二次創作小説(新・総合)

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繋がる世界と未来の物語
日時: 2025/09/29 21:52
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)

 ―――これは、"全てを元に戻す"物語。
 それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。


 どうもです、灯焔です。
 新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
 サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
 この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
 また、オリジナルキャラクターも登場します。
 苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。


※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2


<目次>

Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17

Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148

ep.04-1 【天下五剣が集うとき】 完結
>>166 >>167-171 >>172-176

Ep.04-2【新世界の砂漠の華】
>>178 >>179-180 >>181-184


※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54

Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111

Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151

Ep.04
【月と超高校級の来訪】 >>177


※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163


<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150
>>164-165


最終更新日 2025/09/29

以上、よろしくお願いいたします。

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 ( No.130 )
日時: 2022/05/28 22:31
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 辺りはすっかり真っ暗闇になっている。ドルピックタウンに夜が訪れていた。ホテルに併設されているナイトプールにて、彼らはビーチで遊べなかった分を取り戻すように思いっきり遊んでいた。
 プールサイドにはパラソルも用意され、一部の面子が椅子に座ってのんびりと夜を過ごしている。そんな中、ソハヤは大典太に改めて邪気を纏っていたことを誤魔化していたことを謝罪した。



「……まぁ、結果的に邪気は全部祓えたからいい。俺も解呪する為にお前を殴ったからな…。それでチャラだ」
「勢い凄かったですもんね。普段ネガティブすぎて、あんたが相当怪力なのを忘れていましたよ」
「……俺はどうせ力が強くとも制御が出来ない刀だよ…」
「そこまで言ってねぇからネガるのをやめやがれ」



 キバナとソハヤは、キバナが呪詛を貫かれた際に既に契約を果たした状態になっており、"主と刀剣男士"の関係性になっていた。しかし、主であるキバナがソハヤに"主"と呼ばれることを嫌がった為、ソハヤもそれに習いキバナのことを名前で呼ぶように努力している最中だった。
 刀剣男士とはいえ、自分達は"道具"として見ている鬼丸には到底理解が出来ない思惑だった。ソハヤがキバナのことをまるで友のように接していることに不貞腐れている。
 そんな彼のしかめっ面を見ながら、大典太はふっと微笑み彼に語りかける。



「……別にいいんじゃないか?刀剣男士を"友"として扱う奴もいるってことさ」
「到底理解が出来んな。おれ達は道具だぞ」
「少なくとも、ここにいる連中はそうは思いませんけどね?その考え方は直した方がいいですよ、鬼丸」
「はい。本質が刀であろうとも、鬼丸さまはわたくしの目の前に生きていらっしゃいます。そんな方をどうして"道具"として扱うことが出来ましょう?」
「―――ちっ。勝手にしろ」
「……鬼丸はもう少し考えを柔軟にしろよ…」



 不機嫌そうに眉を顰める鬼丸を大典太はからかうように煽る。そんな彼にカチンと来たのか、鬼丸は大典太の頬を強くつねったのだった。
 鬼丸に好き勝手にさせつつ、大典太はソハヤの様子を弟を見守る兄のような目線で見ている。嬉しそうな表情を垣間見、ノボリも思わず目元が穏やかになる。



「大典太さま、なんだか嬉しそうでございますね」
「そりゃそうでしょう。呪いをかけられていた弟を無事救うことが出来たんですから。自分のことのように嬉しいと思いますよ」



 ネズはそこまで言ってふと気づく。クダリは再び重装備にてマリィ達と共にプールで楽しんでいる。しかし、ノボリは今回も終始ネズの近くに座り、一同の様子を見守ることに徹している。今はネズの体調は万全であり、介抱される必要はない。ノボリだってクダリと共にプールで遊びたい筈だ。
 疑問をぶつけると、ノボリはさも当然のように切り返してきた。



「あの。いつまでもおれについていなくていいんですよ? ノボリも遊んできてはいかがです?」
「いえ。わたくしはわたくしの希望でこちらに待機しております。余計な心配をかけさせてしまい申し訳ございません」
「それはいいんですけど…。おれ、元気なんですけど。介抱する必要はないですよ」
「それでも!わたくしは本日ネズさまを完璧に介抱すると決意しました故、完遂させてくださいまし!……それに、ネズさまとこうしてゆっくりお話が出来るのも貴重な時間でしょう? わたくし、あなたさまの人となりをもっと知りたいと思っております」
「はぁ…」
「ネズ、愛されてんな~。オマエももっと素直になればいいのに。ノボリさんと仲良くしたいって顔に出てるぜ?」
「ノイジーです。余計な一言はいらねぇんですよキバナ」



 ノボリの滅私奉公は相当なものだ。鉄道員の時から薄々感じていたことだが、ここまで来ると最早狂気の域である。いつか自分の身を滅ぼしてしまうのではないかとネズは恐ろしくなった。しかし、彼が自分に興味を持ってくれていることも事実。その気持ちには答えたかった上、ネズ自身もノボリへの興味は尽きなかった。
 キバナに茶々を入れられた後、背後で彼らを呼ぶ声に応え1人と一振もプールの中へと入っていったのだった。


 再びはしゃぎだすプールの面々を見守りながら、ふと大典太が口にする。それは、偽物の町長を追い詰めた時に起きた出来事についてだった。



「……そういえば。あんたの妹が言っていたな。偽物の町長の正体が"悪神に仕えるもの"だと」
「つまり、おれ達をここに巻き込んだ張本人の関係者…と、考えていいんですかね?」
「あぁ。良い筈だ。おれ達が解呪に向かっているところを読んでいたかのような動きにも見えたがな」
「尻尾を逃してしまったことに関しては残念でございますが…。しかし。わたくし共にも"情報"という武器が残りました。これを手掛かりに、また地道に終着点への道を歩んでいきましょう」



 "マイケル"と名乗った謎の男。自分達は姿を見ていないが、マリィ達がはっきりと"アンラのしもべ"だと言ったと報告をしていた。つまり、彼は自分達と敵対する存在。本来の目的を果たす為に、壊さなければならない大きな壁だった。
 今は少ない情報だが、これを手掛かりに歩みを止めなければいいとノボリが前向きな意見を発する。そもそもが短期決戦を考えていない以上、一同は彼の言葉に賛同したのだった。


 ―――そのまま穏やかな時が流れると思った矢先であった。ネズがノボリの背後に誰かが忍び込んでいることに気付く。それを指摘すると、背後に迫っていた影はひょっこりと姿を現した。重装備のままプールから上がってきたクダリだった。
 ちなみに、現在ネズとノボリは彼からの熱意に折れ水着を着ている状態である。



「クダリ。どうしたんですか。話したいならこそこそしなくてもいいのに」
「あっ。見つかった。ノボリもネズさんもプール楽しまないなんて損!だからぼくが誘いに来た」
「わたくしは皆様の笑顔を見ているだけで楽しいですよ。ほらクダリ、マリィさまが呼んでいらっしゃいます。まだまだ時間はたっぷりあるのですから、楽しんでいらっしゃい」
「んもう!ぼくはノボリともネズさんとも一緒に遊びたい!こうなったら実力行使。えいっ!」
「なっ―――?!」



 頬を膨らませたクダリを宥めようとした瞬間だった。"引っかかったな"とでもいうようにクダリの口角がニッと上がる。同時にノボリの身体を勢いよく両手で押したのだった。
 余談だが、彼らが座っているテーブルはプールのすぐ近くにある。つまり、押されたノボリが落ちる場所は―――。



「ましぃっ?!」



 情けない声と共に、ぼちゃんという水の音がネズの耳に入ってきた。ノボリがプールに突き落とされた。それと同時にネズも気付く。クダリは"ネズさんも"とも発していた。つまり、自分のことも落とす気満々なのだと。
 彼は構えるが時すでに遅し。クダリとネズでは筋力にも体格にも差がありすぎた。ネズの身体は軽々ひょい、と抱えられそのままプールに投げられる。



「あぁっ?!」



 ネズもまた情けない声を出しながら水の中へと沈んでいった。満足したのか、クダリもプールへと飛び込み2人の元へと向かった。
 その光景を見守りながら、大典太が"そういえば"と思い出したように口を開く。



「……執拗に2人に水着に着替えるよう迫っていたのはそれが原因だったのか」
「興味が無いな」
「……そう言いながらあんただって楽しそうじゃないか」
「おまえも突き落としてやろうか」
「……その時はあんたも道連れにしてやるからな」



 ネズとノボリが突き落とされた最中、刀剣男士同士でも静かな攻防が続いていたのだった。
 プールの中ではノボリがクダリに珍しく表情を崩して言い寄っていた。流石に突き落とされたのは腑に落ちなかったらしい。ネズは髪の毛にしみ込んだ水分を少しでも減らそうとしているが、彼の超ロングヘアーでは到底無理な話だった。



「何をするのですかクダリ!」
「今は辛気くさい話禁止!ぼく、一緒に楽しみたい!」
「遊びたいのならばはっきりと仰ってください!こうなったらわたくしも遠慮なく楽しませていただきます!」
「うんうん、ノボリもギア上がってきた!いいこと!」
「プールに入る予定があるなら髪の毛纏めてくるんですよ…。あぁ、自分の髪をこんだけ恨むことになるとは」
「確かにネズさんの髪の毛多い。じゃあ、こうかな」



 ため息をつきながら髪の毛を弄っているネズのテール部分をクダリは持ち上げた。髪の毛にしみ込んだ水分がぽたりとプールに落ちる。彼も優しく絞ってみるが、一向に水分は減らない。
 持ち上げてくれたことには感謝したが、ネズは呆れ顔でクダリの方を見た。



「そうしても意味が無いんです。あぁ、ゴムの類全部鞄の中です…」
「水で湿ってはいますが、リボンならばポケットの中にございました。こちらで何とか出来ませんでしょうか?」
「……できます? 双子で何とか。水の中なんでおれ自分で髪結えないんだよね。……申し訳ないですが」
「やってみる。やろうよノボリ。ネズさんの髪の毛纏めちゃえば一緒に遊べる」
「そうですねクダリ。半分ほど上に出して結べば髪の毛への負担が減るかとわたくし思います」
「いいねそれ。やってみよう!」
「(キバナに写真撮られませんように…)」




 その後、3人もマリィ達に合流し皆で楽しいナイトプールの時間を過ごした。珍しい髪型をキバナに面白がられ、案の定隠し撮りをされ速攻でネズに写真を消されたのはここだけの話である。
 こうして、ドルピックタウンを巡るひと時は幕を閉じた。夜に映える一同の笑顔はいつまでも明るいものであったとか、無かったとか…。




 Ep.03-1 【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 END.


 to be continued…

Ep.03-s1【合流!若きポケモン博士】 ( No.131 )
日時: 2022/06/01 22:50
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ドルピックタウンの一件が終了した翌日。バカンスを楽しんだ一同は、リレイン城下町への帰還を果たしていた。色々あったものの、ソハヤという仲間も増えメンバー同士の親交も深まったことだろう。
 既にドルピックタウンの町長からラルゴへの連携に関する連絡は行われている。その為、一同もそれに倣い軽く報告を済ませることに決めていた。


 議事堂へと戻ってきた一同を待ち受けていたのは、ガラル地方のポケモントレーナーにとっては見覚えのある影だった。ノボリとクダリも過去に行われたイベントで同席した経験があり、彼女のことには覚えがあった。
 思わずネズがその女性の名前を声に出す。



「ソニア!どこにいたんですか」
「あっ。ネズさんにみんなー!随分と久しぶり!元気だった?」
「ソニアは…元気そうで何よりだな」



 彼らをエントランスで出迎えたのはホップとソニアだった。ソニアはネズが初めてこの世界で目を覚ました際、シュートシティに合流できていなかったポケモントレーナーの1人だった。
 ソニアはガラル地方の新米ポケモン博士で、ダンデの幼馴染である。祖母であるマグノリア博士から役目を引継ぎ、ダイマックスに関しての研究を行っている。現在、ホップは彼女に弟子入りしながら博士になる為に頑張っているのだ。


 どこも怪我がなく、元気そうにこちらに手を振ってくるソニアを見て一同もホッと胸を撫でおろす。この調子で行方不明の3人も見つけ出せたら、と心のどこかで思った。
 今までどこにいたのかと改めて彼女に問うと、ソニアは頭に手を当てながら申し訳なさそうにこう返してきた。



「シュートシティに行くまでにかなり時間がかかっちゃって…。フウロさんと運よく鉢合わせして、彼女にシュートシティまで乗せてきてもらったの。あたしってラッキーだよね!」
「フウロさまもご無事だったのですね!」
「あ、あなた達って確かサブウェイマスターの!イベントの際は本当にありがとう!色々助かったよ!」
「ぼく達サブウェイマスター。お客様をおもてなしするのがお仕事。でも、ぼく達も楽しかったから問題ない!」



 ソニアは彼らとは反対の大陸……"東の大陸"の小さな町の近くで目を覚ました。路頭に迷っていたところに流れ着いた町で、偶然フウロと鉢合わせをしたらしい。彼女も単身訳の分からないところに飛ばされ、1ヵ月ほどこの町で世話になっていたのだという。
 フウロは向こうの大陸に"ポケモントレーナーが集っている大きな街"があることを知っていた。責任者がダンデだということを聞きつけ、街の人から借りた飛行機に乗って、彼女と共にシュートシティまでやってきたというのが事の顛末だった。



「途中でミカンちゃんとマツバさんも飛行機に乗せて、こっちの大陸まで飛んで来たの。いやー、青空綺麗だったなぁ…」
「別の地方のポケモントレーナーも順調に集まってるみたいだな」
「空の感想を言えるくらい元気なら良かったですよ」
「ソニアが戻ってきたって連絡したはいいものの、町長に"今は席を外してる"って言われて…。まさかバカンスに行ってたとは。オレもバカンスしたかったんだぞ…」
「ただのバカンスじゃなか。国の今後を担う重要なお仕事を代理でしてただけ。でも、無事にお仕事終わってよかった」



 ソニアの話から、ミカンとマツバも一緒に飛行機に乗ってシュートシティに向かったことも判明した、ガラルやイッシュだけではなく、他の地方のポケモントレーナーも順調にシュートシティに集まっている。これならば、何とかトレーナー同士で力を合わせて頑張っていけるだろうとネズは前向きな気持ちを胸に秘めた。
 しかし、問題はそこではない。何故ソニアとホップがこの議事堂に顔を出しているのか、ということである。彼女もホップも城下町に世話になっている立場ではない。そうであれば、何か別の用事を抱えてここに来ているのは明白である。そのことについて質問を投げると、彼女は思い出したように口を開いたのだった。



「実はね…。リレイン城下町に"ポケモンセンター"を設立する許可が降りたの!丁度昨日完成予定だって話を聞いたから、町長さんと話がてら街を歩きに来たんだよ」
「本当でございますか?!」
「本当だぞ!アニキ、本当はもっと早くに計画を動かしたかったみたいなんだけど…。丁度その時にポケモントレーナーが沢山シュートシティになだれ込んできて。多分、この前ゲーム大会でマリィが優勝したことで、"ポケモントレーナーが集っている街"としてシュートシティが大々的に有名になったからなんだと思うぞ」
「マリィが優勝したことがそこまで響いているんですね。ですが…これからは少し楽が出来そうで良かったですよ」
「ポケモン関連のことはシュートシティまで行かなきゃ出来ないからな~。まさかダンデが裏で動いていたとは」



 リレイン城下町にポケモンセンターが出来る。その事実にも驚いたが、ラルゴがその案を承諾し秘密裏に動いていたことにも驚愕していた。リレイン王国が魅力的な国なのは一同既に分かっていたことだったが、やはりポケモンのことに関してはやや不便だと感じていた。それをラルゴに薄々察されていたのだろう。
 今後が便利になる、とポケモントレーナー達は嬉しそうに反応を返す。彼らの様子を見つつ、ソニアは続けてこう話した。



「で、あたしとホップはダンデくんのお願いで、しばらくこの城下町のポケモンセンターで色々やることになったの。挨拶っていうのはそれも含まれてるね」
「ポケモンセンターの人達に事情は話して、センターに間借りさせてもらえるようになってるからそっちの心配は必要ないんだぞ!」
「それなら安心しました、が…。ホップ。きみがこっちに来てしまってダンデは大丈夫なんですか?」
「どういうことだ?」
「……方向音痴的な意味で」
「あぁ…」



 ネズが心配していたのはダンデのことだった。ゲーム大会でも改めて思ったが、ダンデは誰か見張りがついていないとすぐに何処かに姿を消す。リザードンがいるから大丈夫だとはいうが、健康診断などで彼と離れ離れになっている時間帯もある。その時にふっといなくなってしまうと、探すのにも一苦労だ。
 唯でさえ頼みの綱であるキバナが議事堂に間借りしている上、ホップまで城下町のポケモンセンターに世話になることが今明かされた。知らない間にダンデがいないまま何週間も過ごしていた、なんてことが起きかねない。
 ネズの言葉を聞いたホップは、少し考えた後彼に言葉を返した。



「うーん。リザードンもついてるし、あっちどんどん人増えてるし。ポケモントレーナーも少しずつ街に集まってきているから多分大丈夫なんだぞ。
 それに、今は3人体制で街を回しているみたいだからな!」
「ダンデと…マスタードさんとピオニーさん。ゲーム大会の時に任せていた2人と共に正式に街を回すことに決めたんですね、あいつ」
「流石に人が多くなってきて、アニキ1人じゃ無理なことも出てきたからなー。だからなんだ。オレがソニアについていってもいいって許可が出たの」
「なるほど」
「……その。話の腰を折ってしまって申し訳ないのですが、その集まってきたトレーナーの中に…トウコさまやメイさまはおられませんでしたか?」



 ゲーム大会終了後、ダンデは正式にピオニーやマスタードと共に街を回していく決意をしたらしい。街に少しずつトレーナーも集まってきている。やれることに余裕が出て来た為、ホップが城下町に移動することが許されたのだと彼は話した。
 そんな折、申し訳なさそうに目を伏せてノボリが話に割り込んできた。トレーナーが集まってきているのであれば、トウコやメイも見つかっているのではないか。そんな期待を込め、ソニア達に尋ねる。しかし、ホップは困った表情で首を振った。



「ごめん。ユウリもトウコもメイもいないんだぞ。オレ達も来てないかなって探してはいるんだが…」
「そうでございますか…。申し訳ありません、こんな質問を投げかけてしまって」
「ううん、いいのいいの!いなくなっちゃった子達のことを心配するのは当たり前の感情なんだし」
「大変な目に遭ってるんよね…。ユウリ達、無事だといいけど」



 トレーナー達が集まっているのは事実だが、その中に探している3人はいない。ソニアの言葉に、ノボリは謝罪をした後に先程の話を続けるように促した。アンラの分身に攫われた3人の少女。今頃何をしているのだろうか。
 危険な目には遭っていないだろうか。思わずマリィがぽろっと零す。彼女もユウリのことをとても心配していた。そんな彼女の背中に優しく手をあて、ソニアは自分の思いを口にする。



「でも、人がどんどん集まっているってのはいい兆しだとあたしは思う。だから、今出来ることを頑張った先に希望が見えるんじゃないかなって信じて、あたしダンデくんのお願い受けることにしたんだ。
 だから…ユウリが見つかった時には、沢山心に秘めた思いぶちまけて、それで抱きしめてあげればいいんだよ」
「うん。ありがとうソニアさん。あたし…ちょっと、生き急いでたかもしれん。ユウリが大変なことになってるかもしれないのに、あたしだけこんな贅沢していいんかって」
「マリィ…」
「何だかんだユウリも、その場で出来ること探して前に進んでると思うぞ? そうでなきゃアニキ倒してチャンピオンになれてないからな!」



 ソニアの言葉を聞いて、暗かったマリィの表情に少しだけ光が見える。今、自分達は出来ることを精一杯やっている。その先にユウリ達への道が見えるなら、信じて歩いていこうと。改めてそう思ったのだった。
 これ以上暗い話題を繰り返しても仕方が無いと、ソニアはぱんぱんと手を叩いた。彼女の視線の向こうには、丁度買い物を終えて帰って来たであろうラルゴの姿が見えた。ラルゴは一同とソニア達の姿を見据え、笑顔で手を振ってこちらに小走りで向かってくる。



「メイも、トウコも。無事だといいなあ」
「信じましょう、クダリ。彼女達の心が強いのは、わたくし共もよく知っている筈でしょう?」
「うん。だから、ぼく達も出来ることを背一杯やる。だよね、ノボリ?」
「はい。レールは必ず交差する。そう信じて前に進むのです。それが、我々に一番できることなのです!」
「攫った犯人が同一の存在なら…。もしかしたら、ユウリ達もユウリ達で合流出来ているかもしれませんね」
「それは…あるかもしれません。わたくし、考えが抜け落ちておりました…」
「可能性の話、ですけどね。ソニアの話になぞらえるならあるかもしれねぇって今思っただけです。ほら、ポケモンセンター見に行くんでしょう? 今おれ達に出来ることはそれだと思うんですよ」
「そうそう。じゃあ、話が終わったら行こう!」




 ラルゴがソニア達と楽しく話しているのを見守りながら、ネズとサブマス双子はそんな話をしていた。自分達にまず出来ること。それは、新しく設立したポケモンセンターに足を運ぶこと。
 双子もネズの言葉に賛同し、ラルゴ達の会話に混ざりに近付いた。こうして、リレイン王国にもポケモンと人間への共存の道が1つ、また増えたのだった。




  Ep.03s-1 【合流!若きポケモン博士】 END.

Ep.03-s2【六つの色が揃う時】 ( No.132 )
日時: 2022/06/02 22:06
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 リレイン城下町にポケモンセンターが設立した3日後のことだった。客のかきこみ時も大分落ち着いた未の刻の頃、ネズ達はハスノが経営しているレストランにてのんびりとしたひと時を過ごしていた。
 なお、現在彼女の店にいる面子はネズを始め、ノボリ、クダリ、オービュロン、大典太、信濃といった顔ぶれだった。彼ら以外の客は出払っており、今は所謂"貸切"と言われる状態だった。


 皆思い思いのデザートを頼み、仕事で疲れた頭を癒している。ネズはレアチーズケーキと"ヒュプノスブレンド"と呼ばれる茶葉を使用した紅茶、ノボリはフレンチトーストにブラックコーヒー。クダリは如何にも甘そうな果物が沢山乗ったパンケーキにココア。オービュロンと信濃は以前燭台切に取ってもらっていた冷やしスコーンとアイスティー、信濃はそれに加えて緑茶がテーブルの上に並んでいた。大典太も信濃に習い、緑茶をゆっくりと啜っていた。



「すこーんッテコンナニ美味しい食べ物ダッタノデスネ!初めての感覚デス!」
「洋風なお店だけど和食も食べられるのはいいよね。今度食べに来ようね、大将!」
「とっても贅沢。ぼくすっごい幸せ。おかわりほしい」
「こらクダリ。あなたは普段から甘いものばかり忍ばせているんですから…。もう少し加減なさい。また健康診断でギリギリの数値を出してしまいますよ」
「ノボリは心配性だなあ。ぼく、甘い物食べないと元気が出ないの!」
「ふふふ。そんなに美味しそうに食べてもらえると僕も嬉しいな!」
「すっごい美味しい!毎日食べたいくらい!」
「クダリは甘いものが大好きなんですね。嬉しそうな顔を見るとこっちまで笑みが移っちまいますよ」
「ぼく、甘いもの大好き!いくらでも食べられちゃう!」



 クダリがそう言い、幸せそうにパンケーキを一口頬張る。まるでリスみたいだなという表情でネズは彼の様子を見ていた。バカンスの時から薄々感じてはいたが、クダリは相当な甘党である。ホテルでの美味しい食事よりも、隅に置かれているデザートの方に先に目が行っていたことも記憶に新しい。そのことをノボリにやんわり話してみると、彼は"甘いものが好みなのは結構なのですが…"と、毎年の健康診断に引っかからないようにコントロールするのが大変だということを話してくれた。


 しかし、テーブルを囲むように出されたデザートは全てハスノの奢りである。いくら城下町の人間だとはいえ、料金を払わずに食べるのは如何なものかとネズは思っていた。丁度ハスノがお茶のおかわりを持ってきた為、意を決して聞いてみることにした。



「本当に良かったんですか?ちゃんと正規の値段払いたいんですが。タダでこんな美味しいデザートいただいちまって」
「良いんですよ~!皆さんには午前中、客寄せのお手伝いをしていただきましたし~。そのお礼と思っていただければ~!」
「単におれが歌って広場に住民集めてたのを、みんなでレストランに誘導しただけのような気も。というか、いつの間におれの歌が国中に広がってたんですか? 別に悪い気はしませんが」
「……ここだけじゃない。ダイヤモンドシティでも、果てはドルピックタウンやキノコ王国でも流行り始めているぞ。あんたの新曲…」
「ネズさんの歌、とってもいい歌。流行るの当然」
「新曲も早速拝聴させていただきました!さりげなく背中を押していただける応援歌。わたくし、とても好みです!」
「そりゃどうも」



 実は彼らは午前中、レストランの客寄せを手伝っていた。その実、ネズが広場でストリートライブを開催していたのを、通りがかったノボリが"レストランに誘導すれば客寄せということになるのでは?"と思いつき、その場にいた議事堂のメンバー総出でライブ終了後にレストランへ誘導、宣伝を行っていたのだ。
 お昼時だということもあり、店は大繁盛。そのことを知ったハスノにお礼がてら店を貸切にした上でデザートを御馳走になっていた、というのが事の顛末である。


 他愛ない話をしながらものんびりと過ごしている最中だった。誰もいない筈の店の扉がからからとなる音がした。思わず音がした方向を向いてみると、顔つきの非常に似た2人の男性がドア越しに倒れているのが見えた。服はボロボロだが、紫色と桃色のパーカーだということが見てとれた。
 傷だらけの2人を見て一同は驚き、思わず席を立って彼らの介抱にあたる。よくよく見てみると、まるで双子のように瓜二つ。彼らの顔を見て、思わずノボリとクダリは"世界は狭い"と思ったのだった。


 空いているソファー席に2人を寝かせた後、彼らが目覚めるのを待つ。ボロボロだったが、致命傷になりかねない怪我はしていない為まずは話を聞こうという判断になったのだ。
 10分ほど様子を見ていると、2人同時に閉じていた眼が開くのが確認できた。きょろきょろと見回し、見覚えのある栗色のポニーテールを発見し彼らは縋りついた。



「お、オーナーっ?! どこに行ってたんですか?!」
「オーナーだ。おれは夢でも見てんのか…?」
「やっぱり一松さんとトド松さんだったんですね~!お久しぶりです~。色々聞きたいことはありますが、まずはご無事で良かったです~!」
「一松…トド松…。どっかで聞いたような…」
「……そうか。前の世界では燭台切は顕現していなかったんだな。……ハスノがこの店を構える前にいた世界で開いていたカフェで雇っていた2人だ」
「―――あぁ!思い出したよ。そういえば心配そうに彼らの名前を言っていたなぁ。名前が似ているから兄弟だとは思ってたけど、まさか双子だっただなんて…」
「……違う。あいつらは六つ子だ…」
「む、六つ子でございますか?!」
「あと4人兄弟がいるの?!」
「ガラルのジムリーダーにも兄弟が多い奴はいますけど…。そいつら全員同い年ってのは初めて聞きましたよ」



 知っている存在が目の前に現れて思わずぐずりだす2人。そんな彼らをハスノは優しく抱きしめ、よしよしと宥めたのだった。そして、彼らを落ち着かせた後まずは事情聴取を行うことにした。
 何故彼らがこんなにボロボロの状態で店に現れたのか。誰かに襲われたのが筋であろうが、詳しく話を聞かねばならないと彼らは判断していた。
 そのことを尋ねると、トド松は再び焦燥する。ここに来るまでに相当酷い目に遭ったということは表情から感じ取れた。



「知らない場所で目を覚まして…かなり南の方なんだけどさ。匿って貰ってたんだけど…急に襲われて…。怖い…怖い…!」
「ボク達無関係なのに!刀を持った連中に襲われて命からがら逃げてきたんだよ!」
「……刀を持った連中だと? 何者か名乗っていなかったのか…?」
「逃げるのに必死だったから記憶が正しいかはわからないけど…。確か"時の政府"って言ってた」
「…………!」



 トド松が発した"時の政府"という言葉に大典太は反応した。何故、彼らの口からその言葉が出てきたのだろうか。彼らは刀剣男士と関わったことも無ければ、彼らに触れたりした過去もない。六つ子だというのなら、誰かに間違われて追われていてもおかしくはないが、そもそも"時の政府に襲われる理由"が彼らには微塵もなかった。
 信濃もトド松の言葉に何か心当たりがあるようで、顔をしかめながら大典太にこう言う。



「そういえば…。時の政府については俺も何も知らないや。大典太さんを"時の狭間"って場所に一回捨てたことくらいしか…」
「……何故そのことを?」
「僕も話には聞いているよ。確か、全部の本丸にその時連携があった筈だ。"危険な霊力を持つ天下五剣を時の政府が処理した。だから安心してほしい"って。思い出せたのはそこまでだから僕も何とも言えないけど、多分どの本丸の天下五剣のみんなもいい気はしなかっただろうね」
「酷い話だね。力が強すぎるがゆえに捨てる、だなんて…」
「……俺達の霊力は、"在る"だけで世界を歪ませていくものらしい。時の政府は俺達の霊力で、自身の尊厳や居場所が無くなることを恐れたんだろう…。……真意は知らないし、俺達は幸せを全部奪われたんだがな…」



 時の政府には天下五剣にはいい思い出が無い。彼らに捨てられた過去があるからだ。しかも、信濃と燭台切の証言から時の政府はそれを"良いこと"のように触れ回っていたことが明らかになった。彼らの真意は分からないが、自分達の威厳が大事なのだということは改めて大典太の中で結論がついた。
 "今の"時の政府がどうなっているかは彼らにも分からない。しかし、トド松達を襲うような行動に出たということは放置するわけにはいかなかった。



「……世界にばら撒かれた刀剣のこともある。時の政府の動きについて何かしら知りたいが…」
「うーん。今の時の政府がどうなっているかなんて、僕達には知る由もないからねぇ。何か、きっかけがあるといいんだけど…」
「それも大事ですが、今はこの2人をどうするかを先に話し合った方がいいんじゃないですか? 襲われたことは事実ですが、今はこいつらをどうにかするのが先決です」
「それに関しては問題ありません~。アシッド社長にもお話して、わたしが改めてお二人を従業員として雇いますから!」



 時の政府がどういう行動を行っているかも気になるが、まずは一松、トド松両二名をどうするかを決める方が先だとネズが話を戻した。それに続くようにハスノが"問題ない"と告げる。彼らを再び従業員として雇うことを既に決めていたからだった。
 その言葉にトド松も一松も口をあんぐり開けている。突拍子もない発言に何も言葉が出てこなかった。



「……いいの?」
「いいんですいいんです~!城下町にも少しずつ観光客の方や来訪される方、住人も増えておりますし~。正直燭台切さんと2人で回すのは限界がき始めていまして~。ここで従業員を募集しようかなと考えていたところなんですよ~。
 ですから、もしお二人が良ければまた従業員として一緒に頑張っていきたいです~!」
「オーナー…!」
「それに、アシッド社長も安心させなければなりませんし~。ご兄弟が見つかったことは早くおそ松さんに連絡して差し上げないと~」
「えっ。兄さん今アシッド社長のところにいるの?!」
「とっくの昔に秘書業やめて逃げ出してるかと思ってた…」
「……相変わらず兄への暴言は止まないな」



 ハスノのまっすぐな目に、トド松も一松も"断る"という選択肢を選ぶわけが無かった。そもそも、自分の殻を抜け出そうとした際に手を差し伸べてくれたのが彼女なのである。そんな彼女からのスカウトを誰が断ろうものか。願いを聞き入れることを返すと、ハスノは嬉しそうに顔を綻ばせた。
 "これでもっと店も繁盛しそうだ"と喜ぶ彼女を尻目に、彼らは隣に立っているホスト風の男性を見やった。刀剣男士のことは、カラ松達を通じてかろうじて知っている程度だ。大典太とは顔を見合わせたくらいはあるが、やはり雰囲気が怖いのだろう。未だまともに話せた試しがない。


 勇気を出してトド松が男性について確認をすると、ハスノは笑顔で燭台切について話を始めた。



「この世界で目を覚ましてから、ずっとお店のお手伝いをしてくださっているんですよ~。今後一緒に働く同僚ということになりますね~!」
「"燭台切光忠"だよ。これからよろしくね、トド松さん。一松さん!」
「…………」



 笑顔で手を差し伸べられた表情を一松とトド松は見やる。自分達よりも美形なのは明らかである。そんな彼が同僚と説明され、彼らには微かな嫉妬心が生まれていた。自分達が従業員として働いたとて、花形で女性に人気を博すのは明らかに彼であろう。
 そして、彼らにはもう1つ気になる点があった。自分達を背負ってソファーまで連れて来てくれたという双子。黒と白の、対照的な車掌服を着用している彼らのことも気になっていた。彼らについても話を聞くと、ハスノは"議事堂でラルゴ町長のお手伝いをしてくださっている双子だ"と答えた。この街に常駐していることを知り、"同い年の兄弟"というアイデンティティも吸われているような感触がしていた。更に付け加えると、彼らは"美形の双子"。隣に並んだ時、周りに群がるのがどちらなのかは明白だった。



「一松兄さん。ボク達このままじゃいずれ埋もれちゃうよ。燭台切さんは同僚だしオーナーからかなり信頼されているみたいだから仕方ないけど、あの車掌っぽい双子はいつか始末しないと」
「今のうちに排除しとかないとおれ達の存在意義が無くなる…。いやおれ元々ゴミみたいなもんだけどさ」



 流石に燭台切にターゲットを向けるとハスノに何をされるか分からない為、まずは車掌の方から引き摺り下ろそうと醜い会話を繰り広げる。久々の松野家のクズ発言だった。
 そんな視線を背後から向けられているのも露知らず、当のサブマス双子は優雅にティータイムと洒落込んでいる。向かいに座っているネズには全て見えていた。後ろのパーカーの男達がノボリとクダリに嫉妬心を抱いていることを。
 ジト目で双子を見ていることに気付き、不思議そうに双子はネズに尋ねる。



「ネズさま。どうかなさいましたか? お顔が険しく見えます」
「美味しいデザートいただいてるのに、そんな顔駄目!スマイルだよ、ネズさん!」
「……後ろから物凄い嫉妬のオーラがこっちに向かってきているんですが。あんた達、何かやりました?」
「……今までいなかったものが急に現れたから焦っているんだろう…」
「あはは…。仲良くなれるかなぁ」




 燭台切も双子の背後からの嫉妬オーラに気付いており、思わず苦笑いをしていた。心配そうに自分達を見るネズに、ノボリとクダリは不思議そうに首を傾げていたのだった。




  Ep.03s-1 【六つの色が揃う時】 END.

Ep.03-s3【狭間の世界での出来事】 ( No.133 )
日時: 2022/06/04 22:23
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ―――あぁ、身体が重い。


 ここは何処なのだろう。自分は一体何をされたのだろう。確認したくとも、身体が思うようにいうことを聞かない。確かめねば。今自分が何処にいるのか。


 ―――力が、身体に力が入らない。


 いっそこのまま暗闇に身を委ねてしまえば楽になるのではないか。少女は一瞬そう思うも、彼女の中に眠る正義感がそれを許さなかった。どうにかして目を覚まさなければならなかった。起きて、ここが何処かを確認せねばならなかった。



『おーい』



 ふと、頭上から声が聞こえる。誰なのだろう。自分を探しに来たのだろうか。しかし、意識を失う前に聞いていた声とは全く違う。



『おーい 生きてるかー?』



 どうやら自分を心配しているらしい。ならばその気持ちを長引かせぬよう、目を覚まさなくてはならない。少女は重たい身体を必死に動かした。覚ませ。目を覚ませ。この暗闇から早く脱却を図るのだ。

































「……ん、んぅ…?」



 ぼんやりとした瞳が最初に捉えたのは、"白"だった。視界が徐々にはっきりして、その白い何かの正体が"人"だと理解する。そして―――。
 その人間は、少女の顔のすぐ近くにあることを知る。見知らぬ男に顔をガン見されている。事実を知った少女―――"ユウリ"は、思わず叫んだ。



「い、いやぁぁぁぁっ?!」
「うおっ?!」



 あまりの大声に白い男は狼狽える。そして、ユウリはがばりと身体を起こした。彼女が目覚める前に見ていた世界とあまりにも違う光景に、思わず言葉を失う。自分が地面に横たわっていたことから、かろうじて地面が黒いことは分かる。しかし、それ以外も黒いのだ。何もかもが黒い。空も、地面も、見るもの全てが黒かった。


 だからこそ、目の前でユウリを見ていた男性の白さが際立った。はっとしたユウリは先程絶叫した無礼を謝罪した。男は"気にしていない"という素振りを見せ、彼女に向かって話しかけてきたのだった。



「いやー。まさかこんな道のど真ん中に堂々と倒れている人間がいるとは思わなかったな。俺も驚いたよ。君、名前は?」
「"ユウリ"といいます。けど…自分から名乗るのが礼儀というものではないですか?」
「おっと、そりゃそうだ。俺は"鶴丸国永"だ。平安時代に打たれてから、主を転々としながら今まで生きてきた刀さ」
「刀…。あっ。もしかして "刀剣男士" さん?」
「おや? 俺達のことを知っているのかい?」
「はい。以前、貴方とは別の刀剣男士さんを助ける為に協力したことがあったので」
「成程なあ。理解が早いってことは説明が省けていい。ま、これも何かの縁ってことだ。これからよろしく頼むぜ、ユウリ」



 男は"鶴丸国永"と名乗った。平安時代の刀工、五条国永の在銘太刀である。現の世界では皇室御物とされている為、滅多に公開されることのない神聖な太刀だ。
 ユウリが彼のことを人間ではなく"刀剣男士"と呼んだことに鶴丸は一瞬驚くも、刀剣男士自体のことを知っている素振りなことからすぐに理解をした。ならば彼女に敵対する必要はない、と判断し、ユウリに協力する姿勢を見せた。


 自己紹介が終わった後、ユウリは鶴丸にここが何処かを尋ねた。怪しいリーグスタッフに襲われ意識を失う前にいたシュートシティでは明らかにない。ならば、自分のいる場所が何処かを確認するのが一番最初にやるべきことだった。
 鶴丸は少し考える素振りをした後、かいつまむようにこう答えた。



「そうだなあ。複雑な事象が絡み過ぎてどこから説明したらいいものか。ユウリは"神"っていると思うか?」
「何ですか急に。神様と呼ばれているポケモンなら知っています」
「ポケモンとはちょっと違うなあ。だが、今はそいつらと似たような存在だと考えてもらっていい。ここは―――"悪い神が創り出した世界"。君が元々いた世界とは断絶された、別世界さ」
「つまり…私、元々いた世界からワープしてきちゃったってことですか?!」
「そういうことになる。そして…これは俺の推測なんだが。ユウリ。君は恐らく…"生贄"として選ばれてしまった。悪い神が復活する贄にな」
「……えっ?!」



 鶴丸の口から放たれる言葉にユウリは理解が追いついていない。かろうじてここが"ガラル地方ではない"ということはやっと理解が追いついたが、自分が悪い神に捧げられる生贄だということは未だに信じられなかった。確かにポケモンの神話には、人間を生贄にして村の平和を持続させる、などという話も存在したような記憶も薄っすらある。
 しかし、それに自分が選ばれてしまったなどとはっきり言われては、ユウリは返す言葉も見つからなかった。



「まあ驚くのも無理はない。まさか神が人間を犠牲にしてまで回復を速めるなんて俺も理解の外だったからなあ」
「早くここから出てガラル地方に帰らないと!私、まだ死にたくありません!」
「まあ落ち着け。実は、この空間に捕らえられているのは君だけじゃない。今から案内する場所についてきてくれるかい? 脱出の策を練るにしたって、一日二日じゃいい案なんてもんは思いつかない。安心して眠れる場所くらいは必要だろう?」
「私の他にも捕まった人がいるんだ…。でも、確かに鶴丸さんの言う通りかも。脱出する前に私が倒れてちゃ元も子もないし…。分かりました。鶴丸さん、その場所に案内してください」
「承知した」



 この空間に閉じ込められたのがユウリだけではないということを鶴丸から聞き、その人物と合流したいとユウリはせがんだ。訳の分からない場所に閉じ込められたならば脱出すべきだが、1人ではできることにも限界がある。ポケモンも、こんな危ない空間で出してしまっていいのか悩んでもいた。ならば、彼の案内する場所とやらに移動をしてから考えても遅くはないとユウリは判断をした。


 ユウリの言葉を聞き、鶴丸は早速暗闇を指さす。少し歩いたところに建物があるらしい。ユウリはまっすぐ歩き出した白い男を目印にして、見失わないようについていったのだった。


































 ―――鶴丸の言う通り、少し歩いた先に大きな建物が見えてきた。古びた外観をしており、真っ暗闇の中に建っている為一見"お化け屋敷"のようにも見えた。もしかしたら彼の言っている"捕まった人物"が幽霊の類ではないかとユウリは一瞬委縮するも、協力者が増えることには変わりがないと意識を変えてドアの取っ手に手をかける。勇気を心に刻み扉を開くと、音に反応したのか数人がこちらを向いたのが分かった。


 白い帽子を被った茶髪のポニーテールが特徴的な少女。2つのお団子ヘアーが目立つ快活そうな少女。そして、片目を髪で隠している物柔らかな雰囲気の男性の3人がこちらを向いていた。
 お団子ヘアーの少女が"他にもまだ人がいたのか"と驚く素振りを見せ、こちらに来るように手招きをした。動きに応じ素早く移動をすると、少女は笑顔で口を開いた。



「あっ!もしかしてあなたも誰かに襲われてここに?」
「そう、だけど…。貴方も誰かに襲われたの?」
「そうなの。って、自己紹介もせずに話を進めるのはおかしいわよね。まずはお互いのことを知らなくちゃ何も始まらないわ」
「あっ!そうでしたそうでした!さっすがトウコ先輩、頭がいいです!」



 話を進める前に、お互い自己紹介を始めた。ポニーテールの少女は"トウコ"、お団子ヘアーの少女は"メイ"。そして、片目を髪で隠している男性は"にっかり青江"と名乗った。青江は鶴丸と同じく刀剣男士であり、青江がトウコとメイを保護してこの屋敷まで連れてきたのだと鶴丸は説明をした。
 ユウリは自己紹介を終えた後、自分に何が起こってここで目を覚ましたのかを覚えている範囲で説明をした。すると、トウコとメイの目が見開いたのが分かった。どうやら、彼女達も似たような目に遭ってここで目を覚ましたのだという。



「ユウリさんもわたし達と同じような目に遭ってここで目を覚ましたんですか?!」
「そうなの…。トウコ達と違って、私はその時1人だったんだけど」
「ノボリさん、苦しそうでしたよね。大丈夫なんでしょうか」
「おっと。自分達の境遇を棚に上げて他人の心配かい? 優しいな」
「それはそうだけど!でも、あたし達は助けようとしてくれた人達が傷付いたのを倒れる前に見たの。心配するのは当然だと思う」
「私…1人で良かったのかな。もしかしたら、倒れた私を誰かが見つけてその人が被害に遭ったとか…」
「推測で物事を話すものじゃないよ。たらればの話じゃなく、君達は今出来ることをやらないと。君達が信頼する人達なんだ、絶対に大丈夫。そう思って行動をするんだ。
 それにしても…まさか生贄に選ばれてしまったのか、こんないたいけな少女達だなんて。笑えないよね」
「そうだなあ。何を思ってこの子達を攫ったんだかは知らないが、このまま何もしないんじゃ…ただこの子達がアンラのエネルギーにされるのを黙って見ているだけになっちまうからな」



 生贄としてこの空間に閉じ込められていることは明らかだ。ならば、3人をどうにかしてこの空間から出さなければ、いずれアンラが回復する贄にされてしまうことは目に見えていた。
 ただ、"今すぐ"という訳ではない。アンラの作り出した空間ではあるが、彼女の力は今は感じない。であれば、打てる策を考えるのも今だと彼女達は考えていた。
 しばらく沈黙が続く中、ふとユウリがある考えを閃いた。



「そうだ!この屋敷を今から探索してみようよ!」
「探索、ですか?」
「この屋敷も元々は別の場所にあったのかもしれないし…。もしかしたら、元の世界に戻る為の手がかりがあるかもしれない!」
「確かに考えてみればそうね。この屋敷以外に目ぼしい建物や木々すら無かったんだもの。この建物すら"別の場所から飛ばされてきた"って考えても無理ないわ」
「わたし、元気だけは有り余ってます!何でもやります!気軽に頼ってくださいね、トウコ先輩、ユウリさん!」



 この屋敷も元々は"この場に無かったものかもしれない"と推測を立て、屋敷の探索をしてみようと一同に持ち掛けた。これだけ大きな屋敷なのだから、何か知識が眠っている場所があるかもしれないとユウリは判断したのだ。トウコもメイも、ユウリの言葉に一理あると彼女の出した案に賛成をする。
 早速3人は意気投合し、屋敷の探索をする為に動き始めた。行動が早いと感心しつつも、刀剣男士二振は彼女達の背中を追うように動く。



「元気だねぇ」
「落ち込むよりはいいだろう。それに…。俺達もこの空間で全力が出せないことは事実だ。サポートは最大限するつもりだが…。俺達もいつあいつの邪気に意識が呑まれるか分からん。それだけは頭の片隅に入れておいてくれよ、青江」
「そうだね。僕達は最悪どうなってもいいけど…。せめて、被害者である彼女達だけはこの空間から出してあげなくちゃ」




 そんな会話を繰り広げつつ、二振も3人の後を追ったのだった。

Ep.03-s3【狭間の世界での出来事】 ( No.134 )
日時: 2022/06/04 22:25
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 屋敷を探索していた3人と二振は、1階のとある部屋に書物が沢山詰め込まれているのを発見した。試しに一冊開いてみると、ユウリには理解できない言葉で魔法のような記述がなされてあった。"これは何かある"。そう確信した彼女は一同に図書室を詳しく調べることを提案し、皆で手分けをして脱出の手掛かりになりそうな本を探し始めた。


 その最中、ユウリは天井付近にある棚から偶然一冊の本を落としてしまう。近くにいたトウコに拾ってもらい、棚に戻そうとした矢先だった。タイトルに見覚えのある記述があるのを彼女は発見した。
 本の表紙には"ウルトラホール発生 実験議事録"と書かれている。確かに、落としたものはノートのような作りをしており、タイトルも手書きのように見える。
 ユウリはノートを仕舞うのを止め、中身を見てみることにしたのだった。


 どうやらこの屋敷でウルトラホールを開ける実験をしたようで、その様子や実験結果などの記述があった。古い書物なのか所々くすんで見えない箇所があるが、"ウルトラホールを開ける為に必要なもの"等の記載は運よく残っていた。
 トウコも一緒にノートを覗き見、ウルトラホールの実験についての感想を言い合った。



「ウルトラホール…。アローラ地方特有の現象だったよね。なんか、数年前にホウエン地方にも開いたとかって話を聞いたけど。
 あれ? この屋敷にあるもので再現できるのかな?」
「どうかしたの?」
「ウルトラホールを開ける実験、この屋敷で行われていたみたいなの。なら、実験に使った物が倉庫に残ってるかもしれない。もし私達の手で開けることが出来たら、そこを通って元の世界に帰れるかもしれないよね」
「本当ですか?!」



 ユウリとトウコの話を聞いていたメイが背後から元気よく声をかけた。この屋敷を軽く探索して分かったことは、この屋敷には元々"人間が住んでいた訳ではない"ということだった。普通の人間が普段使用するような道具ではない、魔術的な道具が飾られてあったことも気になった。
 ならば、ウルトラホールを開けた実験に使った道具が残っているかもしれないとユウリは考えたのだ。早速倉庫の場所を確認し、取りにいこうと提案をする彼女。しかし、その声を鶴丸が制止した。



「おーい。いい考えを思いついたのはいいが、君達自身が危険な目に遭っては意味が無いのを忘れないでくれよー」
「分かってるって!でも時には勇気を出さなきゃならない時があるの!きっとそれは今なんだよ!」
「本当に分かっているのかねぇ」
「まぁ。本当に危険になったら僕達が止めればいい。そうだろう? 今はやりたいようにやらせればいいさ」
「俺達が止められる範囲のことであればいいんだけどねぇ」



 ユウリは鶴丸の静止の声を振り切り、早速トウコとメイと共に図書室を去っていってしまった。あまりにも危険に対して猪突猛進すぎないかと鶴丸は心配になるものの、青江が"やりたいようにやらせてみればいい"と彼を宥めた。











 ノートに記述があったウルトラホールを開ける為に必要なもの。"コスモウムの置物"とあった為、彼女達はそれを探しに倉庫まで向かった。もう1つの必要なものである"伝説ポケモンのエネルギー"に関しては、ユウリのザシアンとメイのキュレムの力を借りることにした。
 倉庫に立ち入った3人は、早速置物らしき影を探す。しばらく手分けをして探していると、ふと埃が目立つ棚の奥に宝石のような雰囲気を持つ、不思議な置物を見つけた。手に持ってみると、置物は淡く光り始める。思わず驚くトウコだったが、その光に気付いたユウリがノートに描かれた図と見比べ、"でかした"というように顔を綻ばせた。



「トウコ、これだよ!"コスモウムの置物"!これに伝説ポケモンのエネルギーを注げばウルトラホールが開くんだよ!」
「流石ですトウコ先輩!早速青江さん達の元に戻って実験を試してみましょう!」
「そうね。2人には伝説ポケモンをコントロールしてもらう役目があるし、置物はあたしが持って行くわ」



 3人の少女は"帰る道が見つかるかもしれない"という小さな希望を抱き、図書室へと戻っていったのだった。











 再び図書室に戻ると、鶴丸は本を見るのに飽きたのか机にぐったりとしている。青江に"ユウリ達が帰って来たよ"と唆され、寝ぼけ眼だった表情を一変させ彼女達の方を見た。
 お目当ての物を見つけたらしく、物珍しそうな顔で置物を見る。鶴丸や青江から見ても、置物からは不思議な力を感じていた。
 トウコが机に置物を置いたのを確認した後、ユウリとメイは早速伝説のポケモンをその場に出すことに決めた。



「出ておいで!ザシアン!」
「力を貸してください!キュレム!」



 空に放り投げられたボールから出てきたのは、剣を口にくわえた狼のような伝説のポケモン"ザシアン"と、氷のような雰囲気を纏った伝説のポケモン"キュレム"だった。
 ザシアンとキュレムは彼女達にひと鳴きした後、指示に従ってコスモウムの置物にエネルギーを注ぎ始めた。



「ノートの記述によると、エネルギーが溜まっていくごとに置物がどんどん光っていくらしいんだけど…」
「み、見てくださいユウリさん!トウコ先輩!言った傍から光ってます!すっごく怪しいです!」
「なんか、想像と随分違う光り方ね…?」



 メイが指さした先では、彼女の言った通り置物が光り始めていた。しかし、3人が想像していたものとはほど遠く、まるで邪悪なものが蘇りそうな程におどろおどろしい光り方だった。しかし、ここまできてやめるわけには行かない。ここで帰る手がかりを失ってしまえば、いずれ自分達は悪の神の生贄になって死んでしまうのだ。そう思ったら手を止める訳にはいかなかった。


 そのまま様子を見ていると、ふとコスモウムの置物の手前の空気に変化があった。鶴丸は小さな変化に気付き、3人娘を守るように前に立つ。
 それと同時だった。空間を割くように、いびつな小さな穴が空中に開いた。



「わっ!開きましたよ!でも小さすぎて1人も通れそうにありません!」
「エネルギーが足りないのかな。ザシアン、もう少しエネルギーを出す量を『君の全てを失いたくないならそれ以上はやめるんだな』 ……鶴丸さん?」
「嫌な予感がする。俺の近くから離れないでくれよ。―――っ!」
「本が、穴の中に吸い込まれていく―――?!」



 鶴丸がユウリに制止をかけたと同時に、開いたウルトラホールが周りのものを吸い込み始めた。その吸引力は小さくともかなり強く、もしもう少し大きな穴が開いていた場合人間を吸い込みかねないと鶴丸は予測をしていた。
 机に一旦置いてあった本が軽々と穴の中に吸い込まれていく。トウコもそれに気付き、近付いては危険だと穴から離れた。


 暫くすると、穴は徐々に小さくなっていき何も無かったかのように元通りになった。もし、あの中に誤って落ちてしまったら人間はどうなるのだろう。得体の知れない場所で、"自分が自分だと分からなくなってしまうかもしれない"。そんな恐怖を鶴丸は穴から感じていた。
 背後で"実験は失敗だなー"と呑気な声が聞こえる。ユウリのものだった。コスモウムの置物も、いくらザシアンにエネルギーの充填を指示しても先程のように光ることは無かった。仕方なくザシアンとキュレムをボールに戻したのだった。



「ウルトラホールは開けられたけど、あの小ささじゃ人は通れない。次やる時はもっと大きく開けなきゃ…」
「ユウリ。この方法は辞めた方がいい。君達があの穴に吸い込まれてはいけない気がする」
「どうして? せっかく見つけた手掛かりなのに…」
「仮にあの穴に君達が入れたとして、最悪記憶を失ってしまったらどうする? 命を落としてしまったらどうする? 元の世界に戻れたとして、元通りの生活には二度と戻れないんだぞ?」



 鶴丸が珍しく焦っている。青江もそれには気付いていた。あの穴が安全である保障はない上、鶴丸にとっては"危険なもの"だと結論がついたのだろう。青江も同じ考えを抱いていた為、彼に続いてユウリに考え直すよう優しく説得を試みた。



「僕も彼に賛成かな。入ったら最後、何が起こるか分からないものに無暗に飛び込んじゃ駄目だ。もしウルトラホールとやらで帰ることを決めても、もう少し穴の危険性について調べてからでもいいんじゃないかな?」
「そう、かな…。調べているうちに私達、生贄にされちゃったら意味無いんだけど…」
「そうすぐに捕まえた奴が来るわけないわよ!そのつもりならあたし達を自由にしている訳がないもの。それに…あたしも、あの穴を見た時嫌な予感がした。あたしの大事な人が、巻き込まれてひとりぼっちになっちゃう気がしたの。
 ねえユウリ、お願い。別の方法を探さない? 無理やり穴を開けたら、今度こそあたし達無事じゃ済まない気がするの」



 トウコも鶴丸達に続いてユウリの説得に入る。彼女のまっすぐな目にユウリは遂に折れた。みんなが"危険"だというならば、みんなを巻き込んで危険なことを続ける義理もない、と。彼女は大人しくノートを鶴丸に渡す。彼は"ありがとう"とユウリの頭を撫でた後、ノートを棚の中に戻したのだった。
 大事な人が巻き込まれる。ユウリはふとネズのことを思い出していた。もし彼が、あの穴に巻き込まれたらどうなるのだろう?ポケモンのことや歌うことも忘れて、死人のように知らない世界を彷徨い続けることになった暁には―――一体、何が見えるのだろうか。
 そう考えたら、ユウリは背中が凍り付くように冷たくなった。



「まぁ、生き急ぐこともない。アンラの野郎の気配を今は感じないってことは、まだ"手を出す時じゃない"ってことだからな。ゆっくり脱出方法を模索しても罰は当たらないと思うぜ?」
「そうですね…。わたし、クダリさんと早く会いたくてそわそわしちゃってたかもしれません」
「きっと一日二日じゃ脱出できるとは思えないからね…。折角見つけた屋敷だし、有効活用させてもらおう。幸いベッドやシーツはまだ使えそうだったからね。電化製品も電気を流せば動かせるはずだよ」
「(悪い神様がここに来るまでに…何とかここから脱出しなきゃ。生きて、もう一度ネズさん達に会うんだ…!)」




 ユウリの猪突猛進から始まった小さな脱出作戦は失敗に終わったが、まだアンラの気配は感じない。しかし、時間の猶予が沢山残されているとはユウリにはとてもではないが思えなかった。
 必ずここから生きて脱出する。そして、ネズ達に元気な姿を見せる。ユウリはそう心に誓ったのだった。




 Ep.03s-3 【狭間の世界での出来事】 Fin.


 to be continued…


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