二次創作小説(新・総合)

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繋がる世界と未来の物語【Ep.04-2完結】
日時: 2025/10/03 21:52
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 ―――これは、"全てを元に戻す"物語。
 それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。


 どうもです、灯焔です。
 新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
 サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
 この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
 また、オリジナルキャラクターも登場します。
 苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。


※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2


<目次>

Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17

Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148

ep.04-1 【天下五剣が集うとき】 完結
>>166 >>167-171 >>172-176

Ep.04-2【新世界の砂漠の華】 完結
>>178 >>179-180 >>181-185 >>186-188


※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54

Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111

Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151

Ep.04
【月と超高校級の来訪】 >>177


※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163


<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150
>>164-165


最終更新日 2025/10/03

以上、よろしくお願いいたします。

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 ( No.159 )
日時: 2022/10/08 22:07
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 会場に笑い声が響き渡る。狂気的な笑みを浮かべ、悪魔に指示を続けているジェシカによるものだった。逃げ遅れた審神者と刀剣男士も各々対抗すべく剣を抜き戦いを続ける。しかし、自我を失った悪魔は暴走を続け、平和に時間を過ごそうとしていた人々の生気を奪い取っていく。
 大典太は自分と、その周りに迫ってくる邪気を刀で払いのけながらも辺りを見回していた。既に倒れている審神者の数は数多に上っていた。早いところ治癒を開始せねば、この場で死者が出てしまう可能性があることも彼は示唆していた。

 咄嗟の判断で、彼は近くで刃を振るっていた数珠丸に小さく声をかけた。倒れている審神者を救うため、戦線を一時引くために。



「……呪いを直に受けた奴が多すぎる。早いところ治癒にあたらねば、取り返しのつかないことになる輩も出てくるだろう…。すまん、戦線離脱してもいいだろうか」
「悪神による邪気を素早く治癒できるのは貴方だけ…。早く呪いを受けた方の元へ行ってあげてください。しかし…お気を付けください。建物内での戦いが続いております。治癒中にも攻撃が飛んでくる場合があります」
「……充分承知しているさ。気を付ける」



 数珠丸も大典太の言いたいことについては粗方予測していた。そのため、彼に治癒を任せ自分はこの部屋に飛んでくる攻撃の守護を続ける判断をしたのだった。
 彼に背中を向け、大典太は近くに倒れている審神者の治癒に早速あたろうとする。そんな彼に近付く影がいた。震えながらも逃げていなかった柊の姿がそこにはあった。



「……あんた。なんで逃げなかった? ここにはもう安全な場所なんて無いんだぞ」
「私にも何か手伝えることがある筈だ!審神者でも、そうでない人も頑張って事件解決のため頑張ってるじゃないか!私にだって…長曽祢さんとむっちゃんと力を合わせれば何か、何か1つくらいは出来ることがあるはずだ!」
「……しかし、だな…」
「大典太。俺からも頼む。主の気持ちを汲んでやってくれないか。お前の負担になることはしない、約束する」
「……そうか。本当ならすぐにでも逃げてほしいところだが…」



 柊と彼女の刀が大典太に向ける視線は真剣そのものだった。その気持ちを無視し、ただ逃げろと強く伝えるだけでは気持ちが収まらないだろうと彼は判断していた。
 しかし、この部屋に留まり何かをするにしても、大典太はこれから治癒にあたるため彼らを守ることはできない。近くの刀剣男士も、ポケモントレーナーも、皆各々戦いへと赴いている。頼れる人物がいないのならば―――自分で身を守ってもらいながら、事件解決の手伝いをしてもらうしか無かった。

 そう頭の中で結論を付け、大典太は改めて周りを見渡す。辛うじて自分達が座っていた端の席には攻撃がギリギリ飛んでいないことに気付く。そこでは、オービュロンを守るように信濃と前田が短刀を振るって戦っていた。
 あの場所に倒れている審神者を連れてきてもらって、順次治癒をすれば……少しは回復が早まるかもしれない、と大典太はふっと考えが頭の中に浮かぶ。
 そのことを伝えると、柊は考えに乗っかるように"審神者を信濃くん達がいるテーブルまで運び出す"役目を引き受けることをはっきりと告げた。



「……いいのか? 下手すれば攻撃があんたに当たる」
「そうならんためにわしらがおる。主は必ず守るき、心配せんでくれ」
「ああ。主に向かってきた攻撃は全て俺達が跳ねのける。勿論傷付いた審神者を運び出す手伝いもするつもりだ」
「長曽祢さん…。むっちゃん…」
「……そうか。分かった。だが…対応しきれないと思ったらすぐに逃げるんだぞ。あんた達の治療までする可能性なんて…追いたくないからな…」
「大典太の言うようにはならないさ。最大限気を付ける」



 そう言うと、早速柊と彼女の刀は近くにいる審神者と、倒れている刀剣男士に声をかけ始めた。まだ意識がある者は柊が肩を貸し、既に意識を失っている者は長曽祢と陸奥守が手分けをして信濃達の元へと連れていく手筈を整えたようだ。
 彼らの背中を見守りながら、大典太も治癒をしようとしていた審神者を肩にひょいと乗せる。そして、死者を1人も出さぬため、合流地点であるテーブルへと早歩きで去っていったのだった。













 ―――戦闘が激しくなり、会場が混乱する最中。悪魔に指示を続けていたジェシカだったが、彼が次第に言うことを聞かなくなり勝手に暴れ始めていたことに気付いていた。このまま放置して審神者ごとこの場所を滅ぼしてしまえば、自分は逃げるだけで済む。面倒なことをこれ以上しなくて良くなる。いつの間にか、彼女の脳内にはそんな考えが広がっていた。
 ならば、と彼女は逃げるが勝ちとでもいうようにぼーっと立っている今剣と厚を引き連れ、1人混乱に乗じ会場を去ろうとしていた。


 しかし。彼女の思惑はすんなりと通らなかった。出ようとする扉を塞ぐように、3人のポケモントレーナーが立っていたからだった。彼女の思惑をすべて見透かしているのだろうか。その瞳はまっすぐとジェシカを射貫いている。



「申し訳ないね。おまえを逃がすわけにはいかないんですよ」



 そう言って、ネズは彼女の目の前にタチフサグマを移動させる。彼も相当怒っているようで、ジェシカに向かって威嚇を続けていた。
 そんな彼らの行動にも苛ついたのか、ジェシカは眉を潜め呟くように恨み言を吐いた。



「どうして…どうしてジェシカの邪魔ばかりするんですかぁ。ジェシカの思い通りに行かないことはみんな"地雷"なんですよぉ!」
「人生、思い通りに行かぬことの方が多いものでございます。何度もぶつかり、そして乗り越えることこそが"人生"というもの。わたくしはそう考えております。そして…話を逸らしてしまい申し訳ありませんが。あなたさまは…"悪神のしもべ"ではありませんでしょうか?
 あなたさまの使われるその得体の知れないお力…。我々は、今までにも拝見しております。その力によって、被害を被った方とも何度もレールが交差することもありました。あまりにも似ているのでございます。状況も、境遇も、その力も!」



 冷静にノボリが切り返すと、ジェシカは途端に気持ち悪い笑みを浮かべ、くすくすと笑い始めた。彼の言葉がそんなにおかしかったのだろうか。警戒を続けていると、笑うのにも飽きたのか彼女はぼんやりした表情を浮かべ、彼の言葉に"そうだ"と答えた。
 そして―――彼女は静かに自己紹介を始めた。彼らの胸に存在を刻み付けるかのように。



「改めて自己紹介をさせていただきますねぇ…。ジェシカは"ジェシカ"といいますぅ。ジェシカの考えを全て理解し応援してくれる、"アンラ・マンユ"さまの忠実なるしもべなんですよぉ。
 ジェシカは…他人を思い通りに造り替える能力をアンラさまにいただいたんですぅ。だから、今剣ちゃんも厚ちゃんも、ジェシカの思い通りに色々造り替えたんですよぉ。凄いでしょう? 二振とも今、すっごく幸せな気持ちでいるんですぅ」



 そう零し、彼女は見せつけるように今剣と厚を見せる。短刀である彼らの表情は何も物語ってはおらず、眠そうな目でぼーっと彼らを見つめ続けていた。
 恍惚の表情で彼らの頭を撫でるジェシカを、3人は静かに観察していた。先程柊が話していた"違和感"。それが本当なのであれば、彼らにもアンラの邪気の影響が及んでいるということなのだろう。

 ―――観察している中で、シロナはふと気づく。無表情で見つめ続ける彼らが、微かに自分達を助けを求めていることに。



「……違う。彼らは苦しんでいるわ」
「シロナ。あんたにも聞こえたんですか」
「えっ? もしかして…ネズさんも?」
「おれ、耳は良い方なんでね」



 耳がいい、という問題ではないとシロナは言葉が喉まで出かけるも、彼の眉間にしわを寄せてはいけないと気持ちを呑み込んだ。それと同時に、ノボリが静かに口を開いた。



「もしかすると、彼女はお2人の意思など尊重せず、ご自分の我儘のみで刀剣男士を好き勝手弄っているのではないでしょうか? 無関係であるわたくしどもに助力を求める程なのです。なりふり構ってなどいられないのでしょう」
「十中八九そうだろうね。あいつらが人の意見を尊重したこと、1回でもあります?」
「そこでわたくし、とある考えに及んだのですが…。お2人を蝕んでいるのが悪神の力なのであれば―――大典太さまが治癒出来るのではないでしょうか?」



 アンラの力によるものであれば、ジェシカから二振を引き剥がすことが出来れば大典太が解呪してくれるかもしれない。ノボリは話を聞いて、そう考えていた。
 その考えにはネズも賛同したようで、うんうんと小さく頷いている。シロナは2人の話の内容は理解できなかったが、彼らの会話が目の前の事柄を解決する道しるべになる、ということだけは確信していた。

 彼の言葉に続くように、ネズも自分の考えを述べた。この事態を解決する方法を。



「だったらやることは一つでしょう。あの女取り押さえるのと一緒に、あの2人を引き剥がすんですよ。あの女から」
「大典太さん…って、あの雰囲気の暗い背の高い男の人よね?」
「はい、そうでございます。ですので、シロナさまはあの女性の取り押さえを…『いいえ、あたしが2人を引き剥がして彼の元まで連れて行くわ』 ……えっ?!」



 彼女の口にした言葉にネズとノボリは驚いた。なんと、シロナが今剣と厚を引き剥がす役目を引き受けるのだと言ってのけたからだった。彼女は事の顛末―――自分達が何を話しているのか理解をしていないはずである。そんな状態で刀剣男士を助けに向かい、反撃でもされてしまったらどうなるか。
 一度闇に侵された2人ならまだしも、シロナに至っては以前のキバナのような目に遭ってしまう可能性も考えていた。あまりにも、危険な行動だった。

 危険だとノボリは告げ、行かないように説得をする。しかし、シロナはそこで折れるような女ではなかった。



「正直、あなた達が何を知って、何を話しているのかあたしには分からない。だけど、あの子達が苦しんでいるのは事実でしょう? だったら助けないと駄目よ。あたしだけ安全な場所で見ているなんてことできるはずがない。放っておけないの」
「……シロナさま」
「ハァ…。どうして著名なポケモントレーナーってどいつもこいつもお人好しばかりなんでしょうねぇ」
「ネズさま、それは多大なブーメラン発言にございます!」
「ノイジーですよノボリ。あんたにだって十分ブーメランですよ」



 シロナの真剣な目とまっすぐとした言葉に、遂に2人は折れた。今剣と厚に関してはシロナに任せるとして、危険が及ぶときは必ず自分の身を最優先にすることを彼女に約束させたのだった。
 そして、二振を引き剥がすにはジェシカを何とかする他ないと彼らは話を続けた。



「じゃあ、おれとノボリであの女をひっ捕らえましょう。おれ非力なんで役に立たねぇとは思いますけど、2人がかりでなら少しは何とか出来ると思うんで。最悪…タチフサグマにホールドしてもらいます」
「では、シャンデラは彼女が逃げ出そうとした際にサイコキネシスで援護をお願いいたしますね」



 ネズとノボリがジェシカを引き付けている間に、シロナが背後から回り込み今剣と厚を回収、その足で大典太の元まで連れていく。大まかな作戦が決まった。
 タチフサグマもシャンデラもやる気十分のようで、彼らに名前を呼ばれ気合を入れるようにひと鳴きしたのだった。

 シロナの動きを隠すように目の前に立ったのを皮切りに、彼女は移動を始めた。当のジェシカは自分を抜きにして色々話をしていることが気に食わなかったらしく、シロナが移動していることには気付いていなかった。
 彼女が自分に執念を、憎悪を向けていることがいい方向に向かったと、ネズは心の中でほっと胸を撫でおろした。何か呪文のようなものを唱え、2人の命を刈り取るべく闇を放つ。



「何をごちゃごちゃ話しているんですかぁ? ジェシカを抜きにしてお話するなんてぇ…ジェシカ、そういうの嫌いなんですよぉ。"仲間外れ"って言うんですよねぇ?!」



 ジェシカから放たれた闇はネズとノボリの胸を貫いたように見えた。しかし、2人は倒れず扉を守るように立ち塞がっている。自分の闇が効いていないことに彼女は一瞬驚いたものの、すぐに理解した。2人共、以前自分達の闇絡みで何かあったのだと。そして―――彼らの"魂"が、常人とは違うものだということにも気付いていた。

 透き通った美しい魂。何物もそれを欲しがる貴重な、美しい魂。アンラですら手に入れられなかった代物であった。
 欲しい。欲しい。2人の心臓を貫いた後に魂だけ取り除き、アンラに献上したらきっと喜んでもらえるだろう。ジェシカの考えはいつの間にかそれに支配されていた。



「いいなぁ…。透き通っている魂を持つ人間、初めて見ましたぁ。いいなぁ…欲しいなぁ…。アンラさまに献上したら、きっとジェシカいっぱい褒めてくれるだろうなぁ…」
「目つきが変わりやがった…?」
「……来ます!ネズさま!」



 ゆっくりと自分達に近付いて来るのに気付き、2人はタチフサグマ、シャンデラに各々指示をして彼女を払いのけようとする。しかし、ジェシカにとって彼らの攻撃を避けることは造作もないことだった。
 軽々とわざを避け切った彼女は、ゆっくりと歩みを進めネズの目の前で立ち止まる。そして、彼の手をそっと取った。うっとりとした表情で自分を見つめる彼女に、ネズは嫌悪感を抱いていた。



「えへへぇ。ジェシカ、あなたのこと嫌いですけど気に入りましたぁ。心臓をぐちゃぐちゃにしてから魂を抜き取っても、いいですよねぇ? あなたが終わったら、あの車掌さんも一緒にぐちゃぐちゃにしてあげますぅ」
「お断りです。きみ、おれの嫌いなタイプだね。口説き文句ならもう少し上手くやってください」



 ネズは皮肉を吐き捨てるかのように言葉を告げた後、ジェシカの手を不機嫌そうに払いのけた。考えが聞き入られてもらえることばかり考えていた彼女は、自分の考えを否定されたと思い込み眼光が開く。
 思い通りにいかないのならば、殺すまで。力で屈服させる。瞳からそんな気持ちが伝わっていた。相手はたかが人間。悪神の分身である自分にとっては蟻のような存在だ。
 その細い首を、早く締めなければ。その汚い言葉を封じなければ。女の手がネズの首にかかる。



 ―――刹那。男は、叫んだ。








『―――ノボリ!シャンデラ! 今です!!』


『シャンデラ! "サイコキネシス"!!』








 いつの間に移動をしていた? 宙に一瞬浮かんだ感覚の後、首をまで後1ミリまで迫っていた手がネズから離れる。そして、ジェシカが次に見たのは畳だった。ドサリ、という音と共に身体が床に沈む。
 起き上がろうとするが、身動きが取れない。腕も、足も、身体全体が動かないのだ。恐る恐る首を動かしてみると、そこには―――。銀色の目を鋭く光らせた、黒い車掌の姿があった。



「淑女に手を出すこと、お許しください。しかし、これ以上の暴虐は許しません!」
「いや、あんたその押し付け方完璧に暴漢とかひったくり犯に行う奴でしょ。でも…助かりましたよ。ありがとうございます」




 ノボリが手を放そうとも、近くにいるシャンデラが動きを封じてくるだろう。彼女は、明らかに念を放つ準備を整えていたようにジェシカには見えた。
 自分が、一瞬でも負けた…? その屈辱はジェシカの心を燻る。
 彼女の口元から、歯ぎしりの音がした。

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 ( No.160 )
日時: 2022/10/09 22:06
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ネズとノボリがジェシカとの一応の決着をつけたと同時刻。彼らと別れ、今剣と厚を引き剥がしに動いていたシロナは遂に目的の彼らの立っている場所まで辿り着いた。
 2人がしっかりとジェシカを引き付けておいてくれているお陰で、スムーズに動くことが出来た。道中、彼女に向かって外からの攻撃が飛んで来たものの、ガブリアスが臨機応変に対応してくれていたため特に怪我もせず彼らの元へ足を動かしたのだった。

 シロナが二振の前へ立つと、彼らは不思議そうな目で彼女を見ている。ジェシカではない女性が急に現れ、戸惑っているようにも彼女には見えた。そんな彼らにシロナは安心させるように、声のトーンを落ち着かせて語りかける。



「大丈夫。あたしは貴方達の敵じゃないわ。貴方達を助ける方法があるのよ。信じて」



 彼女は何を言っているのだろう。きょとんとしたまま彼女を見続ける二振の少年の瞳はそう訴えていた。シロナは理解より行動が手っ取り早いと判断し、大典太が治療を続けているであろう、自分達がかつて座っていた座席の方向を指さす。



「あの場所に、貴方達を助けてくれる人がいるわ。さぁ、一緒に行きましょう」



 そう、しゃがんで目線を合わせまっすぐと彼らを見つめ、シロナは説得を続けた。そんな彼女を"悪い人間"だとは、ぼーっとし続けている彼らの頭の中でも判断が出来なかった。この場を解決する方法がある。このぼーっとした気持ちを解消してくれる術を知っていると、目の前の女性は行っている。
 ならば。判断した後の彼らの行動は決まっていた。シロナが手を差し伸べるのを見て、二振は無言で彼女の手を握った。
 その手は吹雪の中に長時間放置されたかのように冷たかった。感情が奪われている、今の彼らを指し示すように。



「(早く、助けなくては。彼らも苦しんでいる)」



 そうシロナは改めて思い直し、二振と共に大典太の元まで向かったのだった。















 一方。会場にいた参加者を治癒していた大典太は、改めて治癒が終わった参加者の方を見る。前田と信濃、オービュロンが守るように前に座り、参加者の様子を見て回っている。
 ざっと数えて30は被害を受けた参加者がいる。内部に既に入り込んでいたとはいえ、刀剣男士が総出で対抗してもこれだけの被害が出るのだ。その事実に彼は胸を痛めた。
 倒れている参加者がいないか探し回っていた柊達も、粗方参加者達の運搬と避難誘導が終わったのかこちらへと戻ってきた。



「いやー。避難できた参加者たちは全員部屋の外にいるよ。でも、何割が逃げられたか、って感じだな」
「……室内でこれだけ暴れているんだ。鬼丸と数珠丸を筆頭に抑えてくれてはいるが…これだけの被害で抑えられたのは幸いだと思った方がいいだろう…」



 そう思わなければ自分の気持ちも沈む。自分が治療を買って出た以上、死人は絶対に出さない。その目標を達成するため、彼は自分に言い聞かせるようにため息と共にそう呟いた。
 それと同時に、自分の元へ駆け寄ってくる足音が聞こえた。その方向を向いてみると、シロナが今剣と厚を連れてこちらに近付いてきていた。
 大典太も気付く。自分の役目はまだ終わっていない、ということに。



「ネズくんとノボリさんから聞いたわ。貴方、彼らを元に戻してくれるんですってね」
「…………。……連れてきたのか」
「ええ。彼女の元にいてはいけないと判断して連れて来たわ。お願い。……彼らを助けてあげて」
「……分かった。精神の入れ替わりはあの悪神の力だろうからな…。俺でも何とか出来るだろう。……少し、離れていてくれ」



 確かに彼女の言う通り、今の彼らはおかしい。まるで互いの精神が逆になっているかのように大典太には感じられた。
 大典太はシロナに少し離れているように告げ、まだきょとんとしている二振の頭に静かに両手を乗せた。そのまま自分の霊力を込めると、二振の身体が淡く光り始める。
 そのまま様子を見守っていると、彼らから紫色の靄が出ていくのが見て取れた。やはりあの悪神の仕業だったのか。大典太は眉間にしわを寄せながらも、そのまま静かに霊力を送り続ける。淡く光り続けていたそれは徐々に収まり、何も無くなったのを確認した後、彼は二振の頭から手を除けた。

 目を閉じていた二振が再び瞳を開くと、今剣がぴょんぴょんと飛び跳ねた。どうやら元に戻ったらしい。元気な今剣の姿を見て、いつの間にかシロナの後ろで見守っていた柊がぐすぐすと涙ぐんでいた。



「わぁ。ひさしぶりにそとのせかいをみたきがします。ありがとうございます!」
「……調子はどうだ」
「おう!助けてくれたお陰でバッチリだぜ!寧ろ、今まで散々迷惑かけてきたみたいで…すまねえ!」
「ぼく、ずっとへんなゆめをみていたみたいなんです。もやもやとしてて…。いまはきぶんそうかいです。すっきりしてます!」
「……そうか。なら、良かった」



 彼らが元の調子に戻った後、大典太は二振が今まで何をしていたのかを聞くことにした。
 二振は自我を失ってからの記憶はあまりない、と言いつつも、ばら撒かれた後地面に落ちていたところを運悪くジェシカに拾われてしまったらしい。覚えているのはそこまでで、そこから彼女に好き勝手精神干渉をされていたのだろうと推測が出来た。
 何はともあれ、また同胞を救うことが出来たことに大典太は安堵する。薄暗さの中でも微笑みを見せた彼に、思わずシロナも安堵の表情を浮かべた。



「貴方って、そういう顔も出来るのね。あたし安心したわ」
「……あんた、俺を何だと思っていたんだ…?」
「太陽を嫌って、ずっと暗闇の中でどんよりしているものかと」
「……どうせ俺には黴臭い場所が似合っているよ…」
「大典太。シロナさんはそういう意味で言ったんじゃないと思うぞ」



 柊が呆れた表情でツッコミを繰り返す中、ふと彼女は鬼丸達が戦っているであろう場所を見つめる。遠くからでも聞こえる、刀が別の何かにぶつかり合う音。戦いは終わっていないのだと、察せられた。
 心配そうに表情を曇らせる彼女に、シロナは安心させるように両肩をポンポンと優しく叩いた。何よりも刀剣男士を大切にしている彼女なら、彼らを信じることができるはずだと。



「あたしよりも貴方のほうが、彼らの強さについては分かっているんでしょう? 大丈夫よ。吉報を待ちましょう」
「うん。……長曽祢さんとむっちゃんはここで待機だからな。加勢しに行っちゃ駄目だぞ」
「分かっちょるき、そがな顔をせんでくれ主。無謀なことはせん」
「それに、俺達が行ったところで役に立てそうもないからな…。あの戦況だと、もうじき戦闘が終了するだろう」
「……あいつらも俺と同じなら…あの悪魔の解呪ができるはず。無事に解決してくれることを祈るだけだな…」



 大典太はそう呟き、柊が見ている場所を静かに見守ったのだった。















 鬼丸達の戦いにも終わりが見え始めていた。動ける刀剣男士達と力を合わせ、悪魔の力を徐々に削いでいく。素体にされた審神者の体力が限界を迎えているのか、悪魔の動きはかなり鈍くなっていた。
 それでも悪魔は全てを破壊せんと刀剣男士達に襲い掛かる。その凶刃を刀で防ぎながらも、数珠丸は鬼丸に話しかけた。



「鬼丸殿。このままでは闇に呑まれた審神者殿ごと消滅してしまいます」
「ここまで戦いが長引くとはな。ちっ…」
「おい。仮に消滅すると…審神者はどうなる?」



 会話に暁が割り込む。どうやら聞き耳を立てていたようで、彼の行動に鬼丸の表情が渋くなる。数珠丸がそれを抑えながらも、"推測でのお話になりますが"と前置きをしたうえで、彼に説明を始めた。



「審神者殿は…恐らく、闇と一緒に消えてしまわれるでしょう。恐らく、今は体力がギリギリで踏ん張っている状態かと思われます」
「さっさと引き剥がさないと、倒すことでしかあの審神者を救うことが出来なくなる。……夢見が悪くなるだろ。時間がないんだよ」
「やったら、人数の利を生かして悪魔の背後から取り押さえればええのちゃう?」



 暁の後ろからひょっこりと明石も口出しをする。どうやら彼も二振の話を聞いていたらしい。
 確かに彼の言うことには一理ある。数ならば、悪魔一体を数十の刀剣男士が取り囲んでいるのが現状である。悪魔の体力がほぼない以上、刀剣男士が背後に忍び寄り、悪魔を取り押さえることは充分出来そうだった。その言葉を聞き、数珠丸はとある考えが頭の中にふっと浮かんだ。鬼丸に耳打ちをすると、表情は変えずとも納得したように小さく頷いた。



「そうか。だが、時間がない。それをやるならさっさとやるぞ。おい、そこの職員。おまえ、囮になれ」
「なっ…!説明もなしにそらのうないか」



 鬼丸の言葉に、明石は不機嫌そうに反論をする。いくら面倒くさがりの刀剣男士とて、自分の主に"囮になれ"と言われ気分を害さないわけではない。鬼丸はまだ人間を信じ切れていなかった。だからこそ、職員に覚悟を見せてほしいのだろう。刀剣男士ではなく、暁を名指ししたことを受け数珠丸はそんなことを思った。
 暁は憤慨する明石を冷静に宥め、鬼丸に向き直る。その目には"覚悟"が映っていた。



「分かった。囮は俺が引き受けよう。何か考えがあるんだろ。その代わり…必ず審神者を救ってくれよ」
「当たり前だ。目の前で死なれたら満足に夢も見れん」



 暁はそれ以上追求せず、明石を連れて悪魔の視界に入るよう移動を始めた。それと同時に、鬼丸と数珠丸も陰に潜み悪魔の背後を取る為に動く。彼らの移動を皮切りに、様子を見ていた刀剣男士達も何かを察したのか円を作るように悪魔を取り囲み始めた。
 魔物は唐突に目の前の敵が動きを変えたことに戸惑っている。体力があったならば、それも関係なく襲っていたことだろう。誰を優先的に襲うべきか。残り少ない体力で命を奪うことしか悪魔の頭にはなかった。

 その間にも、鬼丸と数珠丸は悪魔の背後まで忍び寄る。そして、両側から悪魔の両腕を掴んだのであった。



「鬼丸殿。先程私が言ったことは出来そうですか」
「出来そう、じゃない。やるしかないだろ。大典太が自分の霊力を使って呪いを解呪出来ているなら、おれたちにも出来るんだろ」
「はい。その筈です。審神者殿を苦しめているのが、かの悪神の力であれば―――。同じ鍛刀で生み出された私達にも出来る筈。我々の霊力を同時に悪魔へと送り込み、内側から解呪するのです」



 数珠丸がそう言った瞬間だった。鬼丸は無言で掴んでいない方の掌を悪魔の背中に叩きつけ、自分の霊力を注ぎ始めた。数珠丸も彼の動きに合わせ、背中側に手を置き自分の霊力を放つ。
 二振の霊力が悪魔へと注がれ、悪魔の呪いが紫色の靄へと昇華されていく。その量は凄まじいものであり、審神者にどれだけの闇を植え付けられたかを物語っているようだった。

 二振の霊力の量が増えていくのと比例して、悪魔の身体が光り輝く。思わず腕で目を塞いだ暁を守るように、明石は前に立ち刀を抜いた。
 紫色の靄が完全に悪魔から無くなったと同時に、光っていた身体も元に戻った。そこには弱弱しくも呼吸をする、勇敢な審神者の姿があった。
 前のめりに倒れた彼をそっと支える。そして、必死の形相で駆け寄った山姥切国広に、彼をそっと明け渡した。鼓動が聞こえる。主が生きていることを確信し、山姥切は被り物の中で静かに泣いた。



「……成程ねえ」
「どうしたんですの、主はん」
「ん? ……上の考え改めさせなきゃ駄目だなぁって思っただけだよ。改めて、な」



 刀剣男士達の様子を見つつ、暁はそう口にした。















 ジェシカを押さえ付けていたネズとノボリにも変化が訪れていた。押さえ付けているはずの感触がない。ノボリはそう感じていた。思わず彼女の方を向いてみると、ジェシカは笑っていた。まるで、"自分が勝った"とでも言うかのように。
 それと同時に、彼女の身体が液体のようにドロドロと溶け始める。その様子を見て、ネズはかつてマリィが言っていたことを思い出した。彼女が会った"マイケル"という男も、逃げるときに身体を溶かして逃げたのだと。

 支えるものが無くなり、ノボリは身体のバランスを崩し床に倒れてしまった。シャンデラとタチフサグマが心配そうに彼に駆け寄る。思わずネズはジェシカの姿を探す。彼女は既にその場にはいなかった。彼らの耳に、声だけが入ってくる。


「マリィの言っていた…。なら、"しもべ"ってのはみんな液体になって逃げる術を持ってるってことですか。厄介この上ない」
「うふふ…♪ ジェシカ、貴方達が地雷になりましたぁ。ただ命を奪うだけじゃ飽きたりませぇん。心も身体もズタズタボロボロにしてから、粉々にしちゃうのでぇ…。お覚悟しておいてくださいねぇ。うふふふふ…♪」




 そんな甘ったるい言葉を最後に、ジェシカの声は床に吸い込まれるようにその場から消えたのだった。

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 ( No.161 )
日時: 2022/10/10 22:04
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 部屋中に感じていた甘ったるく気持ち悪い気配が一気に消え去った。恐らく元凶であろうジェシカがこの場からいなくなったからなのだろう、と大典太は辺りを見回した。無事を喜び合う面々が視界に入るのと同時に、床に倒れ込んだノボリの手を掴み引っ張り上げるネズの姿が映った。
 慌てて彼らに近付くと、丁度立ち上がった2人と鉢合う。戦いの中で少し汚れはついてしまったようだが、どこも怪我はしていなさそうに彼には見えた。



「……大丈夫か?」
「双方五体満足で無事ですよ。敵の大元には逃げられちまいましたが」
「……あんた達が無事ならそれでいい。無理を承知で来てもらっているんだ。怪我などされたら弟や妹に顔向けできないだろう…」
「お気遣い感謝いたします。しかし…これくらい想定の内でございますよ、大典太さま」



 得体の知れない場所に行くと決めたときから、彼らはこういった目に巻き込まれることは覚悟していた。
 人の常識を超えた力を持つ連中。一筋縄では行かないことは理解していたが、いずれは壁を越えねばならない。そのために、やはり彼女に逃げられたのは大きいとネズは改めて悔しそうに表情を歪めた。
 そんな彼を大典太は改めて慰める。そもそも、今回は悪神のしもべと遭遇したことが想定外だった。審神者を助けられた。この場に参加した皆の命が無事だ。大典太にとってはそれだけで良かったのだ。
 ノボリも大典太の言葉に賛同し、付け加えるようにネズに諭す。



「わたくしの推測の域ではございますが…。あの方は今回の暴走により、恐らく政府に目をつけられた筈です。そう簡単に表立って動くことは敵わないのではないでしょうか?」
「……確かにな。暴走したことは恐らく本部にも伝わっているだろう。今剣と厚のこともある。……本部もあいつを探して何とかするために動くだろうな」
「おう。今しがた本部の方からそう連絡があったぜ」



 話し合っていた彼らの元に暁、そして明石が近づいてきた。彼らも―――本部にとってもジェシカの今回の暴動は看過できないと判断したらしい。本部でも彼女の気配を追うことをはっきりと口にした。
 目的は違うが、政府は敵ではない。暁の目を見て、大典太はそう判断したのだった。

 いつまでも離れた場所で話をしているのもなんだと、彼らは自分達が座っていたテーブルがある場所へと戻る。付近で眠っている参加者も、大部分が目を覚まし無事を分かち合っていた。



「今回の動き、天下五剣のことについては俺から本部の連中にはっきりと伝えるよ。"回収はしなくてもいい。自分達で制御できているから問題ない"ってな」
「そうかそうか。まあ、本部もかめら越しに俺達の雄姿を見ているはずだからなあ。証言があれば、反論は出るまい」
「そうとも限らんがな。あいつらのことだ、何かと理由を付けて難癖をつけてきそうだ」
「そりゃそういう意見も出てくることは分かってる。だけど、本部の連中もお前達がしっかりと皆を助けるために自分の力を使ったことは見てるんだ。難癖も何とかしてみるさ」



 会場には監視カメラが何台も取り付けられている。ジェシカの悪事を本部が把握したのと同時に、天下五剣の回収も必要ないということも伝わっただろうと暁は結論をつけていた。四振とも、率先して自分の出来ることをやっていた。彼らも直に雄姿を見た以上、変な反論が出ても抑え込めるだろう。
 無事に自分達がいるべき世界へと戻れることを確信し、四振は安堵の表情を浮かべた。それと同時に、信濃が思い出したように暁に問いかける。



「ねぇねぇ。今剣と厚はどうするの? 元に戻ったとはいえ、そのままってわけには行かないでしょ?」
「あー…。まぁ、そうだな」



 信濃はそのまま二振のいる方向を指さす。そこでは、オービュロンと柊と共に楽しく話をしている彼らの姿があった。
 暁は少し考える素振りをする。それをフォローするように明石が口を開いた。



「せやなぁ。あいつに何かされた後遺症が残ってへんか、一応検査することになるやろなぁ。後は、彼らが決めることや。自分は口出し出来ひんよ」
「一緒にお前達の世界に連れていくことは出来ないだろうなぁ…。お前達の世界に落とされたのは事実だが」
「……そうか。検査で問題がなければ、俺達のいる世界に戻れる確証はあるんだな?」
「あいつらが望めば、だけど」



 見つめる気配に気が付いたのか、今剣がこちらに気付き目線を合わせる。そして、ぱたぱたとこちらに駆け寄ってきた。自分達の話をしていることを悟り、大典太達の世界について聞いてみる。
 彼らが今いる場所を簡単に伝えると、彼はきらきらとした瞳を彼らにぶつけた。どうやらリレイン王国に大層興味を持ったようだった。



「りれいんおうこく? なんですかそれ?」
「心が温かい方々が沢山いらっしゃる、とても良い国です。僕達のような人ではない存在も快く受け入れてくださいますよ」
「俺もリレイン王国気に入ってるよ。それに、大将が堂々と元の姿で歩けるからね!」
「皆さん懐がトテモ広いデース!」
「へぇ。お前らがそんなに気に入ってる国なら、俺も気になるぜ!」



 短刀達の話を聞き、暁は納得がいったように静かに頷いた。検査で問題がなければ、しっかりとリレイン王国へと送り届けることを約束してくれた。
 審神者達も各々話を続けている。これ以上余興に浸る意味はないだろう。そう彼は判断し、早速検査をするために今剣、厚を引き連れ本部へと去っていったのだった。

 それと同時に、ジェシカに襲われた審神者とその近侍である山姥切が声をかけてきた。見たところ、審神者はしっかりと意識もあり話も出来る。無事に彼女から受けた闇が全て祓えたのだと彼らは判断した。



「助けてくれて本当にありがとう。山姥切達を残して死んじまうところだったよ…」
「俺からも感謝を述べさせてもらう。俺達の主を助けてくれて…本当に、ありがとう」
「……終わり良ければ総て良し、だ。気にするな」
「そうは問屋が卸さないんだ!聞いてくれよ、酷いんだぜあいつ!他の審神者のみんなが頑張って鍛刀したりイベントをクリアして迎え入れたレア刀を、片っ端から"寄越せ"って歩いて回ってたんだ!」
「逆に、俺達や粟田口の短刀みたいな刀には目もくれてなかったな。あいつ…何がしたかったんだ?」
「どんなのどうだっていい!皆の努力の結晶を横取りするなんて…ああ、思い出しても腹が立つぜ!」
「やっぱり色々な審神者にちょっかいかけてたみたいだな…」



 どうやらジェシカはレア刀を引き連れている審神者に片っ端から声をかけ、彼らの刀を根こそぎ奪おうとしていたらしい。何が目的かは結局分からなかったが、今剣と厚に施した仕打ちから考えると―――碌な考えを持っていないことには簡単に結論がついた。
 何はともあれ、皆無事に助かった。脅威が去ったことを喜ぶべきだと大典太が伝えると、怒りをあらわにしていた審神者も気持ちを切り替え残りの会合の時間を楽しむことにしたのだった。

 山姥切達が元の席に戻ったのと同時に、襖から司会の女性が現れる。そして、今回の騒動で騒がせたことを謝罪した後、会合を続ける連絡を口にした。
 幸い会場は刀剣男士とその場にいた皆の協力のお陰で軽いヒビが入った程度で、どこも壊されていない。このまま審神者会合を続ける判断を本部が下したのだった。



「よーし!気持ちを切り替えて私達も楽しむぞ!長曽祢さん!むっちゃん!」
「あたしも色々回ってこようかしら。この建物も歴史的な造りだもの。何か学んで帰りたいわ」
「じゃ、各々自由行動ですかね」




 一同もネズの言葉に賛同し、残りの時間を楽しむことにしたのだった。

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 ( No.162 )
日時: 2022/10/11 21:52
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 再度楽し気な宴の雰囲気が会場を包む中、ネズは1人屋上の展望台にいた。
 静かに閉会まで過ごすつもりが、あのお喋りな審神者が彼らの活躍を大袈裟に口にしてしまったことで好奇の目に晒された。やれポケモンだ、やれ珍しい刀剣を持っているな、やれ不思議な恰好をしているな、と今までもみくちゃにされていた。
 元々人混みはあまり得意ではなかったが、今回のことで下手に目立ってしまったのが裏目に出てしまったのだ。

 眉間にしわを寄せるネズに気付いたのか、ひっそりと大典太は彼に屋上の展望台は自由に使ってもいいことを彼に話す。今ならば審神者は殆ど宴で盛り上がっている。人もそこまでいないだろうという算段で、自分を盾にして会場から人知れず逃がしたのだった。
 ベンチに座り、ネズはぼーっと空を見る。どこまでも広がる青空。まるで、最初からあの騒ぎがなかったかのような静けさだった。



「光世たちには感謝せねばなりませんが…。この静けさが今は心地いい。まるで、さっきの事件が夢のようです」



 そう、ぽつりと小さな言葉が口から零れる。彼の音色は空に溶けるようにふっとそよ風に消える。彼に合わせるように、隣に立っていたタチフサグマも雄たけびを上げた。彼の小さな声とは対照的に、空気を響かせるような大声が空に舞った。



「どうしたんですタチフサグマ。暴れ足りないんですか?」
「シャウトアウッ!」
「仕方ないでしょう。対峙した相手は人間じゃない、ポケモンでもねぇんです。五体満足で、誰も大した怪我もなく平穏が戻って来ただけでおつりが来るくらいですよ」
『暴れ足りないのであれば、わたくしと一戦交えてはいただけませんでしょうか?』



 ふと、タチフサグマではない声が背後から聞こえてくる。思わず声の方向を振り向いてみると、コツコツと規則正しく響く靴音とシャンデリアの心地いい音が聞こえてきた。
 黒い制帽を被った道化師のような車掌。ノボリとシャンデラがこちらに近付いてきていた。ノボリはネズと目線を合わせると、小さく手を振る。そして、ネズの座っているベンチの近くに静かに立ったのだった。
 てっきり閉会まで宴を楽しむものだとネズは考えていた。ふと零したその言葉を聞いて、ノボリは小さく首を横に振った。彼にも思うところがあったらしく、他の面子が楽しく話をしている隙に会場をこっそり出たのだという。



「あのねぇ。タチフサグマもシャンデラも疲れてるでしょうよ。おれはここでポケモン勝負はしたくありませんね」
「しゃあん!でらっしゃん!」
「実はシャンデラも力を持て余し気味でして…。先程の女性―――ジェシカを取り逃がしたことに酷く憤慨しているようなのです」
「だからってそれを勝負で晴らそうとしないでくださいよ。きみの炎、どんだけ燃え上がるか自分で分かってるでしょう? 最悪この建物一瞬で燃えますよ。一瞬で」
「しゃん!しゃん!でらっしゃあん!」
「シャウトアウッ!」
「タチフサグマもやる気満々でございますね」
「はぁ~…」



 シャンデラとタチフサグマはいつの間にか彼らから少し離れたところで鳴き声を響き合わせている。ポケモン勝負を断られた以上、せめて他のことで収まらない気持ちを何とかしようと考えたのだろう。
 彼らの鳴き声をBGMに、ネズとノボリは無言で時を過ごしていた。いつもは町中に響き渡る彼の大声も、今はなりを潜めていた。
 ―――しばらくの沈黙の後、ふとノボリは思い出したように声をかけた。



「時に…ジェシカの確保を急ぐ算段の途中―――ネズさま。何故囮を買って出たのでしょう?」
「はい?」
「い、いえ。随分と手慣れた動きだったのが妙に引っかかったのでございます。あの時は彼女の動きを止めるのが最優先だと判断した故、こうして落ち着いて考えた末でのわたくしの思想なのですが…」



 彼はネズの動きに何か引っかかりを覚えていた。ジェシカがネズの細い首を絞めようとしていたあの時。彼は逃げる素振りもせず、ただ運命を受け入れているように見えた。だからこそ、彼女に隙が生まれ一時的にでも動きを止めることに成功したのだが……。
 首を絞められる。普通の人間ならば抵抗してもおかしくないその動きを、彼は静かに受け入れているようにもノボリには見えていた。それが、不思議でならなかったのだ。
 言葉を聞いたネズはまた小さくため息をつき、"役割分担ですよ"と小さく返した。



「何も、あの時どっちかが囮にならなきゃあいつは捕まえられなかったんです。ポケモンに囮を頼むなんて以ての外です。だったら、力もあって対処の仕方も分かってるあんたが捕まえる役を担った方が明確でしょう。適材適所、って奴です」
「なんだか上手くはぐらかされたような気がしてならないのですが…」
「さて。どうだかね」



 ネズから一応の答えは貰ったが、ノボリの心は腑に落ちなかった。いくら役割分担だといっても、普通ならば命の危機に晒されたならば抵抗の1つや2つ、するのが人間だ。
 ―――しばらく頭の中で思想を浮かべ、彼はふっと1つある考えが頭に浮かび上がった。そういえば、彼はスパイクタウンのジムを―――彼の愛する街を守るために、何をしてきたのだろうと。



「あの…。もし、わたくしの筋違いであればそれで構いません。が…。ネズさま。もしかして、スパイクタウンを守られるために…ご自分を犠牲にしてきたのでしょうか?」
「…………。どうして、そう思うんです?」
「以前、あなたさまに伺ったお話がふと頭の中に浮かびまして。もしかしたら…と、つい口にしてしまったのでございます。ご気分を害されたら申し訳ございません」
「……ご想像にお任せしますよ。でも…自分が盾になって街を守らなきゃ、スパイクタウンはとっくの昔に街という機能を失っていたかもしれない。……ガラルのリーグの娯楽に、使われていたのかもしれねぇ」



 半ばヤケクソ気味にネズは吐き捨てた。今でも悔しい思いがあるのだろう。その言葉には様々な負の感情が滲んでいたようにノボリには聞こえた。沢山の後悔の念。我慢が得意な彼のことだ。この声の裏側には―――自分達が想像できない程の苦悩が詰まっているのだろう。そう考えただけで、ノボリの胸がチクリと痛む。
 なぜこんな、自分達より一回りも若い彼がたった1人街を背負って、傷付かなければならないのか、と。



「街を存続させるため、必死にメジャーリーグを守ってきました。マリィに不自由させないため…エール団に心配をかけさせないため…そう思って、自分の気持ちなんて二の次です。ガラルのリーグは…"強さが全て"ですからね。愛する街を守るためならなんだって出来ましたよ」
「……そう、ですか」
「納得できました? こういう答えで」



 ああ、また負の気持ちをあなたは隠すのですね。いつものように哀愁を浮かべた微笑みを見たノボリはふと、そう思った。そして、彼は確信に至った。
 環境が彼をこうしたのではない。彼は元々、生まれつき"自分を後回しにする人間なのだ"と。エール団が王国の自警団のようなことをやり始めた時に、"ネズさんの『大丈夫』は、大丈夫じゃないときがある"という話を聞いたことがある。
 元々、周りに頼ることが出来ない人間なのだ。だから、何でも自分で解決しようとする…。そして、自分がどんなに苦しくても周りに助けを求めない。彼は、そういう人間なのだと。

 ちらりとネズの方向を向くと、彼は先程のように再び空を見ていた。しかし、その瞳は震えていた。スパイクタウンを廃れさせたことへの気持ちが、そこに全て現れているような気がした。
 ならば。友として自分が出来ることはなんなのか。ジムリーダーを明け渡した今の彼を支えるために、自分は何が出来るだろうか? 考えるより先にノボリの身体は動いていた。無意識に、彼の頭に優しくぽんぽんと触れたのだった。



「あのですねぇ…。おれ、子供じゃないんですけど」
「わたくしからしてみれば十分子供でございます!それに…ネズさま。あなたはお優しい方です。ですから、周りをもっと頼るべきでございます!
 わたくしも。あなたの友として、あなたの苦しみや悲しみを分かち合いたい。喜びや楽しみは共有したい。心からそう思っております」
「友、ねぇ」



 ネズから皮肉のようにぽつりと零れた言葉に、ノボリはまたチクリと心が痛んだ。やはり、彼は表向き自分達と仲良くしてくれていただけだったのだろうか? あのセッションの誘いも、仕事上の関係だから? 彼の気まぐれで? ぐるぐると悪い考えが頭の中を駆け巡る。
 そんな彼の考えをぴしゃりと止めたのも、またネズの言葉だった。



「……おれ、普段自分のこと絶対話さないんだよね。弱音も絶対吐かないようにしています。自分の弱点知って喜ぶ人間が何処にいます? そう、思ってましたから。
 でも…なんで…なんで吐いちゃったんだろうね。あんた…いや、あんたたち双子には"吐いてもいい"って思っちまったのかもね」
「ネズさま…」
「あー。ここまで来て陰気になっても仕方ないですね。……ノボリ。さっきあんた"一戦交えませんか"って言ってましたよね?」
「えっ? は、はい。確かにそう申しあげましたが」
「時間的にもあれですし…盛り上がりすぎて会場壊すのも忍びないですし。1体と1体、入れ替えなしの一発勝負であれば。受けて立ちますよ」



 まさか。今まで"ポケモン勝負"を何かと理由をつけて断っていた彼が。遂に、自分との勝負を受けてくれる気になった。
 どういう心境の変化かは知らないが、ノボリにはその事実が大層嬉しく思えてきた。事実、彼はずっとネズとの勝負を望んでいたのだから。場所が場所だから変則的なルールではあるが、"勝負が出来る"。その事実があるだけでも、湿っていた彼の心にも光が差し込んできたような気がしていた。

 途中から話を聞いていたのか、いつの間にか彼らの傍にはパートナーのポケモンが戻ってきている。ポケモン勝負が出来ると分かったのか、双方力を有り余らせているようだった。



「ネズさま…!遂に!遂にわたくしとの勝負を受けてくださるのですね?! この時をわたくし、待ち望んでおりました…!さあ!さあ!心躍るバトルをいたしましょう!」
「ポケモン勝負のこととなると本当暴走機関車になるねあんた…。ま、でも湿っぽい空気のまま帰りたくないですし、寧ろそっちの方が今は嬉しいですよ。元ジムリーダーのおれと、今やバトル施設の長のあんた。実力に差はありそうですが…喰らい付いてやりますよ。
 さ、早速始めましょう。行けますか、タチフサグマ」
「シャウッ!」
「シャンデラ!わたくしとあなたのコンビネーション…ネズさまに余すことなく披露いたしましょう!ではっ、出発進行ーーッ!!」
「でらっしゃーん!!」




 ガラルでトップ3の実力を持つと噂される男と、イッシュに蔓延る地下の王者である男。
 後に彼らを迎えに来た大典太は呟いた。この勝負は"稀に見る大接戦だった"と……。

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 ( No.163 )
日時: 2022/10/12 22:12
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 一試合終え、双方満足そうな表情で会場に戻る。宴を楽しんでいた人々に話を聞くと、丁度先程閉会宣言が出されたばかりだった。周りを見回してみると、確かに帰り支度をする審神者の姿がちらほらと見えた。
 同じテーブルに座っていた面子も、各々帰宅するため準備を整えていた。既に2人がポケモン勝負で大接戦を繰り広げたことは知れ渡っており、シロナからは羨望の眼で見られていた。



「聞いたわよ。今の今まで屋上で熱いポケモン勝負を繰り広げていたそうじゃないの。ずるいわ、あたしを差し置いてバトルするなんて。誘ってくれたら参加したのに」
「あのですね。ポケモンのわざで会場が破壊されたらどうするんですか。だから入れ替え無しの1vs1だったんですよ。しかもあの戦いの後休まないままだったのが不幸中の幸いです。もし全力だったら確実に会場焼け落ちてましたからね」
「それで? どちらが勝ったの? 稀に見る大接戦だった、って話だけど」
「……光世?」
「……すまん」



 口が堅いと自分から言っておきながらシロナにしっかりと勝負の行方までばらしているではないか。そういった思いを込めて、ネズは大典太をじっと見る。流石の大典太も彼のジト目にはおろおろして言葉を失っている。
 そんな表情を見た後、彼は大きくため息をついて口を開いたのだった。



「一介の元ジムリーダーであるおれが、現役のバトル施設長に敵うと思います? これだけで説明は充分でしょうに」
「いいえ、ネズさま。それは語弊がございます!聞いてくださいませシロナさま!大典太さまの仰られる通り、わたくしから見ても類まれなる大接戦だったのです!スーパーブラボーな勝負だったのでございます!!
 わたくしの読みを上回る大変ブラボーな読み…!特にシャンデラのオーバーヒートをタチフサグマが見事ブロッキングした際は――『はいはい、長くなるならさっさと帰る準備しますよ』 ネズさま!わたくしまだ話したいことが…!」
「しぇからしか! 他の人待たしとるけんね、ちゃっちゃと帰宅の準備しんしゃい!」
「ま、ましぃ…」
「…………。白熱したバトルだというのは充分伝わったわ。今度シュートシティで会ったらあたしとも勝負してね」
「勿論でございます!」
「はい、じゃあこの話終わり。ほら、政府から言われたこと報告するんでしょ? 帰りますよ、光世」
「あ、あぁ……」



 この時ばかりは、大典太の目にネズは幼子を叱る母親のように映ったという。後に、帰宅後本人にぼそりと伝えたところ、信じられないものを見るような目で見つめ返されたのだとか。
 帰りの準備を済ませ、前田達の方を見る。そこでは柊達と別れの挨拶を済ませている光景が見えた。



「柊殿!本日はとても楽しかったです!またご縁がありましたら、今度はお茶でもしながらゆっくり話をしましょう!」
「私も終末の世界については全然知らないからなー。今度は観光目的で行こうな。むっちゃん、長曽祢さん!」
「そん時はリレイン城下町をごとごと散歩出来たらええのぉ主。わしも楽しみにしちゅーからの!」
「よし。別れの挨拶はこれくらいでいいか。今日は世話になった。また縁があったらよろしくな!」
「うん、そうだな。それじゃ、お先に失礼するよ。また縁があったらどこかで会おう!またね!」
「お世話になりましたー!」
「またねー!」



 前田と信濃の声を背に、柊一行は自分の世界へと戻っていった。それと同時に石丸と三日月も一礼をして会場を後にするのだった。
 シロナは一同と話し合った結果、リレイン王国に顔を出してからシュートシティへと向かう算段のようだった。やり取りを済ませているうちに、会場が静かになっていることに気付く。辺りを見回してみると、その場に残っているのは自分達と、場を管理している暁、明石だけになっていた。



「今何時クライでしょうカネ?」
「えーっと…。19時くらいかな。ここに来てから随分経ってたんだねー」
「遅くならないうちに我々も帰還いたしましょう。貴方の主がお待ちですよ」
「……そうだな」



 一同も暁と明石に改めて礼をし、その場を後にするのだった。
 こうして、審神者が集まる世界での大変な会議は無事、幕を閉じたのだった―――。































 ―――こんのすけが気を利かせて議事堂の前へと転送場所を変えてくれたのが幸いだった。彼に感謝をしながら、消えていく扉を見つめる。そして、一行は一旦解散をするのだった。
 刀剣男士達はサクヤへ今回の顛末の報告へ。そして、ネズとノボリ、シロナはマリィ、クダリ、キバナを回収し夕飯の仕込みに向かう選択をした。議事堂の前で別れ、大典太達は早速神域へと帰還するのだった。


 神域ではサクヤが彼らの帰還を祝福した。こんのすけから既に大体の話は聞いており、全振が何ともなく帰ってこれたことに安堵の表情を浮かべていた。



「おかえりなさいませ。まずは皆さんが無事に帰ってこれて本当に良かった」
「……まぁ、平和にとはいかなかったがな」
「本当だよー。大変だったんだよ? アンラの分身とかいう奴が、罪のない他の審神者を暴走させちゃって…。ね、大将?」
「ワタシも一時ひやひやシマシタヨ!」
「アンラのしもべは"ジェシカ"と名乗っていたそうですね。以前ドルピックタウンでキバナさんを一時闇に陥れた"マイケル"という存在と併せて考えてみても…。やはり、しもべを名乗る存在は他にも世界中に潜んでいそうですね」
「見つけたら斬ればいい。今回は逃げられたがな」
「……常にあんたみたいな考え方が出来る奴ばかりだとは思わない方がいい…。今回だって、ネズ達の助力があったからこそ審神者の呪いを解呪するのに集中できたんだろうが」
「ふん。あの悪使いの男といい、黒い車掌といい―――お人好しが過ぎる。いつか自分の身を滅ぼすぞ」
「縁起でもないこと言わないでください、鬼丸殿!」



 やはりサクヤもアンラのしもべについては気にしていたらしい。マイケル、ジェシカ。この世界に潜んでいる"しもべ"と呼ばれる存在は他にもいるのだろうと推測していた。
 斬ればいいという鬼丸を何とか宥め、サクヤ側でもしもべについての調査を自分なりに進めてみることを答えた。彼らの尻尾を掴むことが出来れば、打倒悪神への一歩に必ず繋がると考えていたからだった。



「……無理はするなよ、主」
「善処いたします。お気遣いありがとうございますね、光世さん」



 大典太の言葉に、サクヤはふわりと笑みを浮かべたのだった。































 ―――サクヤへの報告も済ませた一行は、神域を出て食事をとることにした。最初は鬼丸が単独で離れようとしたのだが、前田と信濃に両側からがっちりホールドを受けており、今は自由に動くことが出来なくなっていた。
 しばらく住居区の廊下を歩いていると、ふと鼻を掠めるいい香りが広がってくるのが分かった。



「おや? とても香ばしいかおりがいたしますね」
「美味しそうな匂い!もしかしたら誰か何か食べてるのかも!行ってみようよ前田!」



 美味しそうな匂いに気付いた二振は、掴んでいた鬼丸の腕をぱっと離し匂いの元を辿る。その隙に鬼丸は逃げようとしたのだが、大典太が"短刀を裏切るな"という目で睨んできたため逃げるのを辞めた。大典太はつくづく短刀には甘いのである。
 彼らを追いかけてみると、ダイニングキッチンのような広い空間に出た。そこでは、今まさに食事にありつこうとしていたネズ達6人と彼らの手持ち達、そしてソハヤの姿があったのだった。



「あ。みんなも今からご飯?」
「ええ。実はそうなのです。マリィ殿もそうなのですか?」
「うん。アニキが一緒に食べた方が効率的だからってみんな呼んだんよ。今日はカレーだよ。いっぱい作ってると思うし、前田くん達も食べてく?」
「いいのですか?」
「構いませんよ。張り切りすぎて作りすぎちまいましたから」
「そんなこと言って~。分かってたんだろ、前田くん達が来るの」
「キバナ、おまえの分だけ肉抜きです。皿を寄越しなさい、前田に渡しますから」
「えーー!!褒めたんだからそんなみみっちいことするなよネズ~!!」



 やいのやいのと皿の取り合いが始まる中、大典太達は空いている席へと座った。キバナの猛攻を華麗にかわしたネズはそのままキッチンへと姿を消し、座った人数分の刀剣のカレーを持ってきたのだった。ちなみに、キバナのカレーは無事死守されたようである。
 ガラルではカレーが名物料理として流行っており、その種類はなんと151種類もあるのだそうだ。勿論、ガラル出身であるネズやマリィ、キバナも一通り作り方を覚えている。
 ノボリもクダリもシロナも、カレーは社食や外食で食べたことはある。しかし、ガラル地方の手作りカレーを口にするのは初めてだった。



「あたしもお邪魔して良かったのかしら?」
「既に町長さまにはお話を通しております故、本日は空き部屋を自由に使ってお休みください、とのことです。明日、ゆっくりシュートシティに向かうとよいでしょう」
「ノボリから大体話は聞いてる。大事なことははぐらかされちゃったけど…。シロナさん、今日は議事堂に泊まっていきなよ。まだ駅完成してない。ここから歩いていくのにはもう暗い時間」
「そう…。だったら、お言葉に甘えちゃおうかしら。あたしもガラルのカレーって、食べるの初めてなのよね」
「ふーん。じゃ、おれの作った奴じゃなくてマリィに作らせればよかったですかね。妹のカレーは天下一品ですから」
「……アニキ、それ全然正しくないよ。アニキの作った奴の方が100倍美味しか!」
「はいはい。じゃ、そろそろいただきましょうかね」



 マリィが頬を膨れさせて不機嫌そうにしているのを宥め、一同は各々"いただきます"と挨拶をしカレーを食べ始めた。
 どうやら様々なきのみが使われているようで、味のバランスが非常に取れている、家庭的な味のカレーだった。思わず無言で食べ進める前田と信濃を見て、思わずマリィの口角が上がる。



「アニキのカレー、美味しかろ? 今日のは自信作って言ってたもんね」
「美味しいです!とても暖かな気持ちになれる味です。あとでおかわりいただいてもいいでしょうか!」
「うん、とっても美味しい!俺もおかわり!」
「おかわりなら沢山あるんで沢山食べなさい。……って。マリィ、どこから聞いていたんですかおれの独り言…!!」
「ぼくも聞いてた。ご機嫌そうに鼻歌も歌ってた。絶対美味しいって自信 外から聞いてても分かる」
「美味でございますよネズさま!以前軽食をいただいたことはありましたが、本格的なお料理もお得意なのですね!ブラボーです!」
「の、ノイジーですよノイジー!黙って食べやがれ!!」
「……ネズって、照れることあるんだな」
「皮肉屋だけど心は真っすぐだからな~。激しい見た目で常識的なことやらかすから、結構な頻度で『そんな見た目でまともなことするな』って突っ込まれんの」



 わいわいと賑わっている食卓を見守りながら、大典太も静かにスプーンを口に運んだ。前田の言った通り、心が暖かくなるような、どこか懐かしい感じのする味だった。料理には作り手の心が現れるとはよく言ったものだ。ネズの気遣いと優しさが、料理の中にしみ込んでいるような気が彼にはしていた。


 ―――楽しい食事の時間も終わり、作ってくれたお礼だと皿洗いと片付けは双子が率先してやってくれていた。シロナとマリィ、そして大典太を除く刀剣男士達は床につくために既に部屋を後にしている。
 テーブルでゆっくりと食後の紅茶を味わうネズをよそに、大典太はサクヤのことについて考えていた。もし、時の政府の力を借りてサクヤを助けることが出来るならば。
 誠実な暁や、自分達の考えを認めてくれた今の政府と会ったからこそ湧いた考えだった。



「……何考えてんですか。眉間にしわがついてますよ、光世」
「……あぁ、悪い」



 ふと声の方向を向いてみると、ネズがじっと彼の方向を向いていた。どうやら考え込んでいたことを心配されたらしい。ネズも神域に腰を据える際、大典太達の本来の目的については話を受けている。そして、サクヤから告げられた"主命"についても同時に聞いていた。



「何か収穫でもあったんですかね。あの場所に行ってみて」
「……そうだな。今の時の政府は、話せば分かってくれる奴らだと分かった。―――だから、主のことに関しても…もしかしたら力を貸してくれるんじゃないかと、ふと思ってな」
「そうですか。サクヤをどうにか助ける方法……あれば、いいんですけどね」
「あぁ。………ん?」



 ネズのふと発した言葉に大典太は違和感を持った。何故、大典太がサクヤを助けたいと思っていることを見抜かれたのか。彼に話したのは"信頼できる人間と絆を結べ"ということだけである。大典太はサクヤを助けたいとは心には思っても、口に出したことは一切ない。顔が読み取られやすい刀でもないため、鬼丸ですら考えを見抜けていない自覚があった。



「(何故? ……何故、その言葉を口にできる?)」




 聞いてみようとも思ったが、はぐらかすのが上手いネズのことだ。話を逸らされてしまうことは目に見えていた。喉まで出かかった言葉をぐっとこらえ、彼は目の前にあった湯呑に入っていた緑茶をゆっくりと喉に流し込んだ。
 何故、ネズがその言葉を口にできたのか。それは……彼以外には、今は分からないことである。




 Ep.03-ex 【とある本丸の審神者会議】 END.


 to be continued…


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