二次創作小説(新・総合)
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- 繋がる世界と未来の物語【Ep.03-ex完結】
- 日時: 2022/10/12 22:13
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
―――これは、"全てを元に戻す"物語。
それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。
どうもです、灯焔です。
新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
また、オリジナルキャラクターも登場します。
苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。
※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2
<目次>
Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17
Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37
Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53
Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67
Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89
Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130
Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148
※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54
Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111
Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151
※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108
Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163
<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150
最終更新日 2022/10/12
以上、よろしくお願いいたします。
- Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 ( No.125 )
- 日時: 2022/05/23 22:00
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
一同がビーチに戻ると、既に海で遊んでいたその他の面子も全員着替えてパラソルの近くで待機をしていた。
見たことのない人物が増えている。恐らく彼が探していた"刀の正体"なのだろうと一同は察した。大典太に自己紹介を促され、彼の兄弟刀は自分の名前を告げた。
「"ソハヤノツルキ ウツスナリ"……。この言葉が俺を示すもの。坂上宝剣の写しにして、大典太光世とは兄弟だな。徳川家康の愛刀として伝えられているのが一番有名な話かな!気軽に"ソハヤ"って呼んでくれ。これからよろしくな!」
「つまり…光世の弟みたいなもんなんですね…」
「……生きてるな。良かった」
「勝手に殺さないでください…。ノボリの献身的な介抱のお陰で…何とか熱中症は回避出来ましたよ…」
大典太は自分が離れている間、ネズのことも心配していた。そもそもビーチに辿り着いた瞬間からかなりへとへとな彼を見ていたからだ。言葉通り、ノボリが徹底的に介抱したお陰で彼は今意識を保って話が出来ている。しかし、限界寸前なのは目に見えていた。粗方話が終わったら、素早くホテルへ戻った方がいいだろうというのは目に見えていた。
ソハヤは自己紹介を終えた後、大典太から事の顛末を聞いた。自分が漁の網に引っかかっていたということ。そして、一足遅ければ町長に本体を持ち去られていたということであろうこと。キバナの機転のお陰で合流が果たせたということを。
話を聞いた彼は、キバナに向かってにっと笑顔を向け礼を言った。
「つまり。砂嵐が起きてなかったら俺、あの町長に持っていかれて何が起こったか不明だった、って解釈でいいんだろ?ありがとな!」
「オレさまは別に大したことはしてない。結果的にいい方向に転がってよかったよ」
「いーや、お前はいい奴だ!俺が保証する。そうだ兄弟。……こいつとは気が合いそうだし、暫くキバナと一緒に行動させてくれないか?」
「何を言っている?」
なんと彼はキバナと一緒に行動したいと言い出した。流石にソハヤが自我をしっかり持っているとはいえ、邪神の類に解呪を受けたという話は聞かない。彼の中に邪気がまだ残っている可能性の方が高い以上、普通の人間であるキバナと共に行動させることは危険極まりない行為だった。鬼丸は立場がまるで分かっていないと呆れている。
彼の言葉に大典太はしかめっ面を続け、こう告げた。
「……キバナと行動するのは別に咎めはせんが。お前の邪気を取り除いてからだ」
「邪気?それなら自分で祓ったぜ。ほら、兄弟があの空間の中でやってくれた握手の霊力を参考にしてさ!」
「……何だと?」
「疑うなら俺の霊力調べてみろって兄弟!何ともないから!な?な?」
"自分で自分の邪気を祓った"。突拍子もない言葉がソハヤの口から飛び出た。大典太は信じられないという表情をする。今までアンラの邪気に関する出来事は様々体験してきたが、刀剣男士自ら祓ったという話は聞いたことが無い。しかし、ソハヤの霊力を察知しても"彼の霊力しか感じない"のだ。燭台切のようなパターンを除き、かつての小狐丸や信濃のように、彼らの霊力に混じってアンラの闇も混ざっているのが常だった。
ソハヤは嘘をついている訳ではなさそうだ。鬼丸も邪気を察知できず、彼の言葉を信じるしか出来なかった。
彼の処遇についてどうするかを決めあぐね沈黙が続く最中、絞り出すようにネズが声を上げた。
「すみません…。話の腰折って申し訳ないんですが、そろそろ限界なんです…。続きはホテルの中でしてもらってもいいですか…」
「あたしからもお願い。そろそろアニキのこと、ホテルに戻してあげて。というか…アニキ、今日はよくこんな時間まで頑張ったよね。普段なら真っ先に日差しから逃げてるのに」
「ここまで暑いとは予想してなかったんですよ…」
「あはは。今日は例年よりかなり暑かったからね…。ボクもそろそろ涼みたくなってきたな。ホテルに戻ろうか!」
マリオの言葉を皮切りに、一同はホテルへと戻ることにした。日差しのピークも過ぎ、気温は徐々に落ち着いては来ているものの、ネズに限らず皆身体を休めた方がいいのは明白だった。
ピーチはパラソルとテーブルの片づけをキノピオに命じ、一同に戻ることを促した。立ち上がってもぼーっとしているネズを、ノボリとクダリが肩を支えるように腕を回す。
「クダリ、ネズさまはわたくし共が支えましょう!」
「うん!ネズさん、少しの辛抱だから。ぼく達一緒。安心して」
「……すみません。迷惑かけちまって…」
「いいえ!今の謝罪は非常にノイジーでございますよネズさま!人生とは、お互い助け合いの精神が大事なのです!」
「……おれの口調移ってんじゃねぇですか」
どこか満足気な表情の双子に深くため息をつきながらも、彼らの行動に感謝を述べたネズなのであった。
そして、双子に支えられネズは彼らの後を追ってホテルへと戻っていった。
ホテルのロビーに入ると、涼しい風が彼らの火照った身体を冷やす。既に到着していたメンバーは各々椅子に座ったり、フロントに飲み物を頼んだりで各々涼んでいた。
双子はネズを一番大きいソファに座らせる。室内に戻ったからなのか、ネズのしかめっ面も大分和らいだように見えた。しばらく休んでいれば、いずれ体調も元に戻るだろう。
一方、ソハヤは未だに大典太に説得を続けていた。キバナのことが気になるから一緒に行動させてほしい、と。兄弟刀とはいえ、本当に彼の言葉を信用してもいいものか。大典太は判断を決めあぐねていた。
「兄弟!だから俺は何も問題ないんだって!信じてくれよ!」
「……別にお前のことを傍から信用していない訳じゃない。邪気だって感じていないんだからな。それに、そこまで言われて無理やり否定するわけにもいかないだろう…。
……変な行動だけはするなよ」
「おい、大典太」
「……弟にはやりたいようにやらせたい…」
「おまえ、あいつらに影響されすぎだ。おれ達は人間じゃない、刀剣男士だ」
「まぁまぁ、鬼丸殿!大典太さんも悩んでの答えだと思います。彼の行動を否定しないであげましょうよ!」
遂にソハヤの言葉に大典太が根負けし、ソハヤとの行動を許した。鬼丸が即座に制止に入るが、"兄弟刀の望みは叶えてやりたい"と小さくぼそぼそ話しているのが聞こえ彼は呆れを通り越して真顔になっていた。あのお人好しどもに染まりすぎだ、と悪態をつくと、前田がまぁまぁと鬼丸を宥めた。
やり取りを近くで見ていたキバナも、ソハヤが自分に興味を抱いてくれたことには嬉しく思っていた。彼の声に応じ、キバナもまた一緒に行動することを承諾したのだった。
- Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 ( No.126 )
- 日時: 2022/05/24 22:41
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
共に行動すると決めた彼らは、改めて街の中を散策することにした。まだ夕食まで時間がある。ロビーを改めて見回してみると、既に一同は解散し各々やりたいことをやり始めていた。
キバナは改めてロビーに残っている刀剣男士以外の人物の軽い紹介をソハヤにした。ふんふんと首を軽く彼は振り、ちらりと視界に見えたネズの方向を向いた。
「ん?ネズが気になるのか?」
「いや…。兄弟と雰囲気似てるなぁって」
「分かる。初見でオレさまもそう思って喋ったら腹に一撃喰らったもん」
あの時は"光世に失礼です"って返されたっけな、とけらけら笑いながらキバナは思い出を口にしていた。彼はホテルの中で身体を休めていたからか、大分調子が戻って来ていた。
そのままじーっと見つめていた最中、キバナは何か閃いたのかネズのいる方へと歩いていく。ソハヤも彼に付き従うように後ろをついていった。
「ネズ、なんか冷たい飲み物いるか?ホテルに持っていくようデリバリー頼むけど」
「大分体調回復したんで大丈夫ですよ」
「でも、デリバリーなら動かなくていい。ぼくも何があるのか気になる。キバナさん。3人分頼んでいい?」
「クダリ…」
クダリが気を遣ってくれたのか、"自分が飲みたいから"と理由を付けてキバナに自分とノボリの分も含めてのデリバリーを頼んだ。何故そこまで他の地方の元ジムリーダーでしかない自分にかまけるのか、ネズは不思議でしょうがなかった。
彼の言葉を聞いたキバナは笑顔でOKサインを作り、デリバリーを頼むことを約束してくれたのだった。クダリに続けるようにノボリも口を開く。
「回復したとはいえ、まだ万全ではございません。ネズさまはわたくしとクダリが引き続き見ております故、キバナさまはバカンスを楽しんでいらっしゃいませ」
「うん。そうするよ。ネズのこと頼んだ。そんじゃ、いってきま~す」
「まだ外暑いから気を付けて!」
ひらひらと手を振る双子と、それに倣うように小さく手を動かしたネズをちらりと見やった後、キバナはソハヤを引き連れて街への散策を開始したのだった。
―――真昼間よりは気温が落ち着いているものの、今日は特に温度が高い日だとマリオも言っていた。元々キバナは暑さに強い方だが、この暑さは長時間はいられないと早速商店街の方へ歩いていくことにした。
お互いに身の上の話をしながら、気になった店や場所に向かう。まず彼らが目についたのは、お洒落なハイビスカスがストローについたジュース屋だった。
「何これ。ストローにハイビスカスの花刺さってんじゃん」
「こちら、ドルピックタウン名物の"ハイビスカスジュース"になっております!アップルベースとパインベース、2種類のフルーツジュースを提供しております」
「へー。テイクアウトも出来んのか。なぁキバナ、これあいつらにデリバリーしたら雰囲気楽しんでもらえるんじゃないか?」
「オレさまも同じこと考えてた。すいませーん!この店ってデリバリーって出来ます?」
キバナは早速ジュースを試してみることにした。1人と一振の分とホテルにいる3人の分を購入し、3人の分はデリバリーを頼む。店員から出された爽やかな明るい色のジュースが入っているプラスチックの容器にはストローが刺さっており、それを飾るようにピンク色と水色のハイビスカスが刺さっていた。
キバナがアップルベース、ソハヤがパインベースのジュースを受け取り、キバナは早速自分達が映るようにスマホロトムに撮影を指示。"パシャリ"という音と共に、彼らが写った写真が画面に現れた。
「おおっ?!」
「いやー悪いな。オレさまどんなもの持っても様になるからさ~。思わず1枚撮っちゃった。早速SNSにアップ、と」
「何してるんだ?」
「ん?これ?あぁ。オレさま、ジムリーダーと兼業してインフルエンサーみたいなこともしてんだよね。日々やったこととか見つけた美味しいものや綺麗な景色を写真に残して、SNSにアップして共有すんの。すると、色んな奴らが反応してくれる。注目した場所にも食べ物とかにも興味持ってもらえて、そこの知名度アップに一躍買ってる…的な感じ?」
キバナのスマホロトムをソハヤが興味深そうに眺めてきた。彼は自分が普段何をやっているのかを伝える。ドルピックタウンは観光業にも盛んに手を出している為、自分も盛り上げに影ながら助力しようかとも思っていたらしい。
彼は今撮影した写真をコメントと共に自分のSNSにアップする。すると、早速彼のファンであろうユーザーからコメントが届いた。
「早速反応が返ってきた」
「ガラルがあんなことになっちまって、今はみんなジムリーダー休業してんだよ。だから、こういう写真も今は結構広く受け入れられてるんだぜ。……んー!想像以上には甘すぎない。飲みやすいいい味だな~。そっちは?」
「パイナップルだから酸っぱいの想像してたけど、そこまで酸味強くねえな。どんな人にも勧められそうだ!あー、兄弟にもデリバリー頼めばよかった…」
「どうせ帰り通るんだしその時にまた頼もうぜ」
気を落とすソハヤを宥めながら、キバナとソハヤはドルピックタウンの"いいところ"を次々訪れ、写真に納めSNSへのアップを続けた。
先程訪れたのとは別の場所から見える海の景色や、常夏の街を彩る花々。食欲をそそる軽食のテイクアウト風景や、元気に街で活動するモンテ族とのツーショット写真。ソハヤとポケモンがじゃれついている写真も勿論撮影し、SNSにアップをした。
パートナーであるジュラルドンを始め、フライゴンもヌメルゴンもソハヤの気さくなところを気に入ったのか、既に甘えている。大きなポケモンに好かれてソハヤは最初驚いたものの、キバナのポケモンはバトル時で無ければ明るい性格の子が多い。いつのまにかソハヤからも撫でたりなどのスキンシップを積極的に行っていた。
「あははっ!お前らかわいいな!」
「じゅら!」
「オレさまの手持ちもすっかりソハヤに懐いちまって。オレさま嫉けちゃう」
「ぬめ~」
「言葉の綾だって言葉の綾!ちゃんとオレさまも大事に思ってます~!
……結構いろんな場所投稿してきたけど、これでドルピックタウンの魅力も、リレイン王国が悪い国じゃないってことも分かってくれるといいけどな」
「キバナはいい奴だし、みんな分かってくれてるんじゃねえか?」
「そうだと良いけどさ~。ま、人気者にはアンチが付き物なのよね…」
キバナはじゃれてくるヌメルゴンを撫でながら、自分のSNSを確認する。既に彼が投稿したいくつもの写真に大量のコメントがついていた。キバナは議事堂に世話になることが決まってからも、積極的に城下町のいいところや魅力をSNSにアップを続けていた。もしかしたら、移住者が来訪者が予想より増えているのも彼の影響があるのかもしれない。
特にポケモンと笑顔で遊んでいる写真や、最初に撮ったジュースを持つキバナとソハヤの写真は瞬く間にバズり、注目の的となっていた。見慣れない男が写っている、とソハヤに興味を持つユーザーも現れていた。
『キバナ様、今常夏の街にいるの?!』
『キバナさまと誰これ、このイケメン?!一緒に遊んでる!尊い!』
『痺れるくらい素敵な投稿ね!わたしも行きたかったな…』
『一緒に写ってるイケメン誰?!超性癖抉ってくるんですけど!!』
『大乱闘に招待したい』
『ドルピックタウン、やっぱり綺麗だなー!インフルエンサーさんだから写真の写し方も綺麗で素敵だよー!』
『ブラボー ブラボー。トッテモ素敵な写真ダネェ!ボクも今度カービィと一緒に行こうット!』
『常夏の街で楽しむのもいいけど、ちゃんとポケモンバトルの腕も磨けよなー!』
様々な反応を一緒に楽しむキバナとソハヤであったが、ふとキバナは彼の様子がおかしいことに気付く。ソハヤから笑顔が一瞬だけ消えたような気がしたからだった。
心配になり声をかけると、彼ははっと我を取り戻したように辺りを見回す。そして、表情を歪めるキバナに"何でもない"と取り繕った。
「何でもないならいいけどよ。暑さでバテたならホテル戻るか?」
「いや、暑さは平気だ。俺は刀剣男士だからな!そうだ。さっき"映えスポット"ってのを街の人に聞いて回った時に"時計塔がある"とか言ってなかったか?街が綺麗に見下ろせるって」
「そろそろ夕方だしなー。あんまり帰りが遅くなって心配させても駄目だしな。よし、最後にそこで1枚撮って帰ろうぜ!」
ソハヤからの提案を承諾し、キバナは手持ちのポケモンを全員ボールへと戻した。いつの間にか空が青から赤に変わりかけている。夜が訪れるのも時間の問題だった。
回れる場所もあと1か所。ならば、行動は早い方がいいと彼らは早速時計塔へ向かったのだった。
街の絶景が一望できると評判の時計塔。レンガで積み立てられた歴史を感じるその時計塔の前に、キバナとソハヤは立っていた。時計塔は誰でも屋上に向かうことが出来るよう、入口が常に解放されている。
早速屋上に向かおうとソハヤに声をかけようとしたキバナだったが、先程と同じように彼の様子がおかしいことに気付いた。ソハヤはまるで表情が抜け落ちたかのように真顔で時計塔を見続けている。
再び声をかければ先程のように戻ってくれると期待し、キバナが声をかけようとした瞬間だった。
ドン、と自分の身体が突き飛ばされた感覚をキバナは覚えた。隣にいたソハヤに両手で突き飛ばされたのだ。コンクリートに尻もちをついた隙に、彼は時計塔の中に入り扉を閉めてしまった。
キバナがすぐに彼の行動に気付き閉まった扉をどんどんと叩くも、彼の声は聞こえない。扉に何か細工を施したのかは分からないが、いくらキバナが力を込めても、ポケモンを出して手伝ってもらっても扉が開くことはなかった。
そして、扉から離れたキバナは"もう1つの異変"に気付く。彼は暑さに強い。更に今は夕方が近付いている。真昼間のような暑さは感じない筈なのに、昼よりも暑い。彼はそんな気持ちを抱いていた。
彼はタオルを取り出し顔の汗をぬぐう。何かがおかしい。何が起きている。
「夜も近いのに気温が上がっているような…。これ、やべえやつじゃ…!」
そう気付いたキバナは、急いでホテルへの道を逆走したのだった。
- Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 ( No.127 )
- 日時: 2022/05/25 22:01
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
駆け足でホテルに戻ってきたキバナをロビーで待っていたのは険しい顔をした大典太だった。ソハヤに異変が起きたのを大まかに察知しており、キバナの焦っている表情もすぐに理解した。
ソハヤの居場所を聞かれ、キバナは素直に時計塔で起きた事の顛末を話す。すると、彼は険しい顔を更に深め小さくため息をついたのだった。
「成程な。急に邪気が察知できるようになったから何事かと思ったら、あいつ自身が自分の霊力で隠していたのか」
「どういうことだよ?」
「……兄弟…"ソハヤノツルキ"は、元々俺の同位体と負けないくらいの強い霊力を持っている刀だ。察知能力や探索能力に関しては正直、俺より高い。周りを騙す為に自分の霊力を被せるなど…あいつなら造作もないことなんだよ…」
「つまり。ソハヤさんはキバナさんに悪い影響が出ないように、邪気を隠して一緒に行動していたってこと?」
「そうだ」
マリィが確認するように持論を述べると、鬼丸は表情を変えず頷いた。大典太にこれ以上迷惑をかけたくない気持ちと、キバナへの興味。双方が綯い交ぜになった結果、"自分で自分の霊力を隠す"行動に走ったのだと大典太は推測した。
ソハヤの邪気を表に出してしまうと、確実にキバナに悪影響が出る。彼はそれを分かっていた。だからこそ、彼に影響が及ばないように自身の霊力で邪気を抑えつけていたのだ。しかし、彼がそういう行動を起こしてしまったせいで邪気の察知にも遅れが生じ、このような異変が発生してしまったことも事実である。
表立った事実にキバナの表情が暗くなる。しかし、落ち込んでいる暇など無かった。
耳を澄ませていたネズがふと声を上げる。フロントの電話口で何やら慌てているらしいのが聞こえてきたのだ。
「今電話してたのを聞いただけなんですが。ドルピックタウンの中だけ、気温がどんどん上昇しているらしいです」
「え? 夜近いのに」
「それはオレさまも感じた。ソハヤが時計塔に閉じ籠った直後からだよ。汗が噴き出てきたのは。夕方なのに気温が上がってるなんておかしいってな。だから戻って来たんだ」
ポケモントレーナー達の言葉を聞き、大典太は考える。気温が異常に、更に一つの街"だけ"で上昇を続けている。確実にソハヤの霊力が影響しているのは理解したが、彼は"それだけではない"と、彼の邪気の向こうにある何かを思索していた。
大典太は一同に"今まで起きた中で何か様子がおかしかったことはないか"と尋ねた。すると、キバナが思い出したようにはっとして口を開いた。
「……兄弟の霊力と邪気の暴走と…もう1つ、何かが動いているな…」
「そういえば…すなあらしを起こしてあいつの本体を回収しようと動いた時に、町長が本体に何かしようとしているのを見たぜ。それで早く動かなきゃってオレさまも思ったんだよね」
「町長さまが…? 彼は一体何を考えているのでしょうか?」
「うーん。会議の時から気になってたけど。その町長、本物?」
クダリが疑念を抱き始めた矢先だった。ネズが険しい表情をして一同にフロントが慌て始めたことを告げた。どうやら町長が急に部屋から出て行ってしまったらしく、上役のモンテ族総出で探しているという会話の内容を聞き、彼らにそのまま伝える。
かなり小さな会話だったが、ネズは非常に耳がいい。彼の特技を遺憾なく発揮してくれていることに大典太は心の中で感謝を述べた。
「クダリの直感、当たっているかもしれないですね」
「だったらぼく達も早く町長さんを探さないと。きっと、ソハヤさんに何かをするつもり」
「………ッ!」
いてもたってもいられず、キバナは再びホテルを背に向け外に出ようとする。しかし、両腕をネズとノボリに掴まれてしまった。町全体に異常が起きている今、いくら暑さに強いキバナですらいつ倒れてもおかしくなかったからだった。
「無謀な行動はお控えください!キバナさまが倒れられてしまっては意味がございません!」
「だけど!」
ノボリの言葉にもキバナは納得できなかった。ソハヤが自分を巻き込まない為に今まで町を散策していた時に苦しみを我慢していたのだとしたら。それに気付けなかった自分にも責任があるとキバナは確信していた。
だから、彼が苦しみを表に出し始めたのだったら…自分が助けねばならないと彼は結論をつけていた。
キバナは力任せにネズとノボリの腕を振り払い、単身外に飛び出して行ってしまった。行先は勿論時計塔だろう。刀剣男士達もそれに気付いたようで、彼を追いかけるように走り出す。
「……追いかけるぞ鬼丸。あいつを放っておいたら大変なことになる」
「―――ちっ!」
小さく告げ走り出した大典太を追うように、鬼丸は舌打ちをした後彼の後に続いた。ネズとノボリも彼らの後を走ろうとするが、寸前でクダリに止められた。
昼以上に気温が上がっている今、感情で走り出そうとしている彼らが倒れてしまうことを彼は先に読んでいた。
クダリは近くにある自分の鞄からサンバイザーを取り出し、ネズに渡した。
「待って。そのまま行くとネズさん本当に倒れちゃう。ぼくのだけど、無いよりはマシ。これ使って」
「クダリ…。ありがとうございます」
「あと。2人だけで先走らないで。ぼくも一緒に行く。キバナさん止めなくちゃ」
「ええ。共に参りましょうクダリ!」
クダリの気遣いに感謝しつつ、ネズは彼からサンバイザーを受け取り頭に装着した。中々高性能のものを準備期間に買ったのを覚えている。暑さに弱い2人はともかく、クダリまで買って本当にいいのかと駄弁っていた時間をふと思い出した。
3人が出て行こうとする直前、デイジーが前に立って3人に言った。
「マリィちゃんはアタシとピーチ姫で見てるわ。だからお願い。追っかけてあげて。キバナさんと、ソハヤさんと、ドルピックタウンの人達を助けてあげて!!」
彼女の心からの叫びに3人は無言で頷き、大典太と鬼丸を追うように走っていったのだった。
彼らの姿がホテルから消えたと同時に、マリオも"よっこらせ"という声と共に立ち上がる。おじさんみたいだからやめなよ、というルイージの叱責を無視し、彼はピーチに話を始めた。
「ねぇピーチ姫。ボク、凄いこと閃いちゃった」
「どうしたんですの?」
「それで、ボクちょっとやりたいことがあるんだけど…。ルイージと一緒にこれから外行ってくるね」
「マリオさん達もアニキを追うの?」
「ううん、別行動。ルイージには向かいがてら話すよ。多分キミ達にも協力要請するだろうから、そのつもりでいてね。それじゃレッツゴー!」
「あっ!ちょっと待ってよ兄さん~!」
マリオの意図を何となく理解したのか、ピーチは何も言わず外に走り出すマリオとそれを追いかけるルイージを見送った。マリィとデイジーは未だに首を傾げている。
どういうことかと彼女に尋ねると、ピーチは"吉報を待ちましょう。マリオはいつでも頼りになる"スーパーヒーロー"なんですのよ?"と微笑みながら言ったのだった。
- Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 ( No.128 )
- 日時: 2022/05/26 21:57
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
クダリのアーケオスの導きでフライゴンの気配を追う。そうして時計塔へとまっすぐ到着した3人と二振だったが、そこにキバナの姿は無かった。代わりに、扉が開け放たれているのを確認する。しかし、彼がポケモンを放ち無理やり開いたようには見えない。ソハヤが霊力で無理やり扉を閉じた後に、キバナではない誰かがやってきたのだろうと大典太は推測した。
中から……いや、上から邪な気配を感じる。十中八九ソハヤのものであろう。大典太は顔をしかめた。
「……不味いな。邪気が強まっている」
「話している暇はない。早くあいつらを止めるぞ」
このままではアンラの邪気にソハヤが完全に呑まれてしまう。そうなる前に彼を何とかしないと、かつての鬼丸のように破壊せねばならなくなる。それだけは絶対に避けなければならなかった。
大典太はぎゅうと右手を握った後、時計塔へと入り屋上へ駆けあがったのだった。
―――同時刻。キバナは一足先に屋上へとたどり着いていた。後ろから誰かが迫っている気配を感じ、後ろ手で鍵を閉めソハヤの方を見た。ソハヤは屋上の端で、人間から見ても分かる真っ黒い気配を漂わせ苦しんでいる。自我があるのかないのか彼には判断がつかなかった。彼の表情すら黒く呑まれて見えなかったからだ。
「オレさまを苦しめない為にずっと我慢していたのか…?」
一緒に笑っていた陰で、ずっと独り苦しんでいたのだ。我慢せずに自分を頼ればいいのに。キバナは内心そう思うが、彼にも事情というものがあったのだろう。ホテルで大典太達の話を聞いた時、今の自分にはどうしようも出来ないことなのだということも悟っていた。
目の前のソハヤはキバナに気付いているのか、震えた手を彼に向かって伸ばしているように見えた。しかし、すぐに黒いものに呑まれ蹲ってしまう。
キバナが決断を出来ずにいる間にも、ドルピックタウンの気温はどんどんと上昇していた。留まるところを知らず、街を焼き尽くしていく。彼の耳にもはっきりとモンテ族が徐々に苦しみ始める声が聞こえてきていた。
早く彼を助けねば、町が壊れてしまう上自分達の命まで燃え尽きてしまう。しかし、どうやって助ければいい。ポケモンの力を借りることも出来ない。どうすれば。どうすれば―――。
竜の守り人は、遂に意を決して歩み始めた。助けを求める存在に手を差し伸べる為に。
『来……る、な……!』
呻きに混じり、こちらに近付くことを拒否する刀剣男士の声が耳に入ってくる。しかし、キバナは歩みを止めなかった。そのまま彼の足元へと辿り着くと、そっと手を差し伸べた。
「一緒に行動したのはちょっと、だけどよ。オマエがいい奴なのは充分伝わった。辛いこと、悲しいこと。吐き出せずに1人で抱える方がずっと辛いとオレさま思うんだよね。
辛いなら…半分オレさまが受け持ってやるからさ。我慢するなって」
そう言いながら彼はにっと笑顔を見せる。かつてソハヤがそうしていたように。目の前に差し出された手を掴むべきかどうか。掴んだら、きっと彼に迷惑がかかってしまう。闇に呑まれながらも、ソハヤは考えていた。しかし、相当の覚悟を持って自分の前に現れたのだとも理解していた。
ソハヤも覚悟を決める。キバナの手を取る決意を。震える手を少しずつキバナに近付ける。もう少しで彼の手を取れる、確信した瞬間だった。
―――何処からか黒い光が刀剣男士を貫いた。ああ、もう少しだったのに。目の前まで迫って来ていた光が遠ざかる。視界が、闇に、葬られる。
目の前の男に"逃げてくれ"と叫ぶ気力すら湧かない。彼の顔が霞んでいく。見えなく、なっていく。
キバナは刀剣男士の変貌に反応するのが一足遅れた。取ろうとした手は彼の腹を貫く。刃物で刺されたような酷い痛みと同時に、彼が受けていたであろう"負の感情"も一気に彼の身体の中に流れ込んできた。
同時に、屋上の扉が破られる音が聞こえた。3人と二振の視界に見えたのは―――。
邪気を貫かれたキバナと、貫いた刀剣男士の姿だった。
「キバナ!!!!!」
ネズが叫んだのも束の間。大典太が素早く動きソハヤとキバナを引き剥がした。彼が攻撃を仕掛けたのは霊力的なもの―――。人間に通用するようにいえば"精神的な攻撃"の類の為、腹に一撃を喰らってはいるものの、彼の身体に大きな穴が開いたということはない。
しかし、キバナは既に意識を失っている。彼の身体に、過去にネズやノボリに起きた蔦のような文様が広がり始めているのを見て、早く解呪を始めねば手遅れになることを大典太は察した。ソハヤも既に意識を失っており、鬼丸が彼の回収に動いていた。そのまま兄弟刀は彼に任せることにして、大典太はキバナの解呪に集中することにした。
そっと床に横たわらせ、身体に巡る邪気の状態を診る。幸い彼に貫かれたと同時に発見した為、すぐに呪いを解けば命に別状はないことがはっきり分かった。
「キバナ。しっかりしてくださいキバナ!!」
「……大丈夫だ。すぐに解呪すれば助かる。待っていろ」
「では、わたくし共は見張りをいたします!」
焦るネズを安心させるように優しく語りかける大典太。その姿を見て、ノボリとクダリも自分達に出来ることをやろうと見張りを立候補した。邪魔にならないようにその場から離れ、双子は街を見下ろす。
暑さに苦しんでいるモンテ族や、ひいひいと声を発しながら建物の中に逃げ込む住民や観光客の姿があった。楽し気な常夏の街が、一気に恐ろしい灼熱の街へと変貌するところだった。街の様子を見て、クダリは目尻を下げた。
「みんな、苦しそう」
「この暑さです。いくら耐性がある方でも苦しむのは手に取るように理解が出来ます。しかし、わたくし共に出来ることも限られております。今出来ることを誠心誠意実施するのです!」
「うん!」
暑さに負けてはいられない、と双子は再び見張りを始めた。彼らが怪しい人物がいないか確認を手伝ってくれたお陰なのか、妨害も入らずキバナに燻る呪詛が完全に解かれた。うぅ、と呻き声を上げながらもキバナは目を覚ます。最初に目に見えたのは、心配そうに顔を歪ませ目に涙の膜を張るネズの顔だった。
「あ、れ…?オレさま…確か…」
「心配させんじゃねぇんですよ全く…」
「あー…。追いかけてきてくれたのな。ありがとな、ネズ」
「おれだけじゃないです。みんな、おまえのこと心配してたんですよ」
そのままぐすぐすと泣き出してしまったネズをキバナは慰めながらも、大典太に改めて感謝を述べた。大典太からは1人で突っ走るなと叱責を受けたものの、兄弟刀を助ける為に動いてくれてありがとうと感謝も告げられた。
それと同時に、鬼丸がソハヤを担いで戻ってくる。気絶しているからなのか、先程よりは邪気の巡り方が遅くなっているように感じた。大典太は彼にソハヤを下ろすように指示をする。
下ろしている最中、大典太はソハヤの腹に目掛けて全力で殴打をした。"ぐえっ"という呻き声と共に、彼の身体の中に燻っていた邪気が全て弾き飛ばされ、霞となって消えた。今まで刀剣男士ですら丁寧に介抱してきた彼が、ここにきて雑に解呪を行った。その事実にネズとキバナは驚いていた。
「……迷惑料も込みだ。これでこいつの邪気は祓えた筈だ…。兄弟刀だからな、これくらい雑でも許してくれるさ…」
「だからといって腹パン一撃で済ませるのは流石に雑過ぎやしませんか?」
「オマエの塩対応みたいなもんなんじゃねぇの?」
「そういうものなんですかね?」
だが、ソハヤからは既に気分が悪くなるような雰囲気を感じない。殴打で痛そうにはしていても、苦しそうに呻いているようには見えなかった。大典太の言葉通り、彼の中に燻る邪気は全て消え去ったのだろう。
満更でもない表情をしている大典太に、また新たな発見をしたとネズは結論をつけることにしたのだった。
- Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 ( No.129 )
- 日時: 2022/05/27 23:14
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
時計塔への一件が解決したと同時刻。ドルピックタウンの街中にあるとある倉庫にマリオとルイージは向かっていた。マリオが閃いたということとは、"町長の居場所"だった。ロビーでの皆の会話を聞いていた彼は、クダリの言葉で"本物の町長が街の何処かに閉じ込められている"可能性があると予測していた。ルイージに外出した訳を話し、怪しい場所を片っ端から探索していたのである。
粗方探し終え、残りは街中にある倉庫だけとなった。普段、祭事等に使用している道具が仕舞われている為、滅多に人が寄り付かなかった。町長を閉じ込めるならうってつけだろう。
モンテ族に訳を話し倉庫の鍵を借り、マリオはガラリと勢いよく扉を開ける。彼らの思惑通り、中には縄でグルグル巻きにされ気絶している本物の町長の姿があった。
「やっぱりおかしいと思った。町長さんはあんなに怒りっぽい人じゃないんだよ。ちょっと考え方は古いけどね」
「縄で縛られている以外に何か怪我をした様子はなさそうだね。ずっと閉じ込められているからちょっと痩せてるけど…大丈夫。生きてるよ兄さん。
じゃあ、あの町長さんは…」
「変な黒い光が時計塔に飛んでいったのを見た。多分、あいつ悪い奴だよ!」
キノコ王国の双子はそう気付き、すぐに副町長にスマートフォンで連絡をした。本物の町長を発見した為、偽物の町長を捕まえてほしいと。
それだけ伝え、マリオは電話を切る。既に縄を解いていたルイージの手伝いを始め、目を覚ました町長に事情を話し、彼と共に偽物を捕まえる為副町長達との合流を急ぐのだった。
―――一方、連絡を受けた副町長達は、マリィのオーロンゲの力も借り偽物の町長を追い詰めていた。前田が自身の察知能力の高さを活かし、偽物は街の端に逃げ込んでいることを彼女達に伝えた。囲い込むように町長を追い詰め、後は捕まえるだけ、というところまで来ていた。
偽物の町長はギリギリと歯ぎしりをし、苦しい表情で彼女達を見る。
「観念して!こっちはもう全部分かっとるけんね!もうすぐ警察の人も来るけん、お縄に大人しくついて!」
"警察"。その言葉を聞いた瞬間、偽物の町長はマリィ達を嘲笑うように見下しながらゲラゲラと笑い始めた。その下品な笑い方に、思わず追い詰めていた一同の顔が歪む。
そして―――。"町長"の姿はどろどろと液体のように溶ける。皮がはがれるように出てきたその姿は……。金髪のオールバックをなびかせた、気だるげな表情の男性だった。パンキッシュな服装を身に纏った男の姿を見た瞬間、前田はとてつもない邪悪な力を彼から感じた。"人間ではない。アンラに関わる者だ"そう判断し、3人と副町長を守るように前に立つ。
前田の反応を見て、彼は笑っていた顔をつまらなさそうに鎮め、自己紹介を始めた。冷たい紫の瞳が一同を見下す。
「……ボクの名前は"マイケル"。キミ達は悪の神様って知ってる? このつまらない世界を破壊してくれる、力の強い神様さ。ボクはそんな悪の神様―――"アンラ・マンユ"から生み出された分身の1人」
「"分身"…!じゃあ、アニキとノボリさんを危険に晒したのもあんたがやったの?!」
「違う違う。あんな雑魚と一緒にしないでくれよ。ボクは分身の中でも特に強い力を持つ存在。アンラ様の忠実なるしもべなのさ!!」
ネズとノボリを死の淵に追いやった分身を"雑魚"と言い切った。しかし、その言葉に違わず目の前の男は尋常じゃない負の気をまき散らしている。いくら刀剣男士である前田ですら、気力をしっかり持っていなければ彼の空気に持っていかれる程だった。
自己紹介を終えてもしかめる表情をやめない一同を見て、彼はつまらなさそうにため息をついた後彼女達にこう告げたのだった。
「もう少しでこの街が干からびて、機能不全に出来たところだったのに。しかもボクの目の前に現れたのは"アンラ様が求めている魂"じゃない。残念だよ…」
「何を言っているか分からないけど、あなたはもう逃げられないわよ!さっさとお縄になりなさい!」
「……ボクが? お縄に? 笑わせてくれるよね。でも…街も騒ぎになってきたし、このままキミ達と言葉を交わしているのもつまらなくなってきたよ。期待外れの街にもう用はないよ」
「逃げるおつもりですの?」
「逃げる? 違うよ。戦略的撤退という奴さ」
そう言うと、彼は再びどろどろと地面に溶けるように消えていく。逃がさないようにマリィが素早く移動をするものの、彼の立っていた場所に追いついた時には既に彼の姿は消えていた。
"逃げられた"。彼が溶けた地面を見つめ、マリィは悔しい思いを胸に抱いたのだった。
逃げるなんて卑怯だとデイジーが悪態をついたと同時に大典太達がマリィと合流を果たした。どうやらマリィ達が動いている間に彼らに連絡をして合流を促していたらしい。マリィがネズに申し訳なさそうに敵を逃がしたことを謝ると、彼はほっとした顔でマリィの頭を撫でたのだった。
敵を逃がすことより、彼にとっては妹の無事を確認する方が大事だった。
「ごめん。逃げられた」
「いいえ。妹が無事ならそれでいいですよ。もちろん、この場にいる皆もです」
「それにしても…。さっきまで感じていた暑さが一気に消えたな~」
「……町長の偽物が消えたのと、兄弟の霊力が元通りになった。気温を上げる元凶が無くなったからな…」
マイケルが街から姿を消したこと。そして、ソハヤの暴走が収まり霊力が元に戻ったことからドルピックタウンの気温も戻り、街は平和を取り戻していた。
話をしている最中にマリオ達も合流を果たし、遂に本物の町長と邂逅を果たしたのだった。町長はマリオから事の顛末を全て聞いており、まずは事件に巻き込んでしまったことを深く頭を下げて謝罪をした。
「町長さん、普通にいい人。どうして閉じ込められてたの?」
「不甲斐ない町長で申し訳ない。実は…二週間前にリレイン王国との会議を取り決めた直後だった。夕食の買い出しに行った瞬間に何者かに襲われてな。今まで倉庫に閉じ込められて、気絶させられていたんだよ」
「二週間も、でございますか?! それはおいたわしや…」
「食料もなしによく無事でしたね…。いや、気絶してたからこそ助かったのか」
「交渉自体は本物だけど、タイミングが超絶悪かったということだね…」
彼らの反応を聞き、町長は改めて深々と頭を下げた。そして、リレイン王国についての噂についても謝罪をした。皇帝陛下が直々に声明をしたのは知っていたが、一部の心無い連中が流す噂に惑わされていたのだそうだ。しかし、今回リレイン王国の人々が住人と協力をし、街の為に奔走し知名度アップにも貢献してくれたことを受け認識を改めることを彼らにはっきりと告げた。
そして、彼らを信用すると決心し"リレイン王国との協力提携を正式にする"ことの表明を行ったのだった。
「やったー!」
「オレさまのSNSも効果あったよな? な?」
「たぶん、キバナさんのSNSの効果が一番抜群。ぼく、そう思う」
「反応凄かったもんな、主!」
「う、うん…」
影のMVPは明らかにキバナである。ソハヤにそう言われキバナは複雑な表情をした。褒められたのは嬉しいが、やはり"主"と呼ばれているのが性に合わないように見えた。
そして、町長は一同に改めて謝罪をする。何度も頭を下げているのを痛ましく思ったのか、ネズとノボリがそっと声をかけた。
「おれ達への謝罪はそこまででいいですよ。気持ちは充分伝わりましたし。おれ達が帰った後にでも町長に改めて連絡してやってください。絶対喜ぶんで」
「何よりも、ドルピックタウンの街の皆様への被害が誰一人出ず、全員無事で本当によかったのです。町長さま、今はそれを共に喜びませんか?」
「お主ら…」
彼らの優しい言葉に町長は胸がじん、となるのを感じた。そして、解散次第すぐにラルゴに連絡をすることを約束してくれたのだった。
本題も無事解決した為、残りの日数でバカンスを楽しんでほしい、と町長と副町長は最高のおもてなしをすることも約束してくれた。皆の楽しそうな表情を、夕日は優しく照らし続けていたのだった。
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