二次創作小説(新・総合)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

繋がる世界と未来の物語【Ep.03-ex完結】
日時: 2022/10/12 22:13
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ―――これは、"全てを元に戻す"物語。
 それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。


 どうもです、灯焔です。
 新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
 サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
 この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
 また、オリジナルキャラクターも登場します。
 苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。


※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2


<目次>

Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17

Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148


※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54

Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111

Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151


※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163


<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150


最終更新日 2022/10/12

以上、よろしくお願いいたします。

Re: 繋がる世界と未来の物語 ( No.65 )
日時: 2022/03/28 22:31
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

どうもです。コメント返し自体が多分何か月かぶりになります灯焔です。
物語の方向性がおかしくないか等を示唆する基準にもなります為、是非お気軽にお声をお寄せください。



>>柊 様

どうもです。コメントありがとうございます。
どこからでも大丈夫です。お声をいただける貴重な機会ですので。寧ろこうしていただけること自体が有難いことだと思っております。

次回予告通り、ポケモンのキャラクターが物語を更に彩ってくれます。物語の展開が落ち着いた時など、スレには載せられない裏設定等をTwitterの方に載せる予定でございますので、そちらも合わせてご覧になってみてください。
ユウリは好奇心旺盛で正義感の強い新チャンピオン。変なことは見逃せないのです。今回に限っては、それが原因で大変なことになってしまったんですが…。
ダンデは公式ですら物凄い頻度で迷子になります。大体どのメディアでもそこが大きくピックアップされるので、頻度に関しては間違えていないと自信を持って言えるヶ箇所でございますかね← 音楽の幅を広げる為、ネズはトーナメントの後イッシュに行く予定らしい。トレーナー的にも、風土的にも彼と相性が良いのできっといい旅が出来ると思います。
ユウリにネズにと続々とガラルの人間が大変なことになっているのに、立て続けに白い光に覆われてしまったガラル地方。あれ?これ以前にもあったような…。

そして、リレイン城下町ではオービュロンが新しい街の下見に単独行こうとしていました。カンパニーの中でも割かし単独行動が多いように見受けられる彼だからこそ『行こう』と思えたのかもしれません。
そんな矢先、瀕死のネズを発見してしまいます。そして、彼から感じる、かつてのワリオに似た邪気…。犯人は本当に『あいつ』なんでしょうか。
傍に落ちていたタマゴごと議事堂に戻ったのはいいものの、擬態をしていた為気付いてもらえない。短刀は気配を察する能力が高い。だからこそ気付けたのかなと思います。太刀なら…ソハヤ辺りは気付いたかもしれないですね。

光世さんの治療のお陰でネズは無事回復。起きましたが、借金取りと間違われてしまいました。これで2回目です。バンドマンと間違われるのも2回目。さて、今後何回間違われるんでしょうか。……参加型の企画をする時に、答えていただく問題にしてもいいかもしれないなこれ←
謎のタマゴ。一体その正体は何なのでしょうか。普通のポケモンのタマゴならいいんですが…。
そんな折、キバナから連絡が来ます。ネズの様子がおかしくなったのを直で見ている為、心配でならなかったのでしょう。
天下五剣に護られシュートシティに向かうことになりました。レアです。激レアです。

一応補足させていただきますと、ダイヤモンドシティからシュートシティまでの距離が『20分』。王国から向かうとなるともう少しかかります。
実際のゲーム内でも迷うくらいに広いです。街中に3台もそらとぶタクシーがあるのだから間違いないです。
そして、スタジアムで妹達と再会。心配していた妹に泣きつかれました。当たり前です。ネズは何故泣かれているのか理解が出来ていませんでした。自分が死にかけていた、なんて言われてもピンと来ていない様子。
ユウリの他に、ソニアと(恐らく)シーソー兄弟も行方不明。一体どこに行ってしまったんでしょうか。無事だといいんですが…。
そして、タマゴから孵ったのはゾロアでした。ネズにいきなり懐く様子を見せる等違和感がありますが、可愛いもんは可愛いんだから仕方がない。そして、ネズは手持ちになるかゾロアに選択肢を与えました。最初からついていくことを決めていたのか、ゾロアはボールに入ることを選びました。

雰囲気が似てるんですかね。光世さんのことも気に入ったようです。ですが、個人的には光世さんにはでんきタイプのポケモンかルカリオかミミッキュかカミツルギを所持していただきたいなと思っております。中の人?それもあるかもしれません。
話の中で明らかになる、巻き込まれたのがガラル地方だけではない可能性。もしかしたら、ネズが行こうとしていた地方も既に手遅れになっているやもしれません…。
話し合いの結果、3つの街が協力関係になることになりました。ちょっとずつ街の敷地を広げているような気がしないでもないぞ、リレイン王国。

サクヤのスマートフォンがスマホロトムに進化しました。個人的な推察をいたしますと、三日月以外は普通に近代の機械については触れると思っています。三日月は…まぁおじいちゃんだから…()
ゾロアに早速食べられそうになっていたりするのを見守りつつも、サクヤからネズを連れてくるようにお呼び出しがかかりました。キバナの機転もあり、ネズは光世さん達についていくことになりました。
果たして彼に待ち受けていることは何なのでしょうか。無事に話し合いを終えることは出来るのでしょうか…。




今回お寄せいただいたコメントは大事に読ませていただきました。ありがとうございます。執筆の励みになっております。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。

灯焔

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 ( No.66 )
日時: 2022/03/28 22:39
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 リレイン城下町に再び戻った一同は、素早く議事堂へと足を踏み入れサクヤの私室へと足を運んだ。数珠丸は深く立ち入る訳には行かない、と議事堂のエントランスで一旦別れることになった。
 別に急いでいる訳ではなかったが、道中会話という会話は無かった。ユウリのこともあるだろうが、揃いも揃って話題を提供できるような性格では無かったのも一因している。
 私室の扉を静かに開け、ネズを先に入れて後ろ手で扉を閉める。そして、彼に目の前に何が見えるかを大典太は問うた。



「……目の前に見えているもの。襖と壁、どっちが見える?」
「"フスマ"というものは聞いたことがありませんが…扉のようなものが見えます。これが"フスマ"なのですか?」
「……そうか。ガラルにはそういう文化が無いのか」
「カブさん辺りなら分かると思いますが…少なくとも、ガラルでこういうデザインの扉を見たことはありません」



 襖という文化を知らない人間がいるのは当たり前だ。次から同じことが起こった場合、少し言い方を工夫しようと思った大典太だった。
 それはともかく、ネズには扉のようなもの―――すなわち、襖が見えている。つまり、神域へ出入り出来る人間だということが確定した。サクヤはやはり未来を見通していたのではないかと一抹の不安を覚えるも、直接聞いた方が早いと考えを切り替え襖を静かに開けた。
 その先には、見覚えのある人物が彼らを待ち構えていたのだった。










 自分と変わらない奇抜な衣装に身を包んだ一同を見て、ネズは少し目を見開いていた。ネズの様子を見て、前田が安心したようにほっと胸を撫でおろす。
 大典太に近くに座ってもいいと言われるが、ガラルには"畳に座る"という習慣は根付いていない。ネズは戸惑った。文化の違いがここまでカルチャーショックを引き起こすとは。もっと勉強しておけばよかったと少し後悔する。
 それに気づいたのか、前田が"ここは畳張り、と言って、直に座ってもいい床のようなものです"と捕捉を入れてきた。皆に従い、ネズも静かに腰を下ろした。



「無事に回復なされたようで良かったです!安心しました」
「お世話かけました。お陰でピンピンしてますよ。それで…そちらの眼鏡の方が、あんたの"主"って方なんですか?」
「……あぁ。俺達刀剣男士を取り纏める、主―――サクヤだ」
「サクヤと申します。ネズさん、この度は私の招集に応じていただきありがとうございます」
「ご丁寧にどうも。聞いているとは思いますが、改めて…。おれはネズ。元スパイクタウンのジムリーダー…今はしがないシンガーですよ」



 お互いに軽く挨拶を終えた後、早速本題に入ることにした。ネズの身に起きたことの説明と、その前後に起きたユウリの拉致―――。どちらも1本の線で繋がっている。だから、どうしてもサクヤは話が聞きたかった。
 そして、アンラが振り撒く呪いにも様々なパターンがあるのだと今回のことで知った。それについても、詳しく話を聞きたかったのだった。



「アンラの邪気に身体を蝕まれたと聞き、心配していたのです。刀剣男士や、以前彼女の側に仕えていた"道化師"という存在が人間を闇に堕とした事象は聞き及んでいましたが…。この世界に来てから、その標的が人間にも広がってしまいました。
 更に、ネズさんのような身体を直接蝕むパターンは私も経験したのは初めてですので、驚いたのです。ですが…無事で本当に何よりです」
「一応、おれ達ガラルの人間は…世界ごと一度巻き込まれてるからってのもあるんでしょうね。説明されて、不思議と腑に落ちましたよ。あんた達の話を聞いても拒否感が起きなかったのも、ユウリやカブさんから話を聞いていたせいもあるかもしれないね」
「して、ネズさん。確認なのですが…。ユウリさんは、怪しいリーグスタッフに攫われたので間違いないのですね?それで、この終末の世界でもまだ行方不明だと」
「はい。間違いありません。彼女と…後、ソニアという博士と……一応、非常に面倒くさい双子が行方不明になっています。それ以外のガラルのトレーナーは…大体シュートシティに皆集まっていますね」
「成程…。詳しい状況説明ありがとうございます」



 ネズはサクヤに諭され、自分達に起きた一部始終を説明した。言葉にしづらい箇所は、サクヤが質問を投げることで繋げていく。そうすることで、ガラル地方―――具体的にはシュートスタジアムで何が起きたのかが少しずつ鮮明になって来た。
 大典太も、話の中で出てきた"怪しいリーグスタッフ"については違和感を覚えていた為、捕捉するように口を開いた。



「……ネズの身体を蝕んでいたものは、確実にアンラの邪気で間違いなかった。ユウリに関しても、俺はアンラの介入があると思っている」
「ですが、ユウリ殿が攫われたのは…終末の世界にガラル地方が混ぜられる"前"のお話ですよね?例えコネクトワールドに一度混ぜられた地方であるとしても、結びつけるのは早い気も…」



 ネズの身に起きたこと。そして、怪しいリーグスタッフにユウリが攫われた事実。
 ここから導ける答えは何なのか。しばらく沈黙が続く中―――鬼丸が気付いた。そして、声を荒げる。



「―――"分身"か。あの皇帝の側近と同じように、その地域に違和感の無いように擬態をして悪事を働いたというのか」
「……あっ。アンラの分身!確かにそう考えれば辻褄が合います!」
「はい。ネズさんを死の淵まで追い込むほどの呪詛の強さと巡りの速さ。そして、ガラルの現チャンピオンであるユウリさんを、リーグスタッフに変装してまで拉致した事実。
 これを纏めると……アンラが秘密裏に、ユウリさんを拉致しようとしことを起こした可能性が非常に高いです。ネズさんはユウリさんを助けようとしたのですよね?恐らくそれで、自分の計画の邪魔になることを示唆し、呪い殺そうとした。私はそうだと考えます」
「ユウリは偶然拉致されちまったんじゃなくて、元々拉致される計画が立てられてたってことですか…?何なんですか。やっぱりトラブルが付き物じゃないですか、あの子の周りには…」
「ネズさん。それで…ユウリさんの件についてなのですが。原因がアンラである可能性が非常に高い以上―――我々も追跡する使命がございます。簡単に言うとなれば…リーグスタッフに変装していた存在の足取りを、我々は今追っているのです」



 サクヤの答えは決まっていた。ユウリを拉致した原因がアンラである可能性が高い以上、彼女を追うことでアンラの足取りを必ず追えるとの確信を持った。ならば、協力は惜しまなくしていった方がいいと結論を付けたのだ。
 各々が探し求める終着点は、全て1本の道に交わっている。ならば、どんな小さな手がかりでも逃すことは出来ない。ユウリ捜索が、その一歩になるのならば。



「ネズさん。我々一同は、ユウリさんの捜索に全面協力いたします。お約束いたしますよ」
「本当ですか。本当…なんですか。ありがとうございます…!」



 サクヤから嬉しい言葉を得られたネズは、安心したようにふわりと笑顔を零した。
 化粧の濃い、仏頂面がデフォルトのような青年が急に顔を綻ばせた。どこか大典太に雰囲気が似ていると感じていた鬼丸は、その表情の変化に思わず目を見開いた。大典太も、こういうふうに笑うのだろうか。少し興味が湧いたが、大典太に考えを見抜かれていたようでジト目で睨まれた。



「ネズ殿…。そんな素敵な表情が見れるなんて!僕、嬉しくなっちゃいました!」
「安心しただけですよ。マリィにも良い報告が出来そうです」




 ネズの笑顔を見て、前田も嬉しそうに顔を綻ばせる。
 そんな穏やかな空気を表すように、大典太の腕の中でゾロアが嬉しそうにこきゅん、と一声鳴いたのだった。

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 ( No.67 )
日時: 2022/03/29 22:04
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 本題もつつがなく話し合いが終わり、ネズはスマホロトムに今何時かを問うた。スマホロトムは即座に反応し、画面に現在の時刻を表示する。"15:30" と、パネルにはそう映っていた。
 自分が目覚めてから相当時間が経っていると感じていた。あまり遅くなると、妹をはじめ待たせている人々に申し訳が立たない。そう思い、ネズはそろそろお暇しようと席を立とうとした。
 そこを、小さく呼び止める声が聞こえた。首を向けてみると、ちらりと大典太が横目で見ていた。



「……そういや。気になったんだが、シュートシティのスタジアムに向かう途中…街中であんたのことを噂している奴らがいた。あんた…有名人なのか?」
「まぁ…ジムリーダーとしては無名でしたが、シンガーとしてはそこそこ名前が知られている自覚はありますよ」
「そうか。で、あれば……」



 何故突然そんなことを聞いて来るのだろう。本題は終わったのだからもう自分に用はない筈だ。ネズはそう思っていた。不思議そうにそのまま彼の方向を向いてみると、大典太は静かに頷き、彼にこう提言してきた。
 その内容に、思わず周りにいた刀剣男士も言葉を失い目を見開く。彼の口から到底出る言葉ではなかったからだ。



「ネズ。あんた…ここを住まいとして使う気はないか?」
「―――は?」



 突拍子もない提案に、思わずネズは口をぽかんとしてしまう。確かに故郷を失ってしまった今、"どこに帰るか"という問題が浮上していた。最悪1日2日はシュートシティでたむろする覚悟は出来ていたが、既にリーグの関係者から身を引いている立場としては、ダンデに相談するのも気が引ける事案だった。
 信じられない、という反応を返された大典太はしょんぼりと顔を伏せるも、そのまま言葉を続ける。どうやら冗談ではなく、本気のようだった。



「……あの場にいた全員、シュートシティに住んでいるとは思えない。恐らく、故郷である街が混ぜられて消滅し―――故郷を失っている奴らの方が多いんだろう。
 あんた、確か"元"ジムリーダーだとか言ってなかったか。リーグに関係ない人間が部屋を提供されるとは考えにくいんだが…」
「それはおれも考えました。シュートシティにいられるのも数日だということも覚悟はしています。マリィの今後の住まいに関しては、ダンデに何とかさせるので心配はしていません。
 ただ…スパイクタウンが消えちまった現状、おれに戻る場所はありません。当然、寝床も手配される可能性は低いでしょうね。非常に。……ダンデなら無理やり押し通して、おれの分も勝手に部屋を用意するんでしょうけど」
「おい。まさか主のあの言葉―――信頼できる人間全員に使うつもりじゃないだろうな」
「……悪いことなのか?」
「私は全然構いませんよ。神域の広さは自由自在に変えられますので。ご希望に合わせて洋風のお部屋やベッドも提供いたします」
「主君…。結構大変なことをお話しているんですが、この状況を楽しんでいませんか?」
「そうですか?どんな突拍子のないことでも捌けなければ神とは言えませんからね。非常識も常識として受け入れる。何事もそう考えねば」
「……あんたのその狂気的なお人好しっぷりが大典太に伝染してるから問題なんだろうがっ…!!」
「あの…。話が取っ散らかっててあれなんですが、本当にいいんですか?」



 ネズが悩んでいたことをズバズバ言い当てられ、流石にたじろいでしまう。住居を提供してくれるとなれば嬉しいことに越したことはないが、迷惑をかけるのではないかという気持ちも同時に湧いて出た。
 自分が初めてではない、という話をしていたことから、以前も同じような話題を別の人物に提言したのだろう。しかし……例えシュートシティにずっと滞在していたとして、逆に有名人が集まりすぎて大変なことになるかもしれないとも思い始めた。唯でさえ、著名なジムリーダーや選手が一か所に集まっているのだ。今後マスコミ等が彼らのことを聞きつけ、厄介ごとに巻き込まれるかもしれない。
 だったら。彼らの話に乗ってもいいのかもしれないとネズは考え、大典太に確認を促すように"本当にいいのか"と再び口に出した。彼は静かに頷き、自分の考えを彼に告げる。



「……主がいいって言ったんだからいい。それに…俺自身が、あんたに興味がある」
「…………」
「大典太さんっ…!」



 大典太が他人に―――しかも人間に興味を持った。その事実が鬼丸の頭を混乱させる。隣では、何故か前田が感極まって号泣している。ネガティブな彼の成長に感動しているのだろう。
 その言葉を聞いたネズは考えることを止めた。そして―――大典太に、一同に、改めて向き直り直角に頭を下げた。



「おれ、だめなやつだけどさ。住居提供してくれて、ユウリ捜索も手伝ってくれるなら…おれも、出来ることであればあんた達に協力します。これから、世話になります。よろしくお願いします」



 ネズが神域で世話になることを決意した瞬間だった。
 そんな彼の丁寧な挨拶に、サクヤはかしこまらなくていいと顔をあげるように諭したのだった。















 ネズがリレイン城下町にしばらく世話になることをラルゴに伝える為、一同は一旦神域から出て彼に挨拶をしに向かった。
 エントランスに差し掛かったところで、白いもちもちの小さな生命体と鉢合う。オービュロンはこちらに気付き、安心したように表情を綻ばせながら近付いてきた。



「無事に回復サレタ様で良かったデス!ワタシも安心シマシタヨ!」
「えーっと…」
「ネズさん。ほら、貴方をここまで背負って来てくれた金髪の女性がいましたよね。彼女が、こちらのオービュロン殿です」
「スミマセン、びっくりサセテシマイマシタ。ワタシ、コッチが本来の姿ナノデス。コノ街の人はワタシのコノ姿を見ても驚きませんが、流石に見知らぬ街を見に行く時に驚かれるノハ控えたかったノデ、チキュー人に擬態シテイタノデス」
「成程。ゾロアのイリュージョンみたいな感じなんですかね」
「ワタシはぽけもんではアリマセンヨ!」
「似たようなもんでしょう」



 つまり、目の前の宇宙人に助けられなければ自分の命は無かった。ネズはそう結論付け、オービュロンにも改めて丁寧に礼を言った。オービュロンはその言葉に嬉しそうに反応しつつ、地球人は助け合いの精神が大切だと持論を述べた。
 その間に大典太がラルゴに連絡を入れようと町長室に入ったのだが、すぐに戻ってきた。どうやらラルゴは今外出中でいないらしい。戻ってくるまで、暇を持て余すこととなった。
 ネズは忘れないうちにスマホロトムに、マリィに繋ぐことを指示した。キバナとの約束は守らなければならない。正直、話がとんとん拍子に進んだのも彼が空気を読んでくれたお陰なのも一理あったからだ。

 しばらくスマホロトムの機械的な音を耳にした後、聞きなれた妹の声が聞こえてくる。画面の向こうには、いつも通りのむすっとしたマリィの姿があった。



「マリィ。今しがた話が終わりましたよ」
『遅い!キバナさんとダンデさん、もう3回もバトルしてたと!全部ダンデさんが勝ってキバナさん凄く落ち込んでたよ』
「あらまぁ。それはキバナにご愁傷さまと言っといてください。……それで、ユウリのことなんですが。捜索に全面協力してくれるそうです。まずは一安心ですよ」
『本当?!良かったぁ…。ならユウリ、はよ見つけんとね』
『そっか~。探してくれる味方が増えると心強いもんな!』
「キバナ、傷は癒えたんです?」
『癒えてる訳ない!ちょっとした読みを間違えて2回もダンデに逆転されるしよ~。話をして気を紛らわせないと自分のミスにまた悪循環しちまう。反省会は後にするって決めてんの、今日のオレさまは』
「はいはい、そうですか。それで…もう1つ報告があるんですけど。おれ、これからしばらくこっちのリレイン城下町で世話になることにしたんで。まぁ、有名人が揃いも揃ってシュートシティにいたら、後々面倒なことに巻き込まれるのは目に見えてますからね」



 ユウリ捜索を協力してもらえることになった件と、リレイン城下町―――正確には神域に住まうことになったことを伝える。流石に神域のことは外に漏らさないでほしいとサクヤから釘を刺されていた為、言葉は濁して説明をした。
 すると、無表情を貫いていたマリィがちょっとむくれたような表情になった。そして、画面の向こうのネズに向かって"ずるい"と声をあげた。



『アニキだけずるい!マリィもリレイン王国気になるけん!』
「あのですね、マリィ。おれは別に遊ぶ為にここに世話になるわけじゃないんです。おれはもうリーグ関係者じゃないんですし、シュートシティに住居を拵えてもらう立場ではないんです。そのことを話したら、城下町の方が快く住居を提供してくださったので。そのお言葉に甘えるだけですよ」
『だったらあたしもそっち行きたい!結果的にガラル地方滅茶苦茶になっちゃったし、しばらくジムチャレンジは休まなきゃいけないってダンデさん言ってた。ジムリーダーの仕事もしばらくお休みだよ』
『ネズ~。連れないこと言わないでオレさまにも城下町紹介してよ~。映えスポットとか、美味い飯とか、賑やかな街の人とか、魅力は沢山あるんだろ?オレさまのSNS使えば拡散も一瞬!もっと賑やかな街になるの間違いなし!』
『それに、リレイン城下町にはどれだけ強いトレーナーがいるかもオレは気になる。折角だからバトルを申し込みたいぜ!』
「ダンデ、ポケモンの"ポ"の字も分からねぇ連中がそこかしこにいる街でそんなこと企むんじゃねぇ」



 いくら説得してもマリィは"自分もリレイン王国に行きたい"の一点張りである。更に、キバナとダンデも会話に参加し始めてしまい話がばらつき始めてしまった。映えスポットを求めているキバナはともかく、ダンデに至ってはリレイン王国にもポケモントレーナーがいると信じ、勝負を申し込もうとまでしている。
 自分も向こうのご厚意に甘えるだけだ、と説明しても全員聞く耳を持たない。流石のネズも頭を抱えた。……そんな会話を聞いていたのか、前田がひょっこりと画面に現れこう提案をした。



「……あの。ネズ殿が議事堂にお世話になることを、これから町長殿に伝えにいかねばならないのです。もしよければ、一緒にマリィ殿やキバナ殿のお部屋の手配も交渉してみましょうか?」
『えっ?いいんですか?』
「はい。町長殿はどんな人でも"悪意が無ければ"基本受け入れる方なので…。流石にダンデ殿は、シュートシティの責任者として見られていますので無理だとは思いますが…」
「……前田は話し合いが上手い。きっといい方向に話を転がしてくれる筈だ」
「買い被りですよ大典太さん!ですが、やってみたいです。僕に任せてくれませんか?」
『だったらお願いしたい!ネズのさっきの言葉には割と同意してるし、ダンデもこれからのことは今から決める予定なんだろ?』
『そうだな…。リーグはしばらく休まなきゃいけないことはほぼ確定しているが、それ以外のことについては全く方向性が定まっていない』
「それに、ネズ殿の妹君と交友関係の深いご友人、ということであれば快く部屋を提供してくださると思いますよ」
『ありがとうございます!』
「まだ決まった訳ではありません、妹よ」



 どうやら前田が、ネズの報告と一緒にマリィとキバナに部屋を提供する―――リレイン城下町へ世話になる交渉をしてくれるらしい。あの町長のことだから快く頷いてくれるとは思うが、と口添えすると2人は嬉しそうな表情を綻ばせた。
 嬉しそうな画面の向こうの彼らを見て、ネズは1つ大きなため息をつく。しかし、顔は満更でもなさそうだった。



「では、交渉が上手く行ったら明日シュートシティまで迎えにいくので…。今日中に荷物を纏めておきなさいよ」
『うん。アニキ、待ってるね!』
『オレさまも今日中に色々準備しとこ~っと』



 明日迎えに行く、とだけ伝えスマホロトムに通信を切る様に指示した。その後、ネズは大典太に向き直り"妹と友人共々世話になります"と改めて頭を下げた。
 大典太は流石にかしこまりすぎだと頭を上げるように言った。メイクで誤魔化してはいるが、顔つきが幼い為恐らくギリギリ成人していないのだろうと大典太は推測していた。それでこの礼儀正しさである。かなり苦労してきたのだなとふと、彼は思った。



「主君がネズ殿だけに話を通してきた以上、恐らく襖は見えないものと思われますが…。一応、それ前提で交渉してみますね」
「危険に冒されなければ何でも構いません。よろしくお願いします」



 話し合っていると、玄関の方から軽快に歩いて来る高いヒールの音が聞こえてくる。ラルゴが外出から戻って来たのだ。彼はエントランスで待っている一同に反応し、明るく声をかけてきた。前田がネズ、そしてマリィ達のことについて話があると告げると、彼は"準備を急ピッチで進めるから少し待っててほしい"と急いで町長室へと戻った。
 これはいい方向に話が進みそうだ、とネズは口角を上げつつ、大典太に向き直る。そして、グローブが嵌っている手をずい、と差し出した。



「…………?」
「握手、です。ガラルでは友好を示す挨拶ですよ。さっき言ってくれた言葉、嬉しかったです。不思議とおれも、きみとは気が合いそうだと思っていたからね」
「…………」



 差し出された手に、大典太は思い出した。そういえばサクヤとあの世界で再会した時も同じことを望まれたと。あの時は恐怖が勝り、彼女に声をかけられるまで手を握り返せなかった。
 しかし、今は違う。彼女の元で刀剣男士として世界を見て、少しは世界のあり方を学んだつもりだった。差し出された手に、大典太は静かに自分の手を合わせる。そして、握手を交わしたのだった。



「……俺からも、よろしく頼む。どうせ役に立たん刀だとは思うが…」
「やっぱり似ているね、おれ達。マリィの言っていることが今でもよく分かります」
「……そうだな」




 握手をし終えたと同時に、ラルゴのいた部屋からガチャリとノブが回る音が聞こえてきた。諸々の準備が出来たらしい。
 彼の声に従い、一同は町長室へと向かって進んでいったのだった。




 Ep.02-1 【強者どもの邂逅】 END.


 to be continued…

Ep.02-s1【夢の邪神の幸せなお店】 ( No.68 )
日時: 2022/03/31 22:06
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ネズとマリィ、そしてキバナがリレイン城下町に世話になることが決まった当日の話だった。
 現在ネズは一旦シュートシティに戻り、手続きの件をダンデ達に説明している。その日はシュートシティのホテルに泊まらせてもらうことになり、翌日マリィとキバナと共に城下町へと戻ってくると話が纏まった。
 彼が帰ってくるのも最低でも翌日の午前中になるとのことで、唐突に自由時間が出来た刀剣男士達は各々目的を見つけ過ごしていた。

 そんな中、大典太はエントランスで珍しい2人を見かける。羽のように長く白い髪を揺らした炎のような男性と、正に"真っ白"が似合う男性。サクヤが神域に籠るようになると同時に、身を隠しているのか中々姿を現さなかった2人組だった。
 名をアクラル、アカギと言った。サクヤと同じく彼らも"神"と呼ばれており、それぞれ朱雀と玄武の力を受け継いでいる存在である。



「……珍しいな。こんなところで鉢合うなんて」
「ん?あっ、光世ー!本当に久しぶりだなぁ」
「……あぁ。全然見かけないからどうしたものかと思っていたが…。姿を隠して情報収集をしていたんだな」
「アンラに勘付かれるとヤバいから…隠れてだけど…」
「……そうなのか。それで…情報は集まっているのか?」
「いいんや?あいつ、姿隠すの上手すぎだろ!って感じに見つかんねー。目ぼしい情報は0だぜ。でも、定期的に顔出さねーとオメーら心配するかと思ってよ。アカギと話し合って今日くらいは顔出そうぜってここまで来たんだよ」
「……成程」



 どうやらアクラル、アカギ共に現在は姿を隠しながらアンラの本体の情報を集めているらしい。確かに悪の神を潰し、世界を元に戻す手立てを見つけるならば情報は多いことに越したことはない。しかし、アンラも大胆に動いているとはいえ重要な情報は絶対に表に出さない。アクラルもアカギも収集には難儀しているようだった。
 分かりやすく落ち込む彼らに、大典太は"敵が大きすぎるんだ。仕方がない"と慰めることしかできなかった。



「……主には会っていくのか?」
「出来るならそうしたいけどよ。あいつ、神域から出てきてねーんだろ?」
「……あぁ。だが、最近主が俺達の信頼した奴なら神域に住まわせてもいいって言い始めたから…。あんた達でも入れる可能性は充分あると思う」
「そうか…。サクヤも色々考え方が変わったのかもな…。前なら絶対に、頑なに俺達ですら入れなかったもんな…あの神域に…」
「誰にも気づかれない、どこの空間からも切り離された場所だかんなあそこ。ま、それほどオメーらが信用されてるって考えて良いんだけどよ。サンキュ、光世!後でサクヤに顔出してから帰るわ」
「……そうしてくれ。主も喜ぶだろう」



 サクヤのことについても現状を話し合いつつ、雑談を続ける2人と一振。
 そんな彼らの耳元に、聞き覚えのある間の抜けたのんびりとした声が響いてきた。



「あ~っ。お久しぶりですみなさん~!」
「この声…。まさか」
「まさかじゃなくてもハスノで間違いない…。あんなのんびりした声はあいつしか出さない…」
「……あの夢の邪神だけじゃなさそうだな。傍らにいるのは…刀剣男士?」



 声の方向を振り向いてみると、こちらにゆっくりと手を振って駆け足で向かってくる女性の姿があった。栗色の髪をポニーテールで纏めた、ふわふわとした印象の女性だった。その傍らには、眼帯を付けたホストのような印象の男性が佇んでいる。大典太と同じ雰囲気を感じるのと、腰に刀を提げていたことから彼は"自分と同じ存在だ"と判断した。
 女性―――ハスノは大典太達の元で立ち止まると、再会を喜ぶかのようにふわりと笑顔になった。



「大典太さん~。皆さん~。お久しぶりです~。無事だったようで何よりですよ~」
「ハスノ…。あれ、オメー1人なのかよ?一松とトド松は?」
「それが~。この世界で目覚める前に、アンラにお店を物理的に破壊されてしまいまして~。一松さんとトド松さんともはぐれてしまったんです~。今探してるんですけど~、全然見つからなくて~」
「行方不明なのか…」
「……それで。こっちの男は誰なんだ?気配からして…俺と"同類"のように見えるが」



 ハスノから現状を聞いて一同は驚いた。なんと、アンラはハスノの経営していた店まで徹底的に潰していたのだ。彼女の元上司であったアシッドも被害を受けていたことから、予想は出来ていたことだが…。あまりにもアンラのやることの悲惨さに、大典太は心を痛めた。
 しかし、気になるのはそれだけではない。眼帯を付けた刀剣男士が何故彼女と共に行動をしているのか。それについて尋ねると、ハスノは間延びした声で考えつつも、こう答えた。



「実はですね~。私がこの終末の世界で目を覚ました時にですね~。偶然傍らに刀が見えたので回収したんです~。それで、顕現してみたら彼が現れまして~」
「僕は"燭台切光忠"。伊達政宗公が使ってた刀なんだ。格好良く決めたいよね」
「燭台切…」



 ハスノの紹介で刀剣男士が自己紹介をした。彼は"燭台切光忠"と名乗った。伊達政宗が使用していた太刀であり、備前長船派の事実上の祖といわれている刀工、光忠の作である。
 彼女が簡単に"燭台切を顕現させた"と言い切ったのにも驚いたが、問題は彼から感じる霊力の方だった。燭台切も天界の蔵に仕舞われていた刀で、本部を破壊された時に強奪されていた筈である。それなのに―――大典太には、彼からは"アンラの邪気"を感じることが出来なかった。
 小狐丸ですら、アシッド自身での解呪は不可能だと言わしめたことは事実である。それなのに、何故目の前の彼からは邪気を感じないのだろう。不思議に思って問い返してみると、ハスノはうんうんとゆっくり頷いて口を開いた。



「大典太さん~、邪気のことに関してはですね~。私が全部取り祓っておきました~。呪いの類なら、同じ邪神ですので"軽度であれば"私達にも解呪が出来るんですよ~」
「……そう、だったのか。知らなかった…」
「ニアさんもアマリーさんも今どちらにいらっしゃるのか分かりませんし~、私は夢を持つ人間の皆様の味方ですので~、その人間をお助けする刀剣男士さんが苦しんでいるなら助ける義務があるんです~。でも、あまりにも呪いが浸透してしまっていた場合は~、私達でも解呪は無理なんです~」
「僕は本当に幸いだったということだね…。小狐丸さんは大変だったそうだから」
「邪神なら解呪が一部出来んのか…。なぁ光世。今、呪いの解呪ってお前一振でやってんのか?」
「……そうだ。他の天下五剣も一応出来るが、今のところ俺が一番適任だからな…」
「ニアを探し出せば…解呪の手伝いをさせられるとか思ったが…。あいつはそうすんなり協力してくれる奴じゃないのを今思い出した…。ハスノが例外中の例外なだけだ…」
「アマリーさんも、自分の害にならなければ協力してくれるはずです~。もし見つけたら、私から話をしてみますね~」



 邪神も"軽度の邪気であれば祓うことができる"。その事実に大典太は驚いた。事実、今まで呪いの類を祓ってきたのは自身を始めとする天下五剣の役割だと思っていたからだ。だが、実際に目の前の燭台切からは邪気か感じられない。彼女の言っていることは本当なのだと改めて思い知った。
 であれば、ニアに頼めばいいとアカギは言ったがすぐに考え直した。彼女は邪神の中でもとにかく厄介な存在。そう人間の利になることを進んでやるだろうか、と思い直し発言を撤回した。
 そのまま話を続けていると、町長室の方向からガチャリと音がした。ハスノはそれを聞いて、本来の目的を思い出す。



「あっ!思い出しました~!私ここの城下町にレストランを建てたくて、責任者さんにお話を伺いに来たんでした~!」
「そうだったのか?!だったら早く言えよ!ラルゴ連れてきたのに!」
「気になるお話がいっぱいで寄り道をしてしまいました~!あの~、すみませ~ん!」



 ラルゴの元へハスノは走っていく。何故彼が町長だと知っているのかと不思議に思った一同だったが、彼女が街の人に話を聞いたことをふと思い出した。恐らくその中で、ラルゴの話が出たのだろう。
 ハスノがラルゴと共に町長室に入って行ったことを見守りながら、燭台切にも行かないのかと催促する。しかし、彼は首を横に振った。



「まだ話し合いの段階だからね。僕が横から入って話をややこしくしても不味いだろう」
「……あんた、あいつと契約したんじゃないのか?」
「ううん。助けてもらったし、僕もそうしようと話を持ちかけたんだけどね?頑なに断られてしまってね…。でも、何か礼がしたかったからさ。"料理が出来る"と言ったら、レストランの従業員として僕を雇って貰えることになったんだ。僕の新たな主にふさわしい人物も、一緒に探してくれると約束してくれたよ」
「……何故神の類は契約を拒むんだ?白虎に関しても、数珠丸からそう聞いた…」



 大典太は、てっきり燭台切とハスノが契約を果たしていると勘違いをしていた。しかし、燭台切はそうではないと答えた。彼も一度そうしようと契約を持ちかけたが、ハスノに断固拒否されてしまったらしい。しかし、従業員として雇ってくれるとは言った為、大典太は更に訳の分からないという顔をした。
 アカギも以前同じようなことを数珠丸に言っている。何か契約が出来ない理由があるのだろうか。ならば、サクヤは何故自分と契約をしたのだろうか。考えを脳内が駆け巡る。
 そんな彼の様子を見て、燭台切は自分なりの考えを述べた。



「うーん。僕の推測なんだけど聞いてくれるかな。大典太さん」
「……構わない」
「僕も記憶に霞がかっている箇所が多いからはっきりとは言えないんだけどね。どこかの本丸で…こんな話を聞いたことがある。"霊力の差があまりに大きすぎると、契約した途端に双方に害が起こる"ってさ。それを防ぐ為に"仮契約"というものが存在しているという話だね」
「……霊力の無い者が、霊力の豊富な刀と契約すると…双方に悪影響が起こるということか」
「簡単に言えばそうなるね。刀の方に悪影響が大きすぎると……最悪、契約した途端に折れてしまうらしい」
「…………」
「もしかしたら、彼女はそれを危惧して僕との契約を拒んでいるのかもしれない。彼女…人間ではないんだろう?」
「……そうだな。あいつ自身も言っていたが、"邪神"の類だ…」



 燭台切の推論を聞いて、どこか大典太は納得していた。確かに双方の霊力の差が大きすぎると、どちらにも悪影響を及ぼすことがある。だからこそ、神々は刀剣男士との契約を拒むのだと。
 もしかしたらサクヤが最初、契約を渋っていたのはそれも一因しているのかもしれないとふと思った。彼女の場合は、刀剣男士を傷付けたくないという恐怖心の方が大きかった訳だが。

 その後、彼と少し話をしていた矢先だった。ラルゴとハスノが上機嫌で部屋から出てきた。どうやら、レストランを開くのにピッタリの空き物件があるとのことだった。
 ラルゴとしても、城下町の人が楽しく食事を出来る場所が増えるのは大歓迎だった。ハスノの願いをしっかり叶えてあげたいという気持ちが、仕草からよく分かった。



「燭台切さ~ん!とってもいい物件が何件かあるそうなので、一緒に見に行きましょう~!」
「了解だよ。ということで大典太さん。僕もこれからしばらくこの街で世話になるから…時間が空き次第他の刀剣男士にも挨拶に行こうと思う。これからよろしくね」
「……了解した。鬼丸達にも伝えておくよ」
「うん。そうしてくれると有難い。君達も、レストランが出来たら気軽においでよ!僕が腕を振るうからさ!」
「……楽しみにしてる」




 そう言って、燭台切は意気揚々と議事堂を後にした2人を追いかけたのだった。
 彼の背中を見守りながら、大典太は"これからもっと賑やかになりそうだ"と思わず微笑みを浮かべたのだった。

Ep.02-s2【襲来!エール団】 ( No.69 )
日時: 2022/04/01 22:45
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ハスノと燭台切が城下町に来た翌日。予定通り、ネズがマリィとキバナを連れて議事堂へと戻ってきた。
 元々シュートシティには手荷物しか持ってきていなかった為、3人とも着替え等はこの城下町で揃えるつもりだった。エントランスで待っていた大典太達と軽い挨拶を済ませ、マリィとキバナはラルゴに手配された部屋に案内してもらうのだった。

 少し時間が経った後、2人がエントランスに戻ってきた。ラルゴからの説明も一通り終わり、各々自由時間となったのだ。
 しかし、3人共この城下町のことは右も左も分からない。しかし、流石に生活必需品を揃える場所くらいは覚えておいた方がいいとの大典太の助言で、まずは彼に商店街を案内してもらうことになった。



「改めて、マリィといいます。アニキ…ネズの妹で、今はスパイクタウンのジムリーダーをしています。よろしくお願いします」
「オレさまはキバナ。ナックルシティって街でジムリーダーをしてるんだぜ!これからよろしくな!」
「……丁寧な挨拶感謝する。どっちもジムリーダーなんだな。妹がネズから引き継いだことは聞いているが…」
「マリィはおれよりもポケモン勝負の才能がありますし、キバナはガラル最強のジムリーダーと言われています。2人共相当実力があるポケモントレーナーですよ」
「そう言ってるネズも、ダイマックス無しでオレさま追い詰める超強いトレーナーだぜ!」
「余計なことは言わねぇで良いんですよキバナ。……で、商店街を案内していただけるんでしたよね」
「……あぁ。ここからならすぐだし、道も分かりやすい。何か必要になった時に、覚えておかねば不便だと思ってな…」
「私物、全部なくなっちゃったけんね。大典太さんの言ってることは正しいよ」



 これから割と時間があるとはいえ、商店街も広い。1つ1つ説明するならば出発は早い方がいいだろうと考えた大典太は、早速商店街へ行こうと3人に話した。今日は彼に従うと決めていた3人は、素直に大典太の後をついて行く。
 もう少しでエントランスを出られるという最中だった。ネズが誰かの足音に気付き、大典太に待ったをかける。



「すみません。止まってもらっていいですか」
「……どうした?」
「誰か…いや、大勢がこっちにかけてくる足音が聞こえてきますね。それも急ぎで」
「……分かるのか?」
「おれ、耳は良い方なんで。しかもこの足音……」



 ネズが足音の正体を悟ったのか、大きくため息を吐いた。彼の関係者なのかと戸惑ったと同時に、玄関を駆け抜けてこちらへやってくる大勢の人の姿があった。外にいた住民のざわざわした声も耳に入ってくる。
 大典太が見たその人物は、全員似たようなパンクファッションだった。ネズが身に着けているインナーと同じようなデザインのシャツを来ている人物もちらほらといた。彼の関係者なのかとネズに問おうとすると、彼は頭を抱えていた。十中八九彼の関係者だ、と大典太は確信した。
 大勢の人物は、目的の人物―――ネズとマリィを見つけて一斉に号泣し始めた。



「何やってるんですかおまえ達…」
「ネズさぁぁぁぁん!!!お嬢~~~~~!!!今までどこに行ってたんですかぁ~~~~~!!!」
「私達ずっと探してたんですよ~~~~~!!!ガラルスタートーナメントの開会式も流れずに、あらゆる放送局にノイズが入ったと思ったら意識を失って、気付いたら見知らぬ場所に転がされてるんですもん~~~~!!!」
「あらまぁ」
「……ええと。こいつらは?」
「うちのジムを支えてくれるジムトレーナーの人達だよ。まぁ…元々あたしの応援団をしてくれていたけん、その名残で"エール団"って言われてる。アニキはその団長なんよ」
「……はぁ。成程…」



 大勢でネズに泣きつく姿を見て、大典太は言葉を失った。しかし、マリィから説明を受けて納得する。彼らは純粋にこの兄妹を心配してずっと探していたのだと。となれば、見つかれば号泣して縋りつくのも当たり前だった。
 ネズは抱き着いて来るエール団を1人ずつ対処し、落ち着かせていた。



「連絡が遅れて済まなかったね。ですが……公共施設でギャーギャー騒ぐんじゃねぇ。街の方々に迷惑をかけるんじゃないんですよ」
「スンマセンっ!!」



 最後の1人を座らせたと同時に、ネズが説教を始めた。流石に今回の騒ぎはお咎めなしとは行かなかったようだ。まるで慣れたようにエール団に正座させている姿を見て、もしかしてこれは日常茶飯事なのではないかという考えが大典太の中に生まれる。
 マリィに疑問をぶつけてみると、彼女は冷静に"そうだよ"とだけ答えた。ネズも苦労しているのだな、と内心思った。
 しかし、ネズもネズである。説教をしている場所がエントランスのど真ん中な為、議事堂に用事のある住民には非常に邪魔になっていた。



「なんか後ろでまごまごしてる人、オレさま見つけちゃった」
「アニキ、説教はいいけどお客さんの邪魔になっとるよ」
「……あっ。すみません。すぐに除けます」



 マリィの声はネズにすぐに届き、彼はエール団をエントランスの端に移動させた。言いたいことは言い切ったのか、ネズはそれ以上彼らに追及することはなかった。
 それと同時に、エントランスで騒ぎが発生していると察知したのかラルゴが町長室から出てきた。そして、エントランスの人数を見てにこやかに笑った。



「あら~?すっごく賑やかな声がしてたから出てきちゃった。どうしたの?」
「騒いじまいましたね。申し訳ありません」
「いいのいいの!それで…この子達は?」
「あの…スパイクタウンに帰れなくて困ってるんです。俺達エール団だからスパイクタウンに帰らないと…」
「…………」



 ラルゴが疑問を口にすると、黙っていたエール団がぽつぽつと現状を話し始めた。どうやら彼らはシュートシティとは離れた場所で目覚めたらしい。何とか集まった人数でネズとマリィを探そうという話になり、旅人に話を聞きながらこの城下町を目指して歩いていたのだった。
 彼らの話を聞いて、ネズは相槌を打った。ダンデに頼めばシュートシティで預かってもらえるとは思うが…以前エール団はジムチャレンジで悪事を働いた過去がある。街の住人がどう思うか、彼には簡単に予想が出来た。



「申し訳ねぇんですが…。スパイクタウンには帰れません。この世界に飛ばされちまった時に消えたみたいです」
「えぇ~~~っ?!じゃあどうするんですかネズさん!!」
「シュートシティにおまえらを預かってもらうことも考えたんですが、ダンデは良くても街の人間が嫌がると思うんですよね。それで…今凄く困ってます」
「リレイン城下町にもこれ以上迷惑はかけられないし…。いっそあたし達で集落新しく作っちゃうとか」
「余所者が世話になり始めた時に言う台詞ではありません、妹よ。はぁ…こんな時に決断が渋るなんて、やっぱりおれはだめなやつです」
「……数人ならなんとか出来るとは思うが、こう大勢だとな…」
「ナックルシティもないから、オレさまも何とも言えないんだよな~…」
「あら。そんなことないわよ?帰れないんだったら、城下町に住んでもらえばいいもの!」



 エール団をどうするか。対処に困っていた一同に、ラルゴが待ったをかける。彼女はさも当然のように"リレイン城下町で預かりたい"と言ってのけた。
 流石に軽く口に出てきたその言葉に、ネズは思わず"は?"と声を荒げる。ラルゴはそのままネズに説得を続けた。



「それに、さっきマリィちゃん言ってたじゃない。"エール団はスパイクタウンのジムトレーナーだ"って。だったら、ポケモン勝負だってそこそこできる筈よね?」
「うん。うちのスパイクジム、ジムチャレンジの時は後半を担当することが多いけん。だから、みんな実力に見合うように努力はしとるよ」
「それに、エール団はマリィちゃんの応援団なんでしょ?マリィちゃんは今日からこの街に住むんだから、こんなにいい条件はないわよ!街の警備も兼任してくれればいいもの!借家だって言ってくれたら用意するわよ」
「……ちゃっかりしすぎている」
「言動のスケールと口にする軽さが比例してないんですよ、この町長。今おれはそれを確信しました」
「……慣れてくれ。こいつはいつもそうだ」



 エール団が有事に対応できる人物だとラルゴは見抜いて、故郷が無くなっているならうちの街を警備してもらえばいいと軽く言い切った。確かに、シュートシティ以外のガラル地方の街が消えてしまった以上、スパイクタウン"だけ"が残っている可能性は非常に低い。エール団の方向を向いてみると、マリィがここにいるなら是非やらせてほしいという声がちらほらとネズの耳に入っていた。
 大きなため息をつくネズの肩をキバナがポン、と叩いた。



「ネズ~。ため息つくと幸せが逃げるぞ?」
「予想外のことが同時に起きすぎて頭がついていけてないんです。ため息くらい吐かせやがれ」
「……でもさ。アニキ。エール団のみんなやる気十分みたいだよ。スパイクタウンを探すことも諦めてないけど、まずはお嬢が無事ならそれでいい、ってさ」
「はぁ~……」



 マリィの意見を聞き、ネズはまたしても深いため息をついた。そして、何かを決心したようにラルゴに向き直ったのだった。
 そして、ネズは背筋を伸ばし直角に頭を下げる。その行動に一同は一瞬驚くも、彼はその姿勢を崩すことはなかった。



「うちの連中をお願いします。町長。賑やかな奴らですが…みんな、良い奴なんで」
「うふふっ。勿論よ!城下町の力になってくれるなら、それ相応の対価を支払うのは町長の役目なんだから」
「ネズさぁん…!流石俺らのネズさんだぜ!」
「エール団はお嬢とネズさんをいつまでも応援してーる!!」



 ラルゴが明るい調子でそう答えると、安心したようにネズは顔をあげたのだった。
 エール団の処遇が決まって安堵した一方、彼らが次に気になったのはネズの近くにいる大典太のことだった。彼はれっきとした刀剣男士なのだが、一般の人間から見れば"V系バンドマン"と例えられることが非常に多い。それは、エール団でも同じだった。
 団員の1人が大典太に近付き、声をかける。



「すんません!もしかして、ネズさんの新しいバンドメンバーですか?!」
「ばんど、めんばー?……違う。俺は…」
「その服装に髪型。超イケてるっすね!ネズさんの格好とマッチしてバリロックっす!何の楽器担当するんですか?静かそうだから…あ、ベースとか!」
「あ~!ベース!ストリンダーとセッションしたら絶対に似合うやーつ!」
「……えっと、その…」



 新しいバンドメンバーだと勘違いされ、やれ容姿やらやれ表情やらをエール団に褒められた。褒められ慣れていない為どういう表情をしたらいいのか分からなかったのと、彼のバンドメンバーではないことを説明しないといけないことがせめぎ合い大典太は押し黙ってしまった。
 彼の反応を見ていたネズがすかさず間に入り、彼について説明を始めた。



「早とちりしないでください。彼はバンドメンバーではありません」
「えっ。そうなんですか?こんなにロックなのに!」
「ロックなのは否定しませんが」
「(否定しないのか…)」
「じゃあ何なんです彼?ネズさん、親し気に話してましたよね?」
「うーん…。おれの…何なんでしょう?」



 エール団に関係を問われ、ネズは思わず回答に戸惑ってしまった。確かに大典太とは気が合うとは確信しているものの、それだけだ。まだお互いのことをよく知らない。
 それは大典太も同じようで、返答に困っていた。考えられる答えと言えば…。ふと思いついた言葉を大典太は口にする。



「……護衛?」
「なんでアニキも大典太さんも分かっとらんの…。"お友達"でいいじゃん」
「そこまでおれ達親しくなってませんし。昨日の今日ですし」
「……ネズに同意する」
「んもう!新しい友達って言っとけばいいの!しぇからしか!」




 お互いに顔を見合わせ言葉に詰まる様子を見て、マリィは呆れたようにそう返した。
 その言葉に納得したのか納得できなかったのか。1人と一振はしばらく首を傾げ続けたのだそうな。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。