二次創作小説(新・総合)
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 繋がる世界と未来の物語【Ep.03-ex完結】
- 日時: 2022/10/12 22:13
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
―――これは、"全てを元に戻す"物語。
それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。
どうもです、灯焔です。
新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
また、オリジナルキャラクターも登場します。
苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2
<目次>
Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17
Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37
Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53
Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67
Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89
Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130
Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148
※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54
Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111
Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151
※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108
Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163
<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150
最終更新日 2022/10/12
以上、よろしくお願いいたします。
- コメント返信 2021/09/10 ( No.10 )
- 日時: 2021/09/10 00:25
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Z28tGAff)
どうもです。灯焔です。
新シリーズ始まってから初めてのコメ返です。前は書き方が悪かったと自負しております。
誰だってあんな書き方されりゃあタイミング見誤るわな。申し訳ございません。
>>柊 様
どうもです。コメントありがとうございます。
初っ端から悪夢で始まる新シリーズ。一体どんな教育をしてきたんだこの筆者。
邪神はサクヤを精神的に追い詰めようとしているので、一番信頼している姿をとって心を折ろうとしている訳ですね。そりゃぽっきりと。
ルークに助けられ入院から約1ヵ月。無事退院することが出来ました。
光世さん、鬼丸さんは霊力を使い果たし、今だ深い眠りについています。さて、起きるのはいつになることやら…。仲間の大切さを心から知ってしまった以上、寂しさという感情を覚えるのも当たり前です。
前田くんもあの世界に取り残されたまま。無事であればいいんですがね。
落ち込んではいられないとルークに電話をしようとしますが、連絡手段がないことにサクヤは気付きます。
誰が入れたのかは分かりませんが、白いスマホが上着から出てきました。もしかしたらゼウスの力が、サクヤに必要なものに変化したのかもしれません。神様は恐ろしい存在ですが、味方になればなんて頼もしいのでしょう。浮気性は勘弁ですが。
ルークにかけようとした矢先、ナデシコから電話がかかってきました。個人的にですが、あんな美魔女は他に類を見ません。めっちゃかっこいいのでゲームもやってみてください←
電話の中に出ていたローブ姿の男ですが、なんかローブという表現、前のシリーズにあったような…?それに、アンラに強奪された刀剣で、唯一取り返せなかった刀剣が一振、あったような…?
ナデシコに相談を持ち掛けられ、力を貸す為に彼女に会いに行くことにしました。これからどうなるんでしょうか…。
一方ルーク。例の殺人事件のゴタゴタがひと段落したようです。
パンケーキのことを思い出していると、モクマから電話が来ました。彼から再び告げられる、ナデシコからの招集。チェズレイのカマかけが失敗していることから、相当隠しておきたいことなのかもしれません。
権力を使いルークに無理やり休暇を取らせたナデシコ。ミカグラ国際警察で一番偉い人ですからね彼女←
他の3人と合流する為、飛行船でミカグラ島へ。道中の白い光は…まぁ、フラグだったりするんですがねー。
アーロンが何故ルークのことをドギー呼ばわりしているのか、飛行船で何があったのかに関しては、是非ゲームを遊んでみてください。一応深いネタバレは避けるようには描写しております。
そんな中、チームBONDが再会します。元気そうなサクヤを見つけ、ルークも安心していました。
チェズレイのリムジンも原作ネタです。彼は公共交通機関に乗ると鳥肌が立つのだそうです。やってみてね←
オフィスナデシコに到着し、早速本題に入りましたね。
サクヤの話はどれも信ぴょう性に欠ける、かつ現実離れした内容。彼女も信じてもらおうと思って話した訳ではありません。
そうですね、現実に近い世界観なので刀を堂々と持ち歩いていては警察のお世話になってしまいますし、神様なんて言われても反応に困るのが普通です。
某大○セブン回凄く面白かったからまたやってほしいなー、某ひな壇番組…。
そんな中、速報で白い光のニュースが流れました。こんなニュースの後なので、サクヤの正体等も深く突っ込まれはしませんでした。彼女に問い詰めている時間があるなら、自分達の身の安全を確保する方が優先です。
タイミングが悪すぎる速度上昇。このままでは不味い、更に調査している時間も無い。
白い光の正体は一体何なのでしょうか。彼らはどうなってしまうのでしょうか。今後の更新をお楽しみに!
>>おろさん 様
どうもです。コメントありがとうございます。
お久しぶりでございます。あれは書き方が悪かったので私の責任でございます。申し訳ございません。
コネクトワールドがどうなってしまったのか。無事なんでしょうか。前作の最後の展開からして無事ではありませんね。果たして仲間達は無事なのかどうか…。
サクヤは光世さんと鬼丸さんの機転で地に足をつけられています。きっとひとりぼっちだったらそこでゲームオーバーであったでしょう…。
異世界…すなわち、バディミッションBONDの世界です。れっきとした任天堂のゲームなので、もしご興味がありましたらやってみてくださいね。
少年漫画のように熱く、そして感動できる令和で最高のADVゲームです。正直に言います。令和で一番面白いゲームです、これ。スマブラに参戦してくれないかなぁ…。どうぞ、バディミをよろしくお願いいたします。
話が逸れて申し訳ございません。大変なことになってしまいましたが、果たしてどうなってしまうのやら…。今後の展開をどうぞお楽しみに!
暖かいコメントありがとうございます。執筆の励みとなっております。
今後とも当作品をよろしくお願い申し上げます。
- Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 ( No.11 )
- 日時: 2021/09/10 01:09
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Z28tGAff)
「どうするんですか?時間が無いんですよね?」
「そうですけど…。何も情報が無いんじゃ動きようもないですよ!」
「そりゃあ分かる。けどさ、俺達がここでじっとしていたら手遅れになる。おじさん、そんな気がするんだよね」
速報で流れてきたニュースは繰り返し同じ話を続けており、事の重大さを一同に刻み込ませていた。
『門』のありかを探そう、と彼らが動き出した矢先で速度を上げた白い光。いささか意図的にも見える事象だが、何も情報が集まっていない今の状態でどう動くのが "最善" なのか。ルークには測りかねていた。
どうすれば全員が助かる道を切り開けるのか。どうすれば誰一人の犠牲もなくこの危機を突破できるのか。
……そんな彼の耳元に、小さく聞き覚えのある声が聞こえてきた。周りに気付かれない様、チェズレイが耳打ちをしているのだ。もしかしたら彼が打破する何かを閃いたかもしれない。そう考えたルークは、考えることを一旦辞めて彼の言葉に耳を傾けてみることにしたのだった。
「……ボス。時間が無い、かつ我々が持っている情報が0に等しい。かなり不利な状況ですね?」
「あぁ。それは分かっているよ。だからこそこの危機を打破しようと何かを考えているんだ」
「ならば…。 "過去の事象" をその情報に宛がってみては?」
「過去の…事象?」
「えぇ。丁度そこにいるではありませんか。 "恰好の情報" が、ねェ……?」
そう言って、チェズレイはちらりと横目でサクヤの方を見やった。
そこでルークはとある考えに行きついた。現地で情報を集められないのならば、過去の事象から推測を立てればいい。多少事情を知っているサクヤから『門』についての情報を聞き出せれば、突発的な策くらいは思いつくかもしれない。
ルークはチェズレイに小さく礼を言い、サクヤに向かって話しかけた。
「サクヤさん!あの…『門』の形状は覚えていますか?!時間が無いので手身近に話します。
門を潜ることで別の世界へ移動が出来るのなら…。白い光が僕達を呑み込むタイミングで、逆に『門』を潜ってしまいたいと今思いついたんです」
「えっ…?!でも、『門』を潜ったからって安全だとは限らないよね?」
「でも、何も対策をせずに白い光に呑まれる方が危険だ。僕はそう思っています。
時間が無いんです。見た目とか、大きさとか。知っていることがあれば教えてください」
「……成程。承知しました。しかし、ここで話している時間が勿体ありません。何か移動手段があれば、その中で話しましょう」
「ならばすぐに車を用意してこよう。何、地下にプライベート用のものを置いてあるからな。君達はオフィスの入口で待っていてくれ」
白い光がミカグラを覆い始めている以上、立ち止まって話をする時間はない。サクヤはそう答えた。
ならば車の中で移動しながら話そうとナデシコは足早に部屋を出ていった。部屋に残っていたルーク達も後れをとるまいと、手荷物だけを用意し部屋から素早く立ち去った。
―――この部屋に、再び戻ってこれる日が来ることを祈って。
ルーク達が入口まで降りてくると、既に藍色のセダンが彼らを待ち構えていた。
運転席の窓から顔を乗り出し、ナデシコが "乗れ" と催促をする。時間がないのは全員分かっていた為か、無言で車に乗り込む一同。最後に乗り込んだアーロンがドアを閉めた瞬間、セダンはエンジン音を響かせ猛スピードでオフィスを離れていったのだった。
「いやー…。相変わらずナデシコちゃんの運転はワイルドだねぇ~」
「慣れたものだろう。だが、これでも安全運転は遵守しているつもりなんだがな?前とは違って、今は公に警察のトップなのだから」
「そうですね…。それでサクヤさん、『門』の外見を教えてくれませんか?分かることだけでいいので」
「『門』…。皆様が聖堂や教会の入口や通路で見るような門だと思っていただいて構いません。基本的に陶器で出来ている為、遠くから見てもそれが分かるデザインをしているはずです。
大きさですが…。これは門によって様々なので何とも言えませんが、人が通れる大きさで、先程私が申し上げた特徴と一致するならば『門』と思っていただいて構わないと思います」
「つまり、陶器の柱を見つけりゃいいんだな?」
「お、アーロン!僕の考えを読んでくれたんだな?!」
「気持ちの悪ぃこと言ってんじゃねぇ」
「つまり…。ルークはこう考えている訳だ。サクヤちゃんから門の大体の見た目を聞き出して、それをアーロンの並外れた視力で探してもらう。そして、白い光がこっちに迫って来た時にその門に車をダイブさせる…って寸法かい」
「はい。随分な賭けになりますし、もし門がなければ策自体がおじゃんになってしまいますけど…」
「……サクヤ嬢は『一定の間隔で門が発生する』と仰られていました。そこから推測すれば、ブロッサムのどこかに門があってもなんらおかしくはありません。
―――それが、我々の通るルートにあるかどうかはそれこそ賭け、ですがね。……悪くない考えだと思いますよ、ボス」
セダンが街中を走る中、ルークはサクヤに先程の話の続きを促していた。
彼女曰く、門は陶器で出来ている。しかし、大きさはまちまちで一定ではない。しかし、人間が一人通れるサイズが少なくともある。以上のことが分かった。
彼の考えを読んだのか、アーロンが "その門を見つけりゃいいんだな" と口を挟んで来た。ルークもそう思っていたようで、心なしか彼の表情が明るくなったような気がした。
彼らの連携の速さにサクヤが関心をしていると、運転していたナデシコが静かに語りかけてきた。
『頼もしいだろう?私のかつての駒、は』
と。
彼女の言葉を聞いたサクヤは、改めてナデシコが恐ろしい存在なのだと思ったのだった。
見晴らしのいい噴水広場でアーロンは天窓を開け、ブロッサムの様子を伺う。
聴こえてくるのは静かな水の音と、夜風が木々を揺らすそよそよとした草木の音だけだった。特に違和感があるとは思えたが、彼はもう一度目を凝らし周囲を見回してみる。
「(…………。―――ん?)」
噴水広場の右の林の奥。一瞬だったが、夜を彩る光にはふさわしくない『白』が彼の目に映った。
間違いない。ニュースで流れていた白い光そのものだ。
アーロンはすぐにセダンの天窓を閉め、ナデシコに話す。『終わり』が近付いてきていることを。
「おい。白いのがこっちに向かって来てやがる!!」
「えっ、流石に速すぎない?!もうブロッサムを呑み込み始めてんの?!」
「陸地に降り立ってからのスピードが更に上昇しているのでしょう。怪盗殿、門は見つかったのですか?」
「いいや、まだだ。だが…もう少し迫れば見えるかもしれねぇ」
「分かった。そのポイントを教えてくれ。移動しよう」
アーロンが見える位置まで移動する為、ナデシコは再びセダンのエンジンをかけた。
噴水広場を離れ出した途端、ルーク達にも遠目に見えてしまった。飛空船で小さく見えた、あの白い光が。ブロッサムの街を次々に呑み込んでいく光景が。
ナデシコが車を走らせた先は、街中から少し離れた丘だった。ビルなどが立ち並んでいない方が、アーロンの視界の妨げにならないと考えたのだろう。
アーロンは再び車のボンネットを開き、そこから辺りを見回す。光は勢いを増していた。先程までいた噴水広場も、もう数秒で呑まれるところまで来ていた。
そこを中心に、じっと広範囲を見続けていると―――。アッカルド劇場の付近の道路に少しずつ迫っている光に、陶器のような何かが見えた。
「そこか…!」
「アーロン!どこにあるのか分かったのか?!」
「あぁ。あの劇場の近くだ!!急げ!!」
「劇場って…アッカルド劇場?」
「そうだよ!あの一番デケェ劇場だ!」
「少し距離があるが…。行こう。到着する頃にどうなっているかは知らんがな」
「劇場…。門がそこに上手く辿り着いてくれればいいんだけど…」
場所を伝えると、アーロンがボンネットのロックを掛け終わる前にナデシコは丘を出発した。言葉通り、ここからでは少し距離があるのだろう。
バランスを崩しモクマの膝の上に頭を一瞬乗せてしまったが、持ち前の身体能力で席に座り直す。そんな彼を無視し、セダンは劇場の方まで走って行った。
劇場付近に車が到着した頃には、辺りが白く覆われていた。ナデシコの予測とは打って変わって、劇場を覆うまでには行かなかったようだ。
彼女は劇場の近くに止め、アーロンに再び門の場所を探る様に頼む。賑やかだったはずの街並みは夜の暗闇に溶け込んでしまっていた。
ボンネットを外し、天井から頭をアーロンは覗かせる。目の前に迫る白い光に臆さず目を凝らす。すると―――。
「(……そこか。交差点のど真ん中だった場所につっこみゃ丁度門にぶつかる頃合いだな)」
無言で車の中に戻り、再びアーロンはボンネットを閉めた。様子を聞いたナデシコに、彼は結果だけを叫んだ。
『交差点のど真ん中に門が見えた。真っすぐつっこみゃ潜れる!!!』
「……随分と分かりやすい場所に現れたもんだな。だが、助かった。感謝するよアーロン」
アーロンの声を聴いたナデシコは、アクセルに足を乗せた。そして、助手席に座っているスイと後ろに座っている残りの面子に改めて確認を促した。
「今からアーロンの指定した場所に車を動かす。皆、覚悟は出来ているか?」
「いや、覚悟はとうの昔にできちょるけども。ナデシコちゃん…。これ、もし『門』とやらを潜れなかったらどうなるのさ?」
「モクマ。失敗することを考えるとはお前らしくないな。サクヤも言っていただろう?どうなるか分からない、と。目の前にそれを回避できる術があるのならば、成功する道に進むことだけを考えろ。
まさか、アーロンの視力を信用していないわけではあるまい?」
「…………」
そう言いつつ、彼女はエンジンを思いっきり踏んだ。セダンが猛スピードで前進する。
振動で後部座席に座っていた5人の身体が揺れるも、お互いを掴んでいたお陰で飛ばされることはなかった。そんな中、サクヤは二振の太刀をぎゅうと緩く握る。縋っているのかもしれないが、彼らからの反応はない。
今はただ、門を上手く潜れることを祈るしか出来なかった。
全速力でセダンは白い光に突っ込んでいく。それに応えるかのように、地面を走る光も道路を白く染め続けていた。
ぐんぐんと速度を上げた車は、丁度交差点のど真ん中に差し掛かったところで白い光に呑まれた。
自分達を包み込む光に思わず目を強く瞑ってしまう一同。
駄目だったのだろうか。しかし、横目に陶器の柱が見えた。これは門の内側なのか、外側なのか。それは誰にも分からなかった。
そのまま―――彼らは意識を閉ざしてしまった。まるで眠りにつくかのように…。
彼らを乗せた車は、『門』に呑み込まれるように消えていった。
車の最後方が門を完全に潜った後、それは最初から無かったかのように跡形もなく消滅してしまった。
そのまま、白い光はブロッサムを―――強いては、彼らの住んでいた穏やかな世界を白く染め上げたのだった。
- Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 ( No.12 )
- 日時: 2021/09/11 00:25
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Z28tGAff)
―――終末の世界。邪神によって造り変えられてしまった、かつてのコネクトワールドは現在そう呼ばれていた。
アカギと共に本部が跡形もなく崩壊したことを確認した後、各々情報を集める為アクラルは彼と別行動をしていた。しかし、1年程経った今でもサクヤのことも、本部のことを知っている存在の情報が表に出ない。
まるで意図的に隠されているかのようだ、とアクラルは時折湧いて来る不安に陥る。それでも青空は変わらない。澄み切った空は、呆然として立ち尽くしている朱雀を優しく照らしていた。
「あれから1年近く経ったような気がするが…。サクヤの気配すら感じねー。まさか…クソ邪神に消されたとかねーよな?!」
口にしてはいけない言葉が思わずぽろりと零れ、思わず空いている片手で口を塞いだ。
これだけは言ってはならなかったのに。力を分けた双子の神。それがアクラルとサクヤだ。自分を生み出してくれた大切な妹の死を想像するなんて、兄のすることではない。
最悪の事態を想像し真っ青になるも、彼はぶんぶんと首を大袈裟に横に振った。信じたくなかったからだ。愛する妹の死等。
「駄目だ、駄目だ!お兄ちゃんが最悪の事態想像してどーすんだ!!」
自分に言い聞かせるようにそう叫び、アクラルはサクヤに関する不安をに無理やり蓋をした。
このまま立ち止まっていたらいつ同じ考えに陥るか分からない。足を動かして無心でいた方がいい、と考えを切り替えた彼は歩いていた道を再び進み始めた。
アクラルが現在歩いているのは、まるで城下町のような場所だった。しかし、街はもぬけの殻だった。夜ならばまだ分かるが、今は太陽が上っている。真昼間だ。
普通ならば、これほど大きな街ならば誰かしら人間がいてもおかしくない。しかし、人の気配すらしないのだ。正に無人。壁や掲示板などにまだ使った形跡がある為、人がいなくなってからそれ程経っていないのだろうとは推測できるのだが…。
アクラルはこの城下町に不自然な不気味さを覚えていた。
「街っつーから誰かに話を聞きたかったんだがな…。誰もいりゃしねー。こんなにデケー街に、多分あの奥のデッケー城はこの街を治めている奴らの城なんだろ?
……なんで、誰一人の生気もしねーんだ」
ため息を零しても、聞こえてくるのは自分の吐息だけだった。
しかし、人がいないのならば長居をしている暇はない。歩き疲れて少し休みたいとは思っていたが、生活をしていた形跡がある以上、勝手に休むわけには行かない。
この街は諦めて、次の街で情報を集めようと足を動かし始めたアクラルの背後に、その場には似つかわしくない音がした。
思わず後ろを向いた彼の瞳に映ったものは―――。
――――――覚めるような銀色に輝く、1台のセダンだった。
車が地面についた感触を覚えたサクヤは思わず目を開ける。無事に門を潜り、別の世界に飛んでいけたのだろうか。
とりあえず、この場所がどこなのかを確認せねばならない。今だ気絶しているルーク達を起こさないように静かに動きながら、セダンの扉を開ける。
扉の向こうには、懐かしい顔があった。夢ではないかと目をぱちぱちと瞬きさせ、もう一度見る。目線の先に、羽のような白い長髪をなびかせた双子の兄がいる。
夢ではない。幻ではない。これは現実だ。サクヤは確信した。
「……サクヤぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!!」
号泣しながら突進してくる兄に、先ずは手刀を喰らわせた。再び会えたのは本当に嬉しいが、抱擁する程ではない。サクヤはそう思ったのだろう。
鈍い音と共に痛がるアクラルの悲鳴が木霊する。その声が目覚ましになったようで、半開きになっているドアから金髪が顔を出した。
「けほっ…こほっ…。あれ、サクヤさん…?」
「あっ。ルークさん…。起こしてしまわれましたか。申し訳ありません」
「いや…。確認、なんですけど。僕達、生きているんですよね?」
「はい。地面に足がついているので生きています。―――ルークさん。申し訳ありませんがナデシコさん達を起こして、車から降ろしてはいただけませんでしょうか」
「わ、わかりました!」
"生きている" その言葉を聞き、どっと安堵の表情に包まれたルークだった。しかし、周りの仲間やナデシコ、スイは今だ気絶したままだ。
サクヤに頼まれた通り、先ずは後ろの座席に座っていた3人を起こす。3人を車から下ろした後、ナデシコとスイの目を覚まさせ各々の座席から下ろしたのだった。
車から降りてきた見慣れない人間を前に、アクラルは疑問符が取れないままでいた。
何故彼らがサクヤと共にいるのか。そして、一緒にいる筈の大典太や鬼丸がどうして彼女と共にいないのか。自分の嫌な予感は当たっていたのか。アクラルの顔が再び青くなる。
「……確かに、兄貴が顔を青くなるのも否定はいたしません。実際私はアンラにコネクトワールドから切り離され、時の狭間に落とされたのですから」
「そうだったのか…って。サクヤの気配が全くしなかったのって…。コネクトワールドにいなかったからじゃねーかよ!うわー!俺の嫌な予感当たってたぁ~~~!!!」
「私も生死の淵を彷徨いましたが…光世さんと鬼丸さんが助けてくれたようなのです。その代わりに、顕現する霊力すら失い、今は深い眠りについています」
「はぁ…。アカギと別行動しながらサクヤ探しても見つかんねーしよ、俺本当に死んじまったかと思ったんだよ……ぐずっ……!」
「あの…。水入らずなところすみません。そちらの方は?」
「あぁ、すみません。こちらの背の高い男は私の双子の兄です。兄貴、彼らが私を病院まで連れて行ってくださった方々です。ほら、挨拶を」
アクラルが号泣しているところにルークが横やりを入れてきた。
このままではこの男のサクヤについての心配を延々と聞かされるのだという予感がしたからだ。ルークに気がついたサクヤは、素早く彼にアクラルを紹介する。
サクヤがこの世界に戻って来た経緯を話すと、アクラルは納得して改めてルーク達に頭を下げたのだった。
「……つまり、だ。サクヤ。君の兄がこの場所にいるということは…。この世界は、君がかつて管理していたという『コネクトワールド』と考えてもいいんだろうか?」
「いや、そうじゃねー。もう…コネクトワールドっていう世界は存在しねー」
「え?じゃあ、今いる場所ってどこなの?」
「私達の乗った車は無事に門を潜り、サクヤの世界とは少し違う場所に到着した…。そう考えて良いのかもしれないな」
「理解が早いですねナデシコさん?!」
「おや?ルーク。君はもう少し事態を柔軟に考えることを覚えた方がいい。そもそも、我々がこの場に無事に立てているのも現実離れした行動を起こした結果じゃないか」
「それは、そうですけど…。次々に突拍子もないことが起き続けて、正直頭がついていけていません…」
ナデシコとルークのやり取りを呆れた目で見つつ、アクラルはこの世界がどんな世界なのか、軽く説明をすることにした。
……とは言うものの、実はアクラルもアカギもそこまでこの世界について知れている訳ではない。それ程までにサクヤの探索に感情が向いてしまっていたからだ。
全部を知っている訳ではない、と前置きをしたうえで、アクラルは話を進め始めた。
「さっきも言った通り、この世界は『コネクトワールド』じゃねー。アンラのヤローが造り変えちまったんだよ。コネクトワールドの跡形も無い状態にな」
「そう、だったのですね…。では、コネクトワールドに混ぜられた皆様は?」
「アカギは無事だ。だがよ…。それ以外の仲間を未だに見つけられてねー。俺がそっちに目を向けてられなかったってのもあるが、考えられる可能性は…。コネクトワールドごとアンラの造った『新しい世界』に混ぜられちまったってことだろーな」
「混ぜられた…。サクヤ嬢も仰っておりましたね。では、元々貴方がたが管理をしていた世界に住んでいた方々は…。現在は跡形もなく塵になっている可能性が高い、と…」
「ちげーよ、ちげー。そうじゃねー。この世界自体が造り変えられたモンに混じったんだ。アンラのヤローが邪魔だと思ってなけりゃ、命に関わる問題にはなってねー筈だ。あいつは高めて高めて高めたところで一気に突き落とすタイプだからな…」
「えむぜさん達は無事だ、と…」
「あぁ。そうだと信じてーが…。実際にこの目で見てねーからな…」
「つまり…。俺達が今まで住んでいた世界も、あの白い光に覆われる形で混ぜられちまった、と。ってことは、この世界歩いてりゃミカグラっぽいところにもありつけるかもしれないねぇ」
「はい。あの白い光は消滅させるものではなく、大地を混ぜて転移させる類のものです。最も、人間が巻き込まれた時の命の保証は致しかねますが…」
「とにかく。ミカグラの人達が無事ならわたしは問題ないよ。探しに行けばいいだけの話だから」
「…………」
アクラルから聞いた話。それによると、この世界は悪の神アンラ・マンユがサクヤを時の狭間に突き落とした後に造り変えられた世界だということが分かった。
コネクトワールドもその造り変えられる際に "混ぜられた" 。だから、本部で崩壊に巻き込まれたとしても無事ではあるだろう、と。
ルーク達の世界も消えたのではなく、この世界と高確率で融合したということが分かり、スイの表情が和らぐのが見て取れた。気丈に振る舞っていても、故郷を失う恐怖は何物にも耐えがたいだろう。
彼女とは対照的に、話を聞いてばつの悪そうな顔をアーロンはしていた。彼の表情を見て、ルークは彼の慕っている姉―――『アラナ』という女性のことを心配しているのだろうと悟った。
ルークとアーロンが出会ったのも、彼女を救う道中で、だった。彼にとっても大切な存在であることは明白だった。
「アーロン。アラナさんは大丈夫だ。きっと何事もない。ハスマリーでいつも通りに過ごしてるよ」
「……余計なこと口走るんじゃねぇ」
「不安になるのも分かるけどねぇ。一瞬でミカグラ覆っちゃったんだもん」
「ですが、ミカグラも無事であればハスマリーも無事であるのは明白では?この世界のどこかで、怪盗殿の姉君は生きておられると思いますがねェ」
アーロンを慰めている光景を見守っている最中、アクラルは思い出したように自分の懐から短刀を取り出した。
本部が崩壊する前に、サクヤの部屋の中で回収した前田藤四郎の刀だった。サクヤが時の狭間に飛ばされてしまった影響を受け、顕現は解かれ何の反応も無い。
忘れないうちに彼はサクヤに話しかけ、前田藤四郎を彼女に返したのだった。
「前田を顕現させられるのはお前しかいねーだろサクヤ。……きっと、すっげー心配してると思うからよ。早く起こしてやれよ」
「あっ…。そう、ですね。ありがとうございます…。前田くん…。刀を兄貴が拾ってくださっていたのですね」
「偶然見かけたかんなー。もし見つけられてなかったら今頃…。あの瓦礫の下だったかもしんねーかんな…」
「…………。本部のことは後程確認するとして、先ずは兄貴の言う通り前田くんを顕現させましょう。―――光世さんと鬼丸さんの手入れもしなければなりません」
そう言うと同時に、彼女は受け取った短刀に力を込め始めた。
優しく、淡く輝く青い光と共にそれは少年の姿を取り、淡い光が消えたと同時に現れたのは―――。
『………主君っ!!!』
目を涙で溢れさせ、目の前の主に抱き着く栗色の髪の少年だった。
「……俺の時は全力で拒否した癖に!ずるい!!」
「あのですね。成人男性と少年の違いです。それに、兄貴に関しては日頃の行いです」
「なんだよーーー!!! 妹を愛する気持ちは前田にだって負けてねー!!!」
「さすがのあにぎみでも…今回ばかりはゆずりませんからっ……!」
「前田くん…。心配をかけさせてしまい本当に申し訳ありません。―――主、失格ですね」
「いいえ!こうして無事に戻ってきてくださったのです。僕はそれだけで安心しています!!」
「―――全く。貴方の言う通りですね光世さん。 "契約するんじゃなかった" などというのは…。非常に馬鹿げた言葉なのだということを今、改めて思い知りました」
「サークーヤー!!!俺も抱き着いていいだろーーー!!!俺達血を分けた兄妹なんだぞーーー!!!」
「兄貴。恥を知りなさい」
「いてっ!!」
前田をそっと抱きしめながらアクラルに再び手刀を入れるその光景に、彼らを見守っていたモクマは "見覚えがあるなぁ" と顔を綻ばせたのだった。
- Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 ( No.13 )
- 日時: 2021/09/12 00:36
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Z28tGAff)
しばらくサクヤの腕の中でじっとしていた前田だったが、ふとサクヤの腰に帯刀していなければならないものが "ない" ことに気付いた。
まさか、別の世界に堕とされてしまったのだろうか。不安になった彼は思わずサクヤにそのことを問う。大典太と鬼丸の刀の行方を。
前田の言葉でサクヤはハッとした。堂々と刀を見せびらかしてもいい世界にいてまで、二振をキーホルダーのままにしておく理由はなかった。
すぐに腰にぶら下げてあるキーホルダーに触れ、力を込める。すると、小さな飾りはみるみるうちに形状を変え、彼女の腰に帯刀する形に戻ったのだった。
「主君、まさか大典太さんと鬼丸殿の本体を…」
「申し訳ありません。この形状のままルークさん達の世界を歩いていたら、彼らと合流する前に警察にお世話になりそうだったので…」
「その僕が警察なんですけどね…。というかサクヤさん、わざわざ小さくして持ち運んでいた…ということは、その刀は本物だったりするんですか?」
「はい。特に優れた名刀と呼ばれている五口の刀。 "天下五剣" と呼べば分かるでしょうか」
「へぇ…。大層良いモン持ってんじゃねぇか」
「てんか……えぇっ?!」
「そら隠すように持ち歩くわな…。値打ちモンどころじゃないお刀よ?」
刀を元の大きさに戻したことにルーク達は驚いたが、その後に彼女から告げられた言葉の方にもっと驚愕していた。
宝石専門の大泥棒でも、その名前くらいは知っていた。そんな大層な刀をどうして彼女が持っているのか。保護されるべきではないのか。唐突に浮かんだ様々な考えがルークの頭の中をぐるぐると駆け巡る。
混乱を避ける為、これは本物から分裂して刷り上げられたいわば "分霊" だとサクヤはルークに説明した。本霊、つまり刀の本家大本は別の世界でしっかりと管理されているのだと。
「この刀を精製しているのは霊力…。分かりやすく言えば、魔法を使う為の源のようなものが必要です。私が持っているから具現化が出来ていますが、それを持たない一般人には持てない代物なのですよ」
「そ、そうだったんですね。てっきり僕本物を使っているのだと早とちりしていました…」
「そもそも本物ならば、有事の際に抜いて闘ったり致しませんし…。歴史的価値のある美術品なので…」
「ですよね…」
「あ、あの。主君。そろそろお話を元に戻してもよろしいでしょうか?」
「すみません。話が脱線してしまいましたね。前田くん、貴方が顕現を解かれた理由は…私が時の狭間に飛ばされた―――。いわば、『コネクトワールドから切り離された』ことが原因です。
その後、どうしていたのですか?意識が途切れているのは重々承知しておりますので、分かる範囲で良いです。教えていただけますか?」
とりあえず、サクヤは前田が顕現を解かれた後のことを聞いてみることにした。人の姿を維持出来なくなっていることから意識がない可能性がある、とも考え "無理はしなくてもいい" と言葉を付け加えた上で。
「権限が解かれる朝、僕は数珠丸殿と協力して眠っている三日月殿と大包平殿を襖の向こうに運んでいたんです。その最中でした。急に視界がぼやけて来て、何か主君にあったのではと思いいても経ってもいられず穴の外に出たんです。
でも、最後に見た景色はそれが最後で…。そのまま意識を失ってしまいました。主君の気配も感じることが出来ませんでしたし、ずっと心配をしていたのです」
「そうだったのですね…。穴の外に出てくれていたからこそ、兄貴に見つけていただけた、と。……重ね重ね申し訳ございませんでした」
「主君が無事だから、いいんです!顔を上げてください。それで…。大典太さんと鬼丸殿は権限をしないのですか?」
「…………」
前田がその言葉を口にした瞬間、サクヤの表情が曇った。
大典太と鬼丸に、いくら自分の力を注いでも人の形を取らない。それすなわち、人間の姿を維持するだけの霊力がないということに他ならない。
重い口を開き、前田に自分が助かった経緯を話す。大典太と鬼丸の霊力のお陰で、今自分は地に足をつけていられるのだと。
「本当であれば、アンラに時の狭間に落とされた時に私の命は潰えている筈でした。ですが…光世さんと鬼丸さんが自らの霊力を限界まで使って、私をルークさん達がいる世界まで飛ばしてくれたようなのです。
その代償に…。お二振は深い眠りにつきました。手入をしなければ、再び顕現することはおろか…。刀が折れてしまう危険性があります」
「そう…なのですか…」
「落ちた異世界が霊力に関係しない世界なのは幸いでした。無駄な消耗は避けたかったですから…。が、造り変えられたとはいえ、元はコネクトワールドだった土地も混ぜられています。戻って来た以上、光世さんと鬼丸さんの霊力を回復させねばなりません」
サクヤから告げられた真実に、思わず顔を伏せてしまう前田だった。
自分がもっと早起きをして彼女についていけば、大典太や鬼丸に霊力を使い果たす選択肢を突きつけなくても良かったのではないか、と。ただ…。アンラに抵抗できない以上、どうしようもなかったのは明白である。
落ち込む前田にサクヤは "手入をする為本部に行きたい" と続けざまに告げた。右も左も分からないが、アクラルの言葉で本部だった土地は残っていると確信が持てたからだ。
彼女にはまだ彼らを手入できる可能性が残っている、と信じていた。
「サクヤ…。本部に行きてーのは分かるが、さっきも言った通り跡形もなく潰されちまって、入れる余地がねーよ。手入出来る場所も全部潰されちまってる。
俺達を邪魔だと思ってサクヤを時の狭間に飛ばしたってんなら、本部をボロボロにするのは納得できる話だ。奇跡的に無事だったとしても…。使えるとはとても…」
「……いえ。あの場所が無事ならば手入が出来る筈。厳密には、あの場所に繋がる代物、ですが…」
「中の物も全部潰されちまってる。……それでも行く、ってんなら止めねーけどよ」
隠し部屋が無事ならば、その中に手入が出来る設備は整えていた。
あの地は神域にも近い場所。本部の本格的な手入場よりも、戦いで擦れた刀を癒す為に隠し部屋の手入場を使っていることの方が多かった。
しかし、あの場所にいく為には掛け軸を通る必要がある。あの掛け軸さえ無事ならば、と思ったが。アクラルはただ静かに、本部の物も全て壊されたとだけ伝えた。
その言葉を聞きサクヤは少しだけ狼狽えた。彼の言うことは確かに理にかなっているからだ。アンラにボロボロにされたのであれば、掛け軸が無事だとは思えない。
しかし…どうしてもサクヤには実際に目で確かめなければ納得できない、心残りがあった。それが大典太と鬼丸を助けることが出来る唯一の方法ならば、尚のことだ。
悩むサクヤの元に、ルークが顔を出した。先程の話が聞こえてしまっていたようで、 "差し出がましいことではありますが" と前置きをした上で2人にこう提案をした。
「完全に破壊されていても、何か遺っているかもしれません。跡地を調べてみるのも、選択肢としてはありだと思います」
「ルークさん…?」
「すみません。先程の話、耳に入ってきてしまいまして…。前田くんのように、サクヤさんが今掲げている刀にも、彼のような人格が宿っているんですよね?」
「あぁ。そうだよ。一般的にはアイツらのことをみんな "付喪神" って呼んでるらしい。物が長い年月を得た結果生まれた、物に宿る神。そんなとこだな」
「なら、猶更行きましょうよ!眠るほどまでに力を使い果たしたのは本望かもしれませんけど。このままずっと離れ離れは辛いと思います。サクヤさんも、その刀に宿っている付喪神も…」
「…………」
「心当たりはあるんですよね?なら…それが無事かどうかだけでも、見に行きませんか?僕も一緒に行きますから!」
ルークは、このまま彼女達が永遠に会えなくなる可能性を示唆しているのだろう。
だからこそ行ってみるべきだ、と。彼らを助けられる方法がそこに残っている可能性があるのならば、調べてみる価値はある、と。
様々な事件を調査することで解決に導いてきたからこそ、ルークはその言葉を語気を強めて言えたのだった。
そもそも、サクヤは本部に行こうとしてアクラルに止められていたところである。ルークが一緒に行ってくれるのだというのならば、こんなに心強いことはない。
彼女に渦巻いていた小さな不安は、いつの間にか彼の言葉にかき消されていた。
「心当たりは…あります。あの掛け軸さえ無事なら…何とかなると思います。私も思っていたのです。実際に見てみるまでは諦めたくないと。
ルークさんのお陰で決心がつきました。跡地に―――本部跡地に、行ってみたいと思います」
「主君。今回は僕も一緒に行きますからね!もう二度と離れ離れはごめんです。勿論、大典太さんと鬼丸殿ともまた会いたいですから!」
「ん。決めたんなら俺は止めねー。オメーにも何か考えがあるってことなんだからな。だけど…。サクヤ、どうすんだ?本部の跡地とこの場所、少し離れてんだよな…」
「それならば問題ありません。私が龍に戻ればいいだけのお話ですので」
表情を変えず、まるで当たり前のことだという顔でサクヤはそう口にした。
人間ではないと聞かされてはいたが、まさか本当に戻れるとは思っていたなかったようだった。ルークとモクマの開いた口が塞がらない。驚いていないのは、ナデシコだけだった。
話し合いの結果、サクヤと前田、そしてルークも一緒に行くとはいえ、全員がここの土地については右も左も分からない状況だ。もう1人ついて行った方がいいとのナデシコの提案で、モクマが3人と一緒に行動することになった。
「俺はアカギ達呼び戻してくるぜ。……ま、サクヤの気配なんてとっくの昔に気付いて飛んで向かってるのかもしれねーけどな」
「それに…。この城下町のような場所。少し気になるところがありますので、私は少し単独行動を取らせていただきます」
「オイ。おっさんとドギーがいねぇからって勝手な行動取るなよクソ詐欺師」
「……フフ。御心配には及びません。貴方がたに害のあることは致しませんよ。ボスに怒られてしまいますからねェ…」
「行くんなら、ちゃんと光世と鬼丸も起こして戻ってこい!―――例え無理でも、そのことを正直に俺に話すこと。いいな!」
「はい。兄貴、こちらのことはよろしくお願いいたします」
「お兄ちゃんに任しとけ!」
アクラル達に見送られ、サクヤ達4人は早速本部へ向かう為、近くの原っぱへと移動を始めた。
サクヤが元の姿に戻ると、その大きさで街を破壊してしまう恐れがある為だ。人が住んでいる形跡がある以上、むやみやたらに壊すことを彼女は良しとしていなかった。
十分な広さを確認した後、サクヤは前田達に少し離れているように指示した。
3人がそれに従いその場から離れると、サクヤは元の姿に戻る為無心になり集中を始めた。彼女の周りを水を纏った風が覆い始め、待っていた前田達の視界を覆う。
強い風が吹き止んだと同時に3人は目を開けた。そして―――目の前に現れた "モノ" に、絶句した。
「……おぉ?」
「えっ」
「しゅ、主君…?」
風が覆っていた場所にいたのは小柄な女性の姿ではなかった。
青色と金色が混ざり合った、美しい東洋龍がそこにいた。
思わず見とれてしまう程の美しさに、その場にいる誰もが言葉を失う。
「本当に神様だったんだな…」
ルークは確信したようにそう言った。サクヤの言葉を信じていなかった訳ではないが、この姿を見てしまっては最早否定の言葉すら浮かぶことはないだろう。
前田は龍の姿の主を初めて見たのか、硬直して動けずにいる。これほど大きな存在だとは思わなかったのだろう。
彼らと対象に、モクマは意気揚々と龍の背に飛び乗る。その行動にルークが委縮したが、モクマは問題ないことを彼に伝えた。
「おーいルーク!早く乗れってサクヤちゃん催促してるぞー!」
「そんなに簡単に飛び乗っちゃっていいんですか?! ……女性なんですよ?!」
「性別はあってないようなもんだから気にしない、ってさ」
「気にしてください!! ……じゃなかった、モクマさん。龍の翻訳までマスターしたんですか?」
「んーん?仕草から推測して伝えてるだけだよ~。だから、間違ってる可能性も高い!」
「……流石に龍の言葉までは僕、分かりません。秋田や五虎退なら分かるかもしれませんが…」
「と、とにかく僕達も乗ろう!あまり他の人を待たせるわけにもいかないからね!」
「しょ、承知いたしました!」
呆れているんだか呆れていないんだか、金色の龍はグルル、と小さく唸った。
ルークと前田がしっかり背中に掴まったことを確認した後、龍は本部の跡地に向かって移動を始めた。
速すぎず、遅すぎず。道中、ルークは空を見てみた。世界は変わっても、自分達が住んでいた場所と変わらない青空。それが、彼の視界に広がっていたのだった。
金色の龍はそのまま瓦礫が広がる、かつての拠点へと向かって進んでいったのだった。
- Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 ( No.14 )
- 日時: 2021/09/12 22:00
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Z28tGAff)
車が到着した場所から30分程は空を飛んだだろうか。
空から見下ろす世界は、自分が思い描いていたものとは随分と違う様に前田には見えた。かつて主が守るべき世界だったあの場所は、もうないのだ。その事実にチクリと胸が痛む。
ふと、彼の目線の先に瓦礫が積み重なった場所が見える。前田にはその場所に覚えがあった。あの場所で主と出会い、彼女の夢を一緒に追い続けようと決めた、思い出の場所。
かつて本部であったものが、前田の瞳に映った。
目的の場所に到着し、3人は地上に降りる。そして、人に再び擬態するというサクヤを待ちながら瓦礫をよく見てみることにした。
アクラルの言葉通り、頑丈なのが取り柄の1つだったかつての本部は跡形もなく崩れ去っている。これも全てアンラがやったのだろうか、と前田の表情が歪んだ。
サクヤも素早く小柄な女性の姿に擬態し、本部であったものを見る。アクラルから話は聞いていた為覚悟は出来ていたが、あんまりなその惨状に彼女の心も痛んだのだった。
「ここに建っていた場所に、サクヤさん達は住んでいたんですね」
「はい。かつて我々が守り通す世界であった場所の、繋がりの礎として。そして、困っている方々の手を差し伸べられるような場所になればいい、と建設をしたのです」
「あんまりです…!これではどこからでも入れないではありませんか!」
「その気持ちも分かります。僕も、これまで酷いとは思っていなかったので…」
「大典太さん…鬼丸殿…」
悲しい表情をするサクヤと前田を何とか慰めようとルークは積極的に口を開くが、ただでさえ思い出の場所を不当に潰されたのだ。その悲しみが分かる以上、自分がどうやっても心の闇が晴れないことは分かり切っていた。
それでも何とか彼女達の背中を押して、せめてサクヤが探している部屋の入り口だけでも見つけたいとモクマに相談しようとルークは彼の方向を向いた。しかし、そこには誰もいなかった。
彼が元々忍者を輩出している里の出身であることは分かっている。しかし、2人を差し置いて何をしているのだろう。あまりにも神出鬼没ではないだろうか。
思わず口をついてその言葉がぽろりと零れると、反応するかのようにモクマが現れた。
「モクマさん…。こんな時にどこに行っちゃったんだよもう…」
「おじさんのこと呼んだ~?」
「う、うわぁっ?!」
「チェズレイだってふらっとどっかに行っちゃうこと多々あるし、そんなに驚くことじゃないでしょ!おじさん、悲しい…」
「驚いたことはすみません…って!どこに行っていたんですかモクマさん」
「ん?ちとあの瓦礫の山に近付いて偵察をね。こんな崩れ方しちゃったらどうしようもない、って思っちゃうのも分かるけどさ。まだ諦めちゃ駄目だよ。
おじさん、こういう狭いところの潜入とか得意だからさ。ルークは分かってるだろ?」
「(あの細いダクトを軽々と通ってたもんな…)」
話を聞いてみると、どうやらモクマはかつての本部を調べに行ってくれていたらしい。
忍者だから、と上手くはぐらかす彼に心の中でツッコミを入れつつ、ルークは何か見つけたのかを改めてモクマに問うた。
すると、彼はとある一点の山を指さした。よく見てみると、そこに小さな空洞があるのが分かった。
「人っ子が1人くらいなら通れる穴が残ってる。大きな瓦礫が積み重なって通路みたいになってんだな。で、入口に色々積み重なってたお陰で入れないように見えてただけみたいだ。
もしかしたら、そこから中に入って行けばサクヤちゃんの使っていた部屋に繋がるかもしれないね」
「モクマさん…」
「諦めるのは簡単だけど、可能性が残されてるならおじさん、諦めないように足掻いた方がいいと思うんだけどね。……まぁ、おじさんも殺されそうになってからやーっと気付いたことなんだけどね。だから、行ってみようよ」
「……確かに、その穴からあの部屋に繋がる掛け軸が見つかれば…光世さんと鬼丸さんの手入が出来ます。―――駄目な時はその時、ですよね。
ありがとうございます。行ってみましょう」
「主君、僕も一緒ですからね!」
「はい。勿論です」
モクマからの助言を聞いたサクヤは、なんだか背中を押された気分になった。
瓦礫の中に通路が出来ているのなら、何か使えるものがまだ残っているかもしれない。モクマの言う通り、何も調べないまま諦めるのは彼女のポリシーに反していた。
前田も共に向かうと自らを奮い立て、わずかな可能性にかけつつ彼らは空洞がある場所まで移動を始めた。
穴を見つけたモクマが先頭となり、4人は穴の前にある瓦礫をどかしながら中へと進んでいった。
確かにこの辺りの場所は、大きな瓦礫が積み重なって1本の通路のような造りになっていた。サクヤも言った通り、本部は頑丈に造られている。だからこそ、アンラが壊しても完全に粉々には出来なかったのだとルークは推測した。
「サクヤさんも先程仰っていた通り、崩れた…にしては、割と大きな通り道が残っていますね。頑丈だったのは本当なんだな」
「元々この建物は地震や災害に強くなるように設計してあります。そう簡単に崩れる代物ではございません」
「だから、だろうねぇ。サクヤちゃんの思い出をぶっ壊したくても、完全に粉々にすることが出来なかった。だからこそ、俺達もこうやって瓦礫の中に入って調べ物が出来るんだけどさ」
談話を続けながら瓦礫の中を進んでいると、サクヤがある一点の場所で足を止めた。
何かあったのかとルークは問いかける。すると、懐かしむように彼女は言った。 "この場所が、自分の部屋だった場所だ" と。
思わずルークはその場所を見てみる。そして驚いた。
部屋であろう場所の一部が、壁にひびが入った程度で済んでいるということに。そして、そこにかけられている掛け軸が傷一つなく点在していたのだ。
「こんなに瓦礫が出来ているのに、ここの壁だけヒビの損傷だけで済んでいる…。この掛け軸のせいなのかな?」
「掛け軸…。あっ。主君、これってあの掛け軸ではないですか?!」
「掛け軸に至っては埃一つついてない…。これ、特別な代物だったりするんですか?」
「凄い高級品っぽそうってのは俺でも分かる」
「まさか…。こんなに無事な状態で見つかるとは思いませんでした。この掛け軸…。本来であれば誰から頂いたものかも定かではないのです。
かつて本部を設立した次の日、誰も住所を知らない筈なのに速達で送られてきたものだったのです」
「もしかしたら…何か高名な神様の加護がついていたりしてね」
モクマが放った言葉で、サクヤはハッとした。掛け軸が無事ならば、向こうの空間に行けるのではないか、と。そう考えたのだ。
彼女はその考えを実証する為、恐る恐る掛け軸に触れその場から下ろしてみた。
「……あっ」
「穴が…穴がありましたよ主君!」
あの空間に繋がる穴があったのだ。吸い込まれるような深い暗闇を示すそれは、時の狭間に落とされる前と同じ形状を保っている。ここを潜ればあの隠し部屋に行けるのだと。サクヤはそう確信していた。
念の為ルークとモクマにも穴が開いていた場所を見てもらったが、2人は話を聞いても首を傾げるばかりだった。
それも当然のことだった。この穴は神聖な場所に繋がる通路であり、例え善意の塊のような人間でも、人間である以上は行くことが出来ない場所だからだ。……即ち、見える筈がないのだ。
やはり穴を通っていけるのは、現状だとサクヤと前田だけだった。手入をしている間、瓦礫がいつ落ちてくるか分からない危険性の中で待たせるわけにも行かない。
「黒い穴…はありませんでしたけど、きっと僕達には見えない"何か"が、サクヤさん達には見えているんでしょうね」
「ルーク、どんどん適応力が上がっているね~。感心感心!」
「突拍子もない出来事が次々に起これば流石に慣れますよ…」
「これから我々はその黒い穴を通って別の場所に向かうのですが…。通路があるとはいえ、いつ崩れ始めるか危険と隣り合わせの状況です。
……申し訳ありませんが、瓦礫の外で待っていてはもらえませんでしょうか?」
「僕達が大典太さん達の手入をしている最中、安全である保障はどこにもありませんからね。僕からもお願いいたします!」
1人と1振が深々と頭を下げると、ルークとモクマは快くそのことを承諾してくれた。
元々自分達がこれ以上関われない領域なのなら、首を突っ込まずに外で待っていようと最初から決めていたのだ。
「お二人の言うことももっともですし、それに…。僕達は皆さんの無事を信じていますから」
「手入した後の付喪神さんと一緒に戻って来てくれるのを待ってるよ。良い祝い酒もどっかから調達して来ようかな~?」
「右も左も分からない状況で、お酒なんて買えないと思いますけど…」
「ちっちゃいことは気にせんのよルーク~!ささ、この先はおじさん達の管轄外みたいだし、元いた場所に戻っちゃいましょ!」
愉快な会話を続けながら、ルークとモクマは通って来た瓦礫の通路を戻って行った。
彼らの姿が小さくなり、見えなくなる。無事に外に出たのだなと確認が取れた後、サクヤと前田は今一度黒い穴に向き直った。
「何故ここだけ無事だったのかは分かりませんが…。無事だったからこそ、光世さん達の手入が行えます。ここからは迅速に行きましょう。例え彼らが癒えても、戻って来た時に瓦礫に潰されていては意味がありませんからね」
「承知しております。主君の命、必ずお守り致します」
お互いに気合を入れ直した後、サクヤと前田は黒い穴を通って隠し部屋へと進んでいったのだった。
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