二次創作小説(新・総合)

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繋がる世界と未来の物語【Ep.03-ex完結】
日時: 2022/10/12 22:13
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ―――これは、"全てを元に戻す"物語。
 それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。


 どうもです、灯焔です。
 新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
 サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
 この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
 また、オリジナルキャラクターも登場します。
 苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。


※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2


<目次>

Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17

Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148


※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54

Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111

Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151


※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163


<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150


最終更新日 2022/10/12

以上、よろしくお願いいたします。

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 ( No.140 )
日時: 2022/06/12 22:24
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ビルに入ったネズと大典太は、早速目の前にある真新しいエレベーターに乗って指定された15階を目指すことにした。寂れていない分厚い扉が開かれ、1人と一振を呑み込むように迎え入れた。
 しばしの沈黙が続く。彼らの耳には静かに上昇を続けるエレベーターの機械的な音だけが入っていた。


 チーン、という音と共に、目の前で閉まっていた扉が開く。目的の階に辿り着いた彼らを待ち受けていたのは、大典太にとっては見覚えのある金髪の男性と少女だった。
 思わず目を見開くと、こちらに向かって背中を向けていた2人が自分達の方を向く。そして、黒髪の大男の姿を瞳に捉え、金髪の男性―――"ルーク"が動いた。



「あっ!お久しぶりです大典太さん!」
「……まさかこの場所であんた達と鉢合うとはな…」



 ネズ達がエレベーターから降りたのを確認し、ルークと少女―――"スイ"は彼らの元へ近付いた。大典太のことを知っている素振りにネズは思わず首を傾げた。彼らはリレイン王国には顔を出していなかった筈なのに、何故互いに知り合いだという表現をしているのか。
 彼の動きに大典太は気付き、ルークとスイの紹介を自分なりに始めた。ネズがこの世界で目を覚ます前、リレイン王国を取り戻す為に互いに協力をしあった関係だと。


 大典太の紹介に合わせ、ルークとスイも自己紹介を始めた。彼らが丁寧に自己紹介を始めた為、それに反応するようにネズも自分のことを話した。彼の自己紹介が終わったと同時に、ルークは目の前のツートンカラーの髪の男が何者かを理解し、目を見開いた。



「"ネズ"…? どこかで聞いたような……って、あーっ!あの、"哀愁のネズ"?! とんでもない有名人じゃないですか!まさかご本人と出会えるとは…!」
「おれの歌がどこまで広がっているんだか。評価してくれるのは嬉しいですがね」
「……まぁ、こいつらが滞在している島も娯楽の島だ。あんたの歌の噂が流れることはおかしいことじゃないさ…」



 ルークが自分の歌を知ってくれていることには感謝したものの、ネズはこの世界で目を覚ましてから数か月しか経っていない。確かにその間に新曲も出したりはしたが、まだまだ交通の便に乏しい王国では評判を聞くことが難しかったのだ。
 自分の歌が世界中で流行り始めていることに、嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な気持ちを抱いていたネズなのであった。


 そのまましばらく話を続けていると、ふとスイが口を開く。ネズがどうしてここまで来たのかを知りたがっていたようだった。



「それで、ネズさん達はどうしてここに? 確かにこの街は"音楽の最先端が集まる街"とは呼ばれているけれど…」
「一週間前、おれのところに差出人不明のメールが届いたんですよ。不審者だと思って最初は捨てようとしたんですけど、光世の知り合いらしき人物から来たということが分かりまして。話だけでも聞こうと思ってここまで来たんです」
「えっ? そうなの? 実はわたし達も…」



 ネズの返答を聞いた2人は驚いた表情を見せた。実はスイも一週間前程、ネズが話した内容と同じようなメールを受け取ったことを口にした。しかも、差出人が不明だということも一緒である。思わぬ事実にネズと大典太の瞳も大きくなる。更に、大典太には何故彼らがここまで辿り着けたのかも不思議に思っていた。接点がある自分とは違い、ルーク達と差出人であろうMZDには何の接点もない。辛うじて、ネズと同じく"DJとして"MZDの名前を知っているくらいだろうと大典太は考えていた。
 そのことを口にすると、ルークがうんうんと頷く。どうやらルークも大典太と同じ考えを抱いているようだった。



「僕も最初は不審者からのメールだと思って、ゴミ箱に入れるようスイさんに進言したんです。でも、偶然画面を覗いてきたのかナデシコさんに"中を見てみたらどうだ"と言われたんです。それで、ここに。
 ……僕がいうのもなんですけど、今思えばあの人なんか気付いてそうな雰囲気してたんですよね…」
「……確かにな」



 ルークの言葉を受けて、大典太は不思議と腑に落ちた。恐らく、ここに来たのもナデシコからの差し金なのだろう。MZDの話が別のルートでナデシコの耳に入っていることもやぶさかではない。彼女はそういう人物なのだ。
 もしかしたら、ラルゴ辺りも自分の知らないところでこの話を知っているのかもしれないと大典太は考えた。
 しかし、今はそんなたらればの話をしている場合ではない。立ち話をしている間にも、向こうが待ちくたびれているかもしれない可能性があるとネズは指摘をした。



「とにかく、です。指定された会議室へと行きましょう。首を長くして待っているかもしれません」
「そうですね。ここで長話しても時間が過ぎていくだけですし…。分かりました。行きましょう!」



 ネズの言葉にルークとスイも同意し、共に会議室へと向かって足を進めたのだった。
























 "失礼します" と、低い声が響く。ガチャリとドアノブを回す音と共に3人と一振の目に入って来たのは、誰もいないがらんとした会議室の空間だけだった。思わず"誰もいねぇ"とネズがジト目になりながら零す。
 その間にもルークは周りを観察し、一番手前の机に何か紙が1枚置かれているのに気付いた。中に入り、紙の近くまで移動し内容を読んでみる。自分達に向けてのものだと判断したのか、彼は2人と一振に向かって手を振りこちらに来るよう促してきたのだった。



「書置き、なのかな?」
「そうみたいです。手書きですし、筆圧も新しい。つい先程書かれたもののようです」
「流石警察官。そういうことも分かるもんなんですね」
「まぁ、職業上調べることも多いもので…。コホン。メモを読み上げますね。

 "会議が30分ほど長引きそうなので、先に15階を見て回っておいてください。今日呼んだ人達が集まっています"

 ……人"達"?」



 ルークが読んだ紙から分かった情報は、自分達を呼んだ存在が会議が長引いていて時間に遅れるという事実だった。ネズとスイの他にも呼ばれた人達がいる、と書かれている。確かにこの会議室に来るまでに、何人かとすれ違ったような記憶はあるが詳細は覚えていない。そこまで見る余裕がなかったからだ。
 ネズもスイもアーティストとしてここに呼ばれている。ということは、他に呼ばれた人物も"音楽関係に携わる人物"なのではないかと大典太は考えていた。



「わたし達の他にも集められた人達がいるってこと?」
「文章を素直に受け取ればそうでしょうね。何人かとすれ違った気もしますし、書いてあることは本当なんでしょう」
「……音楽関係の輩だとは思うが」
「なら丁度いい。相手のご要望に応えてあげましょう。おれも、スイの音楽の姿勢について是非話をしたいと思っていたところでね。作曲のいい刺激になるかもしれません」



 危険がないことが分かった以上、向こうの提案に乗らないことはない、とネズは集められた人々に挨拶をしてまわろうと提案をしてきた。せっかくこうしてジャンルの違う音楽家が一堂に集まっているのだ。少しでも話をして、色々と学んで帰りたいというネズの気持ちが大典太にも伝わった。
 スイも同じ考えを抱いていたようで、ネズの意見に賛成をする。ルークも2人がいいなら、とすぐに同行を承諾してくれた。



「じゃあわたしも一緒に行こうかな。色んな音楽家と話すことって、とても大切なことだと思うから」
「事前に挨拶をしておくことは大事ですからね!僕も賛成です。紙は僕が持ちますね」




 ルークが丁寧に紙を四つ折りにして懐に仕舞う。その仕草を確認した後、3人と一振は早速集められた音楽家に挨拶をしに会議室を後にしたのだった。

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 ( No.141 )
日時: 2022/06/13 22:01
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 早速来ている他の人物に挨拶をすることにした3人と一振。会議室を後にし、廊下を歩いている矢先の出来事だった。
 自分達の向いている目線の先で、手を振っている白い髪の少女が目についた。ギターだろうかベースだろうか、楽器を背負っているのが遠目で見て分かった。
 目の前の人物にネズは見覚えがあった。近付いて来る少女に、思わず口を開く。



「きみは確か…"ホミカ"?」



 ネズに名前を呼ばれ、"ホミカ"という人物は3人と一振に笑顔で近付いてきた。ネズの知り合いだろうからどこかの地方のポケモントレーナーだとは思うが、大典太にはホミカが何者かが分からなかった。
 思わず"誰だ?"と小さく呟いたため、ネズは大典太にホミカを軽く紹介するのだった。
 ホミカはイッシュ地方でバンド活動とジムリーダーを兼業している少女である。彼女がリーダーを務めるバンド"ドガース"は、イッシュで今少しずつ知名度を上げているロックバンドである。ネズとも過去に面識がある人物だった。


 ネズが軽くホミカの説明を終えたと同時に、彼女はご機嫌な様子で口を開いた。どうやらネズの新曲の感想をいち早く届けたかったらしい。



「あんたの新曲早速聴いたよネズ!キマってんね、イカしてる!」
「ありがとうございます」



 ネズは自分の楽曲の感想を貰えて嬉しそうにしている。やはり同業者の実直な感想は響くのだろう。
 その反応を満足そうに受け取った後、ホミカは一同に何をしているのかと質問を返した。依頼人が会議で遅れて話が出来ない為、15階にいる人達に挨拶をして回っていると素直に答えると彼女は成程、と納得をした。話を聞くに、どうやら彼女も同じようなことを言われ、今まで挨拶をしていたらしい。


 自分はもうあんた達で最後だ、とホミカは伝え、15階にいた人物についての感想を漏らした。ホミカにとっても面白いと思える人々ばかりだったようだ。



「今まで会って来た人達…本当面白い奴らばっかりでさ。そんな超有名人の中にあたしらいるって超絶光栄って奴じゃん?」
「えっ。そんなに有名な人達ばかりが集められているの?」
「そうだよ。顔を見たら名前がふっと出てくるレベルには有名人しかこのビルにはいない」
「やはりフェス的なものではやるつもりなんでしょうかね」



 見た目通り、ホミカはロック系の音楽を得意としている。スイはジャズを中心として歌ってきたので、ホミカとは全く方向性が違う。ネズの言う通り、"フェス"の為に集められた人物と思えば不思議と腑に落ちた。
 そのまま他愛ない話を続けていると、ふとホミカは壁にかけられた時計を見て慌てた表情をした。どうやら待ち合わせの時間まで猶予が無く、急がなければならないのだという。
 小さく頭を下げてもう行かなければならないことを伝えると、ネズは静かにうんうんと頷いた。



「もし本当にフェスなら、あんたの音楽も生で聞いてみたいよね、スイ!もしそうなったら当日はよろしくー!」



 笑顔で手を振りながら、ホミカは先程ネズ達が入っていった会議室の方向へと走り去っていった。
 彼女の姿が見えなくなったのを確認し、3人と一振も挨拶回りに戻ることにした。近くにあった扉に目をつけ、そこにいる人達から挨拶をしようとスイが提案をする。
 彼らもそれに同意し、スイの後についていったのだった。












 ガチャリと扉の音と共に中に入ってみると、そこでは女子高生らしき人物が3人仲睦まじい様子で話をしていた。清楚な雰囲気を放つ濃淡のロングヘアーでセーラー服の少女。猫耳のようにも見える派手な髪飾りが生える、セーラー服を身に纏った快活そうな少女。そして、音符の柄が入ったスカートを身に着けている金髪の少女だった。


 3人はドアが開いた音に気付き、3人と一振の方を不思議そうに見ていた。そこでスイはノックもせず入ってしまったことに気付き、"ごめんなさい!"と詫びたのだった。



「お話の邪魔しちゃってごめんなさい…」
「あ!ううん、全然大丈夫。貴方達ももしかして集まりに呼ばれた人?」
「実はそうなの。責任者の人が会議が長引いてるみたいで…」
「そうなんですね。私達はもう打ち合わせが終わったので、希望ヶ峰学園に帰る前にこうしてお話してるんです」



 金髪の少女がこちらに近付いてきて、中に招き入れた。近くにあったソファに案内されそこに座ると、早速3人の女子高生は自己紹介を始めたのだった。
 濃淡のロングヘアーの少女が"舞園さやか"。派手な雰囲気の少女が"澪田唯吹"。そして、スイ達を招き入れてくれた金髪の少女は"赤松楓"と名乗った。全員、"希望ヶ峰学園"という超高校級の才能を持つ者だけが通える学園に在籍している現役高校生で、3人共音楽関係の才能に長けていることが明らかになった。


 舞園は入ってきた人物の中に大典太がいることに気付き、笑顔で"お久しぶりです!"と声をかけた。何事かと一瞬思ったが、石丸のクラスメイトだということをすぐに思い出し小さくその声に応えたのだった。
 大典太の反応の様子を伺いながら、ネズはジト目で彼を見る。大典太が陰気なことは今までの交流の中でよくわかっている。何故彼がこんなにも交友関係が広いのか、ネズには不思議で仕方がなかった。



「光世、1ついいですか」
「……なんだ」
「あんた、どんだけ人の繋がり広いんですか。キバナですか。おれに見せかけてキバナだったんですか」
「……キバナじゃない。キバナはどちらかと言えば兄弟だろう…。……そうじゃない。コネクトワールドで主の主命を果たしているうちに…結果的に色々な奴と知り合っていただけだ。主は元々娯楽を提供する側にいたからな…」
「確か"逃走中"とかっていうイベントを主催していたんですよね!時期が時期なら僕も参加してみたかったなぁ…」
「成程ね。あんたは裏方でサクヤと一緒に動いていた訳だ。腑に落ちましたよ」
「……納得してくれたならそれでいい」



 ネズ、大典太、ルークがその当時についての話を聞いている最中にも、いつの間にかスイと超高校級の女子高生3人は早速意気投合し、お互いのファッションや好きな音楽等の話に花を添えていた。
 スイは同年代の女性と話をするのが随分と久しぶりだった。その為、変に気を張らず気軽に彼女達の話に混じっていたのだった。



「スイさんってジャズが好きなんだ!だったら私、今度ミカグラ島のショーでピアノの伴奏してみたいかも!」
「本当? 超高校級のピアニストが演奏に来るってなったら、きっとミカグラ島ももっと知名度が上がると思う。わたしも大賛成だよ!貴方の演奏で歌えるなら、こんなに光栄なことはないよ!」
「赤松さんの演奏は人の心を動かしますからね!私も大好きです!」
「改めてそう言われると照れるな~…」



 楽しそうに会話に花を咲かせる女子達を見守っている最中、ネズの元に澪田がずんずんと近付いて来るのが分かった。何か同じ波長を感じたのか、その瞳には期待が込められている。
 ネズの目の前にやってきた澪田は、彼の細い腕をがしりと掴みぶんぶんと振ったのだった。



「聞いたっすよ。唯吹のセンスについてこられそうな人をやっと発見っす!」
「は?」
「さっき部屋に挨拶しに来たベーシストの女の子から聞いたんすよ! "あたしの知り合いに凄腕のシンガーソングライターがいる"って!君のことだよねっ!年齢もそう変わらなさそうだし、今度セッションするっすー!うっきゃー!唯吹テンション上がってきたっすー!」
「あの。評価してくれるのは嬉しいんですが、腕痛いんでそろそろ離してもらえませんか」
「はっ!興奮のあまり腕に力を込め過ぎていた!……ごめんね、てへりん☆」
「はぁ…」



 ぐいぐいと迫ってくる澪田にネズは既にたじたじだった。ライブ中ならともかく、今のテンションの時に話しかけてこないで貰いたいとすら一瞬思ってしまった。しかし、折角語りかけてくれたのに直接言葉を放ってしまえば、彼女に失礼にあたることもネズには分かっていた。
 喉まで出かけた言葉をぐっと呑み込み、腕を離すようにだけ口にした。このままでは両腕を持っていかれかねない程に強く振り回されていたからだ。


 はっとした彼女はぱっと手を放し、"今度一緒にセッションするっすー!約束っすよー!"と勝手に約束をし、女子勢の元へと戻っていった。
 ネズは終始彼女のペースに呑まれ、疲れたような表情をしていた。大典太は赤くなった彼の腕を掴み様子を見る。強く掴まれた以外は特に外傷はないようだった。



「……掴まれた箇所が赤くなっているが、それだけだ。念のために俺の霊力で癒しておこう…」
「光世…。余計な心配をかけさせちまいましたね。ありがとうございます」
「嵐のような女の子でしたね…」
「……ああいうタイプは苦手か? 疲れたような顔をしている」
「いや、そうではないですが…。人の話を聞かねぇ奴とはあまり関わり合いたくないですね。彼女は別のベクトルでまた元気ですが」



 そこまで言って、自分を心配そうに見るルークの方に顔を向けた。大典太の話によると、彼は現在26歳だという。自分より確実に年上の筈なのに、ネズに対しては終始敬語を貫いていた。いらぬ詮索だとは思うが、もしかして、という疑念を持ったネズはそれをぶつけてみることにした。



「ルーク。おれに対しては敬語じゃなくてもいいですよ」
「え? でも失礼じゃないですか」
「どの塩梅で"失礼"だと思っているのかおれには理解が出来ませんが。質問していいですか。おれ、いくつに見えます?」
「僕と同じくらいだと…。随分と落ち着いていますし、対処も冷静ですし」
「申し訳ないけどおれ、まだ酒飲めない年齢なんだよね」



 ネズがまだ20歳を超えていないことを伝えると、ルークの表情が固まった。やはり、とネズは確信した。派手なメイクと猫背、そして普段の振る舞いのせいなのだろうが、ネズは結構実年齢より年上に見られることが少なくない。だからこそ、あの双子がはっきりと自分の年齢を看過したことには驚きを感じていた。
 大典太もそのことは気にしていたようで、ネズに静かに口を開いた。



「……もう少し年相応に振る舞ったらどうだ。それだけで年齢を勘違いされることは無くなる筈だ…。あんた、化粧のせいで老けて見えるが実際顔は幼いんだからな…」
「ノイジーですよ光世。あんたも双子と同じことを言うんですか。少し傷付きはしますけど…今まで沢山言われてきたんで。もう慣れてます」
「な、慣れちゃ駄目だよ?!」



 ルークが改めてネズに詫びている間にスイが戻ってきた。どうやら満足が行くまで会話が出来たようで、その表情は明るいものだった。
 彼女を追うように超高校級の女子高生達も見送りにやってきた。時間的にもそろそろ次の部屋に向かわないと間に合わないだろう。



「私達だけではなく、他の方とも挨拶をするとお聞きしました。本当はもうちょっとお話していたかったんですが、ここで長話をしては時間がなくなっちゃいますよね」
「他の人達も個性豊かな人達ばっかりだよ!話してて楽しい人が沢山いるから期待していいと思うよ!」
「そろそろ唯吹達もお暇するんで、また何かあったらシクヨロっすー!ネズちゃーん!今度あったら絶対に唯吹のライブ聴いていくっすよ!後悔はさせないから!」
「学園に赴く機会があれば、ね」




 女子高生達に見送られながら、3人と一振は部屋を後にする。
 そして、次の部屋へと向かう為移動を始めたのだった。

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 ( No.142 )
日時: 2022/06/15 22:19
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 再び次の部屋を目指し廊下を歩いていた3人と一振の傍を、橙色の小さな生物が駆け抜けるのを察知した。思わずそこを見てみると、4体のワドルディがせかせかと会議室に向かって走っていた。4体の中にギターやベースを背負っている個体がいることから、彼らも自分達と同じなのだと一同は理解した。



「あんなちっちゃい子も呼ばれてるんだ…。楽器、本格的なの使ってるんだね」
「分かるんですか? スイさん」
「そりゃあ、プロの歌手として仕事してるんだもん。使ってる楽器の種類くらいは判別できなきゃ」
「楽器は使う種類によって出る音も全く違ってきますからね。あいつらは"分かってる"奴らですよ」
「……ワドルディは器用だからな。前にどこかの世界に飛ばされた時も、適応力を発揮して1つの街を造り上げてしまったらしい…」
「何ですかそれ。一番残しちゃいけない生命体じゃないですか」



 ネズは大典太のシュールな説明に突っ込みつつ、駆け抜けたワドルディ達の説明をした。
 彼らは"ドルディーズ"といって、最近終末の世界で少しずつ話題になっているバンドの4人組だ。楽曲に囚われず、割とオールジャンルに作曲をする器用さから世間でも評判になっている。姿かたちの愛らしさに虜になってしまった人物も多いのだとか。


 そのまま彼らが会議室へと消えていったのを見守ったすぐ後、再び3人と一振の傍を別の小さな生物が駆け抜けた。今度はピンク色のどこかで見たような一頭身に、ネズミのような耳を持った不思議な生命体。そして、バンダナを付けたワドルディだった。
 大典太は正体を察し表情をしかめるが、ルークは彼の表情に変化に気付かず呑気に"かわいいな~"と彼らの容姿にメロメロになっていた。



「彼らも歌うのかな? さっきのワドルディ達を追いかけていたみたいだけど…」
「……何かの間違いだと思いたい」



 大典太は彼らの正体を知っている。ピンクだまが"カービィ"、バンダナを付けたワドルディがそのまま"バンダナワドルディ"。ネズミのような生命体は見たことがなかったが、カービィと仲睦まじそうにしている為、新しい世界で出会ったカービィの友達なのだろう。
 すれ違った際に、バンダナワドルディが非常に焦った表情をしながらカービィ達を追っているのを彼は見ていた。恐らくカービィは招待されておらず、勝手にこのビルに入っていったところをバンワドに止められている最中なのであろう。そのことを確信した大典太は、心の中でバンダナワドルディが無事にカービィを捕まえてくれることを祈った。
 大典太がそんな思いを抱いているとは知る由もない3人は、のんびりと"あんな小さな身体で頑張るなぁ"と感心していたのだった。






 そのままロビーを通り過ぎると、3人と一振の進行方向から爽やかな水色が映える少女が現れた。彼女もネズには覚えがある。少女も彼と知り合いらしく、ネズを見つけては珍しそうなものを発見したかのように近付いた。



「あれっ? 堂々とスタジオに来るなんて意外!明日は槍が振るかもしれないね!」
「ノイジーですよ。ポケモン勝負ならともかく、音楽関係の仕事なら滅多なことがない限り断りません」



 ネズが呆れ顔でそう返す為、ルチアはわざとらしく頭に手をこつん、とぶつける。所謂"てへぺろ"的なポーズを取った。不思議そうに彼らのやり取りをみつめる他の2人と一振にも気付き、少女―――"ルチア"は自己紹介をした。



「あっ!あなた達ははじめましての人達だよねっ!わたし"ルチア"!ホウエン地方でコンテストアイドルをしているの!これからよろしくね!」
「……ホウエン地方。カブの出身地か」
「そうですねぇ。まぁ、彼がコンテストのことを知っていたかまでは分かりませんが」



 ルチアはホウエン地方で活動する、地方ナンバー1のコンテストアイドルである。パートナーのポケモンである"チルタリス"とユニットを組み、日々コンテストの才能があるトレーナーをスカウトする活動を行っている。勿論、本人のコンテストの実力も折り紙付きだ。
 そんな彼女はスイにキラキラとした目を向け、彼女の手をぎゅっと握ってきた。



「あなたのことは風の噂で知ってるよ!"ミカグラの歌姫"!一度会いたいと思ってたから、今日会えて嬉しいな~!」
「ありがとう。貴方のパフォーマンスもいつか見てみたいな」
「うん!イベントで一緒になったらたっくさん見せてあげる!チルタリスとのコンビネーション!」



 笑顔で"スイに会えて嬉しい"と感想を述べたルチアに、思わず彼女も微笑み返す。素直に気持ちを伝えられたことが嬉しかったようだ。そして、彼女はイベントで一緒になった時にはよろしくね、と言葉を紡ぎ手を離したのだった。
 そして、鞄の中に仕舞っていたスマホロトムを取り出し時間を確認する素振りを見せ、慌てた表情を見せる。



「あーっ!もう少しで待ち合わせの時間!ごめんね、本当はもっとお話ししたかったんだけど…。今日はここまで!次あった時にはコンテストバトルも見ていってねー!」



 ルチアは一同にそう言い、彗星のように会議室まで去っていったのだった。






 その後、残りの部屋を回り今日集められた音楽家と挨拶を済ませた一同は、再び会議室への道のりを歩んでいた。
 ホミカの言った通り、面白い人材が多く揃っている。ネズの目にも、スイの目にも新鮮に映ったことがありありと分かった。



「面白い人達が沢山いたなぁ~!まさかジョカ島の歌姫にも会えるだなんて…!」
「アスク王国にいるという踊り子達も集っていたのには驚きましたよ。こういう集いは避けるかと思ってたのに」
「本当に個性のぶつかり合い、という感じだった。本当に音楽フェスが開かれることになったら、どんなハーモニーが会場を包み込むんだろうなぁ…。
 あ、そろそろ会議室だよ。30分ほど経ったし、もしかしたらメールの送り主が戻って来ているかもしれない」
「……待っているだろうな。行こう」




 そう言い、一同は会議室の扉を再び開ける。ガチャリ、という音と共に彼らの目に見えたのは、ウサギとネコの耳を生やした少女が2人。そして、見覚えのある茶髪の少年とマゼンタの髪の男だった。
 少年は彼らに気付き、手を振りこちらに来るよう促して来る。そして、"ごめんな!先方との会議が長引いちゃってさ"と快くネズ達を迎え入れてくれたのだった。

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 ( No.143 )
日時: 2022/06/16 22:11
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 一同がソファに全員座ったのを確認して、待っていた4人は改めて自己紹介を始めた。ウサギの耳を生やした少女が"ミミ"、ネコの耳を生やした少女が"ニャミ"、茶髪でもみあげが特徴的な少年が"MZD"、マゼンタの髪の男性が"ヴィルヘルム"である。
 お互いに挨拶が終了した後、MZDは議事堂のことについてまずは口にしたのだった。



「この前は急に議事堂にお邪魔した挙句、挨拶もなく帰っちゃってごめんなー。まさか立て続けに人間の生死の狭間に巻き込まれるとは思わなくてさ」
「わたし達もびっくりしちゃった!リレイン王国でそんなことが起こってた、だなんて…。MZDとヴィルさんが地上に戻って来てくれたのもつい最近の話なんだよ。ずーっと地下で雲隠れしてたみたいで…」
「事情が事情だったからな。あまり大っぴらには出来ない立場なのだよ。……それで、あの黒い制帽の男性は元気なのか? あんな状態で運び込まれてきたのを見て、心配に思っていたのだ」
「ノボリのことですかね。なら元気ですよ。無事に回復して、弟と一緒に駅員頑張ってます」
「そうなんだ。それ聞けて安心した~。無事あの2人も過去に行けたみたいだし、あの件は完全に解決ってことで良いんだよね!」
「……まぁ、そうだな」



 どうやらMZDとヴィルヘルムはノボリの件についてかなり心配をしていたらしい。確かに彼が目覚めた朝、議事堂の皆で双子と話をした時には既に拠点へ帰っており、姿が見えなかった。ネズが代表して元気だということを伝えると、2人の表情が和らぐのが分かった。
 一方、ミミとニャミはネズとスイにキラキラとした目を向けていた。2人共今日という日を待ちに待っていたような顔をしていた。



「わたし、ずーっとこの日を待ち望んでいたんだよ!2人共超有名人で素敵な音楽家だから!」
「そうそう!わくわくしすちぎゃって昨日夜更かししちゃった!実は寝不足なんだよ今!」
「ネズさんもだけど、わたしも相当この街では有名人みたいだね…。挨拶に回った人に"見覚えのある顔"って言われたもの」
「あったりまえじゃん!この街"チューンストリート"は、音楽の最先端が集まる街なんだよ!凄腕の音楽家の話なんてすぐに耳に届いちゃうんだから!」
「うんうん!音楽に手を付けている人達ならこの街に来て絶対損はしないって有名なんだから!あ、それと。ルークさんって、スイさんのバックダンサーの人だよね!あたし、あなた達のダンスも大好きなんだー!」
「え?! 僕のことも知ってくれてたんですか?!」
「勿論!わたし達の友達にはダンサーで作曲家の人も沢山いるからねー!」
「世界は広いようで狭いですね。おれは今それを改めて実感しましたよ」



 ネズはミミとニャミのニコイチっぷりを観察しながら、ノボリとクダリのことを思い出していた。似たような動きをする、服装も容姿もそっくりな2人。流石にウサギとネコ、ということから姉妹ではないとは分かっていたのだが、彼は"世界は狭い"と改めて思ったのだった。
 他愛ない話をしている矢先、ヴィルヘルムが人数分のお茶をテーブルの上に置く。彼がソファに腰かけたところで、MZDはお喋り娘達に一声かけ、本題へと引き戻したのだった。



「さて。じゃあ早速本題に入っちゃいますか。実は…今この世界の全ての大陸を巻き込んだ、大きな"音楽フェス"をやろうかって動いてるんだよね。事前に挨拶してもらったから多分勘付いてるとは思うけど、さ。
 ネズとスイには、是非そのフェスの出演アーティストとして参加してほしい。そう思って今回呼んだんだ」
「やはりそういう話でしたか。ならば、あんた程の知名度があれば素性を明かしても良かったのではないですか?おれもスイも、不審者からのメールだって捨てかけましたもん」
「あー。それなー。ちょっとあの時は正体明かすわけにはいかなかったのよね。それに、ネズは光世と一緒に動いているの知ってたし。光世が止めてくれるかなって。それと、ミカグラ島の連中にはナデシコを通してスイに動いてもらうよう根回ししてたんだよね」
「だからですか。やけにミカグラ島の人がチューンストリートの話をしていたのは…」



 今日15階に集められた人物は一部だが、やはり彼らも全員音楽フェスにオファーをかけた人々だとここで確定した。彼が"一部"だと話していた為、相当大きなイベントになるのだろうとネズもスイも頭の中で思っていた。
 ニャミ曰く、"既に今日来てる人の返事は2人以外は聞いてる"とのことらしい。悩んでいる顔の2人に、一応オファーをかけるつもりである参加者リストの一覧をMZDは渡したのだった。受け取ってそれを見てみると、2人の表情がみるみるうちに変わる。



「よくこんな著名人ばかり集められましたね。今日来てない奴らも、誰も彼も一度は名前を聞いたことがある奴ばかりですよ」
「……そうなのか?」
「そう!わたしも見てびっくりしちゃった。MZDさんがこの世界で有名なDJだってのはわたしも知ってたけど、まさかここまで根が広い人だとは思ってなかったから」
「まぁね~。神の情報網にかかればこんなもんよ。オレ様の繋がりの広さなんて、光世なら分かってくれてるよね?」
「……あんたのお陰で色々とスムーズに進んだこともあったからな。それは承知している…」



 ぺらぺらとリストをめくりながら、こんな大層な人々の中に放り込まれていいのかという不安も2人の中に渦巻いていた。いくら実力者であるとはいえ、音楽の評価とは完全に人それぞれ。集まった人間によっては、完全に白けて終わってしまう可能性も否めなかった。
 そんな彼らの表情を見て、大典太がネズの背中を優しく叩く。そして、励ますようにこう小さく口にした。



「……またとない機会だ。あんた達の実力を示せるチャンスだと俺は思うが…。あんた達の歌は、人の心を動かす。俺も、そう思っている。だから…俺は、自信を持っていいと思う」
「光世…」
「そうですよ!お二人の曲で元気を貰っている人は沢山います!それを届けられる場として、音楽フェス!ピッタリじゃないですか!僕も困った時は背中を押しますよ、スイさん、ネズさん!やってみましょうよ!」
「……出来るかな。わたしに」
「はい。絶対にできます!」



 大典太に続くように、ルークも2人の背中を押す。彼らは確信していた。ネズとスイの歌は、世界に誇れるほど素晴らしいものだと。
 1人と一振の励ましを受け、しばらく考え込んでいた2人は遂に決意をした。顔を上げ、MZDに"フェスに参加する"ことを伝えたのだった。
 答えを聞いたミミとニャミはぱぁっと顔が明るくなる。返事が余程嬉しいように見えた。



「やったー!2人の生歌聴いてみたかったんだよねー!」
「ミミちゃん、本音出てるよ!」



 彼女達の微笑ましいやり取りを見守りながら、ルークは笑ったのだった。






 ―――フェスに参加することを決意し、MZDから軽い説明を受けた矢先の話だった。ふと彼は何かを思いついたような表情をして、スイとミミ、ニャミに話しかけてきた。



「じゃあ、ミミとニャミにオレからおつかいたのもっかな~。スイと一緒にチューンストリートの要所回ってくんね? 町観光も兼ねて、さ!」
「あ。もしかしてMZD気を遣ってくれた? きっと明日は槍が振るぞー?」
「あまりにも分かりやすい気遣いでわたしびっくりしてるよ…。槍じゃなくても大雪になりそう」
「あのね2人共。オレのことを何だと思ってるの?」
「まぁ、でも了解だよ!あたし達もスイさんとお話したかったし!同年代だしね、ミミちゃん」
「うんっ!ほらほら、早速街へ繰り出そうよスイさん!」
「あっ、うん」



 MZDからのお使いを受け、2人はスイと共に立ち上がり、颯爽と会議室から姿を消そうとした。彼女達の動きを見て、ルークも立ち上がる。スイのボディーガードとして今回この場に赴いている為、彼女が出かけるなら自分も行こうと思ったのだろう。
 そんな彼をヴィルヘルムが止めた。思わず振り返ってみると、彼の表情は真剣そのものであった。何か自分に用事があるのだろう。そうルークは察し、再びソファへと腰を下ろした。


 女子3人の姿が会議室から消えたのを確認し、MZDは改めて自己紹介をした。先程はDJとしての紹介だったが、今は"音楽の神"MZDとしての挨拶だった。
 スイのことを心配するルークに、MZDは"大丈夫だ"と答える。ミミとニャミを頼りにしている証拠だった。


「それで? おれ達だけを残して話の続き、ということは。何か特別な事情があるんじゃないですか?」
「うん。実はあるの。悪神……"アンラ・マンユ"に関わった人間だけを残して―――一回そっちの話をしておきたかったんだよね」
「……そうか。情報が得られるなら話は早い。俺達も今あいつを追っているんでな…」
「理解が早くて助かる。では、お茶のおかわりを持ってきてから話を進めるとしよう」




 そう言い、ヴィルヘルムは人数分のカップを片付けに会議室を後にした。
 一気に張り詰めた空気が場に出来上がる。その様子を見ながら、ネズはとんでもないことに自分から足を突っ込んでしまったのだと今更思ったのだった。

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 ( No.144 )
日時: 2022/06/17 22:34
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 再びヴィルヘルムがお茶を持ってきてテーブルに置き、ソファに座ったのを皮切りに、MZDは"もう1つの本題"であるアンラの件についての話を始めた。
 ミミもニャミもスイもアンラに妨害を受けている側の存在なのだが、彼女達をわざわざ外に出したということは"巻き込みたくない"という気持ちの表れなのだろう。彼の真剣な表情を見て、2人と一振はそう判断することにした。



「アンラがこの世界に、異世界を全部混ぜたうえで滅ぼそうとしてるってのはお前さん達も知っての通りだ。オレ達もそれを阻止する為に別の道から動いてるんだよね」
「つまり、貴方もサクヤさん達の"本来の目的"を知っている…ということなんでしょうか?」
「そういうこと。ルークには話すのは初めてだと思うけど、過去から人がこの時代に迷い込んできた件に首を突っ込んだ時に…サクヤの所に行く機会があってさ。その時にちょっとだけ話をしたの」



 神域は"神なる存在"であれば誰にでも出入りが出来る。それはMZDでも例外ではない。ヴィルヘルムも人工的に神の力を作り出した過去があってか、神域への入口が何故か見えていた。だからこそ、サクヤの元へ赴き彼女の真意を少しだけ聞くことが出来たのだという。
 そのまま、サクヤはサクヤの側で。MZDはMZDの側で調査を進め、協力し合おうという結論になったのだそうだ。軽く経緯を説明した後、彼はその結果を彼らに話し始めた。



「それで、こっちで調査して分かったことがあってね。一応共有しておこうと思って。フェスを開催したいってのは本気だけど、その情報を渡したかったのもお前さん達を読んだ1つの理由ってワケ」
「成程? それで、調査して何か分かったからおれ達を呼んだんでしょう。早く教えてください」
「そう急かすなって。実は…この世界、狙っているのはアンラだけじゃない。"第三の刺客"が存在することが分かったんだよね」
「……第三の刺客?」



 MZDが口にした"第三の刺客"という言葉に2人と一振は首を傾げる。自分達が超えなければいけない壁は悪神だけではなかったのか。しかし、彼らの表情は真剣そのもの。2人が嘘をついているようにはどうにも思えなかった。
 困り果てた表情を続ける彼らにヴィルヘルムは話を続ける。どうやら、どうしても頭に入れておかねばならない情報のようだった。



「元居た時代から別の時代に一度飛ばされているとはいえ、本来"この時代にいてはならない人物"が2人もこの世界に飛ばされてきた事情がある。何故そうなったのかとずっと考えていてな。そして、調査を続けていた折―――とんでもないことが分かった」
「とんでもないこと…。その話をする前にそうだね。みんなは"邪神"については分かる?」
「邪神? ユウリを攫った奴じゃないんですか?」
「……ハスノもそうだが、人にとって災いをもたらす神を一般的に"邪神"と呼んでいる。―――ユウリ達を攫った奴とは似て非なる存在だ」
「説明助かる。実は―――。アンラの敵意の矛先がもう1つ増えている。その矢印の先に邪神がいることが分かったのだ」



 アンラが自分の行動の邪魔になる存在の命を削り取ろうとしていることは今まで起きた出来事で痛い程に分かっている。しかし、彼女の憎悪の矛先がそれだけではなく、別の邪神にも向いていることに一同は驚いた。
 何故憎悪を向ける必要があるのか。考えられる理由としては―――憎悪している対象の邪神もまた、この世界を狙っている可能性がある、ということなのだろう。滅ぼすか、力を奪い取って自分のものにするか。最高神であるゼウスの力まで取り込んだ彼女のことだ。行動を起こす可能性は充分に考えられる。
 そこまで話して、ルークは考えを整理するように口を開いた。



「つまり、悪い神様は僕達の知らないところで邪神の力も狙っている、ということなんですかね」
「そう。それで不味いのが…"狙っている邪神の方がアンラより力もスケールもどでかい可能性がある"ってこと。ここからはオレの推測でしかないんだけど…。
 そんな力を持っている邪神は……オレの知る限りだと、"クトゥルフ"くらいしか思いつかないんだよね」
「クトゥ、ル……ッ―――!!」



 MZDが邪神の名を口にした瞬間だった。大典太の身体に異変が起きた。先程までは何も感じていなかったのに、唐突に突き刺さるような頭痛を感じたのだ。こめかみを抑え、必死に痛みを逸らそうとする。しかし、激しい痛みは増すばかりだ。
 彼の表情の変化に、隣に座っていたネズも目を見開いた。



「光世?!」



 今の大典太にはネズの言葉は届いていなかった。頭痛と共に頭の中に流れ込んでくる映像。
 暖かい思い出である筈の"時の狭間"。見えてきたのはそれだった。自分達を介抱してくれ、世話までしてくれた心優しい老人。彼の姿が映った。しかし……。顔が分からない。彼の顔に、黒い靄がかかっているのだ。誰だ。頭の中に流れ込んでくる"それ"は、一体誰だ。
 疑問を持った瞬間、あんなに感じていた頭痛が一気に収まるのを感じた。頭痛が収まると同時に、見えていた映像も消えてなくなる。まるで最初からなかったかのようなそれに、大典太は眉間にしわを寄せることしかできなかった。



「大丈夫ですか?」
「……すまない。心配をかけた」
「急に表情が変わるから心配しましたよ」



 ネズが背中を擦ってくれていたことに今更気付き、隣にいる彼に目線を合わせ謝罪をする。それを聞いた彼は静かに首を横に振り、"頭痛が収まったのなら問題ない"と安心したような表情を浮かべたのだった。
 MZDも彼の表情の変化にばつの悪そうな顔をしている。罪悪感がありありに表情に出ていた。



「なんか…触れちゃいけないところに触れちゃった感じ? ごめんね?」
「……いや、いい。気にするな」
「お前とクトゥルフの間に何らかの関係があることは非常に興味があるが…今は私の研究範囲ではない。今は悪の神を倒し、世界を元の姿に戻す為に協力し合う時だ。
 だが、もし余裕があるのであれば…。クトゥルフの件。併せてお前達にも調査を願いたい」
「……主には話してみるが、おれ達が動くかどうかは主の判断になる。ここで協力の是非を答えることは出来ない」
「それでいいよ。あくまで今回の本題は"フェスに参加してくれるか否か"だからね」



 静かに小さく頷きMZDは言った。彼もこの件が長い戦いになるだろうとは自覚していたのだろう。小さな身体にとんでもない力と野望を秘めているのだと改めて理解をした。
 そして、思い出したように彼はフェスについての話をする。どうやら参加者の推薦であれば"飛び入り参加"も可能らしい。当日までに、もしかしたらこことは断絶された異世界からも興味がある存在を招く可能性もあると彼は言い放った。


 彼が言葉を告げたと同時に、会議室の扉が開く音が聞こえた。要所を回っていたミミとニャミ、スイが帰って来たのだ。彼らが真剣な面持ちなことに首を傾げるものの、MZDはすぐに満面の笑みを浮かべ彼女達を迎えるのだった。



「いいタイミングだな」
「たっだいまー!ってあれ? みんなしてむっとした顔してどうしたの?」
「こっちの話。気にしたらダーメ」
「えーっ!わたし達に黙ってまた内緒話ー?!むーっ、MZDは隠し事が多いんだから!」
「男の秘密は多い方がモテるんだぜ~? ミステリアス感もマシマシ!」
「マシマシ、じゃない!そうやってすぐ危険に足を突っ込むのあたし達分かってんだからねー!」



 ウサギとネコがぶーぶーと少年に悪態をついていると同時に、スイもルークに帰ってきたことを伝える。ミミとニャミに楽しいところを沢山案内してもらったようで、その顔は満足そうに笑みを浮かべていた。
 楽しかったか、とルークは問う。すると、彼女は大きく頷いたのだった。



「さて。そんじゃ、そろそろこの話はおしまいにすっかねー。また何か分かったら連絡するよ。フェスに関しても詳細が分かったら伝えるつもりだから、オレの連絡先入れといてくれる?」
「わかりました」
「あ、駄弁りに使ってもいいからねー!オレ、繁忙期じゃなければ基本暇だし」
「……世界の管理者が"暇"という言葉を使ってもいいのか?」
「暇じゃない、ということは世界に何らかの危機が訪れているということだからな。暇が一番なのだ」
「いいんですかそれで」



 ネズのツッコミもMZDは華麗にスルーを決め込んだ。そんな彼が強引に話を纏め解散を促す。これ以上長居をしていると、先程話した件がミミとニャミにバレてしまうことを危惧したのだろう。
 ルークとスイもミカグラ島へ帰ることを決め、ネズと大典太、そして未だに後ろでわちゃわちゃしている3人とヴィルヘルムに挨拶をして会議室を後にしたのだった。



「そんじゃ、おれ達も帰りますかね。連携しなければならないことが山ほどあります。今日はありがとうございました。これで失礼します」
「……そうだな。俺も、失礼する」
「今度はネズさんとお茶しながら音楽の話したいなー!」
「うん!まったねー!」




 元気のいい声を背中に受けながら、ネズと大典太はリレイン王国への帰路についたのだった。


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