二次創作小説(新・総合)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 繋がる世界と未来の物語【Ep.03-ex完結】
- 日時: 2022/10/12 22:13
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
―――これは、"全てを元に戻す"物語。
それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。
どうもです、灯焔です。
新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
また、オリジナルキャラクターも登場します。
苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2
<目次>
Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17
Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37
Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53
Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67
Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89
Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130
Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148
※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54
Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111
Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151
※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108
Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163
<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150
最終更新日 2022/10/12
以上、よろしくお願いいたします。
- 注意事項 ※作品を読む前に必ずお目通しください※ ( No.1 )
- 日時: 2022/03/19 22:35
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
※注意事項※
・この作品は『逃走中#CRシリーズ』『AfterBreakTime#CR 記憶の軌跡』の続編にあたるシリーズのお話となっております。
上記作品をこの作品を見ていただく前に拝見していただくと、物語がぐっと理解しやすくなるかと思います。
・登場するキャラクターは全て履修済みの作品からの出典となります。
基本的な性格、口調等は原作遵守を心掛けております。しかし、表記上分かりやすくする為キャラ崩壊にならない程度の改変を入れております。
・原作の設定が薄いキャラクター等、一部の登場人物に関しては自作の二次設定を追加している場合がございます。
苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
・原作でモブ扱い(モブトレーナー等)されているキャラクターに性格等の設定をしている場合がございます。
予めご了承ください。
・誤字、脱字、展開の強引さ等見られる可能性がございますが、暖かい目でお見守りの方をよろしくお願いいたします。
また、展開の矛盾を起こさない様徹底して作成してはおりますが、もし矛盾が見つかった場合は申し訳ございません。
・コメント等はいつでもお待ちしております。積極的にコメントを下さると私も執筆する気力が上がります。
ただ、『1回の更新ごとに感想を送る』等安価をつけにくくする行動はお控えください。
・明らかに筋違いのコメントや中身のないもの、悪意のあるもの、宣伝のみのコメントだとこちらが判断をした場合、返信をしないことがあります。
また、誹謗中傷など明らかに悪意のあるものが散見された場合、管理人様に報告後このスレへの投稿を禁止することがございます。
・時たまこの作品の登場人物である『サクヤ』と筆者を同一視する読者様がいらっしゃいますが、彼女と筆者を同一視するのは絶対におやめください。
・この作品では数回に1回の頻度で『読者募集型小説』を執筆する予定であります。
募集はこのスレではなく、Twitterなど別媒体で行う予定です。
・取り扱いジャンルは別個記載いたします。ジャンルの登場人物が増えた際に更新致しますので、気長にお待ちください。
また、『このジャンルのキャラはいつ出てくるんだ』等の催促は絶対におやめください。
注意事項は今後増える可能性があります。
以上を守った上で、終末の物語をどうぞお楽しみください。
最終更新日 2022/03/19
- 取り扱いジャンル ( No.2 )
- 日時: 2022/08/20 22:03
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
※取り扱いジャンル※
・オリジナル
・刀剣乱舞
・バディミッションBOND
・ファイアーエムブレムシリーズ
・おそ松さん
・スーパーマリオシリーズ
・メイドインワリオシリーズ
・ポケットモンスターシリーズ
・pop'n musicシリーズ
・ダンガンロンパシリーズ
・星のカービィシリーズ
・白猫プロジェクト
・Miitopia
取り扱いジャンルは物語の進展で増える予定です。
以上、よろしくお願いいたします。
最終更新日 2022/08/20
- Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 ( No.3 )
- 日時: 2021/09/04 22:29
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: F1WKsNfT)
―――ここは どこだろう。
……とても 懐かしい雰囲気がした。
懐かしくも暖かな記憶。神々に捨てられた存在が、また『神』を信じてみようと思えるようになった場所。だが、そこは既に壊されて跡形も無くなっている筈だ。
―――では、何故そこにいるのだろう。疑問を思い浮かべながら、少女はぱっと目を開けた。
―――目の前には、未来を共に約束した大男が立っていた。目に入って来た景色も、懐かしんでいたかつてのものと一緒だ。だけど…どこか違う。自分はこんなに目線が低くない。大男の方が身長が高いことは分かり切っているとはいえ、首が痛くなるほどに見上げなければならない差では無かったはずだ。
更に、問題はそれだけではなかった。自分が経験した記憶を探ってみても、この『蔵』の景色が赤く染まっているものは無かった。……おかしい。
この異様な景色に気付き逃げようとするが、身体が動かない。叫ぼうとしても口が動かない。まるで陶器人形にでもなったようだ。だが、少女は必死に目線を動かし恩人を探す。
―――いない。
いない。自分をこの姿にしてくれた、人間への擬態をする方法を教えてくれた老人がいない。そもそも、この蔵に落ちてきた時に彼らが言っていたはずだ。
『俺達は老人の手により付喪神として顕現した』と。
その老人が、いない。しかし『かれら』はいる。何故、どうして。頭の中がその言葉で埋まり始めると同時に、少女は見てはいけないものを見てしまう。
月が。数珠が。鬼が。童が。床に転がっていた。
彼らを彩る鮮やかな衣装は醜く、赤黒く染まっている。服は所々が擦り切れており、そこには痛々しい生傷が残っていた。そのどれもに生気を感じない。まるで『かれら』の全てを否定するように。
少女は目線の真下にいた白い肌を掌でぺたぺたと触ってみた。触られることを嫌がる彼のことだ、こうすれば眉間にしわを寄せて "やめろ" と言ってくると思った故の行動だった。
だが、そんな少女の儚い希望は悉く打ち砕かれていく。触れた掌は赤く、触った彼がもう『生きてはいないのだ』と認識するのに時間はいらなかった。触れた腕は、氷のように冷たかった。
恐怖で足がすくむ少女の耳に、コツコツと聞きなれた靴音が響いて来る。目線を上にあげてみると、視界に広がったのは優しく微笑む黒い光だった。
見た目はたった一振生き残った刀剣男士に見えそうだが、そうではない。少女にもまた、彼の生気を感じ取ることは出来なかった。それを象徴するように、人間の心臓にあたる部分が抉れ、そこが黒い液体のような何かで塞がれている。
少女はすぐに気付いた。目の前の大男が『未来を預けてくれた大切な存在』ではないのだと。
少女は逃げようと身体を捻り始めるが、やはり目覚めた時の感触と同じだった。足も、腕も、身体が動かないのだ。それを良しとしたのか、目の前の大男は目線を少女に下げて、優しく抱きしめる。
暖かいはずなのに、彼の身体は冷えていた。真っ白な鬼と一緒だ。生きてはいないのだ。頭の中で分かってしまった瞬間、思わず目元から涙がポロポロと零れ落ちる。
こんなのは嫌だ。もうこんな悪夢から目覚めたい。少女は心からそう思った。
『あんたはどこの存在でも無くなったんだな。だから…こんな夢を見る』
優しく響いて来るその声は、未来を守ると誓い合った存在と全く同じだった。やめて。やめてくれ。頭の中で拒否反応を示す。
しかし、男の言葉の中で引っかかるものがあった。恐怖で支配される前に、男はなんと言ったかを思い返す。彼はこれを『夢』と言った。夢。悪夢。
男は彼女の考えを見透かすように、はっとした表情の少女にくつくつと喉で笑いながら言葉を続ける。
『『世界を守る』なんて…。守る世界もないのにどうするんだ?あんたが守るべき世界は、もうないんだ』
そうだ。男の言葉と同時に少女の頭がクリアになる。
自分に何が起きたのか。何故こんな夢を見続けるのか。……自分が守る世界はどうなってしまったのか。彼女には―――かつて神として世界を守っていた存在である彼女には、それを知る権利がある。
見えないだろうが抵抗だけはしておこう。睨むことでその考えを目の前の男に伝える。男はしばらく沈黙を続けていたものの、少女が全てを理解したことに気付き、感情のない声で言い放った。
『……もう少し遊んでやるつもりだったが…。まぁ、貴様の心を引き裂いても何も面白くはない。
いいだろう。守るべき世界を失っても尚『世界を守る』などと宣うならば……。
戻ってくるが良い。我が世界へ』
最後の言葉は、既に男のものではなかった。
声の正体に気付いた少女だったが、彼女が反応するよりも早く襲い来る強烈な光。目も開けていられないそれに、少女は顔を塞ぐことしか出来なかったのだった。
------------------------
「あ……」
カラカラの空気がひゅっと喉に入る。痛さに思わずぱちくりと瞬きをする。身体も軽く、気だるさは残っているものの夢の中よりはずっとマシだった。
やっとあの悪夢から目覚めることが出来たのか。覚醒しかかっている頭で、黒髪の女―――『サクヤ』は考えていた。
「最近……あのような悪夢をよく見る。何故なのでしょう」
開口一番に呟いた言葉はそれだった。そう。邪神に異世界に堕とされ、その世界の住人に助けてしばらく入院することになったのはいいものの…。時たま、今日のような悪夢を見る。前は、自分がかつて建てた『本部』と呼ばれる場所で血塗れの神々が倒れていた光景だった。その時も自らの近侍を模した『男』はいたな、と冷静になった頭で夢を整理する。
サクヤはこの世界の住人ではなかった。かつて守るべき世界があったが、一瞬の判断の謝りでその『守るべき世界』から切り離されてしまった。
その後、飛ばれた異世界で善良な人間に助けられ、長めの入院生活を送っていた。その善良な人間が見舞いに来てから二週間後。サクヤは順調に快復し、今日が退院する日だった。
退院。
その二言を思い出し、はっとなりながらサクヤは準備を始めた。体感的に一か月も入院していたのだ。その間に情勢が変わっているというのはよくあることだろう。
窓からは夏の終わりを告げるように、朝日が部屋を照らしていた。
用意された朝食を食べ終え、病院着から普段着に着替える。黒いインナーと青い法被のような装束に袖を通すのも随分と久々に感じた。この装束も気に入っているが、そろそろ衣替えもいいかもな、と着替えながら彼女は考えていた。
身支度が出来た後、サクヤは傍の机に置いてあった二振の太刀を腰に携えた。その折に少し力をぶつけてみるが、どちらからの反応も無い。彼らは主を助ける為、有り余る霊力の殆どを使い切り深い眠りについていた。
かつて自らがいた世界ならば武器を帯刀していてもよかったが、この世界ではそうは行かない。魔法よりも化学が発展しているこの世界で、武器を堂々と持ち歩いていたらどうなるだろうか。
以前自らの手伝いをしてくれた、白い学ランの青年の言葉を思い出す。病院から出たところで捕まってしまっては意味がない。そう思った彼女は、刀剣に再び手を触れ、キーホルダー状のような形にして腰にぶら下げた。
「これならば、武器だとは誰も気付かないでしょう。それにしても…。やはり反応が無い。声も気配も感じ取れないとは。
……心にぽっかりと穴が開いたようです。寂しさの象徴なのかもしれません」
ぽつりと零すように呟いたそれを、受け止めた者は誰もいなかった。
こんなところで感傷に浸っている場合ではない、と彼女は気持ちを切り替え、早速病室を出て受付まで歩いて行ったのだった。
「……あっ!おはようございます、お身体の調子は如何でしょうか」
受付で目線が合わさる。心配していたのだろう、係の女性がこちらに向かって笑顔を見せてくれた。嬉しい心遣いに沈んでいた気持ちもどことなく和らいでいくような気がした。
退院することを告げる為、速足で受付へと急いだ。軽く会話をしてみると、どうやらこの若い女性はサクヤが担架に乗せられて集中治療室まで走っていく病院のスタッフを目で見ていたらしい。ならば心配するのも当然だろう、と彼女の脳内で妙に納得したのだった。
「随分と衰弱なされていたとお話を受けまして…。快復されたようで何よりです」
「この度はご心配をおかけいたしました。お陰様でこの通りです」
「はい。ご退院おめでとうございます。どこからいらしたのかは知りませんが、あまり無茶をなさらぬよう。健康が一番、ですからね!」
「(……『健康が一番』ですか)」
女性が放った言葉にサクヤは懐かしさを覚えた。自分に仕えていてくれた短刀がそんなことを過去に言っていたような気がする。……顔を浮かべたと同時に、無事だろうかと心配が込みあげてきた。
一緒に飛ばされてきた太刀二振とは違い、彼はかつての世界に取り残されている。自分のことを忘れてしまっているのではないか、と不安が募る。
「あの…。私、何かおかしいことを発しましたでしょうか?」
「えっ? あ、いえ、大丈夫です。個人的なことなので」
「はぁ…。そうであればいいのですが。また体調を崩したら、すぐに病院にいらしてくださいね」
「はい。今回のことは本当にありがとうございました」
改めて礼をしたサクヤは、受付の女性に別れの挨拶を済ませ病院の自動ドアを潜った。
外に出た彼女の目に入って来た景色は……。それはそれは、綺麗な青空だった。
まるで、自らが守らねばならなかった世界…『コネクトワールド』の空と同じように。
- Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 ( No.4 )
- 日時: 2021/09/06 01:09
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: F1WKsNfT)
懐かしさを覚えたのは青々と広がる晴れ渡る空だけ。地面も、建物も、動いている人々も。全てがサクヤが見たことのない、初めて見るものだった。コネクトワールドと似ているようで全く違う異世界…。彼女は改めて『自分の守る世界から切り離された』ということを自覚した。
折角だから歩いてみようか。脳裏にそんな言葉が浮かぶ。しかし、サクヤはすぐにその思考を首を横に振って頭から消し去った。右も左も分からないのに、何故そんなことが出来るのだろうか。路頭に迷って苦労するのは結局自分。そう結論付け、まずはこの世界が"どこなのか"を把握することから始めることにした。
しかし、このまま棒立ちしている訳にもいかない。何か目につく場所があれば、この街がどんな場所なのか分かるかもしれない。サクヤはそう判断し、とりあえず歩いてみることにしたのだった。
街には穏やかな優しい風が吹きつけている。遊歩道も整備されており、道路を走る車が現代感を感じさせる。しばらく考えた後、彼女は再び立ち止まってしまった。そして、キーホルダーに擬態させた太刀を優しく握った。
「こういう時に、光世さん達が傍にいてくださったら…。どんなに頼もしかったでしょうか」
今はいないのに。一人で足を進めなければならないのに。頭では分かっていても、心の中にぽっかりと開いた穴が塞がることはない。サクヤはそれくらい、彼らに寄り添えないことに寂しさを覚えていた。
背中を預けられる相手がいないことにちくりとする心を何とか持ち直し、再び足を進めながらこれからどうすべきかを考えることにした。
―――しばらく歩いていた折だった。ふと、かつて見舞いに来てくれた金髪の青年の顔が思い浮かんだ。そこで彼女は彼が言っていたことを思い出す。
"すみません。急に仕事が入ってしまって…。何かあったら名刺の番号にかけてくれれば僕、出ますので。病み上がりなのでゆっくり休んでください。それでは!"
「……そういえば」
サクヤは歩きながら、上着のポケットに仕舞った筈の青年―――『ルーク・ウィリアムズ』の名刺を取り出す。
病室で見た通り、彼の名前を示す文字が印刷されていた。その下に小さく、2つの数字が並んでいる。どちらも数字は10桁であり、同じ間隔で数字の間にハイフンが印刷されていた。恐らくそれがルークの言っていた『電話番号』というものなのだろう。
得体のしれない存在である自分を理由もなく助けてくれた。軽く会話を交わしただけだが、どこか彼のことは"信用してもいい"と思わせる何かがあった。
「救急車を呼べた位置、ということは…。病院からそれ程離れた場所に勤務している訳ではなさそうです。電話をしてみましょう」
そこまで言葉にしたと同時に、彼女は再びハッとした表情になった。致命的な問題点に気付いてしまったからだ。
サクヤは連絡出来るものを持っていない。かつて開催していた大会でも、基本的に出場者への連絡は協力者に任せており、端末を所持していなかった。必要な会話は基本的に念話か拠点同士の通信だった。彼女は人間ではない。言葉を伝える為に、何か道具を使う必要が無かったのだ。
「スマホ…は、大会用に開発したものを触れていただけですし…連絡は基本、念話で行っていました。―――この世界が私の常識が通用しない世界である以上、念話は使えません。どうやって連絡を取ればいいのでしょう…」
感情が薄いはずのサクヤが珍しくあたふたしている。もしこの場に近侍の大男がいたのなら、"あんた、慌てているな。珍しい"と返す場面であるだろう。
何もないのに何かないかと上着のポケットに手を突っ込んでみると、ふと指先に違和感を感じた。違和感に掌で触れてみると、それは薄く固い板状のものだった。
恐る恐るその板状の物を取り出してみると、手に握っていたものに見覚えがあることにサクヤは気付いた。つい先程まで考えていた『スマートフォン』。それと同じものを握っていた。
真っ白なスマートフォンをサクヤが購入した記憶は全くない。ならば何故、とサクヤは頭に疑問符を浮かべる。
更に、このスマートフォンから懐かしさを彼女は感じていた。まるで、全てを受け入れ"前に進め"と激励してくれているかのような、見守ってくれているかのような感触を。
―――そこまで考えたところで、サクヤは気付いた。
「このスマホから……。ゼウス様の力を感じる……?」
ぽろっと口にしたその言葉をすぐにサクヤは否定した。現に彼の身体を乗っ取った邪神のせいで、彼女は今この場に降り立っているのだから。
完全に否定する寸前、サクヤは1つの可能性に思い当たる。自分と近侍の大男があの世界で見たのは、邪神に乗っ取られたゼウスだった。ゼウスは全知全能の神である。もし自分が乗っ取られることを読んでいて、力の残骸を他の神に託していたとしたら…?そう考えれば、このスマートフォンからゼウスの力を感じても何らおかしくはなかった。不自然に上着の中に入っていたのにも納得がいく。
「…………。今は考えても仕方がありません。連絡する術は見つかりました。早速ルークさんに連絡をせねば」
スマートフォンの通話画面をゆっくりと探し、名刺に書いてあった番号を打ち込もうとした瞬間だった。
唐突にスマートフォンが鳴り響く。真新しく誰の連絡先も入っていないのに、明らかに不自然過ぎる。しかし、このスマートフォンにかかってきているということは、自分に用事でもある誰かなのだろう。
もしかしたら時を同じくしてこの世界に飛ばされてきた知人かもしれない。淡い期待を抱き、通話画面に表示された名前をサクヤは見てみた。
そこには、『ナデシコ・レイゼイ』という文字が浮かんでいた。
「ナデシコ?」
『ナデシコ・レイゼイ』という人物に心当たりはない。コネクトワールドにもいなかった存在だ。何故唐突に現れたスマートフォンの番号を知っているのだろう。
不審には思ったが、もしかしたら自分に用事がある人物なのかもしれない。考えを切り替え、覚悟を決めて通話ボタンを押す。そのままスマートフォンを耳に当ててみると、板の向こうから落ち着いた女性の声が聞こえてきた。
「もしもし。サクヤと申します。えーと…"ナデシコ・レイゼイ"さんで相違ありませんでしょうか」
『もしもし。あぁ、出てくれたか。不審に思われて切られると覚悟していたが、意外だったな。
そうだ。私はナデシコ。急に電話をしてきてすまないね』
落ち着いた女性―――ナデシコは、どうやら切られる前提で電話をかけたらしい。自分としても声も聞いたことのない初対面の奴に電話をかけるのはいささか気が引けたが、と前置きをした上で『顔は分からなかったが、勤務先にローブを被った男が現れて、その人物に"この電話番号にかければ問題解決への第一歩となる"と言われた』ことを説明した。
得体のしれない人物の提案を鵜吞みにしてしまったことを驚いたサクヤだったが、電話の向こうからは『何だか、従った方がいいと本能が疼いてね』と、訳の分からない言葉で返されてしまった。
『すまない。話題が逸れてしまったね。時間も惜しいし…そろそろ本題に入らせてもらいたいんだが』
「は、はい。どんな御用でしょうか」
『そうだなぁ。これもあのローブを被った男から聞いた話なんだが…。君、"ルーク・ウィリアムズ"という金髪の青年を知ってはいるか?』
「ルーク…?金髪の…。あぁ、救急車を呼んでくれた彼ですか。私が入院した後、一度見舞いに来てくださいました。忙しかったようで、会話はそれ程出来なかったのですが」
『そうか。知らない輩を理由もなく助けるとは…彼も変わっていなさそうで安心したよ。かつて、一時的にだが彼の上司的な役割を担っていてね。旧知の仲なんだ』
「そ、そうだったのですね」
『すまない、個人的な話にまた逸れてしまったね。それで、だな。君に折り入って頼みがある』
ナデシコとの会話から、サクヤを助けたあの青年とナデシコは旧知の仲―――正確には、一時上司と部下の関係だったことをナデシコは明かした。
雑談をし過ぎてしまったと彼女は詫びの一言を入れ、本題へと話を切り替えた。声のトーンが穏やかなものから深刻なものに変わったことを、電話越しでもサクヤは理解した。
『君の知恵と力を借りなければならなくなった。―――私達の。いや…"この世界"の死活問題になりそうでね』
「どういうことでしょうか?死活問題、とは…」
『この世界が滅びるか滅びないか…。そんな窮地に陥っていると私が口にしたら、君は信じるか?』
「…………!」
『ふむ。その反応は…心当たりがありそうだな。やはり電話をかける決意をして良かったよ。申し訳ないが、私は立場上この場から離れられなくてね…。
詳細は合流してから話すことにする。だから、今すぐに指定された場所に向かって来てほしい。なぁに、必要なものはこちらで用意するさ』
「(世界が滅びるか、滅びないか…。もしかして、この世界も"混ぜられかけている"?)
―――了解しました。話を聞かせてください。どこに向かえばいいでしょうか」
『話が早くて助かるよ。場所は……』
今いる場所が異世界である以上、邪神がいる異世界―――『コネクトワールド』がこの世界を融合してもおかしくはないと、ナデシコの会話からサクヤは読み取っていた。
彼女の言葉から、この世界がそうなるのではないかとサクヤは推測した。ならば協力しない、という選択肢は即時消滅するだろう。引き剥がされてしまったのだが、彼女は世界を守る神なのだから。
ナデシコとの通話を終えた後、指示通りにメールアプリを確認した。ピロリン、という軽快な音と共に、彼女からであろうメールが着信した。
その中に記載されている合流場所と、そこに向かう為のチケットをサクヤは確認した。歩いて行ける場所ではなく、飛空船という乗り物に乗って合流地点に行く必要があった。
「(ミカグラ島…。どんな場所なのでしょう。とにかく、空港へ急がなければ。メールにあったバスに乗ればたどり着けそうですね)」
この会話から、自分が元いた世界へ戻れることを信じて。
サクヤはスマートフォンを懐に仕舞い、近くにあるバス停に向かって歩いて行ったのだった。
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