二次創作小説(新・総合)

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繋がる世界と未来の物語【Ep.04-2完結】
日時: 2025/10/03 21:52
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 ―――これは、"全てを元に戻す"物語。
 それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。


 どうもです、灯焔です。
 新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
 サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
 この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
 また、オリジナルキャラクターも登場します。
 苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。


※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2


<目次>

Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17

Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148

ep.04-1 【天下五剣が集うとき】 完結
>>166 >>167-171 >>172-176

Ep.04-2【新世界の砂漠の華】 完結
>>178 >>179-180 >>181-185 >>186-188


※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54

Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111

Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151

Ep.04
【月と超高校級の来訪】 >>177


※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163


<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150
>>164-165


最終更新日 2025/10/03

以上、よろしくお願いいたします。

Ep.02-s2【襲来!エール団】 ( No.69 )
日時: 2022/04/01 22:45
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ハスノと燭台切が城下町に来た翌日。予定通り、ネズがマリィとキバナを連れて議事堂へと戻ってきた。
 元々シュートシティには手荷物しか持ってきていなかった為、3人とも着替え等はこの城下町で揃えるつもりだった。エントランスで待っていた大典太達と軽い挨拶を済ませ、マリィとキバナはラルゴに手配された部屋に案内してもらうのだった。

 少し時間が経った後、2人がエントランスに戻ってきた。ラルゴからの説明も一通り終わり、各々自由時間となったのだ。
 しかし、3人共この城下町のことは右も左も分からない。しかし、流石に生活必需品を揃える場所くらいは覚えておいた方がいいとの大典太の助言で、まずは彼に商店街を案内してもらうことになった。



「改めて、マリィといいます。アニキ…ネズの妹で、今はスパイクタウンのジムリーダーをしています。よろしくお願いします」
「オレさまはキバナ。ナックルシティって街でジムリーダーをしてるんだぜ!これからよろしくな!」
「……丁寧な挨拶感謝する。どっちもジムリーダーなんだな。妹がネズから引き継いだことは聞いているが…」
「マリィはおれよりもポケモン勝負の才能がありますし、キバナはガラル最強のジムリーダーと言われています。2人共相当実力があるポケモントレーナーですよ」
「そう言ってるネズも、ダイマックス無しでオレさま追い詰める超強いトレーナーだぜ!」
「余計なことは言わねぇで良いんですよキバナ。……で、商店街を案内していただけるんでしたよね」
「……あぁ。ここからならすぐだし、道も分かりやすい。何か必要になった時に、覚えておかねば不便だと思ってな…」
「私物、全部なくなっちゃったけんね。大典太さんの言ってることは正しいよ」



 これから割と時間があるとはいえ、商店街も広い。1つ1つ説明するならば出発は早い方がいいだろうと考えた大典太は、早速商店街へ行こうと3人に話した。今日は彼に従うと決めていた3人は、素直に大典太の後をついて行く。
 もう少しでエントランスを出られるという最中だった。ネズが誰かの足音に気付き、大典太に待ったをかける。



「すみません。止まってもらっていいですか」
「……どうした?」
「誰か…いや、大勢がこっちにかけてくる足音が聞こえてきますね。それも急ぎで」
「……分かるのか?」
「おれ、耳は良い方なんで。しかもこの足音……」



 ネズが足音の正体を悟ったのか、大きくため息を吐いた。彼の関係者なのかと戸惑ったと同時に、玄関を駆け抜けてこちらへやってくる大勢の人の姿があった。外にいた住民のざわざわした声も耳に入ってくる。
 大典太が見たその人物は、全員似たようなパンクファッションだった。ネズが身に着けているインナーと同じようなデザインのシャツを来ている人物もちらほらといた。彼の関係者なのかとネズに問おうとすると、彼は頭を抱えていた。十中八九彼の関係者だ、と大典太は確信した。
 大勢の人物は、目的の人物―――ネズとマリィを見つけて一斉に号泣し始めた。



「何やってるんですかおまえ達…」
「ネズさぁぁぁぁん!!!お嬢~~~~~!!!今までどこに行ってたんですかぁ~~~~~!!!」
「私達ずっと探してたんですよ~~~~~!!!ガラルスタートーナメントの開会式も流れずに、あらゆる放送局にノイズが入ったと思ったら意識を失って、気付いたら見知らぬ場所に転がされてるんですもん~~~~!!!」
「あらまぁ」
「……ええと。こいつらは?」
「うちのジムを支えてくれるジムトレーナーの人達だよ。まぁ…元々あたしの応援団をしてくれていたけん、その名残で"エール団"って言われてる。アニキはその団長なんよ」
「……はぁ。成程…」



 大勢でネズに泣きつく姿を見て、大典太は言葉を失った。しかし、マリィから説明を受けて納得する。彼らは純粋にこの兄妹を心配してずっと探していたのだと。となれば、見つかれば号泣して縋りつくのも当たり前だった。
 ネズは抱き着いて来るエール団を1人ずつ対処し、落ち着かせていた。



「連絡が遅れて済まなかったね。ですが……公共施設でギャーギャー騒ぐんじゃねぇ。街の方々に迷惑をかけるんじゃないんですよ」
「スンマセンっ!!」



 最後の1人を座らせたと同時に、ネズが説教を始めた。流石に今回の騒ぎはお咎めなしとは行かなかったようだ。まるで慣れたようにエール団に正座させている姿を見て、もしかしてこれは日常茶飯事なのではないかという考えが大典太の中に生まれる。
 マリィに疑問をぶつけてみると、彼女は冷静に"そうだよ"とだけ答えた。ネズも苦労しているのだな、と内心思った。
 しかし、ネズもネズである。説教をしている場所がエントランスのど真ん中な為、議事堂に用事のある住民には非常に邪魔になっていた。



「なんか後ろでまごまごしてる人、オレさま見つけちゃった」
「アニキ、説教はいいけどお客さんの邪魔になっとるよ」
「……あっ。すみません。すぐに除けます」



 マリィの声はネズにすぐに届き、彼はエール団をエントランスの端に移動させた。言いたいことは言い切ったのか、ネズはそれ以上彼らに追及することはなかった。
 それと同時に、エントランスで騒ぎが発生していると察知したのかラルゴが町長室から出てきた。そして、エントランスの人数を見てにこやかに笑った。



「あら~?すっごく賑やかな声がしてたから出てきちゃった。どうしたの?」
「騒いじまいましたね。申し訳ありません」
「いいのいいの!それで…この子達は?」
「あの…スパイクタウンに帰れなくて困ってるんです。俺達エール団だからスパイクタウンに帰らないと…」
「…………」



 ラルゴが疑問を口にすると、黙っていたエール団がぽつぽつと現状を話し始めた。どうやら彼らはシュートシティとは離れた場所で目覚めたらしい。何とか集まった人数でネズとマリィを探そうという話になり、旅人に話を聞きながらこの城下町を目指して歩いていたのだった。
 彼らの話を聞いて、ネズは相槌を打った。ダンデに頼めばシュートシティで預かってもらえるとは思うが…以前エール団はジムチャレンジで悪事を働いた過去がある。街の住人がどう思うか、彼には簡単に予想が出来た。



「申し訳ねぇんですが…。スパイクタウンには帰れません。この世界に飛ばされちまった時に消えたみたいです」
「えぇ~~~っ?!じゃあどうするんですかネズさん!!」
「シュートシティにおまえらを預かってもらうことも考えたんですが、ダンデは良くても街の人間が嫌がると思うんですよね。それで…今凄く困ってます」
「リレイン城下町にもこれ以上迷惑はかけられないし…。いっそあたし達で集落新しく作っちゃうとか」
「余所者が世話になり始めた時に言う台詞ではありません、妹よ。はぁ…こんな時に決断が渋るなんて、やっぱりおれはだめなやつです」
「……数人ならなんとか出来るとは思うが、こう大勢だとな…」
「ナックルシティもないから、オレさまも何とも言えないんだよな~…」
「あら。そんなことないわよ?帰れないんだったら、城下町に住んでもらえばいいもの!」



 エール団をどうするか。対処に困っていた一同に、ラルゴが待ったをかける。彼女はさも当然のように"リレイン城下町で預かりたい"と言ってのけた。
 流石に軽く口に出てきたその言葉に、ネズは思わず"は?"と声を荒げる。ラルゴはそのままネズに説得を続けた。



「それに、さっきマリィちゃん言ってたじゃない。"エール団はスパイクタウンのジムトレーナーだ"って。だったら、ポケモン勝負だってそこそこできる筈よね?」
「うん。うちのスパイクジム、ジムチャレンジの時は後半を担当することが多いけん。だから、みんな実力に見合うように努力はしとるよ」
「それに、エール団はマリィちゃんの応援団なんでしょ?マリィちゃんは今日からこの街に住むんだから、こんなにいい条件はないわよ!街の警備も兼任してくれればいいもの!借家だって言ってくれたら用意するわよ」
「……ちゃっかりしすぎている」
「言動のスケールと口にする軽さが比例してないんですよ、この町長。今おれはそれを確信しました」
「……慣れてくれ。こいつはいつもそうだ」



 エール団が有事に対応できる人物だとラルゴは見抜いて、故郷が無くなっているならうちの街を警備してもらえばいいと軽く言い切った。確かに、シュートシティ以外のガラル地方の街が消えてしまった以上、スパイクタウン"だけ"が残っている可能性は非常に低い。エール団の方向を向いてみると、マリィがここにいるなら是非やらせてほしいという声がちらほらとネズの耳に入っていた。
 大きなため息をつくネズの肩をキバナがポン、と叩いた。



「ネズ~。ため息つくと幸せが逃げるぞ?」
「予想外のことが同時に起きすぎて頭がついていけてないんです。ため息くらい吐かせやがれ」
「……でもさ。アニキ。エール団のみんなやる気十分みたいだよ。スパイクタウンを探すことも諦めてないけど、まずはお嬢が無事ならそれでいい、ってさ」
「はぁ~……」



 マリィの意見を聞き、ネズはまたしても深いため息をついた。そして、何かを決心したようにラルゴに向き直ったのだった。
 そして、ネズは背筋を伸ばし直角に頭を下げる。その行動に一同は一瞬驚くも、彼はその姿勢を崩すことはなかった。



「うちの連中をお願いします。町長。賑やかな奴らですが…みんな、良い奴なんで」
「うふふっ。勿論よ!城下町の力になってくれるなら、それ相応の対価を支払うのは町長の役目なんだから」
「ネズさぁん…!流石俺らのネズさんだぜ!」
「エール団はお嬢とネズさんをいつまでも応援してーる!!」



 ラルゴが明るい調子でそう答えると、安心したようにネズは顔をあげたのだった。
 エール団の処遇が決まって安堵した一方、彼らが次に気になったのはネズの近くにいる大典太のことだった。彼はれっきとした刀剣男士なのだが、一般の人間から見れば"V系バンドマン"と例えられることが非常に多い。それは、エール団でも同じだった。
 団員の1人が大典太に近付き、声をかける。



「すんません!もしかして、ネズさんの新しいバンドメンバーですか?!」
「ばんど、めんばー?……違う。俺は…」
「その服装に髪型。超イケてるっすね!ネズさんの格好とマッチしてバリロックっす!何の楽器担当するんですか?静かそうだから…あ、ベースとか!」
「あ~!ベース!ストリンダーとセッションしたら絶対に似合うやーつ!」
「……えっと、その…」



 新しいバンドメンバーだと勘違いされ、やれ容姿やらやれ表情やらをエール団に褒められた。褒められ慣れていない為どういう表情をしたらいいのか分からなかったのと、彼のバンドメンバーではないことを説明しないといけないことがせめぎ合い大典太は押し黙ってしまった。
 彼の反応を見ていたネズがすかさず間に入り、彼について説明を始めた。



「早とちりしないでください。彼はバンドメンバーではありません」
「えっ。そうなんですか?こんなにロックなのに!」
「ロックなのは否定しませんが」
「(否定しないのか…)」
「じゃあ何なんです彼?ネズさん、親し気に話してましたよね?」
「うーん…。おれの…何なんでしょう?」



 エール団に関係を問われ、ネズは思わず回答に戸惑ってしまった。確かに大典太とは気が合うとは確信しているものの、それだけだ。まだお互いのことをよく知らない。
 それは大典太も同じようで、返答に困っていた。考えられる答えと言えば…。ふと思いついた言葉を大典太は口にする。



「……護衛?」
「なんでアニキも大典太さんも分かっとらんの…。"お友達"でいいじゃん」
「そこまでおれ達親しくなってませんし。昨日の今日ですし」
「……ネズに同意する」
「んもう!新しい友達って言っとけばいいの!しぇからしか!」




 お互いに顔を見合わせ言葉に詰まる様子を見て、マリィは呆れたようにそう返した。
 その言葉に納得したのか納得できなかったのか。1人と一振はしばらく首を傾げ続けたのだそうな。

次回予告 ( No.70 )
日時: 2022/04/02 22:34
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ―――これは、ガラル地方が"混ぜられる"、ほぼ同時刻の話。


 イッシュ地方、ライモンシティ。"稲妻きらめく 輝きの街"と称される、テーマパークが立ち並ぶ活気あふれる娯楽都市である。
 ライモンシティを取り纏めるイッシュ一のスーパーモデル、カミツレがジムリーダーを務めるライモンシティジムをはじめ、大きな遊園地やミュージカルホールなどが立ち並ぶ、イッシュ地方の娯楽の中心とも呼ばれる街。
 そんな活気あふれる街の地下。"ギアステーション"と呼ばれる駅に少女は立っていた。今日も熱いポケモンバトルを楽しむ為に。



「よし。今日こそスーパーシングル制覇してやるんだから。いつもいいところで凡ミスして48連勝を逃してる…。でも、敗北からあたしは学んで強くなってる。それは自分が一番良く分かってるの。今日こそ。今日こそノボリさんと対戦してやるんだから」



 バトルサブウェイの受付の前で気合を入れている、爽やかなポニーテールを揺らした少女の名前は"トウコ"。このバトルサブウェイの常連でもある、ポケモントレーナーだった。
 元々は突如失踪した双子の弟を探しにイッシュ中を旅していたのだが、ふと立ち寄ったバトルサブウェイにてバトルの楽しさにのめり込んでしまい、弟を捜索しがてらストレス発散に、バトルの楽しさを味わいに日々地下鉄に乗って勝負を繰り広げている。

 いつもいいところまでは連勝できるのだが、どこかで疲れが出てしまい、本気のサブウェイマスターとの対戦は一度も叶っていなかった。得体の知れない、怪しい双子。世間ではそう噂が立っているが、彼らと直接関わり合ったトウコには分かる。彼らも人間なのだと。
 自分の頬をぺちり、と叩き気合を入れ直したトウコは改めて改札に向き直る。この改札を通り、スーパーシングルへと挑戦することを伝えれば……自分の今日の限界まで、あとはひたすら走り続けるのみ。


 そんな彼女の背後から明るい声が聞こえてくる。思わず後ろを向いてみると、トウコに手を振るお団子ヘアーの少女が見えた。振り向いたのに気付いたのか、彼女はぱぁっと笑顔を広げながらトウコの元まで走ってきた。



「こんにちは、トウコ先輩!今日もバトルサブウェイ日和ですね!」
「メイ!貴方もバトルサブウェイに?」
「はいっ!クダリさんに会いに来ました!っていっても、わたしもまだ48連勝出来てないんですけどね…。トレインで会えるのはまだまだ先になりそうです」



 背後から現れた少女の名前は"メイ"。イッシュ地方の新チャンピオンとなった少女である。ポケモンワールドトーナメントの覇者でもあり、今やイッシュ中に名前が知れ渡っている有名人だ。
 メイはポケモントレーナーとしては珍しい、ダブルバトルを得意とするトレーナーだった。イッシュのチャンピオンであったアイリスと戦った時もどこかしっくり来ておらず、初めてここに来てダブルトレインに乗車してからというもの、ダブルバトルの方が性に合っていたらしい。彼女もまたバトルの魅力にのめり込んでいったのだった。

 彼女もまた、スーパーダブルの打破を目標にしていた。しかし、トウコと同じように小さなミスが原因で敗北に繋がり、本気のサブウェイマスターとは一度も戦えていない。色々工夫は凝らしているものの、自分の憧れで大好きなサブウェイマスターと勝負が出来ないことを残念がっていた。
 各々目的のトレインは違う。メイに健闘を祈ると激励した後、トウコは改めてスーパーシングルの受付へと進もうとする。しかし、彼女の腕をメイが掴んだ。何なのだろうかと振り向くと、彼女はこう口にしたのだった。



「先輩。今日は趣向を変えてマルチに挑戦してみませんか?前から乗ってみたかったんですけど…中々いい相方が見つからなくて、なあなあにしちゃってたんですよね」
「マルチ?確かにあたしも乗ったことないけど…。急にどうして?」
「わたし、このままスーパーダブルに乗ってもまた負けそうな気がするんですよね…。だったら、趣向を変えて違う戦いに挑戦してみてもいいかなって。気分転換にもなりますし、何より新しい戦い方が発見できるかもしれませんし!」
「確かに…。マルチはシングルともダブルとも違う。―――もしかしたら、あたし達が連携していく中で学ぶこともあるかもしれないわ。その案、乗った!」
「さっすがトウコ先輩!じゃあじゃあ、早速受付しちゃいましょう!わたし達、意外といいコンビだと思うんですよね~。1回でサブウェイマスターに挑戦できるかも!」
「その勢いで行かなくちゃね。よーし、頑張るぞー!」
「おーっ!」



 なんと、メイはトウコにマルチトレインに乗車しようと誘ってきたのだった。
 マルチバトル。2人のトレーナーが1体ずつポケモンを出して勝負する方式である。シングルとも、ダブルともまた違う戦い方。2人の連携が整っていなければ、勝つことすら難しいと評判のトレインだった。
 メイの説得に、トウコは成程と相槌を打った。マルチにはまだ挑戦したことがない為、まずは普通のトレインに乗って、手加減状態のサブウェイマスターを目指すこととなる。今後の目標にいい刺激になるかもしれないと、トウコはメイの案に乗り彼女の手を取った。

 意気揚々と2人の少女はマルチトレインへの受付へ向かう。素早くエントリーを済ませ、彼女達は待機していた1両目の車両に飛び乗ったのだった。
















 ―――バトルサブウェイ内の執務室。鉄道員達が仕事の為に利用する部屋である。
 そこで、トレインの運行状況を監視していた若い鉄道員、カズマサが"あれ?"と声を上げる。いつも乗っているものとは違うトレインに、2人で挑戦しているところが気になったからだった。



「トウコちゃんとメイちゃん、今日はマルチに参加しているんですね。珍しい…」
「カズマサ、それ本当?」



 ガタリ。感心するように零れたその言葉に勢いよく反応する人影が2つあった。カズマサが恐る恐る背後を振り向いてみると、勢いよく鳴った椅子の音と共に、轟々と闘志を燃やす2つの影。片方は真顔のまま、もう片方は笑顔のまま。銀色の瞳はマルチトレインの画面を映していた。
 彼らこそが、このバトルサブウェイの先頭に立つ者。"サブウェイマスター"と呼ばれている双子の車掌、ノボリとクダリである。



「ウン。トレーナー次々蹴散ラシテルヨ。コレハボスノ出番カナリ早ク来ルカモネ」
「ブラボー!」



 トトメスが冷静に試合運びを見ながら感想を漏らす。それを聞いて、黒い車掌―――ノボリが"ブラボー"と興奮気味に監視画面に向かって拍手を送った。なお、顔は真顔のままである。
 普段、ノボリはシングルを、クダリはダブルを担当している。お互い、現在挑戦中の少女達の強さは身に染みて分かっていた。いつか自分達に辿り着くであろうことも。トトメスの言葉を受け、その思いは確信となった。



「お二人のポケモントレーナーとしての強さは我々もよく知っておりますからね。今からバトルするのが非常に楽しみでございます」
「二人のコンビネーション、最高抜群!勝ち進むの 凄い勢い!特急レベル!」
「まぁ、トウコもメイも普段スーパートレインで実力発揮してるからなぁ…。初めてとはいえ、マルチも勝ち上がるのが早いのは予想ついてたってこっちゃな」



 白い車掌―――クダリは、トウコとメイが現在戦っている7両目の映像をガン見していた。豪快ながら連携の取れた戦い。とても興奮する試合。この調子で彼女達が勝ち進んでいけば、すぐに自分達もその熱い思いを受け止められると彼は内心とても喜んでいた。
 あまりにも集中しているからか、隣の椅子にノボリが静かに座る。行動や仕草は普段通りに見えるが、彼の目にも相当な闘志が燃えていた。



「クダリ、彼女達は逃げませんよ。可能性としては0だと思いますが…仮に負けても、また挑戦なさいます」
「うん。わかってる。だから早く20連勝してぼく達と戦ってほしい。ぼく、今すっごく興奮してる」
「同感でございます。あぁ、今から闘志がたぎって溢れてくるのでございます…!この熱を早く彼女達にぶつけたいのはわたくしも同じ!イメージトレーニングだけでは飽きたりません!」
「ボス、今日なんか興奮しっぱなしなのさ」
「まぁ…昨日点検でバトルサブウェイ全車両運休してましたし…。何となくうずうずするのは僕も分かります」
「ソノ"ウズウズ"ガ"ウズウズ"ジャナイ気ガスルヨ。最早殺気ダヨ」
「稀に見る闘志を感じます…!こ、怖いですクラウドさん…!!」
「早よ慣れぇ。マルチだからこれで抑えられてるけど、これがスーパーマルチやったらもっと大変なことになっとるで」
「え、これより凄いんですか?!」
「目ぇだけで人1人殺せる、と揶揄してもええくらいには」
「ひぃぃ…!!」



 画面を見ながら稀に見る闘志という闘志をたぎらせる双子の車掌を見て、鉄道員は思わず委縮する。
 遂に泣き出してしまったヒロカズを見て、クラウドは大きなため息を1つ吐いた。この双子が入社してくる前からギアステーションにいる為、多少は駅の空気については知っている。
 頭をガシガシとかき、未だ興奮冷めやらぬ双子の背後からむんずと制帽を掴んだ。



「そこまでにしとき。ヒロカズ泣き始めたわ」
「え。あっ。ご、ごめんねヒロカズ。すっごい面白いバトル。ぼく達興奮してた」
「申し訳ございません。あまりにも素晴らしいバトルの連続でしたので、わたくし視野が狭くなっておりました…」
「は、はいっ!だ、大丈夫です。慣れるように頑張ります!」
「慣れんとなぁ。こんなモンじゃないで、ホンマ」
「クラウド、人の事言えない。クラウドも面白いバトル見ると、興奮してる。まるでお酒に酔ったお客様」
「白ボスゥ!!黒歴史を掘るな言うとるやろがぁ!!!」
「ギャー!暴レルノ駄目!キャメロン、トトメス、一緒にクラウド止メテ!」
「ギアステーションに勤務している以上、皆ポケモンバトルが大好きなのですよ。ヒロカズさん、あなたにもきっと分かる日が来ます。わたくしが保証いたします!」
「は、はい…。精進します…」



 クラウドがクダリに墓穴を掘られ言い負かされ、軽い取っ組み合いが始まりそうになっていた。その矢先、執務室に案内放送が鳴り響いた。



『マルチトレイン挑戦者、現在14連勝中です。ボス、最終車両に移動及び準備の方をお願いいたします!』



 トウコとメイが14連勝をしたという案内が流れた。放送が来たということは、彼女達は自分達に挑んでくる気満々だということだ。
 その事実が、双子の闘志に更に火をつけた。スッと同じタイミングで立ち上がり、扉へと方向転換をする。


「わたくし達の出番がやって参りましたね、クダリ」
「ノボリ。頑張ろう!」
「はい。わたくしとクダリの二両編成。コンビネーションの力をトウコさま方にお見せいたしましょう!」



 頑張ってください、という背後からの応援に応え、双子は執務室を後にする。
 今から向かうのは戦いの場。車両の中に入れば、いくら常連でも立ちはだかる障害として待たなければならない。"勝利"という終着点に向かう為、皆一生懸命戦っている。その誠意に応える為、普通のマルチトレインとはいえ全力で立ち向かう。
 双子の心はもう決まっていた。



「さぁ。行きましょう。我々の戦場へ!」




 双子は制帽を深く被り直し、自分達が向かうべき車両へと歩いて行ったのだった。

次回予告 ( No.71 )
日時: 2022/04/02 22:38
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 マルチトレイン車両内。トウコとメイは順調に勝ち進み、無事6両目を突破した。
 次は7両目。目標であるサブウェイマスターが待ち構えている、21連勝目に辿り着いたのだ。



「よーし!これで20連勝!」
「次、クダリさんとノボリさんとの勝負ですよね!わたし、わくわくしてきました!」



 タッグを組んだのは初めてだったが、お互い気の合う性格だったこともあり不思議とコンビネーションが自然に取れ、快勝を続けてこれた。もしサブウェイマスターに勝つことが出来たら、たまには彼女と組んでスーパーマルチの方にも挑んでもいいのかもしれない。そんな余裕もメイの心の中に生まれていた。
 しかし、トウコは油断しないようにとメイに釘を刺す。自分達の慢心が原因で、どれだけスーパーシングル、スーパーダブルで敗北を帰したかは自分達が良く分かっているのだ。順調に勝ち進められたからといって、この先もそうとは限らない。
 それほど手強い相手なのだ。サブウェイマスターという存在は。



「油断せずに行こう、メイ。手加減モードだとしても、相手は本気で来る。真剣勝負じゃないとつまらない。それが口癖だったわよね?」
「勿論です!真剣勝負が一番楽しいですからね!真剣にやって、真剣に勝つ!わたしにはそれしか見えていません!と、いうことで!」



 頼もう!とメイは勢いのまま次の車両のドアを開けた。跳ね返りがとても強く音として認識された為、一瞬トウコは扉を壊してしまったのではないかと背中が冷える。思わずメイが開けた扉を擦るが、何ともない。丈夫に造られたサブウェイの車両に感謝しつつ、彼女はメイの後を追った。
 想像通り、7両目には見覚えのある黒と白のコート。互いの色と、表情以外はまるで表裏一体。サブウェイマスターのノボリとクダリが待ち構えていた。



「こんにちはクダリさん!ノボリさん!今日は趣向を変えて、トウコ先輩とマルチトレインに乗ってここまで来ましたよ!」
「ようこそ、トウコさま。メイさま。本日はバトルサブウェイへのご乗車、誠にありがとうございます」
「見てたよ。すっごく強かった!メイもトウコも凄い!でもぼく達だって負けてない!」
「ふっふーん。そんな余裕を言ってられるのも今のうちですからね、クダリさん!スーパーダブルに挑戦する前に、トウコ先輩と一緒にボッコボコにしちゃいますからね!わたし達の"愛のラブラブアタック"を受けてください!」
「ら、ラブラブアタックって…。あたし、そんなつもりじゃ…」



 実は、トウコとメイはバトルサブウェイのお得意様である。物凄い強いトレーナーがいると初挑戦時に話題になり、そのことがきっかけで鉄道員や双子とも縁を結んだのだ。休憩室に案内され、共に一服をしたこともある程の仲だった。
 トウコとの仲の良さを強調する為なのか、クダリを挑発する為なのか。メイはわざわざ"ラブラブ"という言葉を使ってまでクダリにアプローチをする。トウコはまさか彼女からそんな発言が出るとは思わず、顔を赤くしてしまった。
 そんな彼女の言葉に素直に反応するのがクダリだった。そう。メイとクダリは所謂"相思相愛"だった。クダリはトウコに向かって言い放つ。



「ずるい!ぼくもメイとラブラブアタックしたい!」
「だからラブラブアタックなんてしませんって!メイはあたしの仲のいいお友達です!」
「残念ですがクダリさん。これは真剣勝負なので。わたしとのラブラブアタックのポケモン勝負なら後でやりましょう!今はトウコ先輩とのラブラブアタックを見せる番です!」
「な…なんでこうなるのぉ…!」



 もしかしたら、メイはこれが言いたいがために自分を相方に選んだのではないだろうか。そう考えたら無性に腹が立った。堂々とクダリに愛を宣言出来るメイとは違い、トウコはそういう面では非常に奥手だった。
 思わずモンスターボールに目を向けると、ボールの中のダイケンキが心配そうにトウコを見ている。あぁ、パートナーにまで心配されるとは情けない。帽子で目元を隠しつつ、双子の方を見る。微笑ましいやり取りが隣で進む中、隣の黒い車掌も心配そうに目元を伏せ、トウコに語った。



「トウコさま。あまりお気になさらないでくださいまし。いつものことではありませんか」
「それは…分かってますけど。恥ずかしくなっちゃうんですよね…。メイ、凄い行動派だから。正直羨ましい」
「ふふ…。だからこそクダリも本心から嬉しそうにメイさまと関わっておられるのです。ですが、わたくしは…トウコさまの思うまま、行動すればよろしいと思っております」
「あたしの思うまま、か…」



 零しつつ、隣で堂々と手を繋いで踊っているメイとクダリを見る。随分と仲が良さそうだ。彼女の行動力が本当に羨ましかった。
 トウコもまた、目の前の黒い車掌に慕情を抱いていた。しかし、目の前の男はクダリよりも表情が分かりづらい。自分の思うまま、今の気持ちを伝えられたら。そう胸に秘めるが、口に出ることはなかった。彼女はそれ程までに、恋に対して臆病だったのだ。

 耳まで真っ赤にするトウコを見て、流石にノボリもこれ以上引き延ばすのは無理だと悟ったらしい。メイとクダリに向かってパンパンと両手を叩き、定位置に戻る様に促す。
 ノボリの合図で我に返った2人は、急いで元居た位置に戻る。トウコも帽子を被り直し、気持ちを切り替えることにした。今は勝負に集中せねば。自分が緊張したせいで負けてしまってはここまで来た意味がない。

 ノボリが喉を鳴らしたのを合図に、サブウェイマスターはいつもの口上を述べる。



「それでは改めまして。わたくし サブウェイマスターのノボリと申します。片側に控えるのは 同じくサブウェイマスターのクダリです。
 さて、マルチバトル。お互いの弱点をカバーし合うのか、はたまた圧倒的な攻撃力を見せるのか、どのように戦われるのか楽しみでございますが…。あなたさまとパートナーの息がぴたりと合わない限り勝利するのは難しいでしょう。ではクダリ、何かありましたらどうぞ!」
「ルールを守って安全運転!ダイヤを守ってみなさんスマイル!指差し確認 準備オッケー!目指すは勝利!出発進行!」



 双子が言い終わったと共に、4人はモンスターボールに手をかけた。そして、勢いよくパートナーの名前を叫ぶ。



「頑張ってきて!ダイケンキ!!」
「張り切ってください、ジャローダ!!」


「ダストダス、出発進行ーッ!!」
「デンチュラ、出発進行!」



 モンスターボールから勢いよく放たれた4体のポケモンは、車両内にドシンと佇んだ。
 衝撃で車体が揺れるが、何ともないと4人は闘志を燃え上がらせる。こんな揺れなど、バトルサブウェイに挑む者、そして関わる者としては日常茶飯事なのだ。


 最初に動いたのはクダリのデンチュラだった。素早さを武器にした電気のわざをダイケンキに浴びせる為、目線をダイケンキに合わせる。



『デンチュラ、10まんボル―――』



 クダリがデンチュラにわざを指示しようとしたと同時だった。






































 ガタン。勝負の揺れではない、大きな地響きが響く。それと同時に電車が大きく揺れ始めた。



「何ですかこの揺れ?!」
「う、うわぁぁぁっ!!!」
「トウコさま!!メイさま!!どこかにおつかまりください!!」



 車体が傾くのではないかと思う程に強い揺れ。地上で何かあったのだろうか。ノボリはトウコとメイにどこかを掴んでいる様指示した後、ライブキャスターで部下に連絡を取ろうとするも、傍にいたクダリに止められた。トウコとメイに真っ先に指示するなら自分も安全を最優先しろとはっきり告げられた。
 各々ポケモンに危害が振りかぶらない様、モンスターボールに戻す。ポケモン勝負が続けられる状態ではない。その場にいる誰もがそう思っていた。



「うぅ…!いつまで揺れるんですかー!こんなことバトルサブウェイに来てから一度もなかったじゃないですかー!」
「大きい地震にしては長いわよね…?揺れ方も変だし」
「地震ならもっと横揺れ凄い。地震の揺れ方じゃない」
「ともかく、手を離さないでくださいまし。お怪我の元にございます!」




 しばらく揺れに耐えていると、徐々に地響きの音が小さくなる。それと同時に、車両も少しずつ揺れが収まる。車輪とレールが擦れる強い音が4人の耳に入って来た。誰かが異常に気付き、緊急停止ボタンを押したのだろう。
 しん、と車両の中は静まり返った。残ったのは、急に襲った異様な空気だけ。トウコは傍にあった柱を強く握りつつも、周りを見渡す。まずは誰も怪我をしていないことに安堵したのだった。

次回予告 ( No.72 )
日時: 2022/04/02 22:41
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

「いたた…。皆さん、大丈夫ですか?」



 静まり返った車両内で、メイの心配する声が響く。揺れた直後に全員ポケモンをモンスターボールに戻した為、ポケモンも誰も怪我をしてないようだった。彼女を心配しているのか、メイのボールの中でジャローダが出してくれとカタカタ揺れている。
 一体何が起こったのだろう。離れてまた大きな揺れが来ても困る為、4人は一旦座席のある場所に集まって話し合うことにした。



「随分と大きな揺れだったわね。他のお客さん大丈夫かな…」
「我々がマルチトレインに乗り込むまでは、シングルもダブルも挑戦者は現れていません。トウコさま方がこちらまで来られる時間を考えても、その間にどちらかの列車が走った可能性は低いと見て良さそうです」
「点検、昨日終わったばっかり。トラブル起きたとか考えられない。あり得ない」
「そういや、昨日バトルサブウェイ全面運休日でしたもんね…。整備士さんが見落としたとは考えたくないんですけど…」
「うちで雇っている整備士の方はとても優秀です。わたくしも、甘い点検をしたとは考えたくありませんね」



 鉄道員も話をしていたが、昨日はバトルサブウェイに使用する列車の車両点検が全車両に入っていた為、バトルサブウェイが全車両運休していたのである。リフレッシュ出来たはいいものの、根っからのポケモンバトル好きであるノボリとクダリはやはり"戦いたい" "ポケモン勝負がしたい" という気持ちが強すぎた為、今回のトウコ達とのバトルも心待ちにしていた。結果この仕打ちはあんまりだ、とクダリが項垂れる。
 トウコとメイを座席に座らせ、ノボリは再度懐からライブキャスターを取り出し執務室に連絡をしようとする。しかし…。いくら通話のボタンを押しても、機械の反応が無かった。ライブキャスターも昨日点検に出した上、先程まで部下と連絡を取り合っていたのだ。急に故障するなど考えられない。



「はて?ライブキャスターが起動しません」
「ノボリ、どうしたの?」
「執務室に連絡を入れようと思ったのですが、ライブキャスターが動かないのです。先程までは動作を確認していたのですが…。申し訳ありませんクダリ、あなたのライブキャスターからも連絡を入れてみていただけませんか?」
「オッケー」



 ノボリはクダリのライブキャスターから部下に連絡を入れるよう頼んだ。軽く返事をし、クダリも同じように懐からライブキャスターを取り出し連絡を入れようとする。しかし、結果はノボリと同じ。彼のライブキャスターもうんともすんとも言わなかったのだ。
 いくら彼がカチカチと通話ボタンを押そうとも反応がない。流石におかしい、と笑みを少し緩めて口を開く。



「うーん。ぼくのも動かない」
「……あれ?わたしのも動きません。お二人のライブキャスターがおかしいんじゃなくて、別に原因があるんじゃないですか?」
「それに…モンスターボールも反応がないんです。さっきからダイケンキが出たいってボールを揺らしていたので、出してあげようとしたんですけど…」
「それはおかしいですね。別の原因…ですか。ジャミング…?外部からのハッキングの可能性は…」
「ない、ない。ギアステーションのセキュリティ、バッチリ完璧。この前もハッキング潰してた」



 この車両自体の電流がストップしたのであれば、ライブキャスターやモンスターボールが動かないのも筋が通る。しかし、外で大きな雷が鳴ったとの情報も、電波障害が起きたとの情報も届いてはいない。
 電車の中でポケモンが出せなくなった以上、ポケモン勝負は当然中止となった。とにかく、まずはトウコとメイを車両から下ろさねばならない。
 この車両は最後尾である。あらゆるトラブルに対応する為、車両の中に閉じ込められても手動で開けられるように道具を配置していた。ノボリはクダリに非常バルブを持ってくるように告げ、動こうとした瞬間だった。



 カツン、カツン。4人以外誰もいない筈のマルチトレインから靴音がした。鳴り方からして革靴だろう。トウコもメイもスニーカーを履いており、ノボリとクダリもその場に立っており、靴音がした方向と反対側にいる為彼らでもない。
 誰かが近づいてきているのだろうか。警戒を高めながら周囲を見回すと、トウコとメイが入って来た扉の向こう。6両目から近付いて来る人影が見えた。カンテラも持っておらず、人影の顔は見えない。
 ノボリは警戒心を高め、3人を守る様に前に立ちふさがる。



「連絡出来てないのに。誰?」
「異常に気付いて誰か来てくださっただけならいいのですが…。胸騒ぎがいたします。どうか警戒心を解かないでくださいまし」
「は、はいっ!」



 そのまま近付いて来る人影を待つ。コツコツと鳴る靴音は徐々に大きくなり、遂に人影はノボリ達がいる車両へと姿を現した。
 制帽を深く被っている為顔は見えていないが、部下の鉄道員達が着用する緑色の制服姿だった。しかし、雰囲気はどこか怪しく不気味に佇んでいる。しかし、2人は分かった。彼は"部下ではない"ということに。
 ノボリは3人の前に立ったまま、唐突に現れた人物と会話を試みることにした。



「うちの社員ではありませんね。どちらさまでしょうか」
「…………」
「隠そうとしたって駄目。バレてる。腕章付けてない。バトルサブウェイに勤務してること表す、大事な腕章。みんな付けてる」
「バトルサブウェイ勤務でなくとも、ギアステーションで働く駅員であれば全員腕章を身に付けております。それがない、ということは…。あなたさまはうちの社員ではない、ということの決定的な証拠となるのです。
 もう一度お尋ねします。どちらさまでしょうか」



 いくらノボリとクダリが詰め寄っても、怪しい鉄道員は何も口にしない。それはおろか、制帽を外すこともしない。ノボリの背中からちらりとトウコは駅員を見る。本当に得体のしれない、不気味な人間。彼女は恐ろしくなり、思わず顔をひっこめた。
 クダリも冷静に相手を観察するが、動く気配はない。寧ろ、全く動かないことが怪しいとすら思い始めていた。



「ノボリ。変。動こうとしてない」
「下手に刺激をして襲われてしまっては意味がありません。様子を見ましょう。こちらはポケモンも封じられています。太刀打ちする術がありません」



 沈黙に張り詰められた空気が続く。一瞬でも動いたら、こちらに不利益を被る可能性が高い。そう思いながらノボリは駅員を観察する。何もしてないように思えたが―――。彼は、ふと駅員の口元が動いている気配を感じた。とても小さな声で聞き取れない。しかし、口の動きから"何かを唱えているのではないか"と推測した。
 刹那。ノボリはクダリを突き飛ばし、彼に覆いかぶさった。



「クダリッ!!」
「ノボリ?!」



 クダリは一瞬、自分が兄に何をされたのか分からなかった。その瞬間、目の前で兄が苦痛にあえぐ声を聞いた。ノボリに何が起きた。目の前でノボリは何をされた。理解が出来なかった。
 次にはっきりしてきたのは、ノボリが痛みに苦しむ表情だった。思わずトウコとメイの方向を見ると、ノボリが何をされたのか理解したのだろう。2人共焦燥した表情を見せていた。



「ノボリさんっ!!」
「トウコ。ノボリ、何かあったの?」
「なんか、なんか、えっと、えっと」
「しっかりしてください先輩っ!あの駅員さん、クダリさんにあやしいひかりみたいな黒い変な光を浴びせようとして…。ノボリさんが気付いて庇ったんです!」
「え」
「クダリ…。心配いりません、わたくし、は……っ!」
「そんな表情で言われても!説得力ない!」



 クダリに"心配しないでほしい"と声をかけるが、ノボリの表情はそれとは裏腹に苦しんでいるままだ。全くもって説得力がない。自分で立ち上がるのも億劫な痛みなのだろう。せめて支えようと彼の腕に触れると、ノボリの身体がおかしいことに気付いた。彼の身体が、氷のように冷たくなっているのだ。
 黒いコートで隠れているが、ノボリの頬にも黒い蔦のような模様が広がり始めていた。彼はクダリの目をしっかりと見て、"自分のことはいいからトウコとメイを守れ"と彼に指示をした。


 しかし、ノボリの言葉は間に合わなかった。告げたと同時に、メイの悲鳴が車両内に木霊する。声の方向を向いてみると、既にトウコが駅員に気絶させられていた。メイも何とか抵抗をしていたが、首の後ろに手刀を入れられ目の前で倒れた。クダリがノボリを支えているのをいいことに、駅員は彼女達を抱え来た車両を戻り始めたのだった。



「クダリ!……すぐにっ、トウコさ、まを…メイさま、を、追って、ください…!」
「でも!ノボリ、身体冷たくなってる!このままじゃ死んじゃう!」



 逃げ出した駅員をすぐに追うようにノボリはクダリに言った。しかし、ノボリの身体が冷たく鳴り続けており、更に蔦が頬を覆うように広がっている。ノボリの身体の様子がどんどんおかしくなっている為、クダリは動くことが出来ない。
 しかし、ノボリはありったけの声で彼に叫んだ。



「わたくしのことは構いません!行きなさい!!お客様を無事に改札まで送り届けるのも……サブウェイマスターの役目でしょう!!」
「……っ。ごめん、ノボリ!すぐ戻るから!待ってて!!」




 遂にクダリは支えていたノボリの肩から腕を離し、急いで先の車両に消えた駅員を追いかけ始めた。
 支えが無くなり、ノボリの身体は床に落ちる。クダリの足音を聞いて安心したのか、叫んだことで気力を使い果たしたのか。
 そのまま、彼は意識を手放したのだった。

次回予告 ( No.73 )
日時: 2022/04/02 22:45
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 自分は今どこの車両を走っているのか。気にする余裕もなく、クダリは走った。
 今あいつは何処にいるのだろう。ノボリが最後尾の車両でクダリを庇ってから結構な時間が経っていた。つまり、2人を連れ去った犯人に逃げる時間を許してしまったということになる。
 トウコもメイも、駅員に最大限抵抗をしていた。自分が駅員の微かな動きに気付いていれば。ノボリではなく、自分が攻撃を受けていれば。彼女達は連れ去られずに済んだのかもしれない。
 後悔ばかりがクダリの胸を支配する。しかし、立ち止まってなどはいられない。立ち止まった分だけ、相手に逃走の時間を与えてしまうことになるのだから。


 やっとの思いで最初の車両へとたどり着いた。しかし―――クダリが扉を開いて確認した光景に、探し求めているものは無かった。
 怪しい駅員の姿も。トウコも、メイも。何処にもいない。



「逃げられた」



 つい、ぼそりと口から零れるその言葉。頭に反響する。車両の出入口は閉まったままだ。窓が開いた気配もない。一体どうやってこの車両から脱出したのだろう。ぐるぐると考えが頭の中を支配するも、返ってくるのは"メイとトウコが拉致された"という事実だけだった。



「どうしよう。メイと、トウコ。いなくなっちゃった」



 いつも浮かべている笑みが消える。彼女達が目の前から消えて、何がスマイルだ。動くのが遅くなったから2人はあいつに連れ去られたんじゃないか。後悔と怒りが胸を支配した。
 そして…次に浮かんだのは苦しそうにあえぐノボリの姿だった。ノボリの身体は冷たくなっている。自分が支えていたから意識を保っていられただけで、もし自分がいなくなったせいで意識を失ってしまったらどうしよう。そして、双子の勘なのだろうか。彼は察知していた。"ノボリも危ない"ということに。



「ノボリ……!!」



 ―――白い車掌は、素早く方向転換。最後尾まで再び走り始めた。




































 ―――最終車両。意識を失い倒れたノボリの前に、駅員が再び現れた。人とは思えない雰囲気が車両を支配する。彼は嘲り笑うように、ノボリに広がっている蔦に触れる。蔦はまるで栄養を貰ったように、ノボリの身体を支配する速度を早めた。
 ノボリは気絶をしているものの、苦しそうな表情だった。今頃悪夢にうなされている頃だろう。駅員はふとそんなことを思った。



『庇わなければ自分が助かったのに。"お兄ちゃん"って、みんなこうなの?まぁ…庇っても庇わなくても、君も呪詛の餌食にすることは決めていたけどね』



 そう吐き捨てても何も返ってこない。駅員は滑稽だと笑う。その笑みは邪悪に満ちていた。
 彼はそのまま不気味な呪文を唱え、倒れているノボリの背後に黒い門を造った。まるで……以前サクヤ達を時の狭間に落とした穴と同じようなものを。門の先にはうねうねとした空間が広がっており、落ちたら最後どうなるか分からない。どこに繋がっているのかも分からない。
 そんな危ない場所に、駅員はノボリを落とそうとしていた。



『別の分身は呪詛をかけても、先にその世界の仲間に見つかって…狭間に落とすのを失敗したらしいが…僕はそんなヘマはしない』



 小さく呟き、ノボリを門の中に蹴り飛ばした。重力を失ったノボリの身体は、門の中に吸い込まれ―――消えた。
 同時に、クダリが背後に迫っていることに気付く。彼に悟られたら厄介だと駅員は舌打ちをする。



『もう戻って来たのか。双子の執念―――なのかな?ふふふ…でも、もう遅いよ。バラバラだ、君達は。さて…君達はどんな絶望を見せてくれるんだろうね?楽しく見届けさせてもらうよ』



 小さく呟いたと同時に、駅員も闇へと姿を消した。不気味な雰囲気も一瞬で消え去る。残ったのは、誰もいない、何もない、止まった車両だけだった。











 ―――駅員が姿を消してから1分後。クダリがノボリがいた最後尾の車両に戻ってきた。全力で走ってきた為、肩で息をしつつ車両を見る。しかし……彼の求めているものはなかった。



「え」



 なんで。どうして。喉まで出かかった言葉が詰まる。車両はもぬけの殻だった。ノボリは―――兄は、この車両からトウコ達を追うようにクダリに指示した筈だった。なのに、どうしていないのか。
 あの駅員に何かされたのか。どうして。なんで。混乱と後悔がクダリの頭をぐるぐると駆け巡った。大切な双子の片割れを。守らねばならない少女達を。クダリは一気に失ったのだ。


 その事実を悟り、膝をつく。腕に、足に力が入らない。絶望が彼を支配していた。瞳からはポロポロと涙が零れていた。留まるところを知らず、流れる涙は床に落ちた。



「メイ


 トウコ


 ノボリ


 どこ?どこに、いっちゃったの」



 言葉にすると共に、のしかかる後悔。悲しみ。苦しみ。涙が止まらない。笑顔も作れない。クダリは静まり返った車両の中で泣き崩れた。
 刹那。



 車両を"白"が覆う。彼の悲しみを溶かしていくように。
 苦しみを包み込むかのように。全て、消し去っていくかのように。



 白い光は一瞬でイッシュ地方全土を覆いつくした。その先の終着点は誰にも分からない。
 考える暇すらない。思考も。感情も。全て。呑み込まれるのだから―――。




NEXT⇒ Ep.02-2 【黒と白と翡翠の車掌】


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