二次創作小説(新・総合)

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繋がる世界と未来の物語【Ep.04-2完結】
日時: 2025/10/03 21:52
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 ―――これは、"全てを元に戻す"物語。
 それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。


 どうもです、灯焔です。
 新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
 サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
 この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
 また、オリジナルキャラクターも登場します。
 苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。


※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2


<目次>

Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17

Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148

ep.04-1 【天下五剣が集うとき】 完結
>>166 >>167-171 >>172-176

Ep.04-2【新世界の砂漠の華】 完結
>>178 >>179-180 >>181-185 >>186-188


※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54

Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111

Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151

Ep.04
【月と超高校級の来訪】 >>177


※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163


<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150
>>164-165


最終更新日 2025/10/03

以上、よろしくお願いいたします。

Ep.04-1【天下五剣が集うとき】 ( No.169 )
日時: 2025/09/08 22:18
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 翌朝。再び神域へと集まった刀剣男士達の前に、アクラルがやってきた。
 彼も昨日、サクヤからの連絡を受け、目的の場所に"門"を出現させるため、調整を行っていたのである。彼の尽力のおかげでその日のうちに調整は終わり、早朝この神域までやってきたのであった。



「"門"の調整はできてるぜ。目的地の付近に行けるようにな」
「ありがとうございます、兄貴」



 そういって、アクラルはぱちりと指を鳴らす。それと同時に、彼の隣に白い"門"が現れた。
 "門"は柱の内側は現在真っ黒になっており、彼が神力を込めることによって"門"が起動し、目的の場所まで移動をすることができる。
 早速アクラルに頼もうとする大包平と鬼丸を止め、サクヤは一同を見渡し、こう言った。



「――あの地はスマホロトムも届かぬ場所。何かあった際にはすぐに門を潜りここに戻ってきてください」
「……わかった。気遣い、痛み入る」



 サクヤの言葉を皮切りに、アクラルが"門"を起動する。すると、真っ黒だった"門"の内側が虹色に輝くのがわかった。
 "さあ、童子切を助けに行くぞ"と意気揚々に大包平が一番に門を潜る。それに続くように無言で鬼丸が姿を消した。三日月、数珠丸、前田も彼らに続き、"門"を潜り神域から姿を消した。
 大典太も行こうとしたが、一度足を止めサクヤの元に振り向いた。不思議そうに首をかしげる彼女に、大典太は静かに口を開いた。



「……主。行ってくる」
「いってらっしゃいませ。無事に童子切さんと共に戻ってこられることを祈ります」



 大典太はその言葉に小さく頷き、無言で"門"を潜ったのだった。


























 ――"門"の向こうの場所。雪がちらつく北の大地。
 雪原の中に放り込まれた一行は、神域との気温の差に驚く。おそらく、屋敷がある場所は山の上なのだろう。周りから見える景色から、一行はそう判断した。



「成程。寒いな」
「北の大地なのだから寒いに決まっているだろう!何を呆けたことを言っている三日月宗近!」
「まったく、おまえ達は煩いな。少しくらい静かにできないのか」
「何?!この俺がついてきているのだからそんな覇気をなくすような言動は慎め鬼丸国綱!」



 やいのやいのと騒がしい大包平をなだめながら、前田は大地の向こうを見た。
 目線の先に、枯れ木に包まれた巨大な屋敷が見えた。そこが童子切が閉じこもっている屋敷なのだろうと判断する。
 数珠丸も静かに屋敷を見上げ、それを覆っている邪気を確認する。その中に、童子切の霊力が混じっているのも感じられた。
 "童子切は確実にいる"。それが、一行に突き付けられた。



「随分と巨大な屋敷なのですね……」
「あの場から邪気が感じられます。それと――童子切殿の霊力も一緒に」
「……あいつがあの場にいるのは確実だということだな。行こう」



 まだ騒いでいる大包平を全員で落ち着かせた後、目の前の屋敷に向かって歩いていくのだった。
























 屋敷全体を邪気が覆っていることは、屋敷に入った瞬間に分かった。屋敷の中は古びた洋館のようになっており、さび付いたシャンデリアが彼らを映している。空気がよどんでおり、人が住んでいる気配はなかった。
 一行が最初に足をつけたのはエントランスのような場所だった。そこで、大包平は息を吸い込み童子切の名前を叫ぶ。彼は、一刻も早く童子切を見つけたかったのである。



「童子切!!どこにいる!!返事をしろ!!!」
「見たところ、どこにもいらっしゃらないようですね」



 しかし、響いたのは大包平の声だけだった。童子切が屋敷のどこかにいることは確実だったが、この広い中のどこにいるのだろう。
 三日月はじっと蜘蛛の巣を見つけ、払いのける。すでに巣を張った主はどこかに消えており、随分と長い間使われていない屋敷なのだと彼は感じた。



「見ろ。蜘蛛の巣も張っているぞ。随分と長い間使われていなかったようだなぁ」
「気配から探したいところだが、邪気がそこかしこに漂っていて上手く察知ができないな。――チッ、面倒くさいことをしやがって……」
「……舌打ちをしても仕方がないだろう鬼丸。手分けして探すしかないか……」



 中は無人、魔物が襲ってくる気配もない。そう判断した大典太は、いったん手分けをして童子切の気配を探ることにしたのだった。屋敷の外では、邪気に混じって童子切の霊力も感じることができた。そうであれば、この屋敷のどこかに童子切がいるのは間違いない。
 大典太の提案に否を唱える者はおらず、皆バラバラに動くことにした。その道中、童子切が見つかることを祈って。




 ――しかし、屋敷をくまなく探しても童子切の気配はしなかった。屋敷のどこかには必ずいるはずだが、一体どこにいるのだろう。
 そんなことを誰かが考え始めた折、大包平の声が再び屋敷に響く。どうやら、気になるものがあるらしい。
 彼の声が響いた場所に来てみると、そこには巨大な扉があった。そして――その扉の奥から、異様な邪気と童子切の気配がするのがわかった。



「この奥から童子切の気配がする。異様な邪気も感じるが……」
「そりゃあ、童子切は長い間邪気を注がれていたのだからなぁ。しかし、この扉……開けることは敵わんようだなぁ」
「どいてろ。開けられないのなら、破壊すればいいんだろ」



 巨大な扉は、手を触れてもびくともしない。少し力を入れても開けることは敵わなかった。まるで、誰かに入ることを拒まれているように。
 しびれを切らした鬼丸が刀に手をかけ、力づくで破壊を試みる。一行もいったん彼から離れ、事の成り行きを見守る。
 その間に鬼丸は自らの刀に霊力を込め――



「――斬る!」



 ザン、と力強い一撃が放たれる。しかし、扉はびくともしなかった。



「鬼丸でも駄目か。ならば俺達全員駄目だなぁ」
「何か、霊力のようなもので封じられているのでしょうか?」
「霊力……」



 どうすればこの扉を開けられるのだろう。数珠丸の言葉をヒントに、大典太は扉に再び触れ、自分の霊力を注いでみる。すると、霊力を込めた場所から紫色の靄が出てくるのが分かった。
 そこで大典太は気づく。この扉を閉じたのは、"童子切"本人だということに。



「……童子切が閉じたのか」
「であれば、霊力を込めれば扉はひらくということか」



 鬼丸も大典太に続くようにそう言った。もし彼の考えが正しければ、この扉は"童子切の邪気"によってしまっている状態だ。であれば、その邪気をすべて取り払ってしまえばこの扉は開くのではないだろうか。
 そう思った大典太は、扉の前に両手をかざし、自らの霊力を強く込める。込めた場所から紫色の靄が次々に出てきた。そのまま霊力を込め続けていると、隣で鬼丸も同じように霊力を込め始めた。



「この大きさだ。おまえ一振では霊力が枯渇するかもしれん。おれもやる」
「であれば、俺も手伝おう」
「協力し、この扉を開きましょう」



 鬼丸に続くように、三日月と数珠丸も扉に霊力を込め始める。
 大包平も負けじと自分の霊力を込めようとするが、"何が出てくるかわからんから構えていてくれ"と、大典太に止められてしまった。
 悔しがる大包平だったが、そこで彼はこの四振は異常な霊力を持っていたことにはたと気づく。そうであれば、自分の出る幕ではないと前田とともに扉の向こうにいる"何か"に備え構えをとった。


 四振の霊力が合わさり、紫色の靄が大きくなっていく。その光景に、大包平は驚くばかりだった。



「靄が浮かび上がってくるぞ!」
「……なかなかに邪気が多いな」
「それだけ多くの邪気をあいつが受けたということなのだろう。さぁ、もう少しだぞ」



 四振の行く末を皆で見守る。巨大になっていた紫色の靄は、時間がたつにつれ少しずつ薄く、小さくなっていった。
 そして、仕上げとばかりに四振が力を込めると、紫色の靄は消え去ってしまったのだった。



「扉の解呪が完了したのでしょうか?」
「……あぁ。扉に邪気が感じられんからな」
「この中に、童子切殿が……」
「御託はいい。開けるぞ!そこにいるのだろう、童子切!!」



 大包平が扉に手をかけ、勢いよく開ける。そこは、大広間のような場所だった。
 その端。奥まった端のほうに、震えて座っている白髪の男がいたのだった。

Ep.04-1【天下五剣が集うとき】 ( No.170 )
日時: 2025/09/09 21:57
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

「童子切!!!」



 間違いない。白髪の彼から感じる覚えのある霊力は童子切のものだ。一行は、素早く童子切であろう男のそばに駆け寄る。
 当の彼は震えつつも一行に向かって真っすぐ目を向けている。彼からは、"感情"そのものが感じられなかった。



「童子切殿、大丈夫ですか。助けに参りました」
「それが、わたしの名なのか」
「な……!!」



 "童子切安綱"。その名が、自分のことであることもこの男は忘れていた。
 いや、違う。忘れたのではなく、邪気が彼の奥底まで混じり合った影響で記憶や逸話にまで影響が及んだのであろう。
 大典太は思った。童子切が"感情"を感じられなくなっているのも、かつて感情を封じていたサクヤとは違う。彼は――"感情"そのものを失ってしまっていることを。


 なおも変わらず大包平は童子切の肩を揺さぶり、"本当に忘れたのか" "俺がわからないのか"と問い詰める。しかし、帰ってくる答えは同じ。"なにもわからない"と言葉を紡ぐことしか、この男にはできなかった。



「忘れたとは言わせんぞ!お前は童子切安綱!紛れもない事実だろう!」
「大包平殿……」
「邪気が奥底にまで混じり合った結果、記憶まで失ったというのか」



 きょとんとしている童子切を前に、遂に大包平が項垂れた。これ以上彼に何を言っても返ってくる言葉は同じだと悟ったのだろう。
 彼の様子を見ていた刀剣男士達も、各々反応を見せる。やっと五振で"縁側で茶を飲み、しあわせに暮らす"と約束を果たせるかもしれなかったのに。彼を追い求めた結果が、こんな結末だとは。
 しばらくの沈黙が続く中、大典太がそれを破った。まずは、彼にくすぶる邪気を解呪せねばならないと。



「……各々思いはあるだろうが、まずは童子切の中にある邪気を解呪せねばならん。少しだけ、俺に時間をくれ」
「わかった。だが、お前一振で大丈夫なのか? 俺達も何か手伝ったほうがいいだろうか」
「……いや、いい。まずは俺がやってみる」



 心配する三日月に大丈夫だと声をかけ、大典太は変わらずきょとんとしている童子切の隣に屈む。そして、彼の心臓部分に手を当て、自分の霊力を込め始めた。
 いつもならば、大典太の霊力が童子切の中にくすぶる邪気と反応し、紫色の靄となって空気に溶け合うはずだった。霊力を込めていた大典太の指に、バチバチと小さな痛みが襲う。思わず手を離してしまう彼に、大包平が眉間にしわを寄せた。



「…………!」
「おい、どうした」
「……霊力が、弾かれた」
「何をしている大典太光世!貴様、この期に及んでまた契約を破棄したなどというわけではないだろうな!」



 違う。反射的にそう返した大典太に、大包平も"おう"と返事をするしかなかった。大典太がサクヤと契約していることは大包平も知っているはずだ。"外の世界を知れ"と、遠回しに新しい主探しを命じられているが、今まで契約を破棄したことはない。
 そうであれば、考えられることは――。大典太はその結論に、悲しそうな表情をすることしか出来なかった。



「……違う。童子切の中にある邪気が……魂の奥底にまで混じり合ってしまっているんだ」
「…………」
「ならばどうすればいい!どうすれば童子切を助けることができる!」



 大典太が"解呪できない"と言った以上、どんなに協力して霊力を高めても童子切の邪気を解呪することは不可能だった。
 ならば、どうすれば童子切を助けることができる。皆が思っていたことを大包平が口に出す。できるものなら既にやっている。誰かがそんなことを口にしたが、その言葉はすぐに静寂へと溶けて消えた。


 しかし、どうにかして童子切を連れて帰らねばならない。そのことをサクヤに相談するため、一旦は彼を連れて神域へ戻ろうと彼の肩に腕をかけた、その時だった。



















 ――ブオン。感じたことのない邪気が一行を襲う。



「これはッ……!」
「鬼丸殿、わかるのですか!」
「あぁ。忘れもしない。忘れるものか。この邪気は――!」



 その言葉と共に、鬼丸は刀を構える。それと同時に、窓が割れる音が聞こえてきた。
 それと同時に、現れたものは――。



「――ッ!!!」
「……おい!」



 今まで沈黙を貫いていた童子切が、大典太を突き飛ばした。それと同時に、童子切の胸元を黒い光のようなものが貫いた。
 一行はその光に見覚えがあった。かつてソハヤを暴走させた、あの黒い光だった。



「……ぅ……ぐぁぁ……!!」
「童子切?!童子切!!」
「……にげ、て……。わたしの、こころが、こわれる、まえに……!!」



 苦しみ始めた童子切に動揺する大包平を力づくで下げ、彼を何とかしようと近づく。しかし、それもすぐに無駄に終わった。
 童子切の微かな声と同時に、彼を覆う邪気が膨れ上がり身体を覆っていく。



「童子切!!!」
「……まさか、邪気を増幅させたというのか……!」
「そういうことだ。こうなったら……もう、解呪は不可能だと思ったほうがいいな。――かつてのおれのように」
「……わたしが、きずつけるまえに……!にげ……ァ……ァァア……!!!」



 童子切を覆う邪気は徐々に強まっていき、彼が見えなくなるくらい強いものとなっていく。
 それと同時に強い風と咆哮のようなものが響く。一行は立っているのが精一杯だった。


 風が止んだのと共に現れたのは――。










































『アァアァアァアアアァ…………!!!』



 ――自分達の何十倍もある、巨大な、巨大な、鬼だった。



「……くっ」
「そんな……馬鹿な……」
「呆けている場合ではないぞ大包平。ここで防がねば……世界が滅びるかもしれんからな」
「これが……これが……探し求めていた"童子切安綱"の姿だというのか……!!」



 大包平の声は、虚空へと消えた。

Ep.04-1【天下五剣が集うとき】 ( No.171 )
日時: 2025/09/10 21:44
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 刀剣男士達が鬼と化した童子切と対峙している一方、神域でも異様な気配を感じていた。
 世界を覆う異様な邪気――。まるで気分を下げるような重苦しいそれは、遠く離れた神域へも漏れ出していた。気配に敏感なのか、畳に座っていたオービュロンがヒッ、と悲鳴を上げる。そんな彼を信濃は宥めるようにそっと抱きしめた。



「この異様な空気……。童子切さんを助けに行った先で何かあったのかな」



 信濃のその言葉に、サクヤは目を伏せる。
 戦闘沙汰になることは覚悟していた。それは、待っているサクヤも、戦場へと向かう刀剣男士達もわかっていたことだった。しかし、まさかこれほどまでに童子切を覆う邪気が強くなっていたのかと、彼らを送り出したことを少し後悔していた。
 しかし、今更そう考えても遅い。どうにかして六振を折らずに帰還させなければならないが、彼らが逃げるような性格だとは思えなかった。
 そんな折だった。突然勢いよく扉が開く。その先にいたのは、焦った表情を見せたソハヤだった。
 彼も、異様な気配を感じいてもたってもいられずサクヤの元までやってきたのだった。



「ある……キバナには話をつけてきた。俺も兄弟がいる場所に連れてってくれ!兄弟が大変なことに巻き込まれてるってのに、黙ってられるか!」



 どこから聞いてきたのか、ソハヤは大典太達が童子切を救うために出かけたということを知っていた。そして、彼に危険が及んでいることを察知し、急いでここまでやってきたのだという。
 普段ならば流石兄弟刀だと褒めるべきところであるが、今回ばかりはそうもいかなかった。
 サクヤは"なりません"とソハヤをぴしゃりと止める。その言葉に、彼も静かに頷くしかできなかった。



「だがよぉ、このままだと兄弟が危ねぇんだって!このまま兄弟が折れるって考えたら、俺……!」
「わかっています。ですから――私が助けに参ります」
「……何するつもりなんです?」



 サクヤはその言葉と共に静かに立ち上がった。まるで覚悟を決めた表情に、ネズが眉間にしわを寄せて問う。
 すると、彼女は目じりを下げてこう答えたのだった。



「刀剣男士の皆さんを神域に引き戻します。それ故、少し外出をして参ります」
「えっ。それって大丈夫なの? サクヤさん、神域から出られないんじゃ……」



 "外に出る"。あの後、アンラから身を隠す為に一歩も神域から出なかった彼女が、遂に"外に出る"と言ったのだ。
 それはつまり、彼らに命の危険が迫っているということを察するのに、ネズはそう時間はかからなかった。
 信濃が至極まっとうな質問を彼女に投げかけるも、サクヤは目を伏せ静かに返した。 "今自分が動かねば、あの場にいる全員が折れてしまいます"と。
 そのまま消えてしまった彼女に、ネズはため息をつきながら首を横に振ったのだった。



「全く……。光世のお人好しがこの神から移ったってのは、本当のことみたいですね」
「兄弟……」



























『アァアァアァアアアァ!!!』



「――ぐあぁっ!!」
「ぐっ……!」



 一方。北方にある屋敷では、鬼と化した童子切と刀剣男士達との死闘が繰り広げられていた。
 鬼の一撃はとてつもない破壊力を誇り、すでに倒れて動けない者も存在する。
 大典太は三日月と大包平と支えあいながら、この鬼をどうすべきか考えていた。



「クソッ……。なんなんだこの力は!これが童子切の邪気の力とでもいうのか!」
「その通りだとも大包平。童子切が邪気に完全に吞まれている影響だろうな。まさか一撃でここまで持っていかれるとは」
「……来るぞ。次にあれを食らったら俺達も命がない!」



 次の攻撃に備える三振だったが、それより早く鬼が動いた。
 彼らに振りかぶる"爪"。傷ついた彼らは避けることもままならず、うめき声と共にその牙の餌食となってしまう。そのまま、巨大な鬼の前に崩れ落ちてしまった。
 かろうじて意識はあるものの、次に攻撃を食らえばほぼ確実に折れてしまうだろう。この場にいる誰もが、そう思っていた。


 鬼はそれをものともせず、この場にあるすべてを亡き者にしようと腕を振るう。ガラガラと、屋敷が崩れ落ちる音がした。
 瓦礫が鬼を傷つけても関係ない。鬼は周りなど気にせず、次々と周りにあるすべてを破壊していく。
 大典太はかすれていく目で鬼を見やる。まだ、戦える。まだ、戦わねば。童子切を助けて全員で戻るのだろう。その気力だけが、彼を突き動かしていた。



「……一振も 折れずに…… 童子切、を……」



 震える手で、目の前に落ちた刀を拾おうとする。しかし、思いとは裏腹に身体がいうことを聞かない。もう、身体の方が悲鳴を上げていたのだ。
 自分が動かなければ全員があの鬼の餌食になってしまう。それだけは避けなければならなかった。しかし、身体が動かない。



「(……ここまで、なのか)」



 大典太の脳裏に諦めの文字が浮かぶ。自分達はここで折れるのか。五振でゆっくり茶を嗜む、そういう約束も果たせず折れるのか。
 しかし、この鬼には太刀打ちできる力がない。自分達の限界は、ここなのだ。
 大典太はゆっくりと目を伏せる。その時だった。










































『――アンラ。自らが奪取した刀ですら"道具"としか見ていないようですね』



 いるはずのない、主の声を感じた。何故?何故ここにいる?



「……ある、じ」
「一旦戻りましょう。このままでは皆さんが全て折れてしまいます」



 その声に安心感を覚えたのか、大典太は遂に意識を失った。それを静かに見守った青龍は、静かに自らの姿を龍に変化させた。
 屋敷に龍の咆哮が響く。それと同時に、倒れていた六振を柔らかな光が覆う。そのまま、龍と共に六振の姿が消えたのだった。















『――クトゥルフ チカラ ……アァアアアァ』



 "鬼"は何かを探し求めるように、屋敷を壊しながら外に向かって進んでいったのだった。

Ep.04-1【天下五剣が集うとき】 ( No.172 )
日時: 2025/09/11 22:04
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 ――ここは、どこだ。


 ――俺は、あの鬼に斬られたはずだ。主に助けられて、それで……。



『――だい、―――い!』



「…………」



 暗闇から、目を覚ます。そこには、見覚えのある景色が並んでいた。
 ふかふかとした掛布団の感触から、自分は今寝かされているのだと大典太は理解した。どうやら、あの後本当にサクヤは六振を連れてこの神域まで戻ってきたということらしい。
 彼が目を覚ましたのに気付いたのか、勢いよく抱き着いてくる影があった。ソハヤのものだった。



「あ、目を覚ましましたね」
「きょうだいぃぃぃ!!!俺、本当に心配したんだぞ!!友達助けるためとはいえ命をかけるようなことをしやがって!」
「…………」



 そうだ。共に戦っていた他の刀剣男士はどうなった。思わず周りを見渡してみると、せかせかと自分達を看病している信濃、ノボリ、オービュロンの姿が目に入ってきた。
 手入れ部屋の扉はすべて開いており、そこに並べられた布団には、今まで共に戦っていた刀剣男士が傷ついた姿をしながらも眠っている。皆、彼らの治療を受けていたようだった。
 大典太はその姿に思わずホッと胸を撫でおろす。そんな彼の様子を見たのか、ソハヤはしかめっ面になって"こんな時でも他人の心配かよ!兄弟は変わらねぇなぁ!"と悪態をついたのだった。



「光世さん。お目覚めのようでよかったです」
「……主」
「何とか全振の破壊は免れました。皆さんも今はゆっくりと休まれています」



 自分達が誰一人折れず助かったのはいいが、問題は鬼と化した童子切をどうするかだった。あの鬼があのまま屋敷内に残っているとは考えにくい。どこか街のような場所に現れれば、邪気と霊力ですべてを破壊しつくされかねない。
 その顔でソハヤも大典太の考えていることを読み取ったのか、悲しそうな顔をしてこう口にしたのだった。



「話は全部サクヤから聞いた。童子切が……鬼になっちまったんだってな」
「…………」



 その言葉に、大典太は黙ってうなずく。鬼になるほどにアンラの邪気が童子切の霊力と混じり合ってしまっていた。しかし、アンラの力に覆われる前。もし、自分が童子切のことを庇っていたら、彼は鬼にならなかったかもしれない。
 大典太の心の奥底には、大きな後悔が押し寄せていた。しかし、過ぎてしまったことを今更考えても仕方がない。今は、童子切をどうにかしなければ――最悪、世界が滅びてしまう。自分達が止めなくてはいけなかった。



「童子切さん……どうすれば助けられるの? もう倒すしかないの?」
「鬼になったのだとしたら、斬るしかないだろ」
「鬼丸……」



 信濃のしょんぼりとした言葉に、聞き覚えのある声が木霊する。その方向に顔を向けてみると、鬼丸が起き上がって静かにそう返していた。
 もう大丈夫なのかと声をかけると、鬼丸は静かに頷いた。おそらく、サクヤと契約した刀だからこそ回復が早かったのだろうと彼は推測していた。その証拠に、前田は既に歩けるまでに回復しており、オービュロンに看病の手伝いを申し入れていたのが見えた。却下されているのを見るに、彼もまだ完治しているわけではなさそうだった。



「しかし、大典太さんでも解呪が不可能となると……"一度鬼を倒し、童子切さんと邪気を無理やり引きはがす"しか方法がありません」
「……そう、なるのか。やはり、あいつを倒さねば童子切は救えないのか」
「主。大典太がおれに使ったあの御守りは、おれがまだ刀剣男士の姿を保っていたから使えた代物だった。そう考えて異論はないな」
「はい。鬼と化してしまった童子切さんには、それが通用いたしません」



 童子切を助けるためには、彼にくすぶる邪気を何とかしなければならない。しかし、そうするためにはまず"鬼"を倒し、童子切と分離して引きはがさなければならないことをサクヤは口にした。
 どちらにせよ、鬼と化した童子切との戦闘は避けられない。彼が"普通の童子切安綱"ではない以上、自分達が決着をつけねばならない問題だった。



「であれば、やるしかあるまい。邪気を祓い、その中から童子切を奪還する!」
「簡単に言ってくれるな大包平よ。しかし、俺達がやらねばならんことも事実。あいつは"普通の童子切安綱"ではないのでな」
「えぇ。我々でなんとかせねば、世界にも影響を及ぼしてしまいます」



 しかし、その戦いに備えるためには今は休息が必要。ぴしゃりと言い放った数珠丸の言葉で、大包平も静かになり布団をかぶる。三日月は"甘味が食べたい"とのほほんと口にし、数珠丸にやんわりと突っ込まれていた。
 そんなやりとりを優しく見守るサクヤに、大典太は申し訳なさを感じていた。自分達が助かったのは、彼女の力があってこそ。アンラから身を隠す為にこの神域に籠っているが、彼女はそれを破ってでも自分達を助けに来た。
 それが原因で、アンラに再び狙われるのではないかと大典太は不安でならなかった。



「……主。あんたは外に出られないのに、俺達の為に無理をして……。本当に、すまない」
「いいえ、いいのです。こうして皆さんが戻ってきてくださることが一番大事なのですから」



 ふと、大典太の言葉にひっかかりを鬼丸は覚えた。それを聞こうと動くも、寸のところでやめた。
 彼が申し訳なさそうにしている表情をしているのもそうだが、それとはもう1つ。彼が"何かを隠している"ことに気づいたからである。しかし、それを聞くのは今ではない。
 そう判断を下し、鬼丸も静かに布団をかぶり、眠りについたのだった。

Ep.04-1【天下五剣が集うとき】 ( No.173 )
日時: 2025/09/12 23:28
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 童子切が鬼と化して一晩が経った。
 彼の攻撃により戦闘不能となった六振も、周りの献身な介護のお陰で手入れも滞りなく行われ、翌朝には全振元の元気な姿に戻っていた。
 改めて童子切を助けるために話し合いを行おうとしていた矢先、エントランスで慌てたようにラルゴが町長室から出てきた。
 焦った様子に思わずオービュロンと信濃が問いかける。



「町長さん。慌てた様子だけど一体どうしたの?」
「どうしたもこうしわもないわよ!ねぇ、ニュース見た?」
「にゅーす、デスカ?」
「そう、ニュースよ!ついさっき報道されたんだけどね、なんか鬼みたいなのがこの街に近付いてきているみたいなの!」
「――えっ?!」



 慌てた様子のラルゴは、驚いて言葉を失っている1人と一振のために、近くにあるリモコンを取りテレビの電源をつける。
 そこに映っていたのは、昨日天下五剣と大包平、前田が助けに行った童子切が鬼と化した姿だった。鬼は周りの木々を破壊し、何かを求めて進んでいるのが分かる。
 あの森はこの国の近くにある森だったはずだ。そこで、信濃は気付く。ラルゴの言う通り、鬼がこの街に近付いてきているのではないかと。



「モシカシテ、"どーじぎり"サン?」
「まさか、大典太さん達を追ってきたわけじゃないよね? 早く知らせなきゃ!」



 話を理解できず、首を傾げているラルゴに"教えてくれてありがとう"と一礼をし、彼らはそのことをサクヤ達に知らせるため神域へと急ぐ。
 神域へとたどり着くと、サクヤが神妙な表情で彼らを迎え入れるのが分かった。その顔つきから、鬼が王国に近付いて来るのを知っているようだった。
 "知ってるかもしれないけど"と前置きをし、ラルゴに教えてもらったこと、ニュースで見たことをそのままサクヤに話す。すると、彼女は更に困ったような表情になった。



「まずいことになりましたね……。もしかしたら本能で、皆さんを追ってここまで来ているのかもしれません」
「わたくしも先程、スマホロトムのニュース記事にて確認いたしました。仮に城下町にまで入って来てしまった場合、被害は相当なものになるでしょう」
「残された猶予は多くない、か」



 王国に被害が出る前に、早く童子切を止めねばならない。しかし、六振で行っても昨日のように反撃を喰らってしまっては意味がない。
 どうすべきかと悩む一同に、大包平が声を上げる。"俺達だけで駄目ならば、街中にいる刀剣男士を全て派遣してでも童子切を止めねばならん"と。
 出来るだけ事情を知っている自分達だけでことを収めたかったが、一度倒れている以上なりふり構ってはいられなかった。大包平の提案に否を唱える者は、誰もいなかった。


 もたもたしている間に鬼は王国内へと入って来てしまう。その前に、決着を付けねばならない。
 待機していた刀剣男士達は急いで準備をし、神域から出て行った。それに続くように大典太も出ようとすると、サクヤに止められる。



「……主。どうした」
「光世さん。これを」



 サクヤは自らの力を凝縮させ、青く光るカンテラのようなものを大典太に渡した。
 手に取ってみると、ほんのりと暖かい、柔らかな力が大典太に伝わってくる。サクヤの神力で出来たものだと彼は理解した。
 それにしても、何故カンテラなのだろう。思わず尋ねてみると、彼女は静かにこう答えたのだった。



「童子切さんの邪気は相当なものです。彼と鬼――邪気を引き剥がす際、邪気が街の中に流れ込むのをこれで防いでください。このカンテラは私の力で出来ていますので、すべての邪気を吸い込むことが出来るでしょう」
「……分かった。感謝する、主」
「光世さん。皆さん。ご武運を祈っております。必ず童子切さんを連れて、皆無事に帰ってきてください」
「……あぁ。昨日のような失態は起こさない。必ず童子切を助けて帰ってくるさ」



 それに続くように、ネズがスマホロトムでニュースの中継を見せる。鬼は、話している間にもどんどんリレイン王国へ近付いていた。
 このままでは、街が破壊されてしまうのも時間の問題。残された猶予はあまりないのだった。



「……では、行ってくる」



 その言葉を最後に、大典太は神域を後にした。
 道中にソハヤ、小狐丸、燭台切、博多にも声をかけ、鬼の元へ向かうことにした。彼らは事情を汲んだ後、自分も戦線に入れてほしいと自ら志願してきた。


 エントランスから外に出ると、鬼の咆哮が聞こえる。既に王国のすぐ近くに来ているのだと一行は悟った。



「三日月殿。あちらの方向から叫び声が聞こえてきていますな」
「急がなければ、街に入って来てしまうぞ。皆の者、行こうではないか」
「……あぁ。行こう」



 各々気合いを入れて、響いてきた声の方向へ駆けていくのであった。


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