二次創作小説(新・総合)

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繋がる世界と未来の物語【Ep.03-ex完結】
日時: 2022/10/12 22:13
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ―――これは、"全てを元に戻す"物語。
 それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。


 どうもです、灯焔です。
 新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
 サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
 この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
 また、オリジナルキャラクターも登場します。
 苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。


※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2


<目次>

Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17

Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148


※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54

Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111

Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151


※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163


<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150


最終更新日 2022/10/12

以上、よろしくお願いいたします。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.45 )
日時: 2022/03/06 22:01
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ナインボルトが自宅の扉を開くと、中から彼の名前を呼ぶ優しい声が聞こえてきた。
 今の方向からひょっこりと顔を出した茶髪の女性、彼女がナインボルトの母親なのだろう。ナインボルトは早速彼女の元へと駆けていき、現状を説明し始めた。



「おかあさん!街に出た奴らの解決に協力してくれるって人達がダイヤモンドシティまで来たんだ!外にいたら危険だし、しばらく家に入れてもいい?」
「あら、そうなの?ワリオちゃんもあんなになってしまったし…。街の為に協力してくれるなら良いわよ。ほら、上がって!」
「ありがとうございます、ナインボルト殿のお母上」
「そんなかしこまらなくていいわよ!わたしはファイブワット。ナインボルトのおかあさんよ♪ ほら、モナちゃんもジミーちゃんも上がって!」
「おじゃましまーす!」



 ナインボルトの話を受けて、ファイブワットは納得したのか快く玄関にいる一同を部屋まで案内した。
 彼女も街の異変について息子から聞いて、実際に変わり果てたワリオを確認している。その為、街に蔓延った物体の解決に協力してくれる人達なら"悪い人間ではない"と判断したのだろう。
 案内に従いリビングへと足を踏み入れると、そこには確かにゲーム機らしきものが並べられている。堂々と置いていることから、母親も相当なゲーマーなのだろうと一同は確信した。
 狭い家だけどくつろいでいってね、と一同をソファーに導いた後、ファイブワットは飲み物を取りにキッチンまで姿を消した。

 一同が椅子に腰を下ろした後、ナインボルトが早速街に蔓延るバグについて話を始めたのだった。



「さっきモナの話でもあったけど、ボクちん達が開発してた新作ゲームに吸い込まれたことがあってさ。ワリオのせいでゲームの中にバグが大量発生しちゃって。
 それをみんなで協力して退治したんだけど、今街の中で暴れてる奴もその『バグ』と同じ形をしてたんだよ!」
「退治出来たらいいんだけど、ここはゲームの中じゃないしなぁ…。あたしのブーメランも家に置いてきてるし、そもそもブーメランが通用するか分からないし…」
「わりおサンヲ何トカ出来レバイイノデスガ、近づけナイトお話ニナリマセンヨネ…」
「うん。それに、あのワリオもゲームの中で見たことがある奴だった。一番最後に倒した厄介な大バグがワリオに憑りついていた時と同じ姿をしてた!」



 3人の話をまとめるとこうだ。現在ワリオが『バグ』を現実世界にばら撒いており、そのせいでダイヤモンドシティがバグに浸食されている。その"バグ"自体は元々はゲームの中の存在であり、彼らは以前今暴れている存在と同じものを退治したことがあった。
 しかし、ここは現実世界である為ゲームで出来ていたことが出来ないのは当たり前である。そもそも、そんな危険な場所に一般人を巻き込むわけにはいかない。話を聞いて、刀剣男士達はそう結論付けていた。



「うーん…。ありとあらゆる世界が1つに融合している以上、通常ではあり得ない現象が起きるのも考えられる話ではありますが…」
「ボクも未だに信じられないと思ってるけど…。地図に載らない街が地図に載っちゃってるから信じるしかないんだYO」
「その『融合』ってやつのせいでバグも出てきちゃったのかな?」
「それとこれとは別問題ではないでしょうか。……しかし、げえむの中の存在であれば…。何か別の対策を取らねば解決に導くことが不可能であることは事実、ですな」
「ワリオちゃんが大変なことになってるのは、街の人大体が知ってるわ。だから、今は殆ど建物の中に避難しているの。触ったら危ないのはみんな分かっているから」



 一同の話に混じるようにファイブワットが飲み物を持って戻って来た。ここまで来て大分時間が過ぎていた為、乾いた喉に飲み物の有難さが身に染みる。
 それと同時に、彼女はスマホを取り出し撮った写真を見せた。ワリオが自宅の近くを徘徊した際、証拠を残しておけるようにと画像に残していたのだ。
 確認してみると、そこには確かに黄金に光った巨大なワリオの姿がある。像のようにおかしな体型を取っており、宙に浮いている為そこにいる誰しもが"普通ではない"と判断していた。彼からバグがまき散らされており、口が触れた場所が真っ黒になっているのも改めて確認が出来た。



「このままこいつを放置しておけば、建物を喰い始めるのも時間の問題だな。そしてこの街を食い荒らした後は…」
「橋を伝ってリレイン王国にも侵攻してくるでしょう。街が消滅してしまう前に何とかせねばなりません」
「……しかし、この黄金のワリオの現状を確認できなければ行動が起こせん」



 大典太はそこまで言って、考える仕草をした。ワリオを確認しに行かねばならないが、物の付喪神である自分達がバグに襲われないかと一瞬頭によぎったのだ。
 しかし、そうだからと言って彼らに行かせるのは良心が許さなかった。例え自分よりもこの街を知っていたとしても、得体の知れない存在に、普通の人間を巻き込むわけには行かなかった。
 ―――しばらく考えて、大典太は決断をした。"やはり確認をせねばならない。近付く必要がある"と。



「……あのワリオが今どこにいるか分かるか?」
「えっ?町中を徘徊してるから、多分海の方だと思うけど…。もしかして見に行くの?!危ないよ!」
「……だが、現状の被害やあいつがどうなっているか…実際に確認が出来ないと何も対策が取れない。それに……あんたが撮った写真からどれだけ被害が拡大しているか。速度が大きければ大きいほど、迅速に動かねばならない」
「大典太さん。僕も確認することは賛成ですが、僕達は街の右も左もわかりません。海の方向、と言っても素直に行けるわけではないでしょうに」
「……あくまで現状の確認だ。こちらにまで被害が及ぶ前に撤退する。対策も無しに、鉄砲玉みたいに突っ込むのは俺の性分じゃないんでな…」
「でも、この街広いから…。あなた達だけで大丈夫なのかしら?」



 状況確認がしたいから、ワリオがいる場所を教えてくれと大典太は頼んだ。しかし、モナに止められる。
 確かに彼女や前田の言う通り、街を把握していない上での行動は危険極まりない行動だった。だが、ここで動かねば何も分からない。じっと待っていても、ダイヤモンドシティが壊れていくのを見守ることしか出来ない。
 "動けるのに、何もしない" それが如何に許せない事かは、大典太の中で分かり切っていたことだった。
 あくまで確認、という言葉を強くして彼らを説得する。―――話が平行線を辿る中、ジミーが静かに声を上げた。



「状況確認、だったよね?なら…ボクがワリオのいる場所まで案内するYO」
「ジミーおじさま?!」
「前田クンの言う通り、君達だけじゃワリオを見つけられるか心配だ。でも…モナちゃんやナインボルトクンに案内を任せる訳には行かないじゃないか!確認だけなら大勢でぞろぞろ行かなくても良いだろう?なら、ここはボクに任せるんだYO!
 クールなダンスで油断を誘えるかもしれないからね!」
「案内の申し出は有難いのですが…。恐らく危険な任務になります。我々も少人数で確認に向かった方が良いでしょうね」
「……言い出しっぺが動かない訳にはいかないだろう。俺が行ってくる。あんた達はここで『おれも行く』 …………」
「おまえだけじゃ心配だからな。おれも行く」
「……見つけても斬るなよ。あんたが一番心配だ…」



 話し合いの結果、大典太と鬼丸がワリオの確認に。そして、ジミーがその案内を買って出ることになった。こちらに危険が生じたらすぐに戻ってくる。そして、ジミーの護衛が最優先だという条件をつけて向かうことになった。
 もし大典太の思惑通り、ワリオがまき散らしているバグの浸食のスピードが高かった場合…。ことを急がねば被害が拡大してしまう。これ以上話をしている暇はなかった。
 早速現場へ向かおうと玄関まで向かう一同についてくる白い影があった。



「……あんたは病み上がりなんだ。休んでいろよ」
「イイエ、ワタシモ行かせてクダサイ!わりおかんぱにーノ一員トシテ、事態ハ自分ノ目デ判断セネバナリマセン!病み上がりデモ関係アリマセン!」
「……そうか。俺の肩に乗っていろ。あんたの歩幅じゃ確実に遅れる」
「面目アリマセン…。デスガ、じみーサンノ言う通り、もなサンやないんぼるとサンニハ危ない目ニ遭ってホシクハナイノデス」
「……俺にとってはあんたも子供みたいに見えるがな」
「ワタシハ大人デス!今年デ2022歳デスヨ!」
「……俺よりも年上…?」
「ソンナニ驚かナイデクダサイ。傷ツキマス」
「……すまん」




 オービュロンが大典太の肩に座ったのを確認した後、先行して玄関から飛び出したジミーと鬼丸を追って大典太も走り始めた。
 ワリオがいるのは海の方向。まだ移動していないことを祈りながら、大典太達は現場へと急いだのだった。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.46 )
日時: 2022/03/07 22:04
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 声の漂う波間まで。ダイヤモンドシティの海辺はそう呼ばれている。
 その近辺までやって来た一同は、警戒しながらワリオの元まで足を進めていた。ジミー曰く、"一定時間である程度の場所を徘徊している"らしく、今の時間ならほぼ確実に海の方向にいる筈だと彼らに話をしていた。
 都会の景色が少しずつ小さくなり、心地よい潮風が吹き抜けてくる。もうすぐ海が見える。こんな状況でなければ、少しは気分が和らぐのだろうか。オービュロンを肩に乗せながら、大典太は無言で鬼丸の後をついて行った。



「……随分と端の方に進んでいるんだな」
「浮いていたけど、何だか足取りがふらふらしていたんだYO。多分、ワリオは正気じゃない気がするんだZE」
「不愉快な気配が近い。そろそろ見えるだろ」
「わりおサン…大丈夫ナンデショウカ」



 そのまま小道を歩いていると、木陰の向こうに巨大な影が見えた。尚も進もうとするジミーを一旦止め、近くにある建物の蔭へと身を潜める。木々はバグが食い荒らしており、身を隠すには危険すぎると判断した為だった。
 陰から見えたものをじっと確認する。見せてもらった写真よりも数倍大きな金色の物体が目に入って来た。間違いない、あれがワリオだと判別するのにそう時間はかからなかった。
 話の通り、ワリオは訳の分からない言葉を発しながら身体からバグをまき散らしている。地面に落とされたバグは、浸食するものを求め道端へと這い寄って行った。
 まだ幸いなのは、ワリオの徘徊するスピードが比較的遅いということだった。しかし、既にバグは町中にばら撒かれてしまっている。このまま放置してしまえば明日には街の半分が真っ黒になってしまうだろうと大典太は判断していた。



「わりおサン…見ないウチニトンデモナイ姿ニナッテシマッテマス…」
「こんなワリオ、ゲームの中でしか見たことないYO!本当に何があったんだ」
「………チッ」
「…………」



 痛々しいワリオの姿を見て落ち込むオービュロンとジミーを横目に、大典太と鬼丸は揃って眉をしかめていた。
 ワリオから感じる霊力が覚えのあるものだったことに気付いたからだった。鬼丸が思わず舌打ちをすると、大典太は呆れたようにため息を吐いた。そんな彼の反応も気に入らなかったのか、鬼丸は大典太に刺々しい言葉を返す。



「邪神ならさっさと斬ればいい話じゃないか」
「……あいつ自身が邪神じゃない。斬ろうとするなよ…」
「アノ…。何カ分かったンデスカ?」
「……あぁ。ワリオは悪い霊に身体を乗っ取られている。―――邪神は一体何をしたいんだ…」
「エッ」
「ワリオは不死身なんだYO!それを利用したってのかい…?」
「そこまでは知らん。だが、あの男が悪霊に狙われて何かされたのは確定した。……おれ達刀剣男士だけでは飽き足らず、人間にも邪気を注いでいるのかあいつは」
「刀剣男士、ダケデハナイ?モシカシテ、わりおサンヲアンナ風ニシタ犯人ヲ知ってイルノデスカ?」
「……知ってるよ。散々世話にもなってる。……俺達は、今ワリオをこんな風にした奴の足取りを追っているんだ」
「そうだったのか…」



 ワリオから発せられていたバグ、そして霊力の正体。アンラの霊力と殆ど同じものだった。つまり、ワリオがこんなことになってしまった原因はアンラだったのだ。刀剣男士だけではなく、人間にまで被害が及んでいることに憤慨し再び鬼丸は舌打ちをした。そんな彼を宥めながら、大典太は自分の推測を2人に話した。アンラが絡んでいるのであれば、自分達が協力できるということも。



「……呪詛を受けているのであれば、あいつから呪詛を取り除けば『ばぐ』とやらも解決できそうだ。一々ばぐ退治とやらをしなくても済む」
「おれも、以前あいつと同じような呪いをこの身に受けていたことがある。……だが、おれとあいつは違う存在だ。不死身だとはいえ人間だろう。呪詛が回り切る速度は天と地の差だと思うがな」
「ってことは、ワリオがバグをまき散らすスピードが遅くても…早くワリオを元に戻さなきゃ危ないってことだよね?ど、どうすればワリオを元に戻せるんだい?!」
「……慌てないでくれ。原因が分かったなら対処のしようもある」



 ワリオの身が危ないと気付いたジミーは途端に焦り始めた。彼とワリオは幼馴染の間柄だ。心配するのも当然だろう。
 大典太はそんな彼を落ち着かせるように諭す。そして、彼を助ける為持論を一同に話し始めたのだった。



「……恐らく悪霊はワリオの自我も暴走させて失わせている可能性が高い。動いていないのなら俺の霊力だけでも何とかなるが、暴れているのであれば……あいつ自身の"心"を取り戻させる必要がある。
 無理やり邪気だけを剥がしても、そいつの自我が正しく戻らねば意味がない」
「ツマリ、わりおサンヲ元ニ戻した上デ悪霊退治ヲ行えバ、ばぐモミンナ消える、トイウコトデスネ!」
「悪霊を取り除くのはキミ達にお願いするとして…。ワリオを正気に戻すのならば任せてくれ!カンパニー総出で考えれば、案の1つや2つ出てくるさ!今までだってそうしてゲームを開発してきたからね!」
「餅は餅屋、か。……なら、さっさとそのかんぱにーの仲間とやらを呼んだ方がいいんじゃないのか」
「勿論さ!オービュロンクン、モナちゃんに電話するからそこ見張っててYO~!」
「合点承知ノ助デス!」



 恐らくやり方はおそ松と一緒だと大典太は確信していた。ワリオ自身の心を目覚めさせ、彼を正気に戻す。そして、悪霊が彼の中から出ていったところを大典太の霊力で潰してしまえばいい。
 おそ松の時は丁度兄弟が近くにいたから彼らに頼んだ。同じように辿るならば―――。目の前のワリオカンパニーの面々に頼んだ方が良いのは百も承知だった。


 解決方法はみんなで考えればすぐに分かる、とジミーは早速モナに電話をした。モナからカンパニーの仲間全員に手分けして連絡をする寸断だった。待ち合わせは勿論、彼らのゲーム開発拠点である"ワリオカンパニー"である。
 彼が電話をしている間に、オービュロンは大典太と鬼丸にカンパニーの場所を教えていた。先程バグワリオを見たら、もうすぐ移動を始める動きをしていたから建物の中に行った方がいい、と。ならばカンパニーで合流し、ワリオ救出作戦を考えようと考えていたのだった。
 オービュロンから場所を聞いた後、ジミーの連絡が終わるまでの間大典太と鬼丸は考えを共有することにした。



「もしかしたら、被害が及んでいるのはあいつだけじゃないのかもな」
「……そうだな。俺達の知り得ない場所―――。最悪、融合を逃れた世界にまで手が伸びているかもしれん」
「そこまでの話じゃない。そこまで考えたらきりがないだろうが」
「……いひゃい。頬をつねるな」
「良い目覚ましにはなったろ。おまえは唯でさえ陰気なんだからな」
「……あんたも陰気の癖に」
「おまえよりは陽気だ」
「どうだかな…」
「喧嘩ハ駄目デスヨ!メッ!」
「……喧嘩じゃない。軽口を叩き合っているだけだ」
「エッ」



 鬼丸が気が晴れたとでもいうようにつねっていた大典太の頬から指を話す。それと同時に、大典太達を呼ぶジミーの声が聞こえた。どうやら全員に連絡が終わったらしい。
 ワリオの方向を向いてみると、彼が方向転換をしているのが分かった。今は見つかっていないが、近付かれたら気付かれる恐れがある。一刻も早くこの場から退散しなければならない状況だった。



「みんなカンパニーに来るように連絡してあるYO!ボク達も急ごう!」




 ジミーの声を合図に、一同はワリオカンパニーへの移動を始めたのだった。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.47 )
日時: 2022/03/08 22:06
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 大きなWのマークが目立つ倉庫のような会社。そこがワリオカンパニーだった。人気ゲームを次々と世に送り出している割には小ぢんまりとした会社だと二振は思うものの、恐らく既に集まっているカンパニーの社員がいる筈だと気持ちを切り替える。
 ジミーの案内に従い、一同は会社の中へと突入する。そこには彼らの思惑通り、既に何人かの人影があった。その中にいた黒髪の青年がこちらに気付き、挨拶をしてきた。



「オッス!ジミーさん、ワリオさんが大変だということで来ました!」
「クリケットクン!ありがとう!みんなも!」
「事情はぜーんぶモナはんから聞いてます。ワリオはん元に戻す為、わてらも協力いたしまっせ!」
「何が起こったかは知らへんが、わしらの全力見せたるで」



 オービュロンも大典太の肩から飛び降り、一同に合流する。二振は彼らの邪魔にならないように空いているスペースへと移動した。
 歩いている間、見たことのない人を中に入れていると一部の社員がこちらをじっと見つめている。ただでさえ高身長、片方は陰気な雰囲気を纏っており、もう片方は鬼の角を生やしている。これでは不思議がられても仕方がない。
 いたたまれなかったのか、鬼丸は大典太の影に隠れるようにして姿を隠した。だが、大典太からしてみれば全くもって隠れられていなかった。小さくため息を漏らすと、鬼丸は何故か不貞腐れた。



「隠れてナクテモ大丈夫デスヨ!皆サン良い人達デスカラ!」
「……まぁ、普段来ない奴が来れば奇異の目で見られることは分かっているが。あまり人混みは得意じゃないんだ…俺も、鬼丸も」
「チョットイレバ皆慣レマス!わりおかんぱにーノ面々はドンナ不思議ナ事モ慣れっコデスノデ!」
「それはそれでどうなんだ」



 こちらにてくてくと歩いてきたオービュロンと話をしている矢先、入口から駆けてくる姿が見て取れた。ナインボルトの家に待機していたモナ達が会社に到着したのだった。勿論、連絡を受けて数珠丸達も彼らと一緒に行動している。
 モナ達社員はカンパニーの面々に挨拶へ。刀剣男士は一同に軽く頭を下げた後、大典太と鬼丸に合流した。



「お待たせして申し訳ありません。ワリオ殿がおかしくなった原因が、邪神にあることも把握いたしております」
「我々だけではないのが辛いところですね…。世界中に分身をばら撒いている…ということは、彼の他にも被害者がいるのかもしれません」
「……俺も考えたが、鬼丸に"きりがない"と止められてな。今は目の前の問題を解決する方が先、だと…。だが、俺達が異世界に飛ばされている間にこんなことになっていようとは…」
「見えないものまで止められるわけがないだろう。まずは目に見えている邪気を取り除く。それでいいだろ」
「鬼丸殿の真っすぐな物言いに今は助けられますね。可能性はありますが、まずはワリオ殿です」



 お互いに状況を整理し終わった後、ファイブワットが人数を確認し始めた。今いるカンパニーの人数を数え、ワリオを除いた社員の数と照らし合わせる。彼女は暫く唸った後、まだ来ていないであろう人物の名前を挙げた。
 来ていないのは3人。クライゴア一家がまだ到着していなかった。



「後はクライゴアさん達だけね」
「彼らの事です。何か準備をしているんじゃないですか?」
「それにちてもおそいよ!なにやってるんだろうね、アナ?」
「ワリオはこわいけど…あたち、まちがこわれるのはもっとこわい!」



 とにかく、ワリオ以外の社員が揃わないと作戦も立てられない。先ずは彼らの到着を待つことにした。
 彼らの指示に従い、刀剣男士達もカンパニーの中で待機させてもらうことになった。そんな矢先、大典太の腰辺りが小さく震動した。ポケットに仕舞ってあったスマートフォンが震えていたのだ。
 早速取り出し通信を確認する。ビデオ電話のボタンに触れると、そこに現れたのは主であるサクヤの姿だった。



『急にご連絡申し訳ありません。大変なことになっているようですね』
「……あぁ。実は…」
『ご報告はなさらなくても大丈夫ですよ。そのスマートフォンから大体の事情は把握しておりますので』
「おれ達の行動が筒抜けということか」
「……そうなのか?主」
『そういう意味ではありません。光世さんに渡したそれは、いわばゼウス様の力の残骸と言えるべきものです。スマートフォンの形状をしているだけで、実質的には神の力を持ち歩いているようなものです』
「主君。我々はこれからワリオ殿をお助けする為、街の皆さんに協力する予定です。町長殿にもそうお伝えいただければと思います」
『はい。承知いたしました。それと…ラルゴさんから伝言を預かっています。
 "出来るだけワリオカンパニーの皆さんに恩を売っておけ"だそうです。今後の交渉に有利になるとか仰っていましたが…何なんでしょうか?』
「ちゃっかりしていますな、あの町長…」
「長なんてみんなそんなもんだろうが」
「まぁまぁ…。恩を売る売らない関係なく、この街の方々とは僕も仲良くしたいですし。それに…。リレイン城下町と地続きになってしまったこともありますし、事件が解決したら協定の流れに入るのは間違いないでしょうからね」
「……前田も言ったが、俺達も出来る限り力を貸す。あいつが狂ったのが邪神のせいだということが分かったんだからな…。対処を早くせねば、ワリオ共々この街が崩れ去ることになる」
『その回答を聞けて安心いたしました』



 サクヤの安心したような声を聴いた一同。そして、彼女はワリオの現状について改めて説明を始めた。
 ワリオの現在の状況はあまり芳しいものではないということ。そして、刀剣男士とカンパニーの社員、双方が連携し協力しなければワリオは戻ってこないだろうということを。
 主から現状を聞いた大典太は、一刻も早くワリオの邪気を取り除くために動かねばならないと気持ちを改めたのだった。



『皆さん、頼みましたよ。吉報をお待ちしております』
「はい。期待して待っていてくださいね、主君!」



 前田の返事を最後に、サクヤからの通信が途切れた。スマートフォンには黒い画面しか映っていない。
 大典太は再びズボンのポケットにスマホを仕舞い直し、社員の方に向き直る。タイミングを見計らったようにモナが話しかけてきた。彼らが連絡を取り終えるのを待っていたらしい。



「連絡終わった?」
「……すまない。今しがた終わったところだ。そちらは全員揃ったのか?」
「大丈夫デス!デモ…くらいごあサンハマダ到着シテイマセンネ」
「遅いわね…。何してんのよあいつ。クリケットさまを待たせないで!」
「きっと何か大掛かりな仕掛けを持ってくるたい!もうちょっと待つとよ!」
「では、改めまして。我々刀剣男士は、ワリオカンパニー社員の皆様と協定を結ぶことを約束します。双方の力を合わせて、必ずワリオ殿を救出いたしましょう」
「わーい!みんなが手を貸してくれるなら百人力だね!だって刀持ってるんだもん!カットやアナみたいに強いんでしょ?」
「ほんとうだ!あたちたちおそろいだね!」
「あたちもがんばる!いっちょにがんばろうね、おさむらいさん!」
「お侍さん…。まぁ間違ってはいませんね」



 数珠丸が改めてカンパニーの社員と協力することを口にすると、彼らは各々喜びの表情を見せた。結果的には自分達が世話になっている街の為とはいえ、彼らの悲しむ表情は見たくない。それが彼らの最終的な答えだった。
 お互いに握手を交わし、クライゴアと呼ばれる人物達を待つ。しばらくしないうちに、遂に入口から走ってくる足音が聞こえたのだった。









『遅れてすまない!色々事件解決の為の荷物を持ってきていたら遅くなってしまった!』
「……おそい」



 待ちくたびれたのか、現れた人影を見てアシュリーが舌打ちをする。そんな彼女をレッドは必死に宥めていた。
 現れたのは、黄色い全身スーツのようなものを身に着けている老人。そして三つ編みが特徴的な少女と真っ青なロボットの2人と1体だった。彼らが各々反応を見せている当たり、彼が名前を出していた"クライゴア"なのだろう。


 時間はかかったが、ようやくワリオ以外のカンパニー社員全員が揃った。ここから、ワリオ救出の為の第一歩が幕を開けるのだった。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.48 )
日時: 2022/03/09 22:10
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

「クライゴアおじさまったら遅かったね!何か準備していたの?」
「遅れたことに関しては本当にすまない。こいつを運んでいたら遅くなってしまってね」



 一部の懐疑的な目に頭を下げつつ、クライゴアは合流に遅れた理由を説明し始めた。ジミーから連絡を貰った際、もしかしたら自分の発明品が事件解決に役立つのではないかとトランクに詰めてから会社に向かっていたのだった。
 クライゴアはマイクとペニーに、転がしてきた大きなトランクの中身を開けるように指示した。2人がトランクの中を開けると、そこには掃除用具のような道具が相当数入っていた。
 何故に掃除用具なのか。疑問に思ったスピッツが口を開いた。



「何や?これ。掃除用具みたいに見えるんやけど…」
「ご明察ですよスピッツさん!こんなこともあろうかと、実はおじいちゃんと開発を進めていた物がありまして。つい先程完成したのでトランクに詰めて持ってきたんですよ!
 名付けて……『お掃除ピカピカロボット』です!」



 そう言って、ペニーはトランクの中からモップのような道具を取り出した。
 ペニー曰く、この道具は発明品自体に特殊な加工を施しており、この道具群から水を噴射することが出来るという代物らしい。噴射する水には特殊な電気を纏った状態の為、水がバグに触れた瞬間に水と電気に分解して消滅する仕組みだと彼女は説明した。
 あまりにも現実離れした説明についていけない刀剣男士をよそに、ワリオカンパニーの社員は"いつものこと"とクライゴアの発明品を興味深そうに見ていたのだった。



「この発明品を使い、街のバグ退治を始めよう。そして、全方向からワリオクンに近付き噴射だ!その隙を狙って彼らにワリオクンの呪いを解いてもらうという寸法だぞ!」
「……何かしら攻撃を受ければ、あいつに取り憑いている邪気自体が外に飛び出る。その隙に、俺の霊力で消滅させればいいということだな」
「おそ松殿を助けた時と一緒ですね!」



 大典太は前田の発言を受け、確かにそうだと頭の中でおそ松の事件を思い出す。
 彼の邪気を弟達と協力して取り除いた時も、おそ松の正気を取り戻してからカラ松が憑りついていた元凶を殴って消滅させた。クライゴアの言っている"作戦"も、結論からしてしまえば同じようなものだ。
 だとするなら。今のワリオは空中に浮かんでいる為、浮遊することが出来ない大典太では霊力をぶつけることは難しい。空襲が必要不可欠だと結論をつけ、オービュロンの方に向き直った。



「……おい、あんた」
「何デショウカ?」
「……ワリオは浮かんでいる。仮にあいつらがワリオと邪気を切り離したとして、俺は空中に待機が出来ない。あんた、宇宙人なんだろう?なら浮遊とか出来るんじゃないか?」
「確かニ最近会得シマシタガ…。ワタシニ何カヤッテホシイコトガアルノデショウカ?」
「……このお守りをあんたに渡す。投げれば、俺が触れた時と同じようになるだろうな」



 大典太はそう言って、自らの霊力で小さなお守りを作りオービュロンに渡した。そして、空中浮遊が出来る彼に邪気に向かって投げてほしいと頼んだのだった。
 オービュロンはいきなり責任重大な頼みごとをされ、無意識に震えている。クライゴアの言葉からも、一番大事な仕事。失敗すれば、二度とワリオは戻ってこないことを意味していた。
 だが、大典太は真っすぐとオービュロンを見ていた。彼にだから出来ることと信頼して、このお守りを自分に渡してきたのだ。彼なりの気持ちの表れに、オービュロンは無下に返事を返す訳にはいかなかった。
 それに、大典太達には命を助けられた恩もあった。右も左も分からず、自分のせいで建物が一部壊れてしまったのに優しく接してくれたのだ。彼らの頼みを断るような理由は、既にオービュロンの中からは消え去っていた。



「―――ワカリマシタ。最大限ノ努力ヲシマス」
「……そうか。そう言ってくれて助かる。ありがとう」
「呪詛の解呪の方針も決まったようですので、我々も『お掃除ぴかぴかろぼっと』を借りて共にばぐ退治の協力をいたしましょう」
「既にバグは町中にあります。人手は多い方がいいですもんね!」
「あ。そのことなんだけど…。ボクからキミ達に、別に頼みたいことがあるんだYO」



 ワリオ救出作戦の方針が決まり、各々好きなお掃除グッズを手に取り気合を入れている。そんな様子を見守りながら、数珠丸達も彼らに加勢してバグ退治をしようという結論になった。
 しかし、ジミーがその決定に待ったをかけた。どうしても彼らに頼みたいことがある、とそのまま彼は言葉を続けた。



「頼みごと?なんだ」
「皆には言えないからこっそり伝えるYO。実は……」



 鬼丸、数珠丸、小狐丸に小さな声で耳打ちをする。何を言っているのかは周りには全く聞こえなかった為、本当に聞かれたくない内容なのだろう。
 彼の言葉を受けた一同は、しばし沈黙した後に一度頷いた。彼の考えが理解できたという証拠だった。



「……奇をてらうということであれば、お力添えいたしましょう」
「地図も何もないですが、場所を記憶しておかねばなりませんね」
「そんなに遠くない場所だった。三振もいれば迷うことはないだろ。最悪霊力を辿ればいい」
「鬼丸殿…」
「ありがとう!用事が終わったら会社に戻っててほしいんだYO!いくら戦える人達とはいえど、あまり傷付くような姿は見たくないからね!」
「お心遣い感謝いたします」



 大典太はオービュロンに説明を続けていた為、向こうでジミー達が何を話しているのかまでは聞き取れなかった。しかし、彼らのことだ。必ず成功させてくれるという確信が大典太の中にはあった。
 前田は大典太のサポートをする為に、彼と共に行動をする決意を固めた。



「さぁ、ワリオおじさま救出大作戦!みんなが充分散らばったタイミングでスタートだよ!」
「師匠!修行の成果をここで見せてやります!見ててくださいね!」
「ワリオなんか助ける義理も無いけど、借りを作っておくことには越したことはないわね!後でおやつを寄越しなさいって言えるもの!」
「……いつものイライラ ここで発散できるかしら…」
「アシュリーちゃん、これは鬱憤を発散する作業じゃないからね…?」
「とにかく!まずはワリオに気付かれる前に街に散らばろう!街の端っこに駐車場があるから、そこに追い込むようにバグ退治をすればいいんだよね?よーし、ゲームで鍛えた射撃の腕、見せてやるー!」
「オレっちも気合入って来たばい!」
「それじゃ、一旦会社から退散するYO~!後はよろしくね、オービュロンクン!」
「オマカセクダサイ!皆サン、イッテラッシャ~イ!」




 ジミーの声を皮切りに、オービュロン、大典太、前田以外の全員が会社から次々に姿を消した。皆、ワリオを救う為全霊をかけて動いている。数珠丸達も彼らが出たタイミングを捉え、ジミーの頼み事を完遂させる為行動を開始したのだった。
 そんな彼らの背中を見て、オービュロンも覚悟を決める。"ワリオを助ける" 必ずやり遂げて見せる、と。

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 ( No.49 )
日時: 2022/03/10 23:12
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

『みんな、準備はいいかーい?!』



 ジミーの声がカンパニーの社員に伝わる。彼の声が作戦開始の合図だった。



『それじゃ……行くYO!!!』











 待ってましたと言わんばかりに散らばっていた社員が行動を開始する。近くにいたバグに容赦なくお掃除ピカピカロボットの水による一撃を浴びせ始めた。
 クライゴアの説明通り、水がかかったバグは一瞬にして光の粒となって消える。それと同時に、食い荒らされて真っ黒になっていた場所が元に戻るのが分かった。バグを倒せば町は元通りになる。信じていたものが現実となったことに彼らは計り知れない喜びを感じていた。



「ばっちりですね!予想通りです!この調子でバグ退治を続けましょう!」
「おじさまを取り囲むのも忘れちゃ駄目だからねー!」
「どんどん行こうYO!」



 ワリオカンパニーの尽力によって、少しずつ街が元通りになっていく。黒く染まっていた場所が、色づいて行く。"お掃除"と称したのはあながち間違いでもないのかもしれない。クライゴアは発明品を動かしながらふと頭の中で考えていた。
 そして、浮いているバグワリオを駐車場の方向へと誘い込む。



「クリケットよ。普段の修行を思い出して実践するのじゃ!」
「はい師匠!これも修行の一環ですね!ハイヤッ!」
「……レッド あれ 1個持ち帰りたい」
「駄目やて!放置したら街が真っ黒になるのアシュリーも見たやろ!流石に危険すぎるわ!」
「……チッ」
「舌打ちしても駄目なモンはダ~メ~や~!」




「ふっふ~ん!いつもワリオに意地悪されている分をぜーんぶ纏めてお返ししてあげるんだから!待ってなさいワリオー!」
「普段発明品を壊されている分もお見舞いしてやろうかのう」
「クライゴア ソレハ 八ツ当タリデス」
「これに懲りたらちゃんと教習受けてほしいですわ…。なぁ、スピッツはん」
「この前のマリオカートの大会も見てたけど、相変わらず荒々しい走り方してたなぁ。注意せなあかん!」




「しゅりけんあてるみたいでたのちいね、アナ!」
「うん!おわったらクライゴアどの、このおもちゃかしてくれないかちら?」
「スターフォックスで培った射撃のスキルでちょちょいのちょいだよ~!へっへ~ん、楽勝だい!」
「こっちも粗方終わったとよ!今度シューティングゲームで遊びたいばい!」
「油断しちゃ駄目よ?何が起こるか分からないんだから…」
「……とか言って、おかあさんが一番楽しんでるよね?」
「そうかしら?真面目にやってるつもりなのだけれど…。いつもやっているシューティングゲームに似てるから、つい…」
「ほら~!」



 一部は楽しんでやっていたり、ゲーム感覚でバグ退治をしていたり、普段の鬱憤を晴らすようにバグ退治を続ける社員もいた。むしろ真面目にやっている人物が数える程しかいないが、気にしてはいけない。これがワリオカンパニーの"普通"なのだ。










 その様子をスマートフォン越しに見ていたのが大典太達だった。会社に残り、バグワリオを追い詰めるタイミングを見計らっていた。



「皆サン、頑張ってイルヨウデスネ…。ワタシガ加勢出来ないノガ心苦しいデス」
「連携しつつ、ワリオ殿を駐車場まで追い詰めています。これなら逃げられる心配もなさそうですね!」
「……やはり、"ばぐ"が消えれば町は元通りに戻るのか。戻らなかったらどうしようかと内心焦っていた…」
「大典太さん。こんな時くらいは後ろ向きに考えるのを辞めましょう!折角皆さんで協力しているんですから」
「デスガ、不安ニ思う気持ちハ分かりマス。ワタシモ…ソウ思ってマシタカラ」



 画面越しに皆の活躍を見守りながら、オービュロンは自分がその場にいないことに内心心を痛めた。大典太から重要な任務を任されたのだから仕方ないのだが、こうして皆に体力を使う行動を強いていると感じてしまい、思わず声色も弱くなってしまう。
 そんな彼の背中を大典太は優しくぽんぽんと叩いた。彼の真面目さと素直さは、短い間一緒に過ごしただけだが充分によくわかっていた。だからこそ、こんなに心を痛めているのだと。姿かたちは宇宙人だが、その誰よりも純粋な心を持っているのが彼だった。

 ワリオが駐車場に到着するまであと5分程だろう。大典太はオービュロンに、この会社に屋上のようなものはないか尋ねた。何を考えているのかは知らないが、屋上の方が都合がいいと彼が答えると、オービュロンは急いで屋上の扉を開ける鍵を取りに行った。



「大典太さん。あのワリオ殿も抵抗を続けているようです」
「……そりゃあそうだろう。自身が消滅の危機にあるなら猶更、な…。それは、人間でもそうでなくても皆同じだ」
「敵ニ同情スルト足元ヲ掬わレテシマイマスヨ!鍵ヲ持ってキマシタ。屋上ニ行きマスカ?」
「……いつでも準備は出来ていた方がいい。行こう」



 画面の中のバグワリオは、今なお奇怪な声を発しながらバグをまき散らしていた。二振で他愛のない話を繰り広げていると、背後からツッコミ混じりの高い声が聞こえた。
 ちゃり、とオービュロンは持ってきた鍵を見せる。確かに目で確認した二振は、オービュロンの案内で屋上へと急ぐのだった。










 ダイヤモンドシティでは、バグワリオがもうすぐ駐車場に到着するというところまで来ていた。彼との距離も測りながら、社員は彼からまき散らされたバグに水を噴射して消滅させていく。
 街にあるバグは粗方取り除いた。後は彼だけだ。だからこそ、油断してはならなかった。



「よーし!もう少しで追い詰められるよー!」
「でも、なんか攻撃が激しくなってるとよ!当たったら大変ばい!」



 そう言いながら、エイティーンボルトは自分に向かって飛んできたバグを避けた。地面に落ちた場所から黒ずんでいき、街が消滅するのを確認する。これがもし生身の身体に当たったら、身もふたもないことになってしまうのは明白だった。
 弾丸を当てるように落ちたバグに水をかけ、元のコンクリートに戻す。バグ退治は最終局面へと移ろうとしていた。



「駐車場に到着だYO~!みんな、気を付けて!」



 逃げるところが無くなったのに気付いたのか、バグワリオは構えている社員に向き直る。その表情は怒っているように見えた。
 額に汗が伝い、一瞬の隙も許さない状況。油断を見せた方が負ける。双方それは充分に分かっていた。
 ―――そんな中。不意にジミーが行動を起こした。



「そろそろいい感じだね!それじゃ……準備はいいかい?ボクは出来てるYO!」



 ジミーはその場にふさわしくない明るい声で叫びながら、自分の持っているスマートフォンに向かって指パッチンをした。
 その、矢先であった。

































「えっ?えっ?何、何ーーー?!」
「町中のスピーカーから音楽が流れてる!」



 突如、電柱に取り付けられているスピーカーというスピーカーから音楽が流れ始めた。一瞬でダイヤモンドシティはソウルな音に包まれる。突拍子の無い出来事に、流石に社員もバグワリオも驚いていた。
 しかし、ジミーはそのまま天に指を掲げた。そう、これは彼のお決まりのポーズだった。



『ノリノリで行くYO~!』



 彼が発したその言葉で、社員はジミーが何を考えているのかを一瞬で理解した。彼はダンサーだ。そして、現在流れている音楽に乗って踊り始めようとしている。つまり、自分達も一緒に踊ればいいのだと。
 常識的に考えればあり得ない話なのだが、ここはダイヤモンドシティである。"ナンデモアリ"が許される街。それがここ、ダイヤモンドシティなのだ。
 ジミーの動きに合わせて、それぞれ得意なダンスを踊り始めた。エイティーンボルトに至ってはどこから取り出したのか、マイクを手に持ちラップも披露し始めている。あのアシュリーですら流れに乗って、素直に踊っていた。



「ワリオおじさまもダンスのソウルには逆らえない。それを逆手に取ったって訳ね!ジミーおじさま、やるぅ~!」



 当のバグワリオも踊り始めている。時折抵抗するような動きを見せていたが、彼もまた"ワリオカンパニー"の一員だった。






 その頃。放送局では、数珠丸達刀剣男士が町中に音楽が鳴り響いているところを確認していた。



「音楽が流れ始めましたが…。これで良いのですよね」
「おれ達への頼みが"放送局に向かって、この"すまーとふぉん"とやらから指を鳴らす音が聞こえたらレバーを上げてくれということだったとはな。何を考えているかは全くわからんが、上手くやってくれるといいがな」
「餅は餅屋。彼らの手助けをすることが、我々の今できる最善策です」



 そう。鳴らしたのは彼らだった。それもその筈。ジミーからの依頼が"タイミングを見計らって町中に音楽を流してほしい"というものだったからだ。同時に彼の予備のスマートフォンも受け取っており、現在はそこに入っている音楽を流している状態だった。
 慣れない機械を操作したことで疲労が溜まっているが、やれることはやった。後は社員が上手くやってくれるのを祈っていた。






 バグワリオもいつの間にかノリノリで一緒に踊ってしまっており、駐車場の空気はガラリと一変していた。
 それと同時に、バグワリオにも変化が起こっていた。憑りついていた呪詛の元が混乱したのか、彼の身体から逃げ出すように飛び出たのだ。
 ナインボルトが呪詛をしっかりとその目で捉えていた。飛び出た呪詛は、かつて自分達が退治した"大バグ"に瓜二つだった。



「みんなー!!!ワリオからおっきなバグが出たよーーー!!!あいつがワリオに憑りついてた元凶かも!!!」
「ナイスだナインボルトクン!逃がさんように包囲してバグ退治じゃ!!!」



 クライゴアの声を皮切りに、踊っていた社員は一斉に大バグとバグワリオに向かって水を発射した。勢いよく放たれた水は双方にしっかりと当たっていた。
 ……だが、大バグにダメージがあまり入っていないように見えた。やはり、小さなバグとは認識が違うのか。しかし、ここで噴射を辞めてしまったら大バグを取り逃がしてしまう。ワリオは助かっても、ダイヤモンドシティが大変なことになってしまう可能性がある。辞めるわけには行かなかった。



「いつまでつづくのー?!」
「あたち、つかれてきた……」
「もうちょっとの辛抱よ。オービュロンちゃん達を信じましょ!」




 後は、足止めしている大バグにオービュロンが止めを刺せば全てが終わる。
 そう信じ、社員は水の噴射を続けたのだった。


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