二次創作小説(新・総合)
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- 繋がる世界と未来の物語【Ep.04-2完結】
- 日時: 2025/10/03 21:52
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 2EqZqt1K)
―――これは、"全てを元に戻す"物語。
それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。
どうもです、灯焔です。
新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
また、オリジナルキャラクターも登場します。
苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2
<目次>
Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17
Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37
Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53
Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67
Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89
Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130
Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148
ep.04-1 【天下五剣が集うとき】 完結
>>166 >>167-171 >>172-176
Ep.04-2【新世界の砂漠の華】 完結
>>178 >>179-180 >>181-185 >>186-188
※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54
Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111
Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151
Ep.04
【月と超高校級の来訪】 >>177
※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108
Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163
<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150
>>164-165
最終更新日 2025/10/03
以上、よろしくお願いいたします。
- Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 ( No.154 )
- 日時: 2022/10/02 22:19
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
こんのすけが神域に現れた事件から3日が経過した。柔らかな日差しが注ぐその場所で、ネズ、ノボリ、オービュロンは居間に佇んでいる。オービュロンはいらぬ襲撃を防ぐため、人間の女性に擬態をしていた。
今日は天下五剣と時の政府が顔合わせをする審神者会合の当日である。結局ネズとノボリに関しては、サクヤの代理として向かうことが前日、正式にこんのすけの口から告げられていた。
「こちらは準備万端ですよ。日帰りなんで荷物もそこまで多くしてません。まぁ…最低限の知識とルールは事前に叩き込まれましたし、多分大丈夫でしょう」
「サクヤさま。わたくしども、完璧に代理を遂行してまいります。大船に乗ったつもりでいてくださいませ」
「そんな大げさに言わなくてもいいですよ全く…。で、他に必要なことがあれば教えてほしいところですね。審神者と話をしてはいけないとか、そういった細かいルールを」
「そうですね…」
ネズにそう問われ、サクヤは口元に手を当て何か彼らの役に立つ知識は教えられないかと思索する。しかし、彼らは審神者として行くわけではないことは自分が一番分かっている。サクヤ自身が審神者ではないからだ。
そこまで考えたところで、彼女は彼らに1つ言い忘れたことを思い出した。それは、前田から聞いた"審神者の名前"についてだった。
「そういえば、会場に来られる審神者の皆様は、全員"審神者名"を名乗ります。まぁ、お三方は審神者ではないので本名を名乗っても何も影響はないので問題ありませんが、そこは頭に入れていただけると助かります」
「本名を、ですか? 知られてしまった場合、何か悪影響などがあるのでございましょうか?」
「うーん。なんかそうみたいなんだよねー。なんかね、俺達が神隠しとか悪いことしないようにって時の政府が決まりを定めたらしいんだよ。まだ、そういう厳しい決まりがなかったころ…審神者に恋をしてしまった刀剣男士がいて、政府の思い通りになりたくなくて、審神者を神隠ししちゃった事件が過去にあったんだって」
「カミカクシ…恐ろしいデスネ」
刀剣男士はあくまでも"刀の付喪神"である。審神者と絆を育むのは結構だが、それ故に過去に反乱を起こされたこともあったらしいと信濃は語った。だからこそ、審神者を守る為の決まりとして時の政府が厳しく取り締まっているのだそうだ。
人として生きてはいるが、"人間ではない"。政府は徹底的にそれを叩き込みたいのだろう。しかし、その決まりがあるおかげで平和な本丸が築かれていることも事実である。信濃の話を聞いて、ネズとノボリは納得がいったように静かに頷いた。
そこまで聞いて、ネズはふと鬼丸の方を向く。もしかしたら、鬼丸も政府の厳しい決まりを律儀に守っているが故の一匹狼なのではないかと思ったのだ。
さりげなく大典太にそのことを伝えると、彼はその言葉がおかしかったのか思わずくすっと笑みを浮かべてしまう。
「光世? 何がおかしいんですか?」
「……いや。鬼丸は単にコミュニケーション能力が欠如……いひゃいぞおにまゆ」
「どこかの誰かが余計なことを口走ったと判断したものでな」
「図星なのでございますね…」
大典太に言われたことが余程気に食わなかったのか、鬼丸がいつの間にか大典太の左頬をつねっていた。彼が余計なことを口走りそうになるといつもそうしているが、もう癖になってしまっているのだろうか。
その様子を見ていた数珠丸も何故か鬼丸に加勢し、"つねるならば両頬をお勧めいたします"と余計な助言をした。彼の言葉にしてやったりといった表情を浮かべた鬼丸は、抵抗をしない大典太のもう片方の頬をぐいっとつねったのだった。
「……ひゃめへくれ…いひゃい…」
「ふん。だったらもう余計な口出しをするな」
その場にいた全員で鬼丸を嗜めながら雑談を続けている折、彼らの目の前に光と共にふわふわと舞い降りてくる影があった。十中八九、3日前にやってきた影と同じ。こんのすけである。
彼は一同をぐるりと見回した後、元気よく"おはようございます!"と挨拶をした。どうも3日前に現れた彼とはどこか違和感があるように彼らには見えた。そんな彼らの疑問をも無視し、こんのすけは口を開いた。
「本日は皆さまを客人ととして招くように政府に申し付けられております。このこんのすけ、会場までの案内を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします!」
「やはり雰囲気が違うように感じます。3日前に来訪なされたこんのすけさまとは別人なのですか?」
「そういう訳ではないと思います。こんのすけは所謂"システム"のような役割を担っています。今回のように、我々を案内するだけならば性格付けがいらないと判断されたのでしょう」
「時の政府ッテ、時々近未来的なコトシデカシマスヨネ…」
「近未来も何も、ずーっと未来の組織だった気がするんですがね?」
こんのすけは一同に事務的な連絡を告げた後、彼らの目の前に光り輝く襖を召喚した。この襖を通ることで、時の政府が用意した"審神者会合の会場"へと入ることが出来るらしい。
遂に出発の時が訪れた。サクヤは一同の顔を改めて確認し、口を開く。
「ネズさん。ノボリさん。オービュロンさん。私の役目を押し付ける形になってしまい申し訳ございませんが…。どうか、皆さんのことをよろしくお願いいたします」
「承知仕りました。このノボリ、全力で天下五剣のみなさま、そして前田さま、信濃さまのサポートをすることをここに誓います!」
「……刀が人間に護られてどうするんだ?」
「突っ込みは今更野暮ですよ光世。最早ノボリの癖。生態みたいなもんです」
「……奉仕するのが生態なのか?」
「みなさまのサポートをするのがわたくしの生き甲斐でございます!」
「ほら。狂気的なんですよ、こいつの滅私奉公は」
「……はぁ」
自信満々にそういうノボリの目はキラキラと輝いているように見えた。ネズの言葉通り、他人のおもてなしをし、サポートをするのが彼の生き甲斐というものなのだろう。狂気だと呆れ顔で言ってのけるネズに、大典太はため息をつくことしか出来なかった。
彼らのやりとりをひとしきり聞いた後、こんのすけは襖の封印を解き、襖を開ける。その向こうには柔らかな光が放たれており、それが光で出来た道だということに気付くのに時間はかからなかった。こんのすけは一同に向き直った後、襖を潜るように彼らに告げ、先導して襖の中に消えていった。彼に続くように、次々と会場へと向かう面子が襖の中へと消えていく。
そんな中、最後まで残っていた大典太が今一度サクヤの方を振り向いた。
「……じゃあ、行ってくる。土産話はあまり期待するなよ…」
「はい。いってらっしゃいませ、光世さん」
大典太の姿が襖の向こうへと去っていった直後、それは淡い光を放ち、まるで最初からなかったかの如く姿を消したのだった。
- Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 ( No.155 )
- 日時: 2022/10/04 22:16
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
淡い光の向こうに、再び襖が見える。こんのすけはあの襖を通ると、時の政府が用意した会場へ到着すると告げた。無言で彼の後ろをついていき、目の前に現れた襖を潜る。
光が消えた後に彼らの目に見えたのは、和風な旅館のフロントのような作りの建物だった。カントーやホウエン、シンオウならばこういう旅館があるかもしれないとポケモントレーナーである2人は思わず感嘆の声をあげた。
オービュロンに至っては知的好奇心が刺激されたのか、壁やら天井やらを見ながら1つ1つに感動している。流石は地球侵略の為、文化について学んだ生命体だ。その欲も普通の地球人とは桁違いである。
「素晴らしいかるちゃーデスネ!」
「こんなに本格的な建物に連れて来られるとはね…。まぁ、屋外でなくて良かったですよ」
「しかし…この建物の構造。夢の中で見たことがあるような…」
建物の造りに感心しながらも、ぽつりとノボリはそんなことを零す。ノボリの言う"夢"。彼が今でも見ているというヒスイ地方の夢だ。彼の言葉によると、夢の中でもこの建物に似た景色を見たことがあるのだという。ヒスイ地方は、現在のシンオウ地方と言われている土地である。つまり、シンオウにもこういう建物が存在するのだとネズは静かに納得した。
彼らが建物に感心したのを見守った後、こんのすけは一同に向き直り、早速彼らの案内を始めた。
「こちらが政府で用意いたしました会場となります。まずは受付に参りましょう!」
彼の案内に従い、受付に移動する。カウンターで隔てられたそこには、顔を布で隠した不気味な風貌の人物が立っている。声色は明るいものであるため、敵ではないのだろうが事情を知らない者にとっては不穏を駆り立てる存在でしかないだろうと一瞬頭をよぎった。
こんのすけが代理で受付の職員に話をする。職員は大典太達の方を見やり、人数や審神者代理として来訪する人物の特徴と一致していることから、"例の客人"だということを把握した。そして、こんのすけに会場まで案内することを伝えたのだった。
ありがとうございます、と明るい声が木霊する。彼は一同にふよふよと戻って来た後、大きな襖がそびえている空間を手で指し示した。襖の奥にある空間が、審神者会合の会場だとこんのすけは話した。
「会場では小さな机が何重にも並んでおります。お好きな机でお話やお食事をお楽しみください!時間が来ましたら、会合ならではの催しも開催されるようですよぅ!」
「本当におしゃべりしたり、お菓子食べたりしながら楽しむための会合だもんねー。あんまり固くならなくてもいいんじゃない、大典太さん?」
「……緊張もするだろう。この襖の向こうに…どれだけの審神者と刀剣男士が詰め込まれると思ってるんだ…」
「大典太さんも一介の刀剣男士なのですから、そう邪険にする人なんていませんよ!堂々としていましょう」
大きな襖の前まで案内し、こんのすけは"自分の案内はここまでだ"とその場から去っていった。彼の姿が見えなくなるのを確認した後、数珠丸と鬼丸は静かに襖を開ける。
襖の向こうに見えたのは―――。大きな和室だった。神域の居間を更に大きくしたような空間。こんのすけの言う通り、畳の上には机が何十にも並べられている。併せて座布団も綺麗に鎮座しており、そこに座ってくつろげ、ということなのだろう。
早速会場に足を踏み入れ、襖を閉める。既に会場入りしている審神者や刀剣男士もちらほらおり、こちらを不思議そうに見ている者も見て取れた。
3日前に話を聞いた"恐竜の審神者"もその中におり、こちらを品定めするように見つめている。食べられると勘違いしたのか、オービュロンは思わず震えあがりノボリの後ろに隠れてしまった。
「大丈夫でございますよ、オービュロンさま。今のあなたさまは人間の女性でしょう」
「ヒッ!ソ、ソウデシタ…。ワタシテッキリ食べられてシマウモノカト」
「そうならないように自分で擬態すること決めたんでしょうが。忘れないでくださいよ。……で、どこに座ります? あまり目立ちたくないですよね」
「……端の席がいい」
オービュロンを嗜めながら、ネズは何処の席に座るか確認を促す。今のうちに座る席を決めておかないと、いつかのゲーム大会のようにすぐに人で埋まるだろうと彼は判断していた。その声に大典太は小さく"端がいい"と答えた。その目線は不安げにきょろきょろとしており、落ち着きを見せていない。
やはり三日月以外の天下五剣を連れてきているからなのか、審神者に奇異の目で見られていることを気にしているのだろう。
やっと落ち着きを取り戻したオービュロンは、こちらを見ている審神者を見渡す。目が合って都合が悪くなったのか、自分達を見つめていた審神者はふっと目を逸らした。
「随分とワタシ達の方を見ているヨウデスガ…。何か、悪いコトデモシテシマッタノデショウカ?」
「違う違う。天下五剣をぞろぞろ連れてきているからだと思うよ。ここに天下五剣をわざわざ連れてくる、なんて…余程絆が深まってなきゃ普通考えないからね。珍しがられてるだけだと思うよ」
「……同じ刀剣男士のはずなのにな…」
「なら、さっさと席決めて座っちまいましょう。これ以上目立つのはおれも御免被るんで」
そう言い、ネズは早速端の席に移動を始めた。本部に直接呼ばれている以上、下手に目立つわけにはいかなかったからだ。現状ですらこんなにも奇異の目を向けられているのに、これ以上目立ってしまったら取り返しのつかないことになりかねないと彼らは判断をしていた。
彼に連なるように、入口の襖側の端のテーブルを陣取るように座る。人数が多かったのか、テーブルの半分以上のスペースが彼らで埋まった。
「どうせ途中で政府の職員にお呼びがかかるんでしょうし、おれ達は端の席で静かに楽しみましょう。席が何処でだって、出てくる食事は同じなんでしょうから」
「目立たず、騒がず。厳かに参りましょう」
一同が腰を下ろしたのか、審神者はそれ以上目を向けることはなく自分達のやるべきことに戻った。ちらりと時計を見やると、まだ会合が開始されると告げられた時間までは30分ほど時間がある。その間何をしようかと思索していると、一同の元に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
思わず声がした方向に顔を向けると、そこには見覚えのある人物が複数人立っていた。白い学ランを来た青年と、青色の着物が目立つ優美な男性。黒い衣装を身に纏ったスマートな印象の女性。そして、彼らと偶然鉢合ったであろう審神者の女性と、彼女に付き従っている刀剣男士が二振顔を見せていた。
平安貴族のような男性は、一同の顔をぐるりと見回した後、笑顔でこう口を開いた。
「随分と懐かしい顔ぶれが並んでいると思えば。久しぶりだなお前達」
「……あんたもマイペースだな三日月…。でも、本当に久しぶりだ…。元気そうで良かったよ」
「はっはっは。急にお前達の―――具体的には大典太と鬼丸の霊力がこの世界から綺麗さっぱり消えたので心配をしていたのだ。顔が見れて俺は嬉しいぞ」
「うむ。その時の三日月くん、かなり気落ちしていたからな…。僕も元気な姿が見れてとても嬉しいと思っているぞ!」
「あの。すみません。再会を喜んでいる最中申し訳ないんですが…。お互い、自己紹介してからにしません? 話の続き」
「あら。それは失礼したわね。っていっても…あたしのことはあなた達なら分かってくれると思うけど」
会話の最中、ネズが横やりを入れる。お互い知らない人物もいる以上、一度自己紹介をしておいた方がいいのではないかと。確かに彼の言うことには一理ある為、鉢合った三日月達は開いているスペースに腰を下ろし、互いに自己紹介を始めたのだった。
白い学ランの青年は"石丸清多夏"、平安貴族のような男性は"三日月宗近"。スマートな印象の女性は"シロナ"、審神者の女性は"柊"。彼女の仲間である刀剣男士は各々"長曽祢虎徹"と"陸奥守吉行"と名乗った。
元々三日月と契約をしている石丸や、審神者である柊はともかくシロナがこの場にいることには驚いていた。何故シロナがこの場にいるのか問うと、彼女は少し考える素振りをした後こう答えた。
「あたしは別に誰かと契約しているとか、自分の本丸を持っているというわけではないの。ちょっととある目的の為に、手がかりを探していてね。異世界中から人が集まるって聞いたから、偶然通りかかったキツネのポケモンを説得して特別に参加を許可していただいたのよ」
「チャンピオン権限ですかね」
「ふふ、ご想像にお任せするわ。それに…今は、少しでもヒカリちゃんの行方の手がかりを掴みたいの」
どうやらシロナは審神者として参加したのではなく、とある目的のためにこんのすけを説得して参加を特別に許可してもらったらしい。その中身を聞いてみると、彼女は表情を曇らせて捜し人の名前を告げた。
シンオウ地方で自分を打ち破り、殿堂入りをしたポケモントレーナーである"ヒカリ"。彼女が現在ユウリ達と同じように行方を眩ませ行方不明なのだという。
「バトルフロンティアに挑戦する為に、ファイトエリア行きの船に乗ったヒカリちゃんを見たのが最後の証言だった。それから白い光に呑み込まれて―――。色々な場所を探したけど、未だに彼女は見つかっていないわ」
「そうなんですか。誰かに攫われたり、とかは…」
「いいえ。そんな話は聞いていないのだけれど…。どうして気になるの?」
「実は…」
シロナに逆に質問をされ、ノボリはトウコ達が同じように現在行方不明だということを話した。その言葉に彼女は驚いたものの、どこか引っかかりを覚えたようで腕に指を添える。どうやら、ユウリやトウコ達が巻き込まれた惨状と、ヒカリが行方不明になる直前の行動が違っていたように彼女には思えたらしい。シロナは申し訳なさそうにこう返す。
「著名なトレーナーばかりが行方不明になっている点も気になるけれど…。ヒカリちゃんは特に怪しいトレーナーに連れていかれた、という証言は聞いていないのよ。だから、ユウリちゃん達が攫われたのとは別の原因だとあたしは思っているわ」
「そうで、ございますか…。申し訳ありません、余計な詮索をさせてしまったようで」
「ううん、いいのよ。ヒカリちゃんもそうだけど、あたしもユウリちゃん達のこと心配だわ。まぁ、ここで出会えたのも何かの縁よ。あたしもこの会合が終わったらシュートシティに合流しようと考えていたところだったから。手掛かりになりそうな情報が分かったら絶対に連絡する。だからそう落ち込まないで」
会話が繰り広げられていくうちに、想像通り次々と会合に参加する審神者が会場を少しずつ埋め尽くしていた。あまりの人の多さに、思わず石丸が狼狽える。彼は"会合"という言葉から、厳かに、ひっそりと行うものだと勘違いをしていたらしい。開いた口をぽかんとしながら感想を述べた。
「こんなにも客人が来るものなのだな!」
「……まぁ、会合だからな…。それで、あんた達も政府に"本体を返せ"と言われたのか?」
大典太が気になっていた疑問を石丸にぶつける。すると、彼は急に不機嫌そうに眉を潜ませ"そうだ"と答えた。反応からしてみるに、相当彼のお冠に来ていたのだろう。
「実はそうなのだ!彼奴等、失礼にも程があったのだぞ!」
「まぁ、俺が既に契約を果たしていることを伝えたら向こうは引き下がったがな。追い返しはしたが、絶対にお前達の返却も求めてくるだろうと気付いてな。もしかしたら会えるかもしれんと思って主と参加を決めたのだ」
「三日月殿の思惑が当たっていたようで良かったです。実際、我々の返却を求めに拠点へと潜り込まれましたからね」
「どっから情報仕入れてんでしょうかね。おれ達のやることなすこと筒抜けのように思えて気持ち悪いです」
「まぁ、時の政府ってそういうもんだ。各本丸だって政府の管理下にあるようなもんだし…」
しかし、彼らが参加を決めたことで大典太達と再会できたのも事実。経緯はどうであれ、そのことに関しては大典太は心の中で感謝を告げた。
そのまま会話を続けている最中、奥側の襖から職員の女性が会場へと入ってくる。手にはマイクを持っているため、彼女がこの場を取り仕切る司会なのであろう。一同は彼女の方へと顔を向け、話を聞く態勢を取り始めたのだった。
- Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 ( No.156 )
- 日時: 2022/10/05 23:06
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
「え? ということは、この世界におる刀剣男士みーんな今どこにおるか分からんのか?」
「実はそうなんです。僕達も総出で行方を追っているのですが…。ただ、少しずつ見つかっているのは幸いです。信濃もそうして今ここにいるんですよ」
「いやー、ゲーム大会の時も思ったけどさ。久しぶりに"コネクトワールドに行こう!"って決意して来てみたはいいものの、右も左も分からない世界になっちゃってたから。あの時は本当に驚いたけど、まさか世界ごと造り替えられてるとは…」
「俺達も、同胞の無事を祈りたい。何か力になれることであれば遠慮なく言ってくれ」
「……感謝する」
司会の職員の案内は終わり、会場入りしていた審神者達の賑やかな声が聞こえてくる。テーブルにはいつの間にかお茶菓子が増え、各々好きなものをつまみながら楽しく会話をしていた。
柊に関しては、以前コネクトワールドだった頃の世界に来たことがあった。ゲーム大会にも参加していたようで、後にこの世界が"コネクトワールドではない"ことを知り、刀剣男士と共に驚いたのだという。
後20分程すると、それぞれのテーブルに昼食が運ばれてくるのだそうだ。昼食は何だろうか、そういう他愛ない話を続けながらくつろぐ一同の元へ、無言で近寄る職員の影があった。傍らには眼鏡をかけた、気だるげな印象の刀剣男士が立っていた。男は大典太達の座っているテーブルに立ち止まり、彼らに向かって口を開いた。
「あ。もしかして上が言ってた"連れてきてほしい天下五剣"って君ら?」
その声に楽し気に話していた一同の空気が一気に変わる。天下五剣四振が警戒をする目つきで職員の方向を向いた。職員は黒髪を小綺麗に切り揃えた、整った顔立ちの若い男性だった。敵意をむき出しにされ、彼は慌てて弁解を始める。そして、傍らの刀剣男士と共に自己紹介を始めたのだった。
「別にお前達を取って食おうとは思わないさ。立場はそこそこあるとはいえ、俺だって一介の職員だからな。失礼のないように先に名乗っておこう。俺は"暁"。今は政府に務めている職員……元は審神者をしていたんだ」
「自分、"明石国行"言います。隣におります主はんの近侍を務めております。自分も元々は主はんの本丸に所属しておった刀剣男士で、政府直々の引き抜きで政府直属の刀剣男士になりましてん」
「明石殿が近侍とは。珍しいこともあるものですね…」
「確かに。基本的に明石は面倒臭がり屋だからな」
「ほんまは自分もダラダラしたかったんやけど…。まぁ、環境が許してくれへんのですわ」
「……成程」
男性は"暁"、眼鏡の刀剣男士は"明石国行"と名乗った。双方元々は一審神者で、働きを評価され政府直々のスカウトに応じ、時の政府に移管したという経緯がある。そんな過去があるため、他の職員よりは"審神者の気持ちが分かるだろう"と、心が不安定な審神者などのケアにあたる仕事をしているのだという。
先程柊達が繰り広げていた話を明石も聞いており、"その世界の自分も行方不明なのか"とやんわりと聞いてきた。数珠丸が静かにそうだと答えると、明石は少し寂しそうな表情をしながら早いうちに見つかることを祈った。何だかんだ、同位体が行方不明なことに彼も心を痛めているのだろう。
刀剣男士達の会話を早々に暁は切り上げ、早速本題へと話題を移したのだった。本部の職員が彼らに会いたがっている為、職員がいる場所まで案内してくれるのだという。その言葉を聞いて、天下五剣はしかめっ面を再び浮かべた。
「……出来れば行きたくないんだがな」
「そう返ってくることは予測済みだ。まぁ…だが、一応俺も上には釘を刺してあるさ。会いに来たからと言って、無理やり閉じ込めることはするな、とな」
「信用できるものか。元審神者とはいえ、おまえだって政府の一員だろうが」
「確かにそうだな。今回のことの責任は俺が取る。だから、一緒に来てくれないか。必ずお前達をここに戻すと約束するさ」
「ふむう。頭を下げられては断りにくくなったぞ」
「しかし、我々が"はい"と答えなければ…このまま話題が堂々巡りになってしまう気がいたします」
「どこかで見ましたねぇ、こんな光景」
「まるでこんのすけさまと言い争っているかのようでございます…」
暁と明石は事情を説明し、丁寧に天下五剣に頭を下げた。そして、今回のことで仮に彼らに何かが起こった場合、責任は全て自分が取ると。その覚悟を持って、上の命令を自分が受けたのだろう。
頭を下げられてしまっては、行かないとは言いづらい。しかし、四振の心はやはり政府を許せていなかった。どうすべきなのか。考えがぐるぐると彼らの脳内を支配していた。
しばらくの沈黙の後、不意に大典太がため息を吐いた。彼らの真摯な態度に遂に彼が折れ、職員に会いに行くことを口にしたのだ。即座に鬼丸が彼の衣服を掴みかけるが、長曽祢と陸奥守に止められた。
「流石に4人だけじゃ行かせられませんし、おれとノボリにも同行を許可してください。一応関係者としてここに来てるんで」
「わたくしからもお願いいたします」
「元々そのつもりさ。そこの白い学ランの青年も一緒に来てもらうことになるが、いいか?」
「勿論だとも!いいかね、三日月くん?」
「はっはっは。主の願いを拒否する訳がないだろう。甘味を食べ過ぎるな、というお小言以外はなあ」
「……あんた、まだ甘味を食い過ぎてるのか」
「そうだとも!聞いてくれたまえ大典太さん!三日月くんの最近の甘いものに関する話を!」
「……後でな。あんたの話は長そうだ」
話し合いの結果、ネズ、ノボリ、石丸も彼らの関係者を名乗ってここまできている為、天下五剣の謁見についていくことになった。また、シロナも彼らの動きに興味を示し一緒に行くことを選択した。
オービュロン、信濃、前田、柊、長曽祢、陸奥守はその場に待機し、審神者会合を楽しむことになった。オービュロンも最初は一緒について行くと名乗ったのだが、そこまで大勢でぞろぞろしていると逆に怪しまれると暁からお触れがあったため、彼も待機することを選んだのだった。
謁見は長くても30分で終わるとのことだった。昼食には間に合うだろうと判断し、さっさと会ってしまおうと彼らは暁に案内を頼んだ。襖の奥に消えていく彼らを、オービュロン達は手を振って見送ったのだった。
襖の向こうは、会場が和の雰囲気を醸し出していたのとは裏腹に、どこか機械的な風貌をしていた。何か通信をしているのだろうか、通路の所々に光が走っている。気になったため暁に何をしているのかと問うてみると、この光を通じて各本丸が何か変なことをしていないかの連絡を、各本丸のこんのすけを通じ行っているのだと彼は答えた。
機械的な道を真っすぐ進んだ行き止まりに、天下五剣の謁見先である職員はいる。そこに向かって無言で歩いていると、ふとクリーム色の大きなツインテールが特徴的な、ロリータ服の女性とすれ違う。そのまま通り過ぎると思いきや、背後から甘ったるい声がした。十中八九、今すれ違った女性のものだろうと判断し、彼らは思わず振り向いた。
女性の目線は天下五剣に向かっている。何やら物欲しそうに彼らを物色していた。
「あの。おれ達用事があるんですよね。話がしたいならそれが終わってからにしてくれませんか」
「連れないことを言わないでくださいよぉ。天下五剣をこんなにぞろぞろ引き連れて、珍しいなって思っただけですぅ。別に怪しい者ではありませんよぉ。ジェシカ…天下五剣と出会うの初めてなのでぇ…とっても裏ましいんですぅ」
語尾が甘ったるい感触が抜けてはいないが、一見普通に会話を繰り広げているように見える。しかし、その目線は話しているはずのネズではなく、終始天下五剣の四振を嘗め回すように往復していた。彼はそれに気付いており、そっと大典太を彼女の目線から遠ざけるように離す。
そして、表情を悟られないようにしながら静かにこう返したのだった。
「そうですか。あんたの懐事情は知りませんが、あまりそういった色目を使うもんじゃないですよ。……おれの気が変わる前に会場に戻ったらどうです? きみ、関係者じゃないように見えるんだけど」
「せやで。あんた、職員やないでっしゃろ。出口の襖と間違える審神者はたまにおるんや。会場は向こうやで」
ネズの表情は変わらずとも、不機嫌を態度に表していたのにジェシカは気付いていた。彼女はわざとらしくしょんぼりとした反応を返し、明石の指さした襖へととぼとぼと歩いていく。
女性の姿が小さくなっていくのを確認し、一同は再び目的地へと歩みを進めた。疲れた顔をしているようにノボリには見えたため、優しくネズに語りかけた。
「ネズさま。随分とお疲れとお見受けいたします。ああいった方は苦手なのでございますか?」
「苦手…というか。ああいったメンヘラっぽいファンもいるので普段なら大丈夫なんですよ。でも…そのファンの方が100倍あいつよりマシです。目を見てあの女は信用ならねぇと判断しちまいました」
「人間色々。審神者も色々…、っていうけど。本当にあいつ、間違えてここに来たのか? 言動がちょーっとわざとらしく俺には聞こえたんだが…」
「主はん。自分、後であの審神者について調査しときますわ」
「おう。頼むわ」
暁はジェシカが去っていった道を振り向きながらも、明石の口添えに任せることにした。気にはなるが、今対応する問題ではないと彼は判断したのだ。シロナも何か彼女に引っかかりを覚えていたようだが、詳細まで分からなかったため一旦無視を決め込むことにした。
彼らはそのまま通路の行き止まりまで歩いていったのだった。
―――彼らの姿が通路から消えたのをジェシカは物陰からひっそりと見ていた。彼らに戻るように促された後、ジェシカは戻るふりをして人気のないところに隠れていたのだ。その表情は恨みが籠っている。まるで、自分の好きではないもの全てを否定するかのように。
「あいつら…ジェシカ嫌いですぅ。ジェシカのこと、否定しましたぁ…。ジェシカの視界から消すべきですよねぇ。まぁ、まずは…ジェシカの"理想の子"を動かすことにしましょう。あいつら消すのはそれからでもいいですぅ…」
そう呟き、彼女は待機させていた刀剣男士を二振、自分の元に呼び寄せた。しかし、その刀剣男士は他の本丸にいる"かれら"とは様子が随分と違う。
この現場を誰かが見ていれば、彼らの様子がおかしいことにも気付けたのだが…。不幸にも、彼女が悪意ある笑みを浮かべたことに、誰も気付くことは出来なかった。
「うふふ。さぁ…ジェシカの好きなものでいっぱいにする時間ですよぉ…!」
そう呟きながら、女は会場の襖を静かに開けたのだった。
- Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 ( No.157 )
- 日時: 2022/10/06 21:48
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
「天下五剣とそのご一行様を連れて参りました」
立ち止まった暁は扉の前でそう報告をする。
通路の行き止まりには彼の言う通り、重厚そうな扉がある。中央に掲げられているプレートには"中央制御室"と機械的な文字が刻まれており、この奥に彼の言っている"重役"が点在しているのだろうと彼らは判断した。
暁の声に反応するかのように、扉の向こうから入れ、と男の声が響いた。それと同時に扉が自動的に開き、閉ざされていた空間が明らかになる。一同は暁の案内に従い、制御室へと足を踏み入れた。
彼らを待ち構えていたのは、顔に白い布をかけた不気味な連中だった。しかし、彼らからは只者ではないオーラを感じる。恐らく、目の前にいる人物は全て時の政府の中核を担う上層部なのだろう。
「おれ達が捨てられてから随分と時が経ったようだが、おまえ達の雰囲気は全く変わっていないな」
そう、彼らの顔を見た鬼丸が開口一番に悪態をついた。彼の言葉が腑に落ちなかったのか、言い返そうと職員の1人が憤慨する。しかし、ことを荒立てたくはないのは事実。鬼丸は数珠丸に、憤慨していた職員は隣の別の職員にそれぞれ宥められていた。
沈黙状態が続く中、部屋の奥にある椅子に座っていた職員が席を立ち、こちらに向かって歩いてきた。そして、彼らの目の前に立ち無礼を働いたことを許してほしいと頭を下げ、一連の出来事を詫びたのだった。
しかし、その職員の態度ですら天下五剣には到底信じられるものではなかった。
「戯言はいい。お前達の目的は俺達を捕まえることなんだろう? 捕まえて一体どうするつもりなのか…俺は凄く気になるなあ。凄く」
鬼丸に続くように口を開いた三日月の声のトーンはいつも通りだったが、彼の顔を見た石丸はぎょっとした。ポーカーフェイスを貫いているも、目が全く笑っていなかったからだ。あの三日月が、いつもマイペースにのほほんとしている三日月が。明らかに気分が悪いと目で訴えていたのだ。
職員も三日月が不機嫌をあらわにしていることに気付き、彼らを捕まえるというのは語弊だと彼らに弁解を始めた。どうも、最近天下五剣の霊力の制御の方法が分かり、だからこそ彼らを呼びつけたのだという。
「最近になってやっと、全本丸の天下五剣……今は三日月宗近だけですが、極の許可を出すことが出来るようになったのです。それは、こちら側が力の制御の仕方を理解したから。ですから、決して政府に戻ったからといって邪険に扱うような真似は…『ちょっと待ってください』」
職員がそこまで続けていた最中だった。今まで沈黙を貫いていたネズが遂に口を開き、彼らの言葉に割り込んできた。どうも彼には職員達の言葉に引っかかるものを感じていたらしい。
職員達の目が自分に注目してきたタイミングを見計らい、ネズは言葉を続けた。
「今まで黙って話聞いてましたけど、あんた達全員"天下五剣を返却してもらえる"前提で話してますよね。ここにいる4人、全員帰るつもり傍からありませんよ」
「わたくし共も部外者ではありますが、彼らの事情は理解しているつもりでございます。どうか、彼らのことを汲んで差し上げてはいただけませんでしょうか?」
「嫌がっている人に無理やり帰れって言うのは…よくないわよね」
ネズの言葉に続き、ノボリとシロナも援護射撃をする。そう。職員は彼らが"天下五剣を全振返却してもらえる"という前提で話を進めていたのだ。しかし、暁も感じていた通り大典太達が帰るつもりは傍からない。つまり、職員達の言っていることは最初から全て突っぱねられる話なのだ。あまりにも身勝手だとネズは呆れ顔で職員を見回す。
彼らが立て続けに正論をまくし立てるため、職員は返す言葉を失い唸っている。しかし、今ここに立っている天下五剣がどういうものなのかを職員も理解していた。押し黙っていた職員が慌てて彼らにこう言い返した。
「貴方達も理解してくださっているのならば協力してくださいよ!この天下五剣はですね、内に秘める霊力が非常に危険なものなんです!いつ暴走し、貴方達に被害が及ぶか分からないんですよ?!」
「まぁ、確かにそうだね。あんた達の言い分も一理ありますが、こいつらには既に契約している主って奴が存在しているそうなんです。それに、あいつらはおれ達に出会った当初にそう言っています。自分達の霊力は危険だ、と。おれ達はそれを承知でつるんでいます。
で、今までおれ達が彼らが原因で危険に晒された記憶なんて心当たりありませんね。力が安定しているという証拠でしょうに」
あくまでもネズは冷静に、自分の経験を交えて職員達を説得しにかかった。こういう交渉事は得意ではないが、大典太達がこのまま連れていかれるのを黙って見過ごすわけにはいかなかったのだ。
そして、ネズは確たる証拠を出すように石丸に問う。三日月と契約してから何か危険な目には逢ったか、と。突然質問をされた彼は驚いたものの、意図を理解し自信満々に答えた。
「いや、何も無いぞ!寧ろ三日月くんの不思議な力で、僕が常々助けられているくらいだ!」
「はっはっは。そう言われると照れるなあ主」
石丸がはっきりそう言ったのに続き、ノボリもネズの援護をする為口を開く。彼らを納得させるため、言葉を紡ぐのを辞めてはいけないと判断したようだった。
「彼らのことを、もう少し信じてあげてはいただけませんでしょうか。あなたさま方にとって、彼らは確かに道具なのかもしれません。しかし…少なくとも、わたくし共にとって彼らは1人の"生きているいのち"なのです。無理を承知でお願いしていることは非常に申し訳ございません。
ですが。ですが!どうか彼らの心を汲んであげてはいただけませんでしょうか!」
「人間風情が知ったような口を…!」
2人の説得に、戸惑う職員もいれば気分を悪くし彼らに悪態を返す職員もいた。一部の職員が2人に反論を始め、話は平行線を辿る。このまま無理やり天下五剣が連れていかれてしまえば、自分達も後味が悪い。そして、サクヤとの約束を破ってしまうことにも繋がりかねない。何よりも……連れていかれることが、彼らの"しあわせ"に続くとは思えなかったのだ。
2人と職員の言い合いが続く中、黙って彼らの話を聞いていた責任者と思われる職員が一同を止めた。どうやら、2人の言葉に何か思うことがあったようだった。
「確かに貴方がたの言うことも最もだ。で、あれば…。天下五剣、お前達に時間をやろう。お前達が世界にとって危険なのか、そうでないのか。我々は危険だと思い回収に動いたが、そうでないのであれば…我々に見せてくれ。その"確固たる証拠を"」
「……つまり、この場で回収はしない、という判断でいいのよね?」
「ああ。そう捉えてもらって構わない。貴方がたがそこまで仰るのでしょうから、この天下五剣は暴走しないと自信をもって言えるのでしょうな」
「はっはっは。今更何をいう。俺達の精神が安定しているということが最大の証明だろう。では、お言葉に応えてこの会合で俺達が誰一人暴走しなければ、回収せずに大人しく元鞘に戻ることを見逃してはくれないか?」
「おい、三日月」
「構わん。暴走しなければ、な」
「……まるで暴走するかのような言い草だな」
「ま、猶予はもらえましたし。これ以上話続ける必要もなくなりましたよね? まずは結果オーライですよ」
天下五剣がこの会合中暴走しない。その条件を突きつけられ、彼らとの謁見は一旦お開きとなった。職員は再び暁に彼らを会場まで案内するように伝え、再び制御室の鍵を閉めたのだった。
結局会話がヒートアップしてしまったが、今回は一応客人として招かれている。暁は一同に振り向き、頭を下げて職員の無礼を詫びた。そして、会合を楽しんでほしいと告げたのだった。
「上の奴らってのは大体どいつもこいつも偉そうなんだよ。気分悪くしたらすまねぇな」
「いや。ヒートしちまったのはおれ達もですし…。今回はおあいこです。申し訳ないね」
「天下五剣さま、みなさま。申し訳ございません…。わたくし、あのまま黙って見過ごしてはいられなかったのです」
「いいや? 寧ろ俺達は助け船をしてもらえて嬉しかったぞ。結果的に条件付きとはいえ、会場に戻る手立てに話を曲げてくれて良かった。あいつら、交渉が決裂した瞬間に無理やり顕現を解こうとしていたようだからなあ」
「……後ろの職員がまごまごしていたのはそういうことだったのか。はぁ…油断も隙も無いな」
「そうなのか?!もっと周りを見ておけばよかった…」
「はっはっは。心配してくれてありがとう、主。だが…俺達が暴走しないということはお前が一番よく知っているであろう。頼りにしているぞ」
一度は時の狭間に捨てられた存在。回収したとて、職員の言葉通りに丁重に扱われるとは到底思えなかった。だから、これでいいのだ。申し訳なさそうに頭を下げるネズとノボリに、三日月は笑顔でそう返した。
猶予をくれたのであれば、自分達が"他の天下五剣と霊力は違えども、普通の刀剣男士だ"ということを証明して堂々と帰ればいい。四振の心の中には、そんな考えが生まれていた。
―――無事に会場に戻り、元々いた席へ座ろうとした瞬間だった。オービュロンが大典太の胸元に貼りつく。女性の姿をしていたはずなのに、何故か貼りついてきたのは白いもちもちとした宇宙人だった。
彼はオービュロンを胸から引き剥がし、何があったのかと問う。すると、オービュロンは涙目で彼らに助けを求めてきたのだった。
「た、助けてクダサァ~イ!!」
「……何があった?」
「ちっくとえらいことになってしもうてのぉ…」
中々引き剥がせないオービュロンの代わりに、困り果てた表情の陸奥守がある一点を指さす。彼の指さした先では、審神者同士が喧嘩を繰り広げている光景が広がっていた。1人は黒髪の和服の男性で、山姥切国広を近侍にしているようだった。どうやら男性がクリーム色の髪の毛の女性に怒りを覚えているようで、胸倉を掴んで気持ちをぶつけている最中だった。
折角の楽しい会合なのに、何故こんなことになってしまったのか。周りの刀剣男士や審神者が男性を止めにかかっているが、彼の怒りは収まっていないようだった。
「はて? あの方は見覚えが…?」
「ある、というか…さっきすれ違いましたよね、おれら。ハァ~…」
ノボリが見覚えがある、と顎に指を当てて記憶を辿る。隣でネズは掴みかかられている女性のことを思い出し、思わず表情が不機嫌になる。
そう。審神者の男性と喧嘩をしていた女性…。それが、先程通路であった"ジェシカ"当人であったのだ。態度から何かやらかすとは予測していたが、こんなにも早くトラブルが起こるとは。
また面倒ごとに巻き込まれると思ったのか、ネズは再び大きなため息をついたのだった。
- Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 ( No.158 )
- 日時: 2022/10/07 22:12
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
「なんか喧嘩してるみたいだけど…。あたし達がいない間に何があったの?」
開口一番にそう尋ねたのはシロナだった。確かに、彼らが上層部の連中と顔を合わせるために暁についていく前はこんな嫌悪な雰囲気になどなっていなかった。むしろ、穏やかな空気が流れ、楽し気な雰囲気の会合だったはずだ。
柊は彼女の質問を受け、しょんぼりとした表情を崩さず彼らがいない間の出来事を口にした。どうやら、今胸倉を掴みかかられているクリーム色の髪の毛の女性が、つい先程から会場に現れ貴重そうな刀剣を連れている審神者に話しかけ続けていたというのだ。刀種に関わらず、入手が困難な刀や政府が主催するイベントでしか迎えられない刀をターゲットにしているように彼女には見えていた。
彼女の言葉を受け、長曽祢も顔をしかめ話を続ける。
「なんだか物欲しそうな眼をしていたな。そういえば俺も先程話しかけられたぞ」
「えぇ?!話しかけられたなら言ってください長曽祢さん!!最近は聞かなくなったけど、レア刀を盗む不届き者が過去にいたこともあったんですからね?!」
「すまない。主を心配させたくなくてな」
「むしろそっちの方が余計に心配なんですよ!!」
「ま、まぁまぁ落ち着いてください柊殿。それで…あまりにもしつこいと注意をしたのが、あの黒髪の男性の審神者の方なのです。そこから喧嘩が勃発してしまい…」
「現時点でバチバチやってる、ってわけね」
残っていた一同の話を聞きつつも、暁は女性の方向をじっと観察する。やはりあの場所にいたのは偶然迷い込んだわけではなさそうだと彼は推測していた。一度すれ違い話をしたあの時ですらも、彼女は慌てた素振りを見せていなかった。関係者以外立ち入り禁止の場所にのうのうと立ち入る度胸。恐らく、あの女性は常習犯なのだろう。
そのまま観察を続けていると、柊が思い出したように一同に口を開く。喧嘩を見ていて、気付いたことがあったようだった。
「そういえば。あの女性が連れている今剣と厚なんだが…なんか、様子がおかしかったんだ」
「様子がおかしい…ですか?」
柊の言葉に数珠丸は思わず聞き返す。確かにジェシカの傍には烏帽子を被った身軽そうな少年―――"今剣"と、前田や信濃と同じようなデザインの軍服を身に纏った短髪で黒髪の少年―――"厚藤四郎"がいる。ジェシカに懐いていそうな雰囲気を出していたことから、恐らく彼女の本丸の刀剣男士なのだろうと柊は推測していた。
しかし、様子がおかしかったのだ。普段無邪気な子供のようである今剣はまるで炎を体現するかのように暑苦しく言葉を繰り返しており、普段頼もしい印象を持つ厚はまるで幼子のようにるんるんと喧嘩を見守っていたのだ。双方とも、彼女の知っている刀剣男士とはまるで違う…。それに、言われようのない不気味さを彼女は覚えていた。
柊の言葉を受け、明石は思いつめたように暁に問う。あの女性を捕まえて聞き取り調査をしたほうがいいのではないか、と。喧嘩が起きてしまっている以上、放置は出来ない。主催している側として止めなければならない事柄なのは明白だった。
「あの女。そもそも審神者なのかも分かりまへんし…。一度事情聴取しときましょか、主はん」
「そうだな。喧嘩も止めなきゃならんしな…」
暁はジェシカと話をするため、口を開きかけた大典太達に席で待っているように指示をした。彼らの力を借りることが出来れば万々歳なのだが、今の彼らは"客人"に他ならない。怪我をさせて帰還させるなど以ての外だった。
彼らの反論を無視し、暁は明石を引き連れジェシカの元へと歩いていく。程なくして喧嘩が続いている現場へと足を踏み入れ、未だに男性を睨みつけているジェシカを呼び止めた。彼女は暁と明石の方を向くが、表情はかなり不機嫌そうに歪められていた。
「な、なんでしょうかぁ…? ジェシカ、貴方達に用はないんですけどぉ…」
「こっちは用事がある。そこにいる今剣と厚についても話を聞きたい。それに、会合で喧嘩なんてやめてくれないか? 他の参加者にも迷惑がかかる。今から話がしたいんだが、いいか?」
あくまでも冷静に、感情を込めないように暁は女性に言った。先程ネズに跳ねのけられたとき、彼女の表情が恨みをこもったものに変化したことを彼は覚えていたからだった。彼女の逆鱗に触れぬよう、あくまでも冷静に、平常心で言葉を紡ぐ。
しかし、ジェシカは暁の考えが分からぬほど浅はかではなかった。自分のやりたいことを邪魔されたと思ったのか、ぶつぶつと恨み言を呟いている。先程まで猫なで声で他の刀剣に話しかけていた彼女の変貌。喧嘩をしていた審神者もジェシカに不気味さを覚え、思わず後ずさる。
「そういうのぉ…ジェシカの地雷なんですよぉ…。ジェシカは好きだからやってるのにぃ…なんでみんな否定するんですかぁ? ジェシカは悪くないですよぉ? この刀達も喜んでいますぅ。だから何にも問題ないんですよぉ? なんでジェシカの言うことを否定するんですかぁ?」
「な…なんだこいつ…?!」
ぶつぶつと何かを恨み言のように吐き捨てながら、ジェシカの表情が変わる。それと同時に、彼女から邪悪な気配が漏れるのを明石は感じた。咄嗟に抜刀し、暁の前に立つ。そして、なおも説得を続けようとする彼にその場から離れるよう告げたのだった。
喧嘩をしていた男性も、背後で近侍であろう山姥切国広に戻ってくるよう促されていた。彼の指示に従い、ジェシカに気付かれないように忍び足で後ずさる。しかし、彼女には男性のその行動ですら"地雷"だった。
『何逃げようとしてるんですかぁ? 貴方もジェシカを否定するんですかぁ? そうなんでしょう? そうなんですよねぇ?』
―――刹那。逃げようとしていた審神者の胸を、ジェシカの腕が貫いた。貫かれた箇所から黒い泥のような塊が男性の身体の中へと入っていく。
その様子は遠目で暁達を見ていた大典太達にも分かった。そして、ジェシカの行動が過去の出来事と類似ていることに気付く。そう。暴走していたソハヤがキバナに闇を注いだ時と同じ光景だったのだ。
「光世…。まさか、あいつ」
「……言わなくても分かってる。多分、あいつは―――あの女は、"アンラに深く関係している"」
大典太がそう呟いた瞬間、闇を注がれた男性が呻き苦しみ始めた。そして、胸の中に燻っていた泥のような闇に身体が呑まれていく。審神者が傷付いたと思わず彼の刀は我を忘れ助けに行こうとするも、近くにいた他の本丸の刀剣男士に抑えつけられていた。
会場の一角を覆う程に広がった闇は、次第に人型の悪魔のような形を取った。最早人ではない"それ"に、思わずシロナは震えた声で慄いた。
「な、何…? あれ…?」
「あいつッ…!」
悪魔へと変わり果ててしまった審神者に既に自我は既に無いようで、誰彼構わず辺りを破壊し始める。不運にも彼の爪の餌食となってしまった人物がゆっくりと床へと倒れていく様を、彼らは固唾を呑んで見ることしかできなかった。少しでも動こうものなら、隣で不気味に笑っているジェシカから攻撃が飛んでくることが分かっていたからだ。
彼女は変わり果てた悪魔の姿を見て、手を叩いて喜んでいる。その姿は傍から見て"狂気"そのもの。正気ではなかった。
「そうそう!この人はこの姿がジェシカ一番似合うと思うの!あはは!素敵!素敵!もっともっと暴れてぇ、ジェシカの嫌いなもの全部吹き飛ばしてちょうだい!!」
彼女の声に反応するように悪魔は暴れ始める。これ以上彼らの暴走を許してしまえば、避難を誘導することも、この騒動を収めることすら出来なくなってしまう。待機していた刀剣男士は一斉に刀を抜き、悪魔に対抗するため応戦を始めた。
ネズ、ノボリ、シロナも黙ってはいなかった。各々モンスターボールからパートナーであるポケモンを繰り出し、悪魔へと対峙する。
「ガブリアス。攻撃の合間に周りに誰かいないかも確認して頂戴。もし攻撃に巻き込まれそうになったら助けるのが優先よ」
「だったら、おれとタチフサグマで攻撃をブロッキングします。その間にノボリとシロナで反撃、及び巻き込まれそうになった奴らの救助をお願いします。いけますか」
「勿論でございます!シャンデラ、あなたの力でこの会場の空間を把握してくださいまし。攻撃が要救助者へ飛んで来そうになった場合、サイコキネシスで軌道を変えるのです!幸いあちらは特殊攻撃に弱い模様。あなたの出番でございますよ!」
「わかったわ。行けるわね、ガブリアス!あたし達の力、見せてやりましょう!」
「ガルルゥ!」
「シャウトアウッ!」
「でらっしゃん!」
ポケモントレーナー同士の連携で、近くにいた審神者達が次々と避難を始める。しかし、彼らと刀剣男士達の協力をもってしても完全に審神者達を救助することは敵わず、悪魔とジェシカの凶刃に沈んでしまう人物も現れ始めた。
次々と床へ転がっていく審神者を見て、柊も自分に何かできることはないかと辺りを見回す。しかし、攻撃が飛び交う中避難するのが精一杯だった。長曽祢、陸奥守の後ろに隠れ、彼らの様子を見守るしか選択肢がなかったのだ。
「みんな、頑張ってる…。わ、私も何か出来ることはないかな長曽祢さん!」
「いいや。ここはみんなに任せた方がいいな。主が出張って怪我でもしたら俺達が困る」
「わし等の後ろに下がっとき、主!主は必ずわし等が守る!」
広さはあるとはいえ、室内での戦い。対峙していた多くの刀剣男士も、少しずつ戦線離脱が目立ってきていた。大典太は攻撃を受け流しながらも、早いうちにジェシカと悪魔―――巻き込まれてしまった審神者を引き剥がさなければならないことを悟ったのだった。
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