち込んじゃ!」
「……二回目だ。ちょっと傷付いた」
「申し訳アリマセン…」



 随分と派手な身なりの割に、口から出る言葉は至極丁寧である。時折ぶっきらぼうに聞こえるものの、しっかりとした教育を受けた青年なのだと一同は判断した。
 自分が助けられたと分かり、青年は丁寧に彼らに向かって礼をした。あまりにも垂直に、綺麗に腰を曲げられた為一同は一瞬戸惑っていた。
 しばらく様子を見ていると、青年はそのままむくりと起き上がる。先程の言葉について考えているようだった。



「それにしても…。"リレイン城下町"。聞いたことのねぇ名前ですね」
「ご存じない。ということは…"新しく混ぜられてきた世界"の住人なのでしょうか?」
「主君に色々調べてもらった方が良さそうですね」



 大典太がサクヤに状況を説明しようと、無言でスマートフォンに手をかける。新しく混ぜられてきた被害者ならば、それこそ故郷がどこにあるのかを調査してもらわねばならない。最悪、世界の全てが溶けあって消えてしまっているのであれば、今後のことも考えなければならなかった。
 彼の腕が動いたと同時に、青年が思い出したように目を見開く。そして、大典太の方を見つめた。



「あ。そういえば…今思い出しましたよ。そこの黒髪のあんた。カブさんが似たような姿の"刀剣男士"とやらを助けるために動いていたと言っていたような記憶があります。確かに…話に聞いた容姿にそっくりですね」
「カブ…?」
「あっ!大典太さん、エンジンシティの件ですよ!エンジンシティのジムリーダーのお方!確か、その方のお名前が"カブ"だったと思います!」



 何故彼が刀剣男士を知っているのか。何故彼がエンジンシティのジムリーダーの名前を知っているのか。
 ぽんぽんと口から出る情報に大典太は一瞬固まった。彼は何者なのだ。彼は―――カブと知り合いなのだろうか。
 思考がぐるぐると回る中、大典太は思わず"知っているのか"と上ずってしまう。耳がいいのか、その言葉を青年はキャッチした。そして、申し訳なさそうにこう答えたのだった。



「知っているも何も、おれの"元同僚"です。説明が遅れて申し訳ないね」
「元、同僚デスッテ…?!」
「自己紹介が遅れました。おれの名前は"ネズ"。ガラル地方にある"スパイクタウン"という町でジムリーダーをやっていました。既に妹にジムリーダーの座は譲っているんですけどね」



 申し訳ない、と青年は頭を下げて自己紹介をした。
 彼の名はネズ。元スパイクタウンのジムリーダーであるシンガーソングライターだ。ガラル地方は実力でジムチャレンジの順番が決まる。ユウリが新ガラルチャンピオンの座をダンデから奪い取ったシーズンにて、7番目のジムリーダーを担当していたことから実力は相当なものだと思われる。
 "今はしがないシンガーですよ"と言っているが、今もポケモン勝負の腕が鈍らないようにガラルの色々な場所で音楽を作りつつポケモンを鍛えているのだという。

 "ガラル地方"という言葉を聞き、一同はやっと納得が行った。彼がこんなにも状況を理解するのが早い理由は、彼が前にも一度同じような経験をしている―――。"コネクトワールドの融合に巻き込まれた"世界の住人だったからである。



「成程。呑み込みが早いのもそのせいでしたか…」
「ガラル地方が以前"コネクトワールド"とやらの現象に巻き込まれたことはユウリから聞いています。―――その時も変な場所にマリィ…妹と一緒に投げ出されたので。地方全体が残っていたことが幸いでした。でも、スパイクタウンに戻るまでに相当時間がかかりましたよ」
「……そう、だったのか」
「その反応を見るに、多分スパイクタウンは"ない"可能性が高いんでしょう?」
「すみません、上手く説明が出来ないのですが…その可能性が高いと思います」



 以前はガラル地方全体が残っていたから良かった。しかし、今回の場合は話が違う。急に現れたという"人工都市"も、恐らく彼が行ったことのある街の可能性が浮上した。
 そうなると―――。街そのものが切り離れていると考えると、ガラル地方の他の町や施設に関しては"完全に混ぜられた"可能性の方が高かった。彼の故郷、スパイクタウンでさえも。
 その事実を悟ってしまい、しょんぼりとした顔をする大典太。そんな彼をネズは困ったように励ました。"ま、おれの予測なんできっと外れてはいると思いますがね"と。他人を気遣うのがとても上手い人間なのだと、彼の困り顔を見ながら大典太はふと思った。

 このままだと空気が悪くなると思ったのか、オービュロンが話題を変える為にネズに抱えている卵を見せた。彼はそれを見た瞬間、不思議そうに目を見開いた。



「ポケモンのタマゴ…。どうしたんです、これ」
「アナタの傍に落ちてイタノデス。心当たりは無いのデスカ?」
「うーん…。すみません。タマゴを育てていた記憶はありませんね。まぁ…どのポケモンのタマゴかは分かりませんが、そのまま持ち歩いていればいずれ産まれるでしょう。
 ですが、どこから流れ着いてきたか分かんねぇと不気味に思うのは仕方のない話です。知り合いがどこにいるか分かりませんが……連絡が付けば調査を頼んでみますよ」



 ネズは"ポケモンのタマゴ"だと言い切った。しかし、彼のポケモンのものではないらしい。
 どこから流れ着いてきたのか分からないが、もしかしたら知り合いと連絡が付けば調査をしてくれるかもしれない。そう彼らに話し、ネズは自分のスマホロトムに指示をする。"ホップに連絡をしてくれ"と。
 しかし、彼がそう話したと同時に。ホップではない誰かから通知が来たのだった。



「キバナから連絡が来てるロト~!」
「キバナ?!」
「キバナ…殿?とは…」
「キバナも元同僚です。ナックルシティのジムリーダーをしています」
「成程…。出てあげた方がよろしいのでは?かなり賑やかに鳴り響いているようですが…。通話を繰り返し行っているのでは?」
「ハァ…。分かりました、出ましょう」



 ネズがため息をつきながらスマホロトムに通信を受領することを伝える。すると、スマホロトムの画面がぱっと切り替わった。そこに映っていたのは、オレンジの被り物が映える、褐色の男性だった。鼻をすすっているところから、恐らく泣いているのだろうと推測出来た。
 彼が通信に応答したことに気付き、キバナはスマホロトムに迫る勢いで叫んだ。



『ネズ~~~~~!!!!!!やっと繋がったぁ~~~~~!!!!!』
「ノイジーですよキバナ。でも今は助かりました。丁度ホップに連絡を入れようと思っていたところなんで」
『まずは生きていたことの報告だろ!!!順番が逆なのオマエは!!!オレさますっごく心配してたんだからな~~~~~!!!!!』
「それはお世話かけましたね。みっともないからスマホロトムから離れやがれ」



 ネズの声がスマホロトム越しに聞こえるのか、画面の向こうでダンデやマリィらしき声も耳に入ってくる。妹は無事だったのか。その事実だけで、ネズの表情は穏やかになった。
 しかし、今はそれどころではない。知り合いがいるのならば早めに合流せねばならない。スマホロトム越しで無事が確認出来たとはいえ、いつまでも知らない街に世話になる訳にはいかなかった。
 "今彼らはどこにいるのか"。それが、ネズの今一番知りたいことだった。



「今どこにいるんですかおまえ」
『シュートスタジアムだよ。ネズも早く来てくれ!オマエの無事を皆に知らせるからよ!』
「アノ"人工都市"…。しゅーとすたじあむ、と言うのデスカ?朝、八百屋ノ奥サンからだいやもんどしてぃの北側に巨大な人工都市が現れた、トイウお話を聞きマシテ」
「正確には"シュートシティ"ですね。確かにあそこはローズが設計した人工都市…。おれが思いつく、話に合う場所はそこしか思いつきません。
 その人工都市というのも気になりますし、そもそもそこがシュートシティであるならばおれは行かなければなりません」
「……病み上がりなんだ。明日でも…」
『ええっと…ネズ。そこにいるバンドマンみたいな人、ネズが雇ったのか?』
「雇ってません。おれを助けてくれた人達です」
『そうだったんだ…。ちょっと急ぎで話したいことがあるからさ、もし起きたばっかりなら申し訳ないんだけど…なるべく早く来てくれ。ダンデも待ちぼうけだし』
「元々そのつもりでしたよ。余所者が、あまりこの街に迷惑をかける訳にもいかないからね」



 キバナは不思議そうにネズの周りにいる人物を見ていた。しかし、彼が邪険に扱っていないことから"彼が今話が出来ているのは彼らのお陰だろう"と何となく悟った。ネズは、自分が気に入らない人間にはとことん塩対応なのだ。
 いったん切りますよ、と詫びを入れスマホロトムの通信を切った。懐に仕舞いつつ、ネズはすぐにシュートシティに向かわなければならないことを彼らに話した。



「ということなので。妹を待たせている上、おれが行方不明扱いにされたらたまったもんじゃねぇ。もしついて来るというのならば、案内しますよ」
「…………」



 ネズはまっすぐこちらを見ている。見定めるような目ではなく、純粋に助けてくれた恩に報いるという気持ちの表れだった。
 大典太は少し悩んだ末、彼についていくことを決意した。一振だと何かと不便なこともある。そして、ポケモンがいるとはいえシュートシティまでの道中に何があるか分からない。そのことも考え、数珠丸もついていくことを話した。
 オービュロンと前田はここに残り、ラルゴに事の一部始終を説明することになった。



「では、行きましょうか。あんたの話だと、ダイヤモンドシティという街の北にシュートシティらしき場所があるんですよね。シュートシティの案内ならできますが、流石に行ったことのねぇ街の案内は無理なので…。ダイヤモンドシティの道案内はお願いできますか?
 シュートシティの建物は目立つので、建物が見えれば後はおれが先導できます」
「ハイ!本当はワタシがついて行ければイインデスガ…」
「……気にするな。俺もダイヤモンドシティについては少し分かってきたつもりだからな」
「ア、アト…ねずサン。コチラノたまご…お返しシマス」
「おれのって決まった訳じゃないけどね。預かっておきます。拾ってくれてありがとうございます」




 そう言いつつ、オービュロンからタマゴを預かった。ほんのりと暖かい。もう少し歩けば孵化が始まりそうだとネズは悟った。
 大勢の知り合いと妹を待たせている為、少し急がねばならないと大典太と数珠丸に話す。彼らは黙って頷いた。ついて行くと決めたからには、ネズに従うことを約束した。
 前田とオービュロンに一旦別れを告げ、1人と二振は議事堂を後にする。そして、未知なる人工都市に向かって出発したのだった。


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