二次創作小説(新・総合)

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繋がる世界と未来の物語【Ep.03-ex完結】
日時: 2022/10/12 22:13
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ―――これは、"全てを元に戻す"物語。
 それが例え、紡いできた絆が離れる結果となったとしても……。


 どうもです、灯焔です。
 新シリーズ発足です。大変お待たせいたしました。プロットの詳細を決めている間に相当時間がかかってしまいました。
 サクヤ達がどういう運命を辿るのか。この終末の物語を、どうぞ最後までよろしくお願いいたします。
 この作品は版権作品同士の『クロスオーバー』を前提としております。
 また、オリジナルキャラクターも登場します。
 苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。


※物語を読む前に必ず目を通してください※
【注意事項】 >>1
【取り扱いジャンル】 >>2


<目次>

Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 完結
>>3-7 >>11 >>12-17

Ep.01-1【繋がりの王国】 完結
>>21-25 >>28-33 >>36-37

Ep.01-2【宇宙からの来訪者】 完結
>>39 >>40-48 >>49-53

Ep.02-1【強者どもの邂逅】 完結
>>55-56 >>57-59 >>60-63 >>66-67

Ep.02-2【黒と白と翡翠の車掌】 完結
>>70-73 >>74-76 >>77-78 >>79-81
>>82-85 >>86-89

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 完結
>>112-113 >>114-119 >>122-126 >>127-130

Ep.03-2 【音の街と秘密の音楽祭】 完結
>>137-138 >>139-144 >>145-148


※サブエピソード※
Ep.01
【新たな世の初日の出】 >>38
【商人の魂百まで】 >>54

Ep.02
【夢の邪神の幸せなお店】 >>68
【襲来!エール団】 >>69
【線路はつづくよどこまでも】 >>90
【記憶はたゆたい 時をいざなう】 >>109-111

Ep.03
【合流!若きポケモン博士】 >>131
【六つの色が揃う時】 >>132
【狭間の世界での出来事】 >>133-134
【翡翠の地からの贈り物】 >>135-136
【繋がりの温泉街】 >>151


※エクストラエピソード※
Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 完結
>>91-95 >>96-101 >>102-104 >>107-108

Ep.03-ex【とある本丸の審神者会議】 完結
>>152-154 >>155-160 >>161-163


<コメント返信>
>>8-10 >>18-20 >>26-27 >>34-35
>>64-65
>>105-106
>>120-121
>>149-150


最終更新日 2022/10/12

以上、よろしくお願いいたします。

Ep.02-s3【線路は続くよどこまでも】 ( No.90 )
日時: 2022/04/21 23:22
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ノボリとクダリがリレイン城下町に住まうことを決意してから3日の時が経った。最初は不慣れな行動をしていた2人も、少しずつ城下町の暖かさに触れ街の良さを知り始めていた。
 冬の肌寒さは過ぎ去り、春の暖かさが本格的に始まっていた。春は、はじまりの季節。はるかぜと共に、どこかの星からわかものが飛んでくるかもしれないそんな季節。
 議事堂は相変わらずせわしなく動いていた。どうやら、ラルゴが以前大典太に話していた『案』が本格的に動き出しそうで、彼もここのところろくに休みを取れていなかった。

 そんな中、ノボリとクダリはラルゴに呼び出され現在町長室にいた。何でも、手伝ってほしいことがあるらしいとのことだった。



「ラルゴさま。わたくし共に手伝ってほしいことがある、とのことですが…」
「ポケモンのこととか、電車のこととか。知ってることなら手伝える。でも、ぼく達何でも出来る訳じゃない」
「そう。そうなのよ。正に電車の話なのよ!」
「はい?」
「え?」



 ラルゴはそのまままじまじと双子のコートをじーっと見る。あまりに真剣に見つめられ、"電車の話だ"ときっぱり言われたことに双子は目をぱちくりと瞬かせている。
 何が何だか分かっていない彼らに、ラルゴはびしっと指を差してこう言い放ったのだった。



「アナタ達。もしかして、元の世界では"車掌"とかそういう職に就いていたんじゃないの?」
「そうでございますが…。どうしてお分かりになられたのですか?」
「その服装よ!線路をモチーフにした、一見道化師にも見えるエキセントリックな衣装!でも、しっかりと車掌だと分かる素敵な素晴らしいセンス!アタシは確信したわ。絶対に駅に関連する職業に就いている人達だとね!」
「町長さん、凄い!」
「それでね?これはまだ機密事項なんだけど…。やっと他の街や会社とも話の折り合いがついたのよ。実はね…。この街に"駅"を新しく造る計画が動いているの」
「な…なんですって?!」
「駅だって?!」



 リレイン城下町に駅を造る計画が秘密裏に動いていると、遂にラルゴは双子に話した。街の混乱を避ける為なのか、実際に造る作業が始まる直前に城下町の住民に案内しようと思っていたのだ。しかし、彼らは"車掌"。つまり、電車に詳しい人間に他ならない。計画が遂に本格的に始まりそうなところに、タイミングよく双子が城下町の手伝いを名乗り出たのだ。双子の職業の素性が分かった以上、彼らの手を借りない訳にはいかない。ラルゴはそう考えていた。
 まさか自分達が駅関連の手伝いを申し付けられるとは思っていなかったのか、2人は興奮気味にラルゴに詰め寄る。それは、さながら呑み込まれる前に見ていたトウコとメイのポケモンバトルを見ているかのようだった。



「ブラボー!なんと素晴らしい…!わたくし、3日程この街で過ごした上で、少しずつ街の良さについては学んでいるつもりでございますが…。やはり。やはり!交通の便が少ないことには物申したかったっ…!
 ラルゴさま。わたくし、何でもお手伝いさせていただきます!駅がもし完成すれば、この街の利便性はぐっと向上するとわたくし確信しております!!」
「すごい!すごいよ町長さん!ぼく、出来ることなら何でもやる!ノボリと一緒!この街に駅が出来るの、すっごく良いこと!」
「2人共そんなに興奮しなくてもいいのよ~。何もないところに駅を造る予定だから、まだまだ時間はかかるわ。そこで…アナタ達には、駅の設立を手伝って貰うのと…"シュートシティ駅のヘルプ"にしばらく入ってほしいの」
「設立の件は是非!わたくし共お力添えいたします!ヘルプ…で、ございますか?」
「えぇ。ほら、どういう施設があってどういう造りになっているとか…。アタシ、駅は使ったことあるけど…造る側としての知識が全くないのよ。それに、シュートシティはとても大きな街でしょ?しかも発達が凄いのはアタシから見ても分かる。だから、シュートシティの駅の知識を少しでも吸収しておきたいのよね」
「せっかく造るなら、みんなが使いやすい駅がいい。うん、それすっごく大事!」



 ラルゴのお願いというのは2つあった。
 1つ目は、彼と共にリレイン城下町駅の設立を手伝うこと。そして2つ目は、シュートシティ駅にしばらくヘルプとして入ってほしいというものだった。
 シュートシティはとても大きく、技術が発展している。そんな知識を学び駅設立に活かしたいとは思っていたのだが、自分が向かう訳にも行かなかった。その為、車掌だと判明したノボリとクダリに白羽の矢が立ったのだ。
 ラルゴの話を聞いた2人は、顔を見合わせてこくりと頷いた。この街の為、自分に出来ることをする。それがあの時、2人で出した答えだった。



「ラルゴさま。その件…勿論お引き受けいたします!シュートシティへのヘルプはいつ頃から勤務が始まるのでしょうか?」
「今日でもいいよ!」
「流石に今日は無理ねぇ。でも、挨拶くらいはいいんじゃないかしら?アタシもシュートシティ駅の駅長さんにアナタ達のことを話さなきゃだし」
「ではクダリ。早速顔合わせに参りましょう!目的地はシュートシティ!いざ、出発進行ーッ!」
「うん、いこう!町長さん、いってきまーす!」
「いってらっしゃーい♪」



 とんとん拍子で話が進み、双子は早速シュートシティ駅へと向かうことにした。意気揚々と部屋を出る2人をラルゴは笑顔で見送った後、駅設立の計画書と再びにらめっこを始めた。心強い味方が現れた以上、駅設立を1日でも速める為頑張ろうと意気込んだのだった。


 ―――一方。エントランスを揃った大股歩きで出ていく双子を見かける人影がいた。スマホロトムを仕舞い、そのままジト目で彼らの影を追う。



「(ダンデが言ってた"あの件"って…まさか)」



 影―――ネズは、再びスマホロトムにダンデを呼び出すよう頼んだのだった。






























 ―――シュートシティに鎮座する大きな駅。そこが"シュートシティ駅"である。
 そこには、藍色のベストを着たシュートシティに元々勤務している駅員の姿があった。しかし、それだけではない。彼らの他に、緑色の征服を来た鉄道員の姿もいた。彼らは全員、ギアステーションに勤務していた駅員である。
 そのうちの1人、カズマサがガチャリと扉を開く。既に入り混じりになっている人々を見て、慌てて彼は自分に用意された席に座った。



「カズマサ、また遅刻か!」
「すみません~!ライモンシティですら迷うのに、もっと大きな街だと道が覚えられないんです!」
「まぁ…現地で働いている俺達でも迷うからな~。スマホロトムの支給、まだなんだろ?」
「まだ勤務して2日目ですし…。僕らそもそも正社員じゃないですからね」
「デモ、シュートシティノ電車モ面白イモノイッパイ。ボク新鮮ナ面持チ」
「でしょう?シュートシティのハイテク技術を詰め込んだ電車、是非覚えて帰ってくださいね!」



 何故かギアステーションに勤務している鉄道員と、シュートシティ駅に勤務している駅員が仲良く駄弁っている。この光景が不思議なのだが、駅員曰く"このご時世で人手が全く足りていなかったので、本当に助かっている"らしい。
 まだ本部から何も情報が得られず、鉄道員達のスマホロトムの支給が遅れていた。

 カズマサが座ったのを確認し、早速挨拶を始めようとした矢先だった。






『失礼いたします!リレイン王国からの使いで参りました、ノボリとクダリと申します!責任者の方はいらっしゃいますでしょうか!』






 扉を閉めていても響いて来る、良く通る大きな声。鉄道員達はその声に覚えがあった。
 慌てて扉を開けると、目の前に黒いコートと白いコートが見えた。そう。それは―――彼らが探していた"サブウェイマスター"ノボリとクダリその人だった。
 まさかの再会に当の双子も驚いている。しかし、再会を喜ぶ暇は与えてくれなかった。






「あれ?」
「み…みなさ」
『ボスぅぅぅぅぅ!!!!!』






 鉄道員8名がノボリとクダリを押し潰すようになだれ込んだ。鉄道員の唐突な雪崩に対処が出来ず、流石に双子もそのまま巻き込まれ倒れてしまったのだった。
 シュートシティの駅員が慌てて状況の説明を求めるも、鉄道員にそんな話をする余裕は無かった。皆、各々涙を浮かべていた。
 苦しそうに呻くノボリの声に反応し、ラムセスが吐き出すようにこう言った。



「どこ行ってたのさボス!!マルチトレインのバトルレコーダーは急に繋がらなくなるし、気付いたらボスごとみんないなくなってるし、気付いたらこんな巨大な街にみんなで投げ出されてるし!」
「あの…えっ、っと…。ご心配をおかけいたしました…。わたくしもクダリも…こうして無事でございます」
「生きるか死ぬか。そんな人生のレールは選びたくなかった。本当に無事でよかった、ボス」
「うぐぐ」
「ホンマなぁ!お前ら死んだんじゃないかと思って…わし…わしぃ…!!」



 まさか扉が開いたと思ったら、部下からの熱い洗礼を受けるとは思っていなかった。しかし、彼らも急に消えた双子を心配していたのだ。しかも片割れは一度死にかけている。そのことを理解できず、ノボリとクダリはひたすら目を白黒させているしかなかった。

 そんなやり取りを続けている中、執務室の入口に凛とした声が響く。見えたのはダンデと黒髪をなびかせた美女だった。



「あら。部下からの随分なラブコールね。わたし、ゾクゾクしちゃうわ」
「その声…カミツレさまでございますか?!」
「カミツレ!無事だったんだ!」
「えぇ。この街の郊外に投げ出されたところをルリナに助けてもらってね。今はシュートシティにお世話になっているのよ」



 美女の正体は、イッシュ地方にあるライモンシティのジムリーダー"カミツレ"。ノボリとクダリと共に、ライモンの名物施設のリーダーとして名を馳せているスーパーモデルである。
 カミツレはやっとの思いで鉄道員の山から顔を出したノボリとクダリにそのまま話しかける。



「色々調べてもらったんだけど、どうやらこの街以外にポケモンに纏わる施設は今のところ見つかっていないんですって。困っていたら、ダンデさんから"シュートシティの仕事を手伝ってほしい"って痺れちゃうくらいのオファーを受けて。みんな困っているみたいだったし、衣食住も提供してくれるみたいだったし。引き受けることにしたのよ」
「そっか。そうだったんだ。ぼく達以外みんな行方不明だと思ってた」
「失礼ね。わたしはいつでも輝いているわよ」
「カミツレさまの輝きならば、どこにいてもすぐに見つかってしまいますね」
「ところで…リレイン王国とかなんとか言っていたけど。あなた達はそっちから来たのかしら?」



 どうやらイッシュ地方の人間は、ライモンシティの3人以外は見つかっていないらしい。トウコもメイもいないことに表情が落ち込むものの、双子はすぐに考えを切り替えた。
 その直後に、カミツレからリレイン王国についての質問を受ける。倒れたまま、ノボリは答えた。



「わたくし共はしばらくリレイン王国にございます、城下町でお世話になることになりました。ここに到達するまでに色々とありまして…王国に恩が出来ましたので。我々、それを返しつつこの世界について学んで行こうと決意したのです」
「成程ね。ダンデさんが言っていた、"シュートシティ駅の新しいヘルプ"ってのもあなた達で間違いなさそうね」
「折角バトル施設のボス2人が来てくれるのだから、新しいバトル施設を作ろうとも思ったんだがな!ネズから全力で止められてしまった」
「ネズさまが…?」
「"バトルタワー以外にバトル施設新しく作ったら、おれはおまえと今後一切ポケモンバトルをしません"とスマホロトム越しに脅されてしまってな!いやぁ、あの時のネズは相当に怖かったな!それに、オレもネズとバトルが出来なくなるのは嫌だ。だから、考えていたことは全部水に流すことにしたぜ!」
「うーん。それ、話さない方が良かったかも。ノボリ、今"その手があったか"って顔してる」
「どうにかして実現は出来ないのでございますか!ダンデさま!」
「そんなこと言ってるとあなたもネズさんとのバトルを永遠に出禁にされちゃうわよ?ルリナから聞いたけど…彼、気に入らない人にはとことん塩対応なんですって」
「なんと!それは嫌でございます!まだバトルの約束を取り付けたばかりでございますのに!!諦めるしかないのでございますね…」



 寝転がったまま大きな声で話すノボリにダンデは思わず大笑いをした。彼は自分と同じ程にポケモンバトルが好きなのだと、その表情と言葉だけで伝わった。彼の瞳は透明なほどに真っすぐだった。
 折角ネズと仲良くなれそうだったのに、無理に意見を押し通して彼と疎遠になるのだけは絶対に避けたかった。ノボリは喉まで出かけた言葉をぐっとこらえ、ダンデの水に流す発言を残念そうに受け入れるのだった。

 それと同時に、クダリが再び呻き声を上げた。もう押し潰されているのを我慢しているのに限界が来ていたようだった。



「ぼくクダリ。今鉄道員ののしかかり受けてる。こうかばつぐん。でも、もう限界かも」
「はっ!すまんボス!みんな早よボスから離れるんや!!」
「イエッサー!!」



 クラウドの言葉を皮切りに、なだれ込んでいた鉄道員が全員捌けた。正直これだけの時間を倒れたまま話せた双子も双子なのだが、すっと立ち上がる仕草はまるで二対のアンドロイドのようだった。しかし、再三解説するが彼らはれっきとした"人間"である。
 よれたコートを各々直しつつ、彼らは一同に改めてシュートシティ駅のヘルプに入ることになったことを説明したのだった。



「へぇ。リレイン王国に駅を…。ボス達はそのお手伝いをするんですね!」
「ラルゴさま…リレイン城下町の町長さまが、この駅の知識や技術を学びたいとのことで。我々が学び、得た知識をラルゴさまと共有し、駅の創造を進行させていただく次第でございます」
「この駅すっごい学ぶところある。ぼく達、いっぱい覚えて帰るつもり。その為に駅のヘルプの仕事も本気。超本気」
「正直…わしも先行きちと不安やったんや。だけど、ボスが帰って来てくれたなら百人力やな。なぁ!」
「ウン。コレカラ頑張ッテイコウ!」
『おおーー!!』




 ギアステーションの仲間と再会出来たからなのか、彼らの顔には笑顔が戻っていた。
 そんな彼らの表情を、ダンデとカミツレは静かに見守っているのだった。

Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.91 )
日時: 2022/04/24 22:02
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 サブウェイマスターである双子がシュートシティ駅で働き始めるようになってから二週間後のことだった。
 シュートシティの南に位置するダイヤモンドシティに点在する、ワリオカンパニーでは珍しく社員が一同に帰していた。全員が会社に集まったのは、ワリオが暴走した時に彼を止める時以来だった。
 全員、唐突なワリオの招集に集まった。ということは再びゲーム制作の依頼だろうか。一部の社員はそう思う。しかし、彼は"そんな当たり前"のことなど集めて喋るような男ではない。嫌な予感は胸に中に疼きながらも、社員の一人―――ドリブルはワリオに質問を始めた。



「ワリオはん。今度はどんなこと企んでらっしゃいますの?」
「ぐふふ…。よくぞ聞いてくれた!オレ様、最近なーんか刺激が少なくてつまらん思いをしていたのだ。しかし!この前ピーンと閃いた!良いことを思いついたのだ!耳かっぽじってよーく聞けよ!」



 ワリオのいつものニヤニヤとした自信満々気な顔を見て、社員の額には汗がぽたりと流れる。彼の話すことはいつも突拍子はないが面白いものだ。何だかんだ彼の人望のおかげか、毎回良いゲームを作っているとはダイヤモンドシティの住民からの専らの噂である。最近はスパイクタウンの新ジムリーダーとなった少女からわざわざ手書きで"面白かった"と感想を貰ったばかりなのだ。
 彼の口から何が飛び出てもいいように、一同は身構える。そんな彼らの反応を無視し、ワリオは大きな声で言い放った。






『『メイドインワリオカップ』の第2回目を、このダイヤモンドシティで開催することに決めた!ワーハッハッハッハッハ!!!』






 ……ワリオにしては妙にひねりの無い提案に、身構えていた社員は空いた口が塞がらない。変な空気を変える為か、モナが疑問を彼にぶつける。



「あたしはゲーム作り楽しいし、面白いからいいけど…。またお金に困ってるの?ワリオおじさま」
「まあ金に困ってるのは事実だけどな!今回はそうじゃない。なんかよー。町長が"お前が暴走して街を壊しかけたんだから責任を取って町おこしに尽力しろ"って怒られちまってよ。本当ならオレ様屁でもやりたくねーが、しょーがねーだろー?」
「成程、そういう背景か…。ワリオにしては、妙にひねりの無い提案だけどそれが理由だったんだね」
「未遂に落ち着いたし、実際ワリオの自我なんてないに等しかったものだけど…。ワリオが街を壊そうとしたってのは事実だからね…。町長さんに責任取らされてもおかしくないYO」
「そうよ!でも、ワリオの尻拭いなんかにわたし達が付き合う義理も無いわ!そうよね、クリケットさま?」
「ゲーム作りは修行の一環!ワリオさん、オレなんでも手伝います!」
「……つきあってらんない」
「アシュリー!まだ帰らんといてや!もしかしたら新しいお友達出来るかもしれんやろー?」



 自業自得に巻き込まれる義理は無いと次々社員から文句の声が飛び出てくる。ワリオは最初こそ笑い飛ばしていたが、あまりにも大勢に、いっぺんに言われた為堪忍袋の緒がすぐに切れてしまった。
 "うるさーい!"と大声を荒げた後、ワリオは今回は普通のプチゲームは作ってくるなよと社員に念を押した。首を傾げる一同に、彼は豪快に笑いながら叫んだ。



「今回はVR事業に手を出す!お前ら、それに見合ったプチゲームを作ってくるように!」
「ぶい、あーる?」
「おねえちゃん、ぶいあーるってなあに?」
「あたちもわかんない!」



 なんと、ワリオは今回プチゲームをVR形式で開催しようと企んでいたのだ。やはり一筋縄では行かない男、と社員は感心しかけるが、ナインボルトがハッとした表情でワリオに詰め寄る。
 そう。最初にワリオは"金がない"とはっきりと告げた。それなのにVRのゲームを作ると言い切っている。ゲームには開発費が付き物。どうやって開発しろというのだろう。



「ワリオ!確かにVRでプチゲームを作るのは面白そうだし、ボクちんも賛成したいところだけどさぁ。開発費がいつも以上にかかるじゃないかー!最初にお金がないって言ったのはワリオ本人だろー!」
「ゲームを開発するにもお金がかかるし…。VRって、意外と高いのよね?難しいんじゃないかしら」
「私の発明品にもまだVRに関するものはない。今から開発するとしても、時間を要するぞ」
「あ?それなら問題ねーぞ。今回は強力なバックアップがついているからな!」
「バックアップ…ですか?」
「おう!"ネクストコーポレーション"とやらの社長から直々に連絡が来てな!町おこしに自分達も協力したいから、VRのモニターを務めてくれたら開発費を全部援助してくれるんだってよ!」
「ね、ネクストコーポレーションやて?!世界的に有名な大企業やないか!」
「ワリオカンパニーニ目ヲ付ケルナンテ 見ドコロノアル会社デスネ」



 強力なバックアップ。その正体をワリオは堂々と告げた。なんと、ネクストコーポレーションがバックについてくれることになったのだ。アシッドは運命の神だが、それを自分から公にするような性格ではない。つまり、彼は今回純粋に"ネクストコーポレーションの社長"としてワリオと取引に入ったのだ。
 開発費が浮いたことにより、急にゲームへの開発意欲が湧き上がる社員達。そんな彼らの様子を見て、社長の正体を知っているオービュロンは"我々、掌の上で踊らされてイマスネ…"と心の中で悪態をついた。
 そして、ワリオは続けてこうも口にした。その言葉に、浮かれていた一同は現実に引き戻される。



「そして、今回は優勝賞品も用意してある!見ろお前ら!」



 そう言うと、ワリオは"お宝"と称し懐から短剣のようなものを取り出し、天高く掲げた。オービュロンはその形状に見覚えがあった。ワリオは"短剣"と称しているが、彼には刀の形状に見えたのだ。
 普段自分のお宝を周りに与える行動など絶対に取らない為、ワリオのこの言動には社員も驚いて言葉を失っている。寧ろ、この短剣を即座に売っぱらって金にするような男だ。
 社員の一部には、ワリオの掲げている短剣をじーっと見つめる者もいた。



「随分歴史のあるお値打ち物っぽいけれど…。それが何なのか、調査とかはしてもらったの?ワリオちゃん」
「いや?だがオレ様の目に狂いはない!これは超高価で貴重なものだ!本当ならオレ様が金にしても構わんがな!少しは分け前を与えてやらないとな!ワッハッハッハッハ!」
「おかあさんが聞きたいの、そういうことじゃないと思うんだけど…」
「商品にする前に調べた貰った方がええんちゃいますん、ワリオはん。ワリオはんはトレジャーハンターですし、価値の高い物であるっちゅうのはぎょーさん分かりました。ですが…それ、参加者に渡してもええ代物なんですの?安全性とかの問題もありまっしゃろ」
「うるさいうるさーい!オレ様が価値の高い物と言ったら価値の高い物なのだ!これを優勝賞品にする。これは決定事項だ!誰も覆すことはゆるさーん!」



 ワリオはトレジャーハンターでもある為、目利きは相当良い方である。その彼が"価値のある代物"と言い切っているのだから、かなり貴重な品なのは本当なのだろう。しかし、社員が気にしていたのはそこではなかった。この代物が、参加者に手渡して大丈夫なものなのか…"安全なものなのか"ということだった。
 しかし、既にワリオはこの短剣を優勝賞品にすると言って聞かなかった。ここまで来てしまったが以上、ワリオを止められる者は誰もいない。社員も仕方なく折れる選択肢を取るしかなかった。

 オービュロンは社員がやいのやいのと騒いでいるのを後ろから見守りながら、ワリオの握っている短刀に目をつけていた。彼は、微かにだがそれから違和感を感じ取っていた。まるで、ワリオを暴走させていた元凶……ネズやノボリの命を蝕んでいた元凶と同じような気配を感じていた。



「ということで!各々VR用のプチゲームを考えてくるように!それではかいさーん!」
「クリケットさま、今回はわたしも手伝いますねっ!」
「うわぁ!VR…未知なる技術です!わたし、どんなプチゲームにしようか今から想像が溢れて止まりません!」
「逸るんじゃないぞペニーよ。ふっ、私も最新のテクノロジーとVRの技術を融合したプチゲームを考えてみようではないか。マイク、帰るぞ!早速私の頭脳を披露する時だ!」



 ワリオの声を皮切りに、社員は意気揚々とゲーム開発をしに帰って行った。ワリオも自分のプチゲームを考える為、社長室への階段を上がっていき、その場に残ったのはオービュロンだけとなった。
 自分もIQ系のプチゲームに久々に挑戦してみようかと考えていたのだが、やはり気になるのはワリオが持って行った短刀の行方。どこで拾ったのか。あの違和感は何なのか。大典太達に相談した方がいいと、ふと彼の脳裏に考えが浮かぶ。



「アノ短刀の件…。みつよサン達に話す方が良さそうデスネ。ドウニモ…違和感が拭えマセン」




 ぽつりとそんな言葉を零しつつ、オービュロンは城下町へと帰って行った。

Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.92 )
日時: 2022/04/25 22:18
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 オービュロンが議事堂に戻ってきたのは夕方頃だった。既に日は落ち掛け、空が赤く輝いている。
 急ぎ足でサクヤの部屋に入り、神域の扉を開ける。すると、珍しく神域に出入りできる人物が全員揃っていた。普段議事堂の中にて作曲をしているネズはともかく、ノボリも戻っていたことにオービュロンは驚いていた。そのことに気付いたのか、彼は"本日は早番だったのです"と一言添えたのだった。

 全員揃っているのなら丁度いいと、オービュロンは早速床に座り一同にワリオカンパニーで起こった出来事をを相談することにした。



「アノ。皆サン!少しお話に付き合って頂いてもヨロシイデショウカ?」
「どうしたのですか、オービュロン殿?」
「実は…。本日、わりおサンから近々だいやもんどしてぃで行われる大会のぷちげーむを考えるように命令を受けマシテ。大会の優勝賞品に"まえだサンと似たでざいんの短刀"をわりおサンが用意シタノデス」
「短刀…ですか?」
「ハイ。ワタシにはソノヨウニ見えマシタ。ソノ短刀カラ、ワタシ違和感を感じたノデス。本当に優勝賞品にシテシマッテイイモノカ迷ったノデ、コウシテ相談がシタカッタノデス」
「……その短刀の正体が何なのかはわかりかねるが、もし俺達が探している付喪神が宿っているのなら…あんたが違和感を感じるのも無理はない」



 オービュロンの相談事を受け、刀剣男士達の表情が険しくなる。何せ、今顕現している刀剣男士以外の刀剣はアンラによって"邪気を纏った状態で"世界中にばら撒かされているのだから。
 邪気を纏った刀剣に触れた人間がどうなるのか。いくら心の強い人間だとしても、神の呪いに侵されれば命すら簡単に散らしてしまいかねないことは今までの事柄で痛い程分かっていた。だからこそ、人間に拾われる前に回収を急ぎたかったのだが、ワリオが見つけてしまったということが問題とオービュロンは話した。
 それもそうだが、と前田は続ける。ワリオが持ち続けるのも問題だが、彼は"ワリオが再び邪気に侵され暴走してしまうのではないか"という心配をしていた。
 言葉を受け、オービュロンはハッとする。そういや、ワリオは短刀を握っていてもピンピンしていたのだ。



「アッ。ソウイエバ、わりおサン…。短刀を握ってイテモぴんぴんシテイタノデス」
「何?」
「……そうか。そういや、以前そんなことがあったような…」
「光世、心当たりがあるんですか?」
「……あぁ。ネズがこの世界に来る前、短刀を解呪してほしいと俺のところまで来た奴がいてな。……そいつも、邪気を纏った短刀を握っていたのに平気な顔をしていたんだ。実際、俺が解呪を担当したから間違いない」
「ふむ。何かしら共通する事項でもあるのでございましょうかね?」



 オービュロンの言葉に、大典太も"心当たりがある"と答えた。ガラル地方が終末の世界に混ぜられる前、ジンベエが博多藤四郎を持って議事堂までやってきたことを彼は思い出していた。彼もまた、邪気を纏った博多藤四郎を握っていたのに平気な顔をしていた。共通する点は―――2人共、"一度邪気をその身に受けている"ということだった。
 その事実が浮き彫りになると同時に、ネズが自分の考えを述べる。



「今まで呪いを受けちまった連中…。おれ達も含め複数人いますが、何かあるんですかね。受けた後に」
「詳しい事柄までは想像が出来ませんが…。我々に共通する"何か"が生まれているのは事実のように思えます」



 ネズの言葉に続き、ノボリも持論を述べる。邪気に蝕まれ、命を落としかけた者同士分かり合えることがあるらしい。しかし、いくら議論を重ねても実証が少なすぎる以上、判断するには難しい題材だった。
 邪気のことについては後々考えていくとして、オービュロンは一旦短刀の話を切り上げゲーム大会についての話を始めた。



「らるごサンにも後でお話をイタシマスガ、げーむ大会の協力要請はキットりれいん王国ニモ来ます。ソノ心づもりでイテクダサイ」
「それ、おれ達に話していい内容なんですか?短刀のことがあるとはいえ、おれ達部外者ですよ」
「イイエ!皆さんダカラコソ話しているのデス!決して情報漏洩ナドデハゴザイマセン!」
「いや、れっきとした情報漏洩でしょうが。セキュリティガバガバ過ぎませんかワリオカンパニー」
「ま、まぁまぁネズ殿!オービュロン殿が仰ってくれているのですから必ず協力要請は来るのでしょう。それに、この情報は神域に集う我々しか知り得ません。口を噤んでいれば大丈夫です!」
「大声で話しそうな奴が隣にいるんですが…」
「はて?声が大きいことは自覚しておりますが、わたくし口が堅いことにも自信がございます!どんな秘密でも守り抜いてみせるのです!」
「ならいいですけど」
「刀剣男士にもお喋りな者はおりませんし、改めて町長殿からそのお話が来るのを待ちましょう」
「……そうだな。正式に協力要請が来れば、短刀についても詳しいことが分かるかもしれん」
「短刀のコト…調査、一緒にシテモラエマセンカ?」
「……勿論そのつもりだよ。ワリオがピンピンしているのとは別に、解呪は絶対にしなければならない。それに、拾った短刀の正体も暴かなければならないからな」
「短刀…。藤四郎兄弟の一振だったりしないでしょうか」
「ご兄弟が見つかるといいですね、前田さま」



 ゲーム大会の協力要請がいずれ来るだろう、という話の他に、オービュロンは個人的に短刀の調査を一緒にしてほしいことの依頼も大典太達に頼んだ。元からそのつもりだと彼らが返すと、オービュロンは肩の荷が降りたようにホッとした表情になった。
 同時に、奥の襖が静かに開けられる。サクヤも話を聞いていたようで、空いていたスペースに静かに座って一同を見た。



「邪気に侵された刀剣を放置しておけば、いずれ世界に悪影響が出ます。ワリオさんには申し訳ないですが、何としても今回はその刀の回収をし、あわよくば解呪まで持って行きたいと考えております」
「……主。それが、今回の主命なんだな」
「はい。光世さん、鬼丸さん、前田くん。『ワリオカンパニー社長、ワリオ殿の取得した短刀の調査、入手及び浄化』こちらを今回の主命といたします」
「かしこまりました主君。刀剣男士として、必ずやり遂げる所存です!」
「おれも出来ることであれば協力しますんで。気軽に頼ってください」
「もしかしたら駅構内にも話が流れてくるかもしれません。わたくしも、出来るなりに皆様のサポートをいたします。どうぞお気軽にお申し付けくださいまし」



 サクヤも短刀のことは気にしており、主命として『短刀の調査と回収、及び解呪』を三振に出した。久々の主命だと前田は張り切っており、またとない刀剣の回収のチャンスだと大典太や鬼丸もいつにも増して真面目だった。
 そんな彼らの様子を見て、ネズとノボリも自分に出来ることはすると彼らに協力することを改めて口にしたのだった。
 主命を出した後、集まりは一旦解散となった。オービュロンは大会のことをラルゴにも伝える為、神域をトテトテと出ていった。刀剣男士も、情報集めに各々行動を始めるのだった。


 誰もいなくなった襖を見守りつつ、ネズがぽつりと零す。



「何事も無く終わればいいですがね。嫌な予感しかしません」
「そう卑屈になるものではありませんよネズさま。気持ちが逸っても、我々に今出来ることは限られています。道が開けるのを待ちましょう。ポケモン勝負も、待つことが作戦の1つでもあるのです。
 餅は餅屋でございますよ、ネズさま。吉報を待ちましょう」
「0から1を造るのが一番大変ですからねぇ。ま、いい情報が来るのを待つとしましょうか」




 静かになった神域で、ツートンのシンガーと黒の車掌はお互いそんなことを話したのだった。

Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.93 )
日時: 2022/04/26 23:53
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 オービュロンが短刀の調査を依頼してから一週間が経った。調査に乗り出していた刀剣男士達も、ワリオがかなり警戒をしているのか短刀を見せてもらうことは敵わなかった。そもそも、大会を開催することを知らない前提で話を進めなければならない為、賞品のことにまで話題を持って行くことが不可能だったのだ。

 何も収穫がないまま時はゆっくりと過ぎていく。そんな中、シュートシティでは"とある変化"が置き始めていた。
 昼休憩を終え執務室に戻ってきたノボリに、クダリが1枚のチラシを見せながら話しかけてきた。



「昼休憩、ありがとうございました。只今戻りました」
「ノボリ、おかえり」
「おや?クダリ、何を持っているのですか?」
「あのね。ダイヤモンドシティで何かやるの?」
「はて?わたくしは何も聞いておりませんが…」



 知らない振りをしながら、ノボリはクダリの見せてくれたチラシに目を通す。どうやらオービュロンが言っていた大会の開催が迫っており、その概要が書かれたチラシのようだった。
 話の内容が気になるのか、カズマサがクダリの反対側からそのチラシを見やる。本格的に動いてきた、と内心思いながらもノボリは知らない振りを続けクダリに問いかけた。



「どうしたのですか?このチラシ」
「今朝、駅のインフォメーションセンターに連絡があった。このチラシを駅の掲示板に貼ってほしいって。束だったから、1枚貰って来た」
「そういえば…朝方そっちの方が賑やかでしたよね!なんでも、青いアフロの男性が踊りながらやって来たんだとか!」
「なんと!賑やかな方なのでございますね。クダリ、見せてもらってもいいでしょうか?」
「いいよ。はい」



 ノボリが詳しく中身を見たいと申し出ると、クダリはノボリに見やすいようにチラシの向きを変えて手渡した。礼を言いつつ受け取った彼は、そのまま記載している内容に目を通す。
 幼稚園児が書いたような微笑ましい動物の絵と共に、宣伝文句が綴られている。



------------------------

 ―――第2回 メイドインワリオカップ開催決定! 開催日:~~月~~日 朝9時よりダイヤモンドシティにて開催 皆さんのご参加をお待ちしております!

------------------------



 彼がオービュロンから聞いた通り、ダイヤモンドシティでゲーム大会を行うことが記載されていた。丁度今から一週間後にゲーム大会…"メイドインワリオカップ"なる催しが開催されるというのだ。
 その大会で優勝賞品として配られるのが、恐らくオービュロンの話していた短刀なのだろう。
 思考を巡らせるノボリをよそに、執務室で物の整理をしていたシュートシティの駅員が思い出したように口を開いた。



「あっ。そういえば、今朝からポケモントレーナーじゃない方がシュートシティ各地にお目見えしていましたね。スタジアム付近でダンデさんにチラシを配っていたのも見ましたよ」
「つまり、このチラシを現在町全体に貼り付けている、ということなのですね」
「多分、リレイン王国にも貼ってる。すっごい大掛かり」
「チラシの量…凄かったですもん。どれだけ大規模な大会になるんだろう」



 駅員もクダリの口にしていた言葉に同意し、かなり大きな大会になるのではないかと予測していた。ノボリから返してもらったチラシをクダリはじーっと見やり、時間を何度も確かめる。
 時折ちらりとノボリを覗き見るその動作に、彼は静かにこう言った。



「クダリ。そんなにちらちらとしなくてもあなたの考えていることは分かります。参加したいのでしょう?」
「うん。こんなに大きな大会なら参加してみたいって思った。けど、この日普通に仕事。ぼく参加できない」
「仕事を放置するわけにもいきませんもの。残念ですが、諦めなさいまし」
「どんなゲームなのか気になるのにな。残念」
「え?参加は出来ないと思いますけど…サブウェイマスターのお二人であれば、当日は午後から観覧くらいなら出来ると思いますよ?」
「どういうこと?」



 クダリはどうやらゲーム大会に参加したかったようで、その日が仕事だということも自覚していた為項垂れた。駅に関わる職についている以上、唐突な催しに興味を惹かれても参加できないというのは日常茶飯事だった。
 残念そうに肩を下ろすクダリに、シュートシティの駅員は"項垂れなくても大丈夫ですよ"というかの如くきょとんとした顔で述べた。



「ノボリさんとクダリさんは、当日ラルゴ町長からの指令でダイヤモンドシティ駅のヘルプに入ってもらうことになっています。恐らく午前中の勤務だけだと思います。多分参加したがるだろうなと先読みされていたんでしょうね~」
「なんと!町長さまがそう仰っておられたのですか?」
「はい。お2人がお昼休憩に行っている間に来たので、恐らく入れ違いだったんでしょうね」
「ふむ。では、もしかすればお昼から大会を観覧できるかもしれませんね。実はわたくしも催しには興味を持っておりまして!今後のバトルサブウェイのイベントの参考にしようと思っていたのです!」
「本当?町長さんに後でお礼言わなきゃ!ね、ノボリ!」
「そうでございますねクダリ!」



 クダリがぱぁっと花開くように笑顔になる。どういう形態であれ、大会を見ることが出来る事実に彼は喜びを感じていた。
 そんな彼の笑顔を見守りつつ、ノボリはスマホロトムを取り出す。実は双子共々、シュートシティに挨拶に行った際に"ライブキャスターじゃ色々と不便だろう"とダンデから御祝い品にとスマホロトムを各々1台貰っていたのだ。彼らの服装に合うようにと、ノボリは黒。クダリは白のスマホロトムをわざわざ彼は準備したのだ。太っ腹である。
 スマホロトムにネズを呼び出すよう指示すると、スマホロトムは宙に浮き通信を始めた。しばらくすると、画面の向こうから低い音が聞こえてくる。



『はい。ネズです。何か用ですか?』
「急なお電話申し訳ございません。ノボリです。昨日の件なのですが…わたくし共、当日ダイヤモンドシティ駅での勤務に変更になりまして。お昼頃からそちらに合流できるとご報告に参った次第でございます」
『成程。わざわざご連絡ありがとうございます。今シュートスタジアムにいるんですけど、そこでも大会の話で持ちきりですよ。マリィとホップが大会に興味持ってて参加したがってるんで、おれも当日付き添いでダイヤモンドシティに向かいます。
 昼飯時なら…何か食う場所作られてると思うんで、そこで落ち合いましょう』
「露店…ということでございますね?承知いたしました。クダリにも伝えておきます故」
『はい。それじゃ、仕事頑張ってくださいよ』
「ネズさまも、シュートシティにいらっしゃるということはバトル関連のお仕事でしょうか?頑張ってくださいまし!わたくし、あなたさまと勝負出来る日を心待ちにしておりますね!」
『はいはい。それじゃ切りますね』



 合流場所を決め、ノボリはネズからの通信が切れたことを確認し、スマホロトムをスラックスのポケットに仕舞った。話の内容が気になったのか、クダリがずいとノボリに近付く。
 彼は当日、昼からネズ達と合流することになったことと、マリィとホップが大会に参加するだろうという話をした。すると、クダリは嬉しそうな表情をしてこう返した。



「マリィちゃんもホップくんも参加するんだ。全力で頑張ってほしい!」
「はい。わたくし共も、誠心誠意応援いたしましょう!」
「当日メイっぱい楽しむ為にぼく、張り切って仕事する!休日返上!」
「休日返上したら怒られますよクダリさん?!お二人はあくまでヘルプ扱いなんですから!」
「さーて。わたくしも全力で仕事に励まなければ。では、午後の仕事へ出発進行ーッ!」
「ははは。倒れないでくださいよ2人共~」
「ノボリさんも乗らないでくださいってば~!!待ってくださーい!」



 休日返上で当日の分の仕事を無くすと張り切る2人に、カズマサが後ろからツッコミを入れつつ追いかけたのだった。










 一方。シュートスタジアムでは、試合が終わったダンデをネズ、マリィ、ホップ、大典太、前田が迎え入れた。今日はダンデとマスタードとの親善試合が行われており、その様子は西の大陸のテレビに映っている。見事な攻防戦の末、ダンデが今回も勝ち越した。その話題はすぐにネットニュースになり、界隈は賑わった。
 前田は初めてポケモン勝負を生で見たのか、若干興奮気味である。いつかポケモンを傍らにトレーナーデビューしてもおかしくはなかった。



「ダンデちん!今日のポケモン勝負とーっても楽しかったよん!また気軽に呼んでね~!」
「師匠も素晴らしいわざの連携ばかりでした!気を抜いたら空気はいくらでも師匠の方に流れるくらいには。オレもまたバトルできること、楽しみに待ってます!」
「大典太さん!ポケモン勝負って素晴らしいんですね!力と力、わざとわざのぶつけ合い…。こんなにも素晴らしい競技、僕初めて見ました!」
「……あんたが興味深そうに試合の録画見てたからな。一度生で見せたかったんだよ。ネズも…許可してくれてありがとう。感謝する」
「いいですよ別に。おまえ達は最早関係者みたいなもんだからね。喜んでくれたのなら、連れてきた甲斐があったってもんですよ」
「前田くん、ポケモントレーナーになる気ならあたしが一から教えてあげる。モルペコはいいよ!」
「うらら♪」
「刀剣男士初のポケモントレーナー…いいかもしれません!」
「……刀剣男士の本質は忘れるなよ?」
「忘れません!兼業です!」



 ダンデがマスタードを送った後、彼は3人と二振に合流した。丁度ホップが配られたチラシを見ている頃だった為、ダンデもぬっと顔をチラシに近付ける。
 駅にも配られた、メイドインワリオカップの概要が記載されたチラシ。マリィもホップも興味を持っており、参加することを表明していた。今はその再確認をしていたのだった。



「じゃあ、当日はマリィとホップが参加する…っつーことでいいんですね。まぁ、受付は当日行うみたいなんで、時間さえ間に合えば飛び入りもOKっぽそうですけど。昼からノボリとクダリも合流しますんで、そのつもりでいてください」
「うん、わかった。ダイヤモンドシティの催し。きっと町おこしの参考になるよ。あたし色々勉強したい」
「マリィは真面目だなー。そんなに気張らなくてもゲーム大会なんだから、気軽に楽しめばいいんだぞ!」
「マリィくんもホップも参加するのか。じゃあ、オレも当日キミ達について行くぜ!実は興味があってな。参加する枠があったら入ってみたいと思っていたんだ」
「は?シュートシティはどうするんですか」



 参加することは理解し、ついていくことも決まった。それはいいものの、シュートシティ中にチラシが貼り付けられていたところを見ると当日、客はかなり多くなりそうだとネズは予測していた。
 そんな折、今度はダンデも一緒に行くと言い出した。ホップは自分が面倒を見るからいいと彼を突っぱねるものの、今回ばかりは彼も行くといって聞かない。シュートシティの責任者としての責務も大事だが、ネズは"ダンデが知らない街で迷子になる"ことを避けたがっていた。
 ネズの呆れた顔を見て、ダンデはあっけらかんとした反応を取る。



「それに関しては問題ない。当日はカミツレくんとピオニーさんと師匠に街のことは任せてあるぜ」
「ピオニーさんとマスタードさんはともかく…カミツレ?おまえ、いつの間に彼女と仲良くなったんですか」
「彼女、ああ見えてライモンシティを引っ張っていただろ?その手腕を見事に発揮してくれてな!いつかオレの立場が危うくなりそうなくらいだぜ!はははは!」
「笑ってんじゃねぇですよ。まぁ…そんだけやってくれるなら問題ないでしょう。イッシュでもライモンはかなり大きい娯楽の街ですし。維持出来てる、しかも賑やかなだけでも凄いジムリーダーです」
「アニキ…」
「感傷的になっちまいましたかね。別に参加は止めませんけど…。リザードン、携帯しておいてくださいね。迷われると困るんで」
「それは分かってるとも!みんな、よろしく頼むぜ!」
「最悪オレが連れ戻すからあんまり心配はいらないんだぞ、ネズさん!」
「おまえは参加者でしょうが。どうやって迷ったあいつを連れ戻すんですか」
「あっ…」



 当日、シュートシティはピオニーとマスタード、そしてカミツレに任せるとダンデは答えたのだ。そもそも、今の状態のシュートシティを彼1人で管理するのは流石に骨が折れる。困っていた彼を救ってくれたのもピオニーやマスタードだった。いつもなら御免だが、今は緊急事態だと手を差し伸べてくれていた。
 どうやらカミツレも出来ることをした結果、街の管理を一部任せてもらえるくらいまでにのし上がったらしい。ネズは少し彼女が恐ろしくなった。


 楽しく話を続けている最中、マリィは前田がおずおずと反応を伺っているのに気付いた。何か話したいことでもあるのか、と振ってみると…。彼は恥ずかしそうにこう口を開いた。



「あの…。当日、僕も参加してよろしいでしょうか?刀剣男士というもの、娯楽にうつつを抜かしてはならないのは充分分かっているつもりではあるんですけど…。興味が、ありまして!」
「……俺も当日は何もない。寧ろ大会の会場にいた方が色々あんた達の助けにもなるだろう。ネズと同じく付き添いという形にはなるが…」



 演技かもしれないが、前田は"自分も大会の参加者として出たい"と口にした。そこでネズは昨日話し合った内容を思い出す。もし関係者が優勝できれば、オービュロンが調査を頼んでいた短刀が手に入るのだと。
 勿論彼は無言で頷き、マリィもホップも嬉しそうに前田の手を取った。



「勿論。前田くんも一緒に楽しも!折角の機会やけん、刀剣男士とか関係なし!」
「そうだぞ!オレもこんなチャンス滅多にないから沢山話がしたいんだぞ!」
「マリィ殿…ホップ殿…!」
「……良かったな、前田。当日は楽しんで来い」
「はい!狙うは勿論優勝です!」
「オレも負けていられないな!」
「―――ふっ。賑やかになりそうですねぇ」




 満面の笑みを浮かべ手を握り返す前田を見守りながら、大典太は思わず微笑んだのだった。

Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.94 )
日時: 2022/04/27 22:30
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 シュートシティで各々過ごしているのと同時刻。ダイヤモンドシティのワリオカンパニーでは、オービュロンが単身ワリオが持ってきた短刀の正体を調査しようと動いていた。
 大典太達がいくら探りを入れてもワリオが彼らに短刀を見せることは無かった。恐らく、彼らが"刀剣男士"だと知っているが故に取られてしまうとでも思ったのだろうか。他の人物の対応とは違い、明らかに短刀については知らぬ存ぜぬを貫き通した。



「少しバカリ良心は痛みマスガ…。みつよサンの言葉がドウニモ引っかかりマス。ソレニ、わりおサンコノ短刀意地デモ本番マデに誰にも見せたくナサソウデシタシ…」



 そう独り言を零しながら、オービュロンは机の上に置かれている短刀を見つめた。
 現在、短刀は誰にも触れないように透明なケースの中に入れられ、机の上に置かれている。ケースは鍵のない一般的な形状のものだが、わざわざワリオがそんな用意周到なことをしていると考えると、余程触らせたくないのだと嫌でも分かった。
 ワリオにバレないようにと忍び足で短刀に近付き、オービュロンはこっそりとケースの蓋を開けようと動いた。現在、短刀はケースの中にある為違和感も最初に感じた時より薄れてしまっている。やはり、直接見た方がいいと彼は判断したのだ。
 ―――もう少しでケースの蓋に手が届く。というところで、彼の腕に影がかかる。マズイ、と思いながら影の方向を見やると、そこには怒り心頭のワリオがいた。
 見つかってしまった。オービュロンはぴょんと飛びのき、彼に対して防御姿勢を取る。



「わ、わりおサン!」
「オービュロン~?!オレ様のお宝に勝手に触れるんじゃなーい!」
「デ、デスガ!ヤハリ専門の方に一度見てイタダイタ方がイイとワタシも思うのデス!モシカシタラ危険なモノカモシレナインデスヨ?!」
「何ぃー?!このオレ様の観察眼にケチをつける気か!」
「違いマス!ソレニ、ワタシもチキューの歴史とかるちゃーとシテモ非常に興味がアルノデ、是非近くで見てミタカッタノデス!ソレダケナンデス!」
「本当か~?」
「本当デス!信じてクダサイ!」
「むむむ~…」



 オービュロンの言っていることは半分本当で、半分はその場で取り繕った嘘だ。彼としても、歴史的美術品に興味が無いわけではない。過去にカルチャージャンルを担当していたこともあってか、寧ろ世界の歴史や文化については非常に興味津々だった。
 彼は必死に弁解をする。ワリオは最初は疑わし気にオービュロンを睨んでいたものの、過去に関係のあるジャンルを担当していたことも幸いし呆れ顔で彼にこう返した。



「はぁ。しっかたねーなー。確かにオマエ、カルチャーのジャンルを担当したこともあるもんな!興味があるのは仕方がない!ただし!ケースは絶対に開くんじゃねーぞ。見ていいのは外面だけだーい!」
「ソレデ構いまセン!アリガトウゴザイマス!」



 ケースを絶対に開けないことを条件に、ワリオはオービュロンに短刀を見学する許可を出してそのまま自分の部屋に戻った。何とか彼の怒りを回避できたオービュロンは、思わず床にへたりこむ。下手をしたら当日まで会社に出禁になるところだった。それだけは絶対に避けなければならなかったのだ。
 気持ちを切り替えねば会社が閉まる時間になってしまう。そう判断したオービュロンは、早速ケースの外から短刀を観察することにした。やはり、最初に抱く感想は"前田が見せてくれたものとよく似たデザインの短刀"だった。



「見た目は…以前まえだサンに見せてイタダイタ短刀にヨク似てオリマスネ。デモ…彼の刀はトテモ澄んでイマシタ。コノ短刀…ヤハリ違和感がアリマス」



 ケースの中である為、減ったものの違和感は未だにある。ワリオが暴走した時、そしてネズを最初に助けた時、そしてノボリが大包平に担がれて議事堂に運び込まれてきた時と同じ、邪悪な力がひしめいているのを感じていた。
 しかし、見続けていも分からないものは分からない。改めて大典太達に相談をした方がいいだろうとオービュロンは判断した。彼はどこからかスマホロトムを取り出し、シャッター音無しで短刀の写真を納めるように指示をする。なお、彼の所持しているものもダンデが用意したものだ。
 フラッシュは流石に抑えることは無理だった為、光でワリオが再び降りてこないかとオービュロンは内心ヒヤヒヤとしていた。しかし、フラッシュが落ち着いてしばらく待ってみても彼が降りてくる気配はない。どうやら気付かれなかったようだ。何とか短刀の形を大典太達に伝えることが出来るとオービュロンは安堵のため息をするのだった。



「チョットデモコノ刀の正体が分かれば…ワタシデモ対処出来るコトガアルカモシレマセン!……デスガ、今はぷちげーむの難易度調整も進めなケレバ。皆、ソロソロ完成シ始めている頃カナ?」




 彼はスマホロトムに無事に写真が収まっていることを確認し、スマホロトムを仕舞った。そして、プチゲームの調整をしにリレイン城下町まで戻るのだった。


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