二次創作小説(新・総合)
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- 繋がる世界と未来の物語【Ep.04-2完結】
- 日時: 2025/10/03 21:52
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)
―――これは、"全てを元に戻す"物語。
それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。
どうもです、灯焔です。
新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
また、オリジナルキャラクターも登場します。
苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2
<目次>
Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17
Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37
Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53
Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67
Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89
Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130
Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148
ep.04-1 【天下五剣が集うとき】 完結
>>166 >>167-171 >>172-176
Ep.04-2【新世界の砂漠の華】 完結
>>178 >>179-180 >>181-185 >>186-188
※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54
Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111
Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151
Ep.04
【月と超高校級の来訪】 >>177
※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108
Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163
<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150
>>164-165
最終更新日 2025/10/03
以上、よろしくお願いいたします。
- Ep.03-s3【狭間の世界での出来事】 ( No.134 )
- 日時: 2022/06/04 22:25
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
屋敷を探索していた3人と二振は、1階のとある部屋に書物が沢山詰め込まれているのを発見した。試しに一冊開いてみると、ユウリには理解できない言葉で魔法のような記述がなされてあった。"これは何かある"。そう確信した彼女は一同に図書室を詳しく調べることを提案し、皆で手分けをして脱出の手掛かりになりそうな本を探し始めた。
その最中、ユウリは天井付近にある棚から偶然一冊の本を落としてしまう。近くにいたトウコに拾ってもらい、棚に戻そうとした矢先だった。タイトルに見覚えのある記述があるのを彼女は発見した。
本の表紙には"ウルトラホール発生 実験議事録"と書かれている。確かに、落としたものはノートのような作りをしており、タイトルも手書きのように見える。
ユウリはノートを仕舞うのを止め、中身を見てみることにしたのだった。
どうやらこの屋敷でウルトラホールを開ける実験をしたようで、その様子や実験結果などの記述があった。古い書物なのか所々くすんで見えない箇所があるが、"ウルトラホールを開ける為に必要なもの"等の記載は運よく残っていた。
トウコも一緒にノートを覗き見、ウルトラホールの実験についての感想を言い合った。
「ウルトラホール…。アローラ地方特有の現象だったよね。なんか、数年前にホウエン地方にも開いたとかって話を聞いたけど。
あれ? この屋敷にあるもので再現できるのかな?」
「どうかしたの?」
「ウルトラホールを開ける実験、この屋敷で行われていたみたいなの。なら、実験に使った物が倉庫に残ってるかもしれない。もし私達の手で開けることが出来たら、そこを通って元の世界に帰れるかもしれないよね」
「本当ですか?!」
ユウリとトウコの話を聞いていたメイが背後から元気よく声をかけた。この屋敷を軽く探索して分かったことは、この屋敷には元々"人間が住んでいた訳ではない"ということだった。普通の人間が普段使用するような道具ではない、魔術的な道具が飾られてあったことも気になった。
ならば、ウルトラホールを開けた実験に使った道具が残っているかもしれないとユウリは考えたのだ。早速倉庫の場所を確認し、取りにいこうと提案をする彼女。しかし、その声を鶴丸が制止した。
「おーい。いい考えを思いついたのはいいが、君達自身が危険な目に遭っては意味が無いのを忘れないでくれよー」
「分かってるって!でも時には勇気を出さなきゃならない時があるの!きっとそれは今なんだよ!」
「本当に分かっているのかねぇ」
「まぁ。本当に危険になったら僕達が止めればいい。そうだろう? 今はやりたいようにやらせればいいさ」
「俺達が止められる範囲のことであればいいんだけどねぇ」
ユウリは鶴丸の静止の声を振り切り、早速トウコとメイと共に図書室を去っていってしまった。あまりにも危険に対して猪突猛進すぎないかと鶴丸は心配になるものの、青江が"やりたいようにやらせてみればいい"と彼を宥めた。
ノートに記述があったウルトラホールを開ける為に必要なもの。"コスモウムの置物"とあった為、彼女達はそれを探しに倉庫まで向かった。もう1つの必要なものである"伝説ポケモンのエネルギー"に関しては、ユウリのザシアンとメイのキュレムの力を借りることにした。
倉庫に立ち入った3人は、早速置物らしき影を探す。しばらく手分けをして探していると、ふと埃が目立つ棚の奥に宝石のような雰囲気を持つ、不思議な置物を見つけた。手に持ってみると、置物は淡く光り始める。思わず驚くトウコだったが、その光に気付いたユウリがノートに描かれた図と見比べ、"でかした"というように顔を綻ばせた。
「トウコ、これだよ!"コスモウムの置物"!これに伝説ポケモンのエネルギーを注げばウルトラホールが開くんだよ!」
「流石ですトウコ先輩!早速青江さん達の元に戻って実験を試してみましょう!」
「そうね。2人には伝説ポケモンをコントロールしてもらう役目があるし、置物はあたしが持って行くわ」
3人の少女は"帰る道が見つかるかもしれない"という小さな希望を抱き、図書室へと戻っていったのだった。
再び図書室に戻ると、鶴丸は本を見るのに飽きたのか机にぐったりとしている。青江に"ユウリ達が帰って来たよ"と唆され、寝ぼけ眼だった表情を一変させ彼女達の方を見た。
お目当ての物を見つけたらしく、物珍しそうな顔で置物を見る。鶴丸や青江から見ても、置物からは不思議な力を感じていた。
トウコが机に置物を置いたのを確認した後、ユウリとメイは早速伝説のポケモンをその場に出すことに決めた。
「出ておいで!ザシアン!」
「力を貸してください!キュレム!」
空に放り投げられたボールから出てきたのは、剣を口にくわえた狼のような伝説のポケモン"ザシアン"と、氷のような雰囲気を纏った伝説のポケモン"キュレム"だった。
ザシアンとキュレムは彼女達にひと鳴きした後、指示に従ってコスモウムの置物にエネルギーを注ぎ始めた。
「ノートの記述によると、エネルギーが溜まっていくごとに置物がどんどん光っていくらしいんだけど…」
「み、見てくださいユウリさん!トウコ先輩!言った傍から光ってます!すっごく怪しいです!」
「なんか、想像と随分違う光り方ね…?」
メイが指さした先では、彼女の言った通り置物が光り始めていた。しかし、3人が想像していたものとはほど遠く、まるで邪悪なものが蘇りそうな程におどろおどろしい光り方だった。しかし、ここまできてやめるわけには行かない。ここで帰る手がかりを失ってしまえば、いずれ自分達は悪の神の生贄になって死んでしまうのだ。そう思ったら手を止める訳にはいかなかった。
そのまま様子を見ていると、ふとコスモウムの置物の手前の空気に変化があった。鶴丸は小さな変化に気付き、3人娘を守るように前に立つ。
それと同時だった。空間を割くように、いびつな小さな穴が空中に開いた。
「わっ!開きましたよ!でも小さすぎて1人も通れそうにありません!」
「エネルギーが足りないのかな。ザシアン、もう少しエネルギーを出す量を『君の全てを失いたくないならそれ以上はやめるんだな』 ……鶴丸さん?」
「嫌な予感がする。俺の近くから離れないでくれよ。―――っ!」
「本が、穴の中に吸い込まれていく―――?!」
鶴丸がユウリに制止をかけたと同時に、開いたウルトラホールが周りのものを吸い込み始めた。その吸引力は小さくともかなり強く、もしもう少し大きな穴が開いていた場合人間を吸い込みかねないと鶴丸は予測をしていた。
机に一旦置いてあった本が軽々と穴の中に吸い込まれていく。トウコもそれに気付き、近付いては危険だと穴から離れた。
暫くすると、穴は徐々に小さくなっていき何も無かったかのように元通りになった。もし、あの中に誤って落ちてしまったら人間はどうなるのだろう。得体の知れない場所で、"自分が自分だと分からなくなってしまうかもしれない"。そんな恐怖を鶴丸は穴から感じていた。
背後で"実験は失敗だなー"と呑気な声が聞こえる。ユウリのものだった。コスモウムの置物も、いくらザシアンにエネルギーの充填を指示しても先程のように光ることは無かった。仕方なくザシアンとキュレムをボールに戻したのだった。
「ウルトラホールは開けられたけど、あの小ささじゃ人は通れない。次やる時はもっと大きく開けなきゃ…」
「ユウリ。この方法は辞めた方がいい。君達があの穴に吸い込まれてはいけない気がする」
「どうして? せっかく見つけた手掛かりなのに…」
「仮にあの穴に君達が入れたとして、最悪記憶を失ってしまったらどうする? 命を落としてしまったらどうする? 元の世界に戻れたとして、元通りの生活には二度と戻れないんだぞ?」
鶴丸が珍しく焦っている。青江もそれには気付いていた。あの穴が安全である保障はない上、鶴丸にとっては"危険なもの"だと結論がついたのだろう。青江も同じ考えを抱いていた為、彼に続いてユウリに考え直すよう優しく説得を試みた。
「僕も彼に賛成かな。入ったら最後、何が起こるか分からないものに無暗に飛び込んじゃ駄目だ。もしウルトラホールとやらで帰ることを決めても、もう少し穴の危険性について調べてからでもいいんじゃないかな?」
「そう、かな…。調べているうちに私達、生贄にされちゃったら意味無いんだけど…」
「そうすぐに捕まえた奴が来るわけないわよ!そのつもりならあたし達を自由にしている訳がないもの。それに…あたしも、あの穴を見た時嫌な予感がした。あたしの大事な人が、巻き込まれてひとりぼっちになっちゃう気がしたの。
ねえユウリ、お願い。別の方法を探さない? 無理やり穴を開けたら、今度こそあたし達無事じゃ済まない気がするの」
トウコも鶴丸達に続いてユウリの説得に入る。彼女のまっすぐな目にユウリは遂に折れた。みんなが"危険"だというならば、みんなを巻き込んで危険なことを続ける義理もない、と。彼女は大人しくノートを鶴丸に渡す。彼は"ありがとう"とユウリの頭を撫でた後、ノートを棚の中に戻したのだった。
大事な人が巻き込まれる。ユウリはふとネズのことを思い出していた。もし彼が、あの穴に巻き込まれたらどうなるのだろう?ポケモンのことや歌うことも忘れて、死人のように知らない世界を彷徨い続けることになった暁には―――一体、何が見えるのだろうか。
そう考えたら、ユウリは背中が凍り付くように冷たくなった。
「まぁ、生き急ぐこともない。アンラの野郎の気配を今は感じないってことは、まだ"手を出す時じゃない"ってことだからな。ゆっくり脱出方法を模索しても罰は当たらないと思うぜ?」
「そうですね…。わたし、クダリさんと早く会いたくてそわそわしちゃってたかもしれません」
「きっと一日二日じゃ脱出できるとは思えないからね…。折角見つけた屋敷だし、有効活用させてもらおう。幸いベッドやシーツはまだ使えそうだったからね。電化製品も電気を流せば動かせるはずだよ」
「(悪い神様がここに来るまでに…何とかここから脱出しなきゃ。生きて、もう一度ネズさん達に会うんだ…!)」
ユウリの猪突猛進から始まった小さな脱出作戦は失敗に終わったが、まだアンラの気配は感じない。しかし、時間の猶予が沢山残されているとはユウリにはとてもではないが思えなかった。
必ずここから生きて脱出する。そして、ネズ達に元気な姿を見せる。ユウリはそう心に誓ったのだった。
Ep.03s-3 【狭間の世界での出来事】 Fin.
to be continued…
- Ep.03-s4【翡翠の地からの贈り物】 ( No.135 )
- 日時: 2022/06/05 22:03
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
―――ここは、シンオウ地方の150年程前の姿と言われている"ヒスイ地方"。ショウとノボリが不思議な旅を終えた三週間後のとある日だった。ショウは珍しくヨネに呼び出され、彼女からとある頼みを聞いていた。
なんでも、最近発生した"大大大発生"の中で、様子がおかしいものが存在するとのことだった。詳しく話を聞いてみると、大大大発生が起きたと同時に"時空の歪み"も同時に発生しているのだそうだ。基本的に時空の歪みと大大大発生は同時に発生することはない。
偶然傍を通りかかったノボリもヨネに呼び止められ、彼女の話を一緒に聞くことになったのだった。
「それは…おかしいですね。2つの現象が同時に発生するなど、聞いたことがありません」
「あんた達が巻き込まれたっていう不思議な時空の歪みのこともあるしさ。実際に見てきてほしいんだよね」
「それは別にいいけど…。ギンガ団に直接依頼をすればいいんじゃないの?」
「それも考えたんだけどさ。またデンボクさんがあんたに悪態をつかないとは限らないだろ? それに、今回は2人共一回この世界から消えてしまっている問題もある。いくら世界を救った英雄だとはいえ、一度抱いたわだかまりってのは中々解消できるものではないよ」
「それは、確かにそうだけど…。そもそも私もノボリさんも被害者なんだけど!」
憤慨するショウをノボリは宥めた。確かにヨネの言うことにも一理ある。そして、各々が所属している団にこの現象が害をもたらすのであれば、早めに対処に動かないとならないと彼はショウに持論を述べた。
自分と同じ異世界の人間なのに、どこまでも滅私奉公を貫く彼にショウは不貞腐れる。"ノボリさんは自分のことを棚に上げ過ぎです" そう思わず呟くと、彼は"ヒスイの地に助けられたのも事実です"と、冷静に切り返した。
ヨネのまっすぐと見つめる瞳に遂に折れ、ショウは彼女の頼みを引き受けることにしたのだった。
「分かった。この現象は私が調べてみるよ。危険そうなら、それぞれの団のリーダーに伝えるから」
「ありがとう。セキにもあたしから話しとくよ」
「どうでしょうショウさま。これから出発されるのであれば、わたくしもその調査にご同行してもよろしいでしょうか?」
「え? 全然構いませんけど…訓練場のことはいいんですか?」
セキへの連絡があるからと一旦ヨネと別れ、ムラから出る彼女を見送る。早速現地へ向かおうとしていたショウを先読みしたのか、ノボリは"自分も同行させてほしい"と申し出てきた。
ノボリはポケモン勝負がすこぶる強い。更に、ポケモンを手懐け捕獲する才能や技術も非常に高い。ショウは彼のことを心の中で"ポケモンたらし"と呼んでいたり呼んでいなかったりする。そんな彼が同行を申し出てきたのだ。遠慮する理由はないが、1つだけ彼女には心残りがあった。
彼は出入りしているだけなのだが、最早"師範"といっても差し支えない扱いであろう訓練場のことだった。いつもショウは自分の手持ちと共に時に厳しく、時に優しく目の前の男に特訓を受けていた。質問を投げかけてみると、ノボリはしゅんとした表情になって小さく呟いた。
「この頃、わたくしに挑戦していただける方がショウさましかおられないのです。本日、遂にペリーラさまに無理やり訓練場を追い出されてしまいました」
「あぁ…」
ノボリの答えを聞いて、ショウは妙に納得をしてしまった。シャンデラがノボリの元に戻って来てからというもの、ノボリの勝負のセンスは更に磨きがかかっていた。戻った一部の記憶を表現するように、挑んできた挑戦者を次々に打破していく。ショウも最近の彼には負け越すことが増えていた。
その為、ノボリを怖がりショウ以外の人物が誰も彼に挑戦しに来なくなったのだ。しかし、勝負を広める為甲斐甲斐しく訓練場に通う彼に"休暇を与えよう"と、ペリーラとカイで話し合い無理やり訓練場から追い出したのが事の顛末だった。
ショウは苦笑いをしながらも、それならばと一緒に調査に行くことを承諾した。
「わかりました。そういうことであれば一緒に行きましょう!ノボリさんと一緒なら私も安心できますし!」
「何かご入用ならばすぐにわたくしをお呼びください。超特急でお傍に参ります。では!ヨネさまの情報を元に、現地に出発進行ーッ!!」
ノボリの威勢のいい言葉に合わせてショウも両手を上げ、早速現場へと向かうことにしたのだった。
2人がえた情報の場所は"天冠の山麓"という土地にある、シンオウ神殿の付近だった。しかし、ヨネから聞いた話と自分の知っている情報とは何もかもが一致しない。この付近は普段大大大発生も、時空の歪みが起きることもない場所なのだ。しかし、2人が見たのは明らかに"大大大発生"の状況だった。その場には生息していない筈のポケモン―――ヒスイゾロアークとヒスイゾロアが大量に神殿付近を歩いている。2人であれば大丈夫そうだが、仮に一般人が近くを通りかかってしまった場合、命は無いだろう。
野生のポケモンに気付かれぬよう木々を隠れ蓑にして神殿の近くまで移動する。そして、ショウとノボリは小さな声で話し合いを始めた。
「おかしいなー?こんなところに時空の歪みも大大大発生も起きることないのに…」
「ですが、ポケモンが大量に発生していることは事実です。ゾロアもゾロアークも普段人里には降りてこないポケモン…。一体何故ここに現れたのでしょう?」
「しかも、この近くにゾロアもゾロアークも出るはずないですよ!今まで体験した何もかもと経験していることが違います!」
ゾロア達の様子を物陰から見ながら、ショウはそう言う。今まで経験したことのない出来事…。ショウはヒスイ地方に時空の裂け目が開いていた時のことを思い出していた。しかし、今は空に裂け目など開いていない。自分がディアルガをボールに鎮め、裂け目を閉じたからだ。"元の世界に帰る術を潰してごめんなさい"。いつか、ショウはノボリに泣きながらそう言ったことがあった。しかし、彼はそれに対しては首を振り、ただ"よく頑張りましたね。辛かったでしょう"と優しく抱きしめてくれたことは記憶に新しい。ショウがノボリと一緒に元の世界に帰ろうと強く決意したのは、そういう経緯も一因していた。
―――過去の思い出に没頭して10分程が経った。ふと空を見た彼女の目に、とんでもないものが映る。ヨネの報告通り、空の様子が急におかしくなったのだった。
2人も常々経験している"時空の歪み"。見た目はそれに近かったが、ショウには普通の歪みとは違うことを一瞬で看過した。まるで、ポケモンの力で生み出されたような―――。
「時空の歪み…!でも、様子が違います!」
そのまま歪みが発生するのを待つ。ゾロアとゾロアークは様子のおかしい時空の歪みが発生しているのにもかかわらず、逃げようとせずのんびりと歩いている。そうしているうちにシンオウ神殿を歪みがすっぽりと覆い、歪みが認識できるようになった。タイミングを図り2人で歪みの中に突入しようとするも、走り出したショウの腕を咄嗟にノボリが掴んだ。
「うわっ?!」
「お待ちくださいショウさま。歪みが…閉じていきます…!」
「えっ…。―――あっ!」
ノボリが空を見るように促す。彼の言葉に従うようにショウも空を見やると、時空の歪みは既に無くなっていた。彼女の瞳に見えているのは、シンオウ神殿の厳かな外観だけである。
そして、彼女は更にとんでもないことに気付いてしまった。歪みに呑まれた筈のゾロアとゾロアークの姿が全て消えていたのだ。見えているのは、しんしんと降り積もる雪景色だけ。
ノボリにとっても想定外だったらしく、珍しく表情を崩している。
「ゾロアも、ゾロアークも、いない…?」
「嫌な予感がいたします。即刻コトブキムラに戻り、事の顛末をデンボク団長へとご報告いたしましょう。カイさまは恐らくまだ訓練場にいるかと思われますので、わたくしも同時に連絡を済ませて参ります」
「了解しました。まだ…まだ、何か起こるのかな? アルセウスを私が捕まえられていないから? それとも…別の理由なのかな?」
「ショウさま。あまりご自分を追い詰めてはなりません。いくら周りが大人だと囃し立てたとて、あなたさまはまだ子供です。限界を感じた際は、どうかお一人で解決しようとなさらないで。わたくしでもいい。周りを頼ってくださいませ」
「あはは…。そんなこと言ってくれるの、この時代ではノボリさんくらいですよ。私を…"子供だ"って言ってくれる人…」
またヒスイに異常が起きようとしている。ショウが"自分がしっかりしていないからだ"とふと思いつめる。図鑑を早く完成させて、アルセウスに会いに行かねば異常は延々と続くのかもしれない。卒倒した表情になったショウの両肩に、ノボリは優しく両手を乗せた。
彼女は英雄と呼ばれた存在だが、まだうら若き15歳の少女なのだ。ノボリはそれを知っていた。いくら記憶を失いヒスイの地で長年過ごそうとも、その価値観だけは絶対に理解するわけにはいかなかったのだ。
ノボリの心配そうな顔を見て、ショウは"ありがとうございます"と感謝を告げた。そして、自分の顔を両手でぱちんと叩いた後に気合を入れ直す。"頼ってもいい"と言ってくれた人の前で弱音は吐いていられないと。
「もう大丈夫です。ノボリさん、ありがとうございます。そう言ってくれる人が1人でもいるだけで、私は1人で背負わなくてもいいんだって思えます」
「……そうでございますか。しかし、ご無理は禁物です。さあ、コトブキムラに帰還いたしましょう」
「はいっ!」
ノボリの言葉にショウは元気よく頷き、コトブキムラへ戻っていったのだった。
- Ep.03-s4【翡翠の地からの贈り物】 ( No.136 )
- 日時: 2022/06/05 22:06
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
時は現代へと移る。
すっかり夜も更けたリレイン城下町を歩く2つの人影があった。遅番だったノボリとクダリが帰路についていた。2人の表情は明るいものであり、楽しそうに話をしながら議事堂への道を一歩ずつ踏みしめている。
ネズ達と出会い少し時間が経った。ギアステーションに就職してからというもの、地下鉄から殆ど出ることの無かった生活。"友と遊ぶ"などという生活を送ってこなかった彼らにとっては、ガラル地方のポケモントレーナーとの日々の触れ合いが新鮮そのものだった。ネズもマリィも、最初に出会った時より随分と自分達に心を開いてくれた。その事実が2人にとってはとても嬉しいものだったのだ。
「ネズさまもマリィさまも、出会った当初より随分と打ち解けられたような気がわたくしいたします」
「うん。よそよそしくなくなった。とってもいいこと!」
どこか気分が高揚しながらも揃った歩幅で道を歩く2人。今日はネズ、マリィと一緒に夕食を食べる約束をしていたのだ。ポケモンセンターで一旦集合し、ポケモンをジョーイに預けた後ハスノのレストランへ向かおうとしていた。友と一緒に外食など就職してから初めてだ。そんな思いが、2人の歩幅をどんどん軽いものにしていく。
そのままポケモンセンターへ道なりに進んでいると、ふとノボリは2人の目の前の空間に違和感を感じた。
"何かある"。そう感じたノボリは、クダリを庇うように後ろに下げ、前に立つ。
「クダリ。お下がりください」
「ノボリ!」
また兄の悪い癖か。そう思い制止しようとした瞬間だった。ぱりん、と空間が割れる音が2人の耳に入ってきた。
そこから吐き出されるように飛び出した"白い塊"。ふわふわとした印象のそれは、そのまま目の前に立っていたノボリの顔面にぺたりと貼りつく。想定外の出来事に、ノボリは"ふぉ?!"と、情けない声を上げた。
クダリが兄を心配する間もなく、視界を奪われたノボリは塊の重みに耐えきれず地面に倒れてしまう。
「ノボリー!!」
仰向けに倒れた兄を救うべく、クダリは咄嗟に白い塊を掴みノボリの顔から引き剥がす。ばたばたと暴れるそれをなんとか宥め、起き上がるノボリに声をかけた。軽く頭は打ったようだが、大事はない。帽子のお陰で軽症で済んだと彼は言い切ったのだった。
クダリの手に収まっている白い塊は、ノボリに再び引っ付こうとじたばたと悶えている。そこで2人はやっと、その塊の正体に勘付くのだった。
「塊じゃない。ポケモン。……ゾロア?」
「しかし、白いゾロアなど今まで見たことが……」
「ノボリ? どうしたの?」
「はて。夢の中で…このような色をしたゾロアを拝見したことがあるような…?」
「("ノボリの夢"。ヒスイ地方の夢。この子…どこから来たのかな?)」
クダリが兄に白いゾロアをそっと渡すと、彼の腕の中でゾロアは大人しくなった。どうやらノボリに相当懐いているようだ。しかし、イッシュには白いゾロアなど生息していない。ゾロアの色違いは青みがかった黒色だったはずだ。
とにもかくにも、この道の先にポケモンセンターがある。センターにはソニアとホップが常駐している為、どちらかに会うことが出来ればこのゾロアの正体も分かるかもしれない。
双子は互いを見やった後、ポケモンセンターへと急いで駆けていったのだった。
ポケモンセンターでは既にネズとマリィが双子を待っていた。ソニアもその場に居合わせ、彼らと話をしている。扉が開く音と共に目的の人物が現れ、ネズはほっと胸を撫でおろした。この双子ならば余計なことに首を突っ込みかねない性格なのをネズは最近理解し始めたからだった。
ちなみに、ホップは"もう遅い時間だから"とネズに無理やり部屋へと戻されている。それくらい遅い時間だった。
「少し遅かったですね。……腕に抱えているその子が原因ですか?」
「遅れてしまい申し訳ございません。実は…」
まずは2人に謝罪をした後、ノボリは帰路で起きたことについて彼らに説明をした。話をしている間も、白いゾロアはノボリの腕の中で大人しくしている。彼の腕の中が随分と気に入っているのか、かなり安らいだ表情をしていた。
ノボリの言葉を聞いたソニアはふとはっとした表情をする。どうやら、ノボリの話に引っかかるものがある様子だった。
「何それ!アローラ地方で起きてる"ウルトラホール"って現象に似てるけど…。急に開いた穴からこの子が現れたんだよね?」
「そうなのでございます。どうやらイッシュには生息していないゾロアのようでして」
「しかも、多分この子野生ですよね? それなのにこんなにノボリに懐いているなんて…不思議です」
「アニキの時もそうだったけど、この子ノボリさんにべったりだね」
「べったりなのは何となくわかる。ノボリ、生来のポケモンたらし」
「あ、それアニキも。アニキの歌、ポケモンの心にも響くよ」
ソニアは抱えているゾロアをじーっと見る。ガラルにも生息していないゾロアのようで、彼女は頭を抱えているようだった。しばらく考えた後、ふと何かを思い出したようにスマホロトムを漁り始めた。どうしたのかと問うと、前博士同士の研究発表会にてナナカマド博士から不思議な話を聞いたのだとソニアは話し始めた。
「そういえば、なんだけど!前にナナカマド博士にお会いした時に、"ヒスイ地方のポケモン図鑑"をちょっとだけ見せてもらったことがあるの!」
「ヒスイ、地方…」
「あれ? ネズさん、険しい顔してるけど…どうしたの? クダリさんも」
「ううん。何でもない。その図鑑が何?」
「それでね? ナナカマド博士によると、昔凄腕の調査隊の子がいたらしくて、その子が完成させた図鑑が博士の時代まで残ってるんだって。確か、その図鑑の中にこの子と似た記述があった気がする!」
そこまで言って、ソニアは"ほら!"と1枚の写真を見せた。ナナカマド博士の図鑑のページが写真に収まっていた。確かにその図鑑の記述は、今ノボリが抱えている白いゾロアに瓜二つだった。
つまり、このゾロアは"ヒスイ地方に生息しているゾロア"ということになる。ヒスイ地方はシンオウ地方の昔の呼び名だ。ならばシンオウ地方に生息しているのではないかと推測されるが、そうではない。時代の流れについていけず、現代には生息していないのだ。
「ノボリさんの話と合わせて考えてみると―――。もしかしたら、時空を超えて現代に飛んできちゃったのかも。シンオウ地方にはゾロアなんていないはずだし…」
「そう、なのですか。あなたさまは大冒険をしてここまでいらしたのですね」
「きゅう…」
ノボリが優しい眼差しでゾロアと目を合わせながら、優しく頭を撫でてやる。彼は大人しく撫でられながらも、抱えている側の彼の手袋をぺろぺろと舐めていた。
野生なのに随分とノボリに懐いている。彼がポケモンたらしで手懐けるのが非常に上手いということを除いても、初対面のポケモンにこうしてまで擦り寄られるのは傍から見て異常だった。
とにかく、このゾロアをどうにかしないといけない。時代が違う存在の為、野生に返すという選択は出来ればしたくなかった。
「ノボリ、どうするんですかこの子」
「わたくしのことを随分と気に入ってくださったようですし、この子を手持ちに加えたいと思っております」
「うんうん、それがいい!ちゃんとしたポケモンだってわかった以上、ノボリの傍にいるのが一番!ね、ゾロア」
「きゅ?」
「困っとる。か、可愛い…」
何かを決意したノボリは、ゾロアを一旦机の上に置いた。今まで撫でてくれた手が離れてしまい、どこかゾロアは寂しそうな表情をする。そして、彼は懐から空のモンスターボールを取り出し掌の上に乗せ、ゾロアに見せた。
調査隊が使用していたものとは違う、鉄製のモンスターボール。見たことのない代物に、ゾロアは思わずくんくんと匂いを嗅ぐ。危険な物ではないと判断し、ゾロアは再びノボリの目を見た。
「あなたさまがいた世界では馴染みのないものかもしれません。しかし、わたくし共の世界ではこのボールを通じて、あなたさまとわたくしとの気持ちの意思疎通を行います。
……もし、わたくしと同じ目線に立ってくださるならば。一緒に来てはいただけませんか?」
ポケモンを怯えさせない様、目線を合わせ優しく諭すようにノボリはゾロアに話しかけた。既に彼の気持ちは決まっていたのだろう。ゾロアはそっと額でモンスターボールのボタンをかちりと押した。ボールの中へと入り、数回揺れた後大人しくなる。ゾロアはノボリについていくことを決めたのだ。
安堵した表情を浮かべた後、彼はゾロアをボールから出してあげた。
「きゅう」
「良かったね、ゾロア。ノボリ、とっても優しい。だから安心して。きみはひとりぼっちじゃない。ぼく、クダリも一緒!」
「見れば見る程不思議なゾロアですよね。きみもそう思うでしょう?」
「こきゅん!」
「わ。アニキがいつの間にかゾロアを出してると」
「出たがってたんで」
いつの間にかネズもゾロアをボールから出していたようで、彼の近くまで抱っこして連れていった。そのままヒスイのゾロアの近くに下ろすと、彼らはくんくんと互いの匂いを確認した後、寄り添って寝てしまった。どうやらお互い落ち着く匂いがしたらしい。
「気が合ったんですかね。良かったです」
「同じゾロアということもあるのでしょう。ふふ…実に微笑ましい。
ソニアさま。後ほど先程のゾロアの写真をわたくしのスマホロトムに送信してはいただけませんでしょうか? これだけ姿形が違うとなると、やはりポケモンとしてのタイプも違ったものになってくるとわたくし思っているのです」
「ガラルにもリージョンフォームのポケモンがいるし、そうなのかも。分かった、後でポケラインで送っておくね!」
「お心遣い、感謝いたします」
そこまで話を終えたと同時に、スマホロトムを再び弄り始めたソニアのお腹が大きく鳴った。現在ポケモンセンターのフロントにはジョーイと彼らしかいない。恥ずかしい音を出してしまったとソニアの顔が真っ赤になった。
そういえば、と双子は本題を思い出す。彼らの夕食はこれからなのだ。
「こちらの用事に巻き込んでしまい申し訳ございません…」
「ううん、いいのいいの!あたしも研究に夢中で夜ご飯食べそこねてたの今思い出したし」
「いいんですかそれ。まぁ、これからおれ達一緒に夕食食べにレストランまで行く予定なんです。ソニアも来ます?」
「え? いいの?」
「ソニアさんなら大歓迎。あたし、反対の大陸にいた時の話も聞きたい」
どうやらソニアは研究に没頭した結果、夕食を食べずにネズ達と話をしていたらしい。腹の虫が鳴ったことで、彼女はやっと食事を取っていなかったことを思い出した。
1人増えたところで変わりない。ネズはそう思っていたのか、何の遠慮もなくソニアを夕食に誘ったのだった。
「レストラン、まだ開いてるかな?」
「こういう時に顔パスというものを利かせるんですよクダリ。それに、今日の席は予約してあるんで大丈夫です。1人増えるくらいなら問題ないと思います」
「そう? じゃあ、お邪魔しちゃおうかな!」
マリィがソニアの背中を押し、早速レストランまでの道を進みだした。遅れないようにクダリも歩み始める。そんな彼らの様子を見守りながら、ネズとノボリは寝ているゾロアをボールに戻し、彼女達を追いかけたのだった。
Ep.03s-4 【翡翠の地からの贈り物】 END.
- 次回予告 ( No.137 )
- 日時: 2022/06/09 22:01
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
ここは音楽が溢れる街、チューンストリート。西の大陸の北側に点在する都市である。音楽が溢れる、とのお触れ通り、様々なアーティストがこの街を拠点として活動しているのが特徴だ。
街の中央に点在する中枢ビルの中で、ウサギとネコの少女はとある少年の呼び出しを喰らい、顔を出していた。ウサギの少女の名を"ミミ"、ネコの少女の名前を"ニャミ"といった。彼女達は"ポップンミュージック"というアーケードゲームの宣伝マスコットを担当している、大陸中で有名なマルチタレントである。
"社長室"と書かれたプレートが貼り付けられているひときわ大きな扉を勢いよく開き、ニャミは呼び出した張本人の名前を叫んだ。しかし、当の本人の姿が見えない。呼び出しておいてなんだ、と彼女は憤慨する。ニャミの気持ちを汲み取りながらも、ミミも呼び出した少年―――"MZD"の行方を心配した。
「んもう!MZDったら急にあたし達呼び出しといて席を外しているとは!失礼にも程があるよ!」
「まぁまぁ。もしかしたらお手洗いかもしれないし、ちょっと待ってあげようよ。まぁそんなことで待たせるような奴じゃないけど、あいつ…」
彼から呼び出された理由は"次なるイベントの案が思いついたから聞いてほしい"という、いつもの突拍子の無いものだった。MZDは時に思い付きで大きなイベントを動かしていることが多い。毎回彼女達の興味をそそられる内容ばかりなのでいつの間にか彼に乗せられてしまっているが、振り回されているのは事実。今回もそうだと既に2人で結論をつけていた。
しばらく待っていると、彼女達が向いている方向の小さな扉が静かに開き、目的の人物が姿を現した。隣にマゼンタの髪をなびかせた男性―――"ヴィルヘルム"も立っている。彼らは彼女達に気付き、いつも通りに挨拶を交わしてきた。
「ミミ、ニャミ。久しぶりだな」
「本当久しぶりー!ヴィルさん、元気だった?」
「久しぶりに地上に戻ったが、中々快適な時間を過ごせている。……こいつの突拍子の無いアイデアに振り回されることも多々あるがな」
「アンラの奴にコネクトワールド壊されちゃって、何処にいたのかって心配してたんだよー。元気そうで良かった!」
「というか、こいつ元々世界破壊側する側なの忘れてませんかお前さん達?」
「ヴィルさんは紳士的でとっても優しいんですー!MZDとは全然違うもん!」
「オレは"フレンドリーな神様"目指してるからね!」
「どこが"フレンドリー"なの?!あたし達にいっつも無茶押し付けてくるくせにー!」
「何だかんだ楽しんでるから結果オーライじゃん」
他愛ない話を繰り広げながら、お互いの進捗を交わし合った。ヴィルヘルムはショウの一件を皮切りに、MZDと共に地上で活動を再開したらしい。呪縛はどうしたのかと問うと、何故かこの世界に飛ばされた際に再び発動してしまったらしく、ポップンワールドで活動していた時と同様に、自らの城を小指サイズに圧縮させて共に移動をしている状態だった。
彼も苦労しているのだと理解した彼女達は、早速MZDに呼び出された本題について話を振ることにした。すると、彼は2人に紙の束を渡した。一番上の紙には"音楽フェス 企画書"と記載されている。
「音楽フェス…?」
「そう。実は…オレ、すっごい大々的な音楽フェスの企画してるんだよね。とにかく渡した紙束の中身見てみてよ」
「分かった。……って、えっ?!」
1枚ぺらりと紙をめくってみると、そこにはとんでもない文字が書かれていた。開催地の候補に、終末の世界の中央を陣取る著名なリゾート地の名前が載っていた。最近チューンストリートにも噂が流れてきており、"急速に技術が発展している人工島"として世界中で話題になっている島の貸出許可証だった。
更にもう1枚めくってみると、MZDがフェスに招待したいアーティストのリストが一覧として載っていた。名前を軽く確認するだけでも、彼女達が耳にしたことのある有名人ばかりの名が連なっていた。
「えっ。よくこんな場所貸出許可取れたよね。ここって最近話題になってる人工島じゃん」
「神の交渉力舐めないの。オレのツテと話術を最大限発揮して交渉成立に導きました」
「それに、アーティストさんのリスト初っ端からとんでもない名前ばっかり並んでるじゃん!
"哀愁のネズ"とか、"ミカグラの歌姫スイ"とか、"超高校級のアイドル 舞園さやか"とか!ポップンパーティでお世話になってる人達の名前も勿論ずらずら並んでるけどさ!どうやって交渉するの?!」
「世界が混ぜられたなら、混ぜられたなりに面白い企画をするのが"音楽の神"ってもんだろ~? そう考えてリスト作ってたらとんでもねー名前ばっかり並んじゃった」
「一応止めたのだぞ…?」
「でも、ヴィルさんも心なしかウキウキしてない?」
「気のせいだ。気のせいということにしておけ」
「絶対ウキウキしてるよねこれ」
連なる名前の数々を見て、思わずMZDに"どうやって交渉するのか"を問い詰めた。いくら音楽の神だとはいえ、違う世界の初対面の人物だと話が違ってくる。今までも割と無理難題を通してパーティに参加してもらったこともあった。今は彼の"自称執事"として動いている隣の男も、最初にパーティに参加してもらった際は大変なことになったなぁと彼女達はしみじみと思い出していた。
しかし、ミミもニャミも顔つきは彼らと同じくわくわくとしたものだった。こんな楽しそうな企画、落とす方がおかしいと。そんな表情をしていた。
「面白そう~!わたし達も知らない音楽に触れられるチャンスだし!」
「ねぇMZD、こうなったら異世界から歌自慢も募集してみない? アシッドさんに頼めば異世界問題は解決するんでしょ? せっかく別世界から人を呼べるんだからさ~、やってみようよ~!」
「お、そのアイデアいいかも。検討しとくー。結局お前さん達も乗ってくれてるみたいだし? 当日はMC頼んじゃおうかな~?」
「オフコース!」
乗り気になったら後はとんとん拍子で話は進む。しかし、まずはフェスを開催するにあたりアーティストに出演許可を貰わなければならなかった。ミミとニャミも彼女達でやることをリストアップする為、企画書を貰って一旦帰ることに決めたのだった。ちなみに、書類はコピーの為他人に見せなければ別に持って帰ってもいいらしい。セキュリティの面が実に心配である。
ミミとニャミを玄関まで送り届け、彼女達の背中を見送る。そして、2人の姿が完全に見えなくなった後―――MZDは笑顔を真顔に戻し、ヴィルヘルムに話しかけた。
「さて。人集めはこれでよし、と。後は……サクヤ側との連携かな」
「アンラの動きがおかしくなっているのだろう? 何故彼女達に言わない。悪神には散々被害を被って来た立場なのだぞ我々は」
「分かってんでしょー? あいつらはいたいけな女の子なんです。早々危険に巻き込ませるわけにはいかないよ。
それに…。警戒してるのが"オレ達だけじゃない"っぽいのが妙に引っかかる。あの、リレイン王国だっけ? 議事堂にいた刀剣男士以外の連中…。あいつらの中に、なんか狙いの人間がいるっぽいんだよねー。第三者っつーか…嫌な予感すんあよね。何かが"浮かび上がる"、みたいな…」
「"浮かび上がる"か。お前にしては妙に変な表現の仕方をするのだな?」
「そうとしか表現できないんだよ。嫌な予感を口に出すのは」
MZDもヴィルヘルムも打倒アンラの為秘密裏に動いていた。音楽フェスの裏でもう1つ、大きな歯車を動かそうとしているようだったが…その正体が何なのかは、今は少年以外は知る由もない。
ジト目になって問い詰める口調を悟ったのか、MZDはさっと音楽フェスの話に戻す。今はこれ以上踏み込んで欲しくなかった。まだ材料が揃っていない為、詳しく話をしたくないのだそうだ。
あからさまにはぐらかされたヴィルヘルムは、それ以上突っ込むことは止め"無茶だけはするなよ"とMZDに釘を刺したのだった。
- 次回予告 ( No.138 )
- 日時: 2022/06/09 22:04
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
ヒスイゾロアが現れた、ちょっとした出来事から一週間が経過した。ネズは珍しく神域に留まり作曲をしている。普段、彼は外部からの客の音を聞き逃さないようにエントランスにて作曲をしていることが多い。ラルゴも忙しい身の為、少しでも自分の特技で役に立てればというネズなりの気遣いだった。
しかし、彼にそれを見抜かれていたのか"たまには羽を伸ばしてもいいのよ?"と、あからさまにエントランスから遠ざけるようなことを言われてしまった。留まる場所を失った結果、神域に引きこもりいつものように作曲を続けている、という訳である。
彼が集中している最中、襖が静かに開けられる。そこから出てきたのはサクヤと大典太だった。大典太は最近までで起きた出来事の進捗を彼女に報告し終わり、お茶にしようと誘われ用意をする為に移動しようとしていた。
珍しい人物の姿を発見し、思わず2人はネズに声をかける。彼はのっそりと動き、小さく礼をして"どうも"と返してきた。仕事中だからか邪魔しないように移動しようとすると、彼は"別にいいですよ。フレーズなんも思いついてませんし"と、ヘッドホンを耳から外して2人に向き直ったのだった。
「そういえば、最近光世さんがネズさんの作られた歌を楽しそうに口ずさんでいるのを見かけます。随分と気に入られた様子で私も嬉しくなってしまいますね」
「……恥ずかしいことを言わないでくれ主。鬼丸にばれたらまたからかわれる」
「からかわれる…というか、あの顔は明らかに嫌がっている顔でしたね。"人間の娯楽なんかに現をぬかしやがって!"みたいな」
「……言われてみれば、そうかもしれん。だが仕方ないだろ…。ネズの歌は本当にいい歌なんだ…」
「そう言ってくれること自体は嬉しいね。シンガー冥利に尽きますよ。ありがとうございます、光世」
大典太が素直にネズの歌を褒めた為、彼は素直に礼を返す。きちんと態度に表してきた人物にはそれなりの対応をする。それがネズのモットーだった。彼と大典太が会話の幅を広げていることに対し、サクヤは"少しずつ大典太がネガティブながら前に進んでいる"と感慨深い気持ちになっていた。
思わずそのことを口にしてしまい、大典太にジト目で見られてしまった。どうやら腑に落ちていないらしい。
「……俺が自分で進んでいるんじゃない。ネズのおかげだ」
「おれだけじゃないでしょう。議事堂…いや、この国にはお人好しがたんまりいますよ。おれがうんざりする程にね」
「何にせよ彼らの刺激を受け、光世さんが前に進んでいるのは事実です。もっと自信を持ってください」
「……善処する」
大典太の反応にくすくす笑いながらも、ネズは気分転換が出来たと作曲に戻ることにした。再びPCに顔を向けると、右下にメールが届いているという通知があった。何かと思いクリックしてみると、宛名には自分の知らないメールアドレスが記載されていた。
差出人が不明の怪しいメールだ。ネズの表情が崩れたのを2人も見逃しておらず、思わず彼のPCを覗き見る。最近誰かとPCでメールをやり取りした記憶は無い。そもそも、仲間内での普段のやり取りはスマホロトムで済ませているからだ。キバナやダンデからのしつこいバトルの誘いも、ノボリやクダリとのやり取りも、マリィとの連絡も。
もしかしたらスパムメールかもしれないと思い、中身を見ずにゴミ箱へと移動させようとする。そんなネズの腕を大典太が止めた。思わず彼の顔を見てみると、心当たりがあるらしい。眉を潜めて"中身を見てみてもいいか"と小さな声で訪ねてきた。
彼がこんなにまっすぐな目を自分に向けてきたことがあっただろうか。珍しい表情に根負けし、ネズは渋々メールを開いた。
本文にはこんなことが書かれていた。
------------------------
○○月▲▲日 指定の場所にて待つ M
------------------------
「……なんですかこれ」
「指定の場所…。画像のようなものが添付されているようだが」
「どこの誰だか知りませんが、おれに何用なんですかね…」
訳の分からない本文に、"指定の場所"であろう画像ファイル。大典太に促され、ネズはしかめっ面を続けたまま画像ファイルを開いてみる。彼らの目の前に映って来たのは、とあるビルの写真だった。この写真を見た瞬間、サクヤと大典太の表情が動く。やはり彼らには心当たりのある人物からのメールだったようだ。
ネズが詳細を質問すると、大典太は静かに"差出人"であろう少年についてに説明を始めた。
「……ノボリとクダリがここに初めて来た時の出来事、覚えているか」
「しっかり覚えていますよ。双子を巻き込んでてんやわんやしましたよね。それがどうしたんですか?」
「……ショウを送り届けた人物の中に、茶髪のもみあげが特徴的な少年がいただろう。このメールの差出人はその少年…名前を"MZD"という」
「ん? MZD?」
「……聞き覚えがあるのか?」
「……いや。随分大層な名前を聞いちまったもんでね。MZDといえば、"六本木の悪魔"とかかつて呼ばれてた凄腕DJじゃないですか。まさかあの子供がそうだとはね…。世の中本当分からないことばかりですよ」
「(……そっちの筋でも有名人だったのか、あいつ…)」
MZDの名を口に出され、ネズが彼を"DJ"として知っていたことに大典太は一瞬驚いた。しかし、彼も作曲家の端くれ。それくらいの知識は知ってて当然だと表情を元に戻した。あの場はショウとヒスイ地方にいたノボリを過去に送り返す為に動いており、お互い自己紹介をする時間もなかった。まさか一度邂逅していたとは、とネズはうんうんと記憶を呼び起しながら頷いている。
サクヤも大典太の言葉に続くように少年についての印象を話し始めた。MZDには散々世話になった立場でもある為、その彼が頼み事をしてきているのならば聞いてあげてほしいとも内心彼女は思っていた。
「えむぜさんには、私が前の世界にいた時にとてもお世話になった人物なのです。彼であれば信用に足りる人物だと確信していますので、是非行ってあげてほしいと私は思っています。
それに…彼は"音楽の神"ですし、もしかしたら音楽関係の大掛かりなイベントを企んでいるかもしれません」
「大掛かりな音楽のイベント…フェス的なものでもやるんでしょうかね?」
「……行ってみないと分からんが、あいつは元々いた世界で音楽に纏わる宴を何十回も繰り返し開催していたらしい。今回もその類だと思って向かった方がいいだろうな…」
「ふぅん。音楽関係で話を通してもらえるなら、おれも"音楽を極める"っつー目標に少し近付ける気がしますし…。行ってみますよ。情報提供ありがとうございます」
サクヤからの話を聞いたネズは、指定の日に指定の場所に行ってみる決意をした。何を言われるかは分からないが、自分を助けてくれた人物が信頼しているのだからそう面倒ごとには巻き込まれないだろうとネズは思っていた。
大典太も当日は何も予定がない為、ネズと共に写真の場所へと向かうことを決めたようだ。
「別に無理して一緒に来なくてもいいんですよ、光世」
「……この場所…。あんたは行ったことがないだろう。街の形状がそのままなら、俺が中を案内できる。このビルも場所が変わっていなければ覚えている。道中危険が無いわけじゃないからな…。
……それに、俺はあんたの音楽をもっと聴いてみたい」
ネズは彼の言葉に深くため息をつきながらも、表情はまんざらでもなかった。そんな彼らの様子を見守りながら、サクヤは2人の絆が少しずつ深まっていることに安堵したのだった。
音楽の街で、彼らはどんな出来事と出会うのだろうか。それは、まだ誰にも分からない。
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